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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1174834
審判番号 不服2005-23579  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-08 
確定日 2008-03-13 
事件の表示 特願2000-234807「溶接用フラックス入りワイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月12日出願公開、特開2002- 45991〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年8月2日の出願であって、平成17年7月20日付で拒絶の理由が通知され、平成17年9月26日付で手続補正がなされ、平成17年11月2日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年12月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
そして、本願請求項1?5に係る発明は、平成17年9月26日付で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】鋼製外皮にフラックスを充填してなる溶接用フラックス入りワイヤにおいて、フラックス中にMg、Mg合金及びフッ素化合物からなる群から選択された1種又は2種以上を含み、更にフラックス中にシリコーン油をフラックス全質量に対して10乃至5000質量ppm含有することを特徴とする溶接用フラックス入りワイヤ。」

3.原査定の理由の概要
原審の拒絶査定の理由の概要は、本願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。



刊行物1:特開昭61-216892号公報
刊行物2:特開昭61-286089号公報

4.引用例とその記載事項
原審の拒絶査定に引用された刊行物1及び刊行物2(以下、「引用例1」及び「引用例2」という。)には次の事項が記載されている。

〔1〕引用例1;特開昭61-216892号公報
〔1a〕「【特許請求の範囲】
1.外皮材である帯鋼フープ内に成形・製線する過程の中で充填する溶接用フラックスに、粒子表面被覆用シリコーンオイルを含有させたことを特徴とするフラツクスコアドワイヤ用フラックス。
2、粒子表面を被覆するために用いる上記シリコーンオイルを、フラックス中に0.01?5.0wt%添加することを特徴とする特許請求の範囲1記載のフラックス。」
〔1b〕「(産業上の利用分野)
本発明は、溶接用のフラックスコアドワイヤ(フラックス入りワイヤのことであり、以下これを単に「コアドワイヤ」という)製造分野に属し、特に高速製造を実現するためにフォーミング時に優れた流動特性を示すフラックス組成物についての提案である。
(従来の技術)
溶接用のフラックスコアドワイヤは、外皮材となる軟鋼等の帯鋼をフォーミングローラーで連続的に折り曲げながらフープ状に成形するその途中でホッパーより供給されるフラックスを順次巻き込んでいき、フープ内にフラックスが充填された状態のものに成形し、次いでダイス等により最終線径にまで伸線して製造される。」(第1頁右下欄第5行?第11行)
〔1c〕「その流動性のある物質としては、撥水性、不揮発性に優れた特性を示すシリコーンオイルを利用する。」(第2頁左下欄第6行?第8行)
〔1d〕「すなわち、フラックス原料粉として246μ以下のものを用い、かつその原料粉中にシリコーンオイルを0.01?5.0wt%添加して攪拌混合することとした。このような処理をすると、各原料粉をシリコーンオイルが覆うようになる。」(第1頁左下欄第17行?同頁右下欄第18行)

〔2〕引用例2;特開昭61-286089号公報
〔2a〕「(3)溶接ワイヤとして、ワイヤ全重量比で、
C:0.2%以下、Si:0.3?1.5%、Mn:0.5?3.0%、TiO_(2):3.5?8.5%、およびBi:0.02%以下,Pb:0.02%以下,Sb:0.02%以下,Tl:0.02%以下,Al_(2)O_(3):0.5%以下,ZrO_(2):2%以下,SiO_(2):1.0%以下,MgO:0.5%以下,Na_(2)O:0.1%以下,K_(2)O:0.2%以下,F:0.5%以下の群より選ばれる1種以上を含み、残部実質的にFeよりなる溶接用フラックス入りワイヤを使用し、O_(2)ガスを5体積%以上含有するCO_(2)ガス,CO_(2)+Arガス,CO_(2)+H_(2)ガス,Ar+H_(2)ガス,もしくはCO_(2)+Ar+H_(2)ガスでシールドして溶接することを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。」(特許請求の範囲第3項)
〔2b〕「さらに、Al,Mgは溶接時に、金属蒸気を発生して外部からの酸素の侵入を阻止し、また、仮に侵入したとしても強力な脱酸剤として作用するので、鋼の清浄度を高めて機械的特性を向上させるのに有効である。しかし、多すぎると強度は向上するものの衝撃値が低下して靱性を劣化させるので、添加する場合にAlは1.0%以下、Mgは0.5%以下とするのが良い。」(第3頁右下欄第6行?第14行)
〔2c〕「さらにまた、Fはアークの安定性を高めて溶接作業性を向上させるのに有効である。この場合、Fは金属のフッ化物として添加する場合もこの発明に含まれるものであり、具体的にはアルカリ金属やアルカリ土類金属のフッ化物として添加する場合もこの発明に含まれる。」(第4頁右上欄第5行?第10行)

5.当審の判断
(1)引用例1に記載された発明
引用例の〔1a〕には、特許請求の範囲第1項として、「外皮材である帯鋼フープ内に成形・製線する過程の中で充填する溶接用フラックスに、粒子表面被覆用シリコーンオイルを含有させたことを特徴とするフラツクスコアドワイヤ用フラックス。」が記載されており、また、同第2項として、「粒子表面を被覆するために用いる上記シリコーンオイルを、フラックス中に0.01?5.0wt%添加することを特徴とする特許請求の範囲1記載のフラックス。」が記載されている。そして、この記載によれば、上記フラックスコアドワイヤ用フラックスを、外皮材である帯鋼フープ内に成形・製線する過程の中で充填したフラックスコアドワイヤの発明についても記載されているものと認められる。
ここで、〔1b〕の「溶接用のフラックスコアドワイヤ(フラックス入りワイヤのことであり、・・・)」との記載、及び「溶接用のフラックスコアドワイヤは、外皮材となる軟鋼等の帯鋼をフォーミングローラーで連続的に折り曲げながらフープ状に成形するその途中でホッパーより供給されるフラックスを順次巻き込んでいき、フープ内にフラックスが充填された状態のものに成形し、次いでダイス等により最終線径にまで伸線して製造される。」との記載によれば、上記フラツクスコアドワイヤは、鋼製外皮にフラックスを充填してなる溶接用フラックス入りワイヤと言い換えることができる。
また、上記シリコーンオイルは、シリコーン油のことであり、その添加量の0.01?5.0wt%は、ppm単位で、100乃至50000質量ppmと標記できる。
以上の記載を、本願発明1の記載に則り整理して記載すると、引用例1には次の発明(以下、これを「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。

「鋼製外皮にフラックスを充填してなる溶接用フラックス入りワイヤにおいて、フラックス中にシリコーン油をフラックス全質量に対して100乃至50000質量ppm含有する溶接用フラックス入りワイヤ。」

(2)本願発明1と引用例1発明との対比
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、両者は、「鋼製外皮にフラックスを充填してなる溶接用フラックス入りワイヤにおいて、フラックス中にシリコーン油をフラックス全質量に対して100乃至5000質量ppm含有する溶接用フラックス入りワイヤ。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点;本願発明1は、フラックス中にMg、Mg合金及びフッ素化合物からなる群から選択された1種又は2種以上を含むものであるのに対し、引用例1発明は、フラックス中にMg、Mg合金及びフッ素化合物からなる群から選択された1種又は2種以上を含むものであるか否か不明である点

(3)相違点についての判断
引用例1発明は、「高速製造を実現するためにフォーミング時に優れた流動特性を示すフラックス組成物についての提案」(〔1b〕参照)をするために、溶接用フラックス入りワイヤに用いられるフラックスに、シリコーン油を所定量含有させるというものであるから、引用例1発明は、シリコーン油を含有させる対象のフラックスとして、溶接用フラックス入りワイヤの技術分野における公知のフラックスを用いることを予定しているものと認められる。
一方、引用例2をはじめ、特開昭48-14543号公報、特開平10-180487号公報には、フラックス入りワイヤ用フラックスとして、Mg、Mg合金又はフッ素化合物を含むものを用いることが記載されており、このように、Mg、Mg合金又はフッ素化合物を含むフラックスは、本願出願前に、フラックス入りワイヤ用フラックスとして普通に使用されていたものと認められる。
してみると、本願発明1の上記相違点に係る特定事項は、引用例1発明を実施するに際し、そのフラックスとして、普通に使用されているフラックス入りワイヤ用フラックスを選択しさえすれば達成されるものであるから、当業者が容易になし得た程度のことといえるし、その効果も、引用例1発明において、単に普通に使用されているフラックスを選択した結果、当然に得られるものであるから、格別なものとはいえない。

〈請求人の主張について〉
請求人は、平成18年3月2日付けの手続補正書(審判請求書に対するもの)において、要するところ次のような主張をしているものと認められる。
(ア)本願発明1は、フラックスの吸湿を防止するために、多量に存在すれば悪影響を及ぼすことが知られているシリコーン油を、フラックス中に10質量ppm乃至5000質量ppm含有するものであるのに対して、引用例1発明は、フラックスの流動性を改善するために、0.01?5重量%(100質量ppm?50000質量ppm)と本願発明1より多量に含有させたものである点で、両者は相違する。
(イ)引用例1及び引用例2のいずれにも、溶接部の水素量低減という課題が記載されておらず、共通する課題が存在しないから、引用例1発明に、引用例2に記載のようなMg、Mg合金又はフッ化物を含有するフラックスを結びつける動機付けとなる示唆がないので、本願発明1の上記相違点は容易になし得たことではない。
(ウ)引用例1には、流動性のある物質として、撥水性及び不揮発性に優れたシリコーン油を使用することが記載されているが、シリコーン油によるフラックスの吸湿防止効果について記載がないから、フラックスが難吸湿化し、溶接部の拡散水素量を低減できるという本願発明1の効果は予測できない顕著な効果である。
以下、請求人の上記主張について検討する。
(ア)について
フラックスに対してシリコーン油を含有する目的は相違するが、本願発明1と引用例1発明が含有するシリコーン油の量は、100乃至5000質量ppmの範囲において一致しているし、しかも、引用例1発明に係る実施例として、引用例1には、シリコーン油を、0.005wt%(50質量ppm)、0.007wt%(70質量ppm)、0.01wt%(100質量ppm)及び0.1wt%(1000質量ppm)含有する例が具体的に開示されている。このように、両者のシリコーン油の含有量は一致しているのであるから、シリコーン油を含有する目的が相違するというだけでは、両者が相違するものということはできない。
(イ)について
「(3)相違点についての判断」において述べたとおり、本願発明1の上記相違点に係る特定事項は、引用例1発明を実施するに際し、そのフラックスとして、普通に使用されているフラックス入りワイヤ用フラックスを選択しさえすれば達成されるものといえるのであるから、溶接部の水素量低減という課題による動機付けが無いとしても、引用例1発明に、Mg、Mg合金又はフッ化物を含有するフラックスを結びつけることは、当業者が容易になし得たことというべきである。
(ウ)について
「(3)相違点についての判断」において述べたとおり、本願発明1の効果は格別のものではないが、また、以下に述べる理由により当業者が容易に予測できる程度のものでもある。
すなわち、フラックスが保管中に吸湿することを防止して、溶着金属中での拡散性水素量を低減しなければならないという課題は、本出願前に当該技術分野において周知の技術事項と認められるし(要すれば、特開昭59-141394号公報、特開昭58-119489号公報、特開平7-204889号公報、特開平9-285890号公報参照)、一方、連鋳用モールドパウダー、砂場抗菌剤材料やクレー舗装材料等の粉末材料にシリコーン油を配合して、粉末材料の表面を被覆することにより、粉末材料の難吸湿化を図ることができることは良く知られていた技術事項である(要すれば、特開平10-156492号公報、特開平8-12512号公報及び特開平8-109608号公報参照)。
ところで、引用例1の〔1c〕には、シリコーン油が撥水性に優れた特性を示すことが記載され、〔1d〕には、フラックスを原料粉中にシリコーン油を0.01?5.0wt%添加して撹拌すると、各原料粉をシリコーン油が覆うようになることが記載されており、これらの記載によれば、引用例1発明は、フラックス原料粉を撥水性に優れたシリコーン油で被覆しているものといえる。
そうすると、フラックス中にシリコーン油を含有する引用例1発明は、上述のとおり、フラックス原料粉を撥水性に優れたシリコーン油で被覆しているものであるから、フラックス原料粉を難吸湿化し、それによって溶接部の拡散水素量も低減することができるであろうことは当業者が十分に予測できたことであるといえる。
よって、本願発明1の上記効果は、顕著なものではない。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。

6.むすび
したがって、本願発明1は、本出願前に国内で頒布された刊行物である引用例1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-09 
結審通知日 2008-01-15 
審決日 2008-01-28 
出願番号 特願2000-234807(P2000-234807)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 山田 靖
平塚 義三
発明の名称 溶接用フラックス入りワイヤ  
代理人 藤巻 正憲  

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