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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A01B |
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管理番号 | 1175351 |
審判番号 | 無効2007-800060 |
総通号数 | 101 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-05-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2007-03-27 |
確定日 | 2008-03-27 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3862887号発明「折り畳み作業機」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3862887号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第3862887号に係る発明は,平成11年3月25日に出願され,平成18年10月6日にその発明について特許の設定登録がされたものである。 これに対して,請求人は,平成19年3月27日に無効審判の請求をし,これに対して,被請求人からは平成19年6月18日に答弁書が提出され,また,請求人からは平成19年12月4日に弁駁書が提出された。そして,平成19年12月4日付けにて当審から審尋したところ,請求人と被請求人から平成19年12月25日付け回答書が提出された。 第2 本件発明 本件請求項1?3に係る発明(以下,「本件発明1」?「本件発明3」という。)は,本件特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分を昇降可能に装着し、上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共に、上記中央部分に対し、該中央部分から左右両側に延出している作業機部分を、それぞれ中央部分側に折り畳み可能とした折り畳み作業機であって、 上記折り畳み作業機を中央部分と左右の作業機部分とに3分割し、該中央部分の左右の端部と左右の作業機部分の内端部とをそれぞれ回転支点によりほぼ90°斜め後方に向け回転可能に連結すると共に、 上記中央部分に対して上記作業機部分を延出した状態で、上記回転支点と直交する前方に、圧縮に対して反発するスプリングが圧縮された状態で一端を上記中央部分側に他端側を上記作業機部分側に接続して配設される折り畳み操作力軽減装置を設けたことを特徴とする折り畳み作業機。 【請求項2】 上記スプリングを、高圧ガスを封入したガススプリングとしたことを特徴とする請求項1記載の折り畳み作業機。 【請求項3】 上記スプリングを、回転支点の両側に配設したことを特徴とする請求項1又は2記載の折り畳み作業機。」 第3 請求人の主張 これに対して,請求人は,本件請求項1?3に係る特許発明は,甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって,本件請求項1?3に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである旨主張し,証拠方法として甲第1号証?甲第3号証を提出している。 甲第1号証:特開平8-191611号公報 甲第2号証:「農業機械カタログ集‘94-96年版 トラクター・作業機 ・その他」,社団法人北海道農業機械工業会発行 甲第3号証:実用新案登録第2527909号公報 第4 被請求人の主張 一方,被請求人は,答弁書において,「本件発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができない」旨主張する。 第5 甲号証及びその記載内容 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には,図面と共に次の事項が記載されている。 (記載事項1-1) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、折畳機構を備えた農作業機に関するものである。」 (記載事項1-2) 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】ところで前記提案においては、作業姿勢になったときに、手動操作によって左右作業部を中央作業部に固定する構成を開示している。しかしながら作業者の負担を考えると、油圧シリンダ等のアクチュエータによって、自動的に固定或いは固定解除できる構成とするほうがよい。また固定及び固定解除は、折り畳み動作に関連して行われるので、折畳機構と連動する構成であることが好ましい。 【0006】そこで本発明は、自動的に左右作業部の固定ができる農作業機を、また固定及び固定解除を折畳機構に連動して行うことのできる農作業機を提供すべく創案されたものである。」 (記載事項1-3) 「【0009】 【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面に従って説明する。 【0010】図1乃至図3は、本発明に係わる農作業機の一実施例を示したものである。この農作業機は、砕土機構1の後方に設けられ中央及び左右に分割された鎮圧用部材2と、左右の鎮圧用部材2を中央側に折り畳む折畳機構3とを有した砕土作業機であって、アクチュエータたる油圧シリンダ116 によって動作する固定装置111 を備えて構成されている。…」 (記載事項1-4) 「【0011】まず本実施例の砕土作業機の全体構成を説明する。砕土機構1は、機幅方向に延びる作業軸6と、作業軸6の軸方向に所定の間隔で且つ放射状に取り付けられた多数の作業爪7で成り、鎮圧用部材2と同様に中央及び左右に分割されている。すなわちこれら分割された砕土機構1及び鎮圧用部材2によって、砕土作業機1の中央作業部8及び左右作業部9,10が構成されている。鎮圧用部材2は、作業爪7の上方に設けられたロータカバー11にピン12を介して軸支された均平板13と、均平板13にピン14を介して軸支された整地板15とで構成されている。これらピン12,14は、作業軸6(機幅方向)と平行に延びており、均平板13及び整地板15は、それぞれ上下ないし前後方向に揺動自在となっている。ロータカバー11は、砕土機構1に相応して中央及び左右に分割され、それぞれが砕土作業機の機枠となる中央フレーム16及び左右フレーム17,18に固定されている。この中央フレーム16と左右フレーム17,18とが、枢軸たる支軸ピン19を介して連結されている。 【0012】中央フレーム16及び左右フレーム17,18は、作業軸6と並行な中空の主杆20及び左右連結杆21,22により実質的に構成されている。主杆20の中間位置(機幅方向中央)にはミッション23が設けられ、トラクター等の駆動源から回転駆動力を得るための入力軸24が収容されている。ミッション23の頂部及び主杆20には、三点リンク25と連結するためのトップアーム26及びロワーアーム27が設けられている。主杆20の両外端には径方向に張り出した連結部材28が形成され、左右連結杆21,22の端部に形成された断面矩形の筒状の連結部材29と対向している。そしてこれら連結部材29の先端が適宜重ね合わされて、その上端位置に支軸ピン19が挿通されている。本実施例にあっては、支軸ピン19は平面視で進行方向に延び、且つ前方が高くなるように僅かに傾斜している。すなわち左右フレーム17,18が上方に且つ斜め後方に折り畳まれるようになっている。また支軸ピン19の位置は、中央作業部8の両側端よりも中央寄りに位置されている。言い換えると、主杆20の長さは、中央作業部8の幅よりも短くなるように形成されている。さらに本実施例にあっては、左右フレーム17,18を90度以上展開移動させるものとし、そのときの左右作業部9,10の外端が中央作業部8の両端位置からはみださないようになっている。すなわち、中央作業部8の幅が折り畳み姿勢時の機幅となるように、主杆20及び左右連結杆21,22の長さが設定されているものである。 【0013】折畳機構3は、前記した支軸ピン19と、支軸ピン19を跨いで中央フレーム16と左右フレーム17,18との間に掛け渡された一対の復動式の油圧シリンダ30,31とで構成されている。油圧シリンダ30,31の基端は、主杆20の両端位置にそれぞれ取り付けられたブラケット32を介して軸支され、そのピストンロッド33の先端は左右連結杆21,22にそれぞれ取り付けられたブラケット34を介して軸支されている。すなわちこれら油圧シリンダ30,31は左右対称に配置され、ピストンロッド33を伸長させることで各フレーム16…18を一直線状に揃えた作業姿勢とし、縮退させることで左右フレーム17,18を中央側に折畳むようになっている。 【0014】保持手段4は、一端が中央整地板15aに、他端が左右整地板15b,15cに枢支された一対のステイ部材35で成る。図4及び図5に示すように、ステイ部材35は、断面が略正方形の基端ステイ36と、基端ステイ36内に摺動自在の断面コ字状の先端ステイ37とで形成されている。基端ステイ36の一端及び先端ステイ37の他端は、整地板15上に取り付けられた補強板38及びブラケット39にピン40で軸支されている。このピン40は整地板15と平行に設けられており、ステイ部材35は、整地板15に垂直な面に沿って回動し、且つその長手方向に伸縮することになる。また整地板15の両端近傍には当接板41が取り付けられ、整地板15が一直線状に揃った状態で、ステイ部材35が整地板15と平行になるように、先端ステイ37に当接するようになっている。なお当接板41は、均平板13に取り付けられたブラケット42に一部が重ね合わされ、この部分にピン14を位置させているものである。」 (記載事項1-5) 「【0025】次に本実施例の作用をまとめて説明する。 【0026】水田等で作業を行うに際しては、トラクターの三点リンク25にトップアーム26及びロワーアーム27を結合させると共に、入力軸24をトラクターの駆動軸(図示せず)に接続する。そして油圧ポンプ122 の駆動及び三方電磁弁123 の操作によって油圧シリンダ30,31を伸長させ、左右フレーム17,18を機幅方向に延ばして主フレーム16と一直線状に揃える。そして固定装置111 の油圧シリンダ116 の動作によりベルクランク114 をフック112 に係止させることで通常の作業姿勢に固定する。このとき各クラッチ機構66,67は互いに接合された状態となり、回転駆動力は、入力軸24から出力軸63,65及び伝動装置64を経て作業軸6に伝達されて、作業爪7が回転駆動され、トラクターの走行に伴って砕土・すき込み等を行う。このときステイ部材35は、各整地板15が互いにずれるのを抑え、耕地に段差が生じるのを防ぐ。 【0027】そして砕土作業機を運搬する、或いは倉庫等に格納するに際しては、調節手段5の操作レバー52を動かして、整地板15を支軸ピン19と略平行に位置させた後、油圧シリンダ30,31の動作によって左右フレーム17,18を支軸ピン19を中心にして上方に展開させ、中央側に折り畳む。このときステイ部材35は、伸長しながら回動し、整地板15同士を展開軌道に沿って保持し、地離されてフリーとなっている整地板15及び均平板13を拘束する。これで左右作業部9,10は中央作業部8の両側端から出ない状態で、斜め上方且つ後方に保持される。」 (記載事項1-6) 「【0031】さらに本実施例にあっては、支軸ピン19を中央作業部8の両側端よりも中央寄りに位置させたので、展開する部分のうち左右作業部9,10が占める重量は少なくなり、折り畳み姿勢における重心を比較的下方に位置させることができ、トラクターにより運搬走行する場合の操縦性及び安定性を損なうことを抑制できる。すなわち機幅の縮小と操縦性及び安定性の確保との両立が達成される。…」 したがって,甲第1号証の上記記載事項及び図面の記載から,甲第1号証には, 「トラクタの後部に三点リンク25を介して農作業機の中央作業部8を昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央作業部8に動力を伝達すると共に,上記中央作業部8に対し,該中央作業部8から左右両側に延出している左右作業部9,10を,それぞれ中央作業部8側に折り畳み可能とした農作業機であって, 上記農作業機を中央作業部8と左右の作業部9,10とに3分割し,該中央作業部8の左右の端部の中央部寄りと,左右作業部9,10の内端部とを,それぞれ支軸ピン19により90°以上斜め後方に向け回転可能に連結すると共に, 上記中央作業部8に対して上記左右作業部9,10を延出した状態で,上記支軸ピン19と直交し且つ支軸ピン19の上方やや後方に,油圧シリンダ30,31が伸長された状態で一端を上記中央作業部8側に他端側を上記左右作業部9,10側に接続して配設される折畳機構3を設けた農作業機。」(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 また,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には,次の事項が記載されている。 (記載事項2-1) 「ワンタッチロック式軽々ツイストフォルダー(実用新案出願中) 折りたたみ機構は、ねじれながらたたまさる独創のツイスト方式によって、わずか90°で全幅が大きく狭まります。しかもガススプリングのはたらきで軽々と持ち上がり、ロック機構もレバー操作のみのワンタッチ方式です。“丈夫なカルチはたたむのが重くて大変だ”という従来からの常識を根底からくつがえす画期的な機構です。」(III 施肥、播種、移植、管理用機械 8.日農機株式会社 カルチベータ) さらに,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には,図面とともに次の事項が記載されている。 (記載事項3-1) 「〔産業上の利用分野〕 この考案は、カルチベーターにおけるフレームの折りたたみ装置に関するものである。」(3欄21?23行) (記載事項3-2) 「【考案が解決しようとする課題】 前記したように、従来、定められた車幅より突出する部分をヒンジを介し接続するもので、重量大なる分断した副フレームの回動操作は人力をもって行うもので、突出部分の回動を水平位置から垂直位置までの回動作業は大なる運動力を要し、重労働であるが、それよりも、回動した垂直起立形態から再び逆方向の水平位置に回動するとき、前記の起立操作に要する運動力は必要とはしないものの、支持手段を停止して自然開放すれば、その自重で倒回するが、これによる破壊も当然予測される事態であることから、自然倒回を防止する意味から回動する副フレームを支持しつつ静かに下方回動するものである。この下方回動において加速現象も伴うものであるから、支持操作とともに危険度も増大するもので、その作業は多大な労力と高い慎重度が要求されている。 … この考案は特に所望車幅内に折りたたむ副フレームを、その先端が水平方向と上下垂直方向のほぼ中間方向に向かう略斜状回動となるように旋回させて最高位置付近をもって回動終了とし、従前の最高位までの回動後再度下降させる際の加速度現象を取り除き、折りたたむ労力を軽減するとともに、この作業に伴う危険性を排除したものである。」(4欄1?27行) (記載事項3-3) 「【課題を解決するための手段】 この発明は、上記の目的を達成させるための手段として、掻爪およびゲージホイールを装着した中骨ビームの複数の各々をそれぞれリンクならびにコイルスプリングを介しフレームに固着したチャンネルビーム(12)に接続して並列装着するカルチベーターにおける設定した長さのフレームを幅寸法の主フレームと、2本の副フレームとに分割し、主フレームの両端と各副フレームの一方端の各々に、前記主フレームの軸線に対し斜状に対応する線を回転軸線とするヒンジを介して接続し、主フレームに対して副フレームの各々が斜状回動ができるようにし、その回動角度が90度前後で、該副フレームに装着する中骨ビームの掻爪およびゲージホイールの先端が平面視において前記の幅寸法以内の範囲に納まるようにして成るものである。 また、主フレームの両端と各副フレームの一方端に接続するヒンジにおいて主フレームの軸線とヒンジの回転軸線ならびにその延長方向の総てにおいて、ある距離を介し、かつ、交点を結ばないようにして成るものである。 更に、主フレームと副フレームとを回動自在に接続するヒンジにおいて、該ヒンジを形成する両蝶番部の接合状態時に回転軸線より、ある距離を介した位置に該蝶番部の平面に対し斜状に貫通する直線を、前記主フレームと副フレームとを該主フレームと副フレームとの軸線となるように固着して成るものである。 また更に、主フレームと副フレームとを回動自在に接続するヒンジにおいて、副フレームの軸線が主フレームの軸線の延長線上にあるとき、および副フレームが主フレームに対して有効回度限界位置に回動した状態を維持できる状態維持手段を設けて成るものである。 更にまた、主フレームと副フレームとに回動自在な接続手段として用いられたヒンジ以外に、回動運動ならびに伸方向に助成作用するダンパーを主フレームと副フレームにその端部を回動自在に枢着して接続構成して成るものである。」(4欄28行?5欄13行) (記載事項3-4) 「〔実施例〕 次に、この考案の実施例を図面とともに説明すれば、トラクターに牽引されるカルチベーター(A)は、その進行方向に直交する方向に設けられるフレームに固着されたチャンネルビーム(12)には、掻爪(1)ならびにゲジホイール(2)等カルチベーター(A)として必要な機材を装着した中骨ビーム(3)の必要組数を並列して取り付けられ、該中骨ビーム(3)のそれぞれには、その個々がフレームに固着された前記のチャンネルビーム(12)と平行四辺形リンク作用を奏させるリンク(10)と、該中骨ビーム(3)が圃場面との平衡状態が維持できるようにコイルスプリング(11)を介装して取り付け、このように複数の中骨ビーム(3)を装着したフレームが所望する幅寸法とにるように構成するものである。 … しかしながら、圃場外の一般道路を通行する場合には、一般道交法で定められた少なくとも車幅の規定を遵守するために、該規定に則り構成寸法を基準に合致させなければならない。カルチベーター(A)のフレームにおいては、規定の車幅が得られるようにその長さの中心より設定した長さの幅寸法(l)より突出する部分とを斜状に切断して副フレーム(6)とし、前記主フレーム(4)の切断端部と、副フレーム(6)の切断内端部とをヒンジ(5)で接続するものである。 ヒンジ(5)は、2枚の蝶番部(7)、(7)の各一辺で軸(71)をもって枢着する。また、この各蝶番部(7)、(7)には、固定維持手段(8)、(8)を設け、各々の蝶番部(7)、(7)が軸(71)を中心として最高必要角度に回動した際に合致する係止維持孔(81)、(81)を設けた係止杆(82)を挿入係合して蝶番部(7)、(7)の開状態を維持するものである。 また、主フレーム(4)側の蝶番部(7)の一側と分断主フレーム(6)の外側端部方との間に両装着部を回動自在に枢着(91)、(92)した伸方向に助成作用するダンパー(9)を装着するものである。 このようにして取り付けるヒンジ(5)の回転軸線(b)について説明すれば、平面視において、回転軸線(b)の先端延長方向が主フレーム(4)の中心位置で直交する長手方向後方を指向し、また、側面視では、回転軸線(b)の先端延長方向が主フレーム(4)後方で低方向を指向するようにし、かつ、この回転軸線(b)が主フレーム(4)の軸線(a)と交点を結ばない斜状となるようにすることが肝要である。」(6欄24行?7欄27行) (記載事項3-5) 第2?4図及び第6図には,ダンパー9は回転軸線bの一側に2本設けたことが記載されている。 したがって,甲第3号証の上記記載事項及び図面の記載から,甲第3号証には, 「主フレーム4に対して左右の副フレーム6,6を延出した状態で,回転軸線bより前下方(副フレーム6,6が折りたたまれる側の反対側)であって,該回転軸線bとは交点を結ばない斜状となり,伸方向に助成作用するダンパー9が圧縮された状態で,一端を上記主フレーム4側に,他端側を上記副フレーム6,6側に接続して配設される伸方向に助成作用するダンパー9を設け,該ダンパー9は回転軸線bの一側に2本設けたカルチベーターにおけるフレームの折りたたみ装置。」(以下,「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 第6 対比・判断 1 本件発明1について まず,本件発明1の「上記回転支点と直交する前方に、…折り畳み操作力軽減装置を設けた」は,本件特許公報の図面等を参酌すれば,「上記回転支点と直交し且つ回転支点の前方に…折り畳み操作力軽減装置を設けた」を意味していると認められる。 そこで,本件発明1と,甲1発明とを対比すると,甲1発明の「三点リンク25」が本件発明1の「3点リンクヒッチ機構」に相当し,以下同様に,「中央作業部8」が「中央部分」に,「左右作業部9,10」が「作業機部分」に,「農作業機」が「折り畳み作業機」に,「支軸ピン19」が「回転支点」に,それぞれ相当することは明らかである。そして,甲1発明の「左右作業部9,10」は90°以上回転可能にしたものであるから,本件発明1の「ほぼ90°」回転可能なものを含むといえる。 してみると,両者は, 「トラクタの後部に3点リンクヒッチ機構を介して農作業機の長さ方向中央部分を昇降可能に装着し,上記トラクタから農作業機の中央部分に動力を伝達すると共に,上記中央部分に対し,該中央部分から左右両側に延出している作業機部分を,それぞれ中央部分側に折り畳み可能とした折り畳み作業機であって, 上記折り畳み作業機を中央部分と左右の作業機部分とに3分割し,該中央部分の左右と,左右の作業機部分の内端部とを,それぞれ回転支点によりほぼ90°斜め後方に向け回転可能に連結する折り畳み作業機。」 である点で一致し,次の各点で相違する。 (相違点1) 本件発明1が「中央部分の左右の端部と、左右の作業機部分の内端部とを、回転可能」にするのに対し,甲1発明は「中央作業部8の左右の端部の中央部寄りと,左右の作業機部分の内端部とを,回転可能」にした点。 (相違点2) 本件発明1が「中央部分に対して作業機部分を延出した状態で、回転支点と直交し且つ回転支点の前方に、圧縮に対して反発するスプリングが圧縮された状態で一端を上記中央部分側に他端側を上記作業機部分側に接続して配設される折り畳み操作力軽減装置を設けた」のに対し,甲1発明は,「中央作業部8に対して左右作業部9,10を延出した状態で,支軸ピン19と直交し且つ支軸ピン19の上方やや後方に,油圧シリンダ30,31が伸長された状態で一端を上記中央部分側に他端側を上記作業機部分側に接続して配設される折畳機構3を設けた」点。 まず,相違点1を検討すると, 甲1発明において,「中央作業部8の左右の端部の中央部寄りと、左右の作業機部分の内端部とを、回転可能にした」,すなわち,「支軸ピン19を中央作業部8の両側端よりも中央寄りに位置させた」のは,甲第1号証の上記(記載事項1-6)にあるように「展開する部分のうち左右作業部9,10が占める重量は少なくなり、折り畳み姿勢における重心を比較的下方に位置させることができ、トラクターにより運搬走行する場合の操縦性及び安定性を損なうことを抑制できる。すなわち機幅の縮小と操縦性及び安定性の確保との両立が達成される」ことを配慮したためである。そして,甲第1号証の図11に従来技術として示されたように,「中央部分の左右の端部と、左右の作業機部分の内端部とを、回転可能」にすることは,本件特許の出願前周知の技術事項であるといえる。 してみると,甲1発明において,上記周知の技術事項を適用して,相違点1における本件発明1の構成とすることは,当業者ならば適宜選択し得る設計的事項にすぎないといえる。 つぎに,相違点2を検討すると, 本件発明1と同一技術分野に属する,甲3発明は,前述したように,「主フレーム4に対して左右の副フレーム6,6を延出した状態で,回転軸線bより前下方(副フレーム6,6が折りたたまれる側の反対側)であって,該回転軸線bと交点を結ばない斜状となり,圧縮に対して反発する伸方向に助成作用するダンパー9が圧縮された状態で一端を上記中央部分側に他端側を上記作業機部分側に接続して配設される折り畳み操作力軽減装置を設けたカルチベーターにおけるフレームの折りたたみ装置」であり,甲1発明は自動で折り畳むのに対し,甲3発明は手動で折り畳む点で相違する。 しかし,両発明が折り畳みの助成手段を有することでは共通するといえ,手動で折り畳むものにおいて折り畳みの助成手段を設けることも,本件特許の出願前周知の事項である(例えば,特開平7-303403号公報参照)以上,折り畳みの助成手段として,甲1発明の「油圧シリンダ30,31」と「支軸ピン19」との配置関係に代え,甲3発明の「ダンパー9」と「回転軸線b」との配置関係を採用することは,阻害する要因もなく,当業者ならば容易に想到できる程度のものであるといえる。そして,スプリングを効率的に作用させるために「回転支点と直交」させるようにすることも,種々の技術分野にて本件特許の出願前慣用の技術に過ぎない。(必要ならば,特公昭61-34777号公報記載の「枢着点2」と「一対のガススプリング6」との位置関係を参照されたし。) してみると,甲1発明において甲3発明を採用し,相違点2における本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるといわざるを得ない。 そして,本件特許明細書に記載された本件発明1が奏する効果も,甲1,3発明から当業者ならば予測し得る程度のものであって,格別のものとはいえない。 したがって,本件発明1は,甲1,3発明および上記周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。 2 本件発明2について 本件発明2と,甲1発明とを対比すると,上記「1 本件発明1について」において記載した一致点及び相違点の他に,次の相違点を有する。 (相違点3) 本件発明2が「スプリングを、高圧ガスを封入したガススプリングとした」のに対し,甲1発明が油圧シリンダである点。 相違点3を検討すると,そもそも,「ダンパーとしてガススプリングを使用する」ことは,甲第2号証にも記載されているように,本件特許の出願前において慣用の技術であるといえる。また,「ガススプリングに高圧ガスを封入する」ことも,本件特許の出願前において慣用の技術である。(必要ならば,前掲の特公昭61-34777号公報記載の「窒素ガス等の高圧ガスが詰められたシリンダ6a」を参照されたし。) してみると,甲1発明において,甲3発明を採用するに際し,上記慣用の技術を適用し,相違点3における本件発明2のように構成することは,当業者ならば適宜選択し得る設計的事項に過ぎないといわざるを得ない。 したがって,本件発明2は,甲1,3発明および上記周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。 3 本件発明3について 本件発明3と,甲1発明とを対比すると,上記「1 本件発明1について」および「2 本件発明2について」において記載した一致点及び相違点の他に,次の相違点を有する。 (相違点4) 本件発明3が「スプリングを、回転支点の両側に配設した」のに対し,甲1発明が「油圧シリンダを回転支点の一側に配した」点。 相違点4を検討すると, 本件発明3と同一技術分野に属する甲3発明は,スプリングを2本設けたものであり,スプリングを2本設ければ,スプリングを1本設けたものよりも,作用を安定させ,軽い動作力で容易に切り換えることができることは明らかである。その際に,より安定にするため,回転支点の一側に設けることに代え,回転支点の両側に設けることは,本件特許の出願前において慣用の技術である。(必要ならば,前掲の特公昭61-34777号公報にも「左右に対をなして設けられているガススプリング6」を参照されたし。) してみると,甲1発明において,甲3発明を採用するに際し,上記慣用の技術を適用し,相違点4における本件発明3のように構成することは,当業者ならば適宜選択し得る設計的事項に過ぎないといわざるを得ない。 したがって,本件発明3は,甲1,3発明および上記周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり,本件発明1?3は,甲第1,3号証に記載された発明および周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-01-22 |
結審通知日 | 2008-01-30 |
審決日 | 2008-02-14 |
出願番号 | 特願平11-82206 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Z
(A01B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 郡山 順 |
特許庁審判長 |
岡田 孝博 |
特許庁審判官 |
石井 哲 家田 政明 |
登録日 | 2006-10-06 |
登録番号 | 特許第3862887号(P3862887) |
発明の名称 | 折り畳み作業機 |
代理人 | 山田 哲也 |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 特許業務法人エビス国際特許事務所 |
代理人 | 樺澤 襄 |