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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1174875
審判番号 不服2004-6994  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-08 
確定日 2008-04-04 
事件の表示 特願2000- 90645「活きイカの保存又は輸送方法とその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月 2日出願公開、特開2001-269080〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年3月29日の出願であって、平成16年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

2.平成16年4月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年4月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 特許請求の範囲の減縮を目的として、
「活きイカの海水からなる収容液の溶存酸素レベルを2mg/リットル以上に維持する手段と、活きイカの海水からなる収容液のpHを6.8乃至9の範囲に制御するpH制御手段と、収容液に活きイカの代謝または神経活動を抑制する代謝抑制剤としてエタノール又はマグネシューム塩を加える代謝抑制手段とからなる活きイカの保存又は輸送方法。」(当審注:「容液に」は、「収容液に」の誤記と認めて認定した。)
と補正された。
そこで、本願の補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2000-32870号公報(以下、「引用文献1」という。)には、特に次の事項が記載されている。
(イ)「本発明は、海水魚、淡水魚は無論、エビ、カニ、タコ、イカ、貝、スッポン等を含む水産動物を活きたまま輸送する際に使用するストレス反応抑止剤、それを用いた活魚の輸送方法及びその活魚に関する。」(段落【0001】)
(ロ)「しかしながら、・・・活魚が生きているという最低限必要な点、輸送用容器内の水の溶存酸素量の低下、欠乏についてはクリアー出来るものの、高密度収容、振動や光、排泄物による水質悪化など様々なストレッサーを緩和あるいは排除することが出来ず、健康な魚の状態のまま、最終的なユーザーに対して引き渡すことが困難である。」(段落【0006】)
(ハ)「この貝化石を主成分とするストレス反応抑止剤の使用形態は、要するに水産動物を収容した輸送用容器に貝化石を添加し、攪拌機、エアレーション設備をうまく利用して混合し、混濁させることによる。・・・
水中に分散した貝化石は、水産動物の排泄物による有害物質を吸着し、呼吸作用による二酸化炭素を吸収し、pHの低下を防いで、水産動物に対するストレッサーを除き、多くのストレス反応を緩和抑制することになる。これは、水産動物のストレス反応を反映する指標とされる、コルチゾール量、ヘモクロビン量、ヘマトクリット値に現れ、特にコルチゾール量に明確に現れた。」(段落【0017】)
(ニ)「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の態様について詳述する。
まず、上記構成になる貝化石を主成分とするストレス反応抑止剤の種々の効果を確認するための調査及び試験を行ったので、その状況を説明する。まず、マダイの成魚についての試験を行う。
〔実施例1〕
1.試験期間
1997(平成9)年12月26日?27日
2.試験魚
マダイ成魚
3.マダイの収容量
200lのパンライト水槽に100lの海水を入れ、1水槽あたり10尾のマダイ(11kg?12kg)を入れる。
4.試験水温
自然海水の水温18°Cと、加温した海水の水温25°Cとで実施する。なお、25°Cへの昇温は、水槽に水温18°Cの自然海水を入れ試験魚を収容したあと、5時間かけて行う。
5.試験時間
8時間及び24時間
6.ストレス反応抑止剤の添加量
海水100lに対して貝化石を主成分とするストレス反応抑止剤30g(海水1トンに対してストレス反応抑止剤300g)
7.酸素供給
空気及び純酸素を供給して飽和状態を維持する。
・・・
比較のために、上記試験項目につき、ストレス反応抑止剤を添加しない対照区についも試験をする。」(段落【0027】)
(ホ)「


表3によれば、自然海水のpHは8.0に対して、8時間後の水槽内海水のpHは0.4?0.5低下したが、ストレス反応抑止剤添加区(以下単に添加区という)、対照区ともに水温に関係なく差が出なかった。しかし、24時間後のpHは添加区が水温に関係なく8時間後のpHから変化せず一定であるのに対して、対照区のpHは0.3?0.4低下した。これは本発明のストレス反応抑止剤がpHの低下を抑制し、水槽内海水中の二酸化炭素を吸収していることを示している。したがって、水槽内海水中の二酸化炭素が逓減することで、魚の酸素摂取を効率良くできるようになる。」(段落【0028】、【0029】)
(ヘ)「〔実施例2〕
1.試験期間
1998(平成10)年1月6日?7日
2.試験魚
マダイ稚魚
3.マダイの収容量
200lのパンライト水槽に50lの海水を入れ、1水槽あたり200尾のマダイ稚魚(平均体長8cm)を入れる。
4.試験水温
自然海水の水温17°Cと、加温した海水の水温24°Cとで実施する。なお、24°Cへの昇温は、水槽に水温17°Cの自然海水を入れ試験魚を収容したあと、5時間かけて行う。
5.試験時間
4時間、8時間、24時間
6.ストレス反応抑止剤の添加量
海水50lに対して貝化石を主成分とするストレス反応抑止剤15g(海水1トンに対してストレス反応抑止剤300g)
7.酸素供給
空気を供給してほぼ飽和状態を維持する。
・・・
比較のために、上記試験項目につき、ストレス反応抑止剤を添加しない対照区についも試験をする。」(段落【0037】)
(ト)「表7によれば、自然海水のpHが8.0であり、添加区は24時間後の水槽内海水のpHが水温に関係なく7.8である・・・」(段落【0039】)

これらの記載事項並びに記載された内容全体を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されている。
(引用文献1記載の発明)
「活魚の海水からなる収容液の溶存酸素量を飽和状態に維持する手段と、活魚の海水からなる収容液の自然海水のpHを7.5乃至8.0程度にするとともに、活魚のストレス反応を抑止する、貝化石を主成分とするストレス反応抑止剤を収容液に加える手段とからなる活魚の輸送方法」

同、Mauricio Garacia-Franco , Comp.Biochem.Physiol, vol.103C,no.1, pp.121-123 (1992)(以下、「引用文献2」という。)には、
「アオリイカ(活きイカ)を、エタノール、硫酸マグネシウム又は塩化マグネシウムに晒したら、麻酔剤としての効果がある」
ことが記載されている。

(3)対比
補正発明と引用文献1記載の発明とを比較すると、補正発明の「活きイカ」は、引用文献1記載の発明の「活魚」に含まれ、補正発明の「溶存酸素レベルを2mg/リットル以上に維持」と、引用文献1記載の発明の「溶存酸素量を飽和状態に維持」とは、「溶存酸素レベルを活魚の生存に必要とする充分な量に維持」で共通している。また、引用文献1記載の発明の「収容液の自然海水のpHを7.5乃至8.0程度の範囲とする貝化石を主成分とするストレス反応抑止剤を収容液に加える手段」と、補正発明の「海水からなる収容液のpHを6.8乃至9の範囲に制御するpH制御手段」とは、「収容液のpHを制御するpH制御手段」である点で共通する。
そうすると、両者は、
「活魚の海水からなる収容液の溶存酸素レベルを活魚の生存に必要とする充分な量に維持する手段と、活魚の海水からなる収容液のpHを制御するpH制御手段とを有する活魚の輸送方法」
の点で一致し、次の各点で相違している。

相違点1:活魚が、補正発明では、活きイカであるのに対して、引用文献1記載の発明では、活魚としてイカが例示されているものの実施例においては、マダイに適用した例が記載されているに過ぎない点。
相違点2:溶存酸素量を、補正発明では、2mg/リットル以上に維持するのに対して、引用文献1記載の発明では、そのような下限値を設けていない点。
相違点3:pHの制御範囲が、補正発明では、6.8乃至9であるのに対して、引用文献1記載の発明では、7.5乃至8.0の範囲である点。
相違点4:補正発明では、収容液に活きイカの代謝または神経活動を抑制する代謝抑制剤としてエタノール又はマグネシューム塩を加える代謝抑制手段を有しているのに対して、引用文献1記載の発明では、前者のような代謝抑制手段を有していない点。

(4)判断
上記各相違点につき、以下検討する。
(相違点1について)
引用文献1には、活魚として、イカも記載されており、引用文献1記載の発明は、実施例のマダイに限らず、活きイカにも適用されるものである。
(相違点2について)
引用文献1記載の発明においては、特に下限値は明記されていないが、溶存酸素量を飽和状態に維持していることから、活魚が活きているのに最低限必要な量以上を確保していることは明らかであり、2mg/リットル以上とすることは、適宜決定しうることにすぎない。
(相違点3について)
引用文献1記載の発明において例示されているpHの制御範囲は、7.5乃至8.0で、補正発明の、6.8乃至9の範囲に含まれており、かつ、自然海水のpHが8.0程度であって、両発明とも、pHを自然海水に近い範囲とするものであるから、相違点3は、実質的な差異ではない。
(相違点4について)
本願明細書をみると、段落【0014】に「本発明によれば、収容液のpH制御手段に活きイカの代謝または神経活動を抑制する代謝抑制手段を加えることにより、墨吐き等のようなストレスに起因する行動等を抑制し、長時間の生存を図ることができる。」と記載されており、補正発明においても、代謝または神経活動を抑制する代謝抑制手段が、活きイカのストレス反応を抑止することを目的としていることが明らかである。
また、引用文献1記載の発明は、上記(2)(ハ)?(ホ)をみれば、ストレス反応を抑止することを課題としているということができる。
一方、引用文献2をみると、引用文献2には、「アオリイカ(活きイカ)を、エタノール、硫酸マグネシウム又は塩化マグネシウムに晒したら、麻酔剤としての効果がある」ことが記載されており、該麻酔剤は、活きイカの代謝または神経活動を抑制する代謝抑制剤といえ、かつ、活魚を仮死や冬眠状態とする、つまり、活魚の代謝または神経活動を抑制するために、化学物質を加える代謝抑制手段を用いた活魚の保存又は輸送方法が、周知技術(例えば、原査定の拒絶の理由に周知例として引用された、特開平10-165039号公報、特開平10-276612号公報、特開平11-220974号公報等参照。)であることを踏まえると、引用文献1記載の発明において、活魚のストレス反応を抑止する手段として、引用文献2に記載されている、活きイカの代謝または神経活動を抑制する代謝抑制剤(麻酔剤)として効果のある、エタノール又は塩化マグネシウム(マグネシウム塩)を加えて、補正発明のようにすることは、当業者が容易に想到しうることにすぎない。
そして、補正発明全体の効果も、引用文献1記載の発明、引用文献2に記載の事項および周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものということができない。

したがって、補正発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2に記載の事項および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成16年4月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?44に係る発明は、平成15年11月20日付け手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?44に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】活きイカの海水からなる収容液の溶存酸素レベルを2mg/リットル以上に維持する手段と、活きイカの海水からなる収容液のpHを6.8乃至9の範囲に制御するpH制御手段と、収容液に活きイカの代謝または神経活動を抑制する代謝抑制手段を加えることからなる活きイカの保存又は輸送方法。
【請求項2】?【請求項44】(記載を省略)」
(以下、請求項1記載の発明を「本願発明」という。)

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明を特定する「代謝抑制手段」について「代謝抑制剤としてエタノール又はマグネシューム塩を加える」との限定事項を削除したものであって、本願発明の特定事項を全て含み、さらに限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用文献1記載の発明、引用文献2に記載の事項および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2に記載の事項および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-30 
結審通知日 2006-11-07 
審決日 2006-11-27 
出願番号 特願2000-90645(P2000-90645)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01K)
P 1 8・ 121- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 山口 由木
西田 秀彦
発明の名称 活きイカの保存又は輸送方法とその装置  
代理人 平山 洲光  
代理人 菊池 武胤  
代理人 菊池 武胤  
代理人 平山 洲光  

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