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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1173938
審判番号 不服2005-10721  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-09 
確定日 2008-03-06 
事件の表示 平成 8年特許願第329473号「MISトランジスタ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月26日出願公開、特開平10-173177〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年12月10日の出願であって、平成17年4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月7日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成18年6月28日付けで審尋がなされ、同年8月30日に回答書が提出されたものである。

2.平成17年7月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成17年7月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲と明細書の0009段落を補正するものであって、補正後の請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「 【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極を挟んで前記シリコン基板に形成されたLDD領域及びソース/ドレイン領域と、
前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された窒化酸化シリコン層と前記窒化酸化シリコン層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォールと、
前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜と
を備え、
前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、
前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含み、
前記窒素原子の濃度ピークが前記シリコン基板と前記窒化酸化シリコン層との界面にあるMISトランジスタ。」

(2)主な補正事項
請求項1についての補正は、補正前の請求項1の「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、」を補正後の請求項1の「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、 前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含み、」と補正するものである。(補正事項1)

(3)補正事項の検討
補正事項1についての補正は、実質的に、補正前の請求項1の「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、」の後に、「前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含み、」を追加するものである。
そして、「前記ソース/ドレイン領域」は、「前記シリコン基板表面」に含まれるものであるから、「前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含」むことは、補正前の請求項1の「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布」するとの構成について、「前記シリコン基板表面」内の「前記ソース/ドレイン領域」に「窒素原子を分布」させていること、言い換えると、「前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含」むと限定するものであって、補正事項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる目的に該当する。

(4)独立特許要件について
補正後の請求項1に係る発明の独立特許要件について検討する。
(4-1)記載不備について(特許法第36条第6項について)
補正後の請求項1に係る発明は、請求項1に記載される「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜」において、「シリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜」がどのようにして形成されたか明らかでなく、「前記ソース/ドレイン領域表面」と「シリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜」がどのような関係にあるか明確でないから、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(4-2)発明の容易性について(特許法第29条第2項について)
(4-2-1)補正発明の認定
補正後の請求項1に係る発明の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜」については、本願明細書の0011段落ないし0017段落の記載から、「シリサイド膜」が「シリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含む」こと及び、「シリサイド膜」が「シリサイド反応」により形成されることは明らかであるから、補正後の請求項1の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜」は、「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」の誤記であると認定し、補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものとする。
「【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極を挟んで前記シリコン基板に形成されたLDD領域及びソース/ドレイン領域と、
前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された窒化酸化シリコン層と前記窒化酸化シリコン層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォールと、
前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜と
を備え、
前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、
前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含み、
前記窒素原子の濃度ピークが前記シリコン基板と前記窒化酸化シリコン層との界面にあるMISトランジスタ。」

(4-2-2)刊行物に記載された発明
(4-2-2-1)特開平5-90293号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前に日本国内で頒布された特開平5-90293号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図1及び図2とともに、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 素子分離領域を有する半導体基板と、この半導体基板表面にゲート絶縁膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極と、このポリシリコンゲート電極に接した酸化膜と、この酸化膜に接して設けられた側壁と、前記ポリシリコンゲート電極に対して自己整合的に設けられたソース・ドレイン領域とを備え、これらソース・ドレイン領域およびポリシリコンゲート電極上に遷移8族の金属のモノシリサイドを形成したことを特徴とする半導体装置。」
「【0017】また、第1の発明の目的には、側壁下部のソース・ドレイン領域の一部分もシリサイド化することにより、ブリッジングによるショート不良が少なく、ホットキャリア信頼性が高く、さらに寄生抵抗が小さい半導体装置およびその製造方法を提供することもある。」
「【0019】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、第1の発明は、素子分離領域を有する半導体基板と、この半導体基板表面にゲート絶縁膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極と、このポリシリコンゲート電極に接した酸化膜と、この酸化膜に接して設けられた側壁と、前記ポリシリコンゲート電極に対して自己整合的に設けられたソース・ドレイン領域とを備え、これらソース・ドレイン領域およびポリシリコンゲート電極上に遷移8族の金属のモノシリサイドを形成した構造となっている。」
「【0021】
【作用】上記構造を実現するため、第1の発明は、素子分離領域を有する半導体基板上にゲート電極をパターニングし、素子領域に酸化膜を形成し、エッチバック法によって前記ゲート電極の側部に絶縁膜の側壁を形成し、前記酸化膜をシリコン基板表面が露出するまでエッチング除去し、エッチング除去されたシリコン基板のソース・ドレイン領域および前記ゲート電極上に遷移8族の金属を形成し、前記遷移8族の金属をモノシリサイド化させ、前記酸化膜上の未反応の遷移8族の金属を除去している。」
「【0024】第1の発明
第1実施例
図1および図2は、第1の発明の第1実施例によるMISトランジスタの製造工程を示す断面構造図である。
【0025】まず、n型単結晶シリコン基板1の表面にpウエル領域2及び素子分離用のフィールド酸化膜3を形成する(図1(a))。
【0026】次に、シリコン基板1上に例えば5nmのゲート絶縁膜4を成長させる。さらに、ポリシリコンを厚さ350nmで全面に堆積した後、POCl_(3) を用いてポリシリコンに高濃度のリンを拡散する。この後、異方性エッチングを用いて、ゲート絶縁膜4およびN^(+) 化されたポリシリコン5を加工する。ドライ酸素雰囲気中850℃の条件で、ソース・ドレイン上で約13nmの酸化膜6を形成する(図1(b))。このときゲート電極5上には500Åの酸化膜6が形成される。
【0027】次に、ゲート電極5をマスクにN型の不純物例えばPhos(リン)をドーズ量7E13,加速電圧40keVの条件で基板1に打ち込み、ゲートと自己整合的にLDDN^(-) 層を形成する。その後、シリコン窒化膜をLPCVD法で100nm堆積し、異方性エッチングによってシリコン窒化膜をゲートの側部にのみ残置させる。これにより、側壁7が形成される(図1(c))。
【0028】次に、ゲート電極5および側壁7をマスクに、例えばAs(ヒソ)をドーズ量3E15,加速電圧50keVの条件でイオン注入し、1000℃20″のランプ加熱によって活性化したソース・ドレイン領域8を形成する。この後、例えば100:3の希HFのエッチング液を用いて、ソース・ドレイン領域8およびゲート電極5上で、シリコン基板1、ゲートポリシリコン5の表面を露出させる(図2(a))。
【0029】さらに、例えばCVD法により、遷移8族の金属であるNi(図中、付番9)を例えば200Å堆積させる(図2(b))。
【0030】次に、580℃ 1分の熱処理を施し、ゲート電極5、およびソース・ドレイン領域8上のNi膜9をシリコンと反応させて約700ÅのNiSi(図中、付番10)を形成する。この後、HCl:H_(2) O_(2) :H_(2) O=1:1:2の混合比の溶液で15分の選択エッチングを行い、側壁7上の未反応Niを除去する(図2(c))。」
「【0032】以上のように、第1実施例では高融点金属としてNiを用いて、NiSiによるサリサイド化を行った。NiSiによるサリサイド化の際には400?700℃の低温で熱処理できるため、低温プロセスに適している。」
「【0035】なお、第1実施例では遷移8族の金属としてNiを用いたが、これに限らずCoを用いても同様にシリサイド化することができる。」

ここで、図1(b)、(c)、0026段落及び0027段落の記載より、ゲート電極5は、その側面に接して形成された酸化膜6と、酸化膜の側面に形成されたシリコン窒化膜の側壁を備えていることは明らかである。
図1(c)、0027段落及び0028段落の記載より、ゲート電極5の両側の半導体基板にLDDN^(-)層及びソース・ドレイン領域が形成されることは明らかである。
図2(b)、(c)、0029段落及び0030段落の記載より、ソース・ドレイン領域8の表面にNiSi(モノシリサイド)が形成されることは明らかである。

よって、刊行物1には、以下の発明が記載されている。
「シリコン基板と、前記シリコン基板表面にゲート絶縁膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極と、前記ポリシリコンゲート電極の両側の前記シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層及びソース・ドレイン領域と、前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜と、前記酸化膜に接して設けられたシリコン窒化膜からなる側壁とを備え、さらに、前記ソース・ドレイン領域表面に形成したNiSi(モノシリサイド)を備えることを特徴とするMISトランジスタ。」

(4-2-2-2)'Impact of Surface Proximity Gettering and Nitrided Oxide Side-Wall Spacer by Nitrogen Implantation on Sub-Quarter Micron CMOS LDD FETs',S.Shimizu, T.Kuroi, Y.Kawasaki, S.Kusunoki, Y.Okumura, M.Inuishi, H.Miyoshi, International Electron Devices Meeting 1995, 1995.12.10, pp.859-862(以下、「刊行物2」という。)
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前に外国で頒布された刊行物2には、図1、図9ないし図12とともに、以下の事項が記載されている。
「[要約]
我々は、新規な窒素注入技術を用いた、超浅接合で且つ高信頼性のための、高度なサブクォーターミクロンCMOS形成プロセスを提案する。窒素原子が砒素原子やボロン原子の拡散経路を専有するばかりでなく、窒素原子のイオン注入により引き起こされる二次的欠陥が表面近傍のゲッタリングサイトとして機能することにより、PMOSFETとNMOSFETのソース/ドレインに注入された窒素原子は、不純物(原子)の拡散と漏れ電流を抑制することができる。さらにまた、基板と二酸化シリコンサイドウォールの間の界面への窒素の偏析により、サイドウォールスペーサの下での界面準位の生成を減少できるので、この技術は、CMOS LDD FETのホットキャリアによる劣化を顕著に抑制できる。
[導入]
実用的なサブクォーターミクロンCMOSを形成するための重要な課題は、浅い接合の形成及び信頼性であることは良く知られている。浅い接合では、MOSFETの短チャネル効果を抑制することが要求される。しかしながら、イオン注入と低温熱処理により形成された浅い接合は、イオン注入により発生する打ち込み範囲端部での欠陥による大きな漏れ電流を引き起こす傾向にある。さらに、供給電圧をサブクォーターミクロン領域まで減少できるものの、MOSFETのホットキャリアによる劣化は、大きな課題の一つである。アンモニア又は亜酸化窒素(N_(2)O)雰囲気中で急速熱処理(RTA)プロセスを利用して、ホットキャリア抵抗を改善するために、窒化酸化膜が集中的に研究されてきた。さらに、我々は、最近、ゲートポリシリコンに窒素をイオン注入することにより形成した、新たな窒化酸化(膜)を提案してきている。しかしながら、主に、サイドウォールスペーサの下での界面トラップ準位生成のために、これらの窒化ゲート酸化膜は、LDD構造のホットキャリアによる劣化の抑制には効果的でない。これらの課題を解決するために、われわれは、窒素のイオン注入を用いた、超浅のN^(+)/P接合形成について前回報告した。この論文では、我々は、単に窒素をソース/ドレイン領域にイオン注入することにより、浅いN^(+)/PとP^(+)/N接合の形成とLDD構造のホットキャリア抵抗の改善のための、新規で高度なCMOS技術を報告する。
[製造]
高度な窒素のイオン注入技術を用いた、サブクォーターミクロンのCMOSを製造するための重要なプロセスの手順を図1に図解する。LOCOSとレトログレイドツインウエルの形成の後、6nmのゲート酸化膜をウェット雰囲気中で形成した後、200nmのアンドープ多結晶シリコン膜を堆積した。電子ビーム直接描画と異方性ドライエッチングにより、ゲート電極を画定した後、NMOSFETとPMOSFET双方のソース/ドレイン領域に窒素イオンを注入した。比較のために、いくつかの試料には、シリコンイオンも注入した。窒素イオン及びシリコンイオンは、ドーズ量4×10^(15)/cm^(2)で注入し、その射程範囲がN^(+)/P^(+)ソース/ドレインへの砒素/ボロンイオンとほぼ同じ範囲となるように選択した。低エネルギーイオン注入とCVD二酸化シリコンのサイドウォールスペーサ形成による、LDD形成の後、ゲート電極及びソース/ドレイン領域に同時にイオン注入によりドープされた。イオン注入後のアニールにより、750℃より低い温度で浅い接合が形成された。」(第859頁左欄第1行ないし右欄第24行の訳文)
「ホットキャリア抵抗の改善
接合漏れ電流及びLDD抵抗の減少とともに、我々の新規に提案する窒素イオン注入技術により、主にサイドウォールスペーサの下での界面トラップ準位の生成により引き起こされる、LDD構造のホットキャリアにより劣化を効果的に抑制することができる。図9は、ソース/ドレインまで窒素をイオン注入した、LDD領域での窒素の深さ方向分布を示す。窒素原子は、比較的低温での熱処理においても、基板と二酸化シリコンサイドウォールの界面に偏析できることが分かった。図10は、窒素をイオン注入しないMOSFET、ゲートポリシリコンに窒素をイオン注入したMOSFET、及びソース/ドレインに窒素をイオン注入したMOSFETの、ドレインでのアバランシェホットキャリア注入の下でのドレイン電流の劣化を示した。ソース/ドレインへの窒素イオン注入により、劣化の顕著な抑制が観測された。改善は、基板と二酸化シリコンサイドウォールの界面への窒素の偏析によるものであり、結果として、二酸化シリコンサイドウォールの下での界面準位の生成が抑制できる。さらに、チャネルホットエレクトロンの注入の下でも、劣化は図11に示されるように抑制できる。図12は、PMOSFETのソース/ドレインへの窒素のイオン注入「有り」及び「無し」の場合での、ドレインアバランシェホットエレクトロン注入の下で閾値電圧のシフトを示す。PMOSFETのソース/ドレインへの窒素のイオン注入により、シフトは顕著に抑制できることが分かる。」(第860頁左欄第33行ないし同頁右欄第11行の訳文)

(4-2-3)対比・判断
補正発明と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物発明」という。)とを対比する。
(a)刊行物発明の「ポリシリコンゲート電極」、「LDDN^(-)層」、「シリコン窒化膜」、「側壁」及び「NiSi(モノシリサイド)」は、それぞれ補正発明の「ゲート電極」、「LDD領域」、「窒化シリコン層」、「サイドウォール」及び「シリサイド膜」に相当する。
(b)刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極の両側の前記半導体基板に形成されたLDDN^(-)層及びソース・ドレイン領域」は、補正発明の「前記ゲート電極を挟んで前記シリコン基板に形成されたLDD領域及びソース/ドレイン領域」に相当し、刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された」「膜」と、「前記」「膜に接して設けられたシリコン窒化膜からなる側壁」は、補正発明の「前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された」「層と前記」「層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォール」に相当する。
(c)刊行物発明の「NiSi(モノシリサイド)」がシリサイド膜であること、及び刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域」が「側壁」に隣接していることは明らかであるから、刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域表面に形成したNiSi(モノシリサイド)」は、補正発明の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面に」「形成したシリサイド膜」に相当する。

よって、補正発明と刊行物発明とは、
「シリコン基板と、
前記シリコン基板上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極を挟んで前記シリコン基板に形成されたLDD領域及びソース/ドレイン領域と、
前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された層と前記層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォールと、
前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面に形成したシリサイド膜と
を備えた
MISトランジスタ。」の点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1
補正発明は、「前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された窒化酸化シリコン層と前記窒化酸化シリコン層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォール」を備えるのに対して、
刊行物発明は、「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜と、前記酸化膜に接して設けられたシリコン窒化膜からなる側壁」を備えている点。
相違点2
補正発明は、「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」を備えるのに対して、
刊行物発明は、「前記ソース・ドレイン領域表面に形成したNiSi(モノシリサイド)」を備えているが、「NiSi(モノシリサイド)」が「シリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含」むか否か明らかでない点。
相違点3
補正発明は、「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、 前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含み、 前記窒素原子の濃度ピークが前記シリコン基板と前記窒化酸化シリコン層との界面にある」との構成を備えるのに対して、
刊行物発明は、上記構成を備えていない点。

各相違点について以下で検討する。
[相違点1について]
(a)刊行物2の図9(「Si-Sub(シリコン基板)」との記載あり)を参照すると、図1において、レトログレイドウエルが形成される基板がシリコン基板であることは明らかであり、図1(断面図及び製造プロセスフロー図)及びその説明(859頁右欄第5ないし24行)には、
(i)シリコン基板に二酸化シリコンゲート絶縁膜を形成し、(ii)二酸化シリコンゲート絶縁膜上に多結晶シリコンゲート電極を形成し、(iii)多結晶シリコンゲート電極をマスクとして、シリコン基板に窒素イオン及びLDD領域形成のための不純物をイオン注入し、(iv)多結晶シリコンゲート電極の側面に二酸化シリコンのサイドウォールスペーサーを形成し、(v)多結晶シリコンゲート電極及び二酸化シリコンのサイドウォールスペーサーをマスクとして、ソース/ドレイン領域形成のための不純物をイオン注入し、(vi)ソース/ドレイン領域に注入した不純物の活性化のためのアニールを窒素雰囲気で750℃より低い温度で行ない、その後(vii)配線形成を行なうことにより、MOSFETを形成する、MOSFET形成のための工程が記載されている。
(b)また、図9及びその説明(第860頁左欄第39ないし43行)から、上記(iii)工程の窒素イオンのシリコン基板へのイオン注入の後の上記(vi)工程のソース/ドレイン領域に注入した不純物の活性化のためのアニールにより、上記(iii)工程でイオン注入された窒素が、二酸化シリコンゲート絶縁膜と二酸化シリコンゲート絶縁膜に接するシリコン基板の表面に分布していると言える。
(c)上記(a)、上記(b)及び、上記(iii)工程[窒素イオン注入工程]及び(iv)工程[ソース/ドレイン領域のアニール工程]から、多結晶シリコンゲート電極の側面に接して形成された二酸化シリコンのサイドウォールスペーサーの下のシリコン基板と二酸化シリコンゲート絶縁膜との界面においても、図9に記載されていると同様に、イオン注入された窒素が、二酸化シリコンゲート絶縁膜と二酸化シリコンゲート絶縁膜に接するシリコン基板の表面に分布していると言える。
(d)また、二酸化シリコンゲート絶縁膜中に窒素が分布した膜、言い換えると、二酸化シリコンゲート絶縁膜中に窒素が含まれた膜は、窒化酸化シリコン膜と言える。
(e)刊行物発明において、従来周知の課題であるホットキャリア耐圧を改善するために、刊行物2に記載されるように、ゲート電極をマスクとして、窒素をイオン注入すること、言い換えると、刊行物発明において、「ポリシリコンゲート電極」をマスクとして、二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」を介して「シリコン基板」に窒素をイオン注入することにより、上記(c)及び(d)で検討したとおり、ソース・ドレイン領域へのイオン注入の後の活性化のためのアニール処理により、「シリコン基板」と二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」との界面の両側の「シリコン基板」と二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」には、イオン注入された窒素が分布することになり、二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」は実質的に窒化酸化シリコン膜となることは明らかである。
(f)一方、本願明細書の、図1ないし図4及び0012段落ないし0015段落、特に、「次に、シリコンが露出している領域前面に窒素の注入を行った後、LDD領域6を形成する。」(0013段落)、「このサイドウォール15は、2層構造を有しており、シリコン基板1に接するように形成されたバッファ層13と、このバッファ層13上に形成された窒化シリコン層14とからなる。」(0014段落)、「ソース/ドレインが形成されるべき領域に不純物を添加した後に1000℃前後の温度で30秒間RTAを行い、ソース/ドレイン領域8を形成した状態が図3に示されている。この時、ゲート電極5の多結晶シリコン中の窒素およびソース/ドレイン領域8中の窒素がゲート絶縁膜4およびサイドウォール15のバッファ層13に入り込み、ゲート絶縁膜4およびサイドウォール15のバッファ層13が窒化される。このシリコン基板1の深さ方向の窒素の濃度が図4に示されている。」(0015段落)との記載から、二酸化シリコン膜からなるバッファ層が窒化されること、言い換えると、イオン注入により半導体基板中に注入された窒素が、ソース/ドレイン領域8形成のための熱処理(1000℃前後の温度で30秒間RTA)により、シリコン半導体基板に注入されていた窒素が半導体基板上に窒素のイオン注入の後に形成された二酸化シリコン膜からなるバッファ層に拡散することにより、二酸化シリコン膜からなるバッファ層が窒化酸化シリコン層となることは明らかである。
(g)上記(e)及び上記(f)で検討したとおり、刊行物2に記載される窒素のイオン注入技術を刊行物発明に用いた際にも、本願明細書に記載されると同様なメカニズム(半導体基板に注入された窒素がソース・ドレイン領域形成のためのアニール処理により、半導体基板表面に形成された二酸化シリコン膜にも窒素が分布することにより、半導体基板上に形成された二酸化シリコン膜は、実質的に、窒化酸化シリコン膜となる)により、窒化酸化シリコン膜が形成されることは明らかであって、刊行物発明に、ホットキャリアによる劣化を抑制するために、刊行物2に記載される如き、ゲート電極をマスクとして半導体基板に窒素をイオン注入する、窒素イオン注入技術を用いて、刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」を実質的に、窒化酸化シリコン膜とすることにより、刊行物発明を、補正発明の如く、「前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された窒化酸化シリコン層と前記窒化酸化シリコン層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォール」を備えたものとすることは当業者が容易になし得たものである。

[相違点2について]
(a)刊行物1には、図2(a)ないし(c)と共に、「ゲート電極5および側壁7をマスクに、例えばAs(ヒソ)をドーズ量3E15,加速電圧50keVの条件でイオン注入し、1000℃20″のランプ加熱によって活性化したソース・ドレイン領域8を形成する。この後、例えば100:3の希HFのエッチング液を用いて、ソース・ドレイン領域8およびゲート電極5上で、シリコン基板1、ゲートポリシリコン5の表面を露出させる(図2(a))。 さらに、例えばCVD法により、遷移8族の金属であるNi(図中、付番9)を例えば200Å堆積させる(図2(b))。 次に、580℃ 1分の熱処理を施し、ゲート電極5、およびソース・ドレイン領域8上のNi膜9をシリコンと反応させて約700ÅのNiSi(図中、付番10)を形成する。この後、HCl:H_(2) O_(2) :H_(2) O=1:1:2の混合比の溶液で15分の選択エッチングを行い、側壁7上の未反応Niを除去する(図2(c))。」(0028段落ないし0030段落)と記載されており、刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域表面に」形成された「NiSi(モノシリサイド)」は、「ソース・ドレイン領域8上のNi膜9をシリコンと反応させて約700ÅのNiSi」「を形成」している(0030段落)。
(b)一方、本願明細書には、図5ないし図7とともに「次に、サリサイドプロセスを用いて、ゲート電極5の上に、およびソース/ドレイン領域8上にシリサイド膜が形成される。このサリサイドプロセスにおいて、まず、コバルトCoをスパッタ法により堆積する(図5参照)。このミキシングによってシリコン基板1とシリサイド膜10との界面が平坦化される。ここでは、2段階のRTAを用いて、シリサイド反応を進め、図6にあるように、コバルトシリサイド膜10を形成する。その後の未反応の金属膜9を除去したときのシリコン基板1の断面が図7に示されている。」(0015段落)と記載されており、補正発明の「シリサイド膜」は、ソース/ドレイン領域8上に堆積したコバルトCo(9)を熱処理(RTA)によりシリサイド反応をさせてシリサイド膜10を形成しており、また、請求項2に「前記金属は、コバルトもしくはニッケルである、請求項1に記載のMISトランジスタ」と記載されているから、補正発明の「前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」には、ニッケルのシリサイド膜が含まれることは明らかである。(c)次に、補正発明においては、「シリサイド膜」を「シリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」と限定しているが、上記(a)及び(b)で検討したとおり、刊行物1及び本願明細書のいずれにおいても、ソース・ドレイン領域上に形成したNiを、ソース・ドレイン領域の活性化のための熱処理により、「シリサイド膜」を形成している点において共通しており、「前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」について、「シリサイド膜」を構成する「金属」が「シリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属」であるか否かにより、形成されたMISトランジスタの特性がどのように異なるか不明であり、また、補正発明には「シリサイド反応」そのもの、例えば、「拡散種となる金属」の種類、シリサイド反応時の温度・時間・雰囲気等の条件等、について何らの限定もないから、刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域表面に形成したNiSi(モノシリサイド)」は、補正発明の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」と実質的に同等であると言える。
したがって、相違点2は、実質的なものではない。

[相違点3について]
(a)上記[相違点1について]の(a)ないし(e)において検討したとおり、刊行物2に記載される、窒素イオンを二酸化シリコンゲート絶縁膜を介してソース/ドレイン領域に対応するシリコン基板にイオン注入し、その後、ソース/ドレイン領域の活性化のための熱処理を行うことにより、シリコン基板にイオン注入された窒素は、ソース/ドレイン領域であるシリコン基板及びシリコン基板に接する二酸化シリコンゲート絶縁膜に分布すること及び、シリコン基板に接する二酸化シリコンゲート絶縁膜は、実質的に窒化酸化シリコン膜となることは明らかである。
(b)刊行物2の「図9は、ソース/ドレインまで窒素をイオン注入した、LDD領域での窒素の深さ方向分布を示す。窒素原子は、比較的低温での熱処理においても、基板と二酸化シリコンサイドウォールの界面に偏析できることが分かった。」(第860頁左欄第39ないし43行)及び図9より、刊行物2には、窒素原子をシリコン基板にイオン注入し、アニール処理した後において、窒素原子がシリコン基板とシリコン基板上に形成した二酸化シリコン膜(SiO_(2)膜)との界面において最大値となることが記載されており、上記[相違点1について]の(e)ないし(g)における検討をも併せ考慮すると、刊行物発明に、刊行物2に記載される、窒素のイオン注入技術を用いることにより、刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極の両側の前記シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層及びソース・ドレイン領域と、前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」において、「シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層」、言い換えると、「ソース・ドレイン領域」及び「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」にイオン注入された窒素が分布し、「シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層」と「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」との界面において窒素原子の濃度が最大値となることは明らかである。
(c)上記(a)及び(b)より、刊行物発明に、従来周知の課題である、ホットキャリア耐圧を改善するために、刊行物2に記載される、窒素のイオン注入技術を用いることにより、刊行物発明は、実質的に、補正発明の如く、「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、 前記ソース/ドレイン領域に窒素原子を含み、 前記窒素原子の濃度ピークが前記シリコン基板と前記窒化酸化シリコン層との界面にある」との構成を備えたものとなることは明らかである。
したがって、相違点3については、当業者が刊行物1及び2に記載された発明に基づいて何らの困難性もなくなし得たものである。

よって、補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(4-3)むすび
よって、補正発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、仮に、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているとしても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、補正発明を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、適法でない補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成17年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明について検討するに、平成17年3月30日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の補正後の請求項1に係る発明の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜」について、本願明細書の0011段落ないし0017段落の記載から、「シリサイド膜」が「シリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含む」こと及び、「シリサイド膜」が「シリサイド反応」により形成されることは明らかであるから、上記補正後の請求項1の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含むシリサイド膜」は、「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」の誤記であると認定し、上記補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものとする。

「【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極を挟んで前記シリコン基板に形成されたLDD領域及びソース/ドレイン領域と、
前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された窒化酸化シリコン層と前記窒化酸化シリコン層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォールと、
前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜と
を備え、
前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、前記窒素原子の濃度ピークが前記シリコン基板と前記窒化酸化シリコン層との界面にあるMISトランジスタ。」

4.刊行物に記載された発明
刊行物1及び刊行物2に記載された事項は、「2.(4-2-2)刊行物に記載された発明」の「(4-2-2-1)」及び「(4-2-2-2)」に記載されたとおりであり、さらに、刊行物1に記載された発明は、以下のとおりである。
「シリコン基板と、前記シリコン基板表面にゲート絶縁膜を介して形成されたポリシリコンゲート電極と、前記ポリシリコンゲート電極の両側の前記シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層及びソース・ドレイン領域と、前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜と、前記酸化膜に接して設けられたシリコン窒化膜からなる側壁とを備え、さらに、前記ソース・ドレイン領域表面に形成したNiSi(モノシリサイド)を備えることを特徴とするMISトランジスタ。」

5.対比・検討
本願発明と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物発明」という。)とを対比・検討する。
(a)刊行物発明の「ポリシリコンゲート電極」、「LDDN^(-)層」、「シリコン窒化膜」、「側壁」及び「NiSi(モノシリサイド)」は、それぞれ本願発明の「ゲート電極」、「LDD領域」、「窒化シリコン層」、「サイドウォール」及び「シリサイド膜」に相当する。
(b)刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極の両側の前記半導体基板に形成されたLDDN^(-)層及びソース・ドレイン領域」は、本願発明の「前記ゲート電極を挟んで前記シリコン基板に形成されたLDD領域及びソース/ドレイン領域」に相当し、刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された」「膜」と、「前記」「膜に接して設けられたシリコン窒化膜からなる側壁」は、本願発明の「前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された」「層と前記」「層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォール」に相当する。
(c)刊行物発明の「NiSi(モノシリサイド)」がシリサイド膜であること、及び刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域」が「側壁」に隣接していることは明らかであるから、刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域表面にNiSi(モノシリサイド)を形成したこと」は、本願発明の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面に」形成された「シリサイド膜」に相当する。

よって、本願発明と刊行物発明とは、
「シリコン基板と、
前記シリコン基板上に形成されたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極を挟んで前記シリコン基板に形成されたLDD領域及びソース/ドレイン領域と、
前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された層と前記層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォールと、
前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面に形成したシリサイド膜と
を備えたMISトランジスタ。」の点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1
本願発明は、「前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された窒化酸化シリコン層と前記窒化酸化シリコン層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォール」を備えるのに対して、
刊行物発明は、「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜と、前記酸化膜に接して設けられたシリコン窒化膜からなる側壁」を備えている点。
相違点2
本願発明は、「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」を備えるのに対して、
刊行物発明は、「前記ソース・ドレイン領域表面にNiSi(モノシリサイド)を形成したこと」との構成を備えている点。
相違点3
本願発明は、「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、 前記窒素原子の濃度ピークが前記シリコン基板と前記窒化酸化シリコン層との界面にある」との構成を備えるのに対して、
刊行物発明は、上記構成を備えていない点。

6.当審の判断
各相違点について以下で検討する。
[相違点1について]
(a)刊行物2の図9(「Si-Sub(シリコン基板)」との記載あり)を参照すると、図1において、レトログレイドウエルが形成される基板がシリコン基板であることは明らかであり、図1(断面図及び製造プロセスフロー図)及びその説明(第859頁右欄第5ないし24行)には、
(i)シリコン基板に二酸化シリコンゲート絶縁膜を形成し、(ii)二酸化シリコンゲート絶縁膜上に多結晶シリコンゲート電極を形成し、(iii)多結晶シリコンゲート電極をマスクとして、シリコン基板に窒素イオン及びLDD領域形成のための不純物をイオン注入し、(iv)多結晶シリコンゲート電極の側面に二酸化シリコンのサイドウォールスペーサーを形成し、(v)多結晶シリコンゲート電極及び二酸化シリコンのサイドウォールスペーサーをマスクとして、ソース/ドレイン領域形成のための不純物をイオン注入し、(vi)ソース/ドレイン領域に注入した不純物の活性化のためのアニールを窒素雰囲気で750℃より低い温度で行ない、その後(vii)配線形成を行なうことにより、MOSFETを形成する、MOSFET形成のための工程が記載されている。
(b)また、図9及びその説明(860頁左欄第39ないし43行)から、上記(iii)工程の窒素イオンのシリコン基板へのイオン注入の後の上記(vi)工程のソース/ドレイン領域に注入した不純物の活性化のためのアニールにより、上記(iii)工程でイオン注入された窒素が、二酸化シリコンゲート絶縁膜と二酸化シリコンゲート絶縁膜に接するシリコン基板の表面に分布していると言える。
(c)上記(a)、上記(b)及び、上記(iii)工程[窒素イオン注入工程]及び(iv)工程[ソース/ドレイン領域のアニール工程]から、多結晶シリコンゲート電極の側面に接して形成された二酸化シリコンのサイドウォールスペーサーの下のシリコン基板と二酸化シリコンゲート絶縁膜との界面においても、図9に記載されていると同様に、イオン注入された窒素が、二酸化シリコンゲート絶縁膜と二酸化シリコンゲート絶縁膜に接するシリコン基板の表面に分布していると言える。
(d)また、二酸化シリコンゲート絶縁膜中に窒素が分布した膜、言い換えると、二酸化シリコンゲート絶縁膜中に窒素が含まれた膜は、窒化酸化シリコン膜と言える。
(e)刊行物発明において、従来周知の課題であるホットキャリア耐圧を改善するために、刊行物2に記載されるように、ゲート電極をマスクとして、窒素をイオン注入すること、言い換えると、刊行物発明において、「ポリシリコンゲート電極」をマスクとして、二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」を介して「シリコン基板」に窒素をイオン注入することにより、上記(c)及び(d)で検討したとおり、ソース・ドレイン領域へのイオン注入の後の活性化のためのアニール処理により、「シリコン基板」と二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」との界面の両側の「シリコン基板」と二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」には、イオン注入された窒素が分布することになり、二酸化シリコン「ゲート絶縁膜」は実質的に窒化酸化シリコン膜となることは明らかである。
(f)一方、本願明細書の、図1ないし図4及び0012段落ないし0015段落、特に、「次に、シリコンが露出している領域前面に窒素の注入を行った後、LDD領域6を形成する。」(0013段落)、「このサイドウォール15は、2層構造を有しており、シリコン基板1に接するように形成されたバッファ層13と、このバッファ層13上に形成された窒化シリコン層14とからなる。」(0014段落)、「ソース/ドレインが形成されるべき領域に不純物を添加した後に1000℃前後の温度で30秒間RTAを行い、ソース/ドレイン領域8を形成した状態が図3に示されている。この時、ゲート電極5の多結晶シリコン中の窒素およびソース/ドレイン領域8中の窒素がゲート絶縁膜4およびサイドウォール15のバッファ層13に入り込み、ゲート絶縁膜4およびサイドウォール15のバッファ層13が窒化される。このシリコン基板1の深さ方向の窒素の濃度が図4に示されている。」(0015段落)との記載から、二酸化シリコン膜からなるバッファ層が窒化されること、言い換えると、イオン注入により半導体基板中に注入された窒素が、ソース/ドレイン領域8形成のための熱処理(1000℃前後の温度で30秒間RTA)により、シリコン半導体基板に注入されていた窒素が半導体基板上に窒素のイオン注入の後に形成された二酸化シリコン膜からなるバッファ層に拡散することにより、二酸化シリコン膜からなるバッファ層が窒化酸化シリコン層となることは明らかである。
(g)上記(e)及び上記(f)で検討したとおり、刊行物2に記載される窒素のイオン注入技術を刊行物発明に用いた際にも、本願明細書に記載されると同様なメカニズム(半導体基板に注入された窒素がソース・ドレイン領域形成のためのアニール処理により、半導体基板表面に形成された二酸化シリコン膜にも窒素が分布することにより、半導体基板上に形成された二酸化シリコン膜は、実質的に、窒化酸化シリコン膜となる)により、窒化酸化シリコン膜が形成されることは明らかであって、刊行物発明に、ホットキャリアによる劣化を抑制ため、刊行物2に記載される如き、ゲート電極をマスクとして半導体基板に窒素をイオン注入する、窒素イオン注入技術を用いて、刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」を実質的に、窒化酸化シリコン膜とすることにより、刊行物発明を、本願発明の如く、「前記ゲート電極側面に隣接し前記LDD領域上に接して形成された窒化酸化シリコン層と前記窒化酸化シリコン層上に形成された窒化シリコン層とを有するサイドウォール」を備えたものとすることは当業者が容易になし得たものである。

[相違点2について]
(a)刊行物1には、図2(a)ないし(c)と共に、「ゲート電極5および側壁7をマスクに、例えばAs(ヒソ)をドーズ量3E15,加速電圧50keVの条件でイオン注入し、1000℃20″のランプ加熱によって活性化したソース・ドレイン領域8を形成する。この後、例えば100:3の希HFのエッチング液を用いて、ソース・ドレイン領域8およびゲート電極5上で、シリコン基板1、ゲートポリシリコン5の表面を露出させる(図2(a))。 さらに、例えばCVD法により、遷移8族の金属であるNi(図中、付番9)を例えば200Å堆積させる(図2(b))。 次に、580℃ 1分の熱処理を施し、ゲート電極5、およびソース・ドレイン領域8上のNi膜9をシリコンと反応させて約700ÅのNiSi(図中、付番10)を形成する。この後、HCl:H_(2) O_(2) :H_(2) O=1:1:2の混合比の溶液で15分の選択エッチングを行い、側壁7上の未反応Niを除去する(図2(c))。」(0028段落ないし0030段落)と記載されており、刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域表面に」形成された「NiSi(モノシリサイド)」は、「ソース・ドレイン領域8上のNi膜9をシリコンと反応させて約700ÅのNiSi」「を形成」している(0030段落)。
(b)一方、本願明細書には、図5ないし図7とともに「次に、サリサイドプロセスを用いて、ゲート電極5の上に、およびソース/ドレイン領域8上にシリサイド膜が形成される。このサリサイドプロセスにおいて、まず、コバルトCoをスパッタ法により堆積する(図5参照)。このミキシングによってシリコン基板1とシリサイド膜10との界面が平坦化される。ここでは、2段階のRTAを用いて、シリサイド反応を進め、図6にあるように、コバルトシリサイド膜10を形成する。その後の未反応の金属膜9を除去したときのシリコン基板1の断面が図7に示されている。」(0015段落)と記載されており、本願発明の「シリサイド膜」は、ソース/ドレイン領域8上に堆積したコバルトCo(9)を熱処理(RTA)によりシリサイド反応をさせてシリサイド膜10を形成しており、また、請求項2に「前記金属は、コバルトもしくはニッケルである、請求項1に記載のMISトランジスタ」と記載されているから、本願発明の「前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」には、ニッケルのシリサイド膜が含まれることは明らかである。(c)次に、本願発明においては、「シリサイド膜」を「シリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」と限定しているが、上記(a)及び(b)で検討したとおり、刊行物1及び本願明細書のいずれにおいても、ソース・ドレイン領域上に形成したNiを、ソース・ドレイン領域の活性化のための熱処理により、「シリサイド膜」を形成している点において共通しており、「前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」について、「シリサイド膜」を構成する「金属」が「シリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属」であるか否かにより、形成されたMISトランジスタの特性がどのように異なるか不明であり、また、本願発明には「シリサイド反応」そのもの、例えば、「拡散種となる金属」の種類、シリサイド反応時の温度・時間・雰囲気等の条件等、について何らの限定もないから、刊行物発明の「前記ソース・ドレイン領域表面に形成したNiSi(モノシリサイド)」は、本願発明の「前記サイドウォールに隣接し前記ソース/ドレイン領域表面にシリサイド反応時にシリコンに対し拡散種となる金属を含み、前記シリサイド反応で形成したシリサイド膜」と実質的に同等であると言える。
したがって、相違点2は、実質的なものではない。

[相違点3について]
(a)上記[相違点1について]の(a)ないし(e)において検討したとおり、刊行物2に記載される、窒素イオンを二酸化シリコンゲート絶縁膜を介してソース/ドレイン領域に対応するシリコン基板にイオン注入し、その後、ソース/ドレイン領域の活性化のための熱処理を行うことにより、シリコン基板にイオン注入された窒素は、ソース/ドレイン領域であるシリコン基板及びシリコン基板に接する二酸化シリコンゲート絶縁膜に分布すること及び、シリコン基板に接する二酸化シリコンゲート絶縁膜は、実質的に窒化酸化シリコン膜となることは明らかである。
(b)刊行物2の「図9は、ソース/ドレインまで窒素をイオン注入した、LDD領域での窒素の深さ方向分布を示す。窒素原子は、比較的低温での熱処理においても、基板と二酸化シリコンサイドウォールの界面に偏析できることが分かった。」(第860頁左欄第39ないし43行)及び図9より、刊行物2には、窒素原子をシリコン基板にイオン注入し、アニール処理した後において、窒素原子がシリコン基板とシリコン基板上に形成した二酸化シリコン膜(SiO_(2)膜)との界面において最大値となることが記載されており、上記[相違点1について]の(e)ないし(g)における検討をも併せ考慮すると、刊行物発明に、刊行物2に記載される、窒素のイオン注入技術を用いることにより、刊行物発明の「前記ポリシリコンゲート電極の両側の前記シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層及びソース・ドレイン領域と、前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」において、「シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層」言い換えると、シリコン基板の表面、及び「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」にイオン注入された窒素が分布し、「シリコン基板に形成されたLDDN^(-)層」、言い換えると、シリコン半導体基板の表面と「前記ポリシリコンゲート電極に接し、前記LDDN^(-)層上に形成された酸化膜」との界面において窒素原子の濃度が最大値となることは明らかである。
(c)上記(a)及び(b)より、刊行物発明に、従来周知の課題である、ホットキャリア耐圧を改善するために、刊行物2に記載される、窒素のイオン注入技術を用いることにより、刊行物発明は、実質的に、本願発明の如く、「前記シリコン基板表面から前記窒化酸化シリコン層に窒素原子が分布し、 前記窒素原子の濃度ピークが前記シリコン基板と前記窒化酸化シリコン層との界面にある」との構成を備えたものとなることは明らかである。
したがって、相違点3については、当業者が刊行物1及び2に記載された発明に基づいて何らの困難性もなくなし得たものである。

よって、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2ないし5について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-26 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-21 
出願番号 特願平8-329473
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿引 隆▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 井原 純
棚田 一也
発明の名称 MISトランジスタ及びその製造方法  
代理人 吉田 茂明  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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