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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1173976
審判番号 不服2006-5833  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-30 
確定日 2008-03-06 
事件の表示 特願2004-241796「セルラ移動通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 2日出願公開、特開2004-343807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、及び本願発明の認定
本願は、平成5年3月11日に出願した特願平5-50393号の一部を平成12年10月4日に新たな特許出願(特願2000-309301号)とし、さらにその一部を平成16年8月23日に新たな特許出願(特願2004-241796号)としたものであって、平成17年4月5日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものの、平成18年2月20日付けで拒絶査定されたので、同年3月30日に本件拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年4月19日に手続補正書が提出されたものである。

その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年4月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「ネットワークに接続される複数の基地局を有し、各基地局は、複数の移動局へのデータチャネルとパイロットチャネルとを符号分割多重して送信し、移動局は、上記複数の基地局のいずれかと接続しているときに、該接続している基地局から受信されるパイロット信号の受信強度よりも該接続している基地局以外の他の基地局から受信されるパイロット信号の受信強度が強い場合は接続する基地局を上記他の基地局に切り替えるハンドオーバ制御を行なうCDMAセルラ移動通信システムにおいて、
上記基地局とその管轄するセル内に位置する複数の移動局との間のトラヒック量を測定する第一の手段と、
相互に隣接するセルのそれぞれについて上記第一の手段により測定されたトラヒック量に応じて、上記相互に隣接するセルに配置された各基地局が送信する、上記ハンドオーバ制御のために用いられるパイロット信号の送信電力を制御する第二の手段とを有し、
上記基地局は、上記第二の手段による制御に基づき上記パイロット信号の送信電力を制御し、上記各移動局への送信信号の送信電力を、各データチャネル毎に制御することを特徴とするCDMAセルラ移動通信システム。」

2.引用例
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由において引用された特開昭64-68138号公報(平成元年3月14日特許庁発行、以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

[引用例1(特開昭64-68138号公報)]
A.「1.発明の名称
移動通信におけるトラヒック制御方法
2.特許請求の範囲
1)複数のゾ-ンでサ-ビスエリアを構成する移動通信方式において、ゾ-ン内トラヒックの時間的変化に対応してゾ-ンの大きさを変えることを特徴とする移動通信におけるトラヒック制御方法。
2)特許請求の範囲第1項記載の移動通信におけるトラヒック制御方法において、ゾ-ンの大きさを変える方法として、複数の基地局からの電波の受信レベルを比較して移動機の在圏ゾ-ンを決定するようにしておき、その基地局送信電力を低下させることによりゾ-ンの大きさを変える方法を採ることを特徴とする移動通信におけるトラヒック制御方法。」(1頁左下欄2?17行)

B.「〔産業上の利用分野〕
本発明は、基地局送受信機台数の節減及び周波数の有効利用を図るための移動通信におけるトラヒック制御方法に関するものである。
〔従来の技術〕
小ゾーン構成自動車電話方式では、サービスエリアを複数のゾーンで構成し、それぞれのゾーンのトラヒックに応じた数の無線チャネルを配置する。
第6図はサービスエリアの一部のゾーン構成例を示す説明図であって1?7はそれぞれゾーンである。
第7図は各ゾーン内のトラヒック量の一日の変動例を時刻に対して図示したグラフであり、8、9、10は例えばゾーン1、2、4のトラヒック量を表しているとする。自動車は文字通り動きまわるものであるからトラヒックのピーク時間帯は一般にゾーン毎に異なる。第7図のA、B、Dはゾーン1、2、4のトラヒックが最大となる点であり、その時刻が異なっていることを表わしている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
従来の技術では、各ゾーンのピークトラヒック量に応じた数の無線チャネルを割当てていた。しかし、この方法では例えばゾーン1のピーク時間帯であるA点の時刻ではゾーン2、ゾーン4のトラヒック量はそのピークであるB点、D点でのトラヒック量よりも少なく、従ってゾーン2、ゾーン4の無線設備は低い能率でしか働いていない。同様のことがゾーン2、ゾーン4……においても生じている。
このことは次のように考えることもできる。各無線ゾーン毎のピーク時間帯のトラヒック量見合で無線チャネルを割当てる従来の方法では、各ゾーンの無線チャネル数の合計は、サービスエリア全体の合計トラヒックのピークに見合う無線チャネル数よりも大きい。このため無線送受信機の台数が増えて不経済であると同時に、無線周波数の有効利用上からも不合理であった。
本発明の目的は、ゾーン毎のトラヒックピーク時間帯が必らずしも一致しない移動通信において、個々のゾーンのピークトラヒック量に応じた送受信機の和よりも少ない送受信機数でサービスを可能とする移動通信におけるトラヒック制御方法を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
従来の技術では、ゾーン半径は置局設計時に固定されていたが、本発明ではこれをトラヒックに応じてアダプティブに変えることとする。
〔作用〕
本発明は、あるゾーンが時間的なトラヒックピーク状態にあるとき、そのゾーンのゾーン半径を実効的に縮小することにより、トラヒックの一部を周辺ゾーンで負担させる。そしてこのことを最も主要な特徴とする。」(1頁右下欄7行?2頁左下欄1行)

C.「〔実施例〕
第1図は本発明を循環無定位方式に適用した場合の実施例を示すブロック図である。
同図において、11はアンテナ、12はアンテナ共用装置、13、14は減衰器、15、17は送信機、16、18は受信機、19は制御装置、20はトラヒック量監視装置である。制御装置19から右側に出ている結線は図示せざる交換装置に接続される。
第1図の全体は1つの基地局構成を示したものであり、同様の基地局装置がゾーン対応に設置されており、交換装置に接続されている。送信機15、17は常時送信しており、通常は減衰器13、14の減衰量は0にセットされている。送信機出力はアンテナ共用装置12を経てアンテナ11から移動機に送出される。通話中でないチャネルの送信機は制御装置19からの空線信号(そのチャネルが空きであることを示す。)で変調されている。移動機は全チャネルを短時間毎に順次切替えて受信している。移動機から発呼する場合、空線信号が受信できたチャネルで切替を停止し、そのチャネルで発呼信号、ダイヤル信号等を送出する。交換装置はこれに基づいて固定網へ接続する。
この場合、空線信号を受信できる範囲がゾーンであり、第2図(a)に示すように一般に隣接ゾーンとの間でオーバーラップがある。オーバーラップのエリアではいづれのゾーンの基地局も使用できるエリアであり、ここで発生したトラヒックは両方の基地局に分散して接続される。従って、等価的にはオーバーラップの中心線がゾーン境界であると考えてもよい。ここで、ゾーン4のトラヒックがピークになった場合、トラヒック量監視装置20でこれを検出し、減衰器13、14に対して所定の減衰量とするよう制御する。トラヒック量の検出は例えば、一定時間内の全チャネルの平均使用率を検出することにより可能であり、平均使用率が規定値を上回ったかどうかでトラヒックピークを判断する。ゾーン4の減衰器13、14に所定の減衰量を与えたとき、そのエリアは第2図(b)の21のように縮小する。
従って、このゾーンのトラヒックの一部は縮小した分だけ小さくなり、周辺ゾーン1、2等が、これを分担することになる。
移動機への着呼の場合は、全ゾーンの制御装置19から空き送信機の中の1つを介して移動機に切替停止信号を送出する。順次全チャネルを切替中の移動機は、切替停止信号が受信できるチャネルで切替を停止する。
このあと、制御装置からこの送信機を介して被呼移動機への呼出し信号を送信する。呼ばれた移動機は応答信号を送出して、通話に入る。このことから判るように、移動機着呼の場合にも、同様にゾーンの大きさを制御することができる。」(2頁左下欄2行?3頁左上欄14行)

D.「呼の接続制御のために、通話用チャネルとは別にゾーン毎に制御チャネルを設けるシステムにおいては、移動機は各ゾーンからの制御チャネルの受信レベルを比較することにより、在圏ゾーンを決めるから、基地局制御チャネル送信機の出力レベルを制御するだけで、ゾーンの大きさを制御することができる。」(3頁左上欄15行?同頁右上欄1行)

E.「第3図は複局同時送受信方式を採用している場合の本発明の実施例を示すブロック図である。
同図において、22は制御チャネル送信機、24は制御チャネル受信機、23は減衰器、25は制御装置である。
制御チャネルは、制御エリア内の全ゾーンで同一周波数を使用しており、その変調信号も同一である。移動機発呼時は、移動機から制御チャネルで発呼信号を送出する。これは制御チャネル受信機24で受信されるが、このとき、受信レベル情報を添えて、交換・制御装置(制御信号25の右側の結線に接続されるが図では省略してある。)に転送する。制御チャネルは無線ゾーンで同一であるから、移動機からの発呼信号は複数のゾーンで受信され、夫々図示せざる交換・制御装置に転送される。交換制御装置は、これらの信号から最も強い受信レベルのものを識別し、これから移動機の在圏ゾーンを決定する。あるゾーンのトラヒックが時間的ピーク状態になった場合、制御チャネル受信機の前に挿入した減衰器23に所定の減衰量を与える。これにより、制御チャネルの受信レベルが減衰量分だけ低下するから、当刻ゾーンの大きさを縮小させることができる。」(3頁欄右上欄2行?同頁左下欄4行)

F.「以上の2つの実施例で判るように、いかなるシステム構成、制御方法であっても、各無線基地局からの送信波の移動機での受信レベルを比較することにより移動機の在圏ゾーンを決定する場合には基地局の該当送信機出力を減衰器で調整し、逆に移動機からの送信波を各基地局で受信し、その受信レベルを比較することにより移動機の在圏ゾーンを決定する場合には基地局の該当受信機に減衰器を前置することにより、ゾーン半径の調整が可能である。」(3頁左下欄5?14行)

G.「〔発明の効果〕
以上説明したように、ゾーンのトラヒック量が時間的に増大した場合に、そのゾーンの半径即ちゾーンのエリアを縮小することにより個々のゾーンのピークトラヒック量を減少させることができこの結果システム全体の送受信機数及び周波数の数を減少できる利点がある。」(4頁右上欄9?15行)

してみると、引用例1には、上記A?Gの記載からみて、

複数のゾ-ンでサ-ビスエリアを構成する移動通信方式において、
交換装置と、各ゾーン対応に設置されこの交換装置に接続された複数の基地局と、各ゾーンのトラヒックを監視するトラヒック量監視装置とを備え、
複数の基地局からの電波の受信レベルを比較して移動機の在圏ゾ-ンを決定するようにしておき、その基地局の送信電力を低下させることにより、ゾ-ン内トラヒックの時間的変化に対応してゾ-ンの大きさを変えるように構成されており、前記基地局からの電波として、通話用チャネルとは別にゾーン毎に設けられた制御チャネルを使用し、移動機は各ゾーンの基地局から送信される制御チャネルの受信レベルを比較することにより、在圏ゾーンを決定するように構成され、前記基地局制御チャネル送信機の出力レベルを制御するだけでゾーンの大きさを制御するように構成されていることを特徴とする小ゾーン構成の移動通信システム。

という発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(2)同じく原査定の拒絶の理由において引用された特開昭63-67034号公報(昭和63年3月25日特許庁発行、以下「引用例2」という。)には、第1?3図とともに以下の事項が記載されている。

[引用例2(特開昭63-67034号公報)]
H.「複数のサービスエリア毎に無線基地局を配置し、各無線基地局の管轄サービスエリアに存在する複数の発呼移動局からの各通話情報を複数の通話チヤネルで中継し、該通話情報を移動無線交換機で個別に交換して着呼移動局に接続する移動無線通信方式において、
前記各無線基地局毎の通話チヤネル使用率を演算する演算手段と、該各無線基地局毎の通話チヤネル使用率の推移を監視して各無線基地局の管轄サービスエリアの範囲を制御するサービスエリア制御手段とを前記移動無線交換機に設け、
前記サービスエリア制御手段の出力に応じて前記移動局に対する送信電力を制御する送信電力制御手段を前記各無線基地局に設けたことを特徴とする移動無線通信方式。」(1頁左下欄5行?同頁右下欄1行(特許請求の範囲))

I.「(産業上の利用分野)
本発明は、移動局を管轄する無線基地局の管轄サービスエリアの範囲を可変できる移動無線通信方式に関する。
(従来の技術)
従来、この種の通信システムでは、移動無線局と無線基地局との通信手段として制御チヤネル及び通話チヤネルの2種類のチヤネルを使用する方法が知られている。制御チヤネルとは、通信を行なう前に移動無線局と無線基地局との間で行なわれる制御用のチヤネルであり、移動無線局からの通話要求、又は無線基地局からの通話チヤネル指示などがこの制御チヤネルで行なわれる。移動無線局は通話中以外は、この制御チヤネルを使用する。通話チヤネルとは、移動無線局と無線基地局との間で行なわれる音声信号を主とした通話用チヤネルである。通話チヤネルは無線基地局ごとに異なつており、通信を防止するため同じチヤネルを近隣の無線基地局では使用しない。又制卸チヤネルも同様に無線基地局ごとに異なつている。
移動無線局は電源が投入されると直ちに制御チヤネルを走査し、一番受信レべルの高い制御チヤネルに受信チヤネルを合わせる。発呼移動無線局から無線基地局に対し、制御チヤネルを経由して通話要求があると、該無線基地局に接続された移動無線交換機が前記通話要求を解読して、制御チヤネルから通話チヤネルへの切換指示を行なう。その後発呼移動無線局は、この指示された通話チヤネルを介して着呼移動無線局と通話することができる。」(1頁右下欄3行?2頁左上欄13行)

J.「(発明が解決しようとする問題点)
このような従来の移動無線通話方式では、ある特定の無線基地局において、通話チヤネルが全て、使用されている場合、即ち、空きチヤネルがない場合、近隣の無線基地局の通話チヤネルが空いているにもかかわらず、通話できない事態が生じる。この様な場合、全通話チヤネルを使用中の無線基地局は移動無線交換機からの命令に従い、空きチヤネルがない状態で通話要求して来た移動無線局に対し、近隣の他の無線基地局に通話要求する様に指示する。この様に、空き通話チヤネルのない無線基地局へ、移動無線局から通話要求があった場合、移動無線交換機は、空き通話チヤネルのない無線基地局を通して、別の無線基地局に対して通話要求する旨を当該移動無線基地局に指示しなければならないという欠点があった。又、当該移動無線局も、指示された他の無線基地局へ再度通話要求しなければならず二重に手間を要するという問題があった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので複数の無線基地局の各通話チヤネルを有効利用することのできる移動無線通信方式を提供することを目的とする。
(問題点を解決するための手段)
前述の問題点を解決し、上記目的を達成するために本発明が提供する手段は、複数のサービスエリア毎に無線基地局を配置し、各無線基地局の管轄サービスエリアに存在する複数の発呼移動局からの各通話情報を複数の通話チヤネルで中継し、該通話情報を移動無線交換機で個別に交換して着呼移動局に接続する移動無線通信方式であって、前記各無線基地局毎の通話チヤネル使用率を演算する演算手段と、該各無線基地局毎の通話チヤネル使用率の推移を監視して各無線基地局の管轄サービスエリアの範囲を制御するサービスエリア制御手段とを前記移動無線換機に設けるとともに、前記サービスエリア制御手段の出力に応じて前記移動局に対する送信電力を制御する送信電力制御手段を前記各無線基地局に設けたことを特徴とする。」(2頁左上欄14行?同頁左下欄13行)

K.「(実施例)
次に本発明を図面に基づいて説明する。
第1図に本発明の一実施例のシステム構成図を示す。無線基地局1は、制御部13と無線送信機11と無線受信機12とから構成され、移動無線交換機15とは、データ回線14を介して接続される。制御部13は、移動無線交換機15の命令に従い以下の制御を行なう。無線送信機11に対し、送信出力レベルの設定を命令するとともに、移動無線局1Aへ信号の送出を指示する。また、制御部13は、無線受信機12で受信した信号を入力し、該受信信号をデータ回線14を経由して移動無線交換機15へ送出する。無線送信機11は、制御チヤネル送信部16と通話チヤネル送信部17とから構成され、移動無線局1Aに対して制御信号又は通話情報を送信する。即ち、移動無線交換機15からの音声信号(通話情報)は、通信回線1Bを経由して、無線送信機11に入力し、通信チヤネル送信部17を介して移動無線局1Aへ送出される。 又、無線送信機11は制御部18の指令に基づいて送信出力レベルを制御する送信電力制御手段を備えている。 この送信出力レベルは、最大出力レベルに対する百分率、例えば、100%,80%,60%,40%,20%の5段階に設定され、それぞれ、送信出力レベル5,4,3,2,1の番号が付けられている。制御部13からは、この番号により無線送信機11へ送信出力レベル設定命令が送出される。なお、初期状態では、送信出力レベルを60%に初期設定している。無線受信機12は、制御チヤネル受信部18と通話チヤネル受信部19とから構成され、移動無線局1Aからの制御信号又は通話情報を受信する。移動無線局1Aからの音声信号(通話情報)は、通話チヤネル受信部19によって受信され、通話回線1Cを経由して移動無線交換機15に送出される。」(2頁左下欄14行?3頁左上欄9行)

L.「第2図は、移動無線交換機15の内部構成を示したブロック図である。移動無線交換機15は、通話チヤネル制御部21、分析部22、クラス判断部23、メモリ24、送信出力制御判断部25、命令送信部26とから構成されている。通話チヤネル制御部21は、複数の無線基地局1?6に受信される全ての通話チヤネルの制御を行なっており、現在通話に使用中の通話チヤネル数を各無線基地局毎に分別して分析部22へ出力する。分析部22は、通話チヤネル制御部21から現在通話に使用中の通話チヤネル数を受け取り、各無線地局毎に全通話チヤネル数に対する現在通話に使用中の通話チヤネル数の割合を使用率として算出している。この使用率はクラス判断部23へ出力される。クラス判断部23は分析部22からの使用率を受け取り、下記の表1に示す様にクラス分けをし、メモリ24に無線基地局毎の情報として、無線基地局番号、クラス番号を記憶する。
(表1、省略)
送信出力制御判断部25は、初期状態時の出力レベル60%に相応する送信出力レベル値3をメモリ24に登録し、以後、送信出力レベル調整を行なう度に各無線基地局毎に新しい送信出力レベル値を更新登録する。また、送信出力制御判断部26は、メモリ24の使用率のクラスを一定周期毎に調べ、無線基地局毎の通話チヤネル使用状況を把握して該無線基地局毎の送信出力レベルの調整の為の判断を下記の規準にて行なう。
○1 送信出力レベルの調整を行なう無線基地局は、使用率がaクラスの無線基地局と使用率がaクラスの無線基地局の近隣にある無線基地局だけとし、使用率がaクラスの無線基地局がなければ送信出力レベルの調整は行なわない。
○2 使用率調査の同一周期内では同じ無線基地局の送信出力レベル調整を行なわない。
○3 aクラスの無線基地局の送信出力レベルの調整は、近隣無線基地局の中で一番高い使用率のクラスにより下記の表2の様に決定する。
(表2、省略)
○4 aクラスの無線基地局の近隣にある無線基地局の送信出力レベルの調整は、その無線基地局自身の使用率のクラスにより下記の表3の様に決定する。
(表3、省略)
送信出力制御判断部25は、以上の判断によって得られる無線基地局毎の送信出力レベルの変更情報を命令送信部26へ対応する無線基地局番号を付けて出力する。命令送信部26は、送信出力制御判断部25からの送信出力レベル変更情報を変更対象局に送出する。この際の送信相手局の選択は送信出力レベルの変更情報に付けられた無線基地局番号により行なう。」(3頁左上欄10行?4頁右上欄8行)(審決注:上記において、○内に数字が入った文字は表記できないので、“○”+“数字”で代替した。)

M.「次に、無線基地局1の通話中のチヤネル数が多くなった場合の動作を説明する。通話チヤネル制御部21は、無線基地局1の現在通話に使用中のチヤネル数例えば21を分析部22へ出力する。分析部22では、無線基地局1の全通話チヤネル数例えば25に対する現在通話に使用中のチヤネル数の割合を計算し、(21÷25=0.84)使用率(84%)を得る。
次にクラス判断部23が無線基地局1のチヤネル使用率が84%に相応するクラスを判断する。無線基地局1の使用率は84%なのでaクラスと判断され、メモリ24に無線基地局番号1とクラス番号aが記憶される。
同様に、他の無線基地局のクラスを判断し、メモリ24に記憶する。ここでは、他の無線基地局2?6のクラスをそれぞれクラスd,d,c,e,cとする。」(4頁右上欄9行?同頁左下欄5行)

N.「次に送信出力制御判断部25は、メモリ24に記憶された各無線基地局1?6のチヤネル使用率のクラスを調べる。無線基地局1のチヤネル使用率のクラスがaなので、送信出力制御判断部25は、無線基地局1とその近隣無線基地局2?6の送信出力レベル調整の判断を行なう。即ち、表2を参照するに、無線基地局2?6の中で一番高い使用率のクラスは無線基地局4と6のcクラスであり、無線基地局1の送信出力レベル値が3なので、送信出力制御判断部25は、無線基地局1の送信出力レベルを1段階下げる為の送信出力変更情報を命令送信部26へ出力する。命令送信部26では、この指示によりデータ回線14を介して無線基地局1へ送信出力変更情報命令を送信する。この送信出力変更情報命令は、無線基地局1の制御部13に入力する。制御部13は、無線送信機11の送信出力レベルを管理しており、命令送信部26から受信した送信出力変更命令に従い送信出力レベル値を現在の3から2に変更する旨を無線送信機11に命令する。無線送信機11は、この送信出力レベルの変更命令により制御チヤネル送信部16と通話チヤネル送信部の各送信出力レベルをレベル値2に相応するレベル即ち、最大出力レベルの40%に下げる。
次に、無線基地局1の近隣に位置する他の無線基地局の出力レベルの調整は前述と同様表3に示すように無線基地局2,3,5の送信出力レベルを2段階、無線基地局4,6の送信出力レベルを1段階上げる。
送信出力制御判断部25は、送信出力レベル変更情報の出力が終了すると、全ての無線基地局に対し、制御チヤネル再走査命令を各無線基地局の管轄移動無線局へ送出する旨を命令する。無線基地局1の制御部13は、制御チヤネル再走査命令送出の指示を受け、制御チヤネル送信部16を介して、移動無線局1Aへ制御チヤネル再走査命令を送出する。通話チヤネルを使用していない移動無線局1Aは、この命令を受け取ると、全ての無線基地局からの制御チヤネルの受信レベルを再走査して受信レベルの一番高い制御チヤネルに同調させる。図を用いて具体的に説明すると、第3図は移動無線局1Aにおける無線基地局1と無線基地局6の制御チヤネルの受信レベルを送信出力変更前と変更後とを比較して示した比較図である。第3図(A)に示すように送信出力変更前は、無線基地局1の制御チヤネルの受信レベルは比較的高レベルに設定されるが、第3図(B)に示す様に制御チヤネル送信出力の変更により、無線基地局1の制御チヤネル送信出力レベルが下がり、反対に無線基地局6の制御チヤネル送信出力レベルが上がった結果、移動無線局1Aにおける無線基地局6からの制御チヤネルの受信レベルが高くなっている。従って、各送信出力レベルの変更後は、移動無線局1Aは、一番高い受信レベルである無線基地局6の制御チヤネルに同調し、以後この制御チヤネルにて通話要求を行う事になり、通話時、この移動無線局1Aに割り当てられる通話チヤネルは無線基地局6の通話チヤネルとなる。」(4頁左下欄6行?5頁右上欄3行)

O.「以上の様に無線基地局1の制御チヤネル送信出力を下げ無線基地局6の制御チヤネル送信出力を上げる事により、無線基地局1の制御チヤネルに同調していた移動無線局は、無線基地局6の近隣無線基地局の制御チヤネルに同調する。これにより無線基地局1へ通話要求する移動無線局が少なくなり、無線基地局1の使用率が高くなる事を防ぎ、無線基地局6など近隣無線基地局の使用率を上げ、システム全体のチヤネル使用率のバランスを保つ。」(5頁右上欄4?13行)

P.「(発明の効果)
以上説明したように本発明によれば、特定の無線基地局に通話中の移動無線局が集中し、近隣の無線基地局に十分な空通話チヤネルが存在する場合、集中した無線基地局の無線送信出力レベルを小さくし、近隣の無線基地局の送信出力レベルを大さく(審決注:「大きく」の誤記と認められる。) することにより、移動基地局を近隣のサービス・エリアに分散させ、空通話チヤネルの有効利用を図ることができ、また移動無線局と、無線基地局との間の無駄な通話を低減することが出来る。」(5頁右上欄14行?同頁左下欄4行)

上記のH乃至Pの記載から見て、引用例2には、

無線基地局毎の通話チヤネル使用状況に応じて、移動局を管轄する無線基地局の管轄サービスエリアの範囲を可変できる移動無線通信方式であって、複数のサービスエリア毎に無線基地局を配置し、各無線基地局の管轄サービスエリアに存在する複数の発呼移動局からの各通話情報を複数の通話チヤネルで中継し、該通話情報を移動無線交換機で個別に交換して着呼移動局に接続する移動無線通信方式において、
前記各無線基地局毎の通話チヤネル使用率を演算する演算手段と、該各無線基地局毎の通話チヤネル使用率の推移を監視して各無線基地局の管轄サービスエリアの範囲を制御するサービスエリア制御手段とを前記移動無線交換機に設け、
前記サービスエリア制御手段の出力に応じて前記移動局に対する制御チヤネルの送信電力を相対的に制御する送信電力制御手段を前記各無線基地局に設けたことを特徴とする移動無線通信方式。

という発明が記載されていると認められる。

(3)同じく原査定の拒絶の理由において引用された特表平4-502845号公報(平成4年5月21日特許庁発行、以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。

[引用例3(特表平4-502845号公報)]
Q.「請求の範囲
(1)自動車利用者が、それぞれ地理的なサービス領域を限定する複数の地理的に分離されたセル位置の少なくとも1つのコード分割拡散スペクトル信号として情報信号を通信することができる自動車電話機セットと、前記自動車利用者がサービス領域を変化したときに別のシステム利用者にシステム制御装置を介して結合するために前記自動車利用者と前記セル位置との間の通信を導くシステムとを有している自動車システム利用者が別のシステム利用者と通信するセル状電話機システムにおいて、
前記自動車利用者が1つのセル位置のサービス領域にあり、前記1つのセル位置を介して前記別のシステム利用者と通信し、前記1つのセル位置のサービス領域から別のセル位置のサービス領域への前記自動車利用者の転移を決定し、前記別のセル位置を識別する指示を出力する手段と、
前記別のセル位置を介して前記自動車利用者と前記別のシステム利用者との間において通信を結合するために前記指示に応答し、一方前記自動車利用者がまた前記1つのセル位置を介する前記別のシステム利用者との通信を維持する手段と、
前記別のセル位置を介して前記自動車利用者と前記別のシステム利用者との間において連続する通信により前記1つのセル位置を介して前自動車利用者と前記システム利用者との間の前記通信を終了するために前記別のセル位置を介する前記自動車利用者と前記別のシステム利用者との間における通信の前記結合に応答する手段とを具備しているシステム。
(2)各セル位置は隣接したセル位置と異なる位相の同じパイロット信号を送信し、前記決定する手段は、
セル位置の送信されたパイロット信号を受信し、この受信された各パイロット信号の信号強度を測定し、相対信号強度を比較し、最大信号強度の受信されたパイロット信号を示す信号強度信号を出力する前記自動車ユニットに配置された走査受信手段と、
前記信号強度を受信し、前記信号強度信号が前記別のセル位置の送信パイロット信号が前記1つのセル位置の送信パイロット信号より大きい信号強度であることを示したときにハンドオフ要求命令を発生し、前記1つのセル位置に通信される前記自動車ユニットに配置された処理手段とを具備している請求項1記載の通信制御システム。」(1頁左下欄1行?同頁右下欄16行)

R.「I.発明の分野
本発明はセル電話システムに関する。特に、本発明はコード分割多重アクセス(CDMA)セル電話システムで自動車ユニットとセル位置ステーションの通信におけるハンドオフを制御する新しい改良されたシステムに関する。」(2頁右上欄4?8行)

S.「自動車ユニット18が最初のセル位置のカバレージ領域の外に移動したならば、別のセル位置を通して呼びを送ることによって呼びを連続するように試みられる。ハンドオフ処理において、呼びのハンドオフを開始するか、または別のセル位置を通して送るかの2つの異なる方法がある。
セル位置開始ハンドオフと呼ばれる第1の方法は、現在使用されている原形の第一世代アナログセル電話システムにおいて使用されるハンドオフ方法に類似している。セル位置開始ハンドオフ方法において、最初のセル位置であるセル位置16は自動車ユニット18によって送信された信号があるしきい値レベルの下になることを認知する。セル位置16はシステム制御装置10にハンドオフ要求を送信する。制御装置10はセル位置16の全ての隣接したセル位置14,12に要求を中継する。制御装置送信要求は自動車ユニット18によって使用されたPNコードシーケンスを含むチャンネルに関連した情報を含む。セル位置12および14は自動車ユニットによって使用されているチャンネルに受信機を切替え、典型的にデジタル技術を使用して信号強度を測定する。セル位置12および14の受信機の一方が最初のセル位置の報告された信号強度よりも強い信号を報告した場合、ハンドオフはこのセル位置に対して行われる。」(6頁左上欄25行?同頁右上欄19行)

T.「ハンドオフを開始する第2の方法は自動車開始ハンドオフと呼ばれる。自動車ユニットは、他の機能を実行することに加えて隣接したセル位置12および14のパイロット信号送信を走査するために使用される探索受信機を具備している。セル位置12および14のパイロット信号がセル位置16のパイロット信号より強いことが認められた場合、自動車ユニット18は現在のセル位置であるセル位置16に制御メッセージを送信する。この制御メッセージはこのセル位置のハンドオフを要求する情報に加えて大きい信号強度のセル位置を識別する情報を含む。セル位置16は制御装置10にこの制御メッセージを送信する。
自動車開始ハンドオフ方法は、セル位置開始ハンドオフ方法にまさる種々の利点を有する。自動車ユニットは、セル位置が行うことができるより速く小さい努力でそれ自身と種々の隣接したセル位置との間のパスにおける変化を認識する。しかしながら、自動車開始ハンドオフを実行するために各自動車ユニットは走査機能を実行するために探索受信機を具備していなければならない。しかしながら、自動車ユニットCDMA通信容量のここに記載された実施例において探索受信機はその存在を要求する付加的な機能を有している。」(6頁右上欄20行?同頁左下欄15行)

してみると、引用例3には、上記Q?Tの記載からみて、

CDMAセル状電話システムにおいて、各セル位置は隣接したセル位置と異なる位相の同じパイロット信号を送信し、自動車利用者が1つのセル位置のサービス領域にあり、前記1つのセル位置を介して別のシステム利用者と通信し、前記1つのセル位置のサービス領域から別のセル位置のサービス領域への前記自動車利用者の転移を決定する手段は、
セル位置の送信されたパイロット信号を受信し、この受信された各パイロット信号の信号強度を測定し、相対信号強度を比較し、最大信号強度の受信されたパイロット信号を示す信号強度信号を出力する前記自動車ユニットに配置された走査受信手段と、
前記信号強度を受信し、前記信号強度信号が前記別のセル位置の送信パイロット信号が前記1つのセル位置の送信パイロット信号より大きい信号強度であることを示したときにハンドオフ要求命令を発生し、前記1つのセル位置に通信される前記自動車ユニットに配置された処理手段とを具備している通信制御システム。

という発明が記載されている。

(4)同じく原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第92/12601号パンフレット(1992年(平成4年)7月23日国際公開、以下「引用例4」 という。)には、以下の事項が記載されている。

[引用例4(国際公開第92/12601号パンフレット)]
U.「Summary of the Invention
A method and apparatus is provided for dynamic distribution of a communication channel load in a sectorized cellular radio communication system. The channel load is distributed by narrowing an antenna beamwidth of an overloaded sector of a cell site and widening an antenna beamwidth of an adjacent sector of the cell site and subsequently handing off subscriber units previously in the overloaded sector cell site to the adjacent sector cell site.
An alternative method apparatus is provided for dynamic distribution of communication load in a radio communication system. The channel load is distributed by reducing power of an antenna of a cell site which is adjacent to an overloaded cell site, if the channel from an antenna of the overloaded cell site to an antenna of a subscriber unit is overloaded due to interference. Similarly, the channel load is distributed by increasing power of an antenna of a cell site which is adjacent to an overloaded cell site,if the communication channel from an antenna of a subscriber uinit to an antenna of the overloaded cell site is overloaded due to interference. Subsequent to the occurence of either channel interference condition, each of the subscriber units in the overloaded and adjacent cell site are handed off to the particular cell site which is best able to service the subscriber units. This alternative method and apparatus can be applied to sectorized cell sites or cell sites having omni-directional antennae. 」(第9頁第14行?第10頁第2行)
(訳:発明の概要
セクタ化されたセルラ無線電話通信システムにおける通信チャネル負荷の動的分散のための方法および装置が提供される。前記チャネル負荷はセルサイトのオーバロードのセクタのアンテナのビーム幅を狭くしかつ前記セルサイトの隣接セクタのアンテナのビーム幅を広くし、そして続いて前にオーバロードのセクタのセルサイトにあった加入者ユニットを隣接セクタのセルサイトにハンドオフすることにより分散される。
無線通信システムにおける通信負荷を動的に分散するための別の方法および装置が提供される。前記チャネル負荷は、もしオーバロードのセルサイトのアンテナから加入者ユニットのアンテナへのチャネルが妨害によりオーバロードとなっていれば、オーバロードのセルサイトに隣接するセルサイトのアンテナの電力を低減することにより分散される。同様に、もし加入者ユニットのアンテナから前記オーバロードのセルサイトのアンテナへの通信チャネルが妨害によりオーバロードとなっていれば、オーバロードのセルサイトに隣接するセルサイトのアンテナを電力を増大することによりチャネル負荷を分散する。いずれかのチャネルの妨害状態の発生に続き、前記オーバロードおよび隣接のセルサイトにおける加入者ユニットの各々は前記加入者ユニットに最も良くサービスできる特定のセルサイトへとハンドオフされる。この別の方法および装置は全方向性(omni-directional)アンテナを有するセルサイトまたはセクタ化セルサイトに適用できる。)

してみると、引用例4には、上記記載事項からみて、
セルラ無線電話通信システムにおいて、セルサイトにおける通信チャンネル負荷を動的に分散するために、オーバロードとなっている通信エリアを狭め、その隣接する通信エリアを広くし、それに伴って加入者ユニットをオーバロードの通信エリアから、通信エリアを広めた隣接する通信エリアにハンドオフさせるようにすることが開示されている。

3.本願発明と引用例記載の発明との対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
引用発明1における小ゾーン構成の移動通信システムは、複数ゾーンでサービスエリアを構成し、各ゾーンには基地局が配置されており、各基地局が形成するゾーンは互いに隣接しており、基地局毎に通話チャネルと制御チャンネルが存在し、各基地局は管轄サービスエリアであるゾーン内に存在する複数の移動局の発着呼を複数の通話チャネルで中継し、交換装置に接続するものであるから、いわゆるセルラ方式の移動通信システムと認められるものであり、本願発明におけるセルラ移動通信システムに対応している。
そして、 引用発明1の「移動機」、「基地局」、「ゾーン」、「交換装置」及び「トラヒック量監視装置」は、それぞれ本願発明の「移動局」、「基地局」、「セル」、「ネットワーク」及び「基地局とその管轄するセル内に位置する複数の移動局との間のトラヒック量を測定する第一の手段」に対応している。
さらに、引用発明1において、移動機は各ゾーンの基地局から送信される制御チャネルの受信レベルを比較することにより、在圏ゾーンを決定するように構成されているのであるから、引用発明1における、基地局から送信される制御チャネルに係る信号は、セルの大きさを決める信号という点で、本願発明のパイロット信号に対応しており、引用発明1における基地局から送信される通話チャネルに係る信号は、本願発明における、各基地局から複数の移動局への送信されるデータチャネルに係る信号に対応している。
また、引用発明1における、基地局送信電力を低下させることにより、ゾ-ン内トラヒックの時間的変化に対応してゾ-ンの大きさを変えるように構成されており、かつ前記基地局制御チャネル送信機の出力レベルを制御するだけでゾーンの大きさを制御するように構成されているということは、測定されたトラヒック量に応じて、セルに配置された基地局が送信するセルの大きさを制御するためにパイロット信号の送信電力を制御する手段を備えていることになり、この点で、本願発明の第二の手段に対応している。
引用発明1においては、基地局から送信される信号にとして制御チャンネルに係る信号と、通話チャンネルに係る信号があり、前記基地局制御チャネル送信機の出力レベルを制御するだけでゾーンの大きさを制御するように構成されているのであるから、基地局から送信される制御チャネルの出力レベルと、各移動局に送信される通話チャネルの出力レベルとは、別に制御されているものと認められる。

したがって、両者は、
ネットワークに接続される複数の基地局とを有し、移動局は、複数の基地局からのセルの大きさを制御するパイロット信号を受信し、そのパイロット信号の受信強度を比較して、受信強度がより強い基地局を所属する基地局として決定するよう構成されたセルラ移動通信システムにおいて、
上記基地局とその管轄するセル内に位置する複数の移動局との間のトラヒック量を測定する第一の手段と、
上記第一の手段により測定されたトラヒック量に応じて、上記セルに配置された基地局が送信するセルの大きさを制御するためにパイロット信号の送信電力を制御する第二の手段とを有し、
上記基地局は、上記第二の手段による制御に基づき上記パイロット信号の送信電力を、上記各移動局への送信信号であるデータチャネルの送信電力とは別に制御することを特徴とするセルラ移動通信システム。

の点で一致するものと認める。

一方、両者は以下の点で相違するものと認める。

<相違点1>
セルラ移動通信システムの方式について、本願発明においては、CDMAつまり符号分割多重方式であると特定され、データチャネルとパイロットチャネルとを符号分割多重して送信しているものであるのに対して、引用発明1においては、方式は特定されておらず、各基地局から複数の移動局へ送信されるデータチャネルとパイロットチャネルとを符号分割多重することについては開示されていない点。

<相違点2>
各基地局から送信されるセル大きさを制御するパイロット信号、つまり移動局が所属する基地局を決定する信号が、
本願発明においては、接続する基地局を決定するのに使用されるだけではなく、複数の基地局のいずれかと接続している場合には、複数の基地局からのパイロット信号を受信し、該接続している基地局から受信されるパイロット信号の受信強度よりも該接続している基地局以外の他の基地局から受信されるパイロット信号の受信強度が強い場合は接続する基地局を上記他の基地局に切り替えるところの、いわゆる移動局のハンドオーバ制御のために用いられる信号でもあるのに対して、引用発明1においては、セル内に位置する移動局に対する制御チャネルに係る信号であり、移動局の在圏ゾーンを決める信号ではあるが、通信中の移動局の基地局切り替え、つまりハンドオーバ制御のために用いる信号でもあることについては明確に開示されていない点。

<相違点3>
パイロット信号の送信電力を制御する第二の手段が、本願発明においては、相互に隣接するセルのそれぞれについて上記第一の手段により測定されたトラヒック量に応じて、上記相互に隣接するセルに配置された各基地局が送信するパイロット信号の送信電力を制御するものあるのに対して、引用発明1においては、このような複数の隣接するセルについて測定されたトラヒック量に応じて各基地局が送信するパイロット信号の送信電力を制御することは開示されていない点。

<相違点4>
本願発明においては、基地局は、各移動局への送信信号の送信電力を、各データチャネル毎に制御しているが、引用発明1においては、制御チャネル送信機の出力レベルを制御するだけでゾーンの大きさを制御することが開示されているにとどまり、各移動局への送信信号であるデータチャンネルに係る信号の送信電力の制御については開示されていない点。

4.相違点の判断
上記相違点について検討する。

<相違点1>について
セルラ移動通信システムにおいて、CDMAつまり符号分割多重方式を採用することは、上記引用例3に開示されているごとく周知であり、CDMA方式のセルラ移動通信システムにおいて、各基地局が、複数の移動局へのデータチャネルとパイロットチャネルとを符号分割多重して送信することは、当業者にとって自明であるので、相違点1は格別なものではない。

<相違点2>について
CDMA方式のセルラ移動通信システムにおいて、各セル位置からパイロット信号を送信するようにし、自動車ユニット、つまり移動局が、前記各セル位置から送信されるパイロット信号を受信し、その信号強度を測定し、相対信号強度を比較し、より大きい信号強度であるパイロット信号を送信しているセル位置にハンドオフ(「ハンドオーバ」に相当。)するように構成することは、引用例3に開示されているごとく周知であり、この場合、移動局のハンドオフに係る各セルの大きさはパイロット信号の相対的強度により決められているものと認められる。
また、TDMA方式のセルラ移動通信システムにおいて、刊行物(桑原守二 監修「ディジタル移動通信」1992年(平成4年)9月、株式会社科学新聞社)の180頁5行?181頁3行に開示されているように、通信中チャネル切り替えの場合に、送受信に使用しない空き時間帯に周辺セルの制御チャネル受信電界レベルを測定することにより、移行先セルを選定すること、つまりハンドオーバすることも周知である。

さらに、セルラ移動通信システムにおいて、セルやセクタにおける呼量や通信チャネル負荷を制御するために、前記セルやセクタの大きさを変えるものにおいて、前記セルやセクタの大きさの変更に伴い通信中の移動局を隣接するセルやセクタにハンドオフさせるように構成することは、上記引用例4、特開昭57-210739号公報(特に、1頁左下欄4行?同頁右下欄1行、1頁右下欄3?5行、3頁右下欄14行?4頁右上欄11行の記載を参照。)、及び、特開平4-322521号公報(特に、段落【0005】及び図1?3、を参照。)に記載されているごとく周知である。

そして、引用例1の「移動機の在圏ゾーン」という記載における移動機とは、基地局が形成しているゾーン内に存在するに移動機全てを対象にしているものと普通に捉えられるから、基地局との間で通信中の移動機も包含されることが示唆されているものと認められる。
さらに、ゾーンのトラヒックには、通信中の移動機も関わっていることは当業者にとって自明であり、引用例1における上記2-(1)-Bの
「〔問題点を解決するための手段〕
従来の技術では、ゾーン半径は置局設計時に固定されていたが、本発明ではこれをトラヒックに応じてアダプティブに変えることとする。
〔作用〕
本発明は、あるゾーンが時間的なトラヒックピーク状態にあるとき、そのゾーンのゾーン半径を実効的に縮小することにより、トラヒックの一部を周辺ゾーンで負担させる。そしてこのことを最も主要な特徴とする。」という記載、及び、上記2-(1)-Fの記載は、トラヒックに応じてゾーン半径をアダプティブに変えること、及び各無線基地局からの送信波の移動機での受信レベルを比較することにより移動機の在圏ゾーンを決定するように構成しておけば、トラヒックに応じて、基地局の該当送信機出力を調整することにより、ゾーン半径の調整が可能である、という技術思想を一般的に表現しているのであるから、引用例1には、通信中の移動機に関わるゾーン半径についても同様に調整可能であることが示唆されているものと認められる。
したがって、引用発明1のごとくのセルラ移動通信システムにおいて、各セルにおけるトラヒック量を制御するために、各セル位置の基地局から送信されセルの大きさを制御する信号として、上記のごとくセル内に位置する移動局のハンドオーバに関わるパイロット信号を採用し、そのパイロット信号の送信電力を、管轄するセル内に位置する移動局へのデータチャネル信号の送信電力とは独立に制御し、移動局の接続のみならず、移動局のハンドオーバ、つまり移動局における接続中の基地局の切り替えにも関わるように構成することは当業者であれば容易に想到し得たことである。

<相違点3>について
引用例2には、複数のサービスエリア毎に無線基地局を配置した移動無線通信方式において、各無線基地局毎の通話チヤネル使用率を演算する演算手段と、該各無線基地局毎の通話チヤネル使用率の推移を監視して各無線基地局の管轄サービスエリアの範囲を制御するサービスエリア制御手段とを前記移動無線交換機に設け、前記サービスエリア制御手段の出力に応じて前記移動局に対する制御チヤネルの送信電力を相対的に制御する送信電力制御手段を前記各無線基地局に設けた発明が開示されており、トラヒックに応じてゾーンの大きさを変更するために、相互に隣接するセルのそれぞれについて測定されたトラヒック量に応じて、上記相互に隣接するセルに配置された各基地局が送信するパイロット信号の送信電力を制御するように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

<相違点4>について
移動通信システムにおいて、基地局(親機)から各移動局(子機)への通信データ信号の送信電力を制御することは、国際公開第92/21196号パンフレット(1992年(平成4年)11月26日国際公開、パテントファミリ:特表平7-500460号公報)(特に、20頁5行?21頁32行、29頁19行?30頁13行、及びFIG.3を参照。)、特開平4-297137号公報(特に、段落【0015】及び図3を参照。)、特開平5-14459号公報(特に、段落【0021】及び図1を参照。)に開示されているように周知あり、そして、引用発明1において、移動機の在圏ゾーン、つまりゾーンの大きさを決めるのは基地局から送信される制御チャンネルに係る信号であって、基地局から各移動機へ送信される通話チャネルに係る信号は関わらないことが開示されているのであるから、基地局は、各移動局への送信信号であるデータチャネルの送信電力を、各データチャネル毎に制御するように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

上記で検討したごとく、相違点1?4はいずれも格別のものではなく、そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1、2に記載された発明、及び周知技術から当業者であれば容易に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。

5.結び
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2007-12-28 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-21 
出願番号 特願2004-241796(P2004-241796)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 聡史  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 橋本 正弘
桑江 晃
発明の名称 セルラ移動通信システム  
代理人 井上 学  

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