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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1173572
審判番号 不服2005-8901  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-12 
確定日 2008-02-21 
事件の表示 特願2003- 22020「電気光学装置、その駆動方法、及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月15日出願公開、特開2003-295821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成14年2月1日にされた出願(特願2002-026129号)に基づく優先権を主張して平成15年1月30日にされた特許出願(特願2003-022020号。以下「本件出願」という。)につき、拒絶をすべき旨の査定が平成17年4月6日付け(発送日:同月12日)でされたところ、これに対して、同年5月12日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年6月9日付けで明細書を補正対象とする手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「平成17年6月9日付け補正」といい、また「本件補正」ともいう。)が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成17年6月9日付け補正を却下する。

2 補正の却下の決定の理由
(1) 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を次のように補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 複数の電気光学素子を備え、前記複数の電気光学素子に供給される駆動電圧または駆動電流に応じて輝度が設定される電気光学装置であって、
フレーム同期信号をカウントすることにより前記電気光学素子の累積点灯時間を計測する点灯時間計測部と、
前記点灯時間計測部で計測された累積点灯時間を記憶する点灯時間記憶部と、
前記点灯時間記憶部に記憶された前記累積点灯時間に基づき参照信号を生成する調整部と、
前記参照信号に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正し、補正した該駆動電圧または駆動電流を前記複数の電気光学素子に出力するドライバ部と、
を備えることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】 複数の走査線と、複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配設された電気光学素子と、データ信号に基づき前記複数の信号線を介して前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバと、を備えた電気光学装置であって、
前記データ信号の値を計測するデータ信号計測部と、
前記データ信号計測部で計測された前記データ信号の値を累積記憶するデータ信号記憶部と、
前記データ信号記憶部に累積記憶された前記データ信号の値に基づき前記ドライバから出力される前記駆動電圧または駆動電流を補正するための参照信号を生成する調整部と、
を備えることを特徴とする電気光学装置。
【請求項3】 請求項2に記載の電気光学装置において、
前記電気光学素子としてR、G、B(赤、緑、青)の3種類の電気光学素子が設けられ、
前記データ信号計測部は前記3種類の電気光学素子の輝度に対応するデータ信号の値を種類毎に計測し、
前記データ信号記憶部は前記データ信号計測部で計測された前記3種類の電気光学素子の輝度に対応する当該データ信号の値を種類毎に累積記憶し、
前記調整部は前記データ信号記憶部に累積記憶された前記3種類の電気光学素子の各々の種類に対して累積記憶された当該データ信号の値に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正するための参照信号を生成すること、
を特徴とする電気光学装置。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載の電気光学装置が実装されてなる電子機器。
【請求項5】 電気光学素子を備えた電気光学装置の駆動方法であって、
フレーム同期信号をカウントすることにより前記電気光学素子の累積点灯時間を計測し、
計測された前記累積点灯時間を記憶し、
記憶された前記累積点灯時間に基づき参照信号を生成し、
前記参照信号に基づき前記電気光学素子に供給する駆動電圧または駆動電流を補正する、
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。
【請求項6】 複数の走査線と、複数の信号線と、前記走査線と各前記信号線との各交差部に対応してそれぞれ配設された電気光学素子と、画像データに基づき前記複数の信号線を介して前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバと、を備えた電気光学装置の駆動方法であって、
前記画像データの値を計測し、
計測された前記画像データの値を累積記憶し、
累積記憶された前記画像データの値に基づき参照信号を生成し、
前記参照信号に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正する、
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。
【請求項7】 請求項6に記載の電気光学装置の駆動方法であって、
R、G、B(赤、緑、青)の三色別に前記画像データの値を計測し、
計測された前記R、G、B別の前記画像データの値を累積記憶し、
累積記憶された前記各R、G、Bの前記画像データの値に基づき参照信号を生成し、
前記参照信号に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正する、
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 複数の走査線と、複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配設された電気光学素子と、デジタル/アナログ変換回路および定電流駆動回路により構成され、データ信号に基づき前記複数の信号線を介して前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバと、を備えた電気光学装置であって、
前記データ信号の値を計測するデータ信号計測部と、
前記データ信号計測部で計測された前記データ信号の値を累積記憶するデータ信号記憶部と、
前記データ信号記憶部に累積記憶された前記データ信号の値に基づき前記デジタル/アナログ変換回路の基準電圧となる参照信号を調整する調整部と、
を備えることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】 請求項1に記載の電気光学装置において、
前記電気光学素子としてR、G、B(赤、緑、青)の3種類の電気光学素子が設けられ、
前記データ信号計測部は前記3種類の電気光学素子の輝度に対応するデータ信号の値を種類毎に計測し、
前記データ信号記憶部は前記データ信号計測部で計測された前記3種類の電気光学素子の輝度に対応する当該データ信号の値を種類毎に累積記憶し、
前記調整部は前記データ信号記憶部に累積記憶された前記3種類の電気光学素子の各々の種類に対して累積記憶された当該データ信号の値に基づき前記参照信号を調整すること、
を特徴とする電気光学装置。
【請求項3】 複数の走査線と、複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配設された電気光学素子と、デジタル/アナログ変換回路および定電流駆動回路により構成され、データ信号に基づき前記複数の信号線を介して前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバと、を備えた電気光学装置であって、
前記データ信号の値を計測するデータ信号計測部と、
前記データ信号計測部で計測された前記データ信号の値を累積記憶するデータ信号記憶部と、
前記データ信号記憶部に累積記憶された前記データ信号の値に基づき前記電気光学素子に印加される電源電圧を調整する調整回路と、
を備えることを特徴とする電気光学装置。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載の電気光学装置が実装されてなる電子機器。
【請求項5】 複数の走査線と、複数の信号線と、前記走査線と各前記信号線との各交差部に対応してそれぞれ配設された電気光学素子と、デジタル/アナログ変換回路および定電流駆動回路により構成され、画像データに基づき前記複数の信号線を介して前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバと、を備えた電気光学装置の駆動方法であって、
前記画像データの値を計測し、
計測された前記画像データの値を累積記憶し、
累積記憶された前記画像データの値に基づき前記デジタル/アナログ変換回路の基準電圧となる参照信号を調整し、
前記参照信号に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正する、
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。
【請求項6】 請求項5に記載の電気光学装置の駆動方法であって、
R、G、B(赤、緑、青)の三色別に前記画像データの値を計測し、
計測された前記R、G、B別の前記画像データの値を累積記憶し、
累積記憶された前記各R、G、Bの前記画像データの値に基づき前記参照信号を調整し、
前記参照信号に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正する、
ことを特徴とする電気光学装置の駆動方法。」

(2) 本件補正についての判断
本件補正後の請求項1及び3は、ともに本件補正前の請求項1,3-7とは対応していないから、本件補正後の請求項1及び3についての補正は、本件補正前の請求項2についてなされたものであると認められる。
そこで、当該補正について検討するに、「構成要件が択一的なものとして記載された一つの請求項について,その択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合のように,補正前の請求項が実質的に複数の請求項を含むものであるときに,これを補正に際し独立の請求項とすることにより,請求項の数が増加することになるとしても,それは,実質的に新たな請求項を追加するものとはいえず,実質的には一対一の対応関係にあるということができるから,このような補正まで否定されるものではない」(知財高裁判決、平成17(行ケ)第10192号。)として、本件補正前の請求項2に「前記駆動電圧または駆動電流」と記載された択一的な構成要件をそれぞれ限定して、これらを独立の請求項とすることにより、本件補正後の請求項1および3とする補正が許容されるものであったとしても、本件補正後の請求項3についての補正は、さらに、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項である「前記ドライバから出力される前記駆動電圧を補正するための参照信号を生成する調整部」を、「前記電気光学素子に印加される電源電圧を調整する調整回路」と補正するものであるから、この点について検討する。
本件補正前の明細書及び図面の記載によると、本件補正前の請求項2には、「前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバ」及び「前記ドライバから出力される前記駆動電圧または駆動電流を補正するための参照信号を生成する調整部」との記載があり、発明の詳細な説明には、「また、ドライバ50は、電流駆動回路、あるいは、電圧駆動回路のいずれでも構成できる。」(段落【0023】)との記載がある。また、発明の詳細な説明には、「駆動電圧」に関して、「これまで説明した実施例1乃至3において、輝度を調整すべく、ドライバへに含まれるDACの供給する参照電圧Vrefを調整しているが、これはあくまで一例であって、有機EL素子に印加する電源電圧の調整や、データの加工をする等、適宜、設計変更が可能である。例えば、図10に示すように駆動電圧Voelを累積点灯時間aに応じて設定するようにしてもよい。この場合、駆動電圧制御回路70のセレクタ70bにセレクト信号cが入力され、出力補正テーブル70aを参照して、DAC機能を含む電源回路70cへ信号dを出力する。信号dに基づいて駆動電圧Voelが設定され、駆動電圧Voelが電源回路70cから有機ELパネル60に出力される。」との記載があり(段落【0039】)、図面の図10では、駆動電圧Voelはドライバ50からではなく、駆動電圧制御回路70から有機ELパネルに出力されるように描かれている。
そうすると、本件補正前の請求項2に記載の「駆動電圧」は、ドライバから出力されるものであることが明確に規定されていたのであるから、発明の詳細な説明の上記段落【0023】の記載における「電圧駆動回路」で構成した場合に対応していたことが明らかであり、上記段落【0039】において、「駆動電圧」という同じ用語が用いられていたとしても、段落【0039】におけるドライバ以外の構成要素である駆動電圧制御回路70から出力される「駆動電圧」が含まれないことが明らかであったところ、本件補正において、調整部または調整回路の調整対象である「ドライバから出力される駆動電圧」を「電気光学素子に印加される電源電圧」と変更する補正は、「ドライバから出力される駆動電圧」をドライバから出力されない「電源電圧」に実質的に変更するものであるから、本件補正後の請求項3についての補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものであるとは認められない。
また、本件補正前の請求項2の「ドライバから出力される駆動電圧」は、発明の詳細な説明の段落【0023】に対応するものが記載されていたのであり、「電気光学素子に印加される電源電圧」の誤記であったと認めるべき理由はないから、特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正にも該当しない。
さらに、当該補正は、同法第17条の2第4項第1号の請求項の削除又は同項第4項の明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるとも認められない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げる何れの事項を目的とするものではない補正を含むのであるから、同項の規定に適合するものであるとはいえない。

3 本件補正についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成17年6月9日付け補正は上記のとおり却下したので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成16年6月17日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1及び2に係る発明(以下、請求項の番号に対応して「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】 複数の電気光学素子を備え、前記複数の電気光学素子に供給される駆動電圧または駆動電流に応じて輝度が設定される電気光学装置であって、
フレーム同期信号をカウントすることにより前記電気光学素子の累積点灯時間を計測する点灯時間計測部と、
前記点灯時間計測部で計測された累積点灯時間を記憶する点灯時間記憶部と、
前記点灯時間記憶部に記憶された前記累積点灯時間に基づき参照信号を生成する調整部と、
前記参照信号に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正し、補正した該駆動電圧または駆動電流を前記複数の電気光学素子に出力するドライバ部と、
を備えることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】 複数の走査線と、複数の信号線と、前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配設された電気光学素子と、データ信号に基づき前記複数の信号線を介して前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバと、を備えた電気光学装置であって、
前記データ信号の値を計測するデータ信号計測部と、
前記データ信号計測部で計測された前記データ信号の値を累積記憶するデータ信号記憶部と、
前記データ信号記憶部に累積記憶された前記データ信号の値に基づき前記ドライバから出力される前記駆動電圧または駆動電流を補正するための参照信号を生成する調整部と、
を備えることを特徴とする電気光学装置。」

第4 引用例
1 引用例1
原査定の拒絶の理由である、平成16年4月14日付け拒絶理由通知書に記載の理由1において引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-109918号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

「【0013】【発明の実施の形態】図1は本発明による有機ELディスプレイ装置の素子構成を示す部分拡大断面図である。
【0014】まず、図1に基いて有機ELディスプレイ装置の素子構成を説明する。有機ELディスプレイ装置は、矩形状の素子基板1を基部としている。素子基板1は、絶縁性および透光性を有するガラス基板で構成される。素子基板1の一方の面には、所定パターン形状の陽極2が形成されている。
【0015】陽極2は、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の仕事関数の大きい導電性材料による透明電極で形成される。陽極2の一部は、素子基板1の端部まで引き出されて電源に接続されている。
【0016】陽極2の表面には、表示部としての有機層3が積層形成されている。図1の例では、素子基板1側から正孔輸送層3a、発光層3b、電子輸送層3cの順に積層された3層構造で構成される。・・・
【0020】電子輸送層3cの表面には、陰極4が積層形成されている。陰極4は、例えばAl、Li、Mg、Ag、In等の単体金属やMg:Ag、Al:Li等の合金で形成される。陰極4は、その一部が素子基板1の端部まで引き出されて電源に接続されている。・・・
【0022】このように、上述した陽極2、有機層3、陰極4の積層構造により素子基板1上に所定パタン形状(例えば複数ドットによるマトリクス形状)の有機EL素子5が形成される。・・・
【0024】上記構成の有機ELディスプレイ装置では、陽極2と陰極4との間に所定の電圧が印加されると、有機層3における発光層3bに対し、陽極2より正孔輸送層3aを介して正孔が注入され、陰極4より電子輸送層3cを介して電子が注入される。そして、正孔と電子を再結合させることにより励起子を生成させる。この励起子が失活する際の光の放出により所望の表示がなされる。このときの発光は素子基板1側から観測される。
【0025】図2は上記構成の有機ELディスプレイ装置における輝度補正手段の第1実施の形態を示すブロック図である。
【0026】第1実施の形態の輝度補正手段11は、特定の構造、材料を使用した有機ELディスプレイ装置では、投入する電流密度で寿命特性が概略推定できることに着目し、動作中の点灯時間をカウントし、このカウントした点灯時間に応じ、図4に示す既知の寿命特性曲線(輝度低下曲線)に対応させて表示部の輝度を補正している。
【0027】図2に示すように、第1実施の形態の輝度補正手段11は、駆動信号発生手段12、駆動信号検出手段13、設定手段14、データ記憶手段15、演算用データ記憶手段16、演算制御手段17、制御信号出力手段18、駆動手段19を備えて概略構成される。
【0028】駆動信号発生手段12は、表示部3が1画面を表示する毎に、所定のデューティ(例えば周波数60Hzであれば、1/60秒)のページ切換信号を発生している。
【0029】駆動信号検出手段13は、駆動信号発生手段12が発生すページ切換信号のデューティを1/60秒とすると、1分を計測する為には12ビットのカウンターで構成出来る。駆動信号検出手段13としてのカウンターは、駆動信号発生手段12が発生するページ切換信号をカウントしており、ページ切換信号が入力される毎に、そのカウント値が1ずつインクリメントされる。また、カウンターの値は電源がオフしたときにリセットされる。
【0030】設定手段14は、例えばボリウム、ディップスイッチ等で構成され、希望する発光輝度の設定値をアナログ値又はデジタル値で設定している。なお、発光輝度の設定値がアナログ値で設定される場合には、A/D変換回路を介してデジタル値に変換された後、演算制御手段17に入力される。これに対し、発光輝度の設定値がデジタル値で設定される場合には、そのデジタル値が演算制御手段17に入力される。
【0031】データ記憶手段15には、駆動信号検出手段13から得られる桁上がり、又はカウンターマッチの回数が常時更新記憶される。更に説明すると、データ記憶手段15は、現在のカウンター値を保持しており、この現在のカウンター値に、次回(電源オフ後の再投入時)の発光開始後に駆動信号検出手段13から入力されるカウンター値が累積できるように、例えば電池等のパックアップ機能を持つメモリ(RAM)、EEPROM、フラッシュメモリ等で構成される。
【0032】演算用データ記憶手段16は、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ等で構成される。この演算用データ記憶手段16には、表示部3の輝度を一定値に補正するために必要な駆動電圧又は駆動電流を得るための演算プログラムやデータ(例えば図4に示す電流量に応じた寿命特性のデータ、その近似式)等が予め記憶されている。
【0033】演算制御手段17は、表示部3の輝度が設定手段14で設定した設定値となるように、データ記憶手段15に記憶されたカウンター値から得られる表示部3の点灯時間と、演算用データ記憶手段16に記憶されたデータとに基いて表示部3の輝度の補正量(補正駆動電圧又は補正駆動電流)を演算している。
【0034】例えば有機EL素子5を5mA/cm^(2)で駆動している場合、輝度の設定値が100%で、カウンター値から得られる表示部3の点灯時間が200時間とすると、演算用データ記憶手段16に記憶された図4の寿命特性のデータから実際の輝度が95%と判断される。そして、輝度95%を100%にするために必要な陽極2の駆動電圧(又は駆動電流)が補正量として演算され設定される。
【0035】制御信号出力手段18は、例えばD/A変換回路で構成され、演算制御手段17で演算された補正量に応じた制御信号を駆動手段19に出力している。
【0036】駆動手段19は、制御信号出力手段18により出力制御可能なボリウム構造を有しており、制御信号出力手段18からの制御信号に応じて陽極2の駆動電圧又は駆動電流を可変している。
【0037】上記構成による輝度補正手段11では、表示部3が1画面を表示する毎に発生するページ切換信号をカウントし、このカウンター値から点灯時間が得られ、この点灯時間に応じて、表示部3の輝度が設定値(例えば100%(初期輝度))となるように陽極2の駆動電圧又は駆動電流が可変制御される。これにより、表示部3の輝度が設定値に補正される。
【0038】なお、上記輝度補正手段11において、設定手段14を省き、希望する表示部3の輝度のデータを演算用データ記憶手段17に予め記憶しておき、表示部3がこの記憶されたデータの輝度になるように陽極2の駆動電圧又は駆動電流を可変制御する構成としてもよい。」

上記摘記事項によると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「複数ドットによるマトリクス形状の有機EL素子5を備え、陽極2の駆動電圧または駆動電流を可変制御することにより輝度が設定される有機ELディスプレイ装置であって、
駆動信号発生手段12が発生するページ切換信号をカウントする駆動信号検出手段13と、
現在のカウンター値に、駆動信号検出手段13から入力されるカウンター値を累積して更新記憶するデータ記憶手段15と、
データ記憶手段15に記憶されたカウンター値から得られる表示部3の点灯時間に基づき、表示部3の輝度の補正量であるを演算する演算制御手段17と、
演算制御手段17で演算された補正量に応じた制御信号を駆動手段19に出力する制御信号出力手段18と、
前記制御信号に応じて陽極2の駆動電圧又は駆動電流を可変する駆動手段19を備える有機ELディスプレイ装置。」

2 引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-6796号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、カラーモニタ装置等の表示装置に関し、特に表示色の経年変化を補償する技術に関するものである。
【0002】【従来の技術】CRT(陰極線管)、PDP(プラズマ表示体)、LCD(液晶表示体)、ELD(エレクトロルミネッセンス表示体)、FED(フィールドエミッション表示体)等を利用したカラーモニタ装置等の表示装置では、その長時間の使用によりR,G,Bの蛍光体が劣化して表示すべき輝度が低下し、色の濃度が濃くなる。また、それらの蛍光体の劣化特性は個々のR(赤)蛍光体、G(緑)蛍光体、B(青)蛍光体ごとに異なる。
【0003】【発明が解決しようとする課題】したがって、表示装置をその製品出荷時に所定の色温度(白バランス)や肌色に調整しておいても、長期間にわたる使用により各色の輝度低下がばらばらに発生し、色温度(白バランス)や肌色が変化して画質が劣化する。
【0004】本発明の目的は、蛍光体の劣化に応じて色信号に補正を加えるようにして上記した問題を解決した表示装置を提供することである。
【0005】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための第1の発明は、色信号R,G,Bによる表示体での表示率の時間積分値を得る手段と、該時間積分値及び前記表示体の予め得ておいたR,G,Bの蛍光体の経時劣化特性に応じて輝度と色温度が所定値となる補正信号を生成する手段と、該補正信号により輝度と色温度を補正する手段とを具備するよう構成した。」

(2) 「【0012】【発明の実施の形態】[第1の実施の形態]図1は本発明の第1の実施の形態の表示装置のブロック図である。1R,1G,1Bは色信号R,G,Bの表示率(0.0?1.0)、つまりレベルを検出する表示率監視部、2は色信号R,G,Bの輝度レベルとそのバランスを調整する白バランス調整部、3はR,G,Bの蛍光体を有するPDP等の表示体である。4は全体を制御する制御部(MPU)であり、表示率監視部1R,1G,1Bに定期的に表示率を読みに行ったり、白バランス調整部2の白バランスを定期的又は任意時刻に調整したりする他に、各種の処理を行う。またこの制御部4には、時間信号を発生するタイマ部5、時間積分値をカウントするカウンタ部6、プログラムやデータ格納用等のメモリ部7が付随している。8は操作部である。
【0013】ここでは、制御部4において、表示率監視部1R,1G,1Bで得られる表示率を定期的に取り込み、表示率時間積分値Σr,Σg,Σbを得てメモリ部7に格納し、その内容は定期的に更新する。そして、表示体3のR,G,Bの蛍光体についてその経時劣化特性Hr,Hg,Hbを予め求めておいて、その経時劣化特性Hr,Hg,Hbと表示率時間積分値Σr,Σg,Σbから、輝度と色温度が所定値となる色信号R,G,Bレベルの補正値を求め、これを白バランス調整部2に入力して色信号R,G,Bのレベルを補正し、輝度と色温度(白バランス)が所定値となるように制御する。
【0014】この所定の輝度と色温度(白バランス)を実現するための補正値を得る手法は、表示体3のR,G,Bの蛍光体の経時劣化特性が線形特性である場合は、R,G,Bの表示率時間積算値Σr,Σg,Σbと各々の経時劣化特性Hr,Hg,Hbから補正式
Ar=f(Σr,Hr)
Ag=f(Σg,Hg)
Ab=f(Σb,Hb)
を作成し、これを演算することで色信号R,G,Bの補正値Ar,Ag,Abを得ることができる。
【0015】しかし、非線形特性の場合は、表示率時間積分値Σrの各値に対応する色信号R補正値Ar,表示率時間積分値Σgの各値に対応する色信号R補正値Ag、表示率時間積分値Σbの各値に対応する色信号R補正値Abを実験等により予めデータテーブルとして作成しておいて、各表示率時間積分値に応じてLUT方式により読み出すようにする。
【0016】次に、線形制御できる場合の具体例を説明する。この場合は、色信号R,G,Bについて、所定時間(例えばほぼ寿命時間)使用したとき最も劣化する蛍光体の当該劣化時の蛍光体輝度を基準として、R,G,Bの各蛍光体の輝度と色温度が所定値となるように最初から色信号R,G,Bに補正を加えておき、表示率時間積分値の増大に応じてその補正量を弱めるように制御する。
【0017】図2はR,G,Bの蛍光体が線形性をもつ場合の経時劣化特性図である。横軸は使用期間(表示率を1とした表示率時間積分値)、縦軸は当該蛍光体が発揮できるピーク輝度である。ピーク輝度は最大値(初期のピーク輝度)を100%とするよう正規化されている。ここでは、10年間につき一定の輝度と一定の色温度を保持させる場合の補正について説明する。
【0018】図2に示すように、R蛍光体とG蛍光体は同じ経時劣化特性を持っているが、B蛍光体はそれらより劣化係数の大きな経時劣化特性をもっている。そこで、B蛍光体の特性を基準に補正を行う。まず、使用開始時に、色信号R,G,Bの各信号レベルを最大値の60%に落とすことにより、B蛍光体の10年後の劣化輝度である60%にまで、それらR,G,Bの各蛍光体のピーク輝度を落とす。なお、このとき、白バランスがとられているものとする。
【0019】そして、x年経過時の補正は次のようにする。R,Gの蛍光体の輝度の劣化は1年で2%であるのでx年で2x%となり、x年の時点のピーク輝度は「100-2x」%に低下する。また、Bの蛍光体の輝度の劣化は1年で4%であるのでx年で4x%となり、x年の時点のピーク輝度は「100-4x」%に低下する。よって、補正に当たっては、x年経過時でR,Gの信号レベルLr、Lg、Bの信号レベルLbを、
Lr=Lg=60/(100-2x)%
Lb=60/(100-4x)%
に上げる補正を行う。
【0020】例えば、5年経過時では、
Lr=Lg=60/(100-10)=60/90=66.7%
Lb=60/(100-20)=60/80=75%
となる。この結果、R,G,Bの輝度BLr、BLg、BLbは、
BLr、BLg=66.7%×90%=60%
BLb=75%×80%=60%
となり、使用開始時の輝度と同じとなる。よって色温度(白バランス)も同じとなる。
【0021】10年経過時の補正については、
Lr=Lg=60/80=75%
Lb=60/60=100%
に上げる。この結果、R,G,Bの輝度BLr、BLg、BLbは、
BLr、BLg=75%×80%=60%
BLb=100%×60%=60%
となり、使用開始時の輝度と同じとなる。
【0022】このように、使用開始時に最も経年劣化の大きな蛍光体の所定劣化輝度にR,G,Bの全部の輝度を合わせておいて、表示率時間積分値の増大と経年劣化特性に応じて定期的に色信号R,G,Bのレベルを上げる補正を行うことにより、R,G,Bの各蛍光体において常に同じ輝度を得ることができ色温度も同じにすることができる。」

(3) 「【0026】[その他の実施形態]なお、前記の表示率時間積分値は、表示装置の動作時間積分値(動作時間累積値)とすることもできる。この場合は表示率を勘案しないので精度は低いが簡素なシステムとなる。また、補正値の更新時期は上記したように定期的自動的に行う他に、使用者が任意のタイミングで更新するようにしても良い。」

上記摘記事項(1)ないし(3)によると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

<引用発明2>
「R,G,Bの蛍光体を備えるPDP(プラズマ表示体)、ELD(エレクトロルミネッセンス表示体)等を利用した表示装置であって、
色信号R,G,Bのレベルを検出する表示率監視部1R,1G,1Bと、
前記レベルの時間積分値を得てメモリ部7に格納するとともに、前記レベルの時間積分値から、色信号R,G,Bのレベルの補正値を求めて出力する制御部4と、
前記補正値を入力して色信号R,G,Bのレベルを補正する白バランス調整部2と、
補正した色信号R,G,Bにより駆動される表示体3とを備える表示装置。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「複数ドットによるマトリクス形状の有機EL素子5」及び「陽極2の駆動電圧または駆動電流を可変制御することにより輝度が設定される有機ELディスプレイ装置」は、それぞれ、本願発明1の「複数の電気光学素子」及び「前記複数の電気光学素子に供給される駆動電圧または駆動電流に応じて輝度が設定される電気光学装置」に相当する。
引用発明1の「ページ切換信号」は、本願発明1の「フレーム同期信号」に相当し、引用発明1の「駆動信号検出手段13」及び「データ記憶手段15」は、ページ切換信号をカウントして、そのカウンター値を累積して記憶するものであるから、引用発明1において累積されたカウンター値は、本願発明1「累積点灯時間」に相当し、引用発明1の「駆動信号検出手段13」及び「データ記憶手段15」は、本願発明1の「累積点灯時間計測部」に相当し、引用発明1の「データ記憶手段15」はまた、本願発明1の「点灯時間記憶部」に相当する。
引用発明1の「演算制御手段17で演算された補正量に応じた制御信号」は、本願発明1の「参照信号」に相当し、引用発明1の「演算制御手段17」及び「制御信号出力手段18」は、本願発明1の「調整部」に相当する。
引用発明1の「補正量」は、例えば、引用例1の段落【0033】の記載によると、図4の寿命特性のデータから実際の輝度が95%と判断されたときに、輝度95%を100%にするために必要な陽極2の駆動電圧(又は駆動電流)が補正量として演算されるものであるから、引用発明1において、このような補正量に応じた制御信号により陽極2の駆動電圧又は駆動電流を可変することは、本願発明1の「前記参照信号に基づき前記駆動電圧または駆動電流を補正」することに相当し、引用発明1において、可変した駆動電圧又は駆動電流を陽極2に出力することは、本願発明1の「補正した該駆動電圧または駆動電流を前記複数の電気光学素子に出力する」ことに相当し、引用発明1の「駆動手段19」は、本願発明1の「ドライバ部」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明1とに相違点はなく、本願発明1は、引用例1に記載された発明である。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し特許を受けることができない。
なお、原査定では、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしているのに対し、本願発明1についての上記判断では、条項の異なる特許法第29条第1項第3号が適用されることとなるが、拒絶をすべき根拠となる刊行物は、原査定の拒絶の理由である、平成16年4月14日付け拒絶理由通知書に記載の理由1において引用された刊行物と同一であり、また、特許法第29条第2項の検討に際しては、まず同条第1項についても検討するのであるから、請求人には既に同条第1項について検討する十分な機会が与えられており、改めて意見書を提出する機会を与える必要を認めない。

2 本願発明2について
本願発明2と引用発明2とを対比する。
引用発明2における「R,G,Bの蛍光体」は、本願発明2の「電気光学素子」に相当し、引用発明2の「色信号R,G,B」は、本願発明2の「データ信号」に相当し、引用発明2の「表示体3」は、当然に表示体3を駆動するための構成要素を有するのであるから、前記「表示体3」には、本願発明2の「前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバ」に相当するものが存在する。
引用発明2の「色信号R,G,Bのレベルを検出する表示率監視部1R,1G,1B」と、本願発明2の「前記データ信号の値を計測するデータ信号計測部」とは、「データ信号の大きさを計測するデータ信号計測部」である点で共通する。
引用発明2の「前記レベルの時間積分値を格納するメモリ部7」と、本願発明2の「前記データ信号の値を累積記憶するデータ信号記憶部」とは、「データ信号の大きさを累積記憶するデータ信号記憶部」である点で共通する。
引用発明2は、色信号R,G,Bレベルの補正値で色信号R,G,Bのレベルを補正することにより、輝度レベルの調整が行われるものであり、「表示体3」を駆動する駆動電圧または駆動電流についても、色信号R,G,Bのレベルの補正量に応じて補正されるから、引用発明2の「色信号R,G,Bレベルの補正値」は、本願発明2の「前記ドライバから出力される前記駆動電圧または駆動電流を補正するための参照信号」に相当し、引用発明2の「制御部4」が、本願発明2の「調整部」に相当する。
そうすると、本願発明2と引用発明2とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。

<一致点>
「電気光学素子と、データ信号に基づき前記電気光学素子に駆動電圧または駆動電流を供給するドライバと、を備えた電気光学装置であって、
前記データ信号の大きさを計測するデータ信号計測部と、
前記データ信号計測部で計測された前記データ信号の大きさを累積記憶するデータ信号記憶部と、
前記データ信号記憶部に累積記憶された前記データ信号の大きさに基づき前記ドライバから出力される前記駆動電圧または駆動電流を補正するための参照信号を生成する調整部と、
を備えることを特徴とする電気光学装置。」

<相違点1>
本願発明2の電気光学装置が、「複数の走査線と、複数の信号線と」を備えるものであり、電気光学素子が、「前記複数の走査線と前記複数の信号線との交差部に対応して配設された」ものであり、電気光学素子への駆動電圧または駆動電圧が、「前記複数の信号線を介して」供給されるのに対し、引用発明2には、そのような記載がない点。

<相違点2>
本願発明2が、データ信号の値を計測し、データ信号の値を累積記憶するのに対し、引用発明2は、色信号R,G,Bのレベルを検出し、色信号R,G,Bのレベルを累積記憶する点。

上記相違点1,2について検討する。
(1) 相違点1について
「複数の走査線と、複数の信号線と」を備え、「複数の走査線と複数の信号線との交差部に対応して」電気光学素子を配設し、「複数の信号線を介して」電気光学素子に駆動電圧または駆動電圧を供給する電気光学装置の構成は、例えば、特開2000-91083号公報、特開平11-161218号公報及び特開2001-296830号公報に記載されるように、従来周知である。
引用発明2の表示体3についても、上記周知の構成を採用して、相違点1のごとく構成することに格別の困難はない。

(2) 相違点2について
引用発明2は、「色信号R,G,Bのレベル」を検出して時間積分し、当該積分値と蛍光体の経時劣化特性とを対応付けるものであって、色信号の大きさを累積して、累積した値と蛍光体の劣化とを対応付けるものであるということができる。そして、累積した色信号の大きさが大きければ蛍光体の劣化が早くなり、累積した色信号の大きさが小さければ蛍光体の劣化は遅くなることは、当業者の技術常識であるといえるから、最終的に蛍光体の劣化との対応がなされていれば、色信号の大きさをどのように検出し累積記憶するかは、当業者が任意に選択できる事項である。
そうすると、引用発明2において「色信号R,G,Bのレベル」を検出することに代えて、「データ信号の値」を直接計測して累積記憶することにより、上記相違点2に係る構成とすることは当業者が適宜になし得ることである。

そして、本願発明2の奏する効果も、引用例2に記載の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が予測可能な範囲内のものである。
したがって、本願発明2は、引用例2に記載の発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
それゆえに、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができない。

なお、たとえ、本願発明2における「参照信号」が、本件補正後の請求項1に記載されるような「デジタル/アナログ変換回路の基準電圧となる参照信号」であったとしても、入力するデータ信号をデジタルとするか、アナログとするかは当業者であれば任意に選択できる事項であり、入力する信号をデジタルとしたときに、デジタル/アナログ変換回路の基準電圧を変更することにより輝度の調整を行う技術は、例えば、特開2000-56730号公報(段落【0106】-【0107】等を参照。)に記載されるごとく従来周知であるから、引用発明2に当該周知技術を適用して、デジタル/アナログ変換回路の基準電圧を変更することにより表示体3を駆動する信号のレベルを調節することにも格別の困難はない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し特許を受けることができないものであり、また、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである。
そして、請求項1及び請求項2に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-13 
結審通知日 2007-12-18 
審決日 2008-01-08 
出願番号 特願2003-22020(P2003-22020)
審決分類 P 1 8・ 573- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 572- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 直明  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 山下 雅人
堀部 修平
発明の名称 電気光学装置、その駆動方法、及び電子機器  
代理人 須澤 修  
代理人 藤綱 英吉  
代理人 上柳 雅誉  

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