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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1175241
審判番号 不服2004-24515  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-01 
確定日 2008-03-27 
事件の表示 平成 8年特許願第 18640号「ジルコニア被覆層およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 8月12日出願公開、特開平 9-208306〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年2月5日の出願であって、平成16年7月8日付けの拒絶理由通知書に対して、同年9月6日付けで手続補正書が提出され、その後、同年10月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、当審より平成19年10月9日付けの拒絶理由通知書が通知されたところ、同年12月11日に意見書が提出されたものである。

2.当審が通知した拒絶の理由
当審において平成19年10月9日付けの拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由は次のとおりである。
「理由
1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2)、3) <省略>

1.手続の経緯・本願発明 <省略>
2.理由1)について
(a)請求項1には、「酸化イットリウムで安定化された正方晶ジルコニアを80%以上含むジルコニア溶射被膜からなる被覆層であって、前記ジルコニア溶射被膜は前記酸化イットリウムの平均濃度が5.6?7重量%の範囲であると共に、微小領域における前記酸化イットリウムの濃度が5.5?6.5重量%の範囲の濃度分布領域が50%以上含まれており、かつ前記ジルコニア溶射被膜は773?1523Kの温度による熱処理が施されていると共に、X線回折(Cuターゲット使用)により得られる(002)面と(200)面との回折ピーク角度差を△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差を△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差を△2θ_(3)としたとき、△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足することを特徴とするジルコニア被覆層。」の発明が記載され、発明の詳細な説明によれば、当該発明によって「優れた機械的強度や靱性が得られると共に、水蒸気劣化を有効に抑制することが可能となる」(段落【0067】)との効果が達せられると記載されている。
上記発明の発明特定事項である「X線回折(Cuターゲット使用)により得られる(002)面と(200)面との回折ピーク角度差を△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差を△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差を△2θ_(3)としたとき、△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足する」ことに関して、発明の詳細な説明に具体的に記載されている事項は、実施例1の試料No5について、明細書の段落【0059】に「回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)・・・を示すと、△2θ_(1)=0.52deg、△2θ_(2)=0.373deg、△2θ_(3)=0.663deg・・・である。」と記載された事項と、表3に、Y_(2)O_(3)組成の平均濃度6.4重量%、5.5?6.5wt%の微小領域の占有率98面積%、水蒸気暴露前の密着強度37.7MPa、水蒸気暴露後の密着強度38.0MPa、水蒸気暴露後単斜晶量0体積%であることが示されている事項のみである。そして、Y_(2)O_(3)組成の平均濃度や5.5?6.5wt%の微小領域の占有率、水蒸気暴露前後の密着強度、及び水蒸気暴露後の単斜晶量について示された実施例1の試料No1?4、6、7に対しては、「上記実施例1による各ジルコニア被覆層は歪み除去熱処理により、いずれも歪みが解放されていることを、X線回折(Cuターゲット使用)により確認した。」(段落【0059】)と記載されているのみであり、回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)の具体的な数値は示されていない。
また、明細書の段落【0027】に「ジルコニア部材が歪みを有しているか否かは、Cuターゲットを用いて行ったX線回折により得られる、(002)面と(200)面との回折ピーク角度差△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差△2θ_(3)から判定することができる。そして、本発明の歪みが除去されたジルコニア部材は、上記X線回折による回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)が
△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05……(1)
△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05……(2)
△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05……(3)
(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足するものである。」と記載されているが、これら(1)?(3)の関係式が、明細書に記載された効果、ジルコニア部材の歪みの有無、あるいは、実施例1の試料No5の△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)の具体的な数値との関係から、どのように導き出されたものかについては何ら記載も示唆もなされていない。また、(1)?(3)の関係式が当業者に自明な事項ともいえない。
さらに、実施例1の試料No5の△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)は、(1)?(3)の関係式のそれぞれを満足する数値であり、請求項1に記載された「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)」の3つの条件をすべて満足するものであるが、このことから、「少なくとも1つの条件を満足」しても、同様な効果が得られることは、発明の詳細な説明に記載も示唆もなされておらず、また、当業者にとって自明な事項ともいえない。
したがって、請求項1に記載された「X線回折(Cuターゲット使用)により得られる(002)面と(200)面との回折ピーク角度差を△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差を△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差を△2θ_(3)としたとき、△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足する」ことは、発明の詳細な説明に記載された事項とはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
<以下、省略>」

3.本願発明について
本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成16年9月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は次のとおりである。
「【請求項1】酸化イットリウムで安定化された正方晶ジルコニアを80%以上含むジルコニア溶射被膜からなる被覆層であって、
前記ジルコニア溶射被膜は前記酸化イットリウムの平均濃度が5.6?7重量%の範囲であると共に、微小領域における前記酸化イットリウムの濃度が5.5?6.5重量%の範囲の濃度分布領域が50%以上含まれており、
かつ前記ジルコニア溶射被膜は773?1523Kの温度による熱処理が施されていると共に、X線回折(Cuターゲット使用)により得られる(002)面と(200)面との回折ピーク角度差を△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差を△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差を△2θ_(3)としたとき、△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足することを特徴とするジルコニア被覆層。」

4.当審の判断
(一)本願請求項1に係る発明の「X線回折(Cuターゲット使用)により得られる(002)面と(200)面との回折ピーク角度差を△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差を△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差を△2θ_(3)としたとき、△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足すること」との発明特定事項が、発明の詳細な説明に記載された事項といえるかを検討する。
検討にあたっては、「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)」の各関係式、及び、前記関係式の「少なくとも1つの条件を満足する」ことについてそれぞれ検討する。

(二)発明の詳細な説明には、「回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)」に関して、次の事項が記載されている。
(a)「ジルコニア部材が歪みを有しているか否かは、Cuターゲットを用いて行ったX線回折により得られる、(002)面と(200)面との回折ピーク角度差△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差△2θ_(3)から判定することができる。そして、本発明の歪みが除去されたジルコニア部材は、上記X線回折による回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)が
△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05 ……(1)
△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05 ……(2)
△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05 ……(3)
(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足するものである。」(段落【0027】)
(b)「歪みを除去したジルコニア部材は、図1に斜線で示した領域に回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)が存在する。すなちわ、上述した(1)式、(2)式および(3)式に示すそれぞれの条件を満足することになる。ここで、ジルコニア部材表面の歪みの除去程度は、(1)式?(3)式の少なくとも1つを満足するものであればよいが、水蒸気腐食を安定かつ再現性よく抑制する上で、(1)式、(2)式および(3)式の全てを満足させることが望ましい。」(段落【0029】)
(c)「上記参考例1による各ジルコニア焼結体は歪み除去熱処理により、いずれも歪みが解放されていることを、X線回折(Cuターゲット使用)により確認した。代表例として試料No5の回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)および正方晶ジルコニアの格子定数a、cを示すと、△2θ_(1)=0.528deg、△2θ_(2)=0.396deg、△2θ_(3)=0.698deg、格子定数a=0.5107nm、格子定数c=0.5177nmである。」(段落【0049】)
(d)「参考例1および比較例1と同様に作製したジルコニア焼結体(比較例2:表2の試料No20?31、比較例3:表2の試料No32?38)を、歪み除去熱処理を施すことなく後述する特性評価に供した。これら焼結したままの状態のジルコニア焼結体は、X線回折(Cuターゲット使用)により歪みが残留していることが確認された。代表例として試料No24の回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)および正方晶ジルコニアの格子定数a、cを示すと、△2θ_(1)=0.515deg、△2θ_(2)=0.383deg、△2θ_(3)=0.684deg、格子定数a=0.510nm、格子定数c=0.5170nmである。」(段落【0051】)
(e)「表1」には、上記記載事項(c)に関しての「Y_(2)O_(3)組成」が示されており、「参考例1試料No5」の「Y_(2)O_(3)組成」の「平均濃度(重量%)」が「5.9」であることが記載されている。また、「表2」には、上記記載事項(d)に関しての「Y_(2)O_(3)組成」が示されており、「比較例2試料No24」の「Y_(2)O_(3)組成」の「平均濃度(重量%)」が「5.9」であること記載されている。(段落【0054】)
(f)「上記実施例1による各ジルコニア被覆層は歪み除去熱処理により、いずれも歪みが解放されていることを、X線回折(Cuターゲット使用)により確認した。代表例として試料No5の回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)および正方晶ジルコニアの格子定数a、cを示すと、Δ2θ_(1)=0.52deg、△2θ_(2)=0.373deg、△2θ_(3)=0.663deg、格子定数a=0.5108nm、格子定数c=0.5176nmである。」(段落【0059】)
(g)「実施例1および比較例4と同様に作製したジルコニア被覆層(比較例5:表3の試料No10?13、比較例6:表3の試料No14?19)を、歪み除去熱処理を施すことなく後述する特性評価に供した。これら溶射したままの状態のジルコニア被覆層は、X線回折(Cuターゲット使用)により歪みが残留していることが確認された。代表例として試料No13の回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)および正方晶ジルコニアの格子定数a、cを示すと、△2θ_(1)=0.51deg、△2θ_(2)=0.361deg、△2θ_(3)=0.651deg、格子定数a=0.5105nm、格子定数c=0.5170nmである。」(段落【0061】)
(h)「表2」には、上記記載事項(f)及び(g)に関しての「Y_(2)O_(3)組成」が示されており、「実施例1試料No5」の「Y_(2)O_(3)組成」の「平均濃度(重量%)」が「6.4」であること、及び、「比較例5試料No13」の「Y_(2)O_(3)組成」の「平均濃度(重量%)」が「6.2」であることが記載されている。
(i)「図1」には、記載事項(b)に関しての「歪み除去後のジルコニアのX線回折ピーク角度差とY_(2)O_(3)組成との関係を示す図」が示されている。

(三)上記発明特定事項の「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05」の関係式について検討する。
上記関係式は、記載事項(a)に記載されているとおり、「ジルコニア部材が歪みを有しているか否か」を判定するものであるといえる。
そして、発明の詳細な説明に具体的に記載されている「△2θ_(1)」と「酸化イットリウムの濃度x(重量%)」との関係は、記載事項(c)乃至(h)に記載されたとおりである。
これら記載事項(c)乃至(h)によれば、歪みが開放されている試料は、参考例1試料No5と実施例1試料No5であり、歪みが残留している試料は、比較例2試料No24と比較例5試料No13であるといえる。そして、「△2θ_(1)」と「酸化イットリウムの濃度x(重量%)」との関係についてみてみると、歪みが開放されている試料では、Y_(2)O_(3)組成の平均濃度が5.9重量%、6.4重量%のとき、△2θ_(1)はそれぞれ0.528deg、0.52degである。また、歪みが残留している試料では、Y_(2)O_(3)組成の平均濃度が5.9重量%、6.2重量%のとき、△2θ_(1)はそれぞれ0.515deg、0.51degである。
しかしながら、これら4点の具体例は、「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05」の関係式にすべて含まれるものであるから、これら4点の具体例から、上記関係式を満足する範囲内であれば、ジルコニウム部材の歪みが開放されていることを認識できるとはいえない。
また、請求人の主張するように、安定化ジルコニアの酸素欠損に基づく歪みが正方晶のc軸長を長くa軸長を短くすることが、出願時の技術常識であったとしても、歪みが開放されている試料である参考例1試料No5と実施例1試料No5の2つの具体例から、「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05」の関係式を導き出せるものでない。
また、発明の詳細な説明には、記載事項(a)に「ジルコニア部材が歪みを有しているか否かは、Cuターゲットを用いて行ったX線回折により得られる、(002)面と(200)面との回折ピーク角度差△2θ_(1)、・・・から判定することができる。そして、本発明の歪みが除去されたジルコニア部材は、上記X線回折による回折ピーク角度差・・・△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05・・・の少なくとも1つの条件を満足するものである。」と記載され、また、記載事項(b)及び(i)のとおり、「歪みを除去したジルコニア部材は、図1に斜線で示した領域に回折ピーク角度差△2θ_(1)・・・が存在する。」と記載されている。
しかしながら、これらの記載は、具体的な根拠を持って「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05」の関係式を記載したものでない。
さらに、明細書の他の記載をみても、「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05」の関係式が、ジルコニア部材が歪みの有無を判定する式であることが、当業者にとって自明なこととはいえない。
したがって、上記発明特定事項の「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05」の関係式は、発明の詳細な説明に記載された事項とはいえない。

(四)上記発明特定事項の「△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05」及び「△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05」の各関係式について検討すると、「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05」の関係式と同様に、「△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05」及び「△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05」の各関係式も、発明の詳細な説明に記載された事項とはいえない。

(五)次に、上記発明特定事項の「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足する」ことについて検討する。
発明の詳細な説明に具体的に記載されている「△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)」と「ジルコニア部材の歪み」との関係は、記載事項(c)乃至(h)に記載されたとおりである。そして、歪みが開放されている試料である参考例1試料No5と実施例1試料No5では、Y_(2)O_(3)組成の平均濃度が5.9重量%の試料の△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)は、それぞれ0.528deg、0.396deg、0.698degであり、また6.4重量%の試料の△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)は、それぞれ0.52deg、0.373deg、0.663degである。
これら△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)の値をみてみると、発明特定事項である「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)」のすべての条件を満足している。
したがって、発明の詳細な説明には、「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)」のすべての条件を満足するジルコニア部材が具体的に記載されているといえ、「少なくとも1つの条件を満足する」ジルコニア部材については具体的に記載されていない。
また、(002)面と(200)面との回折ピーク角度差△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差△2θ_(3)は、正方晶の各面格子に基づく回折ピーク角度差であるから、△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)の数値に相関関係があることを考慮しても、すべての条件を満足する場合から、少なくとも1つの条件を満足する場合にまで一般化又は拡張できるものでもない。
また、発明の詳細な説明には、記載事項(a)に「本発明の歪みが除去されたジルコニア部材は、上記X線回折による回折ピーク角度差△2θ_(1)、△2θ_(2)、△2θ_(3)が
△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05 ……(1)
△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05 ……(2)
△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05 ……(3)
(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足するものである。」と記載され、また、記載事項(b)に「ジルコニア部材表面の歪みの除去程度は、(1)式?(3)式の少なくとも1つを満足するものであればよいが、水蒸気腐食を安定かつ再現性よく抑制する上で、(1)式、(2)式および(3)式の全てを満足させることが望ましい。」と記載されている。
しかしながら、これらの記載は、具体的な根拠に基づいて「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足する」ことについて記載したものでない。
したがって、上記発明特定事項の「△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足する」ことは、発明の詳細な説明に記載された事項とはいえない。

(六)以上に検討したとおり、本願請求項1に係る発明の「X線回折(Cuターゲット使用)により得られる(002)面と(200)面との回折ピーク角度差を△2θ_(1)、(220)面と(202)面との回折ピーク角度差を△2θ_(2)、(311)面と(113)面との回折ピーク角度差を△2θ_(3)としたとき、△2θ_(1)=0.82-0.05x±0.05、△2θ_(2)=0.63-0.04x±0.05、および△2θ_(3)=1.05-0.06x±0.05(ただし、xは酸化イットリウムの濃度(重量%)を示す)の少なくとも1つの条件を満足すること」との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載された事項といえない。

5.まとめ
以上のとおり、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-28 
結審通知日 2008-01-29 
審決日 2008-02-12 
出願番号 特願平8-18640
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武重 竜男  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 斉藤 信人
宮澤 尚之
発明の名称 ジルコニア被覆層およびその製造方法  
代理人 堀口 浩  
代理人 池上 徹真  
代理人 須藤 章  
代理人 松山 允之  

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