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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1175550
審判番号 不服2006-3518  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-24 
確定日 2008-04-03 
事件の表示 平成11年特許願第306337号「アルミニウムと銅の接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月15日出願公開、特開2001-129652〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年10月28日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成17年11月7日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「予め銅又は銅合金の接合面に無電解ニッケルめっき加工して、厚さ20μm以上のめっき層を形成させ、この銅又は銅合金を鋳型内に配置し、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金をこの鋳型内に注入して、大気中で鋳込むことを特徴とする、アルミニウムと銅の接合方法。」

2.引用刊行物とその主な記載事項
原査定の拒絶理由に引用された特開昭56-1258号公報(以下、「引用例1」という。)、特開昭52-98621号公報(以下、「引用例2」という。)、特開昭58-112648号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
〔1〕引用例1:特開昭56-1258号公報
〔1a〕「本発明は、アルミニウム部材と、異種金属部材とをダイカスト法によって融着合体して複合物品を製造する方法に関するものである。更に具体的に述べるならば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる部材と、例えば鋳鉄、・・・などの鉄系金属、又は、銅、チタンなどの異種金属からなる部材とを、極めて強固に融着して複合物品を製造する方法に関するものである。
一般に鋳造によって、アルミニウム(又はその合金)部材と、異種金属部材とを直接に、強固に融着することは困難である。この困難性を解消するために従来は、アルフィン法が提案されている。・・・この技法をダイカスト法に適用すると、・・・異種金属表面にヒートスポットが発生し、このため良質な製品を得ることができない。
他の鋳造による融着方法として、異種金属部材の接合面にニッケル、・・・などのメッキを施し、その後にアルミニウム溶湯で鋳くるみ、これによって、アルミニウム(又はその合金)と異種金属との界面に脆弱な金属間化合物の生成を防止する方法も知られている。しかし、この方法を、ダイカスト法に適用しても、ダイカスト法においては、アルミニウム(又はその合金)溶湯は、その加圧充填とほとんど同時に凝固が完了するので、アルミニウム(又はその合金)部材と、メッキ層との間に十分に熱拡散が行われず、従って、アルミニウム(又はその合金)部材と、メッキ層との間には単なる機械的接合しか得られず、両者の融着強度は不満足なものであった。」(2頁右上欄7行?右下欄6行)
〔1b〕「本発明に用いられるニッケルメッキ層の厚さには格別の限定はないが、異種金属部材の融着表面を均一に被覆することができ、かつ、異種金属とアルミニウム(又はその合金)との間に脆弱な金属間化合物が生成することを防止し、更に有効な錘状突起表面が安定して得られるためには、ニッケルメッキ層の平均厚さは、15ミクロン以上であることが好ましく、20ないし30ミクロンであることが更に好ましい。」(4頁左上欄12?20行)
〔1c〕「異種金属部材の予熱処理は、ニッケルメッキ層表面と、アルミニウム(又はその合金)溶湯との濡れを促進して、融着面積率および接合強度を高め、またアルミニウム(又はその合金)とニッケルメッキ層およびニッケルメッキ層と異種金属との界面における金属の相互拡散を促進して、それぞれの間の接合強度を更に高めることができる。予熱温度が150℃より低い場合上記の効果が低いことがあり、また、550℃より高い場合は、ニッケルメッキ層表面に酸化反応が進行するため、上記効果を十分に得ることができないことがある。」(4頁右上欄8?18行)

〔2〕引用例2:特開昭52-98621号公報
〔2a〕「特許請求の範囲
アルミニウムダイカストにおいて、接合表面に予め・・・ニツケルメツキを施し、次いで低温のアルミニウム用半田を被覆した異種金属体をダイスに設置して溶融アルミニウム合金を注湯することにより異種金属体をアルミニウムと融着する方法。」(1頁左下欄3?8行)
〔2b〕「ダイカストの場合にはダイスの寿命や自動注湯その他ダイカスト法の特性から高すぎる注湯温度は採用出来ず、アルミダイカストの場合には640?700℃が従来一般に用いられている。このため、・・・ダイカストの場合にもヒートスポツトの問題の発生が予測される。又、一般にダイカスト製品の肉厚は薄く、且つその加圧充填時には溶湯が飛沫となつて飛来するので殆んど充填完了と同時に凝固も完了し、前記の鋳造法の場合のように異種金属とアルミ合金溶湯の十分な接触時間が得られず相互の拡散は殆んど望めない。従つて、従来単なる鋳包み方式で異種金属をダイカスト時に接合する場合には機械的接合しか得られず、・・・」(1頁右下欄10?21行)
〔2c〕「実施例(2)
SS41鋼を公知の手法によつて脱脂、酸洗、湯洗及び乾燥後、厚さ30μのNiメツキを施し、・・・ダイス内にセツトしてADC12ダイカスト用アルミ合金を700℃で充填した。」(2頁右上欄8?13行)

〔3〕引用例3:特開昭58-112648号公報
〔3a〕「特許請求の範囲
鋳鉄又は鋼製部品の表面に、アルミニウム合金溶湯との融着性の良好なメッキ金属を施したものを焼鈍処理し、しかる後、この鋳鉄又は鋼製部品をアルミニウム合金で鋳包むことを特徴とする複合部材の製造方法。」(1頁左下欄4?9行)
〔3b〕「鋳包み基材たる鋳鉄又は鋼製部品とアルミニウム合金との融着性を改善するため、鋳鉄又は鋼製部品の表面に、アルミニウムに対して融着性の良好な金属、例えば、Ni、Ni-P、・・・等をメッキし、このメッキ層を介して鋳包む方法が行なわれている。
しかし、このようなメッキ層を施す場合、一般には、メッキ処理の際に電解液又は化学メッキ液から水素などのガス成分が発生し、これがメッキ層内部・・・に吸蔵されることとなる。」(1頁左下欄20行?右下欄10行)

3.当審の判断
3-1.引用例1記載の発明
(ア)引用例1の摘示〔1a〕には、鋳造によって、アルミニウム(又はその合金)部材と、異種金属部材とを融着する方法に関し、異種金属部材の接合面にニッケルなどのメッキを施し、その後にアルミニウム溶湯で鋳くるむことが記載されているから、引用例1には、異種金属部材の接合面にニッケルメッキを施し、その後に鋳造によりアルミニウム又はその合金溶湯で鋳くるむ、アルミニウムと異種金属部材の接合方法が記載されているといえる。
(イ)引用例1の摘示〔1a〕には、異種金属部材について、「例えば鋳鉄、・・・などの鉄系金属、又は、銅、チタンなどの異種金属からなる部材」と記載されているから、上記異種金属部材は、銅である態様を包含しているといえる。
(ウ)鋳造により異種金属部材を鋳くるむ際に、異種金属を鋳型内に配置し、溶湯を該鋳型内に注入することは通常のことである。

以上の(ア)?(ウ)の事項を考慮し、摘示〔1a〕の記載を整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
引用例1発明:「銅の接合面にニッケルメッキを施し、その後にメッキされた銅を鋳型内に配置し、溶湯を鋳型内に注入して、アルミニウム又はその合金溶湯で鋳くるむ、アルミニウムと銅の接合方法。」

3-2.本願発明と引用例1発明との対比
本願発明と引用例1発明を対比すると、引用例1発明における「メッキ」、「アルミニウム又はその合金溶湯」は、それぞれ、本願発明における「めっき」、「溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金」に相当する。また、引用例1発明においても、ニッケルメッキにより所定厚さのメッキ層が形成されているといえるから、両者は、
「予め銅の接合面にニッケルめっき加工して、所定厚さのめっき層を形成させ、この銅を鋳型内に配置し、溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金をこの鋳型内に注入して、鋳込む、アルミニウムと銅の接合方法。」である点で一致するが、次の点で相違する。

相違点1:本願発明では、銅の接合面に形成されるニッケルめっきが「無電解ニッケルめっき」であるのに対し、引用例1発明では、それが不明である点

相違点2:本願発明では、銅の接合面に形成されるめっき層の厚さが「20μm以上」であるのに対し、引用例1発明では、銅の接合面に形成されるめっき層の厚さが不明である点

相違点3:本願発明では、鋳込みが「大気中」でなされるのに対し、引用例1発明では、鋳込みが「大気中」でなされるか否か不明である点

3-3.相違点についての検討
(i)相違点1について
「無電解ニッケルめっき」は、本願出願前において周知のものであるし、引用例3の摘示〔3b〕の「化学メッキ液」を用いる旨の記載や次の周知例1の摘示〔周1b〕の記載にみられるように、鋳くるまれる異種金属部材の接合面に施されるニッケルめっきとしても周知のものであるから、引用例1発明において、異種金属部材としての銅の接合面に施されるニッケルめっきを「無電解ニッケルめっき」とすることは、前示の周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。
しかも、本願明細書の「【0012】・・・上記実施の形態例では、ニッケルの無電解めっきとしたが、他のめっき処理でも同様の効果が得られる。」との記載からみて、「無電解ニッケルめっき」と限定した点に格別の技術的意義が存在するとも認められない。

周知例1:特開昭54-21920号公報
〔周1a〕「特許請求の範囲
P6?12重量%および残部Niを主成分とするNi-P合金、またはFe40?60重量%および残部Niを主成分とするNi-Fe合金のメツキを鉄鋼部品の表面に施し、次いでこの鉄鋼部品をアルミニウム合金で鋳包み、前記Ni-P合金またはNi-Fe合金のメツキ層表面にアルミニウム合金を融着させることを特徴とする鋳ぐるみ鋳造法。」(1頁左下欄4?11行)
〔周1b〕「メツキ手段としては、電気メツキまたは無電解メツキ(化学メツキ)を用いることができるが、Ni-P合金の場合には無電解メツキ法によりメツキする方が容易であり、一方Ni-Fe合金の場合には電気メツキ法により容易にメツキすることができる。」(2頁右下欄15行?3頁左上欄1行)
〔周1c〕「合金メツキの厚みは10?60μmであることが望ましく、特に30?50μm程度が最適である。」(3頁左上欄1?3行)

(ii)相違点2について
引用例1の摘示〔1b〕には、異種金属とアルミニウム(又はその合金)との間に脆弱な金属間化合物が生成することを防止するように(すなわち、接合強度が弱くならないように)、めっき層の平均厚さを好ましくは20?30μmとする旨が記載されているし、また、引用例2の摘示〔2c〕、上記周知例1の摘示〔周1c〕の記載にみられるように、鋳包まれる異種金属部材の接合面に形成されるめっき層の厚さを20?60μm程度とすることは、本願出願前において周知の事項であるから、引用例1発明において、銅(異種金属)とアルミニウムとの接合強度を考慮して、形成されるめっき層の厚さを「20μm以上」に包含される20?60μm程度とすることは、引用例1の前示の記載や前示の周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。

(iii)相違点3について
鋳込み(鋳造)を大気中で行うことは、本願出願前においてごく普通の事項であるし、引用例1の摘示〔1c〕の「550℃より高い場合は、ニッケルメッキ層表面に酸化反応が進行する・・・」等の記載にみられるように、引用例1に記載のものは、高温下で酸化される環境である大気中で一連の工程がなされているといえるから、この相違点3は、実質的な相違でないか、仮に実質的な相違であるとしても、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願発明は、引用例1の記載や前示の周知事項から予測できないような格別に顕著な効果を奏するとは認められない。
よって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-29 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-18 
出願番号 特願平11-306337
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 健悟  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 小川 武
市川 裕司
発明の名称 アルミニウムと銅の接合方法  
代理人 藤沢 則昭  
代理人 藤沢 正則  
代理人 藤沢 正則  
代理人 藤沢 昭太郎  
代理人 藤沢 則昭  

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