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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1173947
審判番号 不服2005-15861  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-18 
確定日 2008-03-06 
事件の表示 平成 8年特許願第111708号「グラフィック表示方法、グラフィック表示装置、ナビゲーション装置およびレーダ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月18日出願公開、特開平 9-297530〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年5月2日に出願したものであって、平成17年7月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月18日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月20日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成17年9月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年9月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲請求項1、2、7、8、13、14についての補正を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項7は、
「【請求項7】直角座標系の画素毎の表示データを記憶する第1のフレームメモリと、表示部の直角座標系の画素毎の表示データを記憶する第2のフレームメモリと、基準方位を基準として第1のフレームメモリに対して表示データを書き込む描画手段と、第1のフレームメモリに対する表示データの書き込みとは非同期で、前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて、第2のフレームメモリ内の転送先となる画素毎に、当該画素のアドレスに対応する第1のフレームメモリ内の転送元となる領域のアドレスを求め、当該アドレスで指定される第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込むことによって表示データの転送を行う表示データ転送手段と、第2のフレームメモリに記憶されている表示データに応じて前記表示部の各画素の表示を行う表示手段とからなるグラフィック表示装置。」
と補正された。
上記請求項7に係る補正は、補正前の請求項7に記載した発明を特定するために必要な事項である「描画手段」について、「基準方位を基準として」書き込みを行うことを追加し、「前記座標変換パラメータ」が「回転角度情報を含む」に代えて、「前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む」と補正するものである。
ここで、前記「描画手段」に係る補正は、書き込みを「基準方位を基準として」行うことを限定するものである。
他方、前記「前記座標変換パラメータ」に係る補正では、補正前には「回転角度情報を含む」として「回転角度情報」と表現されていたところを、単に「角度情報」としているものの、「前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む」と表現された場合には、当然に回転を前提として「角度情報」を扱っているといえることから、補正前の表現に限定を加えたものと解される。
してみるに、前記請求項7に係る補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項7に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-142995号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は車載ナビゲータの経路誘導方法に係り、特に地図に強調的に誘導経路を重ねて画面に表示するようにした車載ナビゲータの経路誘導方法に関する。」

段落【0004】「このような車載ナビゲータには、地図データを用いて出発地から目的地までを結ぶ最適な誘導経路を探索して、誘導経路データを誘導経路メモリに記憶しておき、走行中、誘導経路メモリに記憶された誘導経路データを用いて、画面の地図画像上に特定色で太く強調した誘導経路を重ねて表示し、出発地から目的地まで所定の経路誘導を行うようにした経路誘導機能を持ったものがある。かかる経路誘導機能によれば、画面に表示された経路誘導に従って走行するだけで、行楽やビジネスなどの際に、所望の目的地に容易、かつ、確実に到達することができる。」

段落【0005】「【発明が解決しようとする課題】従来、誘導経路を含む地図画像を画面に表示する方法には、図11の実線Aに示す如く、走行中、常に地図画像上の北の方向が画面の上を向くようしたノースアップモード法と、図11の一点鎖線Bに示す如く、走行中、常に、地図画像上の車両進行方向が画面の上を向くようにしたヘッディングアップモード法があり、車載ナビゲータでは一方だけのモードで表示したり、または、2つのモードの中からユーザの操作で選択された方のモードにより表示するようにしてある。」

段落【0012】「【実施例】図1は本発明に係わる経路誘導方法を具現した車載ナビゲータの全体構成図である。」

段落【0013】「図において、1は地図データ記憶手段となるCD-ROM、2は操作盤であり、左、右、上、下方向のスクロールキー、経路誘導モード設定キー、表示モード選択キー、目的地入力キー、地図検索,拡大/縮小用のキー、スタートキー等を備えている。3は車両方位と車両位置を自立航法で検出する車両位置検出部、4はCRTディスプレイ装置であり、映像信号を入力して画面に地図を、カーソルマーク、車両位置マーク、強調誘導経路などとともに表示する。表示モードは、ユーザの選択により、地図画像上の北が常に画面の上向きとなるようにするノースアップモードと、車両の移動に関わらず、車両進行方向が常に画面の上向きとなるように地図画像を移動しながら表示するヘッディングアップモードと、車両の移動に関わらず、車両位置から見た目的地方向が常に画面の上向きとなるように地図画像を移動しながら表示する目的地アップモード(目的地指向モード)の3つを切り換えられるようになっている。」

段落【0014】「10はマイコン構成のナビゲーションコントローラであり、出発地と目的地から最適な誘導経路をシュミレーション計算により決定したり、車両位置周辺の地図画像を、必要によりカーソルマーク、車両位置マーク、強調誘導経路などとともにCRTディスプレイ装置4の画面に表示させたりする。この内、11はCD-ROM1から読み出した地図データを一時的に格納するバッファメモリ、12はカーソル位置計算部であり、操作盤2のスクロールキー、地図検索,拡大/縮小用のキー等で地図の選択操作やスクロール操作がなされたとき、画面上の地図の中央に相当する経度と緯度を計算してカーソル位置として出力する。13は地図画像描画部であり、走行開始前において、操作盤2の地図検索,拡大/縮小用等のキーで選択された所望の地図と周辺の地図のデータをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出すとともに後述する第1V-RAMに所望地図と周辺地図と合わせた9枚分の地図画像を描画したり、スクロール操作に応じてカーソル位置計算部12から入力されるカーソル位置データが変化するのに従い、必要により新たな地図データをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出しながら常にカーソル位置が中央となるように第1V-RAMの地図画像を書き換え、かつ、第1V-RAMの中央にカーソルマークを描画する。また、地図画像描画部13は走行中(操作盤2のスタートキーの押圧後)、車両位置検出部3から出力される車両位置データが変化するのに従い、必要により新たな地図データをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出しながら、現在位置が中央で、北が上向きとなるように第1V-RAMの地図画像を書き換える。また、地図画像描画部13は走行中、車両位置検出部3から入力する車両方位データに基づき車両位置マークを第1V-RAMの中央に所定方向に向けて描画するとともに、経路誘導モードにおいて、後述する誘導経路メモリに記憶された誘導経路データの中から、現在、第1V-RAMに描画されている地図画像の範囲に入る誘導経路データを入力して、他の道路とは異なる色で太く強調した誘導経路を描画する(図2参照)。」

段落【0017】「17は第1V-RAMであり、地図画像描画部13で描画された地図画像(走行開始前におけるスクロール操作時はカーソルマークを含み、経路誘導モード下で走行中は、車両位置マークと、他の道路と色違いの太い強調誘導経路を含む)を北が上向きとなるようにして格納する(経路誘導モード下で走行中の例を図2に示す)。18は第2V-RAMであり、第1V-RAMに描画された地図画像の内、所定の1画面分の範囲が描画される。」

段落【0018】「20は回転部であり、・・・、表示モードがヘッディングアップモードのとき、車両位置検出部3から入力した車両方位データに基づき、第1V-RAM17に描画された地図画像を、中央を中心として車両進行方向が上向きとなるように、北の方位と車両方位の差の角度だけ回転させるとともに、1画面分の範囲を切り出して第2V-RAM18に書き込む。」

段落【0019】「21は第2V-RAM18から読み出された画像データを映像信号に変換してCRTディスプレイ装置4へ出力する映像変換部である。」

前記段落【0001】及び【0004】の記載から、車載ナビゲータは地図データを用いて出発地から目的地までを結ぶ最適な誘導経路を探索して、誘導経路データを誘導経路メモリに記憶しておき、走行中、誘導経路メモリに記憶された誘導経路データを用いて、画面の地図画像上に誘導経路を重ねて表示し、出発地から目的地まで所定の経路誘導を行うようにした経路誘導機能を持っているとされる。

また、前記段落【0005】の記載から、車載ナビゲータにおける画面表示方法には、走行中、常に、地図画像上の車両進行方向が画面の上を向くようにしたヘッディングアップモード法があるとされる。

前記段落【0012】及び【0013】の記載から、実施例に係る車載ナビゲータの構成として、以下のものが把握できる。
地図データ記憶手段となるCD-ROM1と、車両方位と車両位置を自立航法で検出する車両位置検出部3と、CRTディスプレイ4とを備え、映像信号を入力して画面に地図を、車両位置マーク、強調誘導経路などとともに表示する車載ナビゲータであって、
表示モードとして、ユーザの選択により、地図画像上の北が常に画面の上向きとなるようにするノースアップモードと、車両の移動に関わらず、車両進行方向が常に画面の上向きとなるように地図画像を移動しながら表示するヘッディングアップモードと、車両の移動に関わらず、車両位置から見た目的地方向が常に画面の上向きとなるように地図画像を移動しながら表示する目的地アップモード(目的地指向モード)の3つを切り換えられるものである。

また、前記段落【0014】及び【0017】の記載からは、実施例に係る車載ナビゲータは、マイコン構成のナビゲーションコントローラを備えたものであって、出発地と目的地から最適な誘導経路をシュミレーション計算により決定したり、車両位置周辺の地図画像を、必要によりカーソルマーク、車両位置マーク、強調誘導経路などとともにCRTディスプレイ装置4の画面に表示させたりするものであること、地図画像描画部13は、地図データをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出すとともに、必要により新たな地図データをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出し、常にカーソル位置が中央となるように第1V-RAMの地図画像を書き換えていること、同地図画像描画部13は、走行中、車両位置検出部3から出力される車両位置データが変化するのに従い、必要により新たな地図データをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出しながら、現在位置が中央で、北が上向きとなるように第1V-RAMの地図画像を書き換えていること、が把握できる。

さらに、前記段落【0018】及び【0019】の記載からは、実施例に係る車載ナビゲータは、これの備える回転部20により、表示モードがヘッドアップモードのときに、車両位置検出部3から入力される車両方位データに基づき、第1V-RAM17に描画された地図画像を、中央を中心として車両進行方向が上向きとなるように、北の方位と車両方位の差の角度だけ回転させるとともに、1画面分の範囲を切り出して第2V-RAM18に書き込んでおり、映像変換部21により、第2V-RAM18から読み出された画像データが映像信号に変換されてCRTディスプレイ装置4へ出力されていること、が把握できる。

してみると、当該刊行物に記載される車載ナビゲータに係る実施例から、以下の発明が把握できる。

「マイコン構成のナビゲーションコントローラ及びCRTディスプレイ装置4とを備えたものであって、
当該コントローラには、
地図データ記憶手段であるCD-ROM1から地図画像描画部13により読み出された地図データを記憶しており、常に現在位置が中央で、北が上向きとなるように書き換えられている第1V-RAM17と、
映像変換部21により読み出され映像信号に変換されてCRTディスプレイ装置4へ出力される画像データを記憶している第2V-RAM18と、
表示モードがヘッドアップモードのときに、車両位置検出部3から入力される車両方位データに基づき、第1V-RAM17に描画された地図画像を、中央を中心として車両進行方向が上向きとなるように、北の方位と車両方位の差の角度だけ回転させるとともに、1画面分の範囲を切り出して第2V-RAM18に書き込む回転部20と、
前記第2V-RAM18から読み出した画像データを映像信号に変換してCRTディスプレイ装置4へ出力する映像変換部21と、
を備えている車載ナビゲータ装置。」
以下、「刊行物記載発明」という。

(3)対比
本願補正発明と刊行物記載発明とを対比する。

刊行物記載発明の「車載ナビゲータ装置」は、マイコン構成のナビゲーションコントローラ及び当該コントローラで調整された表示データを表示するCRTディスプレイ装置4とを備えた構成であって、このような構成において、V-RAMとは扱う画像データを画素として記憶する手段であって、一般に直角座標系の画素として扱われていることは技術常識に属することであるから、第1V-RAMに記憶されている地図データ或いは第2V-RAMに記憶されている画像データはいずれも直角座標系の画素であると解される。
してみれば、刊行物記載発明の「車載ナビゲータ装置」は、
直角座標系の画素毎の表示データを記憶している「第1のフレームメモリ」と称し得る「第1V-RAM」と、
直角座標系の画素毎の表示データを記憶する「第2のフレームメモリ」と称し得る「第2V-RAM」と、
「第1V-RAM」に対して表示データを、CD-ROM1から読み出して書き込む「描画手段」と称し得る「地図画像描画部」と、「第1V-RAM」の画素の表示データを「第2V-RAM」に転送・書き込みする「表示データ転送手段」と称し得る「回転部」と、
「第2V-RAM」に記憶されている表示データに応じて各画素の表示を行う「表示部」と称し得るCRTディスプレイ装置へ映像信号を出力する「表示手段」と称し得る「映像変換部」とからなるグラフィック表示装置であることは、当業者にとって、明らかなことである。

よって、本願補正発明と刊行物記載発明の両者は、以下の一致点を有するものの、以下の相違点を有している。

<一致点>
「直角座標系の画素毎の表示データを記憶する第1のフレームメモリと、表示部の直角座標系の画素毎の表示データを記憶する第2のフレームメモリと、第1のフレームメモリに対して表示データを書き込む描画手段と、第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込むことによって表示データの転送を行う表示データ転送手段と、第2のフレームメモリに記憶されている表示データに応じて前記表示部の各画素の表示を行う表示手段とからなるグラフィック表示装置。」

<相違点>
本願補正発明においては、
描画手段が、第1のフレームメモリに対して表示データを書き込むに際して、「基準方位を基準として」行うことが特定され、
表示データの転送を行う表示データ転送手段が、第1のフレームメモリに対する表示データの書き込みとは非同期で、前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて、第2のフレームメモリ内の転送先となる画素毎に、当該画素のアドレスに対応する第1のフレームメモリ内の転送元となる領域のアドレスを求め、当該アドレスで指定される第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込むことが特定されているのに対して、
刊行物記載発明では、前記特定を備えるか定かでない点。

(4)判断
(4-1)描画手段が、第1のフレームメモリに対して表示データを書き込むに際して、「基準方位を基準として」行うこと、について

本願補正発明における「基準方位」の意味内容について検討するに、本願出願当初の特許請求の範囲において、請求項1?10には「基準方位」の記載はなく、請求項11に係るナビゲーション装置に関して「請求項6?10のうちいずれか1項に記載のグラフィック表示装置において、前記第1のフレームメモリに移動体の位置および姿勢の情報と地図などの図形および前記移動体の位置を示すマークを基準方位を基準として描画する手段を設け、」とする記載、及び請求項12に係るレーダに関して「請求項6?10のうちいずれか1項に記載のグラフィック表示装置において、第1のフレームメモリにレーダ映像を基準方位を基準として描画する手段を設け、」とする記載が認められる。
また、これら請求項に係る発明を援用する段落【0016】、【0017】に加えて、第1の実施形態であるナビゲーション装置に係る段落【0028】には、「尚、第1フレームメモリに描画する際、上方の方位(基準方位)はどの方位でもよく、描画する際には常に北が上方となるように描画してもよいし、たとえばヘッドアップモードであれば、その時点での船首方位が上方となるように描画してもよい。」との記載が認められる。
すると、当該「基準方位」とは、第1フレームメモリに描画する際に、「上方の方位」と位置付けられるものである一方、描画に際して常に北が上方とする表示が行われるものの、ヘッドアップモードでの表示に際しては、その時点での船首方位を上方として表示されることが把握できる。
そして、前記段落【0028】では、前記記載に続いて、
「その後、自船位置(緯度/経度)に対応する第1のフレームメモリ内の所定の座標に自船マークが描画されるようにGDC11に対しコマンドおよびパラメータを与える。たとえば自船マークとして塗り潰した円形のマークが描画されるように、その円の中心座標と半径および塗り潰しを指示するコマンドを与える。その後、第1のフレームメモリ内の転送元となる領域を、始点座標と回転角度のデータとして転送元アドレス発生回路14へ与える。これにより転送元アドレス発生回路14は第1のフレームメモリ13の転送元となる領域のアドレス指定を順次行う。また、転送先アドレス発生回路16は転送元アドレス発生回路14の第1のフレームメモリ13に対するアドレッシングに同期して第2のフレームメモリ17の転送先となるアドレス指定を順次行う。このことによって、第1のフレームメモリ13内の表示データは表示データ作成部15を介して第2のフレームメモリ17へ転送(複写)され、海図と共に自船マークが表示されることになる。その後、再びGPS受信機4およびコンパス6から自船位置および船首方位のデータを読み取り、それに応じた始点座標および回転角度のデータ(ヘッドアップモードの場合は、第1フレームメモリに描画されている画像の上方の方位と現在の船首方位との差分)を算出し、これらを転送元アドレス発生回路14へ与える。このように一旦、第1のフレームメモリ13に自船位置を含む比較的広範囲にわたる海図等の表示データを書き込んだ後は、自船位置および船首方位に応じて第1のフレームメモリ13から第2のフレームメモリ17へ転送する範囲を変えるだけで、海図等の回転および移動の表示が可能となる。」との記載があるように、第1のフレームメモリから第2のフレームメモリに転送する際の一つの具体策としては、第1フレームメモリに描画されている画像の上方の方位と現在の船首方位との差分を算出して、海図等の回転および移動の表示を行うことが示されている。
してみれば、第1フレームメモリに描画された画像の上方の方位が「基準方位」とされ、これに対する現在の船首方位のズレを差分として算出していると解される。

本願補正発明自体は、「グラフィック表示装置」であって、特段にナビゲーション装置に特化したものではないことから、前記段落【0028】に拘束された理解を行うべきでないとしても、現在の詳細な説明の記載内容は、前記で検討した程度である以上、これから把握できる事情を踏まえた理解を行わざるを得ない。
よって、本願補正発明における「基準方位」とは、第1フレームメモリに描画された画像の上方の方位であって、「ヘッドアップモード」なる表示を行う場合には、この「基準方位」は、船首方位と解することが妥当といえる。

これに対して、刊行物記載発明では、第1V-RAMは、地図データ記憶手段であるCD-ROM1から地図画像描画部13により読み出された地図データを記憶するに際して、常に現在位置が中央で、北が上向きとなるように書き換えられている。
また、前記段落【0005】に記載されているように、その表示方法には、図11の実線Aに示される如くに、走行中、常に地図画像上の北の方向が画面の上を向くようした「ノースアップモード法」と、同図11の一点鎖線Bに示される如くに、走行中、常に、地図画像上の車両進行方向が画面の上を向くようにした「ヘッディングアップモード法」があり、実施例たる車載ナビゲータでは、一方だけのモードで表示したり、または、2つのモードの中からユーザの操作で選択された方のモードにより表示するようにしてあるものである。
してみると、当該刊行物記載発明における「ヘッディングアップモード法」は、本願補正発明における「ヘッドアップモード」に相当することは、当業者にとって明らかであり、当該刊行物記載発明において、第1V-RAM17に描画された地図画像を、回転部20により、中央を中心として車両進行方向が上向きとなるように、北の方位と車両方位の差の角度だけ回転させるとともに、1画面分の範囲を切り出して第2V-RAM18に書き込むことは、「北の方位」を基準としているものであって、まさに、本願補正発明における「基準方位を基準として」、これと船首方位との差分を導くことに相当するといわざるを得ない。

(4-2)表示データの転送を行う表示データ転送手段が、第1のフレームメモリに対する表示データの書き込みとは非同期で、前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて、第2のフレームメモリ内の転送先となる画素毎に、当該画素のアドレスに対応する第1のフレームメモリ内の転送元となる領域のアドレスを求め、当該アドレスで指定される第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込むこと、について

まず、表示データ転送手段が前記画素を書き込むに際して、「第1のフレームメモリに対する表示データの書き込みとは非同期で」ある点について検討する。
刊行物には、前記段落【0014】にあるように、「第1V-RAM」への地図データの描画に関して、
「13は地図画像描画部であり、走行開始前において、操作盤2の地図検索,拡大/縮小用等のキーで選択された所望の地図と周辺の地図のデータをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出すとともに後述する第1V-RAMに所望地図と周辺地図と合わせた9枚分の地図画像を描画したり、スクロール操作に応じてカーソル位置計算部12から入力されるカーソル位置データが変化するのに従い、必要により新たな地図データをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出しながら常にカーソル位置が中央となるように第1V-RAMの地図画像を書き換え、かつ、第1V-RAMの中央にカーソルマークを描画する。また、地図画像描画部13は走行中(操作盤2のスタートキーの押圧後)、車両位置検出部3から出力される車両位置データが変化するのに従い、必要により新たな地図データをCD-ROM1からバッファメモリ11に読み出しながら、現在位置が中央で、北が上向きとなるように第1V-RAMの地図画像を書き換える。また、地図画像描画部13は走行中、車両位置検出部3から入力する車両方位データに基づき車両位置マークを第1V-RAMの中央に所定方向に向けて描画するとともに、経路誘導モードにおいて、後述する誘導経路メモリに記憶された誘導経路データの中から、現在、第1V-RAMに描画されている地図画像の範囲に入る誘導経路データを入力して、他の道路とは異なる色で太く強調した誘導経路を描画する(図2参照)。」
と記載されており、「第1V-RAM」の地図画像の書き換えが、
「スクロール操作に応じてカーソル位置計算部12から入力されるカーソル位置データが変化するのに従い」、或いは「走行中(操作盤2のスタートキーの押圧後)、車両位置検出部3から出力される車両位置データが変化するのに従い」、これらの状況に係る必要により行われることとされている。
すると、この記載からは、当該「第1V-RAM」の地図画像の書き換えと、「第1V-RAM」からの「第2V-RAM」への表示データの転送・書き込みとが、「同期」しているか、「非同期」であるかの詳細についてまで把握することはできない。

他方、特開平6-139495号公報或いは特開平5-216405号公報にみられるように、二つのV-RAMを用いて、予め表示に供する第2のV-RAMに表示するよりも広い範囲の地域のデータを第1のV-RAMに収納し、これから表示に供するデータのみを転送することで表示に供する第2のV-RAMからの高速読み出しを意図した構成は一般的なものであり、この場合、二つのV-RAMへの書き込み、読み出しは非同期とされることが技術常識である。
してみるに、表示データ転送手段が前記画素を書き込むに際して、「第1のフレームメモリに対する表示データの書き込みとは非同期で」行われる点については、慣用手段であって、格別なものとはいえない。

次に、表示データの転送を行う表示データ転送手段が、前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて、第2のフレームメモリ内の転送先となる画素毎に、当該画素のアドレスに対応する第1のフレームメモリ内の転送元となる領域のアドレスを求め、当該アドレスで指定される第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込むこと、について
検討する。

前記で検討したように、刊行物の段落【0018】及び【0019】の記載からは、実施例に係る車載ナビゲータについて、これの備える回転部20により、表示モードがヘッドアップモードのときに、車両位置検出部3から入力される車両方位データに基づき、第1V-RAM17に描画された地図画像を、中央を中心として車両進行方向が上向きとなるように、北の方位と車両方位の差の角度だけ回転させるとともに、1画面分の範囲を切り出して第2V-RAM18に書き込んでおり、映像変換部21により、第2V-RAM18から読み出された画像データが映像信号に変換されてCRTディスプレイ装置4へ出力されていること、が把握できる。
すると、画素に係るアドレスの扱いの詳細は明らかでないものの、少なくとも回転部20は、表示モードがヘッドアップモードでは、第1V-RAM上において、その基準方位である北の方位と車両方位の差に係る角度だけ回転した1画面分の範囲を切り出して、第2のV-RAMに書き込むものである。
ここで、V-RAM等にみられる直角座標系の画素として扱う場合には、データを転送するに際して、転送元のアドレスと転送先のアドレスを初期設定した後に、1画素転送を行い、その後、両者の対応アドレスを順次変更して画素転送を行い、後の終了条件に相当しない場合には、再度前記画素転送を繰り返し、他方、転送元のアドレスが転送対象範囲を越えた場合、或いは転送先のアドレスが転送を受ける対象範囲を越えた場合に終了条件が満ちたとして前記転送を終了するようになすことは、技術常識に属することである。
当該相違点に係る前記特定をみるに、「第2のフレームメモリ内の転送先となる画素毎に、当該画素のアドレスに対応する第1のフレームメモリ内の転送元となる領域のアドレスを求め、当該アドレスで指定される第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込む」とする処理は、前記技術常識に相当することであって、それ以外のものではない。

そこで、残る 「前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて、」について検討する。
当該特定における「基準方位に対する表示方向の角度情報」とは、「基準方位」に対して、「表示方向」が如何なる角度となっているかの情報と解される。
そして、「基準方位」に対して異なる方向である「表示方向」での表示範囲を、第1V-RAMから切り出すに際して、前記角度情報に基づいた座標変換を要することも、技術常識に属する。
してみるに、前記相違点に係る前記「前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて、第2のフレームメモリ内の転送先となる画素毎に、当該画素のアドレスに対応する第1のフレームメモリ内の転送元となる領域のアドレスを求め、当該アドレスで指定される第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込む」とする処理は、転送処理に係る当然の処理を記載しているだけのものといわざるを得ない。

以上の検討のとおりであるから、本願補正発明と刊行物記載発明の相違点に係る構成を備えることは、地図表示を前提とする周知技術及び技術常識に基づいて当業者が必要に応じて適宜採用し得た程度のことであって、それを採用したことで格別な作用効果を期待し得るものとはいえない。

なお、請求人は、当該相違点に関連して、提示した引用文献には、「表示データ転送ステップ」の詳細の開示がない、或いは「表示データ転送手段」に相当する構成が示されていないと主張し、或いは「本願発明では任意の回転角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて第1のフレームメモリに書き込まれた表示データを第2のフレームメモリに転送するので、任意の角度の回転が可能である。」とも主張しているが
直交座標系表示データとして扱う場合、転送を行うに際し、転送元と転送先のアドレス対応を計算して、対応するアドレスを順次変更しつつデータ転送を行うようにすることは、きわめて一般的な手法であって、何ら格別なものとはいえないし、刊行物記載発明における「回転部」がまさに本願補正発明の「表示データ転送手段」に相当することは、当業者であれば、容易に想到し得ることであって、前記請求人の主張は、単に文表現としての明示がないことを論難するのみであって、前記「回転部」が行う内容を詳細に検討していない主張であるから、これら請求人の主張を採用することはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年9月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項7に係る発明は、平成16年6月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定されるものであり、その請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項7】直角座標系の画素毎の表示データを記憶する第1のフレームメモリと、表示部の直角座標系の画素毎の表示データを記憶する第2のフレームメモリと、第1のフレームメモリに対して表示データを書き込む描画手段と、第1のフレームメモリに対する表示データの書き込みとは非同期で、回転角度情報を含む座標変換パラメータに基づいて、第2のフレームメモリ内の転送先となる画素毎に、当該画素のアドレスに対応する第1のフレームメモリ内の転送元となる領域のアドレスを求め、当該アドレスで指定される第1のフレームメモリ内の画素の表示データを第2のフレームメモリの転送先となる前記画素に書き込むことによって表示データの転送を行う表示データ転送手段と、第2のフレームメモリに記憶されている表示データに応じて前記表示部の各画素の表示を行う表示手段とからなるグラフィック表示装置。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明に係る「描画手段」について、「基準方位を基準として」書き込みを行うこと、及び同「表示データ転送手段」について、「前記座標変換パラメータ」が「前記基準方位に対する表示方向の角度情報を含む」ことの限定事項を省いたものである。

そうすると、実質的に本願発明の発明を特定する事項を全て含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-26 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-21 
出願番号 特願平8-111708
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
P 1 8・ 575- Z (G09B)
P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 尾崎 俊彦
名取 乾治
発明の名称 グラフィック表示方法、グラフィック表示装置、ナビゲーション装置およびレーダ  
代理人 村上 辰一  
代理人 小森 久夫  

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