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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1173191
審判番号 不服2004-20967  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-07 
確定日 2008-02-14 
事件の表示 特願2003-285107「検索システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004- 70957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年9月17日に出願した特願平8-245049号の一部を平成15年8月1日に新たな特許出願としたものであって、平成16年9月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後当審において平成19年9月3日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月1日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成19年11月1日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

「【請求項1】
ネットワーク上でロボットを用いて収集したデータをもとにデータベースを作成し、データベース検索を行う検索システムにおいて、
外部からの参照要求に応答して取得されたデータまたはロボットを用いて収集されるデータを保持するキャッシュ手段と、
前記ロボットを用いて前記キャッシュ手段にプリフェッチするプリフェッチ手段と、
外部から参照要求が与えられた場合に、前記キャッシュ手段に該当するデータが保持されているならば、前記キャッシュ手段から前記データをそのまま提供するデータ提供手段と、を備えたことを特徴とする検索システム。」

3.当審の拒絶理由
一方、当審において平成19年9月3日付けで通知した拒絶の理由の概要は、
「本願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(刊行物1)和田光教,菅井猛、「インターネット上の情報フィルタリング(1)-概要」、情報処理学会第51回(平成7年後期)全国大会講演論文集(4)、日本、社団法人情報処理学会、1995年9月20日、p.4-85?4-86
(刊行物2)菅井猛,和田光教、「インターネット上の情報フィルタリング(2)-情報の整理方法」、情報処理学会第51回(平成7年後期)全国大会講演論文集(4)、日本、社団法人情報処理学会、1995年9月20日、p.4-87?4-88
(刊行物3)渡辺学子 外3名、「個人利用向きHTML文書全文検索システム」、電子情報通信学会技術研究報告(OFS95-45?51)、日本、社団法人電子情報通信学会、1996年3月14日、第95巻,第580号、p.13?18
(刊行物4)伊藤英二 外3名、「WWW上のカスタマイズ可能な検索システムに関する研究」、情報処理学会第53回(平成8年後期)全国大会講演論文集(3)、日本、社団法人情報処理学会、1996年9月4日、p.3-393?3-394
(刊行物5)高野元 外3名、「WWWナビゲーション支援システムWINGNAVI」、日本、株式会社NECクリエイティブ、1996年7月30日、第49巻,第7号、p.45?50
(刊行物6)菊池英明 外4名、「ハイパーメディア共有アーキテクチャにおけるバーション管理方式」、情報処理学会第53回(平成8年後期)全国大会講演論文集(3)、日本、社団法人情報処理学会、1996年9月4日、p.3-469?3-470
」というものである。

4.引用文献
[引用文献1]
そこで、上記拒絶の理由に引用された、渡辺学子 外3名、「個人利用向きHTML文書全文検索システム」、電子情報通信学会技術研究報告(OFS95-45?51)、日本、社団法人電子情報通信学会、1996年3月14日、第95巻,第580号、p.13?18(以下、「引用文献1」という。)の記載を検討するに、引用文献1には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「1 はじめに
インターネット上で公開されている世界中の情報を入手することのできるWWW(World-Wide Web) は、ユーザの意志によって自由にテキスト(あるいは、音声、画像)情報を見て回ることのできるものである。人それぞれ必要な(あるいは、興味のある)情報が異なるように、保存しておきたい文書も人それぞれ異なってくるであろう。WWWのクライアントの一つであるMosaic[4]には、後で参照したい文書のタイトルとURL(Uniform Resource Locator)[2]を記録しておく仕組みがあるが、文書の内容を一覧するための道具として用意されているのは、文書のタイトル一覧だけである。ところが、文書のタイトル一覧だけでは、記録した文書が増加すればするほど、欲しい情報がどの文書にかかれているかを知ることが困難になってくる。また、文書タイトルとURLを記録しておくだけでは、記録した時の文書と、文書内容が変化してしまったり、その文書にアクセスできなくなってしまうこともあるだろう。
そこで、本研究では、文書タイトルとURLだけでなく、後で参照したい文書そのものの蓄積と、その検索を行うシステムを構築した。
現在、ネットワークに広がる情報に対する検索の問題が話題の一つになっており、いくつかの実験的な検索サービスがWWW上で提供されてきている。それらが、インターネット上の膨大な情報を対象とした、大規模な検索システムであるのに対して、本システムは、ユーザ自身の欲しい情報だけを蓄積し検索を行う個人向けのシステムであるため、検索エンジンは小規模なものでよく、システムの負荷が少なくてすむ。また、蓄積文書の追加・削除の際、索引全体を作成しなおす必要性がなく、誰でも手軽に利用できる軽い検索システムである。」(第14頁左欄第1行目?第33行目)

(イ)「2 HTML文書の収集と検索
2.1 WWWを用いたインターネット上の情報収集
ここ数年、インターネットにおける情報サービスの中で、最も注目を集めたのがWWWとそのクライアントの一つであるMosaicである。WWWはハイパテキストを基本構造とする情報探索システムであり、ハイパテキスト中に埋め込まれたリンクを用いて別のハイパテキストあるいは通常の文書、音声・画像データなどを指し示すことができる。これらは、HTML(HyperText Markup Language)[3]に従って記述する。WWWの特徴であるシームレスな枠組みと、その枠組みを利用者に提供してくれるWWWのクライアント(Mosaic)を使えば、ーつのクライアントから同じような操作を行うだけで、各種の情報サービスがら情報を得られるようになる。
Mosaicでの情報収集には、次のような方法が考えられる。まずは、文書中に埋め込まれたリンクをたどっていき、様々な情報へと渡り歩いて収集する方法がある。しかし、ーつのテキスト中にいくつものリンクが埋め込まれているため、このような方法で、目的とする情報へとたどり着くのは非常に手間がかかる。一方、具体的な文書等に直接アクセスして収集する方法がある。これは、Mosaicに対して、URLを入力することによって行う。また、キーワードを与える事によって、目的の情報を手に入れる方法がある。これは、Yahoo[6]やWWWW(World Wide Web Worm)[7]などのWWW上で公開されている検索システムを利用して行う。
このようにして、インターネット上をブラウズし、ユーザの欲しい(興味のある)情報の収集を行う。」(第14頁左欄第37行目?右欄第24行目)

(ウ)「3 HTML文書の全文検索システムの機能
3.1 概要
本システムは、以下の4つの機能から成り立っている。
・HTML文書の蓄積
・HTML文書の削除
・HTML文書の検索
・タイトルー覧
いずれの機能を利用する場合も、はじめに利用者のパスワードファイル名とパスワードを入力する。これは、ユーザ個人のファイル作成やファイル利用を行うためである。
3.2 HTML文書の蓄積
ユーザによって入力されたURLの文書をユーザ用のファイルにダウンロードし、文書中に現れる文字の索引づけを行う。
この時、インデックスファイル、夕イトルファイル、記事ファイルの3つが作成される。インデックスファイルには、文書中の出現文字種類ごとの索引が、夕イトルファイルには、蓄積文書のタイトルの一覧が、記事ファイルには、蓄積文書をユーザ用ファイルにダウンロードする際のファイル名一覧が収められている。
また、世界中に出回っているHTML文書の中には、HTMLの構文が間違っているものもある。文字の索引づけは、HTMLの構文に従って行っているため、このような文書の蓄積を行った場合、正確なインデックスファイルが作成されず、検索も正確に行えない。そこで、HTMLの構文が間違った文書を蓄積する際には、その文書の構文が間違っている事をユーザに知らせる。」(第14頁右欄第39行目?第15頁左欄第26行目)

(エ)「3.4 HTML文書の検索
検索方法は、指定した文字列を含む文書を探し出す語句検索であり、ユーザが検索文字列を与えると、指定された文字列を含む文書の検索を行う。・・・(中略)・・・検索結果として、該当する文献の番号、タイトル、その文書中の指定したフィールド内に検索文字列が出現する回数、その文書の元のURLへのリンクを表示する。文書タイトルには、リンクがはってあるので、見たい文書があったならば、そのタイトルをクリックしてその全文を見ることができる。」(第15頁左欄第36行目?右欄第17行目)

(オ)「3.5 タイトル一覧
蓄積文書のタイトルを一覧で表示するものであり、タイトルにはリンクが張ってあるので、検索を行わずに、夕イトルから判断して見たい文書の全文を表示することができる。リンク先は、ユーザ用のファイルにダウンロードした蓄積文書へのリンクと、元のURLへのリンクの2つがある。リンク先が2つある理由は、ユーザが保存したい文書のURLを保存しておくだけでは、保存した時と文書の内容が変化してしまったり、その文書とアクセスできなくなってしまうことがあるかもしれないからである。そこで、ユーザ用のファイルにダウンロードすることでそれらの問題を解消し、元の文書との比較が行えるようにするために、この方法をとった。」(第15頁右欄第18行目?第31行目)

(カ)「4 システムの実現
4.1 実現環境
本システムは、UNIXワークステーション上でC言語を使用し、サーバとしてNCSA WWW Server,クライアントとしてNCSA Mosaicを使用している。
4.2 システムの構成
本システムは、文字の索引づけや蓄積文書の削除を行う文書蓄積部、蓄積された文書と文字のインデックスファイルを利用する文書検索部、ユーザに対して情報等をMosaic上に表示する利用者インタフェースからなる。」(第15頁右欄第32行目?第16頁左欄第2行目)

(キ)「4.2.1 文書蓄積部
文書蓄積部は、保存したい文書の蓄積と、蓄積した文書の削除の2つの機能をもつ。
蓄積機能は、蓄積を行う文書のURLが与えられると、インデックスファイル、タイトルファイル、記事ファイルを作成する。
インデックスファイルは、文書中の出現文字種類ごとに作成される。タイトルファイルには、文献番号と蓄積した文書のタイトルの対が一覧で、記事ファイルには、蓄積文書をユーザ用のファイルにダウンロードする際につけられるファイル名の一覧がおさめられている。
削除機能は、削除したい文書の番号が与えられると、その結果として、蓄積文書のタイトルファイルへの書き換えを行うものである。
4.2.2 文書検索部
文書検索部は、検索文字列と検索フィールドが与えられ、その結果として、該当文書タイトル、検索文字列のヒット件数、該当文書のURLを返す。
4.2.3 利用者インタフェース
ユーザに対して情報等をMosaic上に表示するものであり、全文検索システムの初期画面、機能選択画面、蓄積・削除画面、検索画面、タイトルー覧画面、を備える。」(第16頁左欄第3行目?第26行目)

(ク)「4.3 蓄積したファイルの構造
タイトルファイルは、文字の索引づけを行っている時に、タイトルの開始タグと終了タグに囲まれた文字列を切り出し、その文字列を蓄積文書のタイトルとして書き込むことによって作成される。この時、夕イトルから文書へのリンクを張るために、ユーザ用ファイルにダウンロードした時のファイル名、元のURLへのリンク情報も一緒に書き込む。」(第16頁左欄第27行目?34行目)

(ケ)「また、システムに関する意見、感想から、個人用全文検索システムは有用である事がわかった。これは、蓄積文書数が増えれば増えるほど、文書の内容を思い出す事が困難になること、ユーザ個人が蓄積した情報からの検索を行うため、目的の文書を手にいれやすいという理由によるものである。」(第16頁右欄第43行目?第17頁左欄第3行目)

(コ)「・検索結果で表示された文書の全文表示を行った際、文書中の相対的なリンクについては、リンク先をたどることができない。」(第17頁左欄第22行目?24行目)

上記摘記事項(エ)の「HTML文書の検索」や「検索方法は、指定した文字列を含む文書を探し出す語句検索であり、ユーザが検索文字列を与えると、指定された文字列を含む文書の検索を行う。」との記載から、引用文献1記載のものは、指定した文字列を含むHTML文書の検索を行う検索システムであり、また、上記摘記事項(ア)の「インターネット上で公開されている世界中の情報を入手できるWWW(World-Wide Web)」との記載や、上記摘記事項(イ)の記載、及び、上記摘記事項(ウ)の「ユーザによって入力されたURLの文書をユーザ用のファイルにダウンロードし、文書中に現れる文字の索引づけを行う。この時、インデックスファイル、夕イトルファイル、記事ファイルの3つが作成される。」との記載からみて、引用文献1記載のものは、インターネット上からダウンロードして収集したHTML文書をもとにインデックスファイルを作成し、検索を可能としたものであるといえる。
また、上記摘記事項(ウ)の「3.2 HTML文書の蓄積 ユーザによって入力されたURLの文書をユーザ用のファイルにダウンロードし」との記載から、引用文献1記載のものは、ユーザによって入力されたURLによりダウンロードして収集したHTML文書を蓄積するユーザ用ファイルを有している。

次に、上記摘記事項(エ)には、「検索結果として、該当する文献の番号、タイトル、その文書中の指定したフィールド内に検索文字列が出現する回数、その文書の元のURLへのリンクを表示する。文書タイトルには、リンクがはってあるので、見たい文書があったならば、そのタイトルをクリックしてその全文を見ることができる。」との記載がある。この記載に関して、以下の(1),(2)の事項が認められる。
(1)上記記載における「その文書の元のURLへのリンク」が、ダウンロード元となったインターネットサイトへのリンクであることは自明である。一方、「文書タイトルにはってあるリンク」が、ユーザ用ファイルにダウンロードしたHTML文書へのリンクであることは、上記摘記事項(ク)の「夕イトルから文書へのリンクを張るために、ユーザ用ファイルにダウンロードした時のファイル名、元のURLへのリンク情報も一緒に書き込む。」との記載や、上記摘記事項(ア)の「文書タイトルとURLだけでなく、後で参照したい文書そのものの蓄積と、その検索を行うシステムを構築した」との記載、さらに、上記摘記事項(コ)の記載(当該記載における、文書中の相対的なリンク先をたどることができないという事象は、全文表示を、ユーザ用ファイルにダウンロードしたHTML文書に基づいて行うゆえに生じるものである。)等から明らかである。
(2)上記摘記事項(カ)の「本システムは、UNIXワークステーション上でC言語を使用し、サーバとしてNCSA WWW Server,クライアントとしてNCSA Mosaicを使用している。」との記載、上記摘記事項(キ)の「4.2.3 利用者インタフェース ユーザに対して情報等をMosaic上に表示するものであり、全文検索システムの初期画面、機能選択画面、蓄積・削除画面、検索画面、タイトルー覧画面、を備える。」との記載、及び、ハイパーテキスト転送プロトコル(http)に関する技術常識から、引用文献1記載のものは、クライアント(NCSA Mosaic)から入力された検索要求がサーバ(NCSA WWW Server)へ送信され、該サーバはHTML文書の検索を行って、該当する文書のタイトル(当該タイトルには、ユーザ用ファイルにダウンロードしたHTML文書へのリンクが貼られている。)を含む検索結果をクライアントに返信し、文書タイトルを含む検索結果を表示したクライアントにおいて、文書タイトルに対するユーザのクリック操作を受けると、該クライアントは、リンク先であるユーザ用ファイル内に対する参照要求をサーバへ送信し、参照要求を受けたサーバは、ユーザ用ファイル内の該当するHTML文書を返信するものであるといえる。また、サーバは、ユーザ用ファイル内に対する参照要求を受けた際、ユーザ用ファイル内に該当するHTML文書が保持されている場合に当該HTML文書を提供することは自明である。

上記摘記事項(ア)?(コ)、及び、図面の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「ユーザによって入力されたURLによりインターネット上からダウンロードして収集したHTML文書をもとにインデックスファイルを作成し、指定した文字列を含むHTML文書の検索を行う検索システムにおいて、
ユーザによって入力されたURLによりダウンロードして収集したHTML文書を蓄積するユーザ用ファイルと、
クライアント(NCSA Mosaic)から参照要求を受けた場合に、前記ユーザ用ファイルに該当するHTML文書が保持されているならば、前記ユーザ用ファイルから前記HTML文書を提供するサーバ(NCSA WWW Server)と、を備えた検索システム。」

[引用文献2]
次に、上記拒絶の理由に引用された、菅井猛,和田光教、「インターネット上の情報フィルタリング(2)-情報の整理方法」、情報処理学会第51回(平成7年後期)全国大会講演論文集(4)、日本、社団法人情報処理学会、1995年9月20日、p.4-87?4-88(以下、「引用文献2」という。)の記載を検討するに、引用文献2には、図面と共に次の事項が記載されている。

(サ)「3 情報の整理方法
3.1 情報フィルタリングのアルゴリズム
インターネット上の検索システムは、インターネット上の大域的な索引を持つディレクトリサーバや、インターネット上の任意の情報資源を探索の始点として、クライアント側で検索を行なうツールなどがある。後者は、将来、WWWをはじめとした情報の提供者が爆発的に増えるに従い、任意のURLを起点とした情報の検索が今後重要になると思われる。既存の研究として、URLを始点として、ユーザが指定した探索の深さ、幅についてキーワードに関する検索を行なうfish search[1]がある。我々は、fish searchのアプローチをさらに拡張させ、ユーザのプロファイルを時間的に変化するものとしてとらえ、ユーザのフィードバックによりプロファイルを変化させて検索の精度をあげるとともにユーザの興味の変化に追従するフィルタリング方式を実現している。
現在実装中のシステムでは、ユーザは、フィルタリング条件として、あるURL、探索の深さ、探索の幅、プロファイル、フィルタリングのタイムアウトの時間、キャッシュするディレクトリー名を指定する。
本手法で扱っている情報は、URLの探索の始点とする探索空間に関する情報である。本手法の情報フィルタリングをWWW上の探索空間を探索する方法としてとらえれば、以下の探索方法が考えられる。
・ヒューリスティックスを用いた探索
・全経路探索
ヒューリスティックスを用いた探索とは、フィルタリングされたHTMLのみリンクをたどる方法である。全経路探索は、ユーザが指定した探索空間をすべてのHTMLの文書を得てからフィルタリングを行なう方法である。どちらの探索の戦略を使うかは,検索時間と検索の精度とのトレードオフになる。
探索始点であるURLを得る方法は、ユーザが明示的にURLを指定した方法(図1のCASE1参照)とネットワーク上のディレクトリサーバから得られたURLを利用する方法(図1のCASE2参照)がある。
また、情報の変更が定期的に行なわれるか否かで、フィルタリングの戦略が異なる。構報の変更が定期的に行なわれる文書の整理法では、インターネット上の情報資源を得るためのソフトウェアモジュールである検索エージェントの生成を制御するために、検索間隔時間の設定が必要になる。これは、ユーザが新しい情報が更新される時間を記述しておいて、その時間になったら、情報フィルタリングシステムが検索エージェントを生成して、フィルタリングを行なう。例えば、インタネット上の電子新聞は情報の変更が定期的に行なわれる文書の典型的なものといえる。情報の変更が比較的少ない文書の整理法は、WWWのホームページなどの情報の整理法が考えられる。これらの情報は、通常、不定期に変更される。この場合は、ユーザが文書を評価したのちに検索エージェントが検索する時に変更された文書を得るようにする。」(第4-87頁左欄第28行目?第4-88頁左欄第2行目)

(シ)「3.2 データの表示方法
検索エージェントは、得られたHTMLの文書をローカルなマシンにキャッシュする。ユーザがフィルタリングされた情報資源を表示する際に、ユーザは、もとのリンクを保持した大域的なリンクと、キャッシュされたHTMLを指す局所的なリンクを切替えて表示することができる。これによって、ユーザは、フィルタリングした結果とネットワーク上のもとの情報資源を切替えて表示させることができる。」(第4-88頁左欄第3行目?第11行目)

上記摘記事項(サ)の「ユーザは、フィルタリング条件として、あるURL、探索の深さ、探索の幅、プロファイル、フィルタリングのタイムアウトの時間、キャッシュするディレクトリー名を指定する。」や「構報の変更が定期的に行なわれる文書の整理法では、インターネット上の情報資源を得るためのソフトウェアモジュールである検索エージェントの生成を制御するために、検索間隔時間の設定が必要になる。これは、ユーザが新しい情報が更新される時間を記述しておいて、その時間になったら、情報フィルタリングシステムが検索エージェントを生成して、フィルタリングを行なう。」との記載、及び、上記摘記事項(シ)の「検索エージェントは、得られたHTMLの文書をローカルなマシンにキャッシュする。」との記載から、引用文献2記載のものは、設定された検索間隔時間で検索エージェントを生成し、該検索エージェントを用いて、HTML文書の取得及び所定ディレクトリーへのキャッシュを行う制御手段を有しているといえる。
また、上記摘記事項(シ)、及び、ハイパーテキストの技術常識から、引用文献2記載のものは、キャッシュされたHTML文書を指す局所的なリンクが表示された状態で、ユーザにより当該局所的なリンクが選択されると、ディレクトリーにキャッシュされたHTML文書が提供されるものであるといえる。

上記摘記事項(サ)、(シ)、及び、図面の記載を総合すると、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「検索エージェントがインターネット上を探索して得られるHTML文書をキャッシュするディレクトリーと、
設定された検索間隔時間で前記検索エージェントを生成し、該検索エージェントを用いて、HTML文書の取得及び所定ディレクトリーへのキャッシュを行う制御手段と、
キャッシュされたHTML文書を指す局所的なリンクが表示された状態で、ユーザにより当該局所的なリンクが選択されたことに応答して、ディレクトリーにキャッシュされたHTML文書を提供する手段と、
を備えた情報フィルタリング装置。」

[引用文献3]
また、上記拒絶の理由に引用された、菊池英明 外4名、「ハイパーメディア共有アーキテクチャにおけるバーション管理方式」、情報処理学会第53回(平成8年後期)全国大会講演論文集(3)、日本、社団法人情報処理学会、1996年9月4日、p.3-469?3-470(以下、「引用文献3」という。)の記載を検討するに、引用文献3には、図面と共に次の事項が記載されている。

(ス)「1.はじめに
WWWに代表される世界規模のハイパーメディアにおいて情報の流通が活発になっている。・・・(中略)・・・ハイパーメディアにおいては、ネットワータ上に分散した情報群がハイパーリンクにより結合される。従って、情報を共有する際には情報の所在を示すアドレスが伝達される。しかし、提供される情報の内容更新に伴い、情報の内容とアドレスの整合性が保たれないため、利用者が必要なバージョンの情報を再取得できない恐れがある。本稿では、この問題に対応するために、分散環境において提供者から利用者に至る階層を定義し、その各階層でバージョンをアーカイブとして蓄積するバージョン分散管理モデルを提案する。」(第3-469頁第1行目?第20行目)

(セ)「3.1 バージョン管理サーバ開発とHTMLの拡張
実装にあたりWWWクライアント及びバージョン管理サーバを開発した。図3.lに示すように、WWWサーバ(HTTPD)において提供されるデータに対するクライアントからの取得要求は、バージョン管理サーバを介してHTTPDに送られる。なお、バージョン管理サーバはWWWサーバとバージョン管理CGI(Common Gateway Interface)プログラムにより構成される。バージョン管理サーバでは、HTTPDの応答内のデータ更新時刻情報に基づいたバージョン識別子と対応させてデータを蓄積した上で、データをバージョン識別子とともにクライアントに返送する。これによりHTTPDにおいてデータの内容が更新された場合にも、クライアントはバージョン識別子を用いることにより、過去に取得したバージョンをバージョン管理サーバから取得することが可能になる。」(第3-470頁左欄第7行目?第22行目)

上記摘記事項(セ)の記載によれば、WWWサーバ(HTTPD)において提供されるデータに対するクライアントからの取得要求は、バージョン管理サーバを介してHTTPDに送られ、HTTPDからの応答データは、バージョン管理サーバに蓄積されるのみならず、バージョン管理サーバを介してWWWクライアントにも返送されている。返送された応答データは、WWWクライアントで表示され、参照されることは自明であるから、該クライアントがバージョン管理サーバに発する「取得」要求は、「参照」要求ということができる。

上記摘記事項(ス)、(セ)、及び、図面の記載を総合すると、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。
「WWWクライアントとWWWサーバ(HTTPD)との間に設けたバージョン管理サーバであって、WWWクライアントからの参照要求を受けて、WWWサーバ(HTTPD)から応答データを取得し、当該取得した応答データを蓄積することで、HTTPDにおいてデータの内容が更新された場合にもWWWクライアントから過去のバージョンを参照可能としたバージョン管理サーバ。」

5.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1における「インターネット」、「HTML文書」は、それぞれ、本願発明における「ネットワーク」、「データ」に相当する。また、引用発明1において「インデックスファイルを作成し、指定した文字列を含むHTML文書の検索を行う」ことは、本願発明において「データベースを作成し、データベース検索を行う」ことに相当する。
(2)引用発明1における「ユーザ用ファイル」は、ネットワーク上からの収集データを保持する手段(以下、「収集データ保持手段」という。)である点で、本願発明における「キャッシュ手段」と共通する。
(3)引用発明1における「サーバ」と、本願発明における「データ提供手段」とは、ともに、参照要求が与えられた場合に、収集データ保持手段に該当するデータが保持されているならば、前記収集データ保持手段から前記データを提供する提供手段である点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明1とは、
(一致点)
「ネットワーク上から収集したデータをもとにデータベースを作成し、データベース検索を行う検索システムにおいて、
ネットワーク上からの収集データを保持する収集データ保持手段と、
参照要求が与えられた場合に、収集データ保持手段に該当するデータが保持されているならば、前記収集データ保持手段から前記データを提供する提供手段と、を備えた検索システム。」

の発明である点で一致し、下記の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では、参照要求が外部から与えられるのに対し、引用発明1では、クライアントが検索システムの「外部」にあるとの記載はなく、したがって、クライアントからの参照要求が「外部」から与えられるものか明らかではない点。

(相違点2)
本願発明は、収集データ保持手段が、外部からの参照要求に応答して取得されたデータまたはロボットを用いて収集されるデータを保持するキャッシュ手段であり、また、ロボットを用いてキャッシュ手段にプリフェッチするプリフェッチ手段を有しているのに対し、引用発明1は、収集データ保持手段が、ユーザによって入力されたURLによりダウンロードして収集したHTML文書を保持するユーザ用ファイルであり、また、本願発明のプリフェッチ手段に相当する構成を有していない点。

(相違点3)
データベースの作成元となる、ネットワーク上からの収集データが、本願発明ではロボットを用いて収集したデータであるのに対し、引用発明1は、ユーザによるURL入力により収集したデータである点。

(相違点4)
参照要求が与えられた場合に、収集データ保持手段に保持されている該当データを、本願発明では「そのまま」提供するのに対し、引用発明1では、「そのまま」提供するとは記載されていない点。

6.判断
そこで、上記相違点について判断する。

(相違点1について)
引用発明1は、上記摘記事項(カ)から明らかなようにクライアントサーバモデルを採用しており、HTML文書の保持、検索、提供といった検索システムの実体部分をサーバ(NCSA WWW Server)が、ユーザと検索システムの実体部分であるサーバとのインタフェースをクライアント(NCSA Mosaic)が担うことは、容易に理解できることである。そして、クライアントサーバモデルにおいて、クライアントとサーバを別々の計算機とすることはよく知られたことであるから、引用発明1において、クライアントと検索システム(サーバ)とを別計算機とし、クライアントを検索システムの「外部」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
本願発明では、キャッシュ手段を「外部からの参照要求に応答して取得されたデータまたはロボットを用いて収集されるデータを保持するキャッシュ手段」と特定しているから、少なくとも、ロボットを用いて収集されるデータを保持するものであれば、本願でいうキャッシュ手段に相当することとなる。そこでまず、キャッシュ手段がロボットを用いて収集されるデータを保持するものである場合について検討する。
引用文献2には、引用発明2(上記4.の[引用文献2]の項を参照。)が記載されている。そして、引用発明1と引用発明2とは、ともに、インターネット上から収集した、ユーザが欲しいHTML文書を記憶手段に記憶しておくことで、元のインターネットサイトへのアクセスを要することなく、HTML文書の参照を可能にする装置である点で共通している。また、引用発明2では、設定された検索間隔時間で検索エージェントを生成する制御手段を有するとともに、検索エージェントがインターネット上を探索してHTML文書をキャッシュすることから、ユーザがURLを一回一回指定することなく、ユーザが欲しいHTML文書を収集できる効果を具備することは明らかである。一方、インターネット上から欲しい情報を収集するのに要するユーザの負担を軽減することは、インターネット上から情報を収集する装置であれば一般に存在する課題であって、引用発明1も当該課題を有しているといえる。そうすると、引用発明1に引用発明2を適用し、検索エージェント(本願の「ロボット」に相当する。)がインターネット上から収集するデータをユーザ用ファイルに蓄積するものとし、該検索エージェントを設定された検索間隔時間で生成する制御手段(本願の「プリフェッチ手段」に相当する。)を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
次に、引用発明1の「ユーザ用ファイル」は、インターネット上から収集したHTML文書を保持しておくことで、元のインターネットサイトへのアクセスを要することなく、HTML文書の参照を可能にする記憶手段である。ここで、引用文献2の上記摘記事項(サ)に「キャッシュするディレクトリー名」と記載されているように、インターネット上から収集したHTML文書を保持し、元のインターネットサイトへのアクセスを要することなくHTML文書の参照を可能にする記憶手段をキャッシュ手段としたものは周知であるから、引用発明1において、ユーザ用ファイルをキャッシュ手段とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、引用発明1において引用発明2を参酌し、ユーザ用ファイルを、ロボットを用いて収集されるHTML文書を保持するキャッシュ手段とし、ロボットを用いて当該キャッシュ手段にプリフェッチするプリフェッチ手段を設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、キャッシュ手段が「外部からの参照要求に応答して取得されたデータ」を保持する場合についても念のため検討する。引用文献3には、引用発明3(上記4.の[引用文献3]の項を参照。)が記載されている。引用発明1と引用発明3とは、ともに、インターネット上から取得した情報を蓄積することで、元のインターネットサイトの情報が更新された場合においても、更新前の情報を参照可能とするものであるから、引用発明1に引用発明3を適用し、クライアント(NCSA Mosaic)からの参照要求に応答して取得されたデータを保持する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

以上のとおりであるから、引用発明1において、ユーザ用ファイルを、外部からの参照要求に応答して取得されたデータまたはロボットを用いて収集されるデータを保持するキャッシュ手段とし、ロボットを用いて当該キャッシュ手段にプリフェッチするプリフェッチ手段を設けることは、引用発明2及び引用発明3を参酌することにより、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点3について)
上記(相違点2について)で検討したとおり、引用発明1において引用発明2を参酌し、ロボットがインターネット上から収集するデータをキャッシュ手段に保持するものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、引用発明1では、ユーザ用ファイルに蓄積されたHTML文書の中から目的の文書を手に入れやすくするために、インデックスファイルを作成してデータベース検索を可能としているから、ロボットがキャッシュ手段にHTML文書を収集するものにおいても、キャッシュ手段に収集されたHTML文書の中から目的の文書を手に入れやすくするために、インデックスファイルを作成してデータベース検索を可能とすることは、当業者が容易に為し得たことである。
したがって、引用発明1において、ロボットが収集したデータをデータベースの作成元データとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点4について)
引用文献1の上記摘記事項(ア)の「文書タイトルとURLを記録しておくだけでは、記録した時の文書と、文書内容が変化してしまったり、その文書にアクセスできなくなってしまうこともあるだろう。そこで、本研究では、文書タイトルとURLだけでなく、後で参照したい文書そのものの蓄積と、その検索を行うシステムを構築した。」との記載から明らかなように、引用発明1は、HTML文書をユーザ用ファイルに蓄積した時点の内容を、後で参照可能とするものであるから、ユーザ用ファイルから参照要求元へ提供されるHTML文書が、ユーザ用ファイルへ蓄積したものと同一内容であることが望ましいことは明らかである。したがって、引用発明1において、外部からの参照要求時に、ユーザ用ファイルに保持されている該当HTML文書を「そのまま」提供する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明の効果は、引用文献1-3に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用文献1-3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1-3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-05 
結審通知日 2007-12-11 
審決日 2007-12-25 
出願番号 特願2003-285107(P2003-285107)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 紀田 馨  
特許庁審判長 立川 功
特許庁審判官 多賀 実
手島 聖治
発明の名称 検索システム  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 福原 淑弘  
代理人 橋本 良郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  
代理人 峰 隆司  
代理人 鈴江 武彦  

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