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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23H
管理番号 1175290
審判番号 不服2006-2019  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-06 
確定日 2008-03-27 
事件の表示 特願2002-231767「複合ワイヤ加工のための放電加工方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 8日出願公開、特開2003-103417〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成14年8月8日(優先権主張2001年9月11日、欧州特許庁)の特許出願であって、同16年12月28日付けで拒絶の理由が通知され、同17年7月6日に手続補正がなされたが、同年10月31日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同18年2月6日に本件審判の請求がなされ、同年2月22日に明細書について手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
本審決において、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項に規定される各条については、同項の規定により、なお従前の例による。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前
「少なくとも2つのワイヤ電極(8)によりワークピース(1)を放電によって加工する方法であって、
前記ワイヤ電極が加工のために通されたときの前記ワークピースの高さ範囲における前記ワイヤ電極間のオフセットであって(A)各ワイヤ電極とワイヤガイド(6)との間の接触角と(B)各ワイヤ電極の異なる特性とに起因して生じた偏位の差であるオフセットを決定すること、
前記ワイヤ電極の1つから他のワイヤ電極への変更後、前記オフセットに基づいて、前記ワイヤ電極の少なくとも1つの位置を修正することを含む、ワークピースの放電加工方法。」

(2)補正後
「少なくとも2つのワイヤ電極(8)によりワークピース(1)を放電によって加工する方法であって、
前記ワイヤ電極が加工のために通されたときの前記ワークピースの高さ範囲における前記ワイヤ電極間のオフセットであって(A)各ワイヤ電極とワイヤガイド(6)との間の接触角(γ_(0))の差及び(B)前記ワイヤ電極のワイヤ径や弾性係数のような特性の差に起因して生じる、前記ワイヤ電極が前記ワイヤガイドから離れる点を経る垂直線からの偏位(δ_(0))の差であるオフセットを決定すること、
前記ワイヤ電極の1つから他のワイヤ電極への変更後、前記オフセットに基づいて、前記他のワイヤ電極の位置を修正することを含む、ワークピースの放電加工方法。」

2.補正の適否
本件補正の特許請求の範囲の請求項1についての補正は、「オフセット」についての事項を付加するとともに、位置修正される「ワイヤ電極」を特定するものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか否か(いわゆる独立特許要件)について検討する。

(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1.(2)のとおりのものと認める。

(2)刊行物に記載された発明
これに対し、原査定で引用された本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-182729号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.第2ページ左上欄第17?18行
「本発明はワイヤカット放電加工機におけるテーパ加工制御装置に関する。」

イ.第4ページ左下欄第7?8行
「そこで、本発明者はこのワイヤWRの曲り具合を第2図に示すようなモデルを想定して考察した。」

ウ.第4ページ右下欄第5行?第5ページ左上欄第15行
「第3図は第2図の右半分の拡大図であり、ワイヤWRはその弾性により上ガイドUGの幾何学的形状に正確に沿わず、下ガイドDG側において両ガイドに接する線4からδ_(3)だけ浮上がり、反対側においてεだけ浮上がった状態を示す。なお、θは上ガイドUGの中心からワイヤWRに下ろした垂線と線4に下ろした垂線との為す角であり、ワイヤWRの引っ張り方向に平行な線に下ろした垂線と線4に下ろした垂線との為す角はθ_(0)に等しい。
第3図のモデル系において、点Pにおける力の釣合式から方程式をたて、上ガイドUGと下ガイドDGの中間におけるδ_(3)を求めると近似的に次式が得られる。
θ_(0)がtan(θ_(0)’/2)=I/kRで定まるθ_(0)’より小さいとき、
δ_(3)=tan(θ_(0)/2)/k -R{1-cos(θ_(0)/2)}
・・・(7)
・・・
但し、k=T/IzE(T;引っ張り力、Iz;ワイヤWRの断面二次モーメント、E;ワイヤWRのヤング率)、θ_(0)’はワイヤWRの巻付きの限界であり、・・・なる方程式を解くことで求まる。」

これらの記載事項を、技術常識を考慮しながら補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

「ワイヤによりワークを放電によって加工する方法であって、
前記ワイヤが加工のために通されたとき、(A)ワイヤの引っ張り方向に平行な線に下ろした垂線と線4に下ろした垂線との為す角θ_(0)、及び(B)前記ワイヤの断面二次モーメントやヤング率に起因して生じる、前記ワイヤが前記ガイドに接する線4から浮上がる量δ_(3)を決定することを含む、ワークの放電加工方法」

また、同じく原査定で引用された特開平1-135425号公報(以下「刊行物2」という。)の第4ページ右下欄第11?15行には、以下の事項が記載されている。

「この発明は・・・、線径の異なるワイヤ電極を自動的に交換するとともに、ワイヤ電極径に対応した加工条件を選択して加工を行うワイヤ放電加工方法を得ることを目的とする。」

この記載事項から、刊行物2には以下の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されていると認める。
「線径の異なるワイヤ電極を交換し、ワイヤ電極径に対応した加工条件を選択して加工を行うワイヤ放電加工方法。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「ワイヤ」、「ワーク」、「ヤング率」は、それぞれ補正発明の「ワイヤ電極」、「ワークピース」、「弾性係数」に相当する。
刊行物1発明の「ワイヤの引っ張り方向に平行な線に下ろした垂線と線4に下ろした垂線との為す角θ_(0)」、「ワイヤが前記ガイドに接する線4から浮上がる量δ_(3)」は、刊行物1の第2図、第3図、本願の図1(b)をも参照すると、それぞれ、補正発明の「ワイヤ電極とワイヤガイド(6)との間の接触角(γ_(0))」、「ワイヤ電極が前記ワイヤガイドから離れる点を経る垂直線からの偏位(δ_(0))」に相当することは明らかである。
また、「ワイヤの断面二次モーメント」が「ワイヤ径」により異なることは技術常識であるから、刊行物1発明の「ワイヤ電極が前記ワイヤガイドから離れる点を経る垂直線からの偏位(δ_(0))」は「ワイヤ径」に起因して異なるとも言える。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、次の点で一致している。
「ワイヤ電極によりワークピースを放電によって加工する方法であって、
前記ワイヤ電極が加工のために通されたとき、(A)ワイヤ電極とワイヤガイドとの間の接触角、及び(B)前記ワイヤ電極のワイヤ径や弾性係数のような特性の差に起因して生じる、前記ワイヤ電極が前記ワイヤガイドから離れる点を経る垂直線からの偏位を決定することを含む、ワークピースの放電加工方法。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
補正発明は、少なくとも2つのワイヤ電極を有し、ワイヤ電極の1つから他のワイヤ電極への変更後、ワークピースの高さ範囲における、接触角の差及びワイヤ電極の特性の差に起因して生じる偏位の差であるオフセットに基づいて、他のワイヤ電極の位置を修正するが、刊行物1発明は、2つのワイヤ電極を変更するものか否か明らかでない点。

(4)相違点の検討
相違点について検討する。
ワークピースの精密な加工は当然の課題であり、これはワークピースの高さ範囲において、問題となるものである。
ワイヤ放電加工において、加工対象に適したワイヤ電極に変更することは、刊行物2事項のごとく周知であるから、刊行物1発明において、ワイヤ電極を変更することは、必要に応じてなしうる事項である。
そして、刊行物1発明において、ワイヤ電極を変更した場合には、偏位が異なるものとなることは明らかであるから、精密な加工のためには、これを補正する必要がある。
変更に伴う補正にあたっては、一般的に、何らかの絶対基準に基づく補正と、直前のものからの補正が考えられるところ、いずれとするかは選択の問題にすぎない。
したがって、ワークピースの高さ範囲において、変更前のワイヤ電極の偏位と変更後のワイヤ電極の偏位との差であるオフセットに基づいて、変更後である他のワイヤ電極の位置を修正するものとすることに、困難性は認められない。
また、相違点によってもたらされる効果も、当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。

以上のことから、補正発明は、刊行物1発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、平成19年9月27日の回答書において、修正方向が一方向のみで済む点を特徴とする補正案を示しているので、これについて、一応検討する。
一般に、装置の機能の検討にあたっては、汎用性を持たせ多機能とするか、製造費用低減の観点から必要な機能のみとするかは、必要に応じて適宜選択されている。
したがって、刊行物1発明において、必要な機能を検討し、補正が必要な方向であるワイヤガイドの軸線に垂直な方向に修正するものとしたことに困難性は認められない。
よって、仮に補正案を採用したとしても、結論に差違はない。

第3.本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記第2.1.(1)に示す請求項1に記載されたとおりである。

2.刊行物等
これに対して、原査定の際にあげられた刊行物及びその記載内容は、上記第2.2.(2)に示したとおりである。

3.対比・検討
本件発明は、上記第2.2.で検討した補正発明において、限定事項を削除するものである。
そうすると、本件発明を構成する事項のすべてを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が、上記第2.2.(4)で示したとおり、刊行物1発明、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことから、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-16 
結審通知日 2007-10-23 
審決日 2007-11-05 
出願番号 特願2002-231767(P2002-231767)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23H)
P 1 8・ 575- Z (B23H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志加藤 昌人  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 豊原 邦雄
福島 和幸
発明の名称 複合ワイヤ加工のための放電加工方法及び装置  
代理人 松永 宣行  

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