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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1175631
審判番号 不服2005-2200  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-09 
確定日 2008-04-02 
事件の表示 平成 8年特許願第302887号「電子写真プリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月26日出願公開、特開平10-138549〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願の出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成8年11月14日 本願出願
・平成16年3月19日付け 原審にて拒絶理由通知
・同年5月28日 意見書提出
・同年12月24日付け 原審にて拒絶査定
・平成17年2月9日 本件審判請求
・同年3月11日 手続補正書提出
・平成19年5月28日付け 当審にて拒絶理由通知
・同年7月30日 意見書提出
・同年8月2日 手続補正書提出
第2 当審における拒絶理由の骨子
当審における拒絶理由は次のような理由を含んでいる。
(1)請求項1に係る発明に関して明細書の記載不備があるから、本願は特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。(以下「理由1」という。)
(2)請求項1に係る発明は、特開平7-181720号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。(以下「理由2」という。)

第3 理由1についての当審の判断
1.請求項1の記載
平成19年8月2日付けで補正された明細書によれば、請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】(a)像担持体と、
(b)該像担持体と対向させて配設され、像担持体の表面を帯電させる帯電手段と、
(c)前記像担持体と対向させて配設され、像担持体の表面に静電潜像を形成する露光手段と、
(d)現像ローラ上のトナー層が1層になるようにトナーを現像ブレードによって薄層化し、前記現像ローラ上のトナーを前記像担持体上に形成された静電潜像に付着させてトナー像を形成する現像手段と、
(e)前記トナー像を転写材に転写する転写手段と、
(f)転写されたトナー像を定着する定着手段とを有するとともに、
(g)前記トナーの粒径は、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子のピッチの0.7?1.0倍の範囲に設定され、
(h)前記トナーは、重合法により製造され、粒径が5〔μm〕の分布幅の中に90〔%〕収まるように分布させられることを特徴とする電子写真プリンタ。」

2.記載不備の有無の判断
(1)請求項1に係る発明(以下「本願発明」ということがある。)は「電子写真プリンタ」であるが、その特定事項として、「(d)現像ローラ上のトナー層が1層になるようにトナーを現像ブレードによって薄層化し、前記現像ローラ上のトナーを前記像担持体上に形成された静電潜像に付着させてトナー像を形成する現像手段を有すること」及び「(g)前記トナーの粒径は、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子のピッチの0.7?1.0倍の範囲に設定され」ることを含むことは請求項1の記載から明らかである。
これについて、上記当審が通知した拒絶理由において、以下のように指摘した。
「本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1における「(d)トナー層が1層になるようにトナーを薄層化し、前記静電潜像にトナーを付着させてトナー像を形成する現像手段」という技術事項(以下、「技術事項d」という。)及び「(g)前記トナーの粒径は、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子のピッチの0.7?1.0倍に設定されること」という技術事項(以下、「技術事項g」という。)は、本件出願の発明の詳細な説明の記載で裏付けられているといえなく、また、その技術的意義が本件出願の発明の詳細な説明に十分説明されていない。
上記技術事項d及びgに関して、本件出願の発明の詳細な説明には、「電子写真プリンタにおいて、分解能を高くしようとすると、粒径の小さいトナー15を使用する必要が生じるが、粒径の小さいトナー15を使用すると、転写効率が低くなってしまう。また、現像後の印刷濃度を十分に高くするためには、現像ローラ21上のトナー層の厚さをトナー15の粒径の約2倍にする必要があるが、粒径の小さいトナー15を使用した場合、前記トナー層の厚さを安定させるのが困難である。さらに、例えば、電子写真プリンタの分解能を高くして1200〔dpi〕にしようとすると、粒径が5〔μm〕以下のトナー15を使用する必要が生じるが、粒径が5〔μm〕以下のトナー15は、空気中に浮遊しやすく、環境を汚染してしまう。そこで、前記感光体ドラム11上に設定される格子のピッチをpとし、LEDヘッド13によって形成され、静電潜像を構成する光スポットの径をd1とし、トナーの粒径をd2としたとき、光スポットの径d1は0.7p?1.4pに、トナーの粒径d2は0.7p?1.0pにそれぞれ設定される。」(段落【0014】?【0015】参照)及び「【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、電子写真プリンタにおいては、像担持体と、該像担持体と対向させて配設され、像担持体の表面を帯電させる帯電手段と、像担持体と対向させて配設され、像担持体の表面に静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像にトナーを付着させてトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を転写材に転写する転写手段と、転写されたトナー像を定着する定着手段とを有する。そして、前記トナーの粒径は、前記像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子のピッチの0.7?1.0倍に設定される。この場合、トナーの粒径を大きくすることができるので、現像後の印刷濃度を十分に高くするために、現像手段においてトナーを薄層化するときにトナー層を1層にすることができる。その結果、安定したトナー層を形成することができる。」(段落【0027】?【0028】参照)の記載がある。
しかし、従来の電子写真プリンタと本願のそれとの間で、プリンタ自体としては変わりがないのに、従来のプリンタでは、例えば、1200〔dpi〕のときトナーの粒径を5〔μm〕以下すなわち約0.2p以下とする必要があり、本願発明では、その必要がなくなり、上記技術事項gのように、例えば、1200〔dpi〕のときトナーの粒径を15?21〔μm〕とすることができるようになるとともにトナー層が1層になるようにトナー層が薄層化した現像手段を有するようにした根拠及び理由が、本件出願の明細書の発明の詳細な説明に十分に説明されていない。」
請求人は、当該指摘(説示)に従って請求項1について補正をしていると述べているが、補正後の請求項1では、トナーについて、「重合法により製造され、粒径が5〔μm〕の分布幅の中に90〔%〕収まるように分布させられる」という限定が付加されると共に、現像ローラ上のトナー層を1層にする薄層化が、現像ブレードによるとの限定が付加されている。
しかし、従来のプリンタでは、例えば、1200〔dpi〕のときトナーの粒径を5〔μm〕以下すなわち約0.2p以下とする必要があるのに、格子のピッチの寸法について限定のない本願発明では、その必要がなくなり、例えば、1200〔dpi〕のときトナーの粒径を15?21〔μm〕とすることができるようになるとともにトナー層が1層になるようにトナー層が薄層化した現像手段を有するようにした根拠及び理由が、補正後の発明の詳細な説明にも十分に説明されていない。
以上述べたとおり、本件出願は、本願明細書には請求項1に係る発明につき記載不備があり、特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。

第4 理由2についての当審の判断
「第3」で述べたとおり、請求項1に係る発明については上述のとおりの記載不備があるが、仮に請求項1に係る発明(上記請求項1の記載事項により特定される発明である。以下、「本願発明」という。)について、上記記載不備が存在しないとしても、次のとおり本願発明には進歩性がない。
1.引用例
当審における、平成19年5月28日付けで通知した拒絶理由に引用した、本願の出願日前に頒布された特開平7-181720号公報(以下、「引用例」という。)には、次のア?エの記載が図示とともにある。
ア.「電子写真感光体を支持する感光体支持体と、前記電子写真感光体を所定極性および電位に帯電させる帯電部と、画像信号に基づいて前記電子写真感光体を露光し、静電潜像を形成する露光部と、前記静電潜像を乾式トナーを用いて現像し、トナー像を形成する現像部と、前記トナー像を転写対象に転写する転写部と、前記転写対象に転写された前記トナー像を定着する定着部とを有する電子写真方式の画像形成装置であって、前記乾式トナーが粒径0.1?5μmの小粒径トナーを凝集し、粒径7?100μmとした凝集トナーで、前記現像部、前記転写部または前記現像部と前記転写部の間に前記凝集トナーを崩壊するトナー崩壊手段を有することを特徴とする画像形成装置。」(【請求項3】参照)
イ.「【従来の技術】電子写真は、感光体上に静電潜像を形成し、トナーにより現像した静電潜像を転写することによって、記録紙上に画像を形成する。電子写真は使用するトナーにより乾式法と湿式法に区別され、溶媒が不要で手入れが容易な乾式法が小型の電子写真装置では主流となっている。乾式法は湿式法に比べて大きな粉体トナーを用いるため、トナーの大きさで上限が定まる解像度は劣っており、細かい潜像の現像は不得手である。しかし、電子写真装置に対する高解像度化の要求は高く、乾式法の電子写真装置においても300ドット/インチ(以下dpiとする)から600dpi程度の装置が開発されてきている。これらの装置においては、解像度向上のためトナーの小粒径化が図られており、粒径7?8μm程度のトナーも実用化されている。【発明が解決しようとする課題】しかし、トナーの小粒径化を進めると、粒径が小さくなるに従いその挙動が変化するようになる。特に、粒径が5μm以下になると、飛散するトナーが増加し画像はもとより環境を汚染したり、流れ性が悪化するためにトナーの帯電分布が不均一化し、潜像の再現性が逆に劣化する等の問題が生じる。そのため、従来の電子写真装置で取扱いできるトナーの粒径には限度があった。【課題を解決するための手段】本発明の目的は、取扱いいが容易で、しかも高精細潜像の再現性も高い乾式電子写真用トナーを提供することにある。また、本発明の別の目的は、本発明によるトナーに適した画像形成方法および画像形成装置を提供することにある。すなわち、本発明によれば、粒径0.1?5μmの小粒径トナーを凝集してなる、7?100μm程度の、取扱いいが容易で、しかも高精細潜像の再現性も高い凝集トナーが得られる。」(段落【0002】?【0004】参照)
ウ.「本発明の凝集トナーを構成する小粒径トナーとしては、現像方法に応じて種々のトナーが使用できる。具体的には体積固有抵抗値が10^(13)Ω・cm以上の絶縁性トナー、同じく10^(5) ?10^(13)Ω・cm程度の半導電性トナー、マグネタイト、フェライト等磁性粉を含む磁性トナー、磁性粉を含まない非磁性トナー、染料や顔料等の着色剤を含むカラートナー、電荷制御剤、離型剤、外添剤等を含むトナー、またはこれらの特性を複合的に有するトナーを用いることができる。小粒径トナーおよび凝集トナーの粒径は、必要な解像度によって定めればよい。例えばレーザービームを用いた電子写真装置においては、レーザービーム1ドットに対して最低1つの凝集トナーが対応し、かつ隙間なく塗りつぶしができればよいから、例えば1200ドット/インチの解像度が必要なら、2.54cm/1200×(2の平方根)=約30μm、同様に600ドット/インチなら約60μmが凝集トナーの粒径上限値となる。一方、小粒径トナーの粒径は、小さいほど効果が大きいが、トナー製造技術、造粒技術等の観点から0.1?5μm程度が好ましい。ここで、本発明における粒径表示は、光散乱法等で測定される、体積基準による粒度分布におけるメジアン径(積算分布の50%に相当する径)による。」(段落【0006】?【0007】参照)
エ.「図1は、本発明の電子写真装置の実施例を示す機構図である。図から明らかなように、トナー崩壊部5が加わった以外は、通常の乾式電子写真装置と同様である。すなわち、感光体ドラム1上に塗布された感光体をスコロトロン等の帯電器2で均一に帯電し、半導体レーザー等の発光素子を有する露光部3により感光体上に静電潜像を形成する。現像器4は凝集トナーを用いて静電潜像を現像し、この静電潜像上の凝集トナーをトナー崩壊部5内の崩壊用デバイスが崩壊することによって、凝集トナーを構成する小粒径トナーによって更に静電潜像の現像が進行する。現像後の静電潜像は、小粒径トナーと逆極性の電圧を印加されたバイアスローラ11により給紙装置8から搬送ベルト9上を搬送される転写用紙81に転写される。転写されたトナー(小粒径トナー)は、定着ローラ10で熱定着され、装置外へ排出される。」(段落 【0028】参照)
記載ア?エを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「(a)感光体ドラム1と、
(b)該感光体ドラム1と対向させて配設され、感光体ドラム1の表面を帯電させる帯電器2と、
(c)前記感光体ドラム1と対向させて配設され、感光体ドラム1の表面に静電潜像を形成する露光部3と、
(d)粒径0.1?5μmの小粒径トナーを凝集し粒径7?100μmとした凝集トナーを前記感光体ドラム1上に形成された静電潜像に付着させた凝集トナー像を形成する現像器4と、
(e)静電潜像上の前記凝集トナー像をトナー崩壊部5内の崩壊用デバイスが崩壊することによって形成される、凝集トナーを構成する小粒径トナーによるトナー像を転写用紙81に転写するバイアスローラ11と、
(f)転写されたトナー像を定着する定着ローラ10とを有する画像形成装置。」(以下「引用発明」という。)

2.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「感光体ドラム1」、「帯電器2」、「露光部3」、「現像器4」、「転写用紙81」、「バイアスローラ11」、「定着ローラ10」及び「画像形成装置」は、それぞれ、本願発明の「像担持体」、「帯電手段」、「露光手段」、「現像手段」、「転写材」、「転写手段」、「定着手段」及び「電子写真プリンタ」に相当している。
また、引用発明の「粒径0.1?5μmの小粒径トナーを凝集し粒径7?100μmとした凝集トナー」と本願発明の「トナー」とは、現像手段により像担持体上の静電潜像に付着された後転写手段により転写材に転写され定着されるトナーである点で共通している。
さらに、引用発明の「凝集トナー像」は、静電潜像に対応するトナー像である点で本願発明の「トナー像」と共通し、また、引用発明の「静電潜像上の凝集トナー像をトナー崩壊部5内の崩壊用デバイスが崩壊することによって形成される、凝集トナーを構成する小粒径トナーによるトナー像」も、静電潜像に対応するトナー像である限度で本願発明の「トナー像」と共通している。
したがって、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
[一致点]
(a)像担持体と、
(b)該像担持体と対向させて配設され、像担持体の表面を帯電させる帯電手段と、
(c)前記像担持体と対向させて配設され、像担持体の表面に静電潜像を形成する露光手段と、
(d)トナーを前記像担持体上に形成された静電潜像に付着させてトナー像を形成する現像手段と、
(e)前記トナー像を転写材に転写する転写手段と、
(f)転写されたトナー像を定着する定着手段とを有する電子写真プリンタ。
[相違点]
A.転写されるトナー像が、本願発明では、現像されたトナー像であるのに対して、引用発明では、現像されたトナー像をトナー崩壊部5内の崩壊用デバイスが崩壊することによって形成、変化させたトナー像である点。
B.トナーの粒径が、本願発明では、像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子のピッチの0.7?1.0倍の範囲に設定されると特定されるのに対して、引用発明ではそのように特定されていない点。
C.トナーについて、本願発明では、重合法により製造され、粒径が5〔μm〕の分布幅の中に90〔%〕収まるように分布させられると特定されるのに対して、引用発明ではそのように特定されていない点。
D.現像手段が、本願発明では、現像ローラ上のトナー層が1層になるようにトナーを現像ブレードによって薄層化し、前記現像ローラ上のトナーを前記像担持体上に形成された静電潜像に付着させてトナー像を形成する現像手段であるのに対して、引用発明では、その具体的構成が定かでない点。
[相違点の判断]
相違点A、Bについて
電子写真プリンタにおいて、転写されるトナー像が現像されたトナー像であること、言い換えると、現像時と転写・定着との間でトナー像のトナー粒子の径が転写・定着による粒径の変化を除いて変化しないトナーを使用することは、きわめて普通のことであるから、引用発明において、相違点Aのように、転写されるトナー像が現像されたトナー像であるようにすること、言い換えると、現像時と転写・定着との間でトナー像のトナー粒子の径が転写・定着による粒径の変化を除いて変化しないトナーを使用することは、当業者が想到容易である。
ところで、上記引用例には、「乾式法は湿式法に比べて大きな粉体トナーを用いるため、トナーの大きさで上限が定まる解像度は劣っており、細かい潜像の現像は不得手である。しかし、電子写真装置に対する高解像度化の要求は高く、乾式法の電子写真装置においても300ドット/インチ(以下dpiとする)から600dpi程度の装置が開発されてきている。これらの装置においては、解像度向上のためトナーの小粒径化が図られており、粒径7?8μm程度のトナーも実用化されている。【発明が解決しようとする課題】しかし、トナーの小粒径化を進めると、粒径が小さくなるに従いその挙動が変化するようになる。特に、粒径が5μm以下になると、飛散するトナーが増加し画像はもとより環境を汚染したり、流れ性が悪化するためにトナーの帯電分布が不均一化し、潜像の再現性が逆に劣化する等の問題が生じる。そのため、従来の電子写真装置で取扱いできるトナーの粒径には限度があった。」(上記記載イ参照)と記載されている。
当該記載によると、電子写真プリンタに使用されるトナーの粒径は、プリンタ自体の解像度(像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子ピッチの寸法)、潜像の再現性及び環境汚染等を考慮して適宜設定可能であることが記載されているといえる。
また、同じく上記引用例には、「小粒径トナーおよび凝集トナーの粒径は、必要な解像度によって定めればよい。例えばレーザービームを用いた電子写真装置においては、レーザービーム1ドットに対して最低1つの凝集トナーが対応し、かつ隙間なく塗りつぶしができればよいから、例えば1200ドット/インチの解像度が必要なら、2.54cm/1200×(2の平方根)=約30μm、同様に600ドット/インチなら約60μmが凝集トナーの粒径上限値となる。一方、小粒径トナーの粒径は、小さいほど効果が大きいが、トナー製造技術、造粒技術等の観点から0.1?5μm程度が好ましい。ここで、本発明における粒径表示は、光散乱法等で測定される、体積基準による粒度分布におけるメジアン径(積算分布の50%に相当する径)による。」(上記記載ウ参照)と記載されている。
当該記載は、像担持体上の静電潜像を形成する1つのドットに付着される最低1つの凝集トナーの粒径の上限値を、ドットを正方形としたときのその対角線の長さとすれば、隙間なく塗りつぶすことができる旨説示している。
当該記載における「ドット」の幅は、「像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子のピッチ」の幅に他ならず、また、当該記載におけるトナーの粒径とドット寸法との相互の関係が、凝集トナーに限らず、言い換えると、現像時と転写・定着との間でトナー像のトナー粒子の径が転写・定着による粒径の変化を除いて変化しないトナーにも当てはまることは自明であり、さらに、当該記載の説示は、現像されたトナーの粒径が、転写・定着後においても不変であることを前提にしたものであることは自明である。
ゆえに、当該記載から、トナーが凝集トナーであるかそうでないかに限らず、転写・定着後のトナーの粒径を、像担持体の表面に静電潜像を形成するために設定される格子のピッチの2の平方根(約1.4)倍以下の範囲に設定されることが記載されているといえる。
そうすると、引用発明において、相違点Aのように、転写されるトナー像が現像されたトナー像であるようにする際に、通常、転写・定着によってトナーの径変化があるので、現像に用いるトナーの粒径を転写・定着後の転写材上の1ドット径より少し小さいものとして、相違点Bのように、トナーの粒径を0.7?1.0倍の範囲に設定されるようにすることは、上記引用例のイ、ウの記載から、当業者が容易に想到できるといえる。
相違点Cについて
電子写真プリンタに使用されるトナーを、重合法により製造されるものとして、その粒度分布をなるべくシャープにするようにすることは、特開昭62-157050号公報、特開平8-286506号公報、特開平4-220665号公報、特開平3-43747号公報等にみられるように周知であり、また、粒径が5〔μm〕の分布幅の中に90〔%〕収まるように分布させられるとした点は、格別臨界的意義をもつものでなく、当業者が適宜想起できる範囲内のことと認められる。
してみると、引用発明において相違点Cに係る本願発明の構成を具備することは、当業者が適宜なす単なる周知技術の適用によるものと認められる。
相違点Dについて
一般に、電子写真プリンタにおける現像手段の現像ローラ上のトナー層を何層にするかは、現像効率、印刷品質等を勘案して当業者が適宜設定可能な事項である。
また、現像ローラ上のトナーを現像ブレードによって薄層化し、前記現像ローラ上のトナーを前記像担持体上に形成された静電潜像に付着させてトナー像を形成する現像手段は、特開昭60-229065号公報にみられるように周知である。
因みに、当該周知例の特開昭60-229065号公報には、現像ローラ上のトナー層を1層にするとの直接的な記載がないものの、そうなることが可能であることは当業者にとって自明である。例えば、特開平4-212173号公報の「トナー担持体をエンドレス状にして、これを繰り返し使用できるようにすると、上記の問題は解決されるが、非磁性一成分トナーを用いるこのような方式が、特開昭60-229065号公報に開示されている。該提案では、弾性の均一化部材を現像剤担持体ローラに当接して薄層を形成し、交流及び直流の現像バイアスを印加して、潜像の現像を行なっている。しかし、この方法では形成されるトナー層がほぼ1層になり、」(段落【0009】参照)と記載されているとおりである。
してみると、引用発明において相違点Dに係る本願発明の構成を具備することは、当業者が適宜なす単なる周知技術の適用によるものと認められる。
以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとして特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、明細書の記載が不備のため、特許法36条4項及び6項に規定する要件を満たしておらず、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-30 
結審通知日 2008-02-05 
審決日 2008-02-18 
出願番号 特願平8-302887
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B41J)
P 1 8・ 121- WZ (B41J)
P 1 8・ 537- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 名取 乾治
菅藤 政明
発明の名称 電子写真プリンタ  
代理人 川合 誠  
代理人 清水 守  

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