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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B42D
管理番号 1175535
審判番号 不服2005-22483  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-22 
確定日 2008-04-03 
事件の表示 平成 8年特許願第107894号「可逆性感熱表示カード」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月11日出願公開、特開平 9-290583〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年4月26日の出願であって、平成17年4月15日付けの拒絶理由通知に対し応答がなされず、同年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月22日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
平成17年11月22日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載は、以下のとおりであり、
「【請求項1】
前記可逆性感熱表示カードの表面に、可逆性感熱記録部及びカードの絵柄印刷層を保護する保護層を設け、可逆性感熱記録部の剥離を不可能としたことを特徴とする、プラスチックシートを積層してなるカード支持体に、磁気テープ或いはICチップ等の情報記録媒体を設けたカードにおいて、樹脂母材と、この樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、温度に依存してその白濁・透明度が可逆的に変化する可逆性感熱記録部を、前記支持体表面と面一にして設けた、可逆性感熱表示カード。
【請求項2】
前記可逆性感熱記録部を熱ラミネート法によりカード支持体に押し込み、この支持体表面と面一にしたことを特徴とする請求項1に記載の可逆性感熱表示カード。
【請求項3】
前記支持体の一部に凹部を形成し、この凹部に可逆性感熱記録部を設け、さらに熱ラミネート法により押し込み、この支持体表面と面一にしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可逆性感熱表示カード。
【請求項4】
前記可逆性感熱記録部の透明化温度範囲が、50℃以上であることを特徴とする請求項1?請求項3何れかに記載の可逆性感熱表示カード。」(下線は補正個所を示している。)

出願当初明細書の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
プラスチックシートを積層してなるカード支持体に、磁気テープ或いはICチップ等の情報記録媒体を設けたカードにおいて、樹脂母材と、この樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、温度に依存してその白濁・透明度が可逆的に変化する可逆性感熱記録部を、前記支持体表面と面一にして設けたことを特徴とする可逆性感熱表示カード。
【請求項2】
前記可逆性感熱記録部を熱ラミネート法によりカード支持体に押し込み、この支持体表面と面一にしたことを特徴とする請求項1に記載の可逆性感熱表示カード。
【請求項3】
前記支持体の一部に凹部を形成し、この凹部に可逆性感熱記録部を設け、さらに熱ラミネート法により押し込み、この支持体表面と面一にしたことを特徴とする請求項1、請求項2に記載の可逆性感熱表示カード。
【請求項4】
前記可逆性感熱表示カードの表面に、可逆性感熱記録部及びカードの絵柄印刷層を保護する保護層を設け、可逆性感熱記録部の剥離を不可能としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の可逆性感熱表示カード。
【請求項5】
前記可逆性感熱記録部の透明化温度範囲が、50℃以上であることを特徴とする請求項1?請求項4に記載の可逆性感熱表示カード。」

平成20年1月15日付け上申書第1頁第13?15行に「平成17年11月22日付提出の審判請求書の請求の理由に不明な部分があったので、本来正しい審判請求の理由を以下に記載いたしますので、以下の審判請求の理由にて釈明いたしますので、本上申書を受理の上、審判の審理をお願いしたく上申いたします。」と記載され、同上申書第2頁第18?24行に「同時提出の手続補正書において、旧請求項1から3を削除したものであり、新請求項1から3は旧請求項4が引用請求項を削除したのに伴い、旧請求項1から3を引用した構成に書き下したものであり、特許法第17条の2第4項第1号に規定する補正であり、0007欄?0010欄の補正も旧請求項1から3を削除したものと旧請求項4が引用請求項を書き下したのに伴う補正であり、これも特許法第17条の2第4項第1号に規定する補正である。
この要件の付加は、出願当初の明細書の請求項4に基づくものである。」と記載され、補正後の請求項1は、出願当初明細書の請求項1を引用する請求項4と実質的に同一である旨、主張しており、補正後の請求項1の「前記可逆性感熱表示カードの表面に、可逆性感熱記録部及びカードの絵柄印刷層を保護する保護層を設け、可逆性感熱記録部の剥離を不可能としたことを特徴とする」という記載は、出願当初明細書の請求項4の被引用請求項を除いた主要な特定事項と一致しているので、平成17年11月22日付け手続補正の請求項1についての補正は、出願当初明細書の請求項1を引用する請求項4と実質的に同一の内容とする趣旨と解せる。
したがって、平成17年11月22日付けの手続補正が補正却下されるか否かにかかわらず、平成17年11月22日付けの手続補正によって補正された請求項1に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであれば、本願は、拒絶されるべきものであるから、以下、平成17年11月22日付けの手続補正の補正却下については言及せずに、平成17年11月22日付けの手続補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について検討する。
補正後の請求項1の記載は前述の通りであるが、補正の趣旨を勘案すると、「前記可逆性感熱表示カードの表面に、可逆性感熱記録部及びカードの絵柄印刷層を保護する保護層を設け、可逆性感熱記録部の剥離を不可能としたことを特徴とする、」と「プラスチックシートを積層してなるカード支持体に、磁気テープ或いはICチップ等の情報記録媒体を設けたカードにおいて、樹脂母材と、この樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、温度に依存してその白濁・透明度が可逆的に変化する可逆性感熱記録部を、前記支持体表面と面一にして設けた、可逆性感熱表示カード」の語順が逆であることは明らかであるし、出願当初明細書の請求項1を引用する請求項4を独立形式に書き改めると以下の通りであるから、本願発明も以下の通りのものと認められる。

「プラスチックシートを積層してなるカード支持体に、磁気テープ或いはICチップ等の情報記録媒体を設けたカードにおいて、樹脂母材と、この樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、温度に依存してその白濁・透明度が可逆的に変化する可逆性感熱記録部を、前記支持体表面と面一にして設けた可逆性感熱表示カードであって、
前記可逆性感熱表示カードの表面に、可逆性感熱記録部及びカードの絵柄印刷層を保護する保護層を設け、可逆性感熱記録部の剥離を不可能としたことを特徴とする可逆性感熱表示カード。」

3.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-239069号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
ア.【請求項1】 樹脂母材、樹脂母材中に分散された有機低分子物質及び添加剤を主成分とし、温度により透明度が可逆的に変化する可逆性記録層を支持部材の凹部に有することを特徴とする情報記憶カード。
イ.【請求項2】 可逆性記録層上に保護層を設けたことを特徴とする請求項1記載の情報記憶カード。
ウ.【0005】本発明情報記憶カードの可逆性記録層の記録原理は温度による可逆的な透明度変化、即ち透明状態から白濁不透明状態へ、又はその逆の変化を利用したものである。ここで透明状態と白濁不透明状態との物理的な違いは次のように推測される。即ち、透明の場合には樹脂母材中に分散された有機低分子物質の粒子は有機低分子物質の大きな粒子で構成されており、可逆性記録層の一方の側から入射した光は散乱されることなく、他方の側に透過するため透明に見える。又、白濁不透明の場合には有機低分子物質の粒子は微細な結晶が集合した多結晶で構成され、個々の結晶の結晶軸がいろいろな方向を向いているため一方の側から入射した光は有機低分子物質粒子の結晶の界面で何度も屈折し、散乱されるため白く見える。以上の透明度変化は温度により行なわれる。これを図面によって説明すると、図3において、樹脂母材と、この樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とする記録層は例えばT_(0)以下の常温で白濁不透明状態にある。これをT_(1)?T_(2)間の温度に加熱すると、透明になり、この状態で再びT_(0)以下の常温に戻しても透明のままである。これは温度T_(1)?T_(2)間から温度T_(0)以下に至るまでに有機低分子物質が半溶融状態を経て多結晶から単結晶へと結晶が成長するためと考えられる。更にT_(3)以上の温度に加熱すると、最大透明度と最大不透明度との中間の半透明状態になる。次にこの温度を下げて行くと、再び透明状態をとることなく最初の白濁不透明状態に戻る。これは温度T_(3)以上で有機低分子物質が溶融後冷却されることにより多結晶が析出するためであると考えられる。なお、この不透明状態のものをT_(0)?T_(1)間の温度に加熱した後、常温、即ちT_(0)以下の温度に冷却した場合には透明と不透明との間の状態をとることができる。また前記、常温で透明になったものも再びT_(3)以上の温度に加熱し、常温に戻せば、再び白濁不透明状態に戻る。即ち常温で不透明及び透明の両形態及びその中間状態をとることができる。従ってこのような可逆性感熱記録層表面を例えばサーマルヘッドで選択的に加熱し、透明地に白濁画像、又は白濁地に透明画像を形成することができる。またこのような画像形成及び消去は何回も繰り返すことが可能である。
エ.【0007】本発明の情報記憶カードの各層の形成法は次の通りである。本発明の情報記憶カードの可逆性記録層は支持部材の凹部に可逆性記録層形成塗液を塗布して設けたり、可逆性記録膜を基体上に設けたのち、該基体を支持部材の凹部に設けたり、可逆性記録層形成塗液を必要あれば加熱しながら、混練して可逆性記録層自体をシート状に形成し、該記録層を支持部材凹部に設けたりすることができる。なお、この際に可逆性記録層、基体、支持部材等の間には以下に述べる着色層、磁気記録層などの層や透光性材料からなる層を設けることもできる。可逆性記録層を設ける前記基体としてはポリエステルフィルムのような透明又は白色プラスチックフィルム、紙等、又はそれらの着色物が使用される。なおいずれの場合も必要に応じて可逆性記録層上にシリコン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂保護層を設けたり、或いは各種の図案や文字等を印刷することができる。溶剤としてはテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、四塩化炭素、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。なお分散液を使用した場合は勿論であるが、溶液や混練物を使用した場合も得られる可逆性記録層中では有機低分子物質は微粒子として析出し、分散状態で存在する。
オ.【0008】可逆性記録層に使用される樹脂母材は有機低分子物質を均一に分散保持した層を形成すると共に、最大透明時の透明度に影響を与える材料である。このため母材は透明性が良く、機械的に安定で、且つ成膜性の良い樹脂が好ましい。このような樹脂としてはポリ塩化ビニル、塩化ビニル?酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル?酢酸ビニル?ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル?酢酸ビニル?マレイン酸共重合体、塩化ビニル?アクリレート共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン?塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン?アクリロニトリル共重合体等の塩化ビニリデン系共重合体;ポリエステル;ポリアミド;ポリアクリレート又はポリメタクリレート或いはアクリレート?メタクリレート共重合体、シリコン樹脂等が挙げられる。これらは単独で或いは2種以上混合して使用される。
カ.【0009】一方、有機低分子物質としては可逆性記録層中で温度により多結晶から単結晶に変化するものであればよく、一般に融点30?200℃、好ましくは50?150℃程度のものが使用される。このような有機低分子物質としてはアルカノール;アルカンジオール;ハロゲンアルカノール又はハロゲンアルカンジオール;アルキルアミン;アルカン;アルケン;アルキン;ハロゲンアルカン;ハロゲンアルケン;ハロゲンアルキン;シクロアルカン;シクロアルケン;シクロアルキン;飽和又は不飽和モノ又はジカルボン酸又はこれらのエステル、アミド、又はアンモニウム塩;飽和又は不飽和ハロゲン脂肪酸又はこれらのエステル、アミド、又はアンモニウム塩;アリルカルボン酸又はそれらのエステル、アミド又はアンモニウム塩;ハロゲンアリルカルボン酸又はそれらのエステル、アミド又はアンモニウム塩;チオアルコール;チオカルボン酸又はそれらのエステル、アミン、又はアンモニウム塩;チオアルコールのカルボン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して使用される。これらの化合物の炭素数は10?60、好ましくは10?38、特に10?30が好ましい。エステル中のアルコール基部分は飽和していても飽和していなくてもよく、またハロゲン置換されていてもよい。いずれにしても有機低分子物質は分子中に酸素、窒素、硫黄及びハロゲンの少なくとも1種、例えば-OH,-COOH,-CONH,-COOR,-NH,-NH_(2),-S-,-S-S-,-O-、ハロゲン等を含む化合物であることが好ましい。更に具体的にはこれら化合物にはラウリン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸;ステアリン酸メチル、ステアリン酸テトラデシル、ステアリン酸オクタデシル、ラウリン酸オクタデシル、パルミチン酸テトラデシル、ベヘン酸ドコシル等の高級脂肪酸のエステル;
以下余白
【化1】(記載を省略)
等のエーテル又はチオエーテル等がある。中でも本発明では高級脂肪酸、特にパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の炭素数16以上の高級脂肪酸が好ましく、炭素数16?24の高級脂肪酸が更に好ましい。なお感熱記録層中の有機低分子物質と樹脂母材との割合は重量比で2:1?1:16程度が好ましく、1:1?1:5が更に好ましい。母材の比率がこれ以下になると、有機低分子物質を母材中に保持した膜を形成することが困難となり、またこれ以上になると、有機低分子物質の量が少ないため、不透明化が困難になる。
キ.【0011】磁気層は磁性材料を支持部材に真空蒸着、スパッタリング等の方法で堆積させるか、或いは樹脂バインダーと共に塗布、乾燥することにより形成される。ここで磁性材料としては、鉄、コバルト、ニッケル等、及びそれらの合金又は化合物が挙げられる。また樹脂バインダーとしては着色層の場合と同様、各種熱可塑性、熱硬化性又は紫外線硬化性樹脂が挙げられる。なお磁気層上には必要に応じて隠蔽層を設けたり、或いは各種の図案や文字等を印刷することができる。次に本発明の情報記憶カードの構造について具体例を図1及び図2に基づいて説明する。ただし本発明においては以下の図面における磁気記録着色層は、必ずしも必要とはせず、適宜追加、削除できるものである。
ク.【0012】本発明の情報記憶カードは着色層が支持体の凹部にあるか或いは凹部とは反対の支持体面にあるかによって次のように分類できる。即ち前者の具体例は図1(a)?(c)の通りであり、また後者の具体例は図2(a)?(f)の通りである。図1(a)?(d)の情報記憶カードは一方の面に凹部5を有する支持体1の凹部5に着色層2及び可逆性感熱記録層3を順次設けると共に、同一面の可逆性記録層以外の部分の少なくとも一部又は他方の面の少なくとも一部にに磁気記録層4を設けたものである。また図2(a)?(f)の情報記憶カードは一方の面に凹部5を有する透明支持体1′の凹部5に可逆性感熱記録層3を設け、他方の面の少なくとも可逆性記録層対応部分に着色層2を設けると共に、前記他方の面の可逆性記録層以外の部分の少なくとも一部又は前記他方の面の少なくとも一部に磁気記録層4を設けたものである。なお図1?図2の情報記憶カードは可逆性記録層面が支持体面と同一になるので、通常の平坦な支持体を用いた場合に生じる可逆性記録層の出っ張りによる不都合(可逆性記録層が出っ張ったカードでは磁気記録の読み取り又は書き込みの際、装置の内部を通過させると走行不良が発生したり、出っ張り部分の可逆性記録層、即ち表示部分が摩耗し易い。)を解消することができる。
ケ.【0015】実施例1
深さ17μmの凹部を有する250μm厚の白色ポリエステルフィルムの凹部に
カーボンブラック 10部
紫外線硬化性樹脂(三菱レイヨン社製FS-1059) 5部
トルエン 10部
よりなる分散液を塗布し、加熱乾燥後、120W/cmのUVランプで紫外線を5秒間照射硬化させて、2μm厚の着色層を設けた。さらにこの着色上層に
ベヘン酸 8部
ステアリルステアレート 2部
フタル酸ジ(2-エチルヘキシル) 3部
塩化ビニル?酢酸ビニル共重合体(UCC社製VYHH) 25部
THF 200部
よりなる溶液を塗布、乾燥して15μm厚の可逆性記録層を設けた。次に支持部材の他の面の全面にFe_(2)O_(3):10部、塩化ビニル?酢酸ビニル共重合体(UCC社製VAGH):10部、メチルエチルケトン(MEK):40部、トルエン:40部の磁気記録層用分散液をワイヤーバーで塗布し、加熱乾燥して10μm厚の磁気記録層を設けることにより、図1(a)のタイプの情報記憶カードを作製した。以下、このカードを図4の装置にセットし、サーマルヘッドによる画像形成及びヒートローラー(65℃)による画像消去を行なったところ、磁気記録層内の情報の記憶内容に対応した黒地に白の鮮明な画像が形成された。またこの操作を100回繰り返しても性能劣化は生じなかった。

上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「深さ17μmの凹部を有する250μm厚の白色ポリエステルフィルムの凹部に2μm厚の着色層を設け、さらにこの着色上層に15μm厚の可逆性記録層を設け、次に支持部材の他の面の全面に磁気記録層用分散液をワイヤーバーで塗布し、加熱乾燥して10μm厚の磁気記録層を設けた情報記憶カード。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-106884号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。
コ.【0014】図1中の1は本発明の情報記録媒体であり、例として予め所定の価値を付加してなるプリペイドカードである。このプリペイドカード(以下、カードとする)には現在の価値の状況を可視表示してなる本発明の可視情報記録手段の他に磁気記録手段の二つが同一面側に形成されている。11は可視情報を記録する可視情報記録面であり、可視情報記録面11には書換型情報記録部12と非書換型情報記録部13がある。図2において情報記録媒体1は、基体2上に磁気記録層3、不可逆性感熱記録層4、可逆性感熱記録層5が順次積層された構成をしており、磁気記録層3及び可逆性感熱記録層5には例えば金額等の書換データdと後述する認証コードXを記録し、不可逆性感熱記録層4には固有IDコードZを記録する。これらのデータは数字、文字、マークなどのOCR文字である。不可逆性感熱記録層4及び可逆性感熱記録層5は上記可視情報記録面11を構成している。なお、本実施例では非書換型情報記録部12(当審注:「非書換型情報記録部13」の誤記である。以下同様。)が不可逆性感熱記録層4であり、非書換型情報記録部13(「書換型情報記録部12」)が可逆性感熱記録層5である。後述する他の実施例では書換型情報記録部12(「非書換型情報記録部13」)に記録される固有IDコードが印刷により形成される構成もある。また本発明の情報記録媒体1の表面の適所に印刷等により任意に絵柄・模様などのデザインや日付・お知らせなどの固定情報8、例えば上記書換データのうち、取引年月日、円などの金額の通貨単位をを形成してもよい。
サ.【0027】保護層7は、外部からの擦れや傷に対する保護効果を得るもので、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、デンプン、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリメタクリル酸メチル・ポリメタクリル酸エチルなどのメタクリル樹脂の単独または共重合物、ポリスチレン、アクリル-スチレン共重合物、ポリエステル樹脂、クロマン樹脂、ABS樹脂、ニトロセルロース等の樹脂或いはフッソ系樹脂、ケイ素系樹脂を混入させた樹脂,UVオフセットインキなどを耐摩擦性、滑り性を考慮して適宜選択し、スピンコート法、ロールコート法、ナイフエッジ法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法など塗布・印刷方法を用いて、厚さ1?5μm程度に形成するものである。
シ.【図2】?【図4】から、情報記録媒体1の表面に固定情報8を設けること、情報記録媒体1の表面全面に保護層7を設けることが看取できる。

4.対比
そこで、本願発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「250μm厚の白色ポリエステルフィルム」と、本願発明の「プラスチックシートを積層してなるカード支持体」とは、「プラスチックからなるカード支持体」で共通し、刊行物1記載の発明の「磁気記録層」と本願発明の「磁気テープ或いはICチップ等の情報記録媒体」は、「情報記録媒体」を限度として一致する。
刊行物1の上記ア.、ウ.、オ.、カ.の記載から、刊行物1記載の発明の「可逆性記録層」は、樹脂母材と樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、温度に依存してその白濁・透明度が可逆的に変化するものであることは明らかであるから、本願発明の「可逆性感熱記録部」に相当し、刊行物1の上記ク.に「図1?図2の情報記憶カードは可逆性記録層面が支持体面と同一になる」と記載され、更に、刊行物1記載の発明において、2μm厚の着色層と15μm厚の可逆性記録層の合計の厚みが凹部の深さ17μmに一致するから、可逆性記録層は、白色ポリエステルフィルム表面と面一、即ち、支持体表面と面一にして設けられていることは明らかである。
刊行物1記載の発明の「情報記憶カード」は、本願発明の「可逆性感熱記録部」に相当する可逆性記録層を有しているから、「可逆性感熱表示カード」と称することができる。
よって、両者は、
「プラスチックからなるカード支持体に、情報記録媒体を設けたカードにおいて、樹脂母材と、この樹脂母材中に分散された有機低分子物質とを主成分とし、温度に依存してその白濁・透明度が可逆的に変化する可逆性感熱記録部を、前記支持体表面と面一にして設けた可逆性感熱表示カード。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]プラスチックからなるカード支持体に関し、本願発明はプラスチックシートを積層してなるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような特定がなされていない点。
[相違点2]情報記録媒体に関し、本願発明は、磁気テープ或いはICチップ等であるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような特定がなされていない点。
[相違点3]本願発明は、可逆性感熱表示カードの表面に、可逆性感熱記録部及びカードの絵柄印刷層を保護する保護層を設け、可逆性感熱記録部の剥離を不可能としたのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような特定がなされていない点。

5.判断
(1)上記相違点1について検討する。
プラスチックシートを積層してなるカード支持体は、周知技術(一例として、実願昭63-121579号(実開平2-44071号)のマイクロフィルム、第10頁第9?14行参照。)であり、プラスチックからなるカード支持体の構成をどのようなものにするかは必要に応じ適宜選択できるものであるから、刊行物1記載の発明に該周知技術を適用し、本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

(2)上記相違点2について検討する。
本願発明の「磁気テープ或いはICチップ等」に何が含まれるか必ずしも明らかではないが、刊行物1記載の発明の「磁気記録層」が含まれるのであれば、相違しないし、仮に、含まれないとしても、情報記録媒体として、磁気テープ或いはICチップは、例示するまでもなく周知のものであるから、刊行物1記載の発明の「磁気記録層」に代え、磁気テープ或いはICチップを採用し、本願発明の上記相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。

(3)上記相違点3について検討する。
本願発明の「可逆性感熱記録部の剥離を不可能とした」によって、可逆性感熱表示カードの何がどのように特定されるのか必ずしも明らかではないが、本願図面の【図1】には、可逆性感熱記録部5の両側に渡り設けられた保護層7が看取できるので、「可逆性感熱記録部の両側に渡り保護層を設けた」ことにより剥離を不可能としたと解して、以下、検討する。
一般に、情報記録媒体を設けたカードは、使用に際し、様々なものに接触し、擦られ、その表面は傷つけられる可能性が高いものであり、更に、その表面には、絵柄等の印刷が施されることが通常である。刊行物1の上記イ.、エ.の記載によると、可逆性記録層上に保護層を設けることは記載されているものの、可逆性記録層上以外のカード表面にも保護層を設けるか否か明らかではないが、前述のようにカード表面は、全面に渡り傷つけられる可能性が高いものであり、カード表面に絵柄等の印刷を施し、該絵柄等の印刷を保護する保護層をカード表面全面に設けることは、周知技術(例えば、上記刊行物2、特開平3-163685号公報参照。)でもあるから、刊行物1記載の発明に該周知技術を適用することは、当業者が容易になし得る程度のことであり、そうすると、情報記憶カード(本願発明の「可逆性感熱表示カード」に相当。)の表面に、可逆性記録層(同「可逆性感熱記録部」)及びカードの絵柄印刷層を保護する保護層が全面に設けられることとなり、可逆性記録層は、凹部に設けられているから、保護層は、可逆性記録層の両側に渡り設けられることとなり、本願発明の上記相違点3に係る構成となる。

そして、本願発明の作用効果も、刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、また、平成17年11月22日付けの手続補正が補正却下されるか否かにかかわらず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-01 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-18 
出願番号 特願平8-107894
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武田 悟  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 七字 ひろみ
尾崎 俊彦
発明の名称 可逆性感熱表示カード  

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