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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41B
管理番号 1175497
審判番号 不服2003-19396  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-02 
確定日 2008-04-03 
事件の表示 平成 8年特許願第291140号「印章画像作成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 9日出願公開、特開平 9-234847〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成8年10月14日(優先権主張:平成7年12月28日)の出願であって、当審において、平成19年8月22日付けで拒絶の理由を通知し、これに対して同年10月12日付けで手続補正がなされたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明は、前記平成19年10月12日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 予め寸法および位置が規定された複数のエリアのそれぞれに構成画像を作成することにより、複数の構成画像から成る画像を作成する印章画像作成装置であって、
各エリアに対応させて、キャラクタを入力することにより、当該エリアに入力した前記キャラクタの画像を前記構成画像として作成するものにおいて、
前記複数のエリアから、前記キャラクタが入力されないエリアを検出する検出手段と、
検出手段の検出結果に基づいて、前記キャラクタが入力されていないエリアをそのまま維持すること、
および前記キャラクタが入力されていないエリアを削除すると共に、削除したエリア分だけ他のエリアを拡大するように、各エリアを削除する場合における他のエリアの寸法および位置を予め規定したテーブルにしたがって、他のエリアの寸法および位置を変更すること、のいずれかを選択可能なエリア変更手段と、
前記エリア変更手段により、前記他のエリアの寸法および位置の変更がなされた場合、前記他のエリアに作成される前記構成画像の拡大処理を行う構成画像拡大手段と、
を備え、
前記テーブルは作成される印章の種類毎に異なる、ことを特徴とする印章画像作成装置。」
(下線は、今回の補正された箇所を示すべく付した。)

2.引用例
これに対して、当審における平成19年8月22日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の出願の日前に頒布された各刊行物には、以下に示す如くの記載がある。

2-1 刊行物A:特開平4-314543号公報
段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は、実印,銀行印,認印として使用される印章の印影を、コンピュータを使用することにより作成する方法に関し、特に、円形状となされた彫刻面に彫刻される印影を表示装置の画面上で合成することにより作成する方法に関するものである。」

段落【0002】「【従来の技術】実印や銀行印等の印章は、従来より彫刻士が手作業により印材を彫刻することにより製造されているが、このような手作業による印章の製造は、熟練を要し量産に馴染まないばかりでなく極めて高価なものとなっていることから、最近ではコンピュータと表示装置と自動彫刻機とを使用することにより印章を製造する方法が実施されている。この印章の製造方法は、製造されるべき印章に彫刻される複数の文字を表示装置の画面に表示させ、これを該表示装置の画面上で合成することにより印影を作成し、この方法によって作成された印影を自動彫刻機により印材に彫刻するものである。」

段落【0003】「【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の印章の製造方法における印影の作成方法では、上記表示装置の画面上に表示される個々の文字(単字)は、全て正方形の枠内にバランス良く記載されているものであるために、実印,銀行印又は認印のように、円形状の彫刻面に彫刻される印影を作成する場合においては、これらの単字を表示装置の画面上で合成する前段階又は合成された後の段階において上記円形状の彫刻面内にバランス良く収まるよう修正する必要がある。すなわち、印影を作成するために表示装置の画面上に最初に表示される個々の単字は正方形の枠内にバランス良く収められているので、彫刻面全体の形状が正方形状の印章の印影を作成する場合であれば、何らの修正も行うことなく単に個々の文字を表示装置の画面上で合成するのみで最終的な印影を作成することができるが、これに対して円形状の彫刻面に彫刻される印影を作成しようとする場合、特に印相体と称する印章文字により印影を作成する場合にあっては、個々の単字を上記円形状の彫刻面内にバランス良く収まるよう適宜修正する必要がある。例えば、「山田太郎」という4つの文字からなり円形状をなした彫刻面に彫刻される印影を作成しようとする場合では、個々の単字を、円を4等分した扇形の枠内に収まるように修正する必要がある。」

段落【0004】「しかしながら、このように印影を構成する個々の単字を円形状の彫刻面内にバランス良く収まるようコンピュータに備えられている各種の機能を用いて修正することは、極めて面倒であることから、修正作業にのみ長時間を要することとなり、より迅速且つ品質にも優れた印影を有する印章を作成することが極めて困難である。」

段落【0005】「そこで、本発明は、上述した従来の印影の作成方法が有する課題を解決するために提案されたものであって、印影を作成する際に該印影を構成する個々の単字を何ら修正することなく単に表示装置の画面上で合成することのみにより簡単且つ迅速に印影を作成する方法を提供することを目的とするものである。」

前記段落【0001】に記載されているように、当該刊行物には、実印、銀行印、認印として使用される印章の印影を、コンピュータを使用することにより作成する方法を対象とする発明が開示されており、段落【0002】においては、手作業による印章の製造が熟練を要し量産に馴染まないばかりでなく極めて高価なものとなることから、これを解消すべくコンピュータと表示装置と自動彫刻機とを使用する印章製造法が実施されていることが記載されている。
そして、同段落には、このコンピュータを使用する印章の製造方法が、製造されるべき印章に彫刻される複数の文字を表示装置の画面に表示させ、これを該表示装置の画面上で合成することにより印影を作成し、この作成された印影を自動彫刻機により印材に彫刻するものであると記載されている。
当該刊行物には、これに続く段落【0003】に、従来の印章の製造方法における印影の作成方法では、表示装置の画面上に表示される個々の文字(単字)は、全て正方形の枠内にバランス良く記載されているものであるために、実印,銀行印又は認印のように、円形状の彫刻面に彫刻される印影を作成する場合、これらの単字を表示装置の画面上で合成する前段階又は合成された後の段階において上記円形状の彫刻面内にバランス良く収まるよう修正する必要があることが指摘されている。
これを受けて続く段落【0004】では、印影を構成する個々の単字を円形状の彫刻面内にバランス良く収まるようする修正は、コンピュータに備えられている各種の機能を用いて行われるものの、これが極めて面倒であって、修正作業にのみ長時間を要することが指摘されている。
そして、段落【0005】には、当該刊行物に係る発明が、前記従来技術の不都合を解消すべくなされたものであると記載されている。

よって、これらの段落記載を総合すれば、当該刊行物が発行された時点においては、コンピュータと表示装置と自動彫刻機とからなる印章製造装置が存在していたこと、そして、この製造装置を用いた印章製造は、まず、製造されるべき印章に彫刻される複数の文字を表示装置の画面に表示させ、これを該表示装置の画面上で合成することで印影が作成されるが、実印、銀行印又は認印のように、円形状の彫刻面に彫刻される印影を作成する場合には、印影を構成する個々の単字を円形状の彫刻面内にバランス良く収まるようコンピュータに備えられている各種の機能を用いて修正することが行われていることが把握できる。
また、ここでいうコンピュータに備えられている各種の機能には、修正対象である個々の単字を拡大・縮小することを可能とする機能が含まれていることは、技術常識に照らして明らかであるといえる。
してみるに、当該刊行物の従来技術に係る前記段落【0002】?【0004】からは、以下の発明が把握できる。

「コンピュータと表示装置と自動彫刻機とからなり、複数の文字(単字)を表示装置の画面に表示させ、これを該表示装置の画面上で合成することで、実印、銀行印又は認印のように、円形状の彫刻面に彫刻される印影を作成するに際し、選択された複数の文字を円形状の彫刻面内にバランス良く収まるように、コンピュータに備えられている各種の機能を用いて修正することで作成する印章製造装置。」
以下、「引用発明」という。

2-2 刊行物B1:特開平7-114538号公報
段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は、日本語ワードプロセッサ等の文書作成装置に係り、特にはがき宛名印刷機能を備えた文書作成装置及び宛名印刷方法に関する。」

段落【0004】「【発明が解決しようとする課題】・・・、従来、住所録文書における受取人住所、受取人氏名および差出人住所氏名の印刷位置が固定であったため、受取人住所の行数によって、各項目間の間隔が空き過ぎたり狭すぎたりし、全体に見栄えが悪くなる問題があった。」

段落【0005】「本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、住所録文書を受取人住所、受取人氏名および差出人住所氏名のそれぞれ行数に応じて見栄え良く印刷することのできる文書作成装置及び宛名印刷方法を提供することを目的とする。」

段落【0015】「図4は官製はがきに住所録文書を印刷した場合での4つの例を示している。図4(a)は受取人住所が1つの場合での印刷結果を示している。受取人住所が1つの場合には、受取人住所1と差出人住所1との間に受取人氏名がその中央に印刷される。図4(b)は受取人住所が2つの場合での印刷結果を示している。受取人住所が2つの場合には、受取人住所2と差出人住所1との間に受取人氏名がその中央に印刷される。図4(c)は受取人住所が3つの場合での印刷結果を示している。受取人住所が3つの場合には、受取人住所3と差出人住所1との間に受取人氏名がその中央に印刷される。図4(d)は受取人住所が4つの場合での印刷結果を示している。受取人住所が4つの場合には、受取人住所4と差出人住所1との間に受取人氏名がその中央に印刷される。」

段落【0017】「この場合、受取人住所は1?4行の範囲で印刷でき、受取人氏名は主と副の2行印刷できるが、それらの印刷位置を固定にしておくと、例えば受取人住所が1行の場合では受取人氏名が左に偏ったように見え、また、受取人住所が4行の場合では受取人氏名が右に偏ったように見える。」

段落【0018】「そこで、同実施例では、受取人住所、受取人氏名、差出人住所氏名のそれぞれの行数に応じた領域を作成し、これらを均等に割り付けることにより、見栄えの良い印刷結果を得るものである。」

これら段落の記載からみて、当該刊行物B1には、宛名印刷する受取人住所、受取人氏名および差出人住所氏名について最大数の行で印刷する場合の各行の領域を予め用意しておくものの、住所録文書の受取人住所、受取人氏名および差出人住所氏名のそれぞれが入力されている行数に応じて、改めて領域を作成し直して、これらデータを各々の領域に均等に割り付けることで、見栄えの良い印刷結果を得るようにする宛名印刷機能が記載されている。

2-3 刊行物B3:特開平5- 81245号公報
段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は、宛名印刷装置に係り、特に郵便物等の宛名印刷に好適な印刷装置あるいは印刷方法に関する。」

段落【0010】「本発明の目的は、氏名データ入力時に、名字と名前を区別するための区切り記号を入力しておき、複数の氏名データを印刷するときには名字と名前の書き始め位置と書き終わり位置を、それぞれ最適化するとともに均等割付処理を行い、宛名のレイアウトを整えて印刷することである。」

段落【0011】「また、前記処理で変化する氏名データの長さにより、文字サイズを最適化し、決められた範囲内に印刷することである。」

これら段落の記載からみて、当該刊行物B3には、印刷すべきデータである複数の氏名データを印刷するときに、名字と名前の書き始め位置と書き終わり位置を、それぞれ最適化するとともに均等割付処理を行い、氏名データの長さにより、文字サイズを最適化し、決められた範囲内に印刷することで、宛名のレイアウトを整えて印刷することが記載されている。

2-4 刊行物B4:特開平6- 87249号公報
段落【0001】「【産業上の利用分野】この発明は、日本語ワードプロセッサやパソコンコンピュータ等において、宛名を葉書や封筒等に印刷する宛名印刷装置に関する。」

段落【0005】「【作用】この発明の手段の作用は次の通りである。いま、住所データを葉書の印刷領域に印刷するものとする。先ず、文字サイズ決定手段は各構成データの文字数と、対応する印刷領域の大きさとから構成データ毎に印刷すべき文字のサイズを決定する。これによって、構成データ毎に文字サイズが決定されると、判別手段はこの文字サイズが対応する印刷領域に対して予め定められている基準文字サイズよりも小さいか否かを判別する。ここで、基準文字サイズよりも小さい場合に、文字サイズ決定手段によって決定された文字サイズのままで印刷すると、印刷内容が極めて読み難くなる為、文字サイズ拡大手段はその文字サイズの拡大を行う。例えば、構成データの行数が少なく桁数の多い行が1行でも含まれている場合には行方向に文字サイズを予め決められた限界値以内で拡大し、また行数が多く各行の桁数が少ない場合には桁方向に文字サイズを予め決められた限界値以内で拡大する。したがって、住所データ等を所定の領域内に宛名印刷する場合、印刷すべきデータの文字数が多い為にその文字数と領域の大きさとから小さな文字サイズが決定されたとしてても、文字を自然な形に拡大変形して印刷することができる。」

段落【0006】「【実施例】以下、図1?図4を参照して一実施例を説明する。図1は宛名印刷機能付き日本語ワードプロセッサのブロック図である。CPU1はROM2等に格納されている各種プログラムにしたがってこのワードプロセッサの全体動作を制御するもので、ROM2はオペレーティングシステムをRAM3のプログラム領域3-1にロードするプログラムや入出力制御用のプログラムの他、文字フォントデータ等を記憶する。また、CPU1にはその周辺デバイスとしての入力制御部8,表示制御部9、外部記憶制御部10、プリンタ制御部11を介して接続されており、それらの入出力動作を制御する。」

段落【0007】「RAM3はプログラム領域3-1の他、宛名領域3-2、ワーク領域3-3、文書メモリ3-4等を有する構成となっている。ここで、宛名領域3-2は住所録用の宛名データを記憶するメモリ領域で、宛名データは1レコード毎に住所、氏名、備考等から構成され、宛名印刷時には宛名領域3-2から1レコード毎に宛名データの住所、氏名が読み出される。なお、宛名領域3-2には差出人の氏名、住所等も記憶されている。また、宛名印刷用のフォーマットも宛名領域3-2に記憶されており、この印刷フォーマットは葉書等の中心部分の領域を宛名(受取人の氏名)、右側の領域を受取人住所、左側の領域を差出人の印刷領域として定め、葉書や封筒等の用紙の種類毎に各領域サイズが設定されている。CPU1は入力部4から宛名印刷指令が入力されると宛名データを構成する住所、氏名の文字数とそれに対応する印刷領域の大きさとから住所、氏名毎に印刷用の文字サイズを決定する。ここで、本実施例においては上述のようにして決定された文字サイズをそのまま用いて印刷を行う通常処理か、決定された文字サイズを行方向あるいは桁方向に拡大してから印刷を行う本実施例特有の特殊処理かを任意に選択可能となっており、特殊処理によって宛名印刷を行う場合には次の規則にしたがって文字サイズを拡大するようにしている。」

これら段落の記載からみて、当該刊行物B4には、住所データ等を所定の領域内に宛名印刷する場合、印刷すべきデータの文字数が多い為にその文字数と領域の大きさとから小さな文字サイズが決定されたとしても、文字を自然な形に拡大変形して印刷する処理が記載されている。
また、実施例として、前記「文字を自然な形に拡大変形して印刷する処理」を特有の特殊処理と位置付け、他方、予め決定された文字サイズをそのまま用いて印刷を行う処理を通常処理と位置付けて、両者の機能を任意に選択可能とすることが記載されている。

2-5 刊行物B5:特開平4-129757号公報
ア.1頁右欄6?8行「産業上の利用分野
本発明は事務、日常業務に用いられるスタンプの電子化された電子スタンプに関する。」

イ.2頁左上欄4?15行「本発明はこのような従来の問題を解決するものであり、希望する任意のパターンを入力し、即座に捺印できる優れた電子スタンプを提供することを目的とするものである。
課題を解決するための手段
本発明の上記目的を達成するために、捺印したい文字または図形を入力する入力手段と、この入力された文字または図形を表示する表示手段と、この表示された文字または図形を、平板上に凸または凹で形成する出力手段で構成したものであり、この出力手段により形成された文字または図形を捺印面とする電子スタンプである。」

ウ.2頁左下欄19行?右下欄2行「捺印機能以外の全ての処理は現在使用されている日本語処理装置の機能と準拠し、逆に日本語処理装置で作成されたデータを本装置に流用できる変換機能等も本装置は有する。」

これらの記載からは、電子化されたスタンプにおいては、捺印機能以外の全ての処理は、日本語処理装置の機能に準拠したものとして構成されると共に、日本語処理装置で作成されたデータを流用できるような変換機能等も用意されていることが把握できる。

2-6 刊行物B6:特開平5- 89125号公報
段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は、はがき宛名の印刷機能を備えた文書作成装置に関する。」

段落【0004】「本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、ユーザの要求に応え、差出人と受取人の住所、氏名、郵便番号等の各項目を任意の位置に対応付けて、はがき宛名印刷を行うことができ、特に各項目の対応付けを確認可能な文書作成装置を提供することを目的とする。」

これら段落の記載からみて、当該刊行物B6には、文書作成装置において、宛名印刷に際し、印刷すべき各項目を任意の位置に対応付けた印刷を行うために、その対応付けを予め確認できるようにする機能を備えていることが記載されている。

3.当審の判断
3-1 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における印章製造装置は、コンピュータと表示装置に加えて自動彫刻機をも有するが、当該装置では表示装置の画面上で印影が作成されていることは明らかであるし、当該表示装置の画面上で作成された印影は、印章画像と呼称し得ることから、引用発明の「印章製造装置」は、印章画像を作成する装置を包含している点において、本願発明の「印章画像作成装置」と共通している。
印章は、用途要請に応じた所定形状及び大きさの印章面(彫刻面)を求められるものであるが、これを作成する段階においては、求められる所定形状及び大きさは決定されているのであるから、引用発明における「複数の文字(単字)」は、予め寸法が規定された「円形状の枠からなる印章面(彫刻面)」に割り付けられるものである。
そして、引用発明自体は、「実印、銀行印又は認印のように、円形状の彫刻面に彫刻される印影を作成するに際し、」と、印章面(彫刻面)が円形状であることを構成要件として認定しているが、前記のように用途要請により印章面(彫刻面)の形状・大きさは決定されるものであって、この印章面(彫刻面)に配される「複数の文字(単字)」をその要請に応えるべく、あらゆる大きさに対応したものを予め用意しておくことは現実的でなく、修正に際して、少なくとも適宜の拡大・縮小が行われると解するのが自然である。
また、当該「複数の文字(単字)」は印章面上の適宜箇所に配置される構成画像であって、当該配置された箇所は印章面上の一部分をなす領域であって、エリアと呼称し得る。
さらに、当該「複数の文字(単字)」のレイアウトをどのように配置構成するかも、用途要請に応じて決定されるものである。
すると、引用発明における「選択された複数の文字を円形状の彫刻面内にバランス良く収まるように、コンピュータに備えられている各種の機能を用いて修正する」ことは、用途要請に応じて予め寸法および位置が規定された複数のエリアのそれぞれに構成画像を作成することにより、複数の構成画像からなる画像を作成すること、といえる。

してみれば、引用発明における「複数の文字(単字)を表示装置の画面に表示させ、これを該表示装置の画面上で合成することで、実印、銀行印又は認印のように、円形状の彫刻面に彫刻される印影を作成する」は、本願発明の「予め寸法および位置が規定された複数のエリアのそれぞれに構成画像を作成する」に相当する。
また、引用発明の「複数の文字(単字)」は、これが配される各エリアに対応させて入力される合成を前提とした文字画像であるところ、本願明細書中では、「キャラクタ等(文字・記号・図形など)」(段落【0070】)との記載、及び「入力された文字等のキャラクタ」(段落【0093】)なる記載があり、各エリアに対応させて入力される「文字」と解し得るから、引用発明の「複数の文字(単字)」と、本願発明の「キャラクタ」とは、いずれも印章を構成するために組み合わせられる「文字」であることで相当関係にある。
してみれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「予め寸法および位置が規定された複数のエリアのそれぞれに構成画像を作成することにより、複数の構成画像から成る画像を作成する印章画像作成装置であって、
各エリアに対応させて、キャラクタを入力することにより、当該エリアに入力した前記キャラクタの画像を前記構成画像として作成する印章画像作成装置。」

<相違点>
本願発明においては、
「前記複数のエリアから、前記キャラクタが入力されないエリアを検出する検出手段と、
検出手段の検出結果に基づいて、前記キャラクタが入力されていないエリアをそのまま維持すること、
および前記キャラクタが入力されていないエリアを削除すると共に、削除したエリア分だけ他のエリアを拡大するように、各エリアを削除する場合における他のエリアの寸法および位置を予め規定したテーブルにしたがって、他のエリアの寸法および位置を変更すること、のいずれかを選択可能なエリア変更手段と、
前記エリア変更手段により、前記他のエリアの寸法および位置の変更がなされた場合、前記他のエリアに作成される前記構成画像の拡大処理を行う構成画像拡大手段と、
を備え、
前記テーブルは作成される印章の種類毎に異なる」と特定されるのに対して、
引用発明は、このような特定がない点。

3-2 相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
最初に、印章画像作成装置に対して、文書作成装置に係る機能を適用することを当業者が想起し得るか否かについて検討する。
刊行物B5は、電子スタンプに係るものであるが、前記に摘示したように、捺印したい文字または図形を入力する入力手段と、この入力された文字または図形を表示する表示手段と、この表示された文字または図形を、平板上に凸または凹で形成する出力手段で構成されており、印章画像作成装置である点で、引用発明あるいは本願発明に相当する。
そして、前記ウの記載にあるように、当該刊行物B5に係る電子スタンプは、日本語処理装置、すなわち文書作成装置に係る機能に準拠しており、また、日本語処理装置で作成されたデータを流用できるような変換機能等も備えられている。
よって、この文書作成装置の機能を印章画像作成装置に流用することで、印章作成における作業の簡易化を図ることは、印章画像作成に係る当業者であれば技術常識である。
したがって、文書作成装置に係る機能を、印章画像作成装置に対して適用することは、当業者であれば必要に応じて、適宜になし得た程度のことといわざるを得ない。

ここで、相違点として抽出した前記本願の特定内容を整理すると、以下のごとくに理解される。

(1)各エリアは、寸法および位置を予め規定したテーブルにより管理されており、このテーブルは「作成される印章の種類毎に異なる」ものとして用意されていること。
(以下、このテーブルを「エリア寸法位置規定テーブル」という。)
(2)印章を構成している複数のエリアから、キャラクタが入力されていないエリアを検出する手段を備えること。
(以下、この検出手段を「空エリア検出手段」という。)
(3)前記(2)の検出手段の検出結果に応じて、以下の(3-1)あるいは(3-2)のいずれかの機能を選択できる「エリア変更手段」を備えること。
(3-1)「前記キャラクタが入力されていないエリアをそのまま維持する」機能。
(以下、この機能を「空入力維持機能」という。)
(3-2)「前記キャラクタが入力されていないエリアを削除すると共に、削除したエリア分だけ他のエリアを拡大するように、各エリアを削除する場合における他のエリアの寸法および位置を予め規定したテーブルにしたがって、他のエリアの寸法および位置を変更する」機能。
(以下、この機能を「エリア削除・変更機能」という。)
(4)前記(3-2)の「エリア削除・変更機能」によりエリアの寸法および位置の変更がなされた場合に、構成画像の拡大処理を行う「構成画像拡大手段」を備えること。

まず、「エリア寸法位置規定テーブル」について検討するに、キャラクタが入力されることを予定されたエリアについて、予め適宜寸法および位置を決めることは、用途要請に応じて行われることであって、格別なこととはいえない。
そして、このような入力が予定されるエリアをテーブルとして管理するようなことは、コンピュータ及び表示装置を用いた装置においてきわめて一般的な手法である。
してみるに、印章画像作成装置において、「エリア寸法位置規定テーブル」を用いることは設計事項に属する。
そして、作成される印章が多種類にわたるのであれば、それらの各々に対応した「エリア寸法位置規定テーブル」を用意することも、設計事項でしかない。
この点、前記刊行物B1に記載されているように、文書作成装置における宛名印刷機能は、通常、印刷し得る最大行数が規定されていることからして、寸法および位置を予め規定しており、まさに、「エリア寸法位置規定テーブル」を用いているといい得るものであって、当該宛名印刷機能を印章画像作成装置に適用した際には、当然に、「エリア寸法位置規定テーブル」を用いることも適用されるともいえる。

次に、「空エリア検出手段」について検討するに、前記刊行物B1に記載される宛名印刷機能では、印刷し得る最大行数は規定されているものの、印刷すべき受取人住所氏名或いは差出人住所氏名の入力されている行数に応じて、改めて領域、すなわちエリアを作成し直すことが明記されており、この場合には、印刷すべき住所氏名を最大行数と対比しており、実質的に印刷すべき行が存在しないこと、すなわち「空エリア」を検出する機能を備えているといえる。
してみれば、当該刊行物B1に記載される宛名印刷機能を印章画像作成装置に適用すれば、前記「空エリア検出手段」を備えたものとなし得ることは、当業者であれば容易に推察可能である。

次に、「構成画像拡大手段」について検討するに、当該「構成画像拡大手段」は、後に検討する「エリア変更手段」により設定された「エリア寸法位置規定テーブル」に基づいて必要な構成画像を拡大処理するものであるから、エリア自体の寸法・位置を変更するものではない。
ここで当該構成画像の拡大処理は、エリア内および全体としての割付けバランスを調整するためのものであるから、文書作成装置における「宛名印刷機能」が、印字結果の割付けバランスを調整することと、技術思想において共通する。
そして、刊行物B1、B3、B4あるいはB6における文書作成装置の「宛名印刷機能」では、使用するエリアが設定された後に、「画像構成要素の大きさを拡大・縮小、あるいは配置位置の調整」が行われていることからして、この「宛名印刷機能」に用いる構成画像拡大に係る処理を印章画像作成装置に適用すれば、必然的に「構成画像拡大手段」を備えるものとなることは、当業者であれば容易に想到可能なことである。

最後に、「エリア変更手段」について検討するに、当該「エリア変更手段」は、なるほど、前記「空エリア検出手段」の検出結果に基づいて、「前記キャラクタが入力されていないエリアをそのまま維持すること」と、「前記キャラクタが入力されていないエリアを削除」して「他のエリアの寸法および位置を変更すること」のいずれかを選択可能であるとされる。
しかし、当該「エリア変更手段」が備える後者の『「空エリア検出手段」の検出結果に基づいて、「前記キャラクタが入力されていないエリアを削除」して「他のエリアの寸法および位置を変更する」機能』は、既に前記で検討した刊行物B1記載の宛名印刷機能が備えている機能そのものである。
他方、当該「エリア変更手段」が備える前者の『たとえ、「空エリア検出手段」の検出結果が「空エリア」を検出しているとしても、予め規定された「エリア寸法位置規定テーブル」に基づいた印刷を行う機能』は、前記刊行物B1記載の宛名印刷機能が備えるものではない。
しかしながら、宛名印刷機能において、入力される受取人住所氏名或いは差出人住所氏名についての行数設定を修正する処理、印刷される文字の大きさを適宜のものと修正する処理、或いは印刷される文字の割付を均等とする処理は、ユーザにおいて必ずしも常に求められるものではないことから、前記刊行物B4にみられるように、自動的に決定された文字サイズを行方向あるいは桁方向に拡大してから印刷を行う処理を行うことなく、予め決定された文字サイズをそのまま用いて印刷を行う処理が選択可能とするようにしておくことも、必要に応じて採用されていることである。
してみるに、仮に「空エリア検出手段」の検出結果が「空エリア」を検出しているとしても、予め規定された「エリア寸法位置規定テーブル」に基づいた印刷を行うことが可能とするよう、「空入力維持機能」を選択可能に「エリア変更手段」を構成することは、当業者であれば必要に応じて採用し得た程度のことといえる。

3-3 まとめ
以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら相違点に係る構成を寄せ集めて採用したことにより格別の作用効果が生じると認めることもできない。
すなわち、本願発明は引用発明、刊行物B1,B3,B4,B6記載の宛名印刷機能に係る技術、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-30 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-18 
出願番号 特願平8-291140
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 長島 和子
七字 ひろみ
発明の名称 印章画像作成装置  
代理人 落合 稔  
代理人 落合 稔  

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