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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1175486
審判番号 不服2005-25015  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-26 
確定日 2008-03-31 
事件の表示 平成 9年特許願第175543号「多周波共用ダイポールアンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月29日出願公開、特開平11- 27042〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年7月1日の出願であって、平成17年11月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年12月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成18年1月24日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年1月24日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成18年1月24日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、
「複数n(nは、2より大きい正の整数)の周波数帯を共用するため、第1の周波数f1に共振し、任意の幅を有する金属平板からなる第1のダイポール素子を同一平面内に配設し、該第1のダイポール素子内に、該素子に「コ」字状に設けられた切り込みにより、該第1のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第2の周波数f2 (f2>f1 )に共振する第2のダイポール素子を形成し、該第2のダイポール素子内に、該素子に「コ」字状に設けられた切り込みにより、該第2のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第3の周波数f3 (f3>f2 )に共振する第3のダイポール素子を形成し、以下同様に、第n-1のダイポール素子内に、該素子に「コ」字状に設けられた切り込みにより、該第n-1のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第nの周波数fn (fn>fn-1 )に共振する第nのダイポール素子を形成するとともに、
前記第1、第2、第3、‥‥、第nのダイポール素子は、それぞれ同一平面内に配設されるとともに、それぞれの共通の中央給電点を介して、給電線路の一方および他方に接続されることを特徴とする多周波共用ダイポールアンテナ装置。」
(以下、「補正発明」という。)に補正された。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから、特許法第17条の2第3項の規定に適合している。
また、上記補正は、補正前の請求項2における「第1のダイポール素子」及び「第2のダイポール素子」に設けられる「切り込み」の形状について、それぞれ「「コ」字状」である点で限定し、同様に、「第n-1のダイポール素子」に設けられる「切り込み」についても「コ」字状である点で限定するものである。
補正前の請求項2の「第1のダイポール素子」についての「ほぼ同一平面内」との記載を「同一平面内」に変更した点は、その「配設」の状態を限定するものである。
補正前の請求項2の「共通の給電線路に接続される」との記載を「給電線路の一方及び他方に接続される」に変更した点は、「前記第1、第2、第3、‥‥、第nのダイポール素子」の「給電線路」への接続状態を限定するものである。
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3.1 補正発明
上記「1.補正後の本願発明」の項で認定したとおりである。

3.2 引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された実公昭36-12823号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

「広帯域アンテナとしてフアンダイポールがよく使用されているが、本案はこのフアンダイポールの改良型に関するものである。
図面において、フアンダイポールの主素子1,1に舌片2,2・・・を切起してなるものである。図中3はフイーダーである。
このようにすると長さの異なるダイポールを組合せたことになるから、帯域を広くする効果があり極めて実用的なものである。」(第1頁「実用新案の説明」)

ここで、長さの異なるダイポールアンテナは共振周波数が異なること、ダイポールアンテナの長さが長いほど共振周波数が低くなることは技術常識であるから、上記摘記事項中の「長さの異なるダイポールを組合せた」とは、複数の周波数帯を利用するためであることが明らかであり、第1図及び第2図のものは、例として「主素子1,1」に「2,2」及び「2’,2’」の2つの「舌片」を切起することにより、「主素子1,1」、「舌片2,2」、「舌片2’,2’」が、それぞれ第1、第2、第3のダイポール素子を構成するものであるということができ、それらの共振周波数をそれぞれf1、f2、f3とおくと、f3>f2>f1が成立することが明らかである。
また、「フアンダイポールの主素子1,1」が任意の幅を有していることは自明である。
第1図及び第2図から、「主素子1,1」の形状は平板状であり、それら1対に限っては、同一平面内に配設されていることが読み取れる。また、切起しによって「舌片2,2」、「舌片2’,2’」がそれぞれ「主素子1,1」、「舌片2,2」の内側に、より狭い幅で形成されていること、各切起しは、上底のない台形状に設けられた切り込みによるものであること、1対の「フイーダー」が用いられ、第1、第2、第3のダイポール素子がその一方及び他方に接続されていること、その給電点は、第1、第2、第3のダイポール素子に共通であり、それらの長手方向のほぼ中央に位置されていることも読み取れる。

したがって、上記引用例の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例には、
「第1の周波数f1に共振し、平板からなる第1のダイポール素子を同一平面内に配設し、該第1のダイポール素子内に、該素子に上底のない台形状に設けられた切り込みにより、該第1のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第2の周波数f2 (f2>f1 )に共振する第2のダイポール素子を形成し、該第2のダイポール素子内に、該素子に上底のない台形状に設けられた切り込みにより、該第2のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第3の周波数f3 (f3>f2 )に共振する第3のダイポール素子を形成するとともに、
前記第1、第2、第3のダイポール素子は、それぞれの共通の中央給電点を介して、フイーダーの一方および他方に接続される、広帯域ダイポールアンテナ。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.3 対比・判断
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「フイーダー」は「給電線路」であり、「ダイポールアンテナ」は、それ自体として装置であるから「ダイポールアンテナ装置」ということもできる。
補正発明において、nは3を含むものである。

したがって、両者は、
「第1の周波数f1に共振し、平板からなる第1のダイポール素子を同一平面内に配設し、該第1のダイポール素子内に、該素子に設けられた切り込みにより、該第1のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第2の周波数f2 (f2>f1 )に共振する第2のダイポール素子を形成し、該第2のダイポール素子内に、該素子に設けられた切り込みにより、該第2のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第3の周波数f3 (f3>f2 )に共振する第3のダイポール素子を形成し、以下同様に、第n-1のダイポール素子内に、該素子に「コ」字状に設けられた切り込みにより、該第n-1のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第nの周波数fn (fn>fn-1 )に共振する第nのダイポール素子を形成するとともに、
前記第1、第2、第3、‥‥、第nのダイポール素子は、それぞれの共通の中央給電点を介して、給電線路の一方および他方に接続される、ダイポールアンテナ装置。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
「平板からなる第1のダイポール素子」の材質に関し、補正発明は「平板」が「金属」からなるものであるのに対して、引用発明は材質が不明な点。

(相違点2)
「切り込み」の形状が、補正発明は「「コ」字状」であるのに対して、引用発明は「上底のない台形状」である点。

(相違点3)
「第1、第2、第3のダイポール素子」の「配設」の形態が、補正発明は「同一平面内」であるのに対して、引用発明はそのような形態ではない点。

(相違点4)
「ダイポールアンテナ装置」が、補正発明は「複数nの周波数帯を共用するため」のものであって、「多数波共用ダイポールアンテナ装置」であるのに対して、引用発明は複数の周波数帯を共用することが明確でない「広帯域ダイポールアンテナ装置」である点。

そこで、各相違点について以下に検討する。

(相違点1について)
アンテナの放射導体の材質を金属とすることはほとんど自明といえることであるから、引用発明の「平板からなる第1のダイポール素子」の「平板」を「金属平板」とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

(相違点2について)
平板状のダイポールアンテナにおいて、放射導体の周囲形状を長方形として、それを開脚形状とした場合と同様に機能させることは、例えば特開平6-177635号公報(図1、図3)や、特開昭49-46661号公報(第2図、第5図)に開示されているように周知であるから、引用発明の「上底のない台形状」を「「コ」字状」とすることは、長方形としたことから当然導かれる程度の、当業者が適宜なしうる事項である。

(相違点3について)
上記引用例の第2図からは、「主素子1,1」、「舌片2,2」、「舌片2’,2’」が互いに所定の角度をなして配設されていることが読み取れるものの、そのように配設することが必須であることを開示するものではなく、当該角度を小さくして同一平面としても、それぞれの互いの間隔を確保すれば「長さの異なるダイポールを組合せた」ものとして機能しうることは、当業者には明らかであり、実際、多素子アンテナにおいて各素子を同一平面内に近接配置することは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-195611号公報(図6)や、上記特開平6-177635号公報(図1)に開示されているように周知であるから、引用発明の「第1、第2、第3のダイポール素子」の「配設」の形態を「同一平面内」とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

(相違点4について)
上記「3.2 引用発明」の項に記載したとおり、引用発明における「第1のダイポール素子」、「第2のダイポール素子」、‥‥は、それぞれ長さが異なっており、そのため、異なった共振周波数で共振するものであって、引用発明は、このことにより、各共振周波数にまたがって広域な共振周波数を得ようとするものであると認められる。そして、各共振周波数は、本来的に独立したものであることはいうまでもない。
一方、「多数波共用」ということは、共振周波数を複数にするという意味で、一種の広帯域化ということができる。
してみると、引用発明の、異なった共振周波数を有する「第1のダイポール素子」、「第2のダイポール素子」、‥‥において、各ダイポール素子の長さの差を比較的大きくすることで、広帯域アンテナの構成が、多数波共用アンテナに転用できるとの着想を得ることは、当業者が当然になしうる程度の事項にすぎない。
よって、引用発明の「広帯域ダイポールアンテナ装置」を、「複数nの周波数帯を共用するため」の「多数波共用ダイポールアンテナ装置」とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

また、補正発明の作用効果についても、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる程度のものである。

したがって、補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年1月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年10月21日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された以下のとおりのものである。
「複数n(nは、2より大きい正の整数)の周波数帯を共用するため、第1の周波数f1 に共振し、任意の幅を有する金属平板からなる第1のダイポール素子をほぼ同一平面内に配設し、該第1のダイポール素子内に、該素子に設けられた切り込みにより、該第1のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第2の周波数f2(f2>f1)に共振する第2のダイポール素子を形成し、該第2のダイポール素子内に、該素子に設けられた切り込みにより、該第2のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第3の周波数f3 (f3 >f2 )に共振する第3のダイポール素子を形成し、以下同様に、第n-1のダイポール素子内に、該素子に設けられた切り込みにより、該第n-1のダイポール素子の幅より狭い幅を有する第nの周波数fn (fn >fn-1 )に共振する第nのダイポール素子を形成するとともに、
前記第1、第2、第3、‥‥、第nのダイポール素子は、それぞれ同一平面内に配設されるとともに、それぞれの共通の中央給電点を介して、共通の給電線路に接続されることを特徴とする多周波共用ダイポールアンテナ装置。」

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の「3.2 引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2 補正却下の決定」で検討した補正発明に係る限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加又は限定した補正発明が、上記「第2 補正却下の決定」の「3.3 対比・判断」の項に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-01 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-19 
出願番号 特願平9-175543
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01Q)
P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新川 圭二  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 富澤 哲生
萩原 義則
発明の名称 多周波共用ダイポールアンテナ装置  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  

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