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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1174917 |
審判番号 | 不服2006-14184 |
総通号数 | 101 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-07-05 |
確定日 | 2008-03-21 |
事件の表示 | 特願2002-157597「ワーク保持盤の製造方法及びワーク保持盤並びにそれを用いたワークの研磨方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 5日出願公開、特開2003-347252〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成14年5月30日の特許出願であって、同17年8月3日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同17年10月7日に意見書と共に明細書について手続補正書が提出されたが、同18年5月29日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同18年7月5日に本件審判の請求がされ、その後、同18年8月3日に明細書について再度手続補正書が提出されたものである。 第2 平成18年8月3日付けの補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年8月3日付けの補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容の概要 平成18年8月3日付けの補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をするものであって、特許請求の範囲について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。 (1)補正前 「【請求項1】 ワークを真空吸着保持するためのワーク保持盤の製造方法であって、ワークを吸着するための貫通孔を有するワーク保持盤本体のワーク保持面に粘度が90Pa・s以上の樹脂を塗布し、硬化させて樹脂層を形成した後、形成した樹脂層に前記ワーク保持盤本体の貫通孔に通じる開口部を形成することを特徴とするワーク保持盤の製造方法。 【請求項2】 前記樹脂層に形成する開口部を、直径0.2mm以下とすることを特徴とする請求項1に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項3】 前記樹脂層に形成する開口部を、前記ワーク保持盤本体に樹脂を塗布する前に、該ワーク保持盤本体の貫通孔の位置を予め測定しておき、該測定した貫通孔の位置データに基づいて機械加工を行うことによって形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項4】 前記開口部を形成する機械加工を、直径0.2mm以下のドリルを用いることによって行うことを特徴とする請求項3に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項5】 前記樹脂層を、エポキシ樹脂を主成分とするものとすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項6】 前記樹脂層に開口部を形成した後、ワーク保持面に形成した樹脂層にラッピング加工及び/または研磨加工を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項7】 少なくとも、ワークを真空吸着保持する多数の貫通孔を有するワーク保持盤本体と該本体の背面側に配置される裏板とを具備した研磨用ワーク保持盤であって、前記ワーク保持盤本体のワーク保持面に樹脂層が形成されており、該樹脂層に前記ワーク保持盤本体の貫通孔へ通じる直径0.2mm以下の開口部が形成されていることを特徴とするワーク保持盤。 【請求項8】 前記樹脂層は、前記ワーク保持面に粘度が90Pa・s以上の樹脂を塗布し、硬化させて形成したものであることを特徴とする請求項7に記載のワーク保持盤。 【請求項9】 前記樹脂層の表面が、研磨されたものであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のワーク保持盤。 【請求項10】 前記樹脂層の表面の凹凸が、Ra=0.1μm以下であることを特徴とする請求項9に記載のワーク保持盤。 【請求項11】 前記樹脂層が、エポキシ樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項7ないし請求項10のいずれか一項に記載のワーク保持盤。 【請求項12】 ワーク保持盤にワークを真空吸着保持し、研磨布に研磨剤を供給するとともに前記ワークを摺接させてワーク表面を研磨する方法であって、前記ワーク保持盤として請求項7ないし請求項11のいずれか1項に記載のワーク保持盤を用い、該ワーク保持盤にワークの裏面を真空吸着保持して研磨を行うことを特徴とするワークの研磨方法。」 (2)補正後 「【請求項1】 ワークを真空吸着保持するためのワーク保持盤の製造方法であって、ワークを吸着するための貫通孔を有するワーク保持盤本体のワーク保持面に粘度が90Pa・s以上の樹脂を塗布し、硬化させて樹脂層を形成した後、形成した樹脂層に前記ワーク保持盤本体の貫通孔に通じる直径0.2mm以下の開口部を直径0.2mm以下のドリルを用いることによって形成することを特徴とするワーク保持盤の製造方法。 【請求項2】 前記樹脂層に形成する開口部を、前記ワーク保持盤本体に樹脂を塗布する前に、該ワーク保持盤本体の貫通孔の位置を予め測定しておき、該測定した貫通孔の位置データに基づいて前記ドリルを用いることによって形成することを特徴とする請求項1に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項3】 前記樹脂層を、エポキシ樹脂を主成分とするものとすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項4】 前記樹脂層に開口部を形成した後、ワーク保持面に形成した樹脂層にラッピング加工及び/または研磨加工を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のワーク保持盤の製造方法。 【請求項5】 少なくとも、ワークを真空吸着保持する多数の貫通孔を有するワーク保持盤本体と該本体の背面側に配置される裏板とを具備した研磨用ワーク保持盤であって、前記ワーク保持盤本体のワーク保持面に粘度が90Pa・s以上の樹脂を塗布し、硬化させて形成した樹脂層が形成されており、該樹脂層に前記ワーク保持盤本体の貫通孔へ通じる直径0.2mm以下の開口部が直径0.2mm以下のドリルで形成されたものであることを特徴とするワーク保持盤。 【請求項6】 前記樹脂層の表面が、研磨されたものであることを特徴とする請求項5に記載のワーク保持盤。 【請求項7】 前記樹脂層の表面の凹凸が、Ra=0.1μm以下であることを特徴とする請求項6に記載のワーク保持盤。 【請求項8】 前記樹脂層が、エポキシ樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載のワーク保持盤。 【請求項9】 ワーク保持盤にワークを真空吸着保持し、研磨布に研磨剤を供給するとともに前記ワークを摺接させてワーク表面を研磨する方法であって、前記ワーク保持盤として請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載のワーク保持盤を用い、該ワーク保持盤にワークの裏面を真空吸着保持して研磨を行うことを特徴とするワークの研磨方法。」 2 補正の適否 本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についての補正は、補正前の請求項1の「貫通孔に通じる開口部を」について「貫通孔に通じる直径0.2mm以下の開口部を直径0.2mm以下のドリルを用いることによって」という限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。 また、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項5についての補正は、補正前の請求項7の「樹脂層」について、「粘度が90Pa・s以上の樹脂を塗布し、硬化させて形成した樹脂層」と限定するとともに、「開口部が形成されている」について、「開口部が直径0.2mm以下のドリルで形成されたものである」と限定するものであり、これも特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。 したがって、補正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項5に係る発明(以下「補正発明1及び補正発明5」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、さらに検討する。 (1)補正発明1及び補正発明5 補正発明1及び補正発明5は、本件補正により補正された明細書(以下「補正明細書」という。)及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「ワーク保持盤の製造方法」、及び請求項5に記載された事項により特定されるとおりの「ワーク保持盤」であると認める。 (2)引用例 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-198069号公報(以下「引用例」という。)の記載内容は以下のとおりである。 ア 段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、半導体ウエーハ等のワークの表面を精密研磨する際に使用する研磨用ワーク保持盤およびその製造方法ならびにワークの研磨方法と研磨装置に関する。」 イ 段落【0027】?【0030】 「先ず、本発明の研磨用ワーク保持盤を使用する研磨装置を図面に基づいて説明する。ここで図1は本発明の一例として研磨用ワーク保持盤の構成概要を説明するための概略説明図である。また、図2は(a)が研磨用ワーク保持盤を装着した研磨ヘッド、(b)が研磨ヘッドを具備した研磨装置の構成概要を説明するための説明図である。 本発明の研磨装置は、ワーク例えば半導体ウェーハの片面を研磨する装置として構成され、図2(b)に示すように、研磨装置20は、回転する定盤(回転テーブル)21と研磨ヘッド10に装着した研磨用ワーク保持盤1と研磨剤供給ノズル23から成っている。定盤21の上面には研磨布22が貼付してある。定盤21は回転軸により所定の回転速度で回転される。 そして、研磨用ワーク保持盤1は、真空吸着等によりそのワーク保持面8にワーク(ウエーハ)Wを保持し、回転軸をもつ研磨ヘッド10に装着され、研磨ヘッド10により回転されると同時に所定の荷重で研磨布22にワークWを押しつける。研磨剤24の供給はノズル23から所定の流量で研磨布22上に供給し、この研磨剤24がワークWと研磨布22の間に供給されることによりワークWが研磨される。 さらに、図1および図2(a)に示したように、本発明の研磨用ワーク保持盤1は、ワーク保持面8と多数の真空吸着用の貫通孔4をもつワーク保持盤本体2およびワーク保持盤裏板5とから構成され、貫通孔4はワーク保持盤本体2とワーク保持盤裏板5の間にある空間部6を経てバキューム路7から不図示の真空装置につながり、真空の発生によってワーク保持面8にワークWを吸着保持するようになっている。本発明では、特にワーク保持盤本体2のワーク保持面8を貫通孔4を有する熱硬化性樹脂皮膜3で被覆したものとなっている。」 ウ 段落【0032】?【0035】 「次に、本発明の研磨用ワーク保持盤の製造方法の一例を図3に示したフロー図に基づいて説明する。先ず、工程(a)で熱硬化性樹脂を攪拌混合槽に仕込み、真空下充分脱泡して空気を除去する。工程(b)では、樹脂塗布用治具30の上に研磨用ワーク保持盤1のワーク保持盤本体2をワーク保持面8を上にして載置し、塗布量調整板32をセットした後、ワーク保持面8の上に熱硬化性樹脂31を流し込む。 工程(c)では、塗布量調整板32の上にバー33を滑らせて余分な樹脂を掻き取り、厚さの均一な樹脂層を形成する。次いで、工程(d)では、樹脂を塗布したワーク保持盤本体2を樹脂塗布用治具30と共に電気加熱炉35に設置し、樹脂塗布用治具30の下方から加熱したガス34を送ってワーク保持盤本体2の貫通孔4を通過させながら加熱を始め、樹脂層31全体を熱硬化させる。この場合、貫通孔4の周辺部の樹脂31を予備硬化させた後、残部樹脂を熱硬化させるようにすることができ、先ず貫通孔周辺部の樹脂から先に硬化させるので、貫通孔4の閉塞防止をより一層確実なものとすることができる。また、熱硬化用のガス34の温度は、樹脂の熱硬化温度と同じかより高い温度とすることができるが、樹脂の熱硬化温度と同じにすれば樹脂の熱硬化反応速度が樹脂の加熱による粘度低下速度よりも律速となるので、貫通孔を閉塞することなく樹脂皮膜3を形成することができて好ましい。 次に、工程(e)では、樹脂皮膜3で被覆したワーク保持盤本体2をラッピングマシン40にセットし、定盤41を回転させながらノズル42からラップ液43を滴下して樹脂皮膜3の表面を研削し面修正を行い、工程(f)で充分洗浄する。 さらに工程(g)では、ラッピング修正を終わった樹脂皮膜3で被覆したワーク保持盤本体2を研磨装置20にセットし、定盤21を回転させながらノズル23から研磨剤24を滴下して樹脂皮膜3の表面を研磨し面修正を行い、充分洗浄してワーク保持盤本体2を完成させ、これにワーク保持盤裏板5を取り付けて研磨用ワーク保持盤1を作製することができる。」 エ 段落【0038】 「そして、熱硬化性樹脂の粘度については、10,000cps以上であることが望ましく、このように高粘度のものを用いることにより、熱硬化後の樹脂皮膜に真空吸着保持用の小径貫通孔を比較的容易に形成することが可能となった。」 オ 段落【0043】 「【実施例】以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 (実施例1) (1)研磨用ワーク保持盤は図1に示した構造のものを使用した。 (2)ワークの研磨装置は図2(b)に示した構造のものを使用した。 (3)ワーク:シリコンウエーハ;直径 200mm;厚さ 735μm。 (4)ワーク保持盤本体保持面の表面樹脂皮膜:熱硬化性エポキシ樹脂;粘度15000cps;皮膜厚さ 1mm。 (5)ワーク保持盤本体:厚さ30mmの炭化けい素(SiC)多孔盤;孔径0.4mm;熱膨張係数 4×10^(-6)/℃。 (6)ワーク研磨条件:研磨荷重 300g/cm^(2);研磨相対速度 50m/min;研磨加工代 10μm;研磨布 不織布系研磨布(JIS K 6301に準じたアスカーC硬度 90);研磨剤 コロイダルシリカ(pH 10.5)。 (7)ワーク保持盤本体保持面研磨条件:樹脂皮膜研磨加工代 40μm;その他の条件は上記ワーク研磨条件と同じ。」 カ 段落【0011】?【0012】 「・・・熱硬化性樹脂の粘度が、10,000cps以上であることが望ましく、・・・ このように熱硬化性樹脂の粘度を高粘度にすることで、熱硬化後の樹脂皮膜に真空吸着保持用の小径貫通孔の閉塞を容易に防止することが可能となった。・・・」 キ ここで、図1から明らかなように、ワーク保持盤本体2は、その表面であるワーク保持面8に多数の貫通孔4が形成されており、背面側には、ワーク保持盤裏板5が配置されている。 また、樹脂被膜に形成された小径貫通孔は、真空吸着保持用のものであるので、ワーク保持盤本体2の貫通孔4に通じるものであることは明らかである。 ア?カの記載事項及びキの認定事項を技術常識を考慮しながら補正発明1及び補正発明5に照らして整理すると引用例には以下の発明が記載されていると認めることができる。 「ワークを真空吸着保持するためのワーク保持盤の製造方法であって、ワークを吸着するための貫通孔4を有するワーク保持盤本体2のワーク保持面8に粘度15000cpsの粘度の高い熱硬化性樹脂を塗布し、電気加熱炉35に設置して加熱したガス34を送ってワーク保持盤本体2の貫通孔4を通過させながら加熱することにより樹脂層全体を熱硬化させることにより、熱硬化後の樹脂被膜にワーク保持盤本体2の貫通孔4に通じる小径貫通孔を形成するワーク保持盤の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。) 及び、 「ワークを真空吸着保持する多数の貫通孔4を有するワーク保持盤本体2と該本体2の背面側に配置されるワーク保持盤裏板5とを具備した研磨用ワーク保持盤であって、前記ワーク保持盤本体2のワーク保持面8に粘度15000cpsの粘度の高い熱硬化性樹脂を塗布し、硬化させて形成した樹脂被膜が形成されており、該樹脂被膜にワーク保持盤本体2の貫通孔4に通じる小径貫通孔が形成されたものであるワーク保持盤。」(以下、「引用発明2」という。) (3)補正発明1に対して (3)-1 対比 補正発明1と引用発明1とを対比すると、以下のとおりである。 引用発明1の「貫通孔4」、「ワーク保持盤本体2」、「ワーク保持面8」は、それぞれ補正発明1の「貫通孔」、「ワーク保持盤本体」、「ワーク保持面」に相当する。 引用発明1の「樹脂被膜」は、補正発明1の「樹脂層」に相当する。したがって、引用発明1の「樹脂被膜に小径貫通孔を形成」は、補正発明1の「樹脂層に開口部を形成」に相当する。 以上の点から、補正発明1と引用発明1とは、以下の点で一致しているということができる。 「ワークを真空吸着保持するためのワーク保持盤の製造方法であって、ワークを吸着するための貫通孔を有するワーク保持盤本体のワーク保持面に樹脂を塗布し、硬化させて樹脂層を形成した、樹脂層に前記ワーク保持盤本体の貫通孔に通じる開口部を形成するワーク保持盤の製造方法。」 そして、補正発明1と引用発明1とは、以下の2点で相違している。 ア <相違点1> ワーク保持面に塗布される樹脂に関し、補正発明1では「粘度が90Pa・s以上」としているのに対し、引用発明1では、粘度の高いものとはしているものの、粘度15000cpsである点。 イ <相違点2> 樹脂層に開口部を形成する方法として、補正発明1では、「硬化させて樹脂層を形成した後、形成した樹脂層に前記ワーク保持盤本体の貫通孔に通じる直径0.2mm以下の開口部を直径0.2mm以下のドリルを用いることによって形成する」ようにしているのに対し、引用発明1では、「熱硬化性樹脂を塗布し、電気加熱炉35に設置して加熱したガス34を送ってワーク保持盤本体2の貫通孔4を通過させながら加熱することにより樹脂層全体を熱硬化させることにより、熱硬化後の樹脂被膜にワーク保持盤本体2の貫通孔4に通じる小径貫通孔を形成する」ようにしている点。 (3)-2 相違点の検討 ア <相違点1>について 引用発明1において塗布される樹脂の粘度を高いものとすることの理由は、上記摘記事項エに記載されているように、それによって熱硬化後の樹脂被膜に真空吸着保持用の小径貫通孔を比較的容易に形成できるようにするためであり、上記摘記事項カに記載されているように、熱硬化後の樹脂被膜に真空吸着保持用の小径貫通孔の閉塞を容易に防止することを可能にするためである。粘度が低くなると樹脂が小径貫通孔を塞いでしまうのであるから、粘度を高くすれば、小径部に樹脂が流れ込みにくくなる、すなわち、樹脂がワーク保持盤本体の貫通孔にダレ込みにくくなることは、当業者にとって自明の事項である。 そして、樹脂の粘度として90Pa・s以上のものは、例えば特許第2505770号公報(第7欄第40行?第50行参照。)や、特許第2771086号公報(段落【0012】参照。なお、500000cPは500Pa・sに相当する。)に記載されているように従来周知の事項であり、また、樹脂の粘度を90Pa・s以上と限定しても、そのことによる効果が、「それだけ貫通孔へのダレ込みが少なくなる」という、予想可能な効果の範囲のものでしかなく、特別な臨界的意義も存在しないことから、引用発明1において、塗布される樹脂の粘度を90Pa・s以上とすることは、当業者が容易になし得たものとせざるを得ない。 イ <相違点2>について ワーク保持盤のワーク保持面の樹脂層にドリルで開口部を形成することは、本件出願の明細書の段落【0007】にも記載されているように、あるいは、例えば特開2002-36101号公報(段落【0023】?【0024】参照。)にも記載されているように、従来周知の事項であることから、引用発明1のワーク保持盤の製造方法において、樹脂層である樹脂皮膜に設けられる小径貫通孔を引用発明1の方法に代え、ドリルを用いることによって形成することは当業者が容易になし得たものである。 また、ドリルの直径を0.2mm以下と限定し、開口部の直径を0.2mm以下と限定した点については、0.2mm以下である0.2mmの直径のドリル自体、JIS規格B4301にもあるように周知の事項であり、また、ワーク保持盤の樹脂層が形成されたワーク保持面の真空吸着する開口部の寸法を0.2mm以下とすることも、特開2002-36101号公報(段落【0023】?【0024】参照。)や特開平6-61202号公報(段落【0008】参照。)に記載されているように周知の事項であることからすれば、引用発明1において、開口部を引用発明1に用いられている方法に代え、樹脂の硬化後、直径0.2mmのドリルを用いて直径0.2mmの開口部を設けることは、当業者が容易になし得たものである。 ウ 補正発明1の効果について 補正発明1によってもたらされる効果も、引用発明1及び上記従来周知の各事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。 エ したがって、補正発明1は、引用発明1及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)補正発明5に対して (4)-1 対比 補正発明5と引用発明2とを対比すると、以下のとおりである。 引用発明2の「貫通孔4」、「ワーク保持盤本体2」、「ワーク保持盤裏板5」、「ワーク保持面8」は、それぞれ補正発明5の「貫通孔」、「ワーク保持盤本体」、「裏板」、「ワーク保持面」に相当する。 引用発明2の「樹脂被膜」は、補正発明5の「樹脂層」に相当する。したがって、引用発明2の「樹脂被膜に小径貫通孔が形成」は、補正発明5の「樹脂層に開口部が形成」に相当する。 以上の点から、補正発明5と引用発明2とは、以下の点で一致しているということができる。 「少なくとも、ワークを真空吸着保持する多数の貫通孔を有するワーク保持盤本体と該本体の背面側に配置される裏板とを具備した研磨用ワーク保持盤であって、前記ワーク保持盤本体のワーク保持面に樹脂を塗布し、硬化させて形成した樹脂層が形成されており、該樹脂層に前記ワーク保持盤本体の貫通孔へ通じる開口部が形成されたものであるワーク保持盤。」 そして、補正発明5と引用発明2とは、以下の2点で相違している。 ア <相違点3> ワーク保持面に塗布される樹脂に関し、補正発明5では「粘度が90Pa・s以上」としているのに対し、引用発明2では、粘度の高いものとはしているものの、粘度15000cpsである点。 イ <相違点4> 樹脂層に開口部を形成する方法として、補正発明5では、「直径0.2mm以下の開口部が直径0.2mm以下のドリルで形成された」としているのに対し、引用発明2では、そのような手段で開口部を形成しておらず、また、開口部の直径も0.2mmであるかどうか不明な点。 (4)-2 相違点の検討 ア <相違点3>について 引用発明5は、「ワーク保持盤」という物の発明である。そして、硬化される前の樹脂の粘度は、製造途中のことであって、物の発明としての発明特定事項ではない。(必要ならば、例えば、平成11年(行ケ)第126号判決、及び、平成13年(行ケ)第84号判決参照。) してみると、硬化される前の樹脂の粘度の特定により、引用発明5が進歩性を有する物の発明であるとすることはできない。 イ <相違点4>について 引用発明5は、「ワーク保持盤」という物の発明である。してみると、「直径0.2mm以下の開口部が直径0.2mm以下のドリルで形成された」という発明特定事項は、物の発明としての発明特定事項としては、「直径0.2mm以下の開口部が形成された」ことでしかない。 しかしながら、ワーク保持盤の樹脂層が形成されたワーク保持面の真空吸着する開口部の寸法を0.2mm以下とすることは、前記のとおり、特開2002-36101号公報(段落【0023】?【0024】参照。)や特開平6-61202号公報(段落【0008】参照。)に記載されているように周知の事項であることからすれば、引用発明2において、開口部の直径を0.2mm以下とすることは、当業者が容易になし得たものである。 ウ 補正発明5の効果について 補正発明5によってもたらされる効果も、引用発明2及び上記従来周知の各事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。 エ したがって、補正発明5は、引用発明2及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 むすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本件発明について 1 本件発明 平成18年8月3日付けの補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成17年10月7日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項12に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1及び請求項7に係る発明(以下「本件発明1及び本件発明7」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「ワーク保持盤の製造方法」、及び請求項7に記載されたとおりの「ワーク保持盤」である。 2 引用例 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。 3 対比・検討 本件発明1は、上記第2の2で検討した補正発明1から、「直径0.2mm以下の」という限定事項、及び「直径0.2mm以下のドリルを用いることによって」という限定事項を削除したものである。 また、本件発明7は、上記第2の2で検討した補正発明5から、「粘度が90Pa・s以上の樹脂を塗布し、硬化させて形成した」という限定事項、及び「直径0.2mm以下のドリルで形成されたものである」という限定事項を削除したものである。 そうすると、本件発明1及び本件発明7を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明1及び補正発明5が上記第2の2(3)-2、及び(4)-2で示したとおり、引用例記載の発明、及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び本件発明7も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび したがって、本件発明1及び本件発明7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-01-10 |
結審通知日 | 2008-01-15 |
審決日 | 2008-01-31 |
出願番号 | 特願2002-157597(P2002-157597) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野田 達志 |
特許庁審判長 |
野村 亨 |
特許庁審判官 |
菅澤 洋二 加藤 昌人 |
発明の名称 | ワーク保持盤の製造方法及びワーク保持盤並びにそれを用いたワークの研磨方法 |
代理人 | 好宮 幹夫 |