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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1173983
審判番号 不服2004-18157  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-02 
確定日 2008-03-07 
事件の表示 平成10年特許願第339247号「平版印刷版用支持体の製造方法、該製造方法で製造した平版印刷版用支持体及び該支持体を用いた平版印刷版」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月13日出願公開、特開2000-158839〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成10年11月30日に出願したものであって、平成16年7月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月2日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年10月1日付けで明細書に係る手続補正がなされたものである。

第2.平成16年10月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年10月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、全請求項数8であった特許請求の範囲は、全請求項数7に補正され(ただし、「製造方法」に関する請求項数は、補正前後にかかわらず5である。)、特許請求の範囲の請求項1は、
「粒子径が5?100nmのコロイダルシリカと、少なくともカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーと、水とで組成されてなり、該コロイダルシリカと該水溶性ポリマーはその固形分重量比が30:70?70:30、その合計含有量が4?20重量%であるとともに、該カルボン酸ポリマー中のカルボキシル基の含有量が20?63重量%であり、かつ、全体のpH値が1?5である塗布液を、基材上に塗布、乾燥して親水性層を形成することを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。」
から
「粒子径が5?100nmのコロイダルシリカと、少なくともカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーと、水とで組成されてなり、該コロイダルシリカと該水溶性ポリマーはその固形分重量比が30:70?70:30、その合計含有量が4?20重量%であるとともに、該カルボン酸ポリマー中のカルボキシル基の含有量が20?63重量%であり、かつ、全体のpH値が1?5である塗布液を、基材上に塗布、乾燥することにより、球状のシリカゲルの独立粒径が0.2?2.5μmであり、かつ親水性層表面の平均粗さRaが0.2?1.0μmである親水性層を形成することを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。」
と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「親水性層」について、「球状のシリカゲルの独立粒径が0.2?2.5μmであり、かつ親水性層表面の平均粗さRaが0.2?1.0μmである」と限定したものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件について
補正後の請求項1には「粒子径が5?100nmのコロイダルシリカと、少なくともカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーと、水とで組成されてなり、該コロイダルシリカと該水溶性ポリマーはその固形分重量比が30:70?70:30、その合計含有量が4?20重量%であるとともに、該カルボン酸ポリマー中のカルボキシル基の含有量が20?63重量%であり、かつ、全体のpH値が1?5である塗布液」(以下、「特定の塗布液」という。)を、「基材上に塗布、乾燥することにより」、「球状のシリカゲルの独立粒径が0.2?2.5μmであり、かつ親水性層表面の平均粗さRaが0.2?1.0μmである親水性層」(以下、「特定の親水性層」という。)を「形成する」と記載されている。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、実施例1?6が記載されているが、本願明細書段落【0065】?【0067】には、
「実施例1
ポリエチレンテレフタレートフィルムの塗布面側を15W/(m^(2)・min)のエネルギーでコロナ放電処理し支持体を作製した。次いで下記塗布液1を、ワイヤーバーで塗布し150℃で10分乾燥し、乾燥膜厚が2.1g/m^(2)の平版印刷版用支持体1を作製した。
塗布液1
コロイダルシリカ:スノーテックスST-0 20g
(日産化学株式会社製、固形分20%、粒径10?20nm、pH2.7)
ポリアクリル酸樹脂水溶液:アキュマー1510 16g
(ローム&ハス社製、固形分25%、平均分子量60,000、カルボキシル基の含有量62重量%)
蒸留水 64g
上記塗布液1のpHは2.6であった。
上記塗布液1のコロイダルシリカとポリアクリル酸樹脂水溶液の固形分重量比は、50:50であった。」、
段落【0089】には、
「実施例6
親水性層の乾燥膜厚を0.4g/m^(2)としたほかは実施例1と同様にして平版印刷版用支持体6を作製し、実施例1と同様の評価を行った。」
と記載され、実施例6は、親水性層の乾燥膜厚が異なるものの、実施例1と同様に製造される旨記載されている。(上記実施例1に記載の「塗布液1」が補正後の請求項1に記載された「特定の塗布液」であることは明らかであり、実施例6も「特定の塗布液」である「塗布液1」を用いていると解される。)このように、実施例6は「特定の塗布液」を「基材上に塗布、乾燥することにより」親水性層を形成するものであるにもかかわらず、実施例6によって生成された親水性層は、その表面の平均粗さRaが0.18μmであって、補正後の請求項1に記載された「特定の親水性層」に該当しない。
してみれば、「特定の塗布液」を「基材上に塗布、乾燥することにより」直ちに「特定の親水性層」が形成されるとはいえないのであるから、補正後の請求項1における「特定の親水性層」を「形成する」という工程がいかなるものを指すのか不明であり、本願補正発明は不明確であるといわざるを得ない。
よって、補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

また、本願補正発明の特定の親水性層を形成する平版印刷版用支持体の製造方法を裏付けている具体例は、本願明細書に記載の実施例1?5のみであって、実施例1は、既に記載の通りであり、実施例2は、段落【0083】?【0085】に
「実施例2
実施例1の塗布液1を下記塗布液2に変更した以外は、実施例1と同様にして平版印刷版用支持体2を作製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
塗布液2
コロイダルシリカ:スノーテックスST-0S 20g
(日産化学株式会社製、固形分20%、粒径8?11nm、pH2.4)
ポリアクリル酸樹脂水溶液:アキュマー1510 16g
(ローム&ハス社製、固形分25%、平均分子量60,000、カルボキシル基の含有量62重量%)
多孔質シリカ:サイロスフェアC-1504 6g
(富士シリシア化学(株)製、細孔容積1.5ml/g、平均粒径4.5μm)
蒸留水 58g
塗布液2のpHは2.8であった。
コロイダルシリカ:ポリアクリル酸樹脂水溶液=50:50(固形分重量比)」
と記載され、実施例3は、段落【0085】?【0087】に
「実施例3
実施例1の塗布液1を下記塗布液3に変更した以外は実施例1と同様にして平版印刷版用支持体3を作製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
塗布液3
コロイダルシリカ:スノーテックスST-0S 20g
(日産化学株式会社製、固形分20%、粒径8?11nm、pH2.4)
ポリアクリル酸樹脂水溶液:アキュマー1510 16g
(ローム&ハス社製、固形分25%、平均分子量60,000、カルボキシル基の含有量62重量%)
多孔質シリカ:サイロスフェアC-1504 6g
(富士シリシア化学(株)製、細孔容積1.5ml/g、平均粒径4.5μm)
無孔質アルミナ:スミコランダムAA-5 2g
(住友化学工業(株)製、B.E.T.比表面積0.5m^(2)/g、平均粒径4.6μm)
蒸留水 56g
塗布液3のpHは2.8であった。
コロイダルシリカ:ポリアクリル酸樹脂水溶液=50:50(固形分重量比)」
と記載され、実施例4は、段落【0087】に
「実施例4
塗布液2の組成中の多孔質シリカをサンドグラインダーを使用し、媒体として硬質ガラスビーズ:ハイビー20を用いて、1000rpmで1時間分散を行ったほかは実施例2と同様にして平版印刷版用支持体4を作製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。」
と記載され、実施例5は、段落【0088】に
「実施例5
塗布液3の組成中の多孔質シリカをサンドグラインダーを使用し、媒体として硬質ガラスビーズ:ハイビー20を用いて、1000rpmで1時間分散を行ったほかは実施例3と同様にして平版印刷版用支持体5を作製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。」
と記載されている。
即ち、特定の親水性層を形成する本願補正発明の製造方法に用いられる塗布液は、上記特定の塗布液1、2、3のみしか記載がなく、支持体は、ポリエチレンテレフタレートフィルムの塗布面側を15W/(m^(2)・min)のエネルギーでコロナ放電処理したもののみであり、ワイヤーバーで塗布し150℃で10分乾燥し、乾燥膜厚が2.1g/m^(2)となるような条件で製造することしか記載がない。しかるに、前記のように実施例6では、実施例1と同じ塗布液1を使用しながら「特定の親水性層」が形成されていないのであるから、「特定の親水性層」を形成するために、補正後の請求項1で規定された「特定の塗布液」を使用すること以外に、どのような条件が必要なのか不明である。
したがって、特定の製造条件に基づいた上記実施例1?5の結果を、使用する「特定の塗布液」及び形成される「特定の親水性層」しか規定されていない補正後の請求項1の全範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえず、本願補正発明は、発明の詳細な説明の項に記載したものとはいえない。
よって、補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

以上のように、補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成16年10月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「粒子径が5?100nmのコロイダルシリカと、少なくともカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーと、水とで組成されてなり、該コロイダルシリカと該水溶性ポリマーはその固形分重量比が30:70?70:30、その合計含有量が4?20重量%であるとともに、該カルボン酸ポリマー中のカルボキシル基の含有量が20?63重量%であり、かつ、全体のpH値が1?5である塗布液を、基材上に塗布、乾燥して親水性層を形成することを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。」

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-31311号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
ア.【請求項2】 基質およびその上にある無機ゾルまたは金属塩溶液とポリカルボキシ有機重合体状物質とを含んでなる水性組成物から誘導されるコーテイングを含んでなる平版支持体。
イ.【0001】
【発明の分野】本発明は平版支持体に関する。平版支持体は性質が厳密である表面コーテイングを有する典型的には鋼、アルミニウム、プラスチックまたは紙の基質を含んでなる。本発明は改良された表面コーテイングの提供に関する。
ウ.【0024】
【発明の詳細な記述】本発明のある面において、基質上のコーテイングの必須成分はポリカルボキシ有機重合体状物質である。ポリカルボキシ有機重合体状物質の例にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸、ポリジメチルアミノエチレンアクリル酸並びにこれらの単量体成分の共重合体および三元共重合体が包含される。これらの物質は典型的には水中に可溶性であるかまたは少なくとも易乳化性である。
エ.【0025】基質に適用されるコーテイングが本発明の一面の重要な特徴を構成する。コーテイングはポリカルボキシ有機重合体状物質および好適には無機ゾルまたは金属塩溶液、より好適には水和酸化物ゾル、を含んでなる。水性ゾルは3つのカテゴリー、すなわちA型、B型およびC型、に分類することができる。
オ.【0026】A型ゾルは、「無機重合体」を生成しそして単量体状カチオンの加水分解および重合により製造される多核イオンである塩基性単位からなる。多核カチオンの分子量は加水分解度に依存するが、これらのゾルは一般的には約1:1のアニオン対金属比を有する。
カ.【0029】A型およびB型ゾルは加水分解された時に酸化物の理論的密度の>45%であるゲルを生ずる。C型ゾルから誘導されるゲルは多孔性でありそして酸化物の理論的密度の>45%の密度を有する。
キ.【0030】本発明における使用のための無機ゾルは好適には水和酸化物ゾル、例えば水和金属酸化物ゾル、すなわちA型ゾルである。例はジルコニアゾル、セリアゾル、チタニアゾル、ハフニアゾル、アルミナゾル、およびオキシ水酸化鉄ゾルである。シリカゾルが非金属酸化物ゾルの例である。
ク.【0038】水性組成物はA型水和酸化物ゾルをポリカルボキシ有機重合体状物質と水溶液または水性乳化液中で組み合わせることにより製造できる。この水性組成物を基質に適用しそして乾燥してその上にコーテイングを生成する時には、ゾルの金属または他の酸化物が作用してポリカルボキシ有機重合体状物質を橋かけ結合しそしてその結果として不溶性にすると信じられている。好適な例では、ポリカルボキシ有機重合体状物質はポリアクリル酸であり、そしてゾルはポリアクリル酸をカルボキシル基により橋かけ結合するために作用するジルコニアを有するA型のジルコニアゾルである。ポリカルボキシ有機重合体状物質の橋かけ結合はコーテイングの水に対する敏感性を減じそして印刷回数の増加を可能にする。
ケ.【0040】これらのコーテイング組成物中およびそれらから製造されるコーテイング中では、ゾルから誘導されるZrO_(2)または他の金属酸化物およびポリアクリル酸または他のポリカルボキシ有機重合体状物質は好適には99.5/0.5?0.5/99.5、特に20:1?1:20、の範囲の重量割合で存在する。以下の例が示すように、99%のゾルに対する1%程度の低さのポリアクリル酸の添加が顕著な改良を生ずるが、上記の範囲の他方の限界においてはポリアクリル酸がゾルまたは金属塩溶液の完全な不存在下であってもコーテイングとして有用な性質を有する。水性組成物の適用前または後のいずれかにゾルをゲル化して基質上にコーテイングを製造することが簡便である。A型ゾルをゲル化するための既知の化学的技術を使用することができる。
コ.【0046】組成物は基質表面(場合により輪郭がつけられた表面を有する)に一般的技術、例えば回転コーテイング、浸漬、フローもしくはローラーコーテイング、はけ塗りにより、または噴霧により適用することができる。アルミニウム片に関しては、ローラーコーテイングが魅力ある選択のようである。調合物は所望する方法による適用に関して好都合な粘度を与えるように調節する必要があるかもしれない。適用および乾燥後に、表面上のコーテイングを硬化してもよい。硬化温度は周囲温度から親水性有機重合体状物質の分解温度までであり、(必ずしも必要でないが)一般的には粒子を完全に焼結するために必要なものより低く、そして好適には基質が安定である50?400℃の範囲であり、より好適には100℃?350℃の範囲である。水の除去は徐々に行われそして400℃においても完全ではない。
サ.【0050】
【実施例】
実施例1(本発明に従う)
ゾル-ゲル調合物
4.2gのポリアクリル酸の25重量%溶液(1.05gPAA当量)(ローム・アンド・ハースからの商品名Acumer 1510)を100gの水に加え、そして撹拌した。5.2gの炭酸ジルコニウムアンモニウムの20重量%溶液(1.04gのZrO2当量)(商品名Bacote 20)を加え、そして混合物を撹拌してコーテイング溶液を製造した。この製造を規模拡大してさらに大量生産することもでき、試験用の単一バッチ中で10リットルの溶液が製造された。

上記刊行物1は、「平版支持体」に関するものであるが、その製造方法を認識でき、上記キ.に「シリカゾル」が例示されており、上記ウ.に「ポリカルボキシ有機重合体状物質の例にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸、ポリジメチルアミノエチレンアクリル酸並びにこれらの単量体成分の共重合体および三元共重合体が包含される。」と記載され、記載ク.に「水性組成物はA型水和酸化物ゾルをポリカルボキシ有機重合体状物質と水溶液または水性乳化液中で組み合わせる」と記載されており、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「シリカゾルと、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸、ポリジメチルアミノエチレンアクリル酸並びにこれらの単量体成分の共重合体および三元共重合体が包含されるポリカルボキシ有機重合体状物質と、水溶液または水性乳化液とを含んでなる水性組成物を、基質表面にローラーコーテイング、又は、はけ塗りにより適用し、乾燥してコーテイングを形成する平版支持体の製造方法。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭55-81346号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
シ.「本発明に用いられるコロイダルシリカは、主成分がSiO_(2)・水和物で、コロイドの安定化のためのアルカリ金属など少量の異種金属を加えることもあるが、安定なコロイド水溶液のものが好しい。通常、その平均粒子径は100Åないし数百Åであり、市販品の中から入手することができる。」(第4頁右下欄第1?6行)

3.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「シリカゾル」、「基質」、「ローラーコーテイング、又は、はけ塗り」及び「平版支持体」は、それぞれ本願発明の「コロイダルシリカ」、「基材」、「塗布」及び「平版印刷版用支持体」に相当し、刊行物1記載の発明の「ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸、ポリジメチルアミノエチレンアクリル酸並びにこれらの単量体成分の共重合体および三元共重合体が包含されるポリカルボキシ有機重合体状物質」が、「少なくともカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマー」であることは明らかであるし、刊行物1記載の発明の「水溶液または水性乳化液」は、水を有していることは明らかであるから、刊行物1記載の発明の「水性組成物」は、本願発明の「塗布液」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「基質表面」と本願発明の「基材上」は同じ場所を指していることは明らかである。
刊行物1の上記コ.に記載の「親水性有機重合体状物質」が刊行物1記載の発明の「コーテイング」の物質を指していることは明らかであるから、刊行物1記載の発明の「コーテイング」は、本願発明の「親水性層」に相当する。
よって、両者は、
「コロイダルシリカと、少なくともカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーと、水とで組成されてなる塗布液を、基材上に塗布、乾燥して親水性層を形成する平版印刷版用支持体の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]コロイダルシリカの粒子径に関し、本願発明は、5?100nmであるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような特定がない点。
[相違点2]塗布液に関し、本願発明は、コロイダルシリカと水溶性ポリマーはその固形分重量比が30:70?70:30、その合計含有量が4?20重量%であるとともに、カルボン酸ポリマー中のカルボキシル基の含有量が20?63重量%であり、かつ、全体のpH値が1?5であるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような特定がない点。

4.判断
上記相違点1について検討する。
刊行物2に記載のように、コロイダルシリカの平均粒子径は、通常、100Åないし数百Å(換算すると、10nmないし数十nm)であり、市販品の中から入手することができる旨記載されているから、そのような粒径のコロイダルシリカを採用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

上記相違点2について検討する。
コロイダルシリカと水溶性ポリマーの固形分重量比に関し、刊行物1の上記ケ.に「ゾルから誘導されるZrO_(2)または他の金属酸化物およびポリアクリル酸または他のポリカルボキシ有機重合体状物質は好適には99.5/0.5?0.5/99.5、特に20:1?1:20」と記載され、本願発明より広い範囲が示されているが、本願明細書段落【0030】に、「前記特定粒径のコロイダルシリカと水溶性ポリマーは、固形分重量比が30:70?70:30、好ましくは40:60?70:30となるように配合される。該コロイダルシリカの固形分重量比が30未満では塗膜の全表面積に占める親水基の濃度が不十分なため親水性持続量が低下してしまい、反対にその重量比が70を超えて水溶性ポリマーの配合量がすくなくなると塗膜がもろくなる。」と記載されているにすぎず、実施例1?6に用いられる塗布液1?3(記載内容は、既に上記第2.2.に記載した。)では、いずれも50:50であることから、30:70?70:30と数値限定する臨界的意義を見いだすことができず、実験的に好適な範囲を選択することは、当業者が容易に想到し得ることであるから、本願発明のような固形分重量比とすることは、適宜なし得る程度のものである。
コロイダルシリカと水溶性ポリマーの合計含有量に関し、本願発明は、合計含有量が4?20重量%であると割合で規定しているが、本願明細書段落【0042】に「本発明において、塗布液中の前記粒子径のコロイダルシリカ及び水溶性ポリマーの合計含有量が4?20重量%となるように配合する。この合計配合量が4重量%未満では所望レベルの親水性を付与することができず塗膜の均一性が低下し、反対に20重量%を超えると液の粘度が上昇して塗布作業性が低下したり塗膜の均一性が低下する。」と記載されているにすぎず、本願明細書に記載の実施例1?6に用いられる塗布液1?3のコロイダルシリカと水溶性ポリマーの合計含有量の割合を計算すると、いずれも8重量%であることから、合計含有量の割合を4?20重量%と数値限定する臨界的意義を見いだすことができず、塗布液中の水の量を増減することにより合計含有量の割合を変更し、実験的に好適な範囲を選択することは、当業者が容易に想到し得ることであるから、本願発明のような合計含有量の割合とすることは、適宜なし得る程度のものである。
カルボン酸ポリマー中のカルボキシル基の含有量に関し、刊行物1の上記サ.に「ローム・アンド・ハースからの商品名Acumer 1510」と記載されている。一方、本願明細書に記載の実施例1?6に用いられる塗布液1?3中のカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーとして、同じ商品名のものが記載されており、カルボキシル基の含有量62重量%と記載されている。刊行物1記載の発明のカルボン酸ポリマーを含む水溶性ポリマーとして、刊行物1の上記商品名のものを採用することは当業者が容易になし得る程度のことであり、そうすれば、カルボン酸ポリマー中のカルボキシル基の含有量は、20?63重量%の範囲とならざるを得ない。
全体のpH値に関し、刊行物1記載の発明がカルボン酸ポリマーを採用しているので酸性である蓋然性が高い。一方、本願明細書段落【0043】に「塗布液のpH値は1?5であるが、pHが1未満では含有成分の塗布液中での安定性が悪く、塗膜形成時に支持体を溶解するおそれもあるため適当ではなく、pHが5を超えると親水性層の皮膜形成時にコロイダルシリカが球状となって表層部に析出しない。このpH値の調整は、カルボン酸ポリマーの配合量を調整することにより行うことができるが、硝酸或いは酢酸等の揮発性酸を用いて行ってもよい。」と記載されているにすぎず、本願明細書の実施例1?6に用いられる塗布液1?3のpH値は、2.6あるいは2.8であることから、全体のpH値を1?5とする臨界的意義を見いだすことができず、カルボン酸ポリマーの配合量を調整することにより全体のpH値を調整し、実験的に好適な範囲を選択することは、当業者が容易に想到し得ることであるから、本願発明のような全体のpH値とすることは、適宜なし得る程度のものである。

そして、本願発明の作用効果も、刊行物1、2記載の発明から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-27 
結審通知日 2008-01-08 
審決日 2008-01-22 
出願番号 特願平10-339247
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41N)
P 1 8・ 537- Z (B41N)
P 1 8・ 121- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 裕子  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 坂田 誠
菅藤 政明
発明の名称 平版印刷版用支持体の製造方法、該製造方法で製造した平版印刷版用支持体及び該支持体を用いた平版印刷版  

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