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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1175558
審判番号 不服2006-9430  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-11 
確定日 2008-04-03 
事件の表示 特願2001-268414「発光素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月14日出願公開、特開2003- 78160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願手続の概要は、次のとおりである。
特許出願 平成13年 9月 5日
拒絶理由通知書送付 平成17年 9月20日
意見書・手続補正書提出 平成17年11月21日
拒絶査定送付 平成18年 4月11日
審判請求 平成18年 5月11日


そして、本願の請求項に係る発明は、平成17年11月21日提出の手続補正書により補正された明細書の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「一つの素子内に複数の発光部分を有するモノリシック・アレイ型の発光素子であって、
前記各発光部分が、n型のGaAs基板上にn型のGaAsバッファ層、n型でAl組成の異なるAlGaAsのペアからなる多重反射膜、n型のAlGaAs下クラッド層、p型またはアンドープのAlGaAs活性層、p型のAlGaAs上クラッド層、およびp型のGaAsコンタクト層が順次エピタキシーされた積層構造の発光ダイオードから構成され、
前記多重反射膜が、Al_(X1)Ga_(1-X1)AsとAl_(X2)Ga_(1-X2)Asのヘテロ接合からなる多層膜(Al組成比X1(0<X1<1)<X2(0<X2<1)、それぞれの屈折率n1>n2)からなり、活性層のAl_(X)Ga_(1-X)AsのAl組成比Xに対して、X1≧X、且つX2≧Xで、前記Al_(X1)Ga_(1-X1)As層のバンドギャップエネルギー(Eg_(X1))が発光波長のエネルギー(Eλ)とEg_(X1)≧Eλの関係にあることを特徴とする発光素子。」(以下、「本願発明」という。)

2.刊行物
(1)引用刊行物
これに対し、原査定の拒絶理由に引用された特開平11-46016号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0079】第3の実施形態
図13は本発明の第3の実施形態に係る端面発光型発光ダイオードアレイチップの構造を示す断面図であり、図13は前記図1の発光ダイオードアレイの出射方向のA-A′矢視断面図である。また、図14はこの発光ダイオードアレイの発光部の平面拡大図である。本実施形態に係る発光ダイオードアレイの構造の説明にあたり前記図1?図3と同一構成部分には同一符号を付している。
【0080】本実施形態に係るアレイ構造は、前記第1、第2実施形態と同様で、n型GaAs基板上に発光アレイが形成されている。この発光アレイの各素子の積層構造は、図13及び図14に示される。
【0081】本実施形態の構造もダブルヘテロ構造、電流狭窄構造及び反射斜面を含んでいる。前記第1、第2の実施形態との構造的な差は、電流狭窄構造及び活性層の下部に、屈折率が異なる半導体層からなる多重反射膜340が設置されている点である。
【0082】電流狭窄構造をつくるためのAlAs層220は、多層反射膜340の最上部層のAlAs層を利用している。
【0083】上記多重反射層340の構造について具体的に説明する。
【0084】感光対ドラムの感度特性を考慮し、発光ダイオードの発光波長は、最も感度高い領域の波長を選択することが望ましい。第1の実施形態で説明したように、発光波長として760nmになるように、活性層をAl_(0.15)Ga_(0.85)Asとしている。多重反射層340は、屈折率の異なる2層を1組として、多数組積層することにより特定の波長領域で反射率を高くすることができるようにしたものである。
【0085】本実施形態では、多層反射層340で吸収が起きないように、かつ積層膜厚をなるべく薄くすることができるようにするために、屈折率の異なる半導体層として、AlAsとAl_(0.2)Ga_(0.8)Asを用いた。760nmでのAlAs及びA_(0.2)Ga_(0.8)As屈折率は、それぞれ約3.1及び3.6である。
【0086】図15は多層反射膜(組層数N=10,15)の反射率の波長依存性を示す図であり、屈折率から、AlAs及びAl_(0.2)Ga_(0.8)Asのそれぞれの膜厚を61m及び54nmした場合の、10層組及び15層組の場合の多層反射膜の反射スペクトルの計算結果を示す。
【0087】図15に示すように、略760nmで最大になり、15層組では90%を超える反射率が得られることがわかる。また、発光ダイオードの駆動電圧(例えば、3mA/ドット流れるときの電圧)を下げるために、多層反射層340を形成しているAlAs層とAl_(0.2)Ga_(0.8)As層は、n型でキャリア濃度を5×10^(17)?1×10^(18)/cm^(3)になるようにした。
【0088】このような多層反射層340の設計の設計を行い、図13に示すように、発光層である活性層240の下方で、バッファ層210の直上にこの多層反射層340を設置することにより、基板200側に出射した光300_(-1)は、多重反射膜340で殆ど反射することができ、上面方向の光300_(-2)となる。反射光300_(-2)は、更に光反射斜面110bで反射され、出射端面110a方向の光300_(-3)となる。
【0089】本実施形態では、第1、第2の実施形態に比べて、上面方向の反射斜面110bで反射された光310(前記図2及び図9)と上述した多層反射膜340と反射斜面110bとで反射された光300_(-3)の両方の光が出射することができるために、出射端面110aから、より高い光出力を得ることができる。
【0090】以上説明したように、第3の実施形態に係る発光ダイオードアレイは、多重反射層340を形成したため、上面方向に出射する光300に加えて、基板裏面方向に出射する光300_(-1)も、多重反射膜340で上面方向に反射させることができるため、出射端面110aから得られる光出力は、多層反射膜がない構造に比較して約2倍にできるというメリットがあり、上記各実施形態の効果をより一層高めることができる。
【0091】なお、上記各実施形態の発光ダイオードアレイにおいて、N型をP型とし、Ρ型をN型とした構造であってもよい。また、分離溝はAlAs層220を残してエッチングする構造となっているが、AlAs層220を残さない構造であってもなんら問題はない。基本的には、各発光部110が少なくとも、それぞれ電気的に分離されていればよい。
【0092】また、上記各実施形態では、電流狭窄構造を作製する方法としてAlAs膜を選択的に酸化し、電流が流れない領域を形成する方法を示しているが、これに限らず、例えば、AlAs層を選択的にフッ酸などによりエッチングすることで、電流狭窄構造を形成することもできる。」
「【符号の説明】
100 発光ダイオードアレイチップ、110 発光部、110_(-1)?110_(-192) 各発光部、120 電極配線、120_(-1)?120_(-192) 各電極配線、130_(-1)?130-_(192) 接続電極、110a 光出射端面、110b 光反射端面、200 GaAs基板、210 n型GaAsバッファ層、220_(-1) 選択酸化層、220_(-2) 非酸化層n型AlAs層、230 n型Αl_(0.4)Ga_(0.6)ΑSクラッド層、240 p型Αl_(0.15)Ga_(0.85)Αs活性層、250 p型Al_(0.4)Ga_(0.6)Αsクラッド層(上部クラッド層)、260 p型GaAsオーミック層、270 上部電極、340 多重反射膜」

以上の記載及び図(特に図13)によれば、引用刊行物には、
「各発光部分が、n型GaAs基板200上にn型GaAsバッファ層210、AlAsとAl_(0.2)Ga_(0.8)Asを1組として多数組積層した多重反射膜340、n型Αl_(0.4)Ga_(0.6)Αsクラッド層230、p型Αl_(0.15)Ga_(0.85)Αs活性層240、p型Al_(0.4)Ga_(0.6)Αsクラッド層(上部クラッド層)250、及びp型GaAsオーミック層260が順次エピタキシーされた積層構造の発光ダイオードから構成された発光ダイオードアレイチップ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)周知刊行物
また、本願発明と引用発明の相違点に係る技術内容が記載された刊行物として、本願出願前に頒布された次のものを挙げることができる。(下線は当審で付与。)

a.特開2001-168461号公報(平成13年6月22日発行)の第4頁第5欄第39?45行に「【0029】n型GaAs傾斜基板10上には、詳細には図示しないがn型不純物であるシリコン(Si)をドーピングした厚さλ/(4nr )(λ:発振波長、nr :媒質の屈折率)のn型Al_(0.9) Ga_(0.1) As膜と厚さλ/(4nr )のn型Al_(0.3)Ga_(0.7) As膜とを交互に40.5周期積層してキャリア濃度2×10^(18)cm^(-3)を得たn型第1反射ミラー層12が設けられている。」と記載されている。

b.特開2001-156395号公報第4頁第5欄第26?30行に「【0021】…n型GaAs基板1の上に、MOCVD法で厚み40nmのn型Al_(0.2)Ga_(0.8)Asと厚み50nmのn型Al_(0.9)Ga_(0.1)Asとの薄層をヘテロ界面に厚み20nmの組成傾斜層を介在させながら交互に積層して30.5ペアの多層膜から成る下部反射鏡層構造2を形成した。」と記載されている。

c.特開2001-94208号公報第2頁第1欄第42?50行に「【0002】…一般にAlGaAsのAl組成が大きくなるにしたがって屈折率は小さくなる。本明細書では、Al組成の小さい層(この場合Al_(0.15)Ga_(0.85)As)を高屈折率層、Al組成の大きい層(この場合Al_(0.95)Ga_(0.05)As)を低屈折率層と呼ぶ。低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した反射鏡をDBR(Distributes Bragg Reflector)ミラーと呼び、これらの層の間の屈折率の差が大きいほど、即ち両層のAl組成比の差が大きいほど、DBRの反射率は大きくなる。」と記載されている。

d.特開2001-85788号公報第2頁第1欄第35?37行に「【0003】…25対のn型Al_(0.2)Ga_(0.8)As層/n型Al_(0.9)Ga_(0.1)As層から成る下部反射鏡層構造110」と記載されている。

e.特開2000-277852号公報の第4頁第6欄第31?33行に「【0023】下部半導体多層反射膜2は、n型のAl_(0.9) Ga_(0.1) As層とn型のAl_(0.3)Ga_(0.7) As層との複数層積層体よりなる」と記載されている。

f.特開2000-269598号公報の第6頁第10欄第10?11行に「【0041】…n型Al_(0.3)Ga_(0.7)As/Al_(0.9)Ga_(0.1)AsDBRミラー13」と記載されている。

3.本願発明と引用発明の比較
本願発明と引用発明を比較する。
引用発明の「発光ダイオードアレイチップ」が「一つの素子内に複数の発光部分を有するモノリシック・アレイ型の発光素子」であることは、引用刊行物の記載からみて明らかである。
そして、引用発明の「n型GaAs基板200」、「n型GaAsバッファ層210」、「多重反射膜340」、「n型Αl_(0.4)Ga_(0.6)Αsクラッド層230」、「p型Αl_(0.15)Ga_(0.85)Αs活性層240」、「p型Al_(0.4)Ga_(0.6)Αsクラッド層(上部クラッド層)250」及び「p型GaAsオーミック層260」が本願発明の「n型のGaAs基板」、「n型のGaAsバッファ層」、「多重反射膜」、「n型のAlGaAs下クラッド層」、「p型またはアンドープのAlGaAs活性層」、「p型のAlGaAs上クラッド層」及び「p型のGaAsコンタクト層」にそれぞれ相当しているものと認められる。
ここで、引用発明の多重反射膜340がn型であることは技術的に明らかであり、また、そのAlAsは、Al組成比が1でGa組成比が0であるAlGaAsであるということができる。
また、AlGaAsにおいてAl組成比の大きいものがAl組成比の小さいものよりその屈折率が小さいことは周知の技術事項である。
さらに、引用発明のp型Αl_(0.15)Ga_(0.85)Αs活性層240のAl組成比は、0.15であるから、多重反射膜340を構成するAlAs及びAl_(0.2)Ga_(0.8)AsのいずれのAl組成比よりも小さくなっており、活性層のバンドギャップエネルギーにより定まる発光波長のエネルギーは、多重反射膜のAl_(0.2)Ga_(0.8)Asのエネルギーギャップより小さい。

以上のことから、両者はともに
「一つの素子内に複数の発光部分を有するモノリシック・アレイ型の発光素子であって、
前記各発光部分が、n型のGaAs基板上にn型のGaAsバッファ層、n型でAl組成の異なるAlGaAsのペアからなる多重反射膜、n型のAlGaAs下クラッド層、p型またはアンドープのAlGaAs活性層、p型のAlGaAs上クラッド層、およびp型のGaAsコンタクト層が順次エピタキシーされた積層構造の発光ダイオードから構成され、
前記多重反射膜が、Al_(X1)Ga_(1-X1)AsとAl_(X2)Ga_(1-X2)Asのヘテロ接合からなる多層膜(Al組成比X1(0<X1<1)<X2(0<X2≦1)、それぞれの屈折率n1>n2)からなり、活性層のAl_(X)Ga_(1-X)AsのAl組成比Xに対して、X1≧X、且つX2≧Xで、前記Al_(X1)Ga_(1-X1)As層のバンドギャップエネルギー(Eg_(X1))が発光波長のエネルギー(Eλ)とEg_(X1)≧Eλの関係にある発光素子。」の発明である点で一致する。

一方、引用発明はX2=1であるのに対し、本願発明はX2<1である点で相違する。
言い換えれば、引用発明は多重反射膜の低屈折率層がAlAsであるのに対し、本願発明は多重反射膜の低屈折率層がGaを含むAlGaAsである点で相違する。

4.相違点についての判断
上記相違点について検討するに、引用発明において、多重反射膜の低屈折率層がAlAsでなければならないとする格別の理由を認めることはできず、また、屈折率の異なるAlGaAsをペアとした多重反射膜において、低屈折率層をGaを含むAlGaAsとしたものは、上記2.(2)で周知刊行物として挙げた各刊行物に記載されているように周知であるから、引用発明における多重反射膜のAlAsを本願発明のごとくGaを含むAlGaAsとすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
また、本願発明により奏されるとする効果についても、上記引用刊行物及び上記周知技術に基づいて当業者が予測可能なものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明は、上記引用刊行物に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-30 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-18 
出願番号 特願2001-268414(P2001-268414)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 知久  
特許庁審判長 稲積 義登
特許庁審判官 吉田 禎治
山村 浩
発明の名称 発光素子およびその製造方法  

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