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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1173581
審判番号 不服2005-11683  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-22 
確定日 2008-02-21 
事件の表示 平成 9年特許願第312122号「インクジェット式記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月25日出願公開、特開平11-138853〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年11月13日の出願であって、平成17年5月19日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正の却下の決定
[本件補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正事項
本件補正は、以下の補正事項を含んでいる。
特許請求の範囲の記載を、補正前の
「【請求項1】 印刷領域外に配置されてインクジェット式記録ヘッドからのインクの空吐出を受けると共に記録ヘッドを封止する機能を備えるキャッピング装置と、前記キャッピング装置と反対側の印刷領域外に配置されて記録ヘッドからのインクの空吐出を受けるインク受け部と、記録ヘッドが前記キャッピング装置から連続して開放されている時間を計測する第1の計時手段と、記録ヘッドが前記キャッピング装置から開放されている時間の累積を計測する第2の計時手段と、記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、記録ヘッドが印字動作終了前の印字工程で前記キャッピング装置側から印字を行ったか前記インク受け部側から印字を行ったかを監視する印字方向監視手段と、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記第1、第2の計時手段により計測された時間及び記録ヘッドの印字動作終了前の印字工程における印字方向を判断し、前記第1計時手段あるいは前記第2の計時手段のいずれかの所定時間が経過し、かつ印字動作終了前の印字工程で前記キャッピング装置側から印字を行ったと判断した場合にはその検出信号を送出する空吐出制御手段と、前記空吐出制御手段からの検出信号を受けて記録ヘッドを前記インク受け部に移動させるキャリッジ制御手段と、前記空吐出制御手段から信号を受けて記録ヘッドに対して空吐出信号を出力する空吐出信号出力手段とを備え、
前記空吐出制御手段が、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記第1、第2の計時手段のいずれかにより計測された時間が所定時間を越え、かつ印字動作終了前の印字工程で前記インク受け部側から前記キャッピング装置に向けて印字を行ったものと判断した場合には、その検出信号を前記キャリッジ制御手段及び前記空吐出信号出力手段に送出することなく、次のパスの印字動作を行い、そのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に前記空吐出制御手段からその検出信号を送出し、前記インク受け部でインクの空吐出を行うように構成されていることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項2】 印刷工程を監視し、全印刷デ-タの印字終了を検出する印刷工程監視手段と、印字動作開始から印字動作終了までの時間を計測する第3計時手段と、前記第3計時手段の時間長さに応じて増加するようになされたインクの空吐出デ-タを記憶する空吐出デ-タ記憶手段とを備え、
前記空吐出制御手段は、前記全印刷デ-タの印字終了信号を印刷工程監視手段から受けて、第3計時手段の時間長さに応じたインクの空吐出デ-タを空吐出デ-タ記憶手段から読み出し、前記空吐出駆動信号出力手段に送出すると共に、前記キャリッジ制御手段に記録ヘッドを前記キャッピング装置に移動させる制御信号を送出し、前記キャッピング装置内にインクの空吐出を行うようなされていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項3】 印刷工程を監視し、全印刷データの印字終了を検出する印刷工程監視手段と、記録ヘッドがキャッピング装置から連続して開放されている時間を計測すると共に印字動作開始から印字終了までの時間を計測する第1計時手段と、記録ヘッドがキャッピング装置から開放されている時間の累積を計測する第2計時手段と、前記第1計時手段の時間長さに応じて増加するようになされたインク空吐出データの空吐出データ記憶装置を備え、
空吐出制御手段は、前記全印刷データの印字終了信号が検出される前は前記第1の計時手段により計測された時間には関係なく、前記第2計時手段によって計測された時間により空吐出を行うかどうかを判断し、所定時間を経過している場合に空吐出を行う一方、前記全印刷データの印字終了信号が検出された場合は、前記第1の計時手段の時間長さに応じたインク空吐出データを空吐出データ記憶手段から読み出し、前記空吐出駆動信号出力手段に送出すると共に、前記キャリッジ制御手段に記録ヘッドを前記キャッピング装置に移動させる制御信号を送出し、前記キャッピング装置内にインクの空吐出を行うようなされていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項4】 記録ヘッドが前記キャッピング装置から開放されている時間の累積を計測する第2の計時手段に設定されている所定時間は、記録ヘッドが前記キャッピング装置から連続して開放されている時間を計測する第1の計時手段に設定されている所定時間と同じであることを特徴とする請求項2記載のインクジェット式記録装置。
【請求項5】 印字動作開始から印字動作終了までの時間が、所定時間に至る間は、時間長さに比例したインク滴数を空吐出する共に、所定時間以上は、最大滴数を吐出するように構成されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載のインクジェット式記録装置。
【請求項6】 印刷される記録用紙が規定内の大きさであるかを監視する用紙サイズ監視手段とを備え、
前記空吐出制御手段は、前記用紙サイズ監視手段から記録用紙が規定外の大きさである検出信号を受けた場合には、インクの空吐出を行う信号をキャリッジ制御手段及び空吐出信号出力手段に送出しないように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインクジェット式記録装置。
【請求項7】 印刷される記録用紙が規定内の大きさであるかを監視する用紙サイズ監視手段と、記録用紙の給紙、排紙工程を監視する給排紙工程検出手段とを備え、
前記空吐出制御手段は、1頁の印字が終了後、給排紙工程検出手段から排紙動作終了の検出信号を受けて、インクの空吐出を行う信号をキャリッジ制御手段及び空吐出信号出力手段に送出し、インク受け部においてインクの空吐出を行うように構成されていることを特徴とする請求項6記載のインクジェット式記録装置。
【請求項8】 前記空吐出制御手段は、複数の記録ヘッドのうち少なくとも1つの記録ヘッドからの吐出、あるいは複数のノズル列を有する記録ヘッドのうち少なくとも1つのノズル列からの吐出を保留させ、保留した以外の記録ヘッドあるいはノズル列は、インクの空吐出を行う信号をキャリッジ制御手段に送出し、インク受け部においてインクの空吐出を行うように構成されていることを特徴とする請求項6または請求項7記載のインクジェット式記録装置。
【請求項9】 前記空吐出制御手段によって、空吐出が保留されない記録ヘッドに装着されたインク、あるいは空吐出が保留されないノズル列に対応するインクは、黒色印刷用インクであることを特徴とする請求項8記載のインクジェット式記録装置。」
から、補正後の
「【請求項1】 印刷領域外に配置されてインクジェット式記録ヘッドからのインクの空吐出を受けると共に記録ヘッドを封止する機能を備えるキャッピング装置と、前記キャッピング装置と反対側の印刷領域外に配置されて記録ヘッドからのインクの空吐出を受けるインク受け部と、記録ヘッドが前記キャッピング装置から連続して開放されている時間を計測する第1の計時手段と、記録ヘッドが前記キャッピング装置から開放されている時間の累積を計測する第2の計時手段と、記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、記録ヘッドが印字動作終了前の印字工程で前記キャッピング装置側から印字を行ったか前記インク受け部側から印字を行ったかを監視する印字方向監視手段と、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記第1、第2の計時手段により計測された時間及び記録ヘッドの印字動作終了前の印字工程における印字方向を判断し、前記第1計時手段あるいは前記第2の計時手段のいずれかの所定時間が経過し、かつ印字動作終了前の印字工程で前記キャッピング装置側から印字を行ったと判断した場合にはその検出信号を送出する空吐出制御手段と、前記空吐出制御手段からの検出信号を受けて記録ヘッドを前記インク受け部に移動させるキャリッジ制御手段と、前記空吐出制御手段から信号を受けて記録ヘッドに対して空吐出信号を出力する空吐出信号出力手段とを備え、印刷される記録用紙が規定内の大きさであるかを監視する用紙サイズ監視手段とを備え、
前記空吐出制御手段は、前記用紙サイズ監視手段から記録用紙が規定外の大きさである検出信号を受けた場合には、インクの空吐出を行う信号を前記キャリッジ制御手段及び前記空吐出信号出力手段に送出しないことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項2】 印刷される記録用紙が規定内の大きさであるかを監視する用紙サイズ監視手段と、記録用紙の給紙、排紙工程を監視する給排紙工程検出手段とを備え、
前記空吐出制御手段は、1頁の印字が終了後、前記給排紙工程検出手段から排紙動作終了の検出信号を受けて、インクの空吐出を行う信号を前記キャリッジ制御手段及び前記空吐出信号出力手段に送出し、前記インク受け部においてインクの空吐出を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項3】 前記空吐出制御手段は、複数の記録ヘッドのうち少なくとも1つの記録ヘッドからの吐出、あるいは複数のノズル列を有する記録ヘッドのうち少なくとも1つのノズル列からの吐出を保留させ、保留した以外の記録ヘッドあるいはノズル列は、インクの空吐出を行う信号を前記キャリッジ制御手段に送出し、前記インク受け部においてインクの空吐出を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項4】 前記空吐出制御手段によって、空吐出が保留されない記録ヘッドに装着されたインク、あるいは空吐出が保留されないノズル列に対応するインクは、黒色印刷用インクであることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット式記録装置。」
と補正する。

(2)補正目的の適否
請求人は、上記補正事項に関して、拒絶査定の対象とされた旧請求項1乃至5(補正前の請求項1乃至5)を削除し、そして、拒絶査定の対象とされた旧請求項1(補正前の請求項1)に拒絶査定の対象でない旧請求項6(補正前の請求項6)を加え新たに請求項1(補正後の請求項1)とし、また、補正後の請求項2乃至4は旧請求項7乃至9(補正前の請求項7乃至9)に対応している旨主張している(審判請求書参照)。
しかし、補正後の請求項1おいては、補正前の請求項1の「前記空吐出制御手段が、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記第1、第2の計時手段のいずれかにより計測された時間が所定時間を越え、かつ印字動作終了前の印字工程で前記インク受け部側から前記キャッピング装置に向けて印字を行ったものと判断した場合には、その検出信号を前記キャリッジ制御手段及び前記空吐出信号出力手段に送出することなく、次のパスの印字動作を行い、そのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に前記空吐出制御手段からその検出信号を送出し、前記インク受け部でインクの空吐出を行うように構成されている」という事項が削除されている。
そうすると、補正後の請求項1は、補正前の請求項1に記載した特定事項を限定したものとも、また補正前の請求項1を引用しその特定事項の全てを自己の特定事項としていた補正前の請求項6に記載した特定事項を限定したものとも認められず、同様に、補正後の請求項1を引用しその特定事項の全てを自己の特定事項とする補正後の請求項2乃至4も、補正前のいずれの請求項においてその請求項に記載した特定事項を限定したものとも認められない。
したがって、本件補正に係る請求項1?4の補正は、請求項の新設であって、「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号)を目的とするものとはいえず、また、「第36条第5項に規定する請求項の削除」(同法同条同項第1号)、「誤記の訂正」(同法同条同項第3号)、「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」(同条同項第4号)のいずれを目的とするものでもない。

(3)補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しているので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

3.本件審判請求についての判断
(1)本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1?9に係る発明は、平成16年5月7日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる(上記2.(1)参照。本願の請求項1に係る発明を、以下「本願発明」という。)。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前の平成8年5月14日に頒布された特開平8-118674号公報(以下「引用例」という。)には、次のア?エの記載が図示とともにある。
ア.「シリアル型と呼ばれる方式のプリンタ装置が広く普及している。これは主走査方向に移動可能なキャリッジに搭載された記録ヘッドを走査するとともに、記録ヘッドによる1走査分の記録が終了すると記録シートを副走査方法に移動させる動作を繰返すことにより、記録シートの全面に画像を記録するものであり、・・・このようなインクジェット記録装置においては、記録しない状態が長く続いた場合、インク吐出口からの水分蒸発により、インク吐出口付近のインクの粘度が上昇してインクの吐出速度が遅くなったり、吐出口が目詰まりする場合がある。このようなインクの吐出不良の原因を解消する手段として、例えば弾性体であるゴム等から作られたキャップをインク吐出口に圧接して吐出口を遮蔽することにより、吐出口からの水分蒸発を防いでインクの吐出不良を防止する、所謂、キャッピング機構が用いられている。また、記録動作中、複数のインク吐出口のなかで使用頻度の低い吐出口があると、その吐出口では水分蒸発によりインクの粘度が上昇して、インクの吐出速度が遅くなったり、目詰まりする場合がある。このため、記録動作の開始時或は記録動作中に所定時間間隔で、或はインク吐出口の使用率などを計算して、「予備吐出受け」と呼ばれるスぺースに、或は「キャップ機構」内部に、インク吐出口から所定のドット数分のインク滴を吐出させて、粘度の上昇したインクを排出することにより、インク吐出口付近に常に一定の性質のインクを保持させる「予備吐出制御」を行うのが一般的である。」(段落【0002】?【0005】参照)
イ.「キャップ部以外に予備吐出を行うための予備吐出インク受けを設けている・・・吸引回復装置側の予備吐出受けでのみ予備吐出を行うと、記録用紙上に印刷される印刷データが吸引回復装置と反対側に偏っている場合は、印刷時の予備吐出の度に予備吐出受けの位置までキャリッジが空走することになり、印刷スピードの低下を招いていた。即ち、図14に示すように、印刷データが記録用紙11の中で吸引回復装置とは反対の方向に偏っている場合には、印刷中の予備吐出のたびに予備吐出受け26の位置までキャリッジを空走することになり、印刷速度の低下を招いていた。また従来のように、インクヘッドのキャップ24と予備吐出受け26とが同じ側、例えばホーム位置側にある場合で、印字中に12秒間隔で予備吐出を行う場合を考える。いまホーム位置より往路方向に印字を開始する時点で予備吐出のタイミングになったかどうかを確認し、12秒が経過していれば即座に予備吐出受け26の位置までキャリッジを移動して予備吐出を行う。また復路方向での印刷開始時に予備吐出タイミングになったかどうかを調べ、そうであれば1行の印字を終了した後(ホーム位置に戻った後)、予備吐出を行う。しかし、往路での印字中に予備吐出タイミングになると、その往路及び復路の印字を終了した後、予備吐出を行うことになる。ここでインクジェットヘッドの吐出周波数を6.25KHz、印字の解像度を360dpiとし、最大記録幅がB4のプリンタでは、往路の印字終了時点から予備吐出受けの位置までの距離は約270mmとなる。従って、往路或は復路の片道の移動には、270(mm)÷[25.4/360×6250]≒0.6(秒)を要する。従って、往路の印刷開始直後に予備吐出のタイミングがきた場合は、その予備吐出が実行されるまでには、最大0.6秒×2=1.2(秒)遅れてしまうことになる。このため、予備吐出タイミングを知らせるタイマは、この1.2秒分の余裕をみて、実際には前回予備吐出を行った10.8秒後に、次の予備吐出タイミングを知らせる必要があった。」(段落【0006】?【0009】参照)
ウ.図3、8、9、11?13から、キャップ24部と予備吐出受け26を印刷領域外に配置されていること及びキャップ24部の予備吐出受け26に対する配置位置を反対側とすることが看取できる。
エ.図14から予備吐出受け26が印刷領域外に配置されていること並びにインクカートリッジ5の走査軌跡、該走査軌跡に対する予備吐出タイミング及び予備吐出の実行の時間的関係が看取できる。
[引用発明の認定]
上記記載イの「インクヘッドのキャップ24部と予備吐出受け26とが同じ側、例えばホーム位置側にある場合」のインクジェット記録装置においても、キャップ24部と予備吐出受け26とは印刷領域外に配置することは、上記記載ウからみて自明のことである。
そうすると、上記記載ア?エを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次の発明が記載されているといえる。
「印刷領域外に配置されるキャップ24部と、前記キャップ24部と同じ側の印刷領域外に配置されてヘッドからのインクの予備吐出を受ける予備吐出受け26と、印字中、一定の時間間隔で予備吐出を行うための前回予備吐出からの時間を計測するタイマとを備え、ヘッドがキャップ24部と予備吐出受け26とが配置された側にある位置であるホーム位置(以下、単に「ホーム位置」という。)より往路方向に印字を開始する時点で予備吐出のタイミングになったかどうかを確認し、予備吐出のタイミングになっていれば即座に予備吐出受け26の位置までキャリッジを移動して予備吐出を行い、また復路方向での印刷開始時に予備吐出タイミングになったかどうかを調べ、そうであれば1行の印字を終了した後(ホーム位置に戻った後)、予備吐出を行い、往路での印字中に予備吐出タイミングになると、その往路及び復路の印字を終了した後、予備吐出を行うインクジェット記録装置。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「予備吐出」と本願発明の「空吐出」とは異ならない。
b.引用発明の「キャップ24部」は、キャップ24を備えている以上、インクジェットヘッドからのインクの吐出を受けると共にヘッドを封止する機能を備えていることは自明である。
c.引用発明の「キャップ24部」、「予備吐出受け26」、「タイマ」、「キャリッジ」、「インクジェットヘッド」及び「インクジェット記録装置」は、それぞれ、本願発明の「キャッピング装置」、「インク受け部」、「計時手段」、「キャリッジ」、「インクジェット式記録ヘッド」及び「インクジェット式記録装置」に相当している。
d.引用発明の「ホーム位置より往路方向」の印字及び「復路方向」の印字は、1つのパスの印字ということができる。
e.引用発明は、「印字中、一定の時間間隔で予備吐出を行うための前回予備吐出からの時間を計測するタイマを備え、ホーム位置より往路方向に印字を開始する時点で予備吐出のタイミングになったかどうかを確認し、予備吐出のタイミングになっていれば即座に予備吐出受け26の位置までキャリッジを移動して予備吐出を行い、また復路方向での印刷開始時に予備吐出タイミングになったかどうかを調べ、そうであれば1行の印字を終了した後(ホーム位置に戻った後)、予備吐出を行い、往路での印字中に予備吐出タイミングになると、その往路及び復路の印字を終了した後、予備吐出を行う」機能を発揮するものであり、当該機能を発揮する以上、上記a?dを勘案して、引用発明は、以下の構成を備えているといえる。
所定の時間を計測する計時手段と、記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、記録ヘッドが印字動作終了前の印字工程でインク受け部と反対側から印字を行ったか前記インク受け部側から印字を行ったかを監視する印字方向監視手段と、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記計時手段により計測された時間及び記録ヘッドの印字動作終了前の印字工程における印字方向を判断し、前記計時手段の所定時間が経過し、かつ印字動作終了前の印字工程でインク受け部と反対側から印字を行ったと判断した場合にはその検出信号を送出する空吐出制御手段と、前記空吐出制御手段からの検出信号を受けて記録ヘッドを前記インク受け部に移動させるキャリッジ制御手段と、前記空吐出制御手段から信号を受けて記録ヘッドに対して空吐出信号を出力する空吐出信号出力手段とを備え、前記空吐出制御手段が、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記計時手段により計測された時間が所定時間を越え、かつ印字動作終了前の印字工程で前記インク受け部側からその反対側に向けて印字を行ったものと判断した場合には、その検出信号を前記キャリッジ制御手段及び前記空吐出信号出力手段に送出することなく、次のパスの印字動作を行い、そのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に前記空吐出制御手段からその検出信号を送出し、前記インク受け部でインクの空吐出を行うようにする構成。
以上のことから、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
[一致点]
印刷領域外に配置されてインクジェット式記録ヘッドからのインクの空吐出を受けると共に記録ヘッドを封止する機能を備えるキャッピング装置と、印刷領域外に配置されて記録ヘッドからのインクの空吐出を受けるインク受け部と、所定の時間を計測する計時手段と、記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、記録ヘッドが印字動作終了前の印字工程でインク受け部と反対側から印字を行ったか前記インク受け部側から印字を行ったかを監視する印字方向監視手段と、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記計時手段により計測された時間及び記録ヘッドの印字動作終了前の印字工程における印字方向を判断し、前記計時手段の所定時間が経過し、かつ印字動作終了前の印字工程でインク受け部と反対側から印字を行ったと判断した場合にはその検出信号を送出する空吐出制御手段と、前記空吐出制御手段からの検出信号を受けて記録ヘッドを前記インク受け部に移動させるキャリッジ制御手段と、前記空吐出制御手段から信号を受けて記録ヘッドに対して空吐出信号を出力する空吐出信号出力手段とを備え、
前記空吐出制御手段が、前記記録ヘッドの1つのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に、前記計時手段により計測された時間が所定時間を越え、かつ印字動作終了前の印字工程で前記インク受け部側からその反対側に向けて印字を行ったものと判断した場合には、その検出信号を前記キャリッジ制御手段及び前記空吐出信号出力手段に送出することなく、次のパスの印字動作を行い、そのパスの印字動作終了後から次のパス印字起動の間に前記空吐出制御手段からその検出信号を送出し、前記インク受け部でインクの空吐出を行うように構成されているインクジェット式記録装置。
[相違点]
A.キャッピング装置のインク受け部に対する配置位置が、本願発明では、反対側であるのに対して、引用発明では、同じ側である点、。
B.本願発明では、所定の時間を計測する計時手段が、「記録ヘッドがキャッピング装置から連続して開放されている時間を計測する第1の計時手段」と「記録ヘッドがキャッピング装置から開放されている時間の累積を計測する第2の計時手段」の2つであると共に、空吐出制御手段が判断する所定時間が、上記第1、第2の計時手段のいずれかにより計測された時間であるのに対して、引用発明では、所定の時間を計測する計時手段が、印字中、一定の時間間隔で予備吐出(空吐出)を行うための前回予備吐出(空吐出)からの時間を計測する1つの計時手段であると共に、空吐出制御手段が判断する所定時間が上記1つの計時手段で計測された時間である点。
[相違点の判断]
相違点Aについて
上記引用例には、キャッピング装置(キャップ24部)のインク受け部(予備吐出受け26)に対する配置位置を反対側とすることが記載されており(上記記載ウ参照)、また、引用発明において、キャッピング装置(キャップ24部)のインク受け部(予備吐出受け26)に対する配置位置を、同じ側から反対側にすることは、格別阻害するものがないから、当業者が容易に想到できることである。
相違点Bについて
本願発明の「記録ヘッドがキャッピング装置から連続して開放されている時間を計測する第1の計時手段」と「記録ヘッドがキャッピング装置から開放されている時間の累積を計測する第2の計時手段」は、これらの特定事項の記載ではそれぞれのスタート、リセット及び停止等の関係が明確でないが、本願の例えば図7の記載を参酌すると、一方の計時手段がリセットされるとき他方がリセットされずに停止される関係にある、記録ヘッドがキャッピング装置から開放されている時間を計測する第1,2の計時手段の意味と解される。
ところで、空吐出制御手段を具備する装置において、所定の時間を計測する計時手段として、一方の計時手段がリセットされるとき他方がリセットされずに停止される関係にある、記録ヘッドがキャッピング装置から開放されている時間を計測する第1,2の計時手段を使用すると共に、空吐出制御手段が判断する所定時間が、上記第1、第2の計時手段のいずれかにより計測された時間であるようにすることは、例えば、特開平3-234639号公報(第15図及びこれに関する記載参照)等にみられるように周知である。
そうすると、引用発明に相違点Bに係る構成を備えることは、当業者が上記周知技術を単に適用することにより容易になし得るということができる。
以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-13 
結審通知日 2007-12-18 
審決日 2008-01-04 
出願番号 特願平9-312122
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 徹三立澤 正樹  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 坂田 誠
菅藤 政明
発明の名称 インクジェット式記録装置  
代理人 須澤 修  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 藤綱 英吉  

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