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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1173195
審判番号 不服2004-22902  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-05 
確定日 2008-02-14 
事件の表示 平成10年特許願第343365号「感熱孔版印刷用マスター」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月31日出願公開、特開平11-235885〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成10年12月2日(優先権主張平成9年12月4日)の出願であって、平成16年9月30日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年11月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月6日付で明細書についての手続補正がなされたものである。

第2.平成16年12月6日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年12月6日付の手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
平成16年12月6日付の手続補正(以下、この補正を「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載「熱可塑性樹脂フィルムの片面に樹脂の油中水型乳濁液を主体とした多孔性樹脂膜形成用塗布液を塗布、乾燥することにより形成された多孔性樹脂膜を有することを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。」を、
「熱可塑性樹脂フィルムの片面に、樹脂の油中水型乳濁液及びフィラーを主体とした多孔性樹脂膜形成用塗布液を塗布、乾燥することにより形成された多孔性樹脂膜を有することを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。」と補正することを含むものである。(下線部が補正箇所である。)

2.補正の適否の検討
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「多孔性樹脂膜形成用塗布液」についての「樹脂の油中水型乳濁液を主体とした」との特定を、「樹脂の油中水型乳濁液及びフィラーを主体とした」と限定したものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
上記のとおり、本件補正に係る少なくとも請求項1についての補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含んでいるので、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

3.独立特許要件の有無
(1)本願の本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、これを「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものである。
「熱可塑性樹脂フィルムの片面に、樹脂の油中水型乳濁液及びフィラーを主体とした多孔性樹脂膜形成用塗布液を塗布、乾燥することにより形成された多孔性樹脂膜を有することを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-272273号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。
(あ)「【請求項1】熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に多孔性樹脂膜を設けた感熱孔版印刷用マスターにおいて、該多孔性樹脂膜はフィラーを含み...感熱孔版印刷用マスター。...
【請求項4】2種以上の溶媒の混合液中に溶解している樹脂中にフィラーを分散混合した塗布液を熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に塗布し、その後、乾燥して該溶媒を揮散させ該樹脂を析出させることにより、多孔性樹脂膜を該熱可塑性樹脂フィルム上に形成することを特徴とする感熱孔版印刷用マスターの製造方法。」(特許請求の範囲)、
(い)「フィラーの添加量は多孔性樹脂膜の形成に用いられる熱可塑性樹脂に対し通常5?50重量%である。5重量%より少ないとコシの改良が認められにくく」(段落【0020】)
これらの記載によれば、引用例1には、「熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に、2種以上の溶媒の混合液中に溶解している樹脂中にフィラーを分散混合した塗布液を塗布、乾燥して多孔性樹脂膜を設けた感熱孔版印刷用マスター」の発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-190393号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「(1)シート状基体および該基体の少なくとも一方の面を被覆している多孔質印刷インキ吸着層から成り、該インキ吸着層は油中水型ポリウレタン乳濁液から形成した多孔質ポリウレタン層であることを特徴とする印刷用シート。
(2) シート状基体はポリエステル系繊維から成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の印刷用シート。」(特許請求の範囲)、
(イ)「疎水性ポリウレタンは本発明においていずれも使用し得るものであり、次の如き水との相互溶解度に限界を有する有機溶剤中に溶解および/または分散させて使用する。」(第3頁左上欄17?20行)、
(ウ)「疎水性ポリウレタンの分散液であり、該分散液は疎水性ポリウレタンが...有機溶剤中に均一微細に分散しており、油中水型の乳濁液とした場合にすぐれた分散安定性を有し...本発明で使用するポリウレタン乳濁液は上記の混合分散液を強力に撹拌しつつ、この中に飽和量以下の水...を添加することにより得られる。...特定の親水性ポリウレタン(b)を乳化剤として採用するときは...乳濁液の長期分散安定性を保証し、従つてすぐれた均一微細な連続孔構造を有する吸着層を与える乳濁液となることを知見した。」(第3頁左下欄8行?右下欄10行)、
(エ)「乳濁液は、乳白色のクリーム状の流動体であり、そのまま数ケ月間放置しても安定な状態を保持している。」(第4頁左上欄5?7行)。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-82790号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の記載がある。
(オ)「多孔質疎水性ポリウレタン層を形成する方法としては、種々の方法を採用できるが、特に疎水性ポリウレタン、界面活性剤(例えば、親水性ポリウレタン)、有機溶剤及び水からなる油中水型ポリウレタン乳濁液を用いる方法が好ましい。該乳濁液自体は、疎水性ポリウレタンの有機溶剤溶液又は分散液中に、界面活性剤(例えば、親水性ポリウレタン)を用いて水を乳化させたものであり、例えば、特公昭59-33611号公報等で公知であり...上記乳濁液を基材l(第1図参照)上に任意の塗布手段で塗布後、乳濁液中の有機溶剤を比較的低温、例えば、50~80°Cで蒸発させることにより乳濁液をゲル化させ、続いて100°C以上の温度で水分を乾燥させることによって多孔質に形成される。」(第2頁左下欄12行?右下欄7行)、
(カ)「基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み50μm)に...上記多孔層形成材料をグラビアコートにより塗布...被熱転写シートを製造した。以上のようにして得られた受像紙は、多孔質疎水性ポリウレタン層の厚みが約15μmであり、外観はピンホールの発生のないスジやヌケが極めて少ないきめの細かい良好なものであった。」(第3頁左上欄15行?右上欄13行)。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-262057号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の記載がある。
(キ)「基材の上に昇華性染料を受容する受像層が設けられた熱転写記録用受像体において、前記受像層がポリウレタン系樹脂の油中水型エマルジョンを用いて形成される多孔質層であることを特徴とする熱転写記録用受像体。」(【請求項1】)、
(ク)「多孔質層を受像層とし、染料を受像層内部まで拡散、吸着させ画像濃度を上げる方法として、特開昭61-164893号公報が提案されているが、この方法では多孔化が樹脂溶液の乾燥によるもので、均一かつ緻密な多孔質が再現よく得られにくい」(【0007】)、
(ケ)「本発明の受像体に用いられる基材としては...ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂等のプラスチックフィルム...があげられる。...受像層はポリウレタン系樹脂のW/O型エマルジョン(油相に水滴が分散したエマルジョン)を用いて形成された多孔質構造を有するものである。該エマルジョンは、水に対し適度な溶解度をもつ有機溶媒中にポリウレタン系樹脂が溶解ないし分散した液を油相とし、W/O型乳化剤、好ましくはポリウレタン系乳化剤を適量用いて、攪拌下で水を添加し分散させることによって得られる。そして該エマルジョンを基材上に塗布し乾燥させると、先ず大半の有機溶媒が蒸発し樹脂が凝固し、続いて水と残存溶媒が蒸発することによって連通した気孔を有する均一で緻密な多孔質層を形成することができる。」(【0010】?【0011】)。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較する。
引用発明の「フィルムの一方の面上」は、本願補正発明の「フィルムの片面」に相当する。
引用発明の「2種以上の溶媒の混合液中に溶解している樹脂中にフィラーを分散混合した塗布液」は、本願補正発明の「樹脂の油中水型乳濁液及びフィラーを主体とした多孔性樹脂膜形成用塗布液」と、「フィラーを含む多孔性樹脂膜形成用塗布液」である点で共通する。
したがって、両者は
「熱可塑性樹脂フィルムの片面に、フィラーを含む多孔性樹脂膜形成用塗布液を塗布、乾燥することにより形成された多孔性樹脂膜を有する感熱孔版印刷用マスター。」で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]フィラーを含む多孔性樹脂膜形成用塗布液が、本願補正発明では、樹脂の油中水型乳濁液を主体としたものであるのに対し、引用発明では、樹脂を溶解している2種以上の溶媒の混合液である点。

(4)判断
相違点について検討する。
上記引用例2?4に、印刷用シート、被熱転写シート、熱転写記録用受像体の基材の片面に塗布により多孔性樹脂膜を形成するに際し、塗布液に樹脂の油中水型乳濁液を主体としたものを用いて、均一な連続孔を得ることが記載されているように、基材上へ塗布によって多孔性樹脂膜を形成する技術において、樹脂の油中水型乳濁液を用いて、均一な連続孔を得ることは従来周知の技術であり、当該技術は引用例2?4記載の印刷用シート、被熱転写シート、熱転写記録用受像体の基材に限らず広く利用できることは明らかである。一方、引用発明の多孔性樹脂膜の形成においても、均一な連続孔とすることが自明の課題であるから、引用発明の多孔性樹脂膜形成用塗布液に、上記従来周知の樹脂の油中水型乳濁液を主体とするものを採用して、均一な連続孔を得ようとすることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成16年12月6日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「熱可塑性樹脂フィルムの片面に樹脂の油中水型乳濁液を主体とした多孔性樹脂膜形成用塗布液を塗布、乾燥することにより形成された多孔性樹脂膜を有することを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。」
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1乃至4とその記載事項は、前記「第2 3.(2)」に記載したとおりである。
(2)対比・判断
本願発明は、前記「第2 3.」で検討した本願補正発明の「樹脂の油中水型乳濁液及びフィラーを主体とした」から「及びフィラー」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.3.(4)」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-06 
結審通知日 2007-12-11 
審決日 2007-12-26 
出願番号 特願平10-343365
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41N)
P 1 8・ 121- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 裕子  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 藤井 靖子
坂田 誠
発明の名称 感熱孔版印刷用マスター  
代理人 廣田 浩一  
代理人 廣田 浩一  

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