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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20051439 審決 特許
不服200515647 審決 特許
不服200414570 審決 特許
不服20051648 審決 特許
不服200513231 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1173906
審判番号 不服2005-19055  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-03 
確定日 2008-03-05 
事件の表示 特願2003-56223「光を利用した診断方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年9月24日出願公開、特開2003-265446〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年3月3日(パリ条約による優先権主張2002年3月16日、韓国)の出願であって、平成17年6月28日付で拒絶査定がなされ(発送日:同年7月5日)、これに対し、同年10月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同月31日付で手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。

II.平成17年10月31日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年10月31日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は
「ユーザから診断命令を入力され、診断結果情報をユーザに提供する入出力部と、
前記入出力部から診断命令を伝達され、制御信号を発する制御部と、前記制御信号により2つ以上の入射光を発する測定光生成部と、
測定対象を透過した前記入射光を受信して電気信号に変換する受光部と、
前記電気信号を提供されて所定の診断結果情報を発生させるデータ処理部とを含み、
前記データ処理部は、
前記受光部から前記入射光のデジタル光度を示す電気信号を提供されて人間の分当たり脈拍数周期に対応する第1脈波信号を抽出した後、前記抽出された第1脈波信号を微分して求めた第2脈波信号の変曲点の大きさの比率値を利用して血管老化診断指数を求め、血管老化診断指数と血管の老化程度値との相関関係を利用して前記測定対象の血管の老化程度を測定することを特徴とする光を利用した診断装置。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「変曲点の大きさ」について、その「比率値」であるとの限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
ア.原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-217797号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)発明の属する分野に関し;
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は人体の血液循環により発生する脈波を解析し人体の血液循環系の機能を診断する加速度脈波計に関するものである。」
(2)加速度脈波波形による血液循環状態の良否の診断に関し;
「【0002】
【従来の技術】脈波は心臓の拍動により発生し血管を通じて末梢まで伝えられる圧力波を検出して得られるもので、人体の血液の流動状態を非観血で簡単に調べることができるため従来から血液循環系の診断に用いられている。・・・なかでも測定の簡便さから光電脈波が用いられることが多く、心臓の動作や末梢の状態など様々な診断に応用されている。
【0003】・・・この問題を解決するために脈波を2次微分した加速度脈波を用い、脈波の微細な変化を大きな波形変化で表現してこの波形を細かく分析することにより簡便に血液循環系の状態を診断できることが多く報告されている。
【0004】図8に脈波波形とその2次微分である加速度脈波波形の1例を同時に採取した心電図と共に示す。この波形のaからeまでの5つの極値の特徴から図9に示すようなA?Gの7種類に分類し、それぞれ以下のような診断が行われている。a,b,c,d,eの5つの極値の高さをそれぞれha,hb,hc,hd,heで表すと、Aはhc>0かつhb<hdとなる場合であり通常若い人に見られる血液循環が良い状態にあることを示す波形、Bはhc<0かつhb<hdとなる場合で加齢によって血液循環が悪くなる過程の中で見られ、まだ良い状態にある波形、Cはhb<hcかつhb≒hdとなる場合であり血液循環が少し悪くなって左心の負担が大きくなったと考えられる時に見られる波形で、スポーツ心臓でもしばしば認められる、Dはhb≒hc≒hdとなる場合であり血液循環が悪い状態にあることを示す波形で、特に注意が必要であると考えられる波形、Eはhb<hcかつhb>hdとなる場合であり血液循環が悪い状態にあることを示す波形で、脳卒中、心筋梗塞、狭心症などの既往症のある者に多く見られる、特に注意が必要であると考えられる波形、Fはhb≒hcかつhb>hd、Gはhb>hcかつhb>hdとなる場合でありどちらも血液循環が極端に悪い状態にあることを示す波形で、衰弱してねたきりになった高齢者などにみられる波形である。このように加速度脈波の波形を解析することにより容易に循環系の動作状態の診断行う事ができるようになっている。」
(3)加速度脈波計の構成に関し;
「【0019】図1は本発明の一実施例の加速度脈波計のブロック図である。
【0020】図中、11は脈波検出手段、12は信号処理手段、13は加速度脈波算出手段、14は波形分割手段、15は波形パラメータ算出手段、16は波形パターン分類手段、17は制御手段、18はスタートボタン、19は表示器である。脈波検出手段11は、心臓の拍動による血液量の増減を光の透過量または反射量の変化により検出する光電容積脈波計で、発光素子20、受光素子21とこれらを保持し指の先端に固定して配置する固定具(図示せず)からなる。発光素子20は血液中のヘモグロビンや水分が強い選択性を持って吸収する500?1000nmの波長光を含む光を放射し、受光素子21は発光素子20が発光した光の成分を含む波長の光に反応してその特性を変化させる物質から構成されており、本実施例では光量に応じて電荷を発生させるフォトダイオードを用いている。・・・。
【0021】また、波形パラメータ算出手段15は、特徴値算出手段として極値算出手段22と変曲点算出手段23とを持ち、得られた加速度脈波波形から特徴値として極値と変曲点を算出している。さらに、特徴値選択手段24を持ち、2つの特徴値算出手段の出力の内どちらの特徴値を波形パラメータとして出力するかを選択している。図2に脈波採取手段による脈波波形と加速度脈波算出手段による加速度脈波波形の一例を同時に別装置で採取した心電図波形と共に示す。極値算出手段22では波形分割手段14の出力に基づき図2に示す加速度脈波波形のa,b,c,d,eの5つの極値の高さha,hb,hc,hd,heをそれぞれ算出し、変曲点算出手段23では各極値の両側に存在する曲線の曲り方向が上に凸から下に凸へ、または、下に凸から上に凸へと変化する点である変曲点の高さと時間さらに変曲点における加速度脈波の接線の傾きを算出している。そして、これらの情報から特徴値選択手段24が極値算出手段22の出力のみで5つの波形パラメータを算出可能か否かを判定し、算出できない波形パラメータが存在する場合は存在しない波形パラメータのみを変曲点算出手段23が算出した変曲点の高さの値と入れ替えて波形パターン分類手段に出力している。なお、本実施例では、特徴値選択手段は変曲点における接線の傾きを求める変曲点傾き算出手段25と、その結果を用いて特徴値を選択し波形パラメータとして決定する波形パラメータ決定手段26とからなる。」
(4)加速度脈波計の動作に関し;
「【0022】本実施例の加速度脈波計は上記構成により以下のように作用する。すなわち、被験者が脈波検出手段11を固定具により手の指に固定してスタートボタン18を押すと制御手段19が脈波の採取を始め、発光素子20から500?1000nmの波長光を含む光を放射させる。この光が被験者の指にあたると血液中のヘモグロビンや水分が強い選択性を持って吸収するので、指を透過したり反射した後の光量は血液量の増減を正確に反映する。受光素子21では、このような透過または反射した光量の変化に応じて抵抗値が変化しこれを電圧信号に変換することにより発光素子20と受光素子21が取り付けられた部分の心臓の拍動による血液量の増減を電圧信号に変換して取り出すことが可能になっている。この信号は信号処理手段12により必要な信号レベルに増幅されたりノイズ成分を除去するフィルタリング処理を受けたのち加速度脈波算出手段13により2次微分されて加速度脈波波形に変換され、波形分割手段14により1拍毎の波形に分割されて波形パラメータ算出手段15に出力される。波形パラメータ算出手段15では、まず極値算出手段22により加速度脈波のa,b,c,d,eの5つの極値の高さが算出され、次に変曲点算出手段23により各極値間に存在する変曲点の高さが算出される。一方、変曲点傾き算出手段25により変曲点における加速度脈波の接線の傾きが算出され、これらの情報から波形パラメータ決定手段26が極値算出手段22の出力のみで5つの波形パラメータを算出可能か否かを判定し、算出できない波形パラメータが存在する場合は存在しない波形パラメータのみを極値算出手段22の出力の値と入れ替えている。・・・。
【0023】・・・このように決定された5つの波形パラメータは波形パターン分類手段16に出力され、波形パターン分類手段16ではこれらの5つの波形パラメータから図4に示すAからGまでパターンのいずれにあるかを決定し、これを波形分割手段の出力波形と共に表示機19に出力して被験者に視覚的に報知している。」
(4)波形パラメータと極値の関係に関し;
「【0027】なお、本実施例の特徴値選択手段では、極値算出手段だけでは波形パラメータをすべて算出できないと判断した場合に算出できなかった極値の値の代わりに変曲点の高さを波形パラメータとして算出していたが、このかわりに接線交点算出手段27を持ち変曲点の発生時間を求めた上で隣り合う変曲点における2つの接線の交点を求め、その高さを波形パラメータとして用いる構成でも良い。」

これらの記載を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

「被検者が押すことで制御手段が脈波の採取を始めるスタートボタンと、脈波の波形と波形パターンの分類を視覚的に報知する表示機とを備え、
被検者がスタートボタンを押すと脈波の採取を始め、発光素子から500?1000nmの波長光を含む光を放射させる制御手段と、該放射した光が指を透過した光量の変化に応じて抵抗値が変化しこれを電圧信号に変換する受光素子と、該電圧信号に増幅とノイズ成分を除去するフィルタリング処理を施す信号処理手段と、該信号処理手段の出力を2次微分して加速度脈波波形に変換する加速度脈波算出手段と、5つの波形パラメータとして加速度脈波のa,b,c,d,eの5つの極値の高さha,hb,hc,hd,heをそれぞれ算出する極値算出手段と、該極値の高さを相互に比較することで下記AからGまでパターンのいずれにあるかを決定し、これを波形分割手段の出力波形と共に表示機に出力する波形パターン分類手段とを備え、該AからGまでのパターンの分類はそれぞれ、
Aはhc>0かつhb<hdとなる場合であり通常若い人に見られる血液循環が良い状態にあることを示す波形、
Bはhc<0かつhb<hdとなる場合で加齢によって血液循環が悪くなる過程の中で見られ、まだ良い状態にある波形、
Cはhb<hcかつhb≒hdとなる場合であり血液循環が少し悪くなって左心の負担が大きくなったと考えられる時に見られる波形で、スポーツ心臓でもしばしば認められ、
Dはhb≒hc≒hdとなる場合であり血液循環が悪い状態にあることを示す波形で、特に注意が必要であると考えられる波形、
Eはhb<hcかつhb>hdとなる場合であり血液循環が悪い状態にあることを示す波形で、脳卒中、心筋梗塞、狭心症などの既往症のある者に多く見られる、特に注意が必要であると考えられる波形、
Fはhb≒hcかつhb>hd、Gはhb>hcかつhb>hdとなる場合でありどちらも血液循環が極端に悪い状態にあることを示す波形で、衰弱して寝たきりになった高齢者などにみられる波形、
である、末梢の状態など血液循環系の状態を診断する加速度脈波計。」

イ.原査定の拒絶の理由に引用された特表平6-507485号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)「この発明の特徴を有利に組み入れ得るある生理学的なモニタリング装置とは、プレチスモグラフ波と呼ばれる動脈拍を表わす信号を判断するモニタリングシステムである。この信号は血圧計算、血液ガス飽和度測定などに使用され得る。そのような使用の具体例は、血液内の酸素の飽和度を判断するパルスオキシメトリに使用される。この構成において、信号の所望される部分は、血液が皮膚の近くを流れる体の部分をそれが通過する際に、エネルギの減衰に対する動脈血の寄与である。心臓の送り出しは、血流が周期的に動脈において増加および減少することを引き起こし、周期的な減衰を引き起こし、ここで周期的な波形は脈を表わすプレチスモグラフ波形である。
パルスオキシメトリ酸素飽和度測定に特に適応される生理学的なモニターは、2つの発光ダイオード(LED)を含み、それらは第1および第2の信号を生成するために異なった波長で発光する。ディテクタは、2つの異なったエネルギ信号の減衰をそれらがたとえば指または耳垂のような指のような場所である吸収媒体を通過した後記録する。減衰された信号は一般的に所望される信号部分および所望されない信号部分の両方を含む。帯域フィルタのような静的フィルタリングシステムは、静的または一定の所望されない信号部分、または興味ある既知の帯域幅の外の部分を、動きによって引き起こされ除去することがむずかしい一定しないまたはランダムな所望されない信号部分を残して所望される信号部分とともに除去する。
次に、この発明のプロセッサは残りの所望されない信号部分の組み合わせであるノイズ基準信号を生じる測定信号から所望される信号部分を取り除く。ノイズ基準信号は両方の所望されない信号部分と相関する。ノイズ基準信号と少なくとも1つの測定信号とが、所望されない信号のランダムまたは一定しない部分を取り除く適応ノイズキャンセラに入力される。これは測定信号波長の1つで測定されるように所望されたプレチスモグラフ信号によく近似する。」(第6ページ左上欄第20行乃至同ページ左下欄第4行)
(2)第4図(FIG.4)には、検出器20による出力がノイズキャンセラー27の前段でA/D変換器24a,bによってデジタル化されることが記載されている。

3.対比
引用発明1の
(a)「被検者」,(b)「スタートボタン」及び「表示機」,(c)「被検者がスタートボタンを押す」,(d)「脈波の波形と波形パターンの分類」,(e)「視覚的に報知」,(f)「発光素子」,(g)「指」,(h)「受光素子」,(i)「電圧信号」,(j)「加速度脈波計」
はそれぞれ、本願補正発明の
(a)「ユーザ」,(b)「入出力部」,(c)「ユーザーから診断命令を入力」,(d)「診断結果情報」,(e)「ユーザに提供」,(f)「測定光生成部」,(g)「測定対象」,(h)「受光部」,(i)「電気信号」,(j)「光を利用した診断装置」
に相当することが明らかである。

また、両発明間には以下の相当関係、及び共通点がある。
(A)引用発明1の「500?1000nmの波長光を含む光」は、500nmから1000nmにわたる複数波長を含む光であるから、本願補正発明の「2つ以上の入射光」に相当する。
(B)引用発明1に於ける、「電圧信号に増幅とノイズ成分を除去するフィルタリング処理を施す信号処理手段」の出力と、本願補正発明の「第1脈波信号」とは、共に微分処理が施されていない脈波自体の信号(脈波信号)である点で共通する。
(C)本願補正発明に於ける「第2脈波信号」は脈波である「第1脈波信号」を「微分」した信号として定義され、該「微分」なる用語は、広義には高次微分を含む微分操作一般を指すものの、狭義には一次微分を指すもので、前記請求項1の記載のみからはその何れの意味で用いられているのか判然としないが、
(C1)本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】乃至【0034】には、脈波即ち「第1脈波信号」の一次微分である「速度脈波」に対する、二次微分である「加速度脈波」の優位性が論じられていること、
(C2)同【0036】,【0040】,【0041】及び図5には、a乃至eなる「加速度脈波」即ち脈波の二次微分の波形上での「特定変曲点」の大きさを「比率値」の演算に用いる実施例が記載されていること、
(C3)本願補正発明の実施例として、脈波の二次微分以外の、一次微分などの微分波形から前記比率値の演算に用いる値を抽出することが記載されていないこと、
からみて、前記狭義ではなく、少なくとも二次微分を含む前記広義の意味で用いられていることが明らかである。
よって、引用発明1の「2次微分」は、本願補正発明の「微分」に相当し、引用発明1の「加速度脈波波形」は本願補正発明の「第2脈波信号」に相当する。
(D)本願補正発明に於ける「変曲点」は、発明の詳細な説明及び添付図面の随所で「傾きが正から負に変化する変曲点」或いは「傾きが負から正に変化する変曲点」と定義され(【0032】,【0039】,【0046】,【0048】,図9乃至11)ているが、これは「曲線が上に凸の状態から上に凹の状態に、または上に凹の状態から上に凸の状態に、変わる点。」(三省堂「大辞林 第二版」より)なる数学上の「変曲点」の定義とは明らかに異なり、「極大点」又は「極小点」の定義に一致する。また、【0041】に於いて「特定変曲点」として挙げられたa乃至eの各点は、図5に於いて、SDPTG即ち加速度脈波波形上の各極大・極小点に対応している。そして、加速度脈波波形上に於いて前記数学上の「変曲点」に対応する点を「変曲点」の定義として説明した記載は、本願明細書の発明の詳細な説明及び添付図面中にない。
以上のことからみて、本願補正発明に於ける「変曲点」は、数学上の定義に基づく点を意味するのではなく、本願明細書の発明の詳細な説明中に定義されたとおりの、「極大点」又は「極小点」を意味すると解釈するほかない。
よって、引用発明1の「極値」は、本願補正発明の「変曲点の大きさ」に相当する。
(E)引用発明1が診断対象としている「末梢の状態など血液循環系の状態」は、血管の状態である点で、本願補正発明の「血管の老化程度」と共通する。
(F)引用発明1に於いて、スタートボタンを押すと制御手段が脈波の採取を始め、発光素子から500?1000nmの波長光を含む光を放射させるという動作を行うのであるから、スタートボタンを押すことにより、スタートボタンから制御手段に、前記スタートボタンが押されたことに対応する信号が伝達されることは自明であり、該信号が本願補正発明の「診断命令」に相当する。よって、引用発明1の「被検者がスタートボタンを押すと脈波の採取を始め、発光素子から500?1000nmの波長光を含む光を放射させる制御手段」は、本願補正発明の「入出力部から診断命令を伝達され、制御信号を発する制御部」に相当する。
(G-1)引用発明1の「信号処理手段」が行うフィルタリング処理はノイズを除去するものであり、ノイズを含む電圧信号から、加速度脈波の算出に用いる前記脈波信号を分離、即ち抽出する処理に外ならない。よって、該フィルタリング処理は、脈波信号の抽出処理である点で、本願補正発明に於いて「データ処理部」が行う第1脈波信号の抽出処理と共通する。
(G-2)引用発明1の「加速度脈波算出手段」が行う、信号処理手段の出力を2次微分して加速度脈波波形に変換する処理は、本願補正発明の「データ処理部」が行う、第1脈波信号を微分して第2脈波信号を求める処理と、前記脈波信号を2次微分する処理である点で共通する。
(G-3)引用発明1の「極値算出手段」が行う、加速度脈波の5つの極値の高さを算出する処理は、上記(D)で検討したとおり引用発明1の「極値」が本願補正発明の「変曲点の大きさ」に相当する。ところで、本願補正発明の「データ処理部」は、第2脈波信号の変曲点の大きさの比率値を利用して血管老化診断指数を求める際に、該「変曲点の大きさ」を求める処理を行っていることは自明である。すると、前記した引用発明1の「極値算出手段」が行う処理は、本願補正発明の「データ処理部」が行う、前記第2脈波信号の変曲点の大きさを求める処理に相当する。
(G-4)引用発明1に於いて、極値の高さを相互に比較している点は、該極値の高さの比較結果を用いている点で、本願補正発明に於いて、変曲点の大きさ即ち極値の高さの比率値を利用している点と共通する。
(G-5)してみると、引用発明1の「信号処理手段」、「加速度算出手段」、「極値算出手段」、及び「波形パターン分類手段」からなる一連の処理手段は、受光部からの電気信号に基づいて所定の診断結果情報を発生させる点で、本願補正発明の「データ処理部」と共通する。

よって両者は、
(一致点)
「ユーザから診断命令を入力され、診断結果情報をユーザに提供する入出力部と、前記入出力部からの診断命令により2つ以上の入射光を発する測定光生成部と、測定対象を透過した前記入射光を受信して電気信号に変換する受光部と、前記電気信号を提供されて所定の診断結果情報を発生させるデータ処理部とを含み、
前記データ処理部は、前記受光部から前記入射光を示す電気信号を提供されて脈波信号を抽出した後、前記抽出した脈波信号を微分して求めた第2脈波信号の変曲点の大きさの比較結果を利用して血管の状態を測定する、光を利用した診断装置。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、データ処理部が受光部から提供される電気信号が入射光のデジタル光度、即ちデジタル化された入射光信号であるのに対し、引用発明1では、前記電気信号に相当する電圧信号がデジタル化されているのか否か明確でない点。
(相違点2)
本願補正発明の脈波信号が、データ処理部により抽出された「人間の分当たり脈波数周期に対応する第1脈波信号」であるのに対し、引用発明1の脈波信号に対する「増幅とノイズ成分を除去するフィルタリング処理」が前記と同様の抽出を行うものと言えるか否か明確でない点。
(相違点3)
データ処理部が、本願補正発明では、「変曲点の大きさの比率値」即ち極値の比率値を利用しているのに対し、引用発明1では、前記極値の高さを相互に比較している点。
(相違点4)
データ処理部が、「変曲点の大きさ」即ち極値を利用して、本願補正発明では「血管老化指数」を求め、血管老化診断指数と血管の老化程度値との相関関係を利用して前記測定対象の血管の老化程度を測定しているのに対し、引用発明1では、血液循環の各状態に対応する波形パターンを決定している点。

4.当審の判断
(1)相違点1について
光学測定装置に於いて、受光信号をデジタル化して諸処理をデジタル処理にて行うことは周知慣用技術であり、光学的に脈波を検出する装置に於いても、このような信号処理のデジタル化は、例えば引用例2(摘記事項2.イ.(2)参照)にも記載されたとおり周知である。
よって、引用発明1に於いて、受光部からデータ処理部に提供される電気信号をA/D変換器などにより入射光のデジタル光度とし、該データ処理部内でのデータ処理をデジタル化することは、前記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。

(2)相違点2について
本願補正発明に於ける「人間の分当たり脈拍数周期に対応する第1脈波信号」とは、明細書の段落【0040】に記載された「人間の分当たり脈拍数周期に該当する周波数を有する第1脈波信号」を意味するものと認められ、よって、「第1脈波信号を抽出」するとは、人間の脈拍の周期に該当する周波数を抽出することを意味すると認められる。そして、脈波波形は一般に、脈拍と同じ周期のノコギリ波様の波形を呈するものである。
一方、脈波(プレチスモグラフ波)を解析するシステムに於いて、該解析に先立って、帯域フィルタを用いて興味ある既知の帯域幅、即ち所望の脈波に関連する帯域以外の成分を除去する手段を設けることは、上記摘記した引用例2にも記載されたとおりの周知技術に過ぎない。
よって、引用発明1に於いて、信号処理手段に於けるフィルタリング処理として、脈拍の周波数を含む帯域以外の帯域を除去する帯域フィルタを用いた処理を行うようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(3)相違点3について
引用発明1に於いて利用している加速度脈波の極値の大小関係を比較することは、該極値の比率値の1に対する大小を調べることと等価であるから、相違点3は極値の比較に於ける表現の相違に過ぎず、実質的なものではない。
また、仮に前記表現上の相違が看過できないものであるとしても、血管の性状を診断する際に加速度脈波の極値の比率値を用いることは、原査定に於いて通知した特開2002-65621号公報(以下「引用例3」という;段落【0002】,【0022】,【0033】参照)のほか、特開2001-258860号公報(以下「周知例1」という;段落【0020】参照),特開2000-217796号公報(以下「周知例2」という;段落【0006】,【0041】乃至【0051】参照),特開平11-342119号公報(以下「周知例3」という;段落【0035】参照)にも記載されたとおりの周知の技術に過ぎないから、引用発明1に於いて、前記加速度脈波の極値の比較をそれらの比率値を利用して行うことは、前記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。

(4)相違点4について
引用発明1に於いて、加速度脈波の各極値相互の大小関係と関連づけられている「血液循環系の状態」は、「血液循環が悪い状態」が脳卒中、心筋梗塞、狭心症などの動脈硬化を一因とする虚血性疾患に関連づけられており、動脈硬化は血管の老化現象に外ならない。そして、前記血液循環系の状態に対して設けられたA乃至Gの7つの分類は何れも、「通常若い人に見られる」、「加齢によって血液循環が悪くなる過程の中でみられ」、「血液循環が少し悪くなって左心の負担が大きくなったと考えられるときに見られる」などの記載からも明らかなとおり、統計的な症例傾向に基づくものである。
一方、加速度脈波の5つの主要な極値a乃至eの各種比率値から血管年齢、動脈硬化の進行度、血管の柔軟性などの血管の老化を示す指標、すなわち、本願補正発明の「血管老化診断指数」に相当する指標を求めることは周知である。このことについては、例えば、
(A)比率値(b+c+d)/aから、血管年齢を表す指標として慣用の「APGインデックス(加速度脈波加齢値)」を求めることが上記引用例3(上記記載箇所参照)に記載されているほか、
(B)上記周知例1には、「平均加速度脈波波形の各部の振幅a,b,c,d,eの比率から動脈硬化の状態を診断する。すなわち、動脈硬化の程度が進むほど、加速度脈波の波形は減衰しやすくなるので、振幅aに対して振幅b,c,d,eが小さいほど・・・動脈硬化の程度が進んでいると判断できる。」(【0020】)、すなわち、比率値b/a,c/a,d/a,e/aを用いて動脈硬化の程度を判断することが記載されており、また、
(C)上記周知例2(上記記載箇所参照)には、加速度脈波の前記各極値a,b,c,dにそれぞれ対応するha,hb,hc,hdを用いて
P=100×(-hb+hc+hd)/ha
なる指標を求め、該指標を血管の老化に関連する被検者の循環機能の健全さを分類するのに用いることが、
(D)上記周知例3(上記記載箇所参照)には、加速度脈波の極値a,bの比率値hb/haを用いて血管の柔軟性に関連する血管性状の判定を行うことが、それぞれ記載されているとおりである。
そして、これら各指標と前記血管年齢、動脈硬化の程度、血管の柔軟性など血管の老化の程度との関係が演繹的に求めうるものではないことが明らかであるから、両者間の関連づけは、疫学的調査や統計データに基づいて帰納的に求められた両者間の相関関係に基づいて行われるべきことが自明である。
また、本願補正発明に於ける「血管老化指数」としては、実施例に於いては、加速度脈波の各「変曲点の大きさ」即ち極値a乃至eを用いて、b乃至eとaとの比率値b/a,c/a,d/a,又はe/aを用いることが例示されており(段落【0041】)、これは上記(B),(D)に示した周知例と共通する。
よって、引用発明1に於いて、加速度脈波の各極値の大小関係を血管の老化に関連する各血液循環系の状態に分類することに替えて、該各極値の比率値からなる、本願補正発明の「血管老化診断指数」に相当する指数を求め、該指数値を血管の老化の程度に相関づけるようにすることは、前記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。

(5)対比・判断に関する附記
上記3.の(A)項に於いて、本願補正発明の「2つ以上の入射光」には引用発明1の「500?1000nmの波長光を含む光」が相当するとしたが、仮に、本願補正発明が、入射光として相互に波長が異なる光を2つ以上用いる、即ち、波長の異なる2つ以上の光源を用いるものに限定されるとした場合、引用発明1には対応する構成がなく、本願補正発明が「2つ以上の入射光」を備える点は両発明の相違点となる。
しかし、本願の実施例を参照すると、複数の波長による測定結果をあらわに用いているのは、ヘモグロビン濃度(酸素飽和度)を求める実施例に限られており、加速度脈波から血管の老化度を求める実施例に於いては、「2つ以上の入射光」を用いることについて記載がない。よって、血管の老化程度値を目的変数とする本願補正発明に於いて、2つ以上の波長の入射光を用いることは、格別の作用効果を伴わない設計事項に過ぎない。
また、脈波とともに酸素飽和度を求める場合に、異なる2波長の光源を用いることは、引用例2にも記載されているとおり、周知であるから、本願補正発明が酸素飽和度など2つに波長の入射光が必要な測定を同時に行うことを意図しているとしても、引用発明1の入射光を波長の異なる2つの光源によるものとすることは、前記周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明1および上記周知技術から当業者であれば予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
平成17年10月31日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至6に係る発明は、平成17年4月4日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1は、次のとおりである(以下、該請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「ユーザから診断命令を入力され、診断結果情報をユーザに提供する入出力部と、
前記入出力部から診断命令を伝達され、制御信号を発する制御部と、前記制御信号により2つ以上の入射光を発する測定光生成部と、
測定対象を透過した前記入射光を受信して電気信号に変換する受光部と、
前記電気信号を提供されて所定の診断結果情報を発生させるデータ処理部とを含み、
前記データ処理部は、
前記受光部から前記入射光のデジタル光度を示す電気信号を提供されて人間の分当たり脈拍数周期に対応する第1脈波信号を抽出した後、前記抽出された第1脈波信号を微分して求めた第2脈波信号の変曲点の大きさを利用して血管老化診断指数を求め、血管老化診断指数と血管の老化程度値との相関関係を利用して前記測定対象の血管の老化程度を測定することを特徴とする光を利用した診断装置。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記II.で検討した本願補正発明から「変曲点の大きさ」についての限定事項である「比率値」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.4.に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2乃至6に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-28 
結審通知日 2007-10-09 
審決日 2007-10-22 
出願番号 特願2003-56223(P2003-56223)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 博生荒巻 慎哉  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 門田 宏
樋口 宗彦
発明の名称 光を利用した診断方法及び装置  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  

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