• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01C
管理番号 1175546
審判番号 不服2006-1893  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-03 
確定日 2008-04-03 
事件の表示 平成 9年特許願第140367号「圧電式角速度センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月18日出願公開、特開平10-332382〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年5月29日付の出願であって、平成17年12月21日付(発送日平成18年1月4日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年2月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成18年2月3日付手続補正書による補正(以下、「本願補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本願補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本願補正は、特許請求の範囲の請求項1の内容を、補正前の、
「【請求項1】 所定信号が加えられることによって所定方向に振動する振動部分と、
前記振動部分に機械的に結合した圧電性結晶部と、
前記圧電性結晶部の前記所定方向と異なる方向の振動振幅に応じた互いに逆位相の第1及び第2信号をそれぞれ得ることができるように、且つ、前記所定信号が空間を伝搬してノイズとして重畳されるように、前記圧電性結晶部に設けられた第1及び第2電極と、
前記第1及び第2信号が入力される差動増幅回路とを備え、
被検出体の角速度に応じて前記振動部分の前記所定方向と異なる方向の振動振幅が変化するように前記被検出体に設けられる圧電式角速度センサにおいて、
前記差動増幅回路は入力された前記第1及び第2信号をそれぞれ第1及び第2増幅率で増幅して増幅された前記第1及び第2信号の差を出力し、前記第1及び第2増幅率は前記被検出体の角速度が零のときの前記差動増幅回路の出力の振幅が、前記第1及び第2信号にノイズが重畳された状態で、略零となるように設定されることを特徴とする圧電式角速度センサ。」
から、
「【請求項1】 所定信号が加えられることによって所定方向に振動する振動部分と、
前記振動部分に別の箇所で機械的に結合した圧電性結晶部と、
前記圧電性結晶部の前記所定方向と異なる方向の振動振幅に応じた互いに逆位相の第1及び第2信号をそれぞれ得ることができるように、且つ、前記所定信号が空間を伝搬してクロストークノイズとして重畳されるように、前記圧電性結晶部に設けられた第1及び第2電極と、
前記第1及び第2信号が入力される差動増幅回路とを備え、
被検出体の角速度に応じて前記振動部分の前記所定方向と異なる方向の振動振幅が変化するように前記被検出体に設けられる圧電式角速度センサにおいて、
前記差動増幅回路は入力された前記第1及び第2信号をそれぞれ第1及び第2増幅率で増幅して増幅された前記第1及び第2信号の差を出力し、前記第1及び第2増幅率は前記被検出体の角速度が零のときの前記差動増幅回路の出力の振幅が、前記第1及び第2信号に前記空間を伝搬する前記所定信号によるクロストークノイズが重畳された状態で、略零となるように設定されることを特徴とする圧電式角速度センサ。」
と補正する補正事項を含むものである。(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

2.補正の適否
上記の補正内容は、請求項1に係る発明特定事項である「圧電性結晶部」について、その結合箇所が振動部分とは「別の箇所」であること、及び、発明特定事項である「ノイズ」が、所定信号が空間を伝搬することによる「クロストークノイズ」であるとの限定を付加したものである。
上記補正事項は、平成18年法改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.刊行物記載の発明・事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の平成8年8月20日に頒布された刊行物である特開平8-210860公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに下記の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車の車両制御、ナビゲーション、ビデオカメラの手振れ防止等に用いる角速度センサに関し、特に、圧電体からなる音叉形状の振動子を用いて角速度を検出する角速度センサに関する。」(段落【0001】)

イ 「【0050】
【実施例】以下に本発明の実施例を図面と共に説明する。
(第1実施例)まず図1は第1実施例の角速度センサ全体の構成を表わす構成図、図2は本実施例の振動子の構成を表わす斜視図、図3は本実施例の振動子を前後,左右及び上方から見た状態を表す説明図である。
【0051】図1に示す如く、本実施例の角速度センサは、音叉形状に形成され、周囲に電極が設けられた振動子2と、振動子2に設けられた電極を介して振動子2を励振すると共に、振動子2の振動状態から図に示すz軸回りの角速度Ωzを検出する駆動・検出回路20とから構成されている。
【0052】振動子2は、図2(b)に示す如く、圧電体により左右一対のアーム部4,6と各アーム部4,6の一端を連結する連結部8とを有する音叉形状に形成されている。そして、連結部8のアーム部4,6との反対側端部中央には、支持部材9が延設され、振動子2は、この支持部材9を介して、前述の駆動・検出回路20が組込まれた基板10に固定されている。」(段落【0050】?【0052】)

ウ 「【0054】次に、各アーム部4,6の表面であるX1面には、図3(a)に示す如く、連結部8側から順に、駆動電極12a,12b、モニタ電極14a?14d、及び分極処理用の電極16a,16bが形成され、各アーム部4,6の左右の外側側面であるY1面及びY2面には、図3(b),(c)に示す如く、電極16a,16bと対応する位置に検出電極18a,18bが形成され、各アーム部4,6の裏面であるX2面には、図3(d)に示す如く、駆動電極12a,12b、モニタ電極14a?14d、及び検出電極18a,18bに対する基準電極となる共通電極19が形成されている。」(段落【0054】)

エ 「【0056】従って、本実施例の振動子2においては、共通電極19を基準電位として、駆動電極12a及び駆動電極12bに夫々位相の180度異なる交流電圧を印加することにより、各アーム部4,6の配列方向に沿ったy軸(図2参照)方向に各アーム部4,6を励振させることができ、その励振状態を、モニタ電極14a?14dと共通電極19との間を流れる電流から検出することができる。また、この状態で、検出電極18a,18bと共通電極19との間を流れる電流を検出すれば、各アーム部4,6のx軸方向への振動を検出することができ、その検出信号から、各アーム部4,6の中心位置におけるz軸回りの角速度を得ることができる。」(段落【0056】)

オ 「【0067】即ち、検出回路28においては、検出電極18b,18cから入力回路24a,24bを介して入力される検出信号は、180度位相がずれているため、差動増幅回路38にてその差分を増幅することにより、検出信号を同相にして合成すると共に、各検出信号に含まれるノイズ成分を相殺した検出信号を生成し、これを同期検波回路40に入力することにより、角速度をノイズに影響されることなく高精度に検出できるようにしているのである。」(段落【0067】)

カ 「【0083】(実施例2)・・・次に、本発明の第2実施例として、振動子2の各アーム部4,6の中心位置にて振動子2のX1,X2面に直交するx軸回りの角速度Ωxを検出する角速度センサについて図10及び図11を用いて説明する。
【0084】なお、図10は本第2実施例の角速度センサの全体の構成を表わす構成図であり、図11は角速度の検出原理を説明する説明図である。まず、本実施例の振動子2は、図2及び図3に示した第1実施例の振動子と略同様に構成されており、異なる点は、図10に示す如く、各アーム部4,6のY1面及びY2面に設けた検出電極18a,18bが除去され、各アーム部4,6のX1面に設けた分極処理用の電極16a,16bが検出電極として使用されることである。
【0085】つまり、本実施例の角速度センサは、各アーム部4,6のx軸方向の振動状態からz軸回りの角速度を検出する第1実施例の角速度センサとは異なり、図11に示す如く、各アーム部4,6の中心位置におけるx軸回りの角速度Ωxを検出するものである。そして、x軸回りの角速度Ωxによって各アーム部4,6にコリオリ力が発生すると、その大きさFcに応じて、一方のアーム部(図11ではアーム部4)が初期の長さLから伸長し、他方のアーム部(図11ではアーム部6)が初期の長さLから収縮する。そこで本実施例では、こうした各アーム部の伸・縮を、電極16a,16bを用いて検出し、その検出信号から、x軸回りの角速度Ωxを検出するようにされている。
【0086】また次に、本第2実施例の駆動・検出回路20は、前記第1実施例と同様、モニタ電極14dからモニタ信号を取り込む入力回路22と、検出電極として使用される電極16a,16bから検出信号を取り込む入力回路24a,24bと、自励発振回路26と、検出回路28とから構成される。そして、入力回路22,24a,24bと、自励発振回路26とは、第1実施例と全く同様に構成され、検出回路28のみが第1実施例と若干異なる。
【0087】即ち、本実施例の検出回路28には、第1実施例の差動増幅回路38の代りに、反転回路55と可変抵抗器VR1とバッファ回路57とからなる信号処理回路60が設けられている。そして、この信号処理回路60では、まず反転回路55にて入力回路24bを介して入力される検出信号が反転され、その反転された入力信号が可変抵抗器VR1の一端に入力される。また可変抵抗器VR1の他端には、入力回路24aを介して入力される検出信号がそのまま入力される。そして、可変抵抗器VR1の摺動接点から、信号を取り出すことにより、可変抵抗器VR1にて各入力信号を合成し、その合成信号を検出信号として、バッファ回路57を介して、同期検波回路40に入力する。
【0088】つまり、この信号処理回路60は、各アーム部4,6の伸・縮により互いに逆相となる各検出信号の位相を反転回路55を用いて同相にし、この同相の検出信号を可変抵抗器VR1にて合成するのである。従って、各信号を合成(差動増幅)する点では、差動増幅回路38を用いた第1実施例と同様の効果が得られるものの、更に、その合成時に、可変抵抗器VR1の抵抗値を調整(差動調整)することにより、単なる信号の合成では除去しきれないノイズを低減できるようになる。」(段落【0083】?【0088】)

キ 図面の図11より、アーム部4,6はy軸方向に振動するとともに、z軸方向に伸縮する構成が示されている。

・上記摘記事項アより、角速度センサは、被検出体である自動車、ビデオカメラ等の角速度を検出するものであることが読み取れる。
・上記摘記事項イにおける【0052】の記載より、振動子が圧電体により形成されていることが読み取れる。
・上記摘記事項オにおける、「・・・検出信号に含まれるノイズ成分・・・」の記載から、検出信号はノイズ成分を含んだものであることが読み取れる。
・上記摘記事項イ?エにおける、第1実施例において、y軸方向にアーム部4,6が励振される旨の記載、及び、摘記事項カの【0084】における「本実施例の振動子2は、図2及び図3に示した第1実施例の振動子と略同様に構成されており」の記載、及び、上記キにおける図11に示される事項を参酌すれば、摘記事項カにおいて実施例2として記載されている角速度センサは、アーム部4,6がy軸方向に励振され、x軸回りの角速度を同アーム部4,6のy軸方向とは異なる方向であるz軸方向の伸・縮として検出していることが読み取れる。
してみれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認める。

<刊行物1記載の発明>
「交流電圧を印加することによりy軸方向に振動するアーム部4,6と、
アーム部4,6のz軸方向の伸・縮に応じた互いに逆位相で、且つノイズ成分を含んだ検出信号を得ることができる圧電体から成るアーム部4,6に設けられた検出電極16a,16bと、
前記検出信号が入力される信号処理回路60とを備え、
被検出体の角速度に応じて振動子のアーム部4,6がy軸方向と異なる方向の伸・縮が起こるように前記被検出体に設けられる圧電式角速度センサにおいて、
前記信号処理回路60は互いに逆相となる各検出信号のうちの一方の検出信号を反転回路55を用いて他方の検出信号と同相にし、同相となった各検出信号を可変抵抗器VR1にて合成し、可変抵抗器VR1の抵抗値を差動調整することによりノイズを低減する圧電式角速度センサ。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前の平成7年5月2日に頒布された刊行物である特開平7-113645公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに下記の事項が記載されている。

ク 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、対となる振動片を備えた振動ジャイロに関する。
【0002】
【従来の技術】所定方向に沿って振動している振動片、例えば直交座標軸平面(X-Y平面)におけるX軸に沿って振動している振動片がこのX-Y平面と直交するZ軸の回りに回転すると、その回転角速度により振動片にY軸方向にコリオリの力が生じる。このコリオリの力は角速度に依存して定まることから、コリオリの力を振動片の撓み変位量等として間接的に、或いは圧電素子の圧電効果により直接的に測定して、振動片の角速度を求めることができる。このため、振動する振動片を車両等に搭載して、車両旋回時に発生するヨーレイトを検出したり車両の走行軌跡を記録することが行なわれている。例えば、特公表4-504617には対となる振動片を音叉型に備えた振動ジャイロが提案されている。」(段落【0001】?【0002】)

ケ 「【0049】また、対となる振動片を2組備えた振動ジャイロ80を、図12に示すように、二つの振動片を有する二つの音叉をその基部にて結合させたものとすることもできる。この振動ジャイロ80は、上記した第1ないし第3の変形例と同様に、振動片84,86,90,92を有し、振動片84と振動片86とを基部82Aから突出し、振動片90と振動片92とを基部82Bから突出して備える。そして、この振動ジャイロ80は、両基部82A,82Bを幅の狭い結合部83で結合させて構成され、この結合部83で各振動片、換言すれば両音叉を支持する。また、この図12に示す振動ジャイロ80にあっては、水晶板から上記した各振動片,基部および結合部がエッチングにより一体に形成され、各振動片にX軸励振用又はY軸振動検出用の電極が形成されている。
【0050】・・・これにより図12に示した振動ジャイロ80における振動片のX軸方向の励振、Y軸方向の振動検出を可能とし、室温付近での振動数の安定性を得ている。
【0051】この振動ジャイロ80にあっては、振動片84と振動片90とを対とし振動片86と振動片92とを対とすると共に、振動片84と振動片86をX軸に沿って励振するようにし、振動片90と振動片92を当該各振動片がY軸に沿って振動した場合の振動状態を検出するよう構成する。・・・」(段落【0049】?【0051】)

上記摘記事項ク、ケより、刊行物2には次の事項が記載されていると認める。
「水晶にて音叉状の振動片を形成した振動ジャイロにおいて、励振用の振動片と振動検出用の振動片とを音叉の基部にて結合する構成。」

4.対比
本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
・後者の「交流電圧を印加すること」、「y軸方向」、「z軸方向」、「検出信号」、「検出電極16a,16b」は、それぞれ、前者の「所定信号が加えられること」、「所定方向」、「所定方向と異なる方向」、「第1及び第2信号」、「第1及び第2電極」に相当する。
・後者の「アーム部4,6」は、交流電圧の印加により励振されることから、前者の「振動部分」に相当すると共に、同「アーム部4,6」は、圧電体で形成され、それ自体に設けられた検出電極16a,16bから検出信号を得るものであることから、前者の「圧電性結晶部」にも相当する。
・後者の「ノイズ成分を含んだ検出信号」は、前者の「第1及び第2信号」に重畳される「所定信号が空間を伝搬してクロストークノイズ」と、「ノイズが重畳された第1及び第2信号」である限りで一致する。
・後者のアーム部4,6の伸・縮は、同アーム部のy軸方向への振動に応じて検出されることから、その伸・縮が繰り返して起こり、当該伸・縮は振動振幅として検出されることは明らかである。そうすると、後者の「伸・縮に応じた互いに逆位相の検出信号」は、前者の「振動振幅に応じた互いに逆位相の第1及び第2信号」に相当する。
・後者の「信号処理回路60」は、互いに逆相となる各検出信号のうちの一方の検出信号を反転回路55を用いて他方の検出信号と同相にし、同相となった各検出信号を可変抵抗器VR1にて合成」するものであり、2つの検出信号に対して差動回路として機能する。そうすると、後者の「信号処理回路60」と、前者の「差動増幅回路」とは、「差動的な出力を得る回路」である限りで一致する。
・後者の「信号処理回路60」の、「各検出信号を可変抵抗器VR1にて合成し、可変抵抗器VR1の抵抗値を差動調整する」機能と、前者の「差動増幅回路」の、「入力された前記第1及び第2信号をそれぞれ第1及び第2増幅率で増幅」する機能とは、「入力された前記第1及び第2信号を差動的に合成して出力する」機能である限りで一致する。

以上のことからみて、本願補正発明と刊行物1記載の発明とは次の一致点及び相違点を有している。

<一致点>
「所定信号が加えられることによって所定方向に振動する振動部分と、
圧電性結晶部と、
圧電性結晶部の前記所定方向と異なる方向の振動振幅に応じた互いに逆位相で、ノイズが重畳された第1及び第2信号をそれぞれ得ることができるように、前記圧電性結晶部に設けられた第1及び第2電極と、
前記第1及び第2信号が入力され、差動的な出力を得る回路とを備え、
被検出体の角速度に応じて前記振動部分の前記所定方向と異なる方向の振動振幅が変化するように前記被検出体に設けられる圧電式角速度センサにおいて、
差動的な出力を得る回路は、入力された第1及び第2の信号を差動的に合成して出力する圧電式角速度センサ。」

<相違点1>
本願補正発明においては、信号を得る箇所である「圧電性結晶部」が「振動部分に別の箇所で機械的に結合」しているのに対し、刊行物1記載の発明においては、信号を得る箇所と振動部分とは一体構造であり、振動部分に「別の箇所で機械的に結合」していない点。

<相違点2>
本願補正発明においては、第1及び第2信号に重畳されたノイズが、振動部分を振動させる所定信号が空間を伝搬することによる「クロストークノイズ」であるのに対し、刊行物1記載の発明においては、ノイズの原因・種類について明らかでない点。

<相違点3>
本願補正発明においては、「差動的な出力を得る回路」が「差動増幅回路」であるのに対し、刊行物1記載の発明においては、「一方の検出信号を反転回路55を用いて他方の検出信号と同相にし、同相となった各検出信号を可変抵抗器VR1にて合成」する回路である点。
また、当該「差動的な出力を得る回路」の機能として、本願補正発明においては、「差動増幅回路」が、「入力された前記第1及び第2信号をそれぞれ第1及び第2増幅率で増幅」し、「第1及び第2増幅率は前記被検出体の角速度が零のときの前記差動増幅回路の出力の振幅が、前記第1及び第2信号に前記空間を伝搬する前記所定信号によるクロストークノイズが重畳された状態で、略零となるように設定される」のに対し、刊行物1記載の発明においては、信号処理回路60は入力された検出信号に対して、それぞれの増幅率で増幅するものでなく、被検出体の角速度が零のときの信号処理回路60の増幅率についても特定されていない点。

5.判断
これら相違点1ないし3について検討する。
<相違点1について>
上記「3.(2)」に述べたように、刊行物2には、「水晶にて音叉状の振動片を形成した振動ジャイロにおいて、励振用の振動片と振動検出用の振動片とを音叉の基部にて結合する構成。」が記載されている。当該振動ジャイロは角速度センサとして機能するものである点で刊行物1記載の発明の角速度センサと共通するものであることからすれば(上記摘記事項「3.(2)ク」における段落【0002】の記載を参照)、刊行物1記載の発明に対し、当該刊行物2に記載の事項を適用して、上記相違点1に係る特定事項を得ることは当業者が容易に成し得たものである。

<相違点2について>
上記「3.(1)」にて述べたとおり、刊行物1記載の発明は、アーム部4,6からの検出信号に含まれるノイズを低減する角速度センサであるところ、同文献の図面図10に示されるように、その角速度センサにおいて、検出電極16a,16bは、交流電圧が印加される駆動電極12a,12bの近傍に設けられている。かような駆動電極と検出電極の配置であれば、駆動電極に印加される交流電圧の一部が検出電極からの検出信号にノイズとして重畳されるであろうことは、電気技術常識からみて充分に予測し得るところである。してみれば、刊行物1記載の発明においても、検出電極16a,16bにて検出される検出信号には、「振動部分を振動させる所定信号が空間を伝搬してクロストークノイズ」として重畳していると解するのが相当である。
よって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

<相違点3について>
本願補正発明における「差動増幅器」と、刊行物1記載の発明における「信号処理回路60」とは、「差動的な出力を得る回路」として機能し、且つ、「入力された第1及び第2の信号を異なった比率で出力する」機能を有する点で共通するものである。(上記「3.(1)カ」における段落【0088】の「・・・各信号を合成(差動増幅)する点では、差動増幅回路38を用いた第1実施例と同様の効果が得られる・・・」の記載を参照。)
また、信号に重畳されたノイズを低減させるため、入力する2つの信号のノイズを差動増幅器によって減算し、入力する2つの信号に対する増幅率を適宜設定することは、例えば、特開平7-260537号公報の段落【0038】?【0039】、特開平8-106358号公報の段落【0081】?【0082】、特開平8-122280号公報の段落【0020】?【0021】に記載されるように周知の技術である。
更に、検出しようとする物理量がゼロである場合に、検出出力がゼロとなるよう、測定回路を調整することは、計測技術として周知の技術課題である。
してみれば、刊行物1記載の発明に対し、これら周知の技術を適用して上記相違点3に係る特定事項を得ることは当業者が容易に成し得たものである。

<本願補正発明の作用効果について>
そして、本願補正発明の作用効果は、刊行物1に記載の発明、刊行物2に記載の事項及び上記周知の技術から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別なものではない。

したがって、本願補正発明は刊行物1に記載の発明、刊行物2に記載の事項及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1.本願発明
平成18年2月3日付手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、願書に最初に添付された明細書及び平成17年12月5日付手続補正書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
<本願発明>
「【請求項1】 所定信号が加えられることによって所定方向に振動する振動部分と、
前記振動部分に機械的に結合した圧電性結晶部と、
前記圧電性結晶部の前記所定方向と異なる方向の振動振幅に応じた互いに逆位相の第1及び第2信号をそれぞれ得ることができるように、且つ、前記所定信号が空間を伝搬してノイズとして重畳されるように、前記圧電性結晶部に設けられた第1及び第2電極と、
前記第1及び第2信号が入力される差動増幅回路とを備え、
被検出体の角速度に応じて前記振動部分の前記所定方向と異なる方向の振動振幅が変化するように前記被検出体に設けられる圧電式角速度センサにおいて、
前記差動増幅回路は入力された前記第1及び第2信号をそれぞれ第1及び第2増幅率で増幅して増幅された前記第1及び第2信号の差を出力し、前記第1及び第2増幅率は前記被検出体の角速度が零のときの前記差動増幅回路の出力の振幅が、前記第1及び第2信号にノイズが重畳された状態で、略零となるように設定されることを特徴とする圧電式角速度センサ。」

2.刊行物記載の発明・事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び同刊行物に記載された発明・事項は、前記「第2 3.(1)ないし(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記の本願補正発明に係る発明特定事項である「圧電性結晶部」について、その結合箇所が振動部分とは「別の箇所」であること、及び、発明特定事項である「ノイズ」が、所定信号が空間を伝搬することによる「クロストークノイズ」であるとの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 5.」に記載したとおり、前記刊行物1に記載の発明、刊行物2に記載の事項及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1に記載の発明、刊行物2に記載の事項及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明が特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-30 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-19 
出願番号 特願平9-140367
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01C)
P 1 8・ 575- Z (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 上原 徹
下中 義之
発明の名称 圧電式角速度センサ  
代理人 上田 和弘  
代理人 黒木 義樹  
代理人 上田 和弘  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ