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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1173755
審判番号 不服2005-21451  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-07 
確定日 2008-02-06 
事件の表示 平成 6年特許願第504739号「制限温度サイクルを備えた内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 2月 3日国際公開、WO94/02726、平成 8年 1月 9日国内公表、特表平 8-500166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 〔1〕手続の経緯及び本願発明
本願は、1993年7月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1992年7月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成7年1月26日に特許法第184条の5第1項の規定による書面が提出され、平成12年7月25日に審査請求と同時に手続補正書が提出され、平成14年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成15年7月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年7月22日付けで上記平成15年7月24日に提出された手続補正書でした手続補正は却下された上で、平成17年7月28日付けで拒絶査定がなされ、平成17年11月7日付けで同拒絶査定に対して審判請求がなされ、平成17年12月6日に手続補正書が提出され、平成18年9月27日付けで当審において拒絶の理由が通知され、平成19年3月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものであって、その請求項1ないし16に係る発明は、上記平成19年3月29日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項9に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項9】
スパークプラグによる、または、自発点火による、点火後の、容積の小さな変化と共に圧力の増大及び温度の上昇を含む実質的等容積燃焼プロセスから成る第1段階の熱入力を生成せしめる第1段階の燃料噴射と、その後に実行される、圧力の減少及び容積の増大を含む実質的等温燃焼プロセスから成る第2段階の熱入力を生成せしめる前記第1段階の燃料噴射から遅れて遂行される第2段階の燃料噴射とを備えた作動サイクルを有する、燃焼チャンバを備えたスパーク点火式内燃機関。」

なお、本願発明は、平成17年12月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に係る発明を限定するものである。

〔2〕当審において平成18年9月27日付けで通知した拒絶の理由の概要
「〔理由1〕(第29条第2項)
本件出願の請求項1?16に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特公平4-37264号公報(平成4年6月18日出願公告)
2.西独国特許出願公開第2507142号明細書(1976)

・請求項3?6
・備考
上記刊行物1には、「容積の小さな変化と共に圧力の増大及び温度の上昇を含む実質的等容積燃焼プロセスから成る第1段階の熱入力を生成せしめる第1段階の燃料噴射と、その後に実行される、圧力の減少及び容積の増大を含む拡散燃焼プロセスから成る第2段階の熱入力を生成せしめる、前記第1段階の燃料噴射から遅れて遂行される第2段階の燃料噴射とを備えた作動サイクルを有する、燃焼チャンバを備えたスパーク点火式内燃機関。」が記載されている。
上記刊行物2には、「圧力の減少及び容積の増大を含む等温プロセス」を有する点が開示されている。
したがって、上記刊行物1に記載された発明に上記刊行物2に開示された点を適用することにより、本件出願の請求項3?6に係る発明を得る程度のことは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

〔理由2〕(第36条)
本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。

2.発明の詳細な説明において、
(1)内燃機関において「等温プロセス」を実現することは非常に困難であることが知られている。しかるに、請求項1、3、10、15、16の「等温プロセス」又は「等温燃焼プロセス」をどのようにして実現するかについて、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。さらに、請求項12の「等温圧縮」についても同様である。」

〔3〕判断
1.(特許法第29条第2項)
1-1 当審において平成18年9月27日付けで通知した拒絶の理由に引用された文献
1-1-1 特公平4-37264号公報(平成4年(1992年)6月18日公告。以下、「引用文献1」という。)
(A)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、次の事項が図面と共に記載されている。
a)「筒内に燃料を噴射してイグナイタにより点火する火花点火式筒内噴射内燃機関において、
前記機関の圧縮上死点近傍にて副噴射信号を発生し、該機関の負荷に無関係の一定の噴射量qBの副噴射INJ-Bを行う副噴射手段と、
前記副噴射信号にもとづき前記イグナイタを駆動して前記副噴射の噴霧に点火を行う点火手段と、
前記副噴射の停止後後続する主噴射INJ-Cを行う主噴射手段と、
を具備し、前記副噴射の噴射量qBと前記主噴射の噴射量qCとの和を前記機関の負荷に対応せしめたことを特徴とする火花点火式筒内噴射内燃機関の燃料噴射制御装置。」(特許請求の範囲の請求項1)
b)「〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、上述の従来形においては、1回の燃料噴射量は機関の負荷に応じて変化するので、スパークプラグのギヤツプに形成される混合気の状態が変化する。たとえば、1回の燃料噴射量が多ければ過濃となり、逆に、1回の燃料噴射量が少なければ過薄となる。この結果、すべて負荷状態に対しては、極めて短いスパークの持続時間内に、点火可能な混合気状態をスパークギヤツプに生成できず、従つて、点火が常には確実ではないという課題があつた。
従つて、本発明の目的は、火花点火式筒内噴射内燃機関において、すべて負荷状態に対して適正な混合気状態をスパークギヤツプに生成して点火を確実にすることにある。
〔課題を解決するための手段〕
上述の課題を解決するための手段は第10A図、第10B図に示される。
第10A図においては、副噴射手段は機関の圧縮上死点近傍にて副噴射信号を発生し、機関の負荷に無関係の一定の噴射量qBの副噴射INJ-Bを行い、点火手段は副噴射信号にもとづきイグナイタを駆動して副噴射の噴霧に点火を行う。主噴射手段は、副噴射の停止後後続する主噴射INJ-Cを行う。そして、副噴射の噴射量qBと主噴射の噴射量qCとの和を機関の負荷に対応せしめたものである。」(公報第2頁第4欄第1?27行)
c)「実施例
本発明の一実施例としての火花点火式筒内噴射内燃機関の燃料噴射制御装置が第1図に示される。第1図において、Eは機関の燃焼室の模式図である。第1図の機関は直噴式デイーゼルエンジンとして市販されているものと見かけ上特に大きな違いはないから、詳細な構造の図示は省略されている。ただし次の3点において特色をもつている。
第1の特色は、一般の直噴式デイーゼルエンジンの圧縮比が16?18であるのに対し、第1図の機関の圧縮比は8?14と低いことである。これは本来のデイーゼルエンジンのような圧縮による燃料の自発火を第1図の機関が望んでいないからであつて、この代りに第2の特色として、スパークプラグ3を備えている。このスパークプラグ3はガソリン機関(オツトー機関)に一般に用いられるものであつて、公知の如く点火コイル42、イグナイタ41を備えている。このスパークプラグ3は噴射弁1に対してスワールSWRの順方向近傍に位置すべく取り付けられている。スワールSWRは吸気ポートの形状をタンジエンシヤルやヘリカルと呼ばれる公知のものにすることによつて得られる気流であつて、直噴デイーゼルにとつてはごく当然のものである。
第1図の機関の第3の特色は、噴射弁1が電気的に駆動されて開閉するものであつて、この噴射弁1には常に一定圧の高圧の燃料が持続して供給されている、ということである。噴射弁1を電気的に駆動するためにはピエゾ効果を用いるのが有効である。この噴射弁1を制御し駆動するために、またイグナイタ41を駆動するためには電気制御回路5が用いられている。」(公報第3頁第5欄第3?35行)
d)「この機関の1回の爆発行程のためには、高負荷の場合には3回、低負荷でも2回の燃料噴射が1個の噴射弁1によつて行われる。この動作を第2図によつて説明する。第2図は機関Eの(1)全負荷、(2)高負荷、(3)中負荷、(4)軽負荷の4通りの負荷における噴射弁1の開弁信号であり、この信号は噴射弁1の駆動電圧に変換されて、この噴射弁1を開弁させるものであり、すべて電気制御回路5によつて処理されるものである。なお横軸は機関Eのクランク位相であり、時間は右向きに経過する。」(公報第3頁第6欄第7?17行)
e)「前述の装置においては、軽、中負荷時にはINJ-B、INJ-Cとして2回の噴射が行われる。INJ-Bの噴射は圧縮上死点前50?10℃Aであつて、噴射期間は約100μsec。噴射弁1から噴射された燃料は約100μsecの後にはスパークプラグ3のスパークギヤツプに空気との混合気を形成するが、その時このギヤツプにスパークが生じ、混合気に点火される。1msec弱の着火遅れの後、INJ-Bの噴射による噴霧全体が火炎を発するが、この火炎の中に噴射INJ-Cによる噴霧が飛び込んできて、デイーゼル燃焼として知られる拡散燃焼が進行する。」(公報第7頁第14欄第26?37行)
f)第2図には、(3)中負荷及び(4)軽負荷の場合に、TDC(上死点)の少し前に第1段階の燃料噴射INJ-Bが行われ、第1段階の燃料噴射INJ-B中にIG(点火)が行われ、TDC(上死点)の少し後に第2段階の燃料噴射INJ-Cが行われるように描かれている。

(B)上記(A)及び図面から分かること
a)上記(A)a)?f)及び特に第2図から、中負荷及び軽負荷の場合には、まず、副噴射INJ-Bを行い、その後に、スパークプラグ3による点火を行い、さらにその後に、主噴射INJ-Cを行うことが分かる。
b)上記(A)a)?e)から、副噴射INJ-Bによる燃焼プロセスは、温度の上昇を含む燃焼プロセスから成ることが分かる。
c)上記(A)a)?e)から、主噴射INJ-Cによる燃焼プロセスは、拡散燃焼から成ることであることが分かる。

(C)引用文献1に記載された発明
したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「スパークプラグ3による点火後の、温度の上昇を含む第1段階の熱入力を生成せしめる副噴射INJ-Bと、その後に実行される、拡散燃焼から成る第2段階の熱入力を生成せしめる前記副噴射INJ-Bから遅れて遂行される主噴射INJ-Cとを備えた作動サイクルを有する、燃焼室Eを備えたスパーク点火式内燃機関。」

1-1-2 西独国特許出願公開第2507142号明細書(1976)(以下、「引用文献2」という。)
(A)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、次の事項が図面と共に記載されている。なお、下線は、当審で付与した。
a)(仮訳)「本発明はこの課題を、燃料空気混合物の等圧吸入ストローク後に、圧縮ストローク中に断熱的に圧縮され、続いての等容燃焼での膨張ストローク中に、サイクル過程中のピーク圧に到達するまで熱量Q_(1)の供給下で燃料空気混合物の部分量のみが燃焼され、等温膨張を得るために燃料空気混合物の残留量が熱量Q_(2)の供給下で燃焼され、かつ熱量Q_(3)が等容放散排気され、これに等圧排気ストロークが続く。これにより燃料空気混合物で駆動される定容燃焼をもつ内燃機関のサイクル過程の通過ための方法が創り出され、この方法はオットーサイクル過程、ディーゼルサイクル過程、ザイリガーサイクル過程に対して、同じ供給熱でより低いピーク圧およびピーク温度で通過し、その結果形成される酸化窒素排気が減少される。加えて作業温度は等温膨張のために、オットーサイクル過程、ディーゼルサイクル過程、ザイリガーサイクル過程の膨張ストロークにおける作業温度に対して高く維持され、これにより膨張ストロークおよび排気ストローク中の未燃焼の水酸化炭素と未燃焼の一酸化炭素の後酸化が起きる。等温膨張を備えるサイクル過程の温度効率の僅かな減少は、排気ガスの改善と並んで、より高い機械的効率と、より低いピーク圧の結果としての構造への低い負荷に対向している。等容燃焼中に燃焼される燃料空気混合物は1サイクル過程の全燃料空気混合物のおよそ80?90%、また等温膨張中に燃焼される燃料空気混合物が1サイクル過程の全燃料空気混合物の約10?20%であると有利であることが明らかになった。
図面では、燃料空気混合物で駆動される定容燃焼の内燃機関の、本発明のサイクル過程の通過のための方法を圧力容積グラフで説明する。
横座標1には容量Vが、縦座標2には圧力Pが記入されている。サイクル行程のaからbの第3相では、燃料空気混合物の吸入(吸引ストローク)が生じる。bからcの第4相では燃料空気混合物は断熱的に圧縮される(圧縮ストローク)。cからdまでの第5相では燃料空気混合物のおよそ80から90%の等容燃焼が生じ、この際サイクル過程に熱量Q_(1)が供給される。この燃焼過程中に、サイクル中のピーク温度と関連して、ピーク圧P_(1)が達成される。dからeまでの第6相では等温膨張が生じ、これは残留燃料空気混合物の燃焼によりこの相内で引き起こされる。この際サイクル過程へは熱量Q_(2)が供給される。これに排気のeからfの第7相が続き、この際熱量Q_(3)(Q_(3)= Q_(1) + Q_(2))の等容で放射される。第7相は第5相と第6相とともに膨張ストロークを形成する。これに、等圧排気(排気ストローク)のfからaの第8相が続く。オットーサイクル経過のcからd_(1)の等容燃焼相は破線で示されている。この際、全燃料空気混合物が燃焼されるため、供給された総熱量が、本発明のサイクルと、例えばオットーによるサイクル経過が同じである時、ピーク圧P_(2)およびピーク温度は強制的に、本発明のサイクルの場合に比べて比較にならないほど高くなる。これにより酸化窒素排気および構造部品への負荷は高くなる。同じく破線で示されているd_(1)からe_(1)のオットーサイクルの断熱膨張相は、同時に温度低下を引き起こし、これにより未燃焼の燃料空気混合物の後酸化が強く妨害される。」(第3頁第9行?第5頁第7行)
b)図面には、cからdまでの第5相では圧力Pが増大しながら容積Vがほぼ一定となるように描かれていると共に、dからeまでの第6相では圧力Pが減少しながら容積Vが増大するように描かれている。

(B)引用文献2に記載された点
したがって、引用文献2には次の点が記載されているものと認められる。
「内燃機関において、点火後の、容積がほぼ一定であると共に圧力の増大及び温度の上昇を含む実質的等容積燃焼プロセスと、その後に、圧力の減少及び容積の増大を含む実質的等温膨張プロセスとしてする」点。

1-2 対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明の「スパークプラグ3」、「副噴射INJ-B」、「主噴射INJ-C」及び「燃焼室E」が、本願発明の「スパークプラグ」、「第1段階の燃料噴射」、「第2段階の燃料噴射」及び「燃焼チャンバ」にそれぞれ相当するものと認められる。
したがって、本願発明と引用文献1記載の発明は、
「スパークプラグによる、点火後の、燃焼プロセスから成る第1段階の熱入力を生成せしめる第1段階の燃料噴射と、その後に実行される、燃焼プロセスから成る第2段階の熱入力を生成せしめる前記第1段階の燃料噴射から遅れて遂行される第2段階の燃料噴射とを備えた作動サイクルを有する、燃焼チャンバを備えたスパーク点火式内燃機関。」
で一致し、次の〔相違点1〕及び〔相違点2〕で相違しているものと認められる。
〔相違点1〕
第1段階の燃料噴射による燃焼プロセスが、本願発明においては、「容積の小さな変化と共に圧力の増大及び温度の上昇を含む実質的等容積燃焼プロセス」から成るのに対して、引用文献1記載の発明においては、どのような燃焼プロセスから成るのか不明な点。
〔相違点2〕
第2段階の燃料噴射による燃焼プロセスが、本願発明においては、「圧力の減少及び容積の増大を含む実質的等温プロセスから成る」のに対して、引用文献1記載の発明においては、拡散燃焼から成る点。

1-3 当審の判断
上記〔相違点1〕及び〔相違点2〕について検討する。
〔相違点1〕について
引用文献1記載の発明における副噴射INJ-Bによる燃焼は、主噴射INJ-Cによる噴霧の火種となるためのものである。そして、スパークプラグ3による点火が上死点の少し前であり、主噴射INJ-Cが行われるのが上死点の少し後であるから、副噴射INJ-Bによる温度の上昇を含む燃焼の期間はごく短いと考えられる。そして、この短い期間における副噴射INJ-Bによる燃焼は、容積の変化と共に圧力の増大及び温度の上昇を含むとするのが相当である。ここで、副噴射INJ-Bによる温度の上昇を含む燃焼における容積の変化の大きさは、副噴射INJ-Bの量及び開始時期、終了時期、スパークプラグ3の点火時期、さらには、主噴射INJ-Cの開始時期等を調節することにより、小さくすることは可能である。また、上記1-1-2で検討したように、「内燃機関において、点火後の、容積がほぼ一定であると共に圧力の増大及び温度の上昇を含む実質的等容積燃焼プロセス」の点は、引用文献2に記載されている。
したがって、当該相違点1は、そもそも本願発明と引用文献1記載の発明との実質的な相違点ではないとも言える。また、少なくとも、引用文献1記載の発明に引用文献2に記載された点を適用することにより、上記〔相違点1〕に係わる本願発明の構成を得る程度のことは、当業者が容易に想到することができたものである。
〔相違点2〕について
上記1-1-2で検討したように、「内燃機関において、点火後の、容積がほぼ一定であると共に圧力の増大及び温度の上昇を含む実質的等容積燃焼プロセスと、その後に、圧力の減少及び容積の増大を含む実質的等温膨張プロセスとしてする」点は、引用文献2に記載されている。
そして、引用文献1記載の発明に引用文献2に記載された点を適用することにより、上記〔相違点2〕に係わる本願発明の構成を得る程度のことは、当業者が容易に想到することができたものである。

また、本願発明を全体として検討しても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された点から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

2.(特許法第36条第4項)
2-1 本願明細書における発明の詳細な説明の記載
本願発明における「圧力の減少及び容積の増大を含む実質的等温燃焼プロセス」に関しては、発明の詳細な説明において、次の記載がある。
a)「[発明の概要]
基本的には、本発明は最高燃焼温度を制限する熱力学的プロセスの新しい組み合わせを利用して、上記条件および制約を満たすものである。本発明によれば、所定の燃料を用いてより高い圧縮比、より高いパワー出力またはより低いピーク温度で内燃機関を作動できる。
概して、一実施態様によれば、本発明は、内燃機関における燃料の量および直接噴射システムの噴射タイミングを制御し、定容積(等容積)段階および定温(等温)段階から成る燃焼プロセスを発生することにより実行される。このように達成される制限された温度のエンジンサイクルにより、所定燃料または所定のNOx排ガス限度で実質的により高い圧縮比を利用でき、これにより燃料-空気混合気の分析または実際のエンジンのテストデータを分析する際に測定される、標準的な、より低い圧縮比のオットーサイクルよりも、実際の熱効率を高くできる。更にこのように達成される制限された温度サイクルにより低品質の燃料を用いて、所定の圧縮比でパワー出力をより大きくし、NOxの発生を低くできる。
本発明の別の特徴によれば、制限された温度燃焼を行うための膨張チャンバピストン式内燃機関を作動する新しい方法が提供される。かかるエンジンは少なくとも一つのシリンダーと、これに連動すると共に上死点位置を有する、シリンダーと共に燃焼チャンバを形成するためのピストンと、吸気ストローク、圧縮ストロークおよび膨張ストロークを含む作動サイクルと、燃料導入システムとを含む。本発明によるエンジンを作動する方法は、燃焼チャンバ内の空気の完全燃焼に必要な総燃料のうちの一種以上の離散量の所定量部分を導入することにより、所定の燃料-空気混合気をまず形成する工程を含む。次に、ピストンがほぼ上死点に位置した際に、このように導入された比較的薄い燃料-空気混合気を点火する。この第1の燃焼段階は、これによってほぼ等容積または定容積のプロセスを含む。つまり、等容積プロセスのために供給される燃料は、作動流体の温度を大幅に低減する量であり、この温度は高圧縮比でも3300°R(1600℃)と同程度もしくはそれより低いものとなる。最後に、膨張ストロークのほぼ開始時に完全燃焼に必要な総量のうちの(一種以上の離散量の)第2部分を導入する。この第2部分の導入から生じた燃焼はほぼ等温プロセスとなっている。同一または実質的に低い圧縮比を有する、相当するオットーサイクルエンジンで得られる温度よりも大幅に低い温度で等温プロセスが生じる。従ってNOx排ガスは制限され、現在のシステムよりも低コストでかかる低減が可能である。
当業者であれば、本発明の方法は、熱入力すなわち燃焼プロセスの第1段階でオットープロセスを利用し、熱入力すなわち燃焼プロセスの第2段階でカルノープロセスを利用していると認識するだろう。」
b)「図3(a)?図3(c)は圧縮比が18:1で、ピーク温度が約3300°R(1600℃)の温度制限サイクルの4サイクルエンジンに対するワイドオープンスロットルのための燃料噴射スケジュールを示す。図3(a)?図3(c)の燃料噴射スケジュールは、燃料容積AおよびBの2つの連続噴射を考慮したものである。既に説明したように、燃料容積AおよびBは電子制御ユニット48によって決定されるような噴射器38が作動している期間だけの関数となっている。
…(中略)…
燃料容積Aに基づく燃料-空気混合気の燃焼は、第1の燃焼段階を形成し、この段階は標準的なオットーサイクルでは実質的定容積のプロセスである。この第一燃焼段階は、当然ながら極めて希薄な混合気を形成し、このような希薄な混合気は説明する燃焼の第2段階がない場合にはエンジンパワーを著しく低下させるよう働く。燃料容積Bの燃焼は、ほぼ一定の温度すなわち等温的に行われ、パワーと効率の双方を増す。このような第2燃焼段階を発生させる温度は限られており、最も妥当な圧縮比、例えば8:1または10:1の標準オットーサイクルエンジンで得られるような温度よりも低いことが測定されている。」
c)「図4(A)?図4(C)は、2つの最大燃焼チャンバ温度(Tmax)、すなわち3300°R(1600℃)および4300°R(2100℃)に対する本発明の制限された温度サイクルの実施例を比較した3つのエンジンサイクルの図(圧力-容積;温度-容積;および3300°R(1600℃))のエンジンサイクルは、図4(A)?図4(C)のグラフにおけるポイント1-2-3-4-5-1により定義され、第2の実施例(Tmax=4300°R(2100℃))のエンジンサイクルは、ポイント1-2-3’-4’-5’-1により定義される。図4(A)?図4(C)においてグラフ上1-2は18:1の等エントロピー圧縮であり、グラフ上2-3および2-3’は第1の実施例における燃焼チャンバ内の空気の完全燃焼に必要な燃料の56%を用いる定容積燃焼プロセスである。グラフ上3-4および3’-4’は、第1の実施例における燃料の残りの44%を使用する等温プロセスである。グラフ上4-5および4’-5’は、等エントロピー膨張プロセスであり、グラフ上5-1および5’-1は定容積排気プロセスである。」
d)「図5A?図5Cの理想的燃料-空気混合気の解析を用いると、次のように図4(A)?図4(C)の2つの実施例における各点での条件や状態を計算できる。」
e)「本発明の別の実施例では、等容積プロセスのために供給される燃料は、ほぼ4000°R(1900℃)(ランキン)の作動流体の温度を発生する量となり得るが、この4000°R(1900℃)の温度はほぼ等温燃焼を発生するため、パワーストローク中の容積増加に比例して供給される残りの燃料による制限のない燃焼で発生される温度よりも、多少低くなっている。この実施例はより高い圧縮比におけるノイズを回避しながら大きなパワーを発生する。」
f)「図7は、(上記第1実施例の)3300°R(1600℃)の最高燃焼温度に対するエンジンクランク角の関数としての熱解放レートのグラフである。このグラフの第1部分70は定容積プロセス(図4(A)?図4(C)におけるグラフ上2-3)に対する熱解放レートを示す。グラフの第2部分72は等温プロセス(図4(A)?図4(C)のうちのグラフ上3-4)に対する熱解放レートを示す。
再度図3(a)?図3(c)を参照すると、圧縮ストロークの開始時に第1噴射(燃料容積A)を行い、4サイクルエンジンにおけるように第2噴射(燃料容積B)を行うようにスケジュールを決めるだけで、2サイクルエンジンに対しても本発明を実施できることは、当業者には明らかであろう。2サイクルエンジンに実施した場合、カムローブの作動部分は圧縮ストロークの開始点から等温燃焼プロセスの終了点まで延長しなければならない。この部分は上昇ランプ関数の大きな不使用部分を備えた長い期間となっているので、カム上の一定の径部分を使用してカムローブの全体の大きさが過度に大きくなるのを防止できる。
当業者であれば、(図2に示すような)燃料噴射ポンプの代わりにソレノイド制御ユニット式噴射器を使用するか、または代替案としてソレノイドによって別々に制御される噴射器と共に、定流量高圧ポンプによって供給される共通レール燃料噴射システムを使用できることが理解できよう。更に当業者には、極めて短い噴射器附勢時間(すなわち少量の燃料)が必要な場合、ソレノイドの代わりにピエゾ電気式アクチュエータと置換できることは明らかであろう。噴射制御度を高くするのにもピエゾ電気式アクチュエータを使用できるが、その理由はかかる噴射器を使用して多数の離散した量を噴射すると、その結果、等温プロセスをプロセスがより正確に追従することができる。」
g)「最大シリンダー圧力を制限することを重んじるような使用法もある。この場合、本発明は別の実施例、すなわち定容積燃焼と定圧力燃焼と定温度燃焼との組み合わせを活用できる。本発明のこの実施例では、好ましい圧力限度に達するような量の燃料を、定容積プロセス中に加える。次に好ましい最大温度に達するまで定圧力で熱を加える。残りの熱は等温的に加えられる。図8(A)?図8(C)のプロセス図にはかかる実施態様の一例が示されている。この実施態様によって作動するエンジンは図8(A)?図8(C)を参照するように、次のプロセスを含む。すなわちグラフ上1?2は等温圧縮プロセスであり、このプロセス中に燃料が供給される。この圧縮プロセス中の初期に供給される燃料は2つの目的で働く。まず第1の目的は、気化熱により圧縮仕事量を減少させること。第2の目的は、燃料によって生じる冷却に比例して燃焼温度を低下すること。第3は、初期の噴射により点火時間前にプリフレーム(火炎)作用が生じるだけの時間があり、これにより点火ラグの問題(これはディーゼルまたは他の主要な直接噴射ハイブリッドシステムで大きな問題である)を少なくできる。グラフ上2?3は既に説明したように、等エントロピー圧縮プロセスであり、グラフ上3?4は燃料の量A(図3(b))を比例させることにより最大圧力が所定値に制限された等容積燃焼プロセスであり、グラフ上4?5は燃料の量B(図3(b))のうちの第1部分によって生じる定圧力プロセスであり、この第1部分は所定の最高燃焼温度に達するまで等圧燃焼を続けるための量であり、グラフ上5?6は所定の最高燃焼温度での等温燃焼プロセスであり、グラフ上6?7は等エントロピー膨張プロセスであり、グラフ上7?1は等容積排気プロセスである。燃料導入量の各々は、できるだけ正確に理想プロセスに従うよう、一つ以上の離散した量にすることができる。」
h)「本発明は種々の燃料、例えば天然ガス、ディーゼル、ガソリンおよびメタノールだけでなく、例えば定容積熱解放プロセスのための天然ガスの組み合わせおよび等温熱解放プロセスのためのディーゼル燃料を含む多数の燃料と共に使用できると理解されよう。」

2-2 判断
まず、内燃機関において「等温燃焼プロセス」を実現することは非常に困難であることが知られている(例えば、本願の発明の詳細な説明の[発明の背景]にも、「等温加熱および熱除去と、等エントロピー圧縮および膨張とを組み合わせた理想的カルノーサイクルは、所定の.上限作動温度および下限作動温度に対して最も効率的なエンジンサイクルであることは周知である。しかしながらこのカルノーサイクルは大きな動力(パワー)を発生するには極めて大きな圧縮比(50:1以上)が必要なことから、膨張チャンバピストン式内燃機関に対しては実用的ではない。」との記載がある。)。
したがって、本願発明においても「等温燃焼プロセス」を実現するためには、何らかの特別の工夫が必要であるはずである。ところが、上記2-1の記載をみても、本願発明において「圧力の減少及び容積の増大を含む実質的等温燃焼プロセス」を実現するために必要とされる特別の工夫の点は読み取れない。
なお、審判請求人は、平成19年3月29日付けの意見書において、上記〔2〕の〔理由2〕(第36条)に対しては全く何も意見を述べていない。
よって、発明の詳細な説明に、当業者が本願発明を容易に実施できる程度に、本願発明の構成が記載されているとは言えない。

〔4〕むすび
以上のように、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件出願は、明細書及び図面の記載が不備のため、平成6年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-06 
結審通知日 2007-09-11 
審決日 2007-09-25 
出願番号 特願平6-504739
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (F02B)
P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早野 公惠  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 石井 孝明
飯塚 直樹
発明の名称 制限温度サイクルを備えた内燃機関  
代理人 正林 真之  

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