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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1173948
審判番号 不服2005-15886  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-18 
確定日 2008-03-06 
事件の表示 特願2003-166672「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004- 66811〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年3月23日に出願した特願平7-64370号(以下、「原出願」という。)の一部を平成15年6月11日に新たな特許出願としたもの(特願2003-166672号)であって、平成17年7月8日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月20日付で手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「複数の解像度に応じた用紙の搬送速度と書き込みの解像度の組み合わせを持ち、設定された解像度に応じて搬送速度および/または解像度を変更して画像を形成する画像形成装置において、
解像度の変更要求の有無を確認する第1の判断手段と、
解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かを判断する第2の判断手段とを備え、
印字対象である第1の用紙に先行して搬送されている第2の用紙の搬送中で、かつ、前記第1の用紙の搬送を開始する前に前記第1の判断手段により解像度の変更要求の有無を確認し、
解像度の変更要求がないと判断した場合、前記第1の用紙の搬送を開始し、解像度の変更要求があると判断した場合、さらに、前記第2の判断手段により解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かの判断を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能と判断した場合、前記第1の用紙の搬送を開始して、書き込み開始前に書き込みの解像度を変更することにより解像度の変更を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴うと判断した場合、前記第1の用紙の搬送を開始せず、前記第2の用紙の排紙後に前記第1の用紙の搬送を開始すると共に解像度の変更を行う制御手段を備えていることを特徴とする画像形成装置。」
から、補正後の
「複数の解像度に応じた用紙の搬送速度とポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の組み合わせを持ち、設定された解像度に応じて搬送速度および/またはポリゴンモータの回転数を変更することにより解像度を変更して画像を形成する画像形成装置において、
解像度の変更要求の有無を確認する第1の判断手段と、
解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かを判断する第2の判断手段とを備え、
画像形成対象である第1の用紙に先行して搬送されている第2の用紙の搬送中で、かつ、第2の用紙に対する画像形成を行うための書き込み中であって、前記第1の用紙の搬送を開始する前に前記第1の判断手段により解像度の変更要求の有無を確認し、
解像度の変更要求がないと判断した場合、搬送速度の変更を行わずに前記第1の用紙の搬送を開始し、解像度の変更要求があると判断した場合、さらに、前記第2の判断手段により解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かの判断を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能と判断した場合、搬送速度の変更を行わずに前記第1の用紙の搬送を開始して、前記第2の用紙に対する書き込み終了後で前記第1の用紙に対する画像形成を行うための書き込み開始前にポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度を変更することにより解像度の変更を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴うと判断した場合、前記第1の用紙の搬送を開始せず、前記第2の用紙の排紙後に解像度に応じた搬送速度の変更を行って前記第1の用紙の搬送を開始すると共にポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の変更を行う制御手段を備えていることを特徴とする画像形成装置。」
と補正された(補正個所に下線を引いた。)。
上記本件補正に係る請求項の補正に関して、出願当初の明細書には、「図8の・・・タイミングチャートから分かるようにメインモータMMは回転しており、解像度の変更がポリゴンミラーの回転速度の変更だけで済む場合には、解像度の変更に追従することができる。しかし、解像度がポリゴンミラーの回転数の変更だけでは変更することができず、用紙の搬送速度の変更も必要な場合には、・・・用紙を排出した後、メインモータMMの回転数を次に設定された解像度に応じた回転速度に変更し」(段落【0009】?【0010】参照)及び「図3は、解像度の変更に際して搬送速度を変更する場合のタイミングチャートである。・・・2枚目の用紙における(3)のチェックのときに解像度の変更要求があると、(3)のタイミングでは1枚目の用紙を搬送中であり、画像の書き込みも実行しているので、2枚目の用紙の搬送を開始させることなく、解像度の変更もこのタイミングでは行わない。そして、1枚目の紙(先行紙)が排紙センサ205を通過したのをトリガに(4)のタイミングで解像度のチェックを行い、解像度の変更要求があれば、メインモータ8の回転速度を変更して搬送速度を変え、フィードクラッチ9をオンして用紙をフィードするとともに、解像度を変更する。このとき解像度変更済みフラグをセットすることで、(5)のタイミングでは解像度の変更は行わない。・・・図4は搬送前の用紙搬送前の解像度チェックの処理手順を、図5は画像書き込み前の解像度チェックの処理手順を、・・・それぞれ示す。図4の処理においては、・・・ステップ401で先行紙があると判断されたときには、その判断時に画像書き込み中であるかどうか判断し(ステップ402)、書き込み中であれば解像度の変更はできないのでそのかまこの処理を終了する。もし、書き込み中でなければ、解像度の変更は可能なので搬送速度の変更が要求されているかどうかチェックし(ステップ403)、変更が要求されていれば解像度変更要求フラグをセットして(ステップ406)、この処理を終了する。一方、ステップ403で搬送速度の変更が要求されていなければ、搬送速度を変更することなく、解像度を変更紙(ステップ404)、解像度変更要求フラグをセットして(ステップ405)この処理を終える。画像書き込み前の解像度チェックでは、まず、解像度変更済みフラグがセットされているかどうかを判断し(ステップ501)、セットされていれば解像度変更済みフラグをクリアし(ステップ502)、セットされていなければ、さらに解像度変更要求フラグがセットされているかどうか判断する(ステップ503)。この判断で、解像度変更要求フラグがセットされていれば、解像度を変更し(ステップ504)」(段落【0022】?【0025】参照)と記載され、出願当初図面には、用紙の搬送速度を変更して解像度を変更するタイミングチャート(図3)、用紙の搬送前に解像度チェックを行う処理手順を示すフローチャート(図4)及び画像書き込み前に解像度チェックを行う処理手順を示すフローチャート(図5)が記載されている(原出願の出願当初の明細書及び図面にも同じ事項が記載されている。)。
画像形成装置に関する技術分野において、「印字」という用語は、用紙に文字の画像を形成することをいうだけでなく、図形等の画像を形成することもいい、「画像形成」という用語とほぼ同義であるから、本件補正により請求項1の「印字」を「画像形成」と変える補正は、その内容に変更がなく、同じ請求項1に含まれる「画像形成装置」との記載に整合させたものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものといえる。
また、それ以外の本件補正に係る請求項の補正は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において(原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した範囲内ともいえる。)、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「書き込みの解像度」について「ポリゴンモータの回転数の変更による」又は「ポリゴンモータの回転数の変更により」との限定、同じく、「第1の判断手段による解像度の変更要求の有無の確認を行う時期」について「第2の用紙に対する画像形成を行うための書き込み中であって」との限定、同じく、「解像度の変更要求がないと判断した場合の第1の用紙の搬送の開始」について「搬送速度の変更を行わずに」との限定、同じく、「解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能と判断した場合の書き込み開始前に」について「第2の用紙に対する書き込み終了後で前記第1の用紙に対する画像形成を行うための」との限定及び同じく、「第2の用紙の排紙後の第1の用紙の搬送を開始する」について「解像度に応じた搬送速度の変更を行って」との限定を付加するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の出願日前に頒布された特開平1-224780号公報、特開平5-8439号公報及び特開昭63-108852号公報(以下順に「引用例1」、「引用例2」及び「引用例3」という。)には、本願補正発明に関連する事項として、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(2)-1.引用例1
ア.「画像信号に応じてレーザー発光素子を制御して画像の形成を行なう画像形成装置において、前記レーザー発光素子から出射されるレーザー光の走査密度を切換える切換手段を有し、前記レーザー光の走査密度切換時に画像形成プロセススピードを切換えることを特徴とする画像形成装置。」(特許請求の範囲1項)
イ.「レーザー光の走査密度の切換えはポリゴンミラーを回転駆動しているスキャナモータの回転数を増減させることで行なっているため、走査密度が増加していくと、その回転速度が速くなってしまい、軸受の摩耗や回転軸の倒れ、耐久性及び騒音の問題が発生する。特に現在の技術において、軸受にベアリングを使用できるのは毎分1万回転程度であり、それ以上になると、ポリゴンミラーの構成を大幅に変えなければならない問題も生ずる。・・・本発明にあっては、画像信号に応じてレーザー発光素子を制御して画像の形成を行なう画像形成装置において、前記レーザー発光素子から出射されるレーザー光の走査密度を切換える切換手段を有し、前記レーザー光の走査密度切換時に画像形成プロセススピードを切換えることにより構成されている。」(2頁左上欄4行?右上欄7行)
ウ.「第1図は本発明の一実施例を示すレーザービームプリンタにおける制御系のブロック図であり、同図において、20は画像信号、21はDCコントローラ、22は切換手段としての走査線密度切換スイッチで、該切換スイッチ22によって走査線密度が切換えられると、DCコントローラ21からモータドライバー23へスキャナモータ1Dの回転数を変える信号又は感光ドラム3を回転駆動させるメインモータ26の回転速度を変える信号がモータドライバー27に送出される。そして、スキャナモータ1Dの回転速度が変化する時は1画素の画像信号の時間が短くなって、DCコントローラ21から信号が送出されてレーザードライバー24を介して半導体レーザー1Lを駆動する。・・・感光ドラム3の回転速度、即ち画像形成プロセススピードを約70mm/secに設定し」(3頁右上欄5行?左下欄11行)
エ.「感光ドラム3の回転速度、即ち画像形成プロセススピードを約70mm/secに設定し、6面体の回転多面鏡(ポリゴンミラー)を使用した場合、走査密度240,300,400DPIでのポリゴンミラーの回転数は第1表に示すようになる。・・・このように、走査密度が400DPIではポリゴンミラーの回転数が1万回転以上になってしまい、通常スキャナモータ1D及びその回転部分で問題が発生する。しかし、本実施例では走査密度が240,300DPIの場合、従来通り回転多面鏡1Sの回転数を変化させるものの、走査密度が400DPIになると、感光ドラム3の回転速度(プロセススピード)が減少し、回転多面鏡Sの回転数はほとんど増えない。その例を第2表に示す。・・・即ち、走査密度に対応してプロセススピードを切換えることにより、スキャナモータlDの回転数を増加させないことができる。」(3頁左下欄9行?右下欄末行)
オ.「実施例では走査密度を240DPIから300DPIの切換時にスキャナーモータ1Dの回転数を増加させ、また走査密度を300DPIから400DPIの切換時に画像形成プロセススピード、即ち感光ドラム3の回転速度を低下させたが、これに限らず例えば走査密度を300DPIから400DPIの切換時、及び300DPIから600DPIの切換時にスキャナモータ1Dの回転数と同時にプロセススピードの切換えを行なってもよい。このようにすることで、プロセススピードの変更量が少なく、プリント速度が極端に遅くなることもなく、プロセス条件の変更も少なくて済む。従って、形成された画像も安定することになる。」(4頁右上欄10行?左下欄3行)
カ.第1図からDCコントローラ21が制御系の各ブロックを統括することが看取できる。
電子写真装置においては感光ドラムの回転や用紙の搬送タイミングを1つの制御装置で制御することが一般的に行われていることだから、引用例1の制御系の各ブロックを統括する1つの「DCコントローラ21」が用紙の搬送開始タイミングを制御している認められる。
したがって、上記記載ア?カを含む引用例1には、以下の発明が記載されているといえる。
「複数の走査密度に応じたプロセススピードとポリゴンミラーを回転駆動しているスキャナモータ1Dの回転数の変更による書き込みの走査密度の組み合わせを持ち、走査密度を切換える切換手段で設定された走査密度に応じて、プロセススピードまたはポリゴンミラーを回転駆動しているスキャナモータ1Dの回転数を変更することにより走査密度を変更して画像を形成する画像形成装置において、
用紙の搬送を開始すると共に感光ドラム3を回転駆動させるメインモータ26の回転速度を変える信号またはスキャナモータ1Dの回転数を変える信号を送出してプロセススピードまたはポリゴンミラーを回転駆動しているスキャナモータの回転数の変更による書き込みの走査密度の変更を行うDCコントローラ21を備えている画像形成装置。」(以下、「引用発明」という。)
(2)-2.引用例2
キ.「レーザ光の走査密度切り換えは回転多面鏡7の回転数を増減することにより行っているため、走査密度を増加していくと、そのポリゴンミラーの回転速度が早くなってしまい、回転多面鏡7の駆動用スキャナモータの軸受けの摩耗,回転軸の倒れ,耐久性の急速な低下および騒音発生等の種々の問題が発生する。・・・このような不都合を克服するために、プロセススピードの切り換えが特開平1ー224780号公報等に提案されている。このようなプロセススピードの切り換えを行う場合には、特に切り換え前の用紙の印字プロセスと切り換え後の用紙の印字プロセスの干渉がなく、しかも速やかな切り換え動作が要求される。本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、実行中の像形成プロセス状態を管理しながら像形成プロセス速度切換え可能タイミングを判定指示することにより、搬送される記録媒体が干渉することなく像形成プロセス速度の切換えを速やかに完了できる画像形成装置を得ることを目的とする。」(段落【0005】?【0008】参照)
ク.「図1は本発明の一実施例を示す画像形成装置の制御構成を説明するブロック図である。図において、100は外部ホストコンピュータ等からの画像コードデータを受け取り、それを2値化したビットマップに展開する作業と、プリンタ制御部101と通信してプリンタ内部のステータスを吸い上げるとともに、プリンタに対してプリント要求,垂直同期等の印字に必要な信号を送出してタイミングに応じて展開したビットマップの画像データをプリンタへ出力する画像制御部である。この画像制御部100は、ホストコンピュータあるいはユーザの操作するオペレーションパネル121からの指示に基づきプリンタへ通信によりプロセススピードの切り換え指示を行うことができる。・・・120はプロセススピード切換えタイミング管理部で、プリンタ駆動部101にプロセススピード切換え許可信号を入力する。プリンタ駆動部101はプロセススピード切換えタイミング管理部120からのプロセススピード切換え許可信号により搬送モータ駆動部103を介して搬送モータ110の回転スピードを切り換える。この搬送モータ110は感光ドラム周辺および各搬送ローラに連結されているので、搬送モータ110の回転スピードを切り換えるだけで全体のプロセススピードを切り換え可能に構成されている。プロセススピード切換えタイミング管理部120は、プリンタ駆動部101からのプロセススピード切換え要求を受けると、プリンタ内部の状態を管理してプロセススピード切り換えが可能かどうかを判別する。その結果、切り換えが可能となった時点で、プリンタ駆動部101に対してプロセススピード切り換え許可信号を出力する。プリンタ駆動部101は、この許可信号を受けて、搬送モータ駆動部103に対して回転スピードの切り換え動作を行う。」(段落【0011】?【0015】参照)
ケ.「図6は本発明に係る画像形成装置における第2のプリントシーケンスの一例を示すフローチャートである。なお、(1)?(23)は各ステップを示す。先ず、プリンタ駆動部101は、画像制御部100からのプリント信号PRINTを待機し(1)、プリント信号PRINTを受信すると、既に指定されている搬送スピードになるスピードで搬送モータ110の駆動を行う(2)。次に、スキャナモータ111の駆動を行い(3)、一次帯電器112,現像器113,転写器114の順で高圧を立ち上げる(4)。次いで、スキャナモータ111が所定の回転数で安定してから(5)、用紙のピックアップを開始して給紙する(6)。次いで、レーザ117のレーザ光量が所定値になるように調整して(7)、用紙がレジストセンサ118に到達するのを待機し(8)、用紙がレジストセンサ118に到達したら、画像制御部100から搬送スピードの切換え指示が出力されて搬送スピードの切換え要求中であるかどうかをチェックし(9)、YES(その時点までにプロセススピード切換え要求が発生している)の場合は、現在レジストローラ116に突き当たって停止している用紙よりも前に印字されている用紙が排紙センサ119を抜けるまで待機し(21)、当該用紙が排紙センサ119を通過したら、搬送モータ110の搬送スピードの切換え動作を行う(22)。次いで、搬送モータ110の搬送スピードの切換えが終了したら(23)、ステップ(10)に戻る。」(段落【0033】?【0034】参照)
(2)-3.引用例3
コ.「印字密度を変更するには、第2図で示された光学系の機械構造には一切変更を加えないとしたならば、ポリゴンミラー34の回転速度、LD31の変調周波数、または用紙の搬送速度(感光体2の回転速度)の中の少なくとも2つを変更する必要があるが、実施例では、ポリゴンミラー34の回転速度及びLD31の変調周波数の変更による方法を変更手段として採用し、電源投入時の初期設定は前述の初期設定スイッチにより、その後の変更は後述するように、DPIRQフラグに変更要求に応じた値をセットすることにより行い、いずれも3種類の印字密度(画素密度)の選択ができるようになっている。」(5頁右下欄11行?6頁左上欄3行)
サ.「レーザ光を回転するポリゴンミラーにより偏向走査させて感光体上に多数の画素による画像を形成するようにしてなるレーザプリンタであって、画素密度の変更要求を受ける手段と、画素密度を変更するためにポリゴンミラーの回転速度を変更する手段と、前記ポリゴンミラーの回転速度が定速であるか否かを判断する手段と、露光を開始するための手段を有し、露光を開始する前に画素密度の変更要求を受けた場合に、ポリゴンミラーが定速であることを判断するまで露光を開始しないようにしたことを特徴とするレーザプリンタ。」(特許請求の範囲)
シ.「印字密度の変更要求があれば(ステップN102)、露光中であるか否かを判断し(ステップN103)、露光中でなければSSCANOUTの割込みを禁止し(ステップN104)、要求印字密度に応じたポリゴンミラー34の回転数及び基本クロックの周波数を得る為に、タイマー213に適当なタイマー値tc1、tc2またはtc3をセットし、さらに適当な発振子のクロックを選択する為のDPISELECT信号を送る(ステップN105からN108)。これによって、露光中に印字密度の変更要求を受けた場合であっても、即座に印字密度を変更するのではなく、露光が終了した後に印字密度の変更が行われることとなるのである。」(10頁右上欄12行?左下欄4行)

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを比較する。
a.引用発明の「走査密度」は、本願補正発明の「解像度」と異ならない。
b.引用発明の「プロセススピード」は、感光ドラムの回転速度であり(記載ウ参照)、感光ドラムの回転速度は用紙の搬送速度に対応しているから、プロセススピードを変更することは用紙の搬送速度を変更することと異ならない。
c.引用発明の「ポリゴンミラーを回転駆動しているスキャナモータの回転数の変更による書き込みの走査密度」は本願補正発明の「ポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度」と異ならないから、引用発明の「複数の走査密度に応じたプロセススピードとポリゴンミラーを回転駆動しているスキャナモータの回転数の変更による書き込みの走査密度の組み合わせを持ち」は、本願補正発明の「複数の解像度に応じた用紙の搬送速度とポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の組み合わせを持ち」と異ならない。
なお、本願の明細書と引用例1、2で使用されている「回転数の変更」との記載についていうと、「回転数の変更」は、回転速度の変更と同義の意味で使用されているから、正確に言えば、所定の時間(単位時間)当たりの回転数の変更を意味しているが、以下、当審決においても、該記載はこの意味で使用する。
d.引用発明の「ポリゴンミラーを回転駆動しているスキャナモータ」及び「DCコントローラ21」は、それぞれ、本願補正発明の「ポリゴンモータ」及び「制御手段」に相当している。
以上のことから、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
[一致点]
複数の解像度に応じた用紙の搬送速度とポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の組み合わせを持ち、設定された解像度に応じて搬送速度またはポリゴンモータの回転数を変更することにより解像度を変更して画像を形成する画像形成装置において、
用紙の搬送を開始すると共に用紙の搬送速度の変更とポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の変更を行う制御手段を備える画像形成装置。
[相違点]
A.本願補正発明では、解像度の変更要求の有無を確認する第1の判断手段及び解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かを判断する第2の判断手段とを備えているのに対して、引用発明では、これらの第1の判断手段と第2の判断手段を備えているか否か明記されていない点、
B.用紙の搬送を開始すると共に用紙の搬送速度の変更とポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の変更を行う制御手段が、本願補正発明では、画像形成対象である第1の用紙に先行して搬送されている第2の用紙の搬送中で、かつ、第2の用紙に対する画像形成を行うための書き込み中であって、前記第1の用紙の搬送を開始する前に前記第1の判断手段により解像度の変更要求の有無を確認し、解像度の変更要求がないと判断した場合、搬送速度の変更を行わずに前記第1の用紙の搬送を開始し、解像度の変更要求があると判断した場合、さらに、前記第2の判断手段により解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かの判断を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能と判断した場合、搬送速度の変更を行わずに前記第1の用紙の搬送を開始して、前記第2の用紙に対する書き込み終了後で前記第1の用紙に対する画像形成を行うための書き込み開始前にポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度を変更することにより解像度の変更を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴うと判断した場合、前記第1の用紙の搬送を開始せず、前記第2の用紙の排紙後に解像度に応じた搬送速度の変更を行って前記第1の用紙の搬送を開始すると共にポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の変更を行う制御をなすのに対して、引用発明では、当該制御をなすのか否か定かでない点。
[相違点の判断]
相違点Aについて
引用発明のDCコントローラ21(制御手段)は、走査密度(解像度)を切換える切換手段で設定された走査密度(解像度)に応じて、感光ドラム3を回転駆動させるメインモータ26の回転速度(用紙の搬送速度)を変える信号またはスキャナモータ1Dの回転数(ポリゴンモータの回転数)を変える信号を送出する以上、引用発明は、解像度の変更要求の有無を確認する第1の判断手段を備えていることは自明である。
また、引用例1には、ポリゴンミラーの回転数が10000rpmとなるまでは走査密度(解像度)の変更をポリゴンミラーの回転速度の変更で行い、ポリゴンミラーの回転数が10000rpm以上ではスキャナモータ1Dに問題が発生すること、つまり、ポリゴンミラーの回転速度の変更のみでは走査密度(解像度)の変更が不可能であるとして、ポリゴンミラーの回転速度の変更に加えてプロセススピード(=用紙の搬送速度)の変更を行うことが記載されている(記載エ参照)から、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かを判断する第2の判断手段を備えるようにすることは、当業者が想到容易である。
相違点Bについて
解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴う画像形成装置において、搬送されるべき画像形成対象である用紙間において解像度の変更を行う場合、変更前後の用紙間の搬送速度の変更に伴う問題の発生がなく、しかも、できるだけ搬送停止期間を少なくするようにすることは、当業者が当然考慮すべきことであって、そのため、画像形成対象である第1の用紙に先行して搬送されている第2の用紙の搬送中、解像度の変更要求があると判断した場合、前記第1の用紙の搬送を開始せず、前記第2の用紙の排紙後に解像度に応じた搬送速度の変更を行って前記第1の用紙の搬送を開始するようにすることは、上記引用例2に記載されているように周知である。
また、同様に、解像度の変更がポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の変更を伴う画像形成装置において、搬送されるべき画像形成対象である用紙間において解像度の変更を行う場合、変更前後のポリゴンモータの回転数の変更に伴う問題の発生がなく、しかも、できるだけ搬送停止期間を少なくするようにすることは、当業者が当然考慮すべきことであって、解像度の変更要求があると判断した場合、前記第2の用紙に対する書き込み終了後で前記第1の用紙に対する画像形成を行うための書き込み開始前にポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度を変更することにより解像度の変更を行うことは、上記引用例3に記載されているように周知である。
そうすると、複数の解像度に応じた用紙の搬送速度とポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の組み合わせを持ち、設定された解像度に応じて搬送速度またはポリゴンモータの回転数を変更することにより解像度を変更して画像を形成する引用発明の画像形成装置においても、メインモータ一つで用紙の給紙から排紙までの搬送を行う(このようにすることは常套手段である。)際に、搬送されるべき画像形成対象である用紙間において解像度の変更を行う場合、変更に伴う問題の発生がなく、しかも、できるだけ搬送停止期間を少なくするようにすることは、当業者が当然考慮すべきことであることを考えると、引用発明において、用紙の搬送を開始すると共に用紙の搬送速度の変更とポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の変更を行う制御手段を、相違点Bに係る、画像形成対象である第1の用紙に先行して搬送されている第2の用紙の搬送中で、かつ、第2の用紙に対する画像形成を行うための書き込み中であって、前記第1の用紙の搬送を開始する前に前記第1の判断手段により解像度の変更要求の有無を確認し、解像度の変更要求がないと判断した場合、搬送速度の変更を行わずに前記第1の用紙の搬送を開始し、解像度の変更要求があると判断した場合、さらに、前記第2の判断手段により解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能か否かの判断を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能と判断した場合、搬送速度の変更を行わずに前記第1の用紙の搬送を開始して、前記第2の用紙に対する書き込み終了後で前記第1の用紙に対する画像形成を行うための書き込み開始前にポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度を変更することにより解像度の変更を行い、解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴うと判断した場合、前記第1の用紙の搬送を開始せず、前記第2の用紙の排紙後に解像度に応じた搬送速度の変更を行って前記第1の用紙の搬送を開始すると共にポリゴンモータの回転数の変更による書き込みの解像度の変更を行う制御をなすように構成することは、当業者が容易に想到できることである。
以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用例2、3に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(上記2.(1)参照)。
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1?3及びその記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、本願補正発明の特定事項から、「書き込みの解像度」について「ポリゴンモータの回転数の変更による」又は「ポリゴンモータの回転数の変更により」との限定、「第1の判断手段による解像度の変更要求の有無の確認を行う時期」について「第2の用紙に対する画像形成を行うための書き込み中であって」との限定、「解像度の変更要求がないと判断した場合の第1の用紙の搬送の開始」について「搬送速度の変更を行わずに」との限定、「解像度の変更が用紙の搬送速度の変更を伴わずに可能と判断した場合の書き込み開始前に」について「第2の用紙に対する書き込み終了後で前記第1の用紙に対する画像形成を行うための」との限定及び「第2の用紙の排紙後の第1の用紙の搬送を開始する」について「解像度に応じた搬送速度の変更を行って」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項の全部をその特定事項とし、さらに、他の特定事項をその特定事項としたものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)」に記載したとおり、引用発明及び引用例2、3に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様な理由により、引用発明及び引用例2、3に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2、3に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結び
以上のとおりであるから、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-27 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-21 
出願番号 特願2003-166672(P2003-166672)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 泉 卓也  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 尾崎 俊彦
菅藤 政明
発明の名称 画像形成装置  
代理人 武 顕次郎  

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