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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1173054
審判番号 不服2007-2843  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-24 
確定日 2008-02-14 
事件の表示 特願2004-216175「送受信端回路装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開、特開2004-297841〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年12月29日に出願した特願平4-361547号の一部を平成13年6月11日に新たに出願(特願2001-175487号)し、さらにその一部を平成16年7月23日に新たに出願(特願2004-216175号)したものであって、平成18年4月21日付で拒絶の理由が通知され、平成18年7月7日付で意見書及び手続補正書が提出されたものの、平成18年8月31日付で前記平成18年7月7日付の手続補正は却下され、この補正却下の決定は確定し、平成18年12月15日付で拒絶査定されたので、平成19年1月24日付で拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、平成19年2月23日付で手続補正書が提出され、さらに平成19年7月20日付で原審審査官により作成された前置報告書について、平成19年8月3日付で審尋がなされたところ、これに対する回答書が平成19年10月5日に提出されたものである。

その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年2月23日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「高周波回路及びフィルタ回路を含む高周波帯で使用する複数の回路を含み、積層基板に支持された移動通信機器用送受信端回路装置であって、
前記高周波回路及び前記フィルタ回路の一部の素子は、前記積層基板中に組み込まれ、
前記積層基板中に組み込まれた素子以外の残余の回路は、チップ部品を用いて構成され、かつ、前記高周波回路は、半導体素子を含む高周波スイッチ回路を含み、
前記高周波帯で使用する複数の回路は、それぞれ前記高周波回路のいずれかを含む送信回路と受信回路を含み、
前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも1つは、それが含む前記高周波回路に直列に接続された前記フィルタ回路を含み、
前記高周波スイッチは、アンテナ端側に接続される回路を前記送信回路と前記受信回路の間で切り換えるスイッチであり、
前記高周波スイッチの前記アンテナ端側に少なくとも一つのさらに他の前記フィルタ回路が配置され、これによって当該高周波スイッチは2つの前記フィルタ回路の間に挟まれるようにそれらと直列に接続され、
前記積層基板中に組み込まれた前記フィルタ回路は、前記積層基板中に形成された、容量電極層と接地層との重なり領域により形成されるコンデンサ及びコイル素子を含み、
前記接地層は、前記積層基板の内部で互いに電気的に導通させられた複数の接地電極端子と接続され、
前記複数の接地電極端子は、他の電極端子と同じ面積の接地電極端子と、当該他の電極端子より広い面積の接地電極端子とを含んでおり、
前記積層基板は、複数の接地電極端子と複数の入出力信号端子とを備え、
前記接地電極端子は、前記入出力信号端子をそれぞれ挟む位置に形成されている、移動通信機器用送受信端回路装置。」

2.引用例
(1)これに対して、原査定の平成18年4月21日付け拒絶理由に引用された刊行物「坂井孝治 他2名、“高周波多層セラミック部品とモジュール”、電子技術、第34巻、第10号、p.14-19、1992年9月、日刊工業新聞社」(以下、「引用例1」という。)には、「高周波多層セラミック部品とモジュール」という表題の下に次の事項が記載されている。

A.「今日,携帯電話に使われる電子部品には,利用周波数の高周波化のほか,
小型・軽量・複合化などが求められている。
本稿では,これらの要求に応えて開発された多層セラミック部品と
複合化を実現するための多層セラミック基板技術,
また,それを応用したモジュールの代表例を紹介する。

携帯電話市場は220cc,330gの小型携帯電話の登場により,小型・軽量化に拍車がかかり,わずか2年足らずで150cc,230gまで小型化が進んでいる。この小型・軽量化の流れに沿って携帯電話の需要の伸びも著しく,首都圏では現行のアナログ方式のまま加入者数を増やすことが不可能に近い状態になりつつある。
この問題の解消を目的として,利用周波数の高周波化,デジタル化(多重化)が検討されている。加えてセットはさらに小型・軽量化が指向され,従来以上に高密度実装とすることが必要となっている。このような背景のもとに,部品についてもSMD化,究極的な小型,軽量,複合化が求められている。
ここでは,携帯電話のこの要求に応えるべく開発された,多層セラミック部品と,複合化を実現するための多層セラミック基板技術,それを応用したモジュールの代表例を紹介する。」(第14頁左欄第1行?同頁右欄8行)

B.「チップ積層LCフィルタ
(1)チップ積層LCフィルタ開発の経緯
当社では1984年に,それまで不可能とされていた誘電体上でのL(コイル)形成の技術的問題を解決することによって,単板のセラミック上にLとC(コンデンサ)をプリントしたLCフィルタを開発した。
1989年になって,銅とセラミックのコファイア(同時焼成)が可能な低温焼成セラミック原料が開発されると同時に,それまでの単板構造でのノウハウを多層セラミックに応用した国内コードレス電話用および携帯電話用のチップ積層LCフィルタLFシリーズを開発した。携帯電話用LFC35シリーズの外観,概略構造および等価回路を図1に示す。
中央部にコイル部をおき,上下面にコンデンサ部とシールド部が配置されている。この上下面のコンデンサと中央部のコイルが外部電極で接続されることで共振器が形成されフィルタが構成されている。
コイル,コンデンサ,シールドは,いずれも誘電体シート上に印刷された銅電極によって形成されており,これらのシートを立体的に積み重ね,外部電極を塗布した後に誘電体,電極の同時焼成を行っている。」(第14頁右欄第9?39行、及び図1を参照。)

C.「(2)チップ積層マイクロフィルタLFC30,LFJ30シリーズバンドパスフイルタ
図2,写真1,2にLFC30,LFJ30シリーズの外観を前述のLFC35シリーズと比較して示す。また,表1にこれらの主要特性を示す。さらに代表として,LFC30シリーズ820MHzバンドパスフィルタ(国内デジタル携帯電話用)の特性を図3に,LFJ30シリーズ1.9GHzバンドパスフィルタ(第二世代コードレス電話用)の特性を図4に示す。」(第15頁中央欄第2?14行、及び図2?4、写真1,2、表1を参照。)

D.「銅配線セラミック多層基板
前述のように,フィルタやカプラなど高周波の回路に不可欠な部品をセラミックの多層技術を使い商品化しているが,そのセラミック体を基板として利用し,半導体などの部品を搭載することで,小型で高機能な高周波モジュールを形成することが可能である。
多層基板の仕様を表3に示す。数GHzの周波数でも使用に適するように導体としては銅電極を使用,その導電率は1GHzで4×10^(7)S/mであり,厚膜の電極であるにもかかわらず,純銅(5.7×10^(7)S/m)に近い性能を実現している。」(第17頁中央欄第6行?第18頁右欄第4行、及び表3を参照。)

E.「この基板を使用して,携帯電話用のアンプ,ミキサ,VCOなど小型化要求の強いモジュールの開発を行っている。写真4にアンプ,写真5にミキサの外観を示す。アンプは5×4mm,ミキサは8×5mmである。これらの代表例として図10にアンプの回路図と特性を示す。トランジスタ以外の素子はすべて基板に内蔵しており,プリント基板に形成した場合に比べ,約1/3の大きさとなっている。現在,700?950MHzの範囲で中心周波数の設定が可能で,Gain12dB,NF2dBを実現している。 今後は,フィルタと一体化したアンプやミキサなど,より複合化を進めたモジュールを検討していく予定である。また,前述の設計データをまとめ,MMICなどの搭載基板として使えるように準備中である。多層基板では共振器,コンデンサ,スタブなどを多くの層を使ってコンパクトに形成でき,かつICパッケージも兼ねることが可能であり,ICと機能分担していくことで,互いの特徴を生かしたモジュールを生み出していけるのではないかと考えている。」(第18頁右欄第24行?第19頁左欄第19行、及び写真4,5、図10を参照。)

ここで、上記Aの記載からみて、携帯電話における高周波回路を構成する電子部品の小型・軽量・複合化などの要求に応じて開発された多層セラミック部品と、複合化を実現するための多層セラミック基板技術及びそれを応用した高周波モジュールが記載されている。

上記B及び図1によれば、バンドパスフィルタを構成するコイル、コンデンサ、シールドは、いずれもセラミック誘電体シート上に印刷された銅電極によって形成され、これらのシートを立体的に積み重ね、外部電極を塗布した後に誘電体,電極の同時焼成を行うことにより形成されたチップ積層LCフィルタが記載されており、そして、図1の中段に示されているこのフィルタの概略構造を示す図をみると、前記コイルを形成するコイルパターンに加えて、この図の左右に、対向するコンデンサパターンとシールドパターン、あるいはトリミングパターンとシールドパターンに対応する態様で、破線にて計6個のコンデンサの記号が記載されており、前記バンドパスフィルタを構成するコンデンサは、積層されたセラミック基板と一体的に形成された積層方向に対向するコンデンサパターンとシールドパターンの対向する部分により、あるいは、トリミングパターンとシールドパーターンの対向する部分により、形成されていることが示されている。さらに、図1の下段に示されている等価回路を見ると、コンデンサの対向する極板の一方の極板が接地されたものが記載されており、シールドは通常、接地されているものであるので、引用例1には接地されたシールドパターンが開示されているものと認められる。また、図1、2及び写真1,2を参照すると、複数の外部電極は積層したセラミック基板の側面の一部の上に形成されている。

上記C、表1、及び図3,4によれば、上記バンドパスフィルタの中心周波数は、基地局あるいは固定局(親機)との間での送受信に使用される無線周波数であるところの、国内デジタル携帯電話用の820MHzや第二世代コードレス電話用の1.9GHz帯であるので、上記フィルタは、携帯電話や第二世代コードレス電話において、周波数変換を経ずにアンテナに接続される高周波帯の回路で使用されるものと認められる。

さらに、上記D、E、図10及び写真4,5によれば、フィルタやカプラなど高周波の回路に不可欠な部品をセラミックの多層技術を使いセラミック体として作り、さらにそのセラミック体を基板として利用して、このセラミック多層基板の上に半導体などの高周波回路を構成するチップ部品を搭載し形成された携帯電話用の高周波アンプ、ミキサ、VCOなどの高周波回路とフィルタ回路を含む高周波モジュールが記載されているものと認められる。そして、上記高周波モジュールは、セラミック体として形成されたフィルタと共に高周波回路として動作するためには、関連部品間が電気的に接続されていなければならないことは自明であるので、積層されたセラミック多層基板内に形成されたフィルタなどの回路と、セラミック多層基板上に搭載された半導体などのチップ部品は上記の側面に形成された複数の外部電極を介して電気的に接続されているものと認められる。

よって、上記A?Eの記載事項、及び図1?10、写真1?5、表1?3を参照すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

高周波回路及びバンドパスフィルタを含む、高周波帯で使用する、セラミック多層基板(以下、単に「多層基板」という。)に支持された携帯電話や第二世代コードレス電話用の高周波アンプ、ミキサ、VCOなどの高周波回路とバンドパスフィルタを含む高周波モジュールであって、
前記高周波回路及び前記バンドパスフィルタのうち、バンドパスフィルタを構成する素子であるコンデンサとコイルが前記多層基板中に形成され、前記バンドパスフィルタを構成するコンデンサは、積層されたセラミック基板と一体的に形成された積層方向に対向するコンデンサパターンと接地されたシールドパターンの対向する部分により形成されており、
前記多層基板中に形成された素子以外の回路部はチップ部品を用いて構成され、前記多層基板は、前記高周波回路及び前記多層基板中に形成されたバンドパスフィルタを構成する素子であるコンデンサとコイルに接続されると共に、外部の回路と接続される複数の外部電極を備えていることを特徴とする携帯電話や第二世代コードレス電話用の高周波モジュール。

3.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
引用発明1における「高周波モジュール」は、携帯電話や第二世代コードレス電話などの移動通信機器用のものであって、高周波帯で使用される高周波回路装置を構成するものであるから、本願発明の移動通信機器用送受信端回路装置と、共に高周波帯で使用する移動通信機器用高周波回路装置の点において一致している。
そして、引用発明1における「バンドパスフィルタ」、「セラミック多層基板」、「フィルタを構成する素子であるコンデンサとコイル」、「コイル」、「コンデンサパターン」、「接地されたシールドパターン」、「対向する部分」、「外部電極」は、それぞれ本願発明の「フィルタ回路」、「積層基板」、「フィルタ回路の少なくとも一部の素子」、「コイル素子」、「容量電極層」、「接地層」、「重なり領域」、「端子」に相当している。

したがって、本願発明と引用発明1とは、

<一致点>
高周波回路及びフィルタ回路を含む高周波帯で使用する回路を含み、積層基板に支持された移動通信機器用高周波回路装置であって、
前記高周波回路及び前記フィルタ回路の少なくとも一部の素子は、前記積層基板中に組み込まれ、
前記積層基板中に組み込まれた前記一部の素子以外の残余の回路部は、チップ部品を用いて構成され、
前記積層基板中に組み込まれた前記フィルタ回路は、前記積層基板中に形成された、容量電極層と接地層との重なり領域により形成されるコンデンサ及びコイル素子を含み、
前記積層基板は、それぞれ前記高周波回路又は当該積層基板内のフィルタ回路に接続される複数の端子を備えていることを特徴とする移動通信機器用高周波回路装置。

である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(1)移動通信機器用高周波回路装置を構成する高周波回路が、
本願発明においては、アンテナ端側に接続される回路を前記送信回路と前記受信回路の間で切り換える、半導体素子を含む高周波スイッチ回路を含むものであるのに対して、
引用発明1においては、携帯電話や第二世代コードレス電話用の高周波アンプ、ミキサ、VCOなどである点。

(2)高周波回路及びフィルタ回路を含む高周波帯で使用する回路が、
本願発明においては、前記高周波回路のいずれかを含む送信回路と受信回路を含む複数の回路であり、かつ前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも1つは、それが含む前記高周波回路に直列に前記フィルタ回路が接続されているのに対して、
引用発明1においては、フィルタ回路を含む携帯電話や第二世代コードレス電話用の高周波アンプ、ミキサ、VCOなどの高周波回路であるものの、送信回路と受信回路を含む複数の回路であること、及び、それらが含む高周波回路にフィルタ回路が直列に接続されていることが明らかではない点。

(3)移動通信機器用高周波回路装置が、
本願発明においては、2つのフィルタ回路を含んでおり、その内の1つのフィルタ回路は、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも1つにおいて、それが含む前記高周波回路に直列に接続された前記フィルタ回路であり、かつ、他の1つのフィルタ回路は、前記高周波スイッチ回路のアンテナ端側に配置され、そして、前記高周波スイッチは2つの前記フィルタ回路の間に挟まれるようにそれらと直列に接続された送受信端回路装置であるのに対して、
引用発明1においては、携帯電話や第二世代コードレス電話用の高周波アンプ、ミキサ、VCOなどの高周波回路とフィルタ回路を含む高周波モジュールであるものの、高周波スイッチ回路を備え、その高周波スイッチ回路が、送信回路または受信回路のフィルタ回路と、アンテナ端側に配置されたフィルタ回路との間に挟まれるようにそれらと直列に接続された送受信端回路装置であることが明らかではない点。

(4)積層基板に備えられた端子が、
本願発明においては、複数の接地電極端子と複数の入出力信号端子とからなり、前記複数の接地電極端子は、前記積層基板の内部で互いに電気的に導通させられ、かつ前記接地層に接続され、さらに他の電極端子と同じ面積の接地電極端子と、当該他の電極端子より広い面積の接地電極端子とを含んでおり、また前記接地電極端子は、前記入出力信号端子をそれぞれ挟む位置に形成されているのに対して、
引用発明1においては、前記高周波回路及び前記多層基板中に形成されたフィルタを構成する素子であるコンデンサとコイルに接続されると共に、外部の回路と接続される複数の端子であるものの、その複数の端子に係る具体的な接続・配置関係は明らかではない点。

4.当審の判断
以下、上記相違点について検討する。

相違点(1)、(2)、(3)について、
(ア)引用発明1が対象とする携帯電話や第二世代コードレス電話などの1本のアンテナを共用する無線送受信装置において、「アンテナ端側に接続される回路を前記送信回路と前記受信回路の間で切り換える、半導体素子を含む高周波スイッチ回路」を使用することは、特開平3-32118号公報(原審の平成18年4月21日付け拒絶理由において提示された引用文献2。第1頁右下欄第5行?第3頁右上欄第12行、第1図及び第3図のアンテナスイッチ回路1,30を参照。)、実願昭63-144141号(実開平2-64204号)のマイクロフィルム(第4頁第10行?第7頁第8行、及び第1図におけるダイオードスイッチD1,D2を参照。)に開示されているごとく当業者にとって周知である。

(イ)高周波回路及びフィルタ回路を含む無線送受信装置において、高周波回路及びフィルタ回路を含む高周波帯で使用する回路を、高周波回路を含む送信回路と受信回路を含む複数の回路で構成するとともに、送信回路及び受信回路の少なくとも1つは、それが含む前記高周波回路に直列にフィルタ回路が接続されるように構成し、かつ、それらをアンテナを送受信で切換えるところの高周波スイッチ回路に直列に接続されるように構成することは、特開平4-213926号公報(原審の拒絶理由において提示された引用文献1。【0001】?【0012】段落、【図1】及び【図4】において、高周波スイッチ回路32に直列に接続された、送信回路を構成する高周波回路であるパワーアンプ17とそれに直列に接続された送信用のバンドパスフィルタ16、及び、受信回路を構成する受信用のバンドパスフィルタ21とそれに直列に接続された高周波回路である高周波アンプ22を参照。)、特開平2-82729号公報(第2頁右下欄第14行?第3頁左上欄第6行、第1図においてRFスイッチKに接続された受信用の帯域フィルタS1及び送信用の帯域フィルタS2を参照。)、及び特開平4-160926号公報(第2頁右上欄第1行?同頁右下欄第11行、第1、3図において高周波スイッチ回路32にパワーアンプ16を介して直列に接続された送信用のバンドパスフィルタ15、及び高周波スイッチ回路32に直列に接続された受信用のバンドパスフィルタ21及び高周波アンプ22を参照。)に開示されているごとく当業者にとって周知である。

(ウ)また、高周波スイッチ回路を備えた無線送受信装置において、
前記高周波スイッチ回路のアンテナ端側に1つのフィルタ回路を配置し、かつ、前記高周波スイッチ回路に接続されるの送信回路及び前記受信回路の少なくとも1つにおいて、それが含む高周波回路に直列に接続されたフィルタ回路を設け、前記高周波スイッチは2つの前記フィルタ回路の間に挟まれるようにそれらと直列に接続されところの送受信端回路装置を構成することは、前記特開平4-160926号公報(第2頁右上欄第1行?同頁右下欄第11行、第1、3図における、バンドパスフィルタ15→パワーアンプ16→高周波スイッチ回路32→ローパスフィルタ33→アンテナ34に係る直列接続された送信系の回路、及び、アンテナ34→高周波スイッチ回路32→バンドパスフィルタ21→高周波アンプ22に係る直列接続された受信系の回路、を参照。)に開示されているごとく当業者にとって周知である。

(エ)また、無線送受信装置であるところの移動通信装置において、複数のフィルタを含む受信回路または送信回路のアンテナ側に位置する高周波回路部である送受信端の回路部分をモジュールとして一体化することは、特開昭62-171327号公報(第2頁左上欄第10行?同頁右上欄第19行、第2図において破線203で囲まれた、送信フィルタ204,受信前段フィルタ205、分岐回路の送信側線路206,分岐回路の受信側線路207、受信低雑音増幅器208、受信後段フィルタ209、受信混合器(ミキサー)210を含む回路部分を参照。)に開示されているごとく当業者にとって周知であり、さらに、携帯電話器やコードレス電話器等に用いられるマイクロ波帯域用の高周波モジュールにおいて、複数のフィルタを積層基板内に形成し、その積層基板上に半導体、抵抗、コンデンサなどのチップ部品によって構成されるRF回路ブロックを形成することにより高周波モジュールを構成することも、特開平4-301901号公報(【0001】?【0013】、及び【図1】?【図3】を参照。)に開示されているごとく当業者にとって周知である。

(オ)そして、上記引用例1には、
「銅配線セラミック多層基板
前述のように,フィルタやカプラなど高周波の回路に不可欠な部品をセラミックの多層技術を使い商品化しているが,そのセラミック体を基板として利用し,半導体などの部品を搭載することで,小型で高機能な高周波モジュールを形成することが可能である。」(上記2(1)D.を参照。)、及び「この基板を使用して携帯電話用のアンプ,ミキサ,VCOなど小型化要求の強いモジュールの開発を行っている。・・・(中略)・・・今後は,フィルタと一体化したアンプやミキサなど,より複合化を進めたモジュールを検討していく予定である。また,前述の設計データをまとめ,MMICなどの搭載基板として使えるように準備中である。多層基板では共振器,コンデンサ,スタブなどを多くの層を使ってコンパクトに形成でき,かつICパッケージも兼ねることが可能であり,ICと機能分担していくことで,互いの特徴を生かしたモジュールを生み出していけるのではないかと考えている。」(上記2(1)E.を参照。)という記載があり、
これらの記載は、携帯電話等に使用される高周波モジュールにおいて、フィルタ等の高周波の回路に不可欠な部品を多層基板、つまり積層基板の多くの層を使用してコンパクトに形成し、このフィルタと関連した回路であって半導体などの部品で形成可能な高周波回路であれば、その回路の種別は問わず、この積層基板に搭載することにより、フィルタと一体化した小型で複合化した高機能な高周波モジュールを形成することが可能であることを示唆しているものと認められる。
また、上記引用例1において開示されているバンドパスフィルタの通過中心周波数は、国内デジタル携帯電話用にあっては820MHzであり、第二世代コードレス電話用にあっては1.9GHzと記載されており、これらの周波数はアンテナを介して基地局や固定局(親機)との間で送受信する無線電波の周波数と一致しているのであるから、引用発明1における高周波モジュールの対象とする高周波回路が、周波数変換を経ることなくアンテナに接続される側の送受信端回路装置を構成する高周波回路を包含していること示唆しているものと認められる。

(カ)したがって、上述した携帯電話やコードレス電話などの無線送受信装置、すなわち高周波回路装置における周知技術を勘案すれば、引用発明1において、
高周波回路装置を構成する高周波回路が、「アンテナ端側に接続される回路を前記送信回路と前記受信回路の間で切り換える、半導体素子を含む高周波スイッチ回路」を含むものとし、
高周波回路及びフィルタ回路を含む高周波帯で使用する回路を、
前記高周波回路のいずれかを含む送信回路と受信回路を含む複数の回路とし、かつ前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも1つは、それが含む前記高周波回路に直列に前記フィルタ回路が接続されるように構成し、さらに、
高周波回路装置を、2つのフィルタ回路を含んでおり、その内の1つのフィルタ回路は、前記高周波スイッチ回路のアンテナ端側に配置され、かつ、他の1つのフィルタ回路は、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも1つにおいて、それが含む前記高周波回路に直列に接続された前記フィルタ回路であり、そして、前記高周波スイッチは2つの前記フィルタ回路の間に挟まれるようにそれらと直列に接続されところの送受信端回路装置として構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
よって、上記相違点(1)乃至(3)は格別なものではない。

相違点(4)について
(キ)原査定の平成18年4月21日付け拒絶理由に引用された刊行物である特開平4-207805号公報(以下、「引用例2」という。特に、第2頁右上欄第2行?第4頁右上欄第11行、及び第1図、第2図(a)、(b)を参照。)には、積層基板内にバンドパスフィルタF1が形成され、その積層基板に、入力端子(第2図(b)における端面電極6b)と、基板内部に形成された前記バンドパスフィルタF1のシールド用導電膜5Aまたはコンデンサ形成用導電膜2Cに接続された複数の接地電極端子(同端面電極6c,6f,6g,6h,6j,6k)と、出力端子(同端面電極6i)とが備えられていること、さらに、入力端子6bと出力端子6iが、それぞれ対向する辺に形成され、それらの周囲にはそれぞれ不使用のダミー電極6aや接地電極端子6c、及び接地電極端子6hや接地電極端子6jに挟まれ、互いに離間されていることが開示されている。

(ク)さらに、前記の特開平4-301901号公報(【0012】段落、及び【図3】に図示された入出力端子14を参照。)に開示されているごとく、積層基板内に形成した複数のフィルタと、その積層基板上に形成されたRF回路ブロックとから構成された高周波モジュールにおいて外部の回路基板と接続するために上記積層基板が入出力端子を備えることは当業者にとって周知である。

(ケ)電子部品を構成する積層基板の接地電極端子において、
複数の同じ面積の電極端子と、それらの電極端子より広い面積の複数の接地電極端子とを備えるように構成することは、
実願平3-5567号(実開平4-103013号)のマイクロフィルム(特に、明細書の段落【0008】?【0013】、図1、図2を参照。)には、セラミックグリーンシートと電極付グリーンシートとを積層して構成した積層型ノイズフィルタにおいて、その長辺側には対向してそれぞれがほぼ同じ面積の4つの端子電極38,40,42,44が配置され、その短辺側には対向して、前記端子電極より広い面積を有する2つの接地電極46,46が配置されたものが開示されており、
また、特開昭62-279622号公報(特に、第3頁右上欄第5行?同頁左下欄第4行、第6?8図を参照。)には、積層LCフィルタ部品21の長辺側には対向してそれぞれがほぼ同じ面積の端子電極1’?8’が配置され、その短辺側には対向して、前記端子電極より広い面積を有する2つの接地電極GNDが配置されたものが開示されているごとく、当業者にとって周知である。

(コ)また、上記特開平4-207805号公報(特に、第2頁右上欄第2行?第4頁右上欄第11行、及び第2図(b)を参照。)には、誘電体シートを積層し焼成して得た積層体で構成された積層型のバンドパスフィルタ装置であって、その積層体の長辺側の端面12箇所に第2図(b)に図示されているように、それぞれがほぼ同じ面積であって、アースに接続された接地電極と入力出力端子となる非接地電極の両者を含む端面電極6a?6lが配置されたものが開示されているごとく、積層体にほぼ同じ面積の接地電極と非接地電極とを配置することは、当業者にとって周知である。

(サ)そして、引用例1において、セラミック多層基板で形成されたチップ積層LCフィルタを示す図1の下段に示されている等価回路をみると、このフィルタを外部の回路と接続するためには、接地されていない入出力部に接続される端子と、接地部に接続される端子が必要であることが理解されるので、積層基板の側面の一部に形成された外部電極として、このフィルタに接続される回路系の所定の箇所とフィルタの入出力部とを接続する非接地の入出力用電極、及び前記回路系の所定の接地される箇所と内部の接地層とを電気的に接続する接地電極の二種類の電極を形成することは、当業者にとって普通のことと認められる。

(シ)したがって、引用発明1において、積層基板に備えられた端子を、複数の接地電極端子と複数の入出力信号端子とからなり、前記複数の接地電極端子は、前記積層基板の内部で互いに電気的に導通させられ、かつ前記積層基板内の接地層に接続され、さらに他の電極端子と同じ面積の接地電極端子と、当該他の電極端子より広い面積の接地電極端子とを含んでおり、また前記接地電極端子は、前記入出力信号端子をそれぞれ挟む位置に形成されている複数の接地電極端子を、他の電極端子と同じ面積の接地電極端子と、当該他の電極端子より広い面積の接地電極端子とを含むように構成することは、当業者であれば容易に為し得たことである。
よって上記相違点(4)は格別なものではない。

(ス)本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用発明1、引用例2に記載された発明、及び上記周知技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別なものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1、引用例2に記載された発明、及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2007-12-10 
結審通知日 2007-12-17 
審決日 2007-12-28 
出願番号 特願2004-216175(P2004-216175)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江口 能弘  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 橋本 正弘
桑江 晃
発明の名称 送受信端回路装置  
代理人 小川 信夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 中村 稔  
代理人 西島 孝喜  
代理人 箱田 篤  
代理人 近藤 直樹  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 大塚 文昭  

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