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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01T
管理番号 1175469
審判番号 不服2004-21256  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-14 
確定日 2008-04-15 
事件の表示 特願2000- 5818「ポジトロンCT装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月19日出願公開、特開2001-194459〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年1月6日の出願であって、平成16年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成16年10月14日に審判請求がなされ、その後、当審から平成18年3月9日付けで拒絶理由が通知され、平成18年4月28日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成18年4月28日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「リング型検出器を軸方向に多層に重ねた、被検体についてのエミッションデータ収集用の第1のマルチリング型検出器と、被検体についてのトランスミッションデータ収集用の第2の検出器と、第2の検出器と同一平面にのみ配置される外部線源と、該外部線源を挟むように配置されたスライスセプタと、被検体を該第1、第2の検出器に対して、第2の検出器側から第1の検出器側へと各リングの間隔ずつ相対的に移動させる移動装置と、被検体のトランスミッションデータ収集の終ったボリュームが各リングの間隔ずつ移動し、各移動位置のボリュームについてのエミッションデータ収集が行われている間に、該トランスミッションデータを処理して同時計数線での吸収補正データを求め、該ボリュームについてのエミッションデータの収集終了後ただちに吸収補正を行うデータ処理装置とを備えることを特徴とするポジトロンCT装置。」

3.引用刊行物に記載された発明
本願出願前に頒布され、当審での拒絶の理由に引用された特開平5-240958号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「ポジトロンCT装置」の発明に関して、以下の事項が記載されている。
<記載事項1>
「【0002】
【従来の技術】ポジトロンCT装置は、電子計算機を用いてデータ処理を行なうことによりポジトロン放出性核種(ラジオアイソトープ、RIともいう)の濃度分布像を再構成するものである。ポジトロン放出性核種で標識された薬剤を被検者に投与し、体内のポジトロン放出性核種から放出されるポジトロンが消滅するときに発生するガンマ線を体外で検出する。このガンマ線は2つが180°方向に同時に生じる。そこで、被検者を囲むように円環状に配列された多数の放射線検出用検出器を用いる。これら検出器の2つに2つのガンマ線が同時に入射したことを検出して、その入射した検出器の組み合わせごとに計数を行なう。こうして収集されたデータ(エミッションデータ)は各方向の投影データとみなせるので、これを逆投影処理することによりポジトロン放出性核種の濃度分布像を再現できる。」
<記載事項2>
「【0009】この発明は、上記に鑑み、とくに被検者を移動させなければならないような広範囲の撮像を行なう場合のエミッションデータと吸収補正用のトランスミッションデータとを収集する際の被検者の負担を軽減でき、しかも被検者の動きによる問題も生じないように改善した、ポジトロンCT装置を提供することを目的とする。」
<記載事項3>
「【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、この発明によるポジトロンCT装置においては、多層円環状検出器配列の層方向長さの一部を占めるに過ぎない長さとなっている吸収補正用線源を用い、これを多層円環状検出器配列の内部空間中に着脱自在に取り付けることが特徴となっており、これを取り付けた状態では一部の層でトランスミッションデータを、残りの層ではエミッションデータをそれぞれ同時に収集することができ、そのため、被検者を移動させなければならないような広範囲の撮像を行なう場合に、1度の移動でエミッションデータと吸収補正用のトランスミッションデータとを収集することができて、被検者の負担を軽減できる。また、エミッションデータとトランスミッションデータとを同時に収集できるため、被検者の動きの問題も回避できる。」
<記載事項4>
「【0011】
【実施例】以下、この発明の一実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。図1において、ガントリ1はその中央部にトンネル部3を有しており、このトンネル部3の周囲を囲むように多数の放射線検出用の検出器2が円環状に配列されている。この検出器2の円環状配列はその円環の軸方向(層方向、図では左右方向)にも多層に配列されている。これら多数の検出器2は同時計数回路に接続されており、同時計数回路からのデータは画像再構成装置で処理され、再構成された画像が画像表示装置によって表示されるが、これらの構成は公知の通常のポジトロンCT装置に備えられているものでよく、この発明のポイントには無関係であるため、図示を省略するとともに説明も省略する。
【0012】被検者4はベッド装置6のテーブル7上に横たえられた状態で、上記のガントリ1のトンネル部3に挿入される。ベッド装置6はテーブル7をたとえば矢印で示すような方向に移動させる機構を備えており、これによって被検者4をガントリ1に対して移動させる。被検者4にはポジトロン放出性核種(たとえばO-15)が投与されており、この核種(RI)5が被検者4の特定の臓器に集積している。
【0013】吸収補正用棒状線源8は、たとえばGe-68などからなり、回転駆動装置9に着脱自在に取り付けられる。この棒状線源8は、その長さが検出器2の多層円環状配列の層方向長さの約半分の長さとなっており、回転駆動装置9に取り付けられることにより、トンネル部3内で被検者4の近傍に位置することになる。」
<記載事項5>
「【0015】ここでは、被検者4の広い範囲、検出器2の多層円環状配列の層方向厚さ(図の左右方向の幅)よりも広い範囲において被検者4の撮像を行なうものとする。たとえば被検者4の全身の撮像を行なう。このとき、ここでは、ベッド装置6によりテーブル7を右方向に移動させて、被検者4が体軸に沿って頭部から脚部へとトンネル部3に順次挿入するようにする。」
<記載事項6>
「【0016】被検者4に上記のようにRI5が投与されていてそれが特定の臓器に集積している状態で、このような移動が行なわれながら、検出器2の多層円環状配列によりガンマ線の検出が行なわれて同時計数データが収集される。すると、このときも回転している棒状線源8がカバーしている層の検出器2の円環状配列では棒状線源8からのガンマ線によるトランスミッションデータが収集され、棒状線源8がカバーしていない層では被検者4内のRI5からのガンマ線によるエミッションデータが収集される。
【0017】なお、棒状線源8が存在する左半分の層では棒状線源8からのガンマ線に加えて被検者4内にRI5からのガンマ線が入射するため、トランスミッションデータにはエミッションデータも含まれることになるが、通常、被検者4中のRI5の放射能は吸収補正用棒状線源8の放射能に比較して小さいので無視できる場合が多い。無視できない場合には、右半分の層で得られたエミッションデータと、左半分の層で得られたトランスミッションデータとを演算することによりエミッションデータの影響を除去したトランスミッションデータを作成することも可能である。」
<記載事項7>
「【0018】このように検出器2の多層円環状配列を層方向に分割してその左半分の層は吸収補正用のトランスミッションデータ収集にあて、右半分の層はエミッションデータの収集にあてることができるため、被検者4を1度だけ左から右へと移動させるだけで、被検者4の全身についてのエミッションデータとトランスミッションデータとを同時に収集できることになる。その結果、時間もかからず、被検者4の負担を小さくすることが可能となる。また、エミッションデータとトランスミッションデータとを同時に収集できるため、被検者の動きの問題も回避して正確な吸収補正を行なうことができる。
【0019】図2は他の実施例を示すものである。この実施例では吸収補正用の線源として円筒型線源11を使用している。(略)」

(1)図1によれば、被検者4の移動方向は、検出器2の左半分で吸収補正用のトランスミッションデータの収集にあてる検出器側から、検出器2の右半分の層でエミッションデータの収集にあてる検出器側であることが、読み取れる。
(2)引用刊行物1に記載されたポジトロンCTは、エミッションデータの収集にあてる検出器で得られたエミッションデータと、トランスミッションデータの収集にあてる検出器で得られたトランスミッションデータとを演算することによりエミッションデータの影響を除去したトランスミッションデータを作成するから、それらのデータを演算をするデータ処理装置を備えていることは自明である。

したがって、上記記載事項1?7及び第1、2図に基づけば、引用刊行物1には
「放射線検出用の検出器2の円環状配列の多層配列の右半分の層で、被検者4の全身についてのエミッションデータの収集にあてる検出器と、放射線検出用の検出器2の円環状配列の多層配列の左半分の層で吸収補正用のトランスミッションデータの収集にあてる検出器と、トランスミッションデータの収集にあてる検出器がカバーされる棒状又は円筒状の吸収補正用線源8、11と被検者4をトランスミッションデータの収集にあてる検出器側からエミッションデータの収集にあてる検出器側へと移動させる機構と、エミッションデータの収集にあてる検出器で得られた被検者4のエミッションデータと、トランスミッションデータの収集にあてる検出器で得られたトランスミッションデータとを演算することによりエミッションデータの影響を除去したトランスミッションデータを作成するデータ処理装置とを備えるポジトロンCT装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

また、同じく本願出願前に頒布され、当審での拒絶の理由に引用された特開平9-318751号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、「核医学診断装置」の発明に関して、以下の事項が記載されている。
<記載事項8>
「【請求項1】 被検体に投与された放射性同位元素から放射されるガンマ線をメイン検出器で検出し、前記メイン検出器の出力に基づいて前記放射性同位元素の体内分布を画像化する核医学診断装置において、ガンマ線を放出する線源と、前記線源から放出され、前記被検体を透過したガンマ線を検出する半導体検出器とを具備したことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】 前記半導体検出器の出力に基づいて、前記メイン検出器の出力を吸収補正する手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の核医学診断装置。」
<記載事項9>
「【請求項20】 前記半導体検出器の出力に基づいてガンマ線の吸収率を反映した画像を生成する手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の核医学診断装置。」
<記載事項10>
「【0003】また、近年、複数の角度でガンマ線を検出し、それに基づいて断層像を再構成する断層イメージングの技術(ECT(emission computed tomography))が実用化されている。このECTは、シングルフォトンECT(SPECT)と、ポジトロンECT(PET)とに大別される。いずれのECTでも、検出器が被検体の周囲を回転する回転型のものが主流を占めている。このようなECTでは、分布画像の画素毎のカウントの定量性を確保するために、散乱線補正や吸収補正が不可欠とされる。」
<記載事項11>
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、吸収補正の精度を向上すること、画像化のためのガンマ線の収集動作と並行して吸収補正のためのデータ収集動作を行うことを可能にする核医学診断装置を提供することである。」
<記載事項12>
「【0019】また、半導体検出器はシンチレータと光電子増倍管とを組み合わせた方式のそれより小型化を実現しており、したがってメイン検出器とは別体で吸収補正のための半導体検出器を設けることが可能である。メイン検出器とは別体で吸収補正のための半導体検出器を設けているので、画像化のためのガンマ線の収集動作と並行して吸収補正のためのデータ収集動作を行うことが可能となり得る。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明による核医学診断装置の一実施形態を図面を参照して説明する。なお、核医学診断装置には、シングルフォトンカメラ、ポジトロンカメラ、SPECT、PET等が含まれる。ここでは、これらを兼用できる回転型2検出器タイプを一例として説明するが、他のタイプの採用を否定するものではない。
<記載事項13>
「【0021】図1に本実施形態による核医学診断装置の架台部の斜視図を示し、図2に図1の側面図を示す。図3(a)に図1のメイン検出器の検出面の法線上から見た図を示し、図3(b)に図1のメイン検出器の側面図を示す。
【0022】架台11の回転板13には、アーム19,21を介して2つのメイン検出器15,17が、被検体Pを挟んで互いに検出面が対向した状態で支持されており、回転板13の回転によりメイン検出器15,17は被検体Pの周囲を回転できるようになっている。2つのメイン検出器15,17のガンマ線入射側には、ガンマ線入射方向を検出面に略垂直な方向だけに制限するコリメータが設けられている。架台11は被検体Pの体軸に沿って設けられたレール上を移動することにより、被検体Pに体軸に対して平行に移動できる。」
<記載事項14>
「【0025】実際に被検体Pを透過したガンマ線を検出して、吸収補正のためのデータ(吸収補正データ)を収集するために、架台11の回転板13には、スライドアーム27,29を介して、ガンマ線を放射するための面線源23と、面線源23から放射され、被検体Pを透過したガンマ線を検出するための半導体検出器25とが、それぞれの放射面と検出面とがメイン検出器15,17の検出面と垂直なY-Z面と平行になり、そして放射面と検出面とが被検体Pを挟んで対向した状態を維持したままでY軸と平行に移動可能に支持される。つまり、面線源23からのガンマ線の放射方向が、コリメータを通過してメイン検出器15,17で検出されるガンマ線の入射方向に対して、交差する、好ましくは直交するように、面線源23が設けられ、またこの面線源23に対峙する向きに半導体検出器25が設けられる。」
<記載事項15>
「【0029】図5にX-Z断面を示すように、ガンマ線の放射方向を放射面に略垂直な方向だけに制限し、面線源23から放射されたガンマ線が斜め方向からメイン検出器15,17に入射することを防止し、且つ被検体Pの被爆量を極力抑えるために、鉛等の平行スリット41、または/及び図6に示すように鉛等の方形筒状の遮蔽ウインドウ43が面線源23の放射面に設けられる。また、面線源23からのガンマ線の漏洩を防止するために、面線源23は、鉛等の遮蔽ケース55に収容される。」

4.対比
本願発明と引用発明とを比較すると、
(1)
引用発明の「放射線検出用の検出器2の円環状配列」は本願発明の「リング型検出器」に相当し、以下同様に、「多層配列の」は「多層に重ねた」に、「被検者4」は「被検体」に、「エミッションデータの収集にあてる」は「エミッションデータ収集用の」に、「吸収補正用のトランスミッションデータの収集にあてる検出器」は「トランスミッションデータ収集用の第2の検出器」又は「第2の検出器」に、それぞれ相当する。
(2)
引用発明の「エミッションデータの収集にあてる検出器」は、放射線検出用の検出器2の円環状配列の多層配列を有するので、本願発明の「第1のマルチリング型検出器」に相当する。
(3)
ア.引用発明の「棒状又は円筒状の吸収補正用線源8、11」は、本願発明の「外部線源」に相当する。
イ.引用発明の「検出器がカバーされる」と本願発明の「検出器と同一平面にのみ配置される」とは、検出器に対して特定な配置関係で配置されるという点で共通する。
ウ.したがって、引用発明の「トランスミッションデータの収集にあてる検出器がカバーされる棒状又は円筒状の吸収補正用線源8、11」と本願発明の「第2の検出器と同一平面にのみ配置される外部線源」とは、第2の検出器に対して特定な配置関係で配置される外部線源という点で共通する。
(4)
引用発明の「トランスミッションデータの収集にあてる検出器側」、「エミッションデータの収集にあてる検出器側」、「移動させる機構」は、本願発明の「第2の検出器側」、「第1の検出器側」、「相対的に移動させる移動装置」に相当するので、引用発明の「被検者4をトランスミッションデータの収集にあてる検出器側からエミッションデータの収集にあてる検出器側へと移動させる機構」と本願発明の「被検体を該第1、第2の検出器に対して、第2の検出器側から第1の検出器側へと各リングの間隔ずつ相対的に移動させる移動装置」とは、被検体を該第1、第2の検出器に対して、第2の検出器側から第1の検出器側へと相対的に移動させる移動装置の点で一致する。
(5)引用発明の「エミッションデータの収集にあてる検出器で得られた被検者4のエミッションデータと、トランスミッションデータの収集にあてる検出器で得られたトランスミッションデータとを演算することによりエミッションデータの影響を除去したトランスミッションデータを作成するデータ処理装置」と本願発明の「被検体のトランスミッションデータ収集の終ったボリュームが各リングの間隔ずつ移動し、各移動位置のボリュームについてのエミッションデータ収集が行われている間に、該トランスミッションデータを処理して同時計数線での吸収補正データを求め、該ボリュームについてのエミッションデータの収集終了後ただちに吸収補正を行うデータ処理装置」とは、被検体のトランスミッションデータを処理して吸収補正データを求め、エミッションデータの吸収補正を行うデータ処理装置の点で共通する。

したがって、両者は、
「リング型検出器を軸方向に多層に重ねた、被検体についてのエミッションデータ収集用の第1のマルチリング型検出器と、被検体についてのトランスミッションデータ収集用の第2の検出器と、第2の検出器に対して特定な配置関係で配置される外部線源と、被検体を該第1、第2の検出器に対して、第2の検出器側から第1の検出器側へと相対的に移動させる移動装置と、被検体のトランスミッションデータを処理して吸収補正データを求め、エミッションデータの吸収補正を行うデータ処理装置とを備えることを特徴とするポジトロンCT装置。」の点で一致するが、以下の点で相違する。
[相違点1]
第2の検出器に対して特定な配置関係で配置される外部線源について、本願発明は、第2の検出器と同一平面にのみ配置されるのに対して、引用発明は、第2の検出器がカバーされると規定される点。
[相違点2]
本願発明は、外部線源を挟むように配置されたスライスセプタを備えているのに対して、引用発明は、外部線源がスライスセプタを備えているとは規定されていない点。
[相違点3]
被検体を該第1、第2の検出器に対して、第2の検出器側から第1の検出器側へと相対的に移動させる移動装置の移動の形態について、本願発明は、各リングの間隔ずつ移動させるのに対して、引用発明は、そのように規定されていない点。
[相違点4]
被検体のトランスミッションデータを処理して吸収補正データを求め、エミッションデータの吸収補正を行うデータ処理装置が、本願発明は、被検体のトランスミッションデータ収集の終ったボリュームが各リングの間隔ずつ移動し、各移動位置のボリュームについてのエミッションデータ収集が行われている間に、該トランスミッションデータを処理して同時計数線での吸収補正データを求め、該ボリュームについてのエミッションデータの収集終了後ただちに吸収補正を行うのに対して、引用発明は、そのように規定されていない点。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1
ア.
相違点1に係る本願発明の「第2の検出器と同一平面にのみ配置される外部線源」(下線は当審で付与した。)の意味が必ずしも明確とはいえない。すなわち、本願発明の「第2の検出器」の形状が、被検体の体軸方向に厚みが無視できるほど薄い等、第2の検出器が厚みの薄い形状を有するとも、また、外部線源も厚みの薄い形状を有するとも規定されておらず、さらに、第2の検出器と同一の平面とはいかなる平面をいうのか、明確ではない。
したがって、相違点1に係る本願発明の「第2の検出器と同一平面にのみ配置される外部線源」は、外部線源の配置について、第2の検出器との関係で同一平面にのみと単に限定したものと解することができる。
イ.
本件の図1に示されたリング型外部線源14(外部線源)と第1,2の検出器との配置関係と、引用刊行物1の図1,2に記載された、棒状又は円筒状線源8、11とエミッションデータ収集にあてる検出器と、吸収補正用のトランスミッションデータの収集にあてる検出器との配置関係とは、線源がエミッションデータ収集用の第1の検出器側には配置されず、第2の検出器における(ガンマ線入射)窓に対向する位置に、線源が配置しているという点においては異ならない。
ウ.
本願発明の外部線源は、引用発明と同様に、被検体における吸収補正データを求めるために、検出器に対して特定な配置関係で配置されるので、その配置として、引用発明のトランスミッションデータの収集にあてる検出器(第2の検出器)がカバーされる配置に代えて、第2の検出器における(ガンマ線入射)窓に対向する位置のみに外部線源を配置することは、設計事項である。
エ.
以上のア.?ウ.の点を総合すると、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、当業者が、引用刊行物1に記載された発明に基づいて容易に想到し得る事項である。

(2)相違点2
ア.引用刊行物1には、「回転している棒状線源8がカバーしている層の検出器2の円環状配列では棒状線源8からのガンマ線によるトランスミッションデータが収集され、棒状線源8がカバーしていない層では被検者4内のRI5からのガンマ線によるエミッションデータが収集される。」との記載に続けて、「【0017】なお、棒状線源8が存在する左半分の層では棒状線源8からのガンマ線に加えて被検者4内にRI5からのガンマ線が入射するため、トランスミッションデータにはエミッションデータも含まれることになるが、通常、被検者4中のRI5の放射能は吸収補正用棒状線源8の放射能に比較して小さいので無視できる場合が多い。無視できない場合には、右半分の層で得られたエミッションデータと、左半分の層で得られたトランスミッションデータとを演算することによりエミッションデータの影響を除去したトランスミッションデータを作成することも可能である。」(記載事項6)と記載されている。
してみると、引用刊行物1の記載によれば、検出器2について、棒状線源8が存在する左半分の層には、棒状線源8からのガンマ線及び被検者4内のRI5からのガンマ線が入射し、一方、棒状線源8がカバーしていない層、即ち、棒状線源8が存在しない右半分の層には、被検者4内のRI5からのガンマ線が入射するが、棒状線源8からのガンマ線は、入射しないことが示唆されているといえる。

イ.そして、棒状線源8がカバーしていない検出器2の右側の層におけるエミッションデータを同時計数処理し、画像再構成装置で処理する際に、棒状線源8からのガンマ線が、上記検出器2の右側の層に入射してしまうと、該ガンマ線によるデータが「ノイズ」となることは明らかである。

ウ.引用刊行物1に記載された棒状線源8は、例えばGe-68(記載事項3)のような放射性物質から構成されるので、棒状線源8から四方八方に放射線が放射されることは明らかであるので、棒状線源8と検出器2との間に、棒状線源8からのガンマ線を照射方向を規制するコリメータ等を配置しない場合、棒状線源8からのガンマ線が、入射して欲しい検出器2の左半分の層のみならず、入射して欲しくない検出器2の右半分の層にも入射してしまうことになる。

エ.してみると、引用刊行物1に記載されたものにおいて、棒状線源8からのガンマ線が、検出器2の左半分の層に入射することを可能とし、かつ、検出器2の右半分の層に、入射するのを阻止するために、棒状線源8と検出器2との間に、ガンマ線の照射方向を規制するコリメータ等の遮蔽部材を設けなければいけないことは、当業者ならば引用刊行物1の記載から自明なことである。

オ.一方、引用刊行物2には、被検体における吸収を補正する機能を備えたポジトロンCTにおいて、外部線源を挟むように配置された鉛製ウインドあるいはコリメータを設ける旨が記載されている(記載事項8乃至15,図6)。そして、上記鉛製ウインドあるいはコリメータは、引用刊行物1において、棒状線源8からのガンマ線の照射方向を規制する手段の一実施例であることは明らかである。

カ.本願発明において、外部線源を挟むように配置された部材を「スライスセプタ」と規定している。
この「スライス」とは、図1からみて、被検体を体軸方向に仮想的に輪切したボリュームの一部分ということができる。
また、本願明細書の段落【0014】において、「鉛シールドによって構成されたスライスセプタ」と記載されている。
そして、引用刊行物2に記載の鉛製ウインドあるいはコリメータは、記載事項13,14及び図2の記載からみて、被検体を体軸方向に仮想的に輪切したボリュームの一部分に対して設けられたものといえる。
したがって、引用刊行物2に記載の鉛製ウインドあるいはコリメータは
、本願発明の「スライスセプタ」に相当するといえる。

キ.以上ア.?カ.の点を総合してみると、引用刊行物1に記載された外部線源に対して、外部線源を挟むように配置されたスライスセプタを備えることは、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

したがって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

(3)相違点3
ポジトロンCTにおいて、被検体をリング型検出器を軸方向に多層に重ねた検出器に対して、各リングの間隔ずつ移動させることは、周知技術に過ぎなく(例えば、特開平8-313636号の段落【0005】)、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物1記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

(4)相違点4
ア.引用刊行物1の「すると、このときも回転している棒状線源8がカバーしている層の検出器2の円環状配列では棒状線源8からのガンマ線によるトランスミッションデータが収集され、棒状線源8がカバーしていない層では被検者4内のRI5からのガンマ線によるエミッションデータが収集される。」(記載事項6)との記載、及び引用刊行物1の図1、2に記載された検出器2に対する被検者4の移動方向を参酌すると、引用刊行物1に記載されたものにおいて、検出器2の左側で、トランスミッションデータを収集した後、検出器2の右側で、被検者4の特定の臓器に集積したポジトロン放出核種である(RI)5からのガンマ線によるエミッションデータが収集されることは明らかである。

イ.「5.(3)」の項で述べたように、ポジトロンCTにおいて、被検体をリング型検出器を軸方向に多層に重ねた検出器に対して、各リングの間隔ずつ移動させることは、周知技術である。

ウ.本願発明の「ボリューム」の意味が明確とはいえないが、被検者内のポジトロン放出RIが分布する臓器等の内部組織(本願明細書の段落【0001】、【0014】図1)と思われる。

エ.引用刊行物1には、「ガンマ線は2つが180°方向に同時に生じる。そこで、被検者を囲むように円環状に配列された多数の放射線検出用検出器を用いる。これら検出器の2つに2つのガンマ線が同時に入射したことを検出して、その入射した検出器の組み合わせごとに計数を行なう。こうして収集されたデータ(エミッションデータ)は各方向の投影データとみなせるので、これを逆投影処理することによりポジトロン放出性核種の濃度分布像を再現できる。」(記載事項1)との記載があり、また、引用発明の「吸収補正」により、エミッションデータ、即ち180°方向に同時に生じる2つのガンマ線に対するデータの吸収補正をするのであるから、引用発明の「吸収補正」が、同時計数線における吸収補正であることは当然のことである

オ.引用発明においても、トランスミッションデータを収集後、エミッションデータを収集し、トランスミッションデータを用いてエミッションデータの吸収補正をしているので、各移動位置のボリュームについてのエミッションデータ収集が行われている間に、該トランスミッションデータを処理して同時計数線での吸収補正データを求めることは可能である。

カ.データ処理するタイミングをどのようにするかは設計事項であり、本願発明において、ボリュームについてのエミッションデータの収集終了後ただちに吸収補正を行うことは格別なものとはいえない。

したがって、相違点4に係る本願発明の発明特定事項は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の効果は、引用刊行物1及び2の記載、並びに周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

6.請求人の主張についての検討
請求人は、平成18年4月28日付け意見書において、以下のように主張している。
「そこで、引用例1のポジトロンCT装置と本願発明を対比しますと、引用例1では、同第3頁段落0016?段落0019や図1や図2に示されるように、棒状線源8が検出器2の左半分の長さを占め、多層円環状配列により形成される検出器2の半分をトランスミッション用のデータ収集用とし、残りの半分をエミッションデータ収集用としていますので、本願発明とは、エミッションデータ収集用の第1の検出器よりも体軸方向に短い第2の検出器によってトランスミッションデータの収集を行っている点で引用例1の発明とは異なります。本願発明と引用例1のポジトロンCT装置におけるかかる相違は、引用例1のものが被検体からトランスミッションデータとエミッションデータを一度に取得する範囲が同一の幅であるという従来からの構成を採用しているのに対して、本願発明が、一度にエミッションデータを取得する被検体の幅をトランスミッションを取得する場合に比べてより広くするという新たな発想に基づくことから生じるものです。」

そこで、上記主張について検討する。
(1)本願発明において、エミッションデータを取得する被検体の幅をトランスミッションを取得する場合に比べてより広くするための、第2の検出器の構成が請求項1に記載されていないので、請求人の主張は、請求項1の記載に基づく主張とはいえず、採用することができない。

(2)また、仮に、請求人が主張する目的を達成する構成、例えば、本願明細書の段落【0014】の「このリング型検出器11のうちで、被検者50が挿入される側の入口に最も近い1層分(図では右端)を除いた多層のリング型検出器11は、マルチリング型検出器12(図3を参照)を構成し、エミッションデータ収集のために用いられる。図の右端のリング型検出器13は、トランスミッションデータを収集するためのものとなっている。」等の構成を限定したとして検討する。
引用刊行物1には、「この発明によるポジトロンCT装置においては、多層円環状検出器配列の層方向長さの一部を占めるに過ぎない長さとなっている吸収補正用線源を用い、これを多層円環状検出器配列の内部空間中に着脱自在に取り付けることが特徴となっており、これを取り付けた状態では一部の層でトランスミッションデータを、残りの層ではエミッションデータをそれぞれ同時に収集することができ」(記載事項3)との記載がなされており、引用刊行物1に記載された実施例のように、マルチリング型検出器の左右の長さを同じにする必然性はないというべきであり、請求人が主張する、第2の検出器の層をマルチリング型検出器の1層分とすることは、適宜になし得ることである。

(3)以上のことから、請求人の主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明並びに基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-12 
結審通知日 2006-10-17 
審決日 2006-10-31 
出願番号 特願2000-5818(P2000-5818)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 井口 猶二
辻 徹二
発明の名称 ポジトロンCT装置  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  

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