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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1173372
審判番号 不服2005-15477  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-11 
確定日 2008-02-21 
事件の表示 特願2001- 76347「モジュールアップグレードに伴う初期化設定処理方法及びこれを用いた情報処理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月27日出願公開、特開2002-278768〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年3月16日の出願であって、平成17年7月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月11日に審判請求がなされ、平成19年7月31日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに対し、同年10月9日付けで手続補正がなされると共に意見書が提出されたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「半導体メモリからなる制御記憶装置に記憶されるとともに情報処理システムの起動を制御するシステムファームウェアが、当該情報処理システムを構成するモジュールのアップグレードに伴う当該モジュールの初期化設定処理の変更を、初期化設定処理データに基づき実行する、
モジュールアップグレードに伴う初期化設定処理方法であって、
予め、前記制御記憶装置に初期化設定処理初期データを格納しておくとともに、前記制御記憶装置とは別の記憶装置に前記初期化設定処理データを格納しておき、
前記システムファームウェアは、
前記情報処理システムの起動時に、前回の初期化設定処理の変更においてエラーが発生していたことはないと判断した場合は、前記初期化設定処理データを前記記憶装置から読み出し、この初期化設定処理データに基づき前記モジュールの初期化設定処理を変更するとともに、
当該初期化設定処理データに基づく前回の初期化設定処理の変更においてエラーが発生していた場合は、前記初期化設定処理初期データを前記制御記憶装置から読み出し前記初期化設定処理初期データに基づき前記モジュールの初期化設定処理を変更する、
モジュールアップグレードに伴う初期化設定処理方法。」

2.引用発明
2-1.引用発明1
上記当審の拒絶理由に引用された、本願の出願前である平成12年8月29日に頒布された刊行物である特開2000-235483号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、BIOS(Basic Input Output System)プログラムを有するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えばバックアップ電源を備えたCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor) RAM等の不揮発性のRAM(NVRAM)に、予めシステム構成の設定情報等のシステム情報を格納しておき、起動時に、このシステム情報に基づいて初期診断が行われる情報処理装置が知られている。こうした情報処理装置においては、ROM(Read Only Memory)に格納されたBIOSに、NVRAMに記憶されているシステム情報を変更するためのセットアッププログラムが組み込まれている。情報処理装置の使用者は、このセットアッププログラムを使用することによって、システム構成の設定情報等、例えば情報処理装置に備えられた固定ディスクの容量、ディスプレイの形式、日付、時刻等のシステム情報を変更することが出来る。」

(イ)「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の情報処理装置の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態に係わる情報処理装置10の要部ブロック構成図である。本実施の形態による情報処理装置10は、図1に示すように、CPU11と、NVRAM(第1のメモリ)12と、バックアップ電源13と、BIOS ROM(第2のメモリ)14と、メモリ15と、入力装置16と、出力装置17と、外部記憶装置18とから構成されている。ここで、NVRAM12は、例えばCMOS RAM等からなり、入力装置16、出力装置17、外部記憶装置18に関する各種データ(システム情報と言う)が格納されている。このNVRAM12は、例えば電池等からなるバックアップ電源13から電源供給を受けており、情報処理装置10の主電源がオフとされた場合でも、内部に記憶されているシステム情報が失われることはない。
【0009】BIOS ROM14は、情報処理装置10の起動時に実行されるプログラム等が記憶されたROMであって、書き込み可能な例えばフラッシュメモリによって形成されている。このBIOS ROM14は、図1に示すように、初期化診断プログラム141と、セットアッププログラム142と、工場出荷時設定値143と、ユーザ設定値144とを含んでいる。初期化診断プログラム141は、情報処理装置10の主電源がオンとされたときに実行されるプログラムである。セットアッププログラム142は、NVRAM12に記憶されているシステム情報を変更する際等に使用されるプログラムである。工場出荷時設定値143は、NVRAM12に記憶されているシステム情報の初期値である。」

(ウ)「【0010】本実施の形態による情報処理装置10は上述の構成を備えており、次に、図1および図2を参照しながら、この情報処理装置10の動作について説明する。図2は図1に示す情報処理装置10の動作を示すフローチャートである。先ず、情報処理装置10の主電源がオンとされると、CPU11は、BIOSROM14に格納されている初期化診断プログラム141をメモリ15にコピーして実行する。メモリ15にコピーされた初期化診断プログラム141は、NVRAM12に保存されているシステム情報が例えば壊れていたり、消失している等の障害が生じていないかチェックし、システム情報に障害が生じている場合には、BIOSROM14に格納されている工場出荷時設定値143をNVRAM12にコピーする。一方、NVRAM12に保存されているシステム情報に障害が生じていない場合には、このシステム情報に基づいて、入力装置16、出力装置17、外部記憶装置18を初期化診断する。」

上記(ア)における「本発明は、BIOS(Basic Input Output System)プログラムを有するパーソナルコンピュータ等の情報処理装置に関する。」の記載から、引用文献1に記載された方法は、BIOS(Basic Input Output System)プログラム(以下、「BIOS」という。)を有する情報処理装置に関する方法である。

上記(イ)における「BIOS ROM14は、情報処理装置10の起動時に実行されるプログラム等が記憶されたROMであって、書き込み可能な例えばフラッシュメモリによって形成されている。このBIOS ROM14は、図1に示すように、初期化診断プログラム141と、…(中略)…を含んでいる。初期化診断プログラム141は、情報処理装置10の主電源がオンとされたときに実行されるプログラムである。」の記載から、引用文献1に記載された方法は、半導体メモリからなるBIOSROMにBIOSが記憶されており、このBIOSは、情報処理装置の起動を制御するものである。

また、上記(ア)における「情報処理装置の使用者は、このセットアッププログラムを使用することによって、システム構成の設定情報等、例えば情報処理装置に備えられた固定ディスクの容量、ディスプレイの形式、日付、時刻等のシステム情報を変更することが出来る。」の記載から、引用文献1に記載されたシステム情報は、変更可能なシステム構成の設定情報である。

そして、上記(ウ)における「このシステム情報に基づいて、入力装置16、出力装置17、外部記憶装置18を初期化診断する。」の記載から、上記変更可能なシステム構成の設定情報であるシステム情報は、入力装置、出力装置、外部記憶装置を初期化診断するための情報である。

これらの記載事項によると、引用文献1に記載された方法は、半導体メモリからなるBIOSROMにBIOSが記憶され、情報処理装置の起動を制御するBIOSが、当該情報処理装置の入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を、変更可能なシステム構成の設定情報であるシステム情報に基づき行う、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断方法であることがわかる。

また、上記(イ)における「このBIOS ROM14は、図1に示すように、…(中略)…工場出荷時設定値143と、…(中略)…を含んでいる。…(中略)…工場出荷時設定値143は、NVRAM12に記憶されているシステム情報の初期値である。」の記載から、BIOSROMには、予め、システム情報の初期値である工場出荷時設定値が格納されていることがわかる。
加えて、上記(イ)における「ここで、NVRAM12は、例えばCMOS RAM等からなり、入力装置16、出力装置17、外部記憶装置18に関する各種データ(システム情報と言う)が格納されている。」の記載から、引用文献1に記載されたNVRAMには、システム情報が格納されていることがわかるとともに、このNVRAMは、BIOSの格納されたBIOSROMとは別のものであることがわかる。

さらに、上記(ウ)における「先ず、情報処理装置10の主電源がオンとされると、CPU11は、BIOSROM14に格納されている初期化診断プログラム141をメモリ15にコピーして実行する。メモリ15にコピーされた初期化診断プログラム141は、NVRAM12に保存されているシステム情報が例えば壊れていたり、消失している等の障害が生じていないかチェックし、システム情報に障害が生じている場合には、BIOSROM14に格納されている工場出荷時設定値143をNVRAM12にコピーする。一方、NVRAM12に保存されているシステム情報に障害が生じていない場合には、このシステム情報に基づいて、入力装置16、出力装置17、外部記憶装置18を初期化診断する。」の記載から、
引用文献1に記載された方法は、情報処理装置の主電源がオンとされたときに、BIOSが、NVRAMに保存されているシステム情報に障害が生じていないかチェックし、システム情報に障害が生じていない場合には、このシステム情報に基づいて、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を行うとともに、一方、このシステム情報に障害が生じている場合には、BIOSROMに格納されている工場出荷時設定値をNVRAMにコピーして、前記工場出荷時設定値に基づいて、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を行うことがわかる。

よって、上記(ア)乃至(ウ)の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

半導体メモリからなるBIOSROMにBIOSが記憶され、情報処理装置の起動を制御するBIOSが、当該情報処理装置の入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を、変更可能なシステム構成の設定情報であるシステム情報に基づき行う、
入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断方法であって、
予め、前記BIOSROMにシステム情報の初期値である工場出荷時設定値を格納しておくとともに、前記BIOSROMとは別のNVRAMに前記システム情報を格納しておき、
前記BIOSは、
前記情報処理装置の主電源がオンとされたときに、NVRAMに保存されているシステム情報に障害が生じていないかチェックし、システム情報に障害が生じていない場合には、このシステム情報に基づいて、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を行うとともに、一方、このシステム情報に障害が生じている場合には、BIOSROMに格納されている工場出荷時設定値をNVRAMにコピーして、前記工場出荷時設定値に基づいて、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を行う、
入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断方法。

2-2.引用発明2
上記当審の拒絶理由に引用された、本願の出願前である平成7年3月3日に頒布された刊行物である特開平7-56719号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

(エ)「【0011】
【課題を解決するための手段】この発明は、あるシステム構成データ(configuration data)がたとえ使用不可能となった後であっても、コンピュータ・システムをブートする方法およびシステムを提供する。これは、コンピュータ・システムを最後(直前)に正しくブートしたシステム構成データのセットからコンピュータ・システムをブートする方法およびシステムによって達成される。この発明は、最初に、現システム構成データのセットからコンピュータ・システムをブートしようと試みる。この試みが失敗すると、この発明は、コンピュータ・システムのブートに成功し、かつあらかじめ記憶されている最後のシステム構成データのセットを用いて、自動的にコンピュータ・システムをブートする。コンピュータ・システムを正しくブートした最後のシステム構成データのセットを用いて、コンピュータ・システムをブートすることに成功すると、これに応じて、この発明は、コンピュータ・システムのブートに成功した最後(直前)のシステム構成データのセットと等価な新しい現システム構成データのセットを作成する。」

(オ)「【0026】[処理の概要]コンピュータ105 のブート要求が、ユーザから入出力装置125 を介して入力されると、これに応じて、コンピュータ105 は、オペレーティング・システム101のシステム・ブート・プログラム109 を実行し、コンピュータ105 のシステム・ブート手続を管理する。このシステム・ブート・プログラム109 は、中央処理装置(CPU)127 で実行されるとき、コントロール・セット選択プログラム113を起動する。このコントロール・セット選択プログラム113 は、コンピュータ105 をブートするために用いるシステム構成データのセット(すなわち、コントロール・セット)の選択を行うものである。コントロール・セット選択プログラム113 は、レジストリ107 のDefault コントロール・セット209 またはLastKnownGood コントロール・セット210 のいずれかを選択する。そして、システム・ブート・プログラム109 は、レジストリ初期化プログラム111 を起動する。このレジストリ初期化プログラム111 は、CPU127 で実行されるとき、コンピュータ105 のシステム構成データを検索し、検索されたシステム構成データをレジストリ107 に記憶する。次に、システム・ブート・プログラム109 は、デバイス・ドライバ・ロード・プログラム121 を起動する。このプログラム121 は、CPU127で実行されるとき、選択されたコントロール・セットに列挙されているデバイス・ドライバのセットをロードし、初期化しようと試みる。図1は、デバイス・ドライバ129 がコンピュータ・メモリ103 にロードされた後のシステム101 の状態を示している。デバイス・ドライバのいずれかがロードまたは初期化に失敗したならば、デバイス・ドライバ・ロード・プログラム121 は、現在実行中のシステム・ブート手続が、その失敗にも関わらず、デバイス・ドライバを正しく初期化し続けるべきかどうか、または新たなシステム・ブート手続がレジストリ107 のLastKnownGood コントロール・セット210 を用いて開始されるべきかどうかを決定する。」

(カ)「【0028】[流れ図]図6は、コンピュータ105 のシステム・ブート手続を制御するシステム・ブート処理の流れ図である。このシステム・ブート処理は、好ましくは、システム・ブート・プログラム109 によって実行される。ステップ601 において、システム・ブート処理は、コントロール・セット選択処理を呼び出す。このコントロール・セット選択処理は、コンピュータ105 のブートに用いられるシステム構成データのセット(すなわち、コントロール・セット)の選択を行うものである。コントロール・セット選択処理は、レジストリ107 のDefault コントロール・セット209 またはLastKnownGood コントロール・セット210 のいずれかを選択する。コントロール・セット選択処理は、後に詳述され、また図7に示されている。」

(キ)「【0030】図7は、コントロール・セット選択処理の流れ図である。コントロール・セット選択処理は、コンピュータ105 をブートするのに用いられるシステム構成データのセット(すなわち、コントロール・セット)の選択を行うものである。コントロール・セット選択処理は、レジストリ107 のDefault コントロール・セット209 またはLastKnownGood コントロール・セット210 のいずれかを選択する。コントロール・セット選択処理は、オペレーティング・システム101 のコントロール・セット選択プログラム113 によって実行されることが好ましい。
【0031】ステップ701 において、コントロール・セット選択処理は、変数UseLastKnownGoodを値False にセットする。レジストリ107 のLastKnownGood コントロール・セット210 がコンピュータ105 をブートするために使用されるときには、変数UseLastKnownGoodは、値Trueにセットされる。レジストリ107 のDefault コントロール・セット209 がコンピュータ105 をブートするために使用されるときには、変数UseLastKnownGoodは、値False にセットされる。ステップ703 では、コントロール・セット選択処理は、LastKnownGood 環境変数を検索する。コンピュータ105 をブートする直前の試みが、レジストリ107 のDefault コントロール・セット209 を用いて失敗していたときには、LastKnownGood 環境変数は、Trueにセットされている。それ以外の場合には、LastKnownGood 環境変数は、False にセットされている。LastKnownGood 環境変数は、不揮発性の記憶媒体に記憶されていることが好ましい。
【0032】・・・(中 略)・・・コントロール・セット選択処理は、ステップ709 で、変数UseLastKnownGoodが値Trueに等しいかどうかを判定する。変数UseLastKnownGoodが値Trueに等しい場合には、ステップ711 で、コントロール・セット選択処理は、レジストリ107 のバリュー・エントリCurrent 208 を、レジストリ107 のバリュー・エントリLastKnownGood 210 によって示されるコントロール・セットと等しくなるようにセットする。これにより、バリュー・エントリLastKnownGood 210 によって示されるコントロール・セットが、システムをブートするために使用される。ステップ711 の処理が終了すると、コントロール・セット選択処理は、ステップ713 において、図6に示すシステム・ブート処理に処理の制御を返す。
【0033】ステップ709 に戻って、変数UseLastKnownGoodが値False に等しい場合には、コントロール・セット選択処理は、ステップ715 において、バリュー・エントリCurrent 208 を、バリュー・エントリDefault 209 と等しくなるようにセットする。ステップ715 の処理が終了すると、コントロール・セット選択処理は、ステップ713 において、図6に示すシステム・ブート処理に処理の制御を返す。
【0034】ステップ705 に戻って、ユーザが、ブレークイン・キーを入力しなかった場合には、ステップ717 において、コントロール・セット選択処理は、LastKnownGood 環境変数が値Trueに等しいかどうかを判定する。LastKnownGood 環境変数が値False に等しい場合には、処理は、ステップ709 、711 、713 および715 (上述)に進む。
【0035】ステップ717 に戻って、LastKnownGood 環境変数が値Trueに等しい場合には、ステップ719 において、このコントロール・セット選択処理は、レジストリ107のバリュー・エントリAutoSelect 212が値Trueにセットされているかどうかを判定する。バリュー・エントリAutoSelect 212は、LastKnownGood ユーザ・インタフェース・メニューが表示されるかどうかを制御する。・・・(中 略)・・・
【0036】バリュー・エントリAutoSelect 212が値Trueに等しい場合には、ステップ721において、変数UseLastKnownGoodが値Trueにセットされる。ステップ721 の処理が終了した後、ステップ709 ?715 が上述したように実行される。」

上記(エ)における「この発明は、最初に、現システム構成データのセットからコンピュータ・システムをブートしようと試みる。この試みが失敗すると、この発明は、コンピュータ・システムのブートに成功し、かつあらかじめ記憶されている最後のシステム構成データのセットを用いて、自動的にコンピュータ・システムをブートする。」の記載から、引用文献2に記載された方法は、コンピュータ・システム(以下、「コンピュータ」という。)をシステム構成データのセットからブートする方法である。
また、上記(オ)における「次に、システム・ブート・プログラム109 は、デバイス・ドライバ・ロード・プログラム121 を起動する。このプログラム121 は、CPU127で実行されるとき、選択されたコントロール・セットに列挙されているデバイス・ドライバのセットをロードし、初期化しようと試みる。」の記載から、上記ブートは、選択されたコントロール・セットを用いてコンピュータを初期化する方法である。

さらに、上記(カ)および上記(キ)における「図7は、コントロール・セット選択処理の流れ図である。コントロール・セット選択処理は、コンピュータ105 をブートするのに用いられるシステム構成データのセット(すなわち、コントロール・セット)の選択を行うものである。コントロール・セット選択処理は、レジストリ107 のDefault コントロール・セット209 またはLastKnownGood コントロール・セット210 のいずれかを選択する。」の記載から、引用文献2に記載された方法は、コンピュータを初期化するコントロール・セット選択処理として、Default コントロール・セットまたはLastKnownGood コントロール・セットのいずれかを選択する方法である。

また、上記(キ)における「ステップ703 では、コントロール・セット選択処理は、LastKnownGood 環境変数を検索する。コンピュータ105 をブートする直前の試みが、レジストリ107 のDefault コントロール・セット209 を用いて失敗していたときには、LastKnownGood 環境変数は、Trueにセットされている。それ以外の場合には、LastKnownGood 環境変数は、False にセットされている。」の記載から、引用文献2に記載された方法は、コントロール・セット選択処理において、コンピュータをブートする直前の試みがDefault コントロール・セットを用いて失敗していたときには、LastKnownGood 環境変数は、Trueにセットされ、それ以外の場合には、LastKnownGood 環境変数は、False にセットされている。
すなわち、引用文献2に記載されたコントロール・セット選択処理の判断は、前回のブートの試みが失敗していたときは、LastKnownGood 環境変数は、Trueにセットされ、前回のブートの試みが成功していたときには、LastKnownGood 環境変数は、False にセットされていることがわかる。

そして、上記(キ)における「【0031】ステップ701 において、コントロール・セット選択処理は、変数UseLastKnownGoodを値False にセットする。…(中略)…
【0034】ステップ705 に戻って、ユーザが、ブレークイン・キーを入力しなかった場合には、ステップ717 において、コントロール・セット選択処理は、LastKnownGood 環境変数が値Trueに等しいかどうかを判定する。LastKnownGood 環境変数が値False に等しい場合には、処理は、ステップ709 、711 、713 および715 (上述)に進む。
【0035】ステップ717 に戻って、LastKnownGood 環境変数が値Trueに等しい場合には、ステップ719 において、このコントロール・セット選択処理は、レジストリ107のバリュー・エントリAutoSelect 212が値Trueにセットされているかどうかを判定する。…(中略)…
【0036】バリュー・エントリAutoSelect 212が値Trueに等しい場合には、ステップ721において、変数UseLastKnownGoodが値Trueにセットされる。ステップ721 の処理が終了した後、ステップ709 ?715 が上述したように実行される。」の記載から、引用文献2に記載されたコントロール・セット選択処理の判断は、
まず、ステップ701で変数UseLastKnownGoodを値Falseにセットし、ステップ717で上記ステップ703でセットされたLastKnownGood 環境変数が値Trueに等しいかどうかを判定すること、つまり、前回のブートが失敗していた場合には、ステップ721において、変数UseLastKnownGoodが値Trueにセットされる。
また、ステップ717で上記ステップ703でセットされたLastKnownGood 環境変数が値False に等しい場合には、つまり、前回のブートが失敗していない場合には、変数UseLastKnownGoodの値は値Falseのままである。
すなわち、引用文献2に記載されたコントロール・セット選択処理の判断は、前回のブートが失敗していた場合には、変数UseLastKnownGoodが値Trueにセットされ、前回のブートが失敗していない場合には、変数UseLastKnownGoodの値は値Falseである。

さらに、上記(キ)における「コントロール・セット選択処理は、ステップ709 で、変数UseLastKnownGoodが値Trueに等しいかどうかを判定する。変数UseLastKnownGoodが値Trueに等しい場合には、ステップ711 で、コントロール・セット選択処理は、レジストリ107 のバリュー・エントリCurrent 208 を、レジストリ107 のバリュー・エントリLastKnownGood 210 によって示されるコントロール・セットと等しくなるようにセットする。これにより、バリュー・エントリLastKnownGood 210 によって示されるコントロール・セットが、システムをブートするために使用される。ステップ711 の処理が終了すると、コントロール・セット選択処理は、ステップ713 において、図6に示すシステム・ブート処理に処理の制御を返す。
【0033】ステップ709 に戻って、変数UseLastKnownGoodが値False に等しい場合には、コントロール・セット選択処理は、ステップ715 において、バリュー・エントリCurrent 208 を、バリュー・エントリDefault 209 と等しくなるようにセットする。ステップ715 の処理が終了すると、コントロール・セット選択処理は、ステップ713 において、図6に示すシステム・ブート処理に処理の制御を返す。」の記載から、引用文献2に記載されたコントロール・セット選択処理の判断は、
変数UseLastKnownGoodが値False に等しい場合、つまり、前回のブートが失敗していない場合には、ステップ715 で、コントロール・セットをDefault 209 と等しくなるようにセットする。
また、変数UseLastKnownGoodが値Trueに等しい場合、つまり、前回のブートが失敗していた場合には、ステップ711 で、コントロール・セットをLastKnownGood 210 によって示されるコントロール・セットと等しくなるようにセットする。
すなわち、引用文献2に記載されたコントロール・セット選択処理の判断は、前回のブートが失敗していない場合には、Default コントロール・セットを選択し、前回のブートが失敗していた場合には、LastKnownGood コントロール・セットを選択する方法である。

よって、上記(エ)乃至(キ)の記載から、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

Default コントロール・セットまたはLastKnownGood コントロール・セットのいずれかを選択する方法であって、
コンピュータを初期化するコントロール・セット選択処理の判断として、
前回のブートが失敗していない場合には、Default コントロール・セットを選択し、前回のブートが失敗していた場合には、LastKnownGood コントロール・セットを選択する方法。

3.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「半導体メモリからなるBIOSROM」、「情報処理装置」、「BIOS」、「入力装置、出力装置、外部記憶装置」及び「NVRAM」は、それぞれ本願発明の「半導体メモリからなる制御記憶装置」、「情報処理システム」、「システムファームウェア」、「モジュール」及び「別の記憶装置」に相当する。

そして、引用発明1の「システム情報」は、システム構成の設定情報データであって、情報処理システムの起動時に行われる初期化診断という、情報処理システムの初期化の際に使用されるものであるから、本願発明の「初期化設定処理データ」に相当する。
加えて、引用発明1の「システム情報の初期値である工場出荷時設定値」は、システム情報つまり初期化設定処理データのデフォルト値(本願明細書段落【0024】の「モジュールのデフォルトに対応する設定処理初期データ」を参照。)というべきものであるから、本願発明の「初期化設定処理初期データ」に相当する。
また、引用発明1の「情報処理装置の主電源がオンとされたとき」は、情報処理システムの起動時のことであるから、本願発明の「情報処理システムの起動時」に相当する。

一般に、情報処理システムにおけるシステム構成の変更には、モジュールのアップグレードを行うことが包含されていることは、当業者にとって自明な事項である。
また、引用発明1の「初期化診断」と本願発明の「初期化設定処理」は、情報処理システムの起動時に、変更された初期化設定処理データを用いる初期化処理という点で共通している。
よって、引用発明1の「情報処理装置の入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を、変更可能なシステム構成の設定情報であるシステム情報に基づき行う」ことと、本願発明の「情報処理システムを構成するモジュールのアップグレードに伴う当該モジュールの初期化設定処理の変更を、初期化設定処理データに基づき実行する」ことは、情報処理システムを構成するモジュールのアップグレードに伴う当該モジュールの初期化処理の変更を、初期化設定処理データに基づき実行する点で共通する。
同様に、引用発明1の「入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断方法」と、本願発明の「モジュールアップグレードに伴う初期化設定処理方法」は、モジュールアップグレードに伴う初期化処理方法として共通する。

さらに、引用発明1の「このシステム情報に基づいて、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を行う」ことは、変更された初期化設定処理データを記憶装置から読み出して実施される初期化診断であるから、引用発明1の「このシステム情報に基づいて、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を行う」ことと、本願発明の「前記初期化設定処理データを前記記憶装置から読み出し、この初期化設定処理データに基づき前記モジュールの初期化設定処理を変更する」ことは、前記初期化設定処理データを前記記憶装置から読み出し、この初期化設定処理データに基づき前記モジュールの初期化処理を変更する点で共通する。
同様に、引用発明1の「BIOSROMに格納されている工場出荷時設定値をNVRAMにコピーして、前記工場出荷時設定値に基づいて、入力装置、出力装置、外部記憶装置の初期化診断を行う」ことと、本願発明の「前記初期化設定処理初期データを前記制御記憶装置から読み出し前記初期化設定処理初期データに基づき前記モジュールの初期化設定処理を変更する」ことは、前記初期化設定処理初期データを前記制御記憶装置から読み出し前記初期化設定処理初期データに基づき前記モジュールの初期化処理を変更する点で共通する。

そして、引用発明1と本願発明とは、情報処理システムの起動時に、システムファームウェアの初期化処理において、初期化設定処理データと初期化設定処理初期データの選択処理の判断を、初期化設定処理データに基づくエラーの有無で場合分けして判断する点で共通しているので、
引用発明1の「NVRAMに保存されているシステム情報に障害が生じていないかチェックし、システム情報に障害が生じていない場合」と、本願発明の「前回の初期化設定処理の変更においてエラーが発生していたことはないと判断した場合」は、初期化処理の変更においてエラーが発生していたことはないと判断した場合として共通する。
同様に、引用発明1の「一方、このシステム情報に障害が生じている場合」と、本願発明の「前回の初期化設定処理の変更においてエラーが発生していた場合」は、初期化処理の変更においてエラーが発生していた場合として共通する。

よって、両者は、

半導体メモリからなる制御記憶装置に記憶されるとともに情報処理システムの起動を制御するシステムファームウェアが、当該情報処理システムを構成するモジュールのアップグレードに伴う当該モジュールの初期化処理の変更を、初期化設定処理データに基づき実行する、
モジュールアップグレードに伴う初期化処理方法であって、
予め、前記制御記憶装置に初期化設定処理初期データを格納しておくとともに、前記制御記憶装置とは別の記憶装置に前記初期化設定処理データを格納しておき、
前記システムファームウェアは、
前記情報処理システムの起動時に、初期化処理の変更においてエラーが発生していたことはないと判断した場合は、前記初期化設定処理データを前記記憶装置から読み出し、この初期化設定処理データに基づき前記モジュールの初期化処理を変更するとともに、
当該初期化設定処理データに基づく初期化処理の変更においてエラーが発生していた場合は、前記初期化設定処理初期データを前記制御記憶装置から読み出し前記初期化設定処理初期データに基づき前記モジュールの初期化処理を変更する、
モジュールアップグレードに伴う初期化処理方法

の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
初期化処理が、本願発明においては、初期化設定処理であるのに対して、引用発明1においては、初期化診断である点。

[相違点2]
初期化設定処理データと初期化設定処理初期データの選択処理の判断において、本願発明は、前回の初期化設定処理に基づいて判断しているのに対して、引用発明1では、システム情報の障害に基づいて判断している点。

4.当審の判断
上記相違点について、以下検討する。

[相違点1について]
一般に、BIOSの初期化処理として、入出力装置等の情報処理システムを構成するモジュールを初期化するための設定処理は、
本願の出願前である平成7年8月4日に頒布された刊行物である特開平7-200396号公報(段落【0002】の「【従来の技術】一般に、コンピュータシステムに備えられている入出力装置を制御するシステム(以下、BIOSという。)は、システムのパワーオン時またはリセット時のシステムの機能チェック、設定からイニシャライズプログラムローダ(以下、IPLという。)までの立ち上げに必要な全てのプログラムをBIOSーROMに記憶している。」という記載を参照。)、及び
本願の出願前である平成10年11月2日に頒布された刊行物である、渡邉 郁郎著、「PCユーザーの基礎知識 AT互換機のBIOS 改訂版」、第1版、エーアイ出版株式会社、1998年11月2日(第14頁第9-11行目の「パソコン本体の電源が入ったときに、BIOSがROMからメインメモリであるDRAMヘプログラムを転送して、起動できる(プロダラムを実行できる環境を作る)ように設定を行っているのです。」という記載を参照。)に開示されているごとく、当業者にとって周知である。
したがって、引用発明1のBIOSによる初期化処理として、初期化設定処理を含む構成とすることは、上記周知技術を参酌することにより当業者が容易になし得ることである。
よって、相違点1は格別なものではない。

[相違点2について]
引用発明2にあるように、コンピュータを初期化するコントロール・セット選択処理の判断として、前回のブートが失敗していない場合には、Default コントロール・セット(本願発明の「初期化設定処理データ」に対応する。)を選択し、前回のブートが失敗していた場合には、LastKnownGood コントロール・セット(本願発明の「初期化設定処理初期データ」に対応する。)を選択する方法を用いること、つまり、前回の初期化設定処理に基づいて選択処理の判断をすることは通常行われており、
かつ、引用発明1及び引用発明2は、初期化設定処理データと初期化設定処理初期データに対応するもの(引用発明1においては「システム情報」と「工場出荷時設定値」、引用発明2においては「Default コントロール・セット」と「LastKnownGood コントロール・セット」)を選択処理する点で共通しているから、引用発明1の初期化設定処理データと初期化設定処理初期データの選択処理の判断において、引用発明2のような前回の初期化設定処理に基づいて判断することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明1、引用発明2及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲内のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-19 
結審通知日 2007-12-25 
審決日 2008-01-08 
出願番号 特願2001-76347(P2001-76347)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 光宏  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 相崎 裕恒
桑江 晃
発明の名称 モジュールアップグレードに伴う初期化設定処理方法及びこれを用いた情報処理システム  
代理人 下坂 直樹  
代理人 谷澤 靖久  
代理人 机 昌彦  

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