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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N |
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管理番号 | 1175206 |
審判番号 | 不服2004-16275 |
総通号数 | 101 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-08-05 |
確定日 | 2008-03-26 |
事件の表示 | 平成10年特許願第377064号「感熱性平版印刷版及び感熱性平版印刷版の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月11日出願公開、特開2000-190649〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成10年12月28日に出願したものであって、平成16年6月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月5日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 2.本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初明細書の特許請求の範囲(全請求項数15)の請求項1に記載された事項により特定される次のものと認める。 「支持体上に少なくとも加熱により親水性が低下する画像形成層を有してなる平版印刷版であって、熱溶融性粒子を含有し、該粒子の表面が、300Kでの熱伝導率が0.10?70Wm^(- 1) K^(- 1) の素材で被覆されている事を特徴とする感熱性平版印刷版。」 3.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平5-8575号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載がある。 ア.【特許請求の範囲】 【請求項1】 基板と該基板上に設けられる画像記録層からなる平版印刷用原版において、該画像記録層は、撥インキ性物質よりなるバインダー中に親インキ性物質よりなる微粒子が分散されたものであることを特徴とする平版印刷用原版。 【請求項2】 親インキ性物質よりなる微粒子がバインダーを構成する撥インキ性物質と同種もしくは異種の撥インキ性物質で被覆してバインダー中に分散されている請求項1記載の平版印刷用原版。 イ.【0009】 【作用】本発明の平版印刷用原版は、前述の如く基板上に形成される画像記録層として、撥インキ性物質よりなるバインダー中に親インキ性物質よりなる微粒子を分散してなるものであり、この画像記録層に熱や放電等によって画像処理を施すと、画像処理部では上記処理によりバインダーが軟化して親インキ性の粒子が表面に浮き出し、あるいは更に溶融軟化して表層部に親インキ性層を形成する。一方熱等の作用を受けない非画像部ではこの様な変化が起こらず、撥インキ性のバインダーが表面に露出したままであるので、この表面部分は撥インキ性を保持する。 ウ.【0013】本発明において撥インキ性物質よりなるバインダーは、親インキ性物質よりなる微粒子を該バインダー中に安定に分散させるためのバインダーとして作用すると共に、非画像部により確実な撥インキ性を与える作用を有するものであり、こうした作用効果を有するものであればどの様なものでもよいが、非画像部の地汚れを阻止し且つ前記微粒子の分散を高めて鮮度向上を増進する意味で特に好ましいものは、シリコーン樹脂、シリコーンアクリル樹脂、シリコーンエポキシ樹脂、シリコーンアルキド樹脂、シリコーンウレタン樹脂、変性シリコーン樹脂、シリコーングラフト樹脂等のシリコーン含有ポリマーや四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、四フッ化エチレンーエチレン共重合樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン樹脂、フッ素を含有するアクリル酸エステル誘導体もしくはメタクリル酸エステル誘導体の重合体もしくは共重合体等のフッ素含有ポリマー等である。 エ.【0014】尚これらの撥インキ性物質は、熱等の画像処理工程で親インキ性物質が表層部へ露出するのを許すものでなければならず、そのためには画像処理のための熱エネルギー等で流動化するものを選択するのがよく、好ましくは軟化点が40?250℃程度のものを使用するのがよい。 オ.【0015】次に微粒子を構成する親インキ性物質は、親インキ性を示すものであればどの様なものでもよいが、優れた画像受容性や耐刷性等を得るうえで好ましいものとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、みつろう、鯨ろう、セラミックろう、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、低分子量ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリスチルアミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等のワックス類、スチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、アミノ樹脂、クマロン-インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ウレタン樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂等の親油性ポリマー類の単独あるいは2種以上の共重合体あるいは2種以上の混合物、あるいは、アルキルナフタレン、アルキルビフェニル、アルキル化ターフェニル等の合成油、ケロシン、ナフサ等の石油留分、綿実油、大豆油、あまに油等の植物油等、それらの単独あるいは2種以上の混合物が使用される。特にスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、アミノ樹脂、クマロン-インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ウレタン樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂等の親油性ポリマー類の単独あるいは2種以上の共重合体あるいは2種以上の混合物等が挙げられる。 カ.【0017】また該微粒子表面に被覆して使用されることのある被覆剤は、前述の如く該微粒子の撥インキ性バインダーへの分散性を高めると共に、非画像部分のインキ汚れを防止して印刷鮮明度を一段と高める作用を発揮するものであり、該被覆剤としては撥インキ性バインダーと同一もしくは異種の撥インキ性物質を使用することができ、好ましいものとしては、シリコーン樹脂、シリコーンアクリル樹脂、シリコーンエポキシ樹脂、シリコーンアルキド樹脂、シリコーンウレタン樹脂、変性シリコーン樹脂、シリコーングラフト樹脂等のシリコーン含有ポリマーや四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデン樹脂、フッ素を含有するアクリル酸エステル誘導体、もしくはメタクリル酸エステル誘導体の重合体、もしくは共重合体等のフッ素含有ポリマー等が例示される。これらの中でも特に好ましいのはシリコーン成分を含有する撥インキ性ポリマーである。 上記記載を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。 「基板上に撥インキ性物質よりなるバインダー中に親インキ性物質よりなる微粒子が分散された画像記録層を有してなる平版印刷用原版であって、親インキ性物質よりなる微粒子がバインダーを構成する撥インキ性物質と同種もしくは異種の撥インキ性物質で被覆されている平版印刷用原版。」 4.対比 本願発明と刊行物記載の発明とを比較すると、刊行物記載の発明の「基板」、「画像記録層」及び「平版印刷用原版」は、それぞれ本願発明の「支持体」、「画像形成層」及び「平版印刷版」に相当し、刊行物の上記イ.に「溶融軟化して表層部に親インキ性層を形成する」と記載されているから、刊行物記載の発明の「親インキ性物質よりなる微粒子」は、本願発明の「熱溶融性粒子」に相当する。 刊行物1の上記イ.、エ.の記載から、刊行物1記載の発明の平版印刷用原版は、感熱性であることが明らかであるから、「感熱性平版印刷版」と称することができる。 刊行物記載の発明の「撥インキ性物質で被覆され」ることと、本願発明の「300Kでの熱伝導率が0.10?70Wm^(- 1) K^(- 1) の素材で被覆され」ることとは、「特定の素材で被覆され」ることで共通する。 よって、両者は、 「支持体上に画像形成層を有してなる平版印刷版であって、熱溶融性粒子を含有し、該粒子の表面が、特定の素材で被覆されている感熱性平版印刷版。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1]画像形成層に関し、本願発明は、少なくとも加熱により親水性が低下するものであるのに対し、刊行物記載の発明は、本願発明のような特定がなされていない点。 [相違点2]熱溶融性粒子の表面を被覆する素材に関し、本願発明は、300Kでの熱伝導率が0.10?70Wm^(- 1) K^(- 1) の素材であるのに対し、刊行物記載の発明は、本願発明のような特定がなされていない点。 5.判断 上記相違点1について検討する。 本願明細書段落【0056】に「本発明の感熱性平版印刷版の製造方法においては、一般に、熱溶融性粒子を300Kでの熱伝導率が0.10?70Wm^(- 1) K^(- 1) の素材で被覆し、その他の画像形成素材の分散液に添加し、塗布乾燥する。」と記載されているから、本願発明の画像形成層は、300Kでの熱伝導率が0.10?70Wm^(- 1) K^(- 1) の素材で表面が被覆された熱溶融性粒子と、その他の画像形成素材からなる部分(以下、「造膜部分」という。)からなることは明らかである。 また、本願明細書段落【0019】に「本発明の熱溶融性粒子は、たとえば、レーザー照射により発熱した光熱変換剤からの熱伝達によって溶融し、画像形成層表面を親水性から疎水性に変換する。」と記載され、同じく段落【0020】に「熱溶融性粒子としては、70?200℃程度で溶融し流動性を示すものであればどのようなものを用いても構わないが、好ましくは、パラフィン、ポリオレフィン、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス及び酸化ポリエチレンワックス等が挙げられる。」と、熱溶融性粒子として疎水性の高い素材が記載されているから、本願発明の「造膜部分」は、熱溶融性粒子より親水性の高い素材からなっているものと認められる。 一方、刊行物記載の発明の親インキ性物質よりなる微粒子は、刊行物1の上記オ.の記載によると、本願明細書の上記段落【0020】に記載されたものと同じものが例示されており、同じものを採用すれば、熱溶融性粒子に関して、本願発明と相違しない。 また、刊行物記載の発明の画像記録層のバインダー(本願発明の上記「造膜部分」に相当する。)は、撥インキ性物質よりなり、親インキ性物質よりなる微粒子(本願発明の「熱溶融性粒子」に相当。)より親水性の高い材料からなっているか否か明らかではないが、そもそも平版印刷版の画像形成層は、印刷時に画線部にインクが載り、非画線部にインクが載らないことが求められるもの、即ち、本願発明の上記「造膜部分」、刊行物記載の発明のバインダーは、いずれも、印刷時に非画線部として、インクが載らないことが求められるものであって、バインダーとして親水性の高いものを採用することは、周知技術(例えば、特開昭58-199153号公報、特開昭59-174395号公報)であり、刊行物記載の発明のバインダーは、親インキ性物質よりなる微粒子を被覆する撥インキ性物質と同種であることを要しないから、刊行物記載の発明のバインダーとして、撥インキ性物質に代え、前記周知の親水性の高いものを採用することは、当業者が容易になし得る程度のことであり、そうすると、前述のように、熱溶融性粒子は本願発明と相違せず、バインダーは親水性の高いものであるから、画像形成層は少なくとも加熱により親水性が低下するものとなる。 上記相違点2について検討する。 刊行物の上記カ.の記載によると、例示されている被覆素材は、いずれも合成樹脂で、フッ素系合成樹脂が含まれている。常温での合成樹脂の熱伝導率が低いことは、技術常識であり、旭化成アミダス株式会社「プラスチック」編集部編「プラスチック・データブック」株式会社工業調査会発行、1999年12月1日、第60頁、第61頁(本願出願後の刊行物であるが、本願出願前後で合成樹脂の物性が異なるものでないことは明らかである。)の第60頁の「1)比較表」によると、全ての合成樹脂は、0.07?0.50Wm^(- 1) ℃^(- 1) (=Wm^(- 1) K^(- 1) )の範囲で、特に、フッ素樹脂は、0.10?0.25Wm^(- 1) ℃^(- 1) (=Wm^(- 1) K^(- 1) )の範囲であり、第61頁の左上の「1)ポリマーの熱伝導率」の表によると、300K(約27℃)での熱伝導率が0.12?0.22Wm^(- 1) K^(- 1) の範囲であることが示されているから、刊行物に示されている被覆素材は、300Kでの熱伝導率が0.10?70Wm^(- 1) K^(- 1) の素材が含まれているといえ、実質的に相違するものではない。 そして、本願発明の作用効果も、刊行物記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-01-15 |
結審通知日 | 2008-01-22 |
審決日 | 2008-02-04 |
出願番号 | 特願平10-377064 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 東 裕子 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
坂田 誠 菅藤 政明 |
発明の名称 | 感熱性平版印刷版及び感熱性平版印刷版の製造方法 |