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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D |
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管理番号 | 1175681 |
審判番号 | 不服2005-4827 |
総通号数 | 101 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-05-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-03-18 |
確定日 | 2008-02-28 |
事件の表示 | 平成6年特許願第518217号「s-トリアジン紫外線吸収剤により安定化された電着コート/ベースコート/クリアーコート仕上げ材」拒絶査定不服審判事件〔平成6年8月18日国際公開、WO94/18278、平成8年7月16日国内公表、特表平8-506608〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、1994年2月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年2月3日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成13年1月31日付け、及び平成16年8月24日付けで手続補正書が提出され、同年12月13日付けで拒絶査定がされ、平成17年3月18日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月15日付けで手続補正がされたものである。 第2 平成17年4月15日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成17年4月15日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 平成17年4月15日付けの手続補正 平成17年4月15日付け手続補正(以下「本願補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに補正するものである。 「(a)金属基材に直接付着している電着コートプライマーと、 (b)電着コートに直接付着しかつ被膜形成結合剤および有機顔料もしくは無機顔料またはそれらの混合物を含むベースコートもしくはカラーコートと、 (c)ベースコートに直接付着しかつ被膜形成結合剤を含むクリアーコートと、 (d)ベースコートもしくはクリアーコートのいずれか中、またはベースコートおよびクリアーコートの両方中に含まれる安定化有効量の、少なくとも1つのトリス-アリール-s-トリアジン紫外線吸収剤 からなる、自動車またはトラックの仕上げ用コーティング系。」 2 補正の適否 (1) 本願補正は、本願補正前の請求項の末尾における「ポリマー被覆組成物。」を「、自動車またはトラックの仕上げ用コーティング系。」と補正するものである。 しかしながら、かかる補正は、発明のカテゴリーを変更するものであって、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を概念的により下位の事項とするものとはいえず、したがって、本願補正は、特許法17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮(すなわち、いわゆる限定的減縮)を目的とするものではなく、かつ、請求項の削除、誤記の訂正、及び明りょうでない記載の釈明の何れかを目的とするものでもない。 したがって、本願補正は、特許法17条の2第4項の規定に違反するものである。 (2) 以上のとおり、本願補正は特許法17条の2第4項の規定に違反するため、却下されるべきことは明らかであるが、念のため、本願補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(すなわち、特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)否かについて、以下、検討しておく。 (ア) 本願補正発明 本願補正発明は、先に「第2 1」に記載したとおりのものである。 (イ) 刊行物の記載事項について 原査定の拒絶の理由において引用された特開平4-214785号公報(以下、「刊行物1」という。)、及び周知慣用の技術の例として提示された特開平2-273584号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。 (a) 刊行物1(特開平4-214785号公報)の記載事項について 刊行物1には以下の事項が記載されている。 a 「【請求項1】 A)結合剤、B)硬化触媒として、有機金属化合物、及び/又はアミン、及び/又はアミノ基含有樹脂、及び/又はホスフィン、及びC)光、熱および酸素により引き起こされる損傷に対する安定剤として、次式I ・・・(中略)・・・ で表わされる化合物からなるコーティング組成物。 【請求項15】 自動車用仕上げ塗料としての請求項1記載のコーティング組成物の使用方法。」 b 「塗膜の光安定性を高めるのが望まれるとき、光安定剤、好ましくは、UV吸収剤が一般に添加される。コーティング組成物に対して最も広範囲に使用される型のUV吸収剤は2-ヒドロキシベンゾフェノン及び2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールである。硬化剤として有機金属化合物、アミンまたはホスフィンを含むコーティング組成物にUV吸収剤を添加することは、光安定剤と硬化触媒の反応によって明らかに生じる変色を増加させる。UV吸収剤により起こされる他の有害な影響は、硬化触媒が遮蔽され、その結果塗膜が十分に硬化しないということである。UV吸収剤の芳香族ヒドロキシル基は多分塩基のキレート化を起こすであろう。」(段落【0003】) c 「【発明が解決しようとする課題】そのように触媒を添加したコーティング組成物に厄介な結果を引き起こさないUV吸収剤をさがす中で、2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンのある種の誘導体はたいへん良好なUV吸収剤であり、そしてキレート化に影響するフェノール性ヒドロキシル基を含むにもかかわらず、上記の他のUV吸収剤に関する欠点をもたないことが見出された。」(段落【0004】) d 「コーティング組成物は水性容液または分散液でもありうる。媒体は有機溶媒と水の混合物でもありうる。コーティング組成物は高固体塗料または無溶媒(粉末-コーティング組成物)でもありうる。顔料は無機、有機または金属顔料でもよい。」(段落【0015】?【0016】) e 「本発明のコーティング組成物はいかなる基質でも、例えば金属、木材、プラスチックスまたはセラミック材料に適用できる。それら好ましくは、自動車産業の仕上げ塗料として使用される。仕上げ層が二層、着色された下塗層および着色されていない上塗り層からなるとき、本発明のコーティング組成物は、上塗り層か、下塗層か、それら両方の層に使用されるが、上塗り層が好ましい。 本発明のコーティング組成物は慣用の技術、例えばはけ塗り、噴霧、塗装、浸漬または電気泳動によって基質に適用される。結合剤により、仕上げ層は室温で、または加熱によって硬化される。仕上げ層は好ましくは50?150℃の温度範囲で硬化される。粉末-コーティング組成物は高温でも硬化される。得られた仕上げ層は優れた光安定性および高められた熱酸化に対する耐性を持つ。」(段落【0038】?【0039】) (b) 刊行物2(特開平2-273584号公報)の記載事項について 刊行物2には以下の事項が記載されている。 f 「【特許請求の範囲】 着色顔料、メタリック顔料の少なくとも1種を配合したベースコート用塗料を塗装した未乾燥塗面に (a)一分子中に不飽和基を1個以上含有する反応性オリゴマー、ラジカル重合性ビニル系単量体の少なくとも1種65?90重量% (b)次式 ・・・(中略)・・・ で表される化合物 10?35重量% (c)金属ドライヤー 0?1.0重量% (d)重合開始剤 0.1?3.0重量% からなるクリア塗料組成物を塗装し、二層同時に架橋硬化せしめることを特徴とする塗膜形成方法。」 g 「〔産業上の利用分野〕 本発明は、自動車用途の如き美粧性、塗膜性能及び耐候性に優れ、ベースコートとクリアトップコートとを同時に常温硬化もしくは加熱硬化せしめる新規の塗膜形成方法に関するものである。」(1頁右下欄15?20行) h 「本発明を実施するに際して用いるベースコート塗料は、特に制限はなく、自動車用ベースコートとして用いられている公知のものを用いればよい。すなわち、基体樹脂にアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性樹脂等を用い、架橋剤としてアミノ樹脂、ポリイソシアネート等を組合せた塗料を用いるのが一般である。」(2頁左下欄12?18行) i 「本発明の塗膜形成法は、被塗物に直接、または下塗り塗装もしくはさらに中塗り塗装した被塗物に適用することができる。下塗り塗装および中塗り塗装には、すでに公知のものが使用でき、例えば、下塗り塗装としては、カチオン型もしくはアニオン型の電着塗料、常温乾燥性もしくは加熱硬化型の水性もしくは有機溶剤型下塗り塗装などを用いることができ、中塗り塗装としては、ポリエステル樹脂系もしくは脂肪酸変性アルキド樹脂系の塗料などがあげられる。」(4頁左下欄2?11行) (c) 刊行物3(特開平4-372668号公報)の記載事項について また、今回、念のために、周知例の一つとして提示する特開平4-372668号公報(以下、「刊行物3」という。)、には以下の事項が記載されている。 j 「【請求項2】金属粉及び/又はマイカ粉と硬化性樹脂とを必須成分とするベースコート用塗料組成物を塗装してベースコート塗膜を形成させ、次いで形成させた塗膜面に波長が約280?320nm範囲及び約321?380nm範囲のそれぞれに最大の吸収域をもつ2種類の紫外線吸収剤と硬化性樹脂とを必須成分として含有するクリヤー上塗り塗料組成物を塗装しクリヤー塗膜を形成させ、しかるのち両塗膜を硬化させることを特徴とする塗膜形成方法。」(特許請求の範囲、請求項2) k 「自動車の上塗り塗装において、メタリック粉末を含有するベースコート用塗料を塗装し、次いでクリヤートップコート用塗料を塗装し、加熱硬化させる、いわゆる2コート1ベーク塗装方法が一般的におこなわれている。」(段落【0005】) l 「ベースコート塗膜を形成させるためのベースコート用塗料組成物は、金属粉及び/又はマイカ粉と硬化性樹脂とを必須成分とするものであり、従来、2コート1ベーク用に使用されている公知のものが使用できる。」(段落【0018】) m 「上記ベースコート用塗料組成物を塗装するための基材としては、好ましくは化成処理した鋼板に電着塗装を塗装し、中塗り塗料(省略する場合もある)を塗装した塗膜、各種プラスチック素材に適したプライマーを塗装し、中塗り塗料(省略する場合もある)を塗装した塗膜などを基材として用いるのが良い。」(段落【0021】) (ウ) 対比・判断 (a) 刊行物1に記載された発明 (i) 刊行物1に記載された発明は、 「【請求項1】 A)結合剤、B)硬化触媒として、有機金属化合物、及び/又はアミン、及び/又はアミノ基含有樹脂、及び/又はホスフィン、及びC)光、熱および酸素により引き起こされる損傷に対する安定剤として、次式I ・・・(中略)・・・ で表わされる化合物からなるコーティング組成物。」、及び 「【請求項15】 自動車用仕上げ塗料としての請求項1記載のコーティング組成物の使用方法。」 に関するもの(刊行物1の摘示a)であって、「そのように触媒を添加したコーティング組成物に厄介な結果を引き起こさないUV吸収剤をさがす中で、2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンのある種の誘導体はたいへん良好なUV吸収剤であり、そしてキレート化に影響するフェノール性ヒドロキシル基を含むにもかかわらず、上記の他のUV吸収剤に関する欠点をもたないことが見出された。」こと(刊行物1の摘示d)、及び刊行物1に記載された発明のコーティング組成物は、「自動車産業の仕上げ塗料として使用される」こと(刊行物1の摘示e)、「仕上げ層が二層、着色された下塗層および着色されていない上塗り層からなるとき、本発明のコーティング組成物は、上塗り層か、下塗層か、それら両方の層に使用されるが、上塗り層が好ましい。」こと(刊行物1の摘示e)、「本発明のコーティング組成物は慣用の技術、例えばはけ塗り、噴霧、塗装、浸漬または電気泳動によって基質に適用される。結合剤により、仕上げ層は室温で、または加熱によって硬化される。仕上げ層は好ましくは50?150℃の温度範囲で硬化される。」こと(刊行物1の摘示e)、が記載されている。 (ii) 以上によれば、刊行物1には、 「(b)着色された下塗層と、 (c)下塗層に直接付着した上塗り層と、 (d)上塗り層か、下塗層か、それら両方の層に使用される、式Iで表される2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンのある種の誘導体であるUV吸収剤 からなる、自動車の仕上げ用コーティング系。」 の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (b) 本願補正発明と引用発明1との対比 (i) まず、刊行物1において式Iで表される化合物である、2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンのある種の誘導体は、トリス-アリール-s-トリアジン化合物であること、また、「そのように触媒を添加したコーティング組成物に厄介な結果を引き起こさないUV吸収剤をさがす中で、2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンのある種の誘導体はたいへん良好なUV吸収剤であり、そしてキレート化に影響するフェノール性ヒドロキシル基を含むにもかかわらず、上記の他のUV吸収剤に関する欠点をもたないことが見出された。」(刊行物1の摘示c)と記載されていること、からみて、刊行物1に記載された発明は、安定化有効量のトリス-アリール-s-トリアジンをUV吸収剤、すなわち紫外線吸収剤として用いるものであることは明らかである。 また、仕上げ層が二層、すなわち下塗層および上塗層からなるとき、下塗層のことをベースコート層といい、上塗層のことをクリアーコート層ということは周知である。 (ii) 以上の点を踏まえた上で本願補正発明と引用発明1とを対比すると、両者は、 「(b)着色されたベースコートと、 (c)ベースコートに直接付着しかつ被膜形成結合剤を含むクリアーコートと、 (d)ベースコートもしくはクリアーコートのいずれか中、またはベースコートおよびクリアーコートの両方中に含まれる安定化有効量の、トリス-アリール-s-トリアジン紫外線吸収剤 からなる、自動車の仕上げ用コーティング系。」 である点で一致するが、以下のア?ウの点で一応相違すると認められる。 ア (a)であるベースコート層の下層に関し、本願補正発明が、「金属基材に直接付着している電着コートプライマーと、」と規定するのに対し、引用発明1においてはかかる規定はなされていない点、 イ (b)のベースコートについて、本願補正発明が「電着コートに直接付着しかつ被膜形成結合剤および有機顔料もしくは無機顔料またはそれらの混合物を含む」と規定するのに対し、引用発明1においてはかかる規定はなされていない点、 ウ (c)のクリアーコートについて、本願補正発明が「かつ被膜形成結合剤を含む」と規定するのに対し、引用発明1においてはかかる規定はなされていない点。 (以下、これらの一応の相違点を、それぞれ「相違点ア」、「相違点イ」、及び「相違点ウ」という。) (c) 相違点についての判断 ア 相違点アについて 自動車の仕上げ用コーティング系において、金属基材に直接付着している(電着コートプライマーよりなる)電着コートを仕上げ層の下に設けることは周知である(例えば、刊行物2の摘示i、刊行物3の摘示m)から、引用発明1のベースコートの下に、金属基材に直接付着している電着コートプライマーを設けることは当業者が容易に想到することができたものである。 イ 相違点イについて まず、上記の相違点アで指摘したように、自動車の仕上げ用コーティング系において、金属基材に直接付着している(電着コートプライマーよりなる)電着コートを仕上げ層の下に設けることは周知であるし、また、ベースコートは仕上げ層の下部にあるから、電着コートに直接付着しているベースコートを設けることは当業者が容易に想到することができたものである。 そして、引用発明1のコーティング組成物には結合剤が含まれている(刊行物1の摘示a、摘示e)ところ、この結合剤とは、本願補正発明にいう被膜形成結合剤に対応することは明らかであるし、しかも、ベースコートに被膜形成結合剤を含ませることは周知である(例えば、刊行物2の摘示h、刊行物3の摘示j)。 更に、刊行物1には「コーティング組成物は高固体塗料または無溶媒(粉末-コーティング組成物)でもありうる。顔料は無機、有機または金属顔料でもよい。」(刊行物1の摘示d)と記載されているので、引用発明1に記載された「着色された下塗層」(刊行物1の摘示e)とするために、有機顔料もしくは無機顔料を用いて着色することは当業者が容易に想到することができたものである。 したがって、以上をまとめると、引用発明1のベースコートについて、「電着コートに直接付着しかつ被膜形成結合剤および有機顔料もしくは無機顔料を含む」ものとすることは当業者が容易に想到することができたものである。 ウ 相違点ウについて 引用発明1のコーティング組成物には結合剤が含まれている(刊行物1の摘示a、摘示e)ところ、この結合剤とは、本願補正発明にいう被膜形成結合剤に対応することは明らかであるし、しかも、クリアーコートに被膜形成結合剤を含ませることは周知である(例えば、刊行物2の摘示f、刊行物3の摘示j)。 したがって、相違点ウは実質的な相違点ではないか、あるいは当業者が容易に想到することができたものである。 しかも、「相違点ア」、「相違点イ」、及び/又は「相違点ウ」に係る構成が存在することにより、本願補正発明が格別顕著な効果を奏し得たものとも認めることができない。 (d) 小括 以上のとおり、上記各相違点は実質的な相違点ではないか、あるいは当業者が容易に想到することができたものであり、しかも、本願補正発明がこれらの相違点に係る構成により格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願補正発明は、引用発明1、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願補正発明は独立特許要件を満たさないので、本願補正は、特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反する。 3 請求人の主張について 請求人は、以下のように主張する。 (1) 「審査官の引用した『塗装の事典』は1980年の発刊で、本願の優先日及び出願日である1993年及び1994年よりも10年以上も前に発刊されたものであり、必ずしも本願の出願当時の技術認識が正しく反映されたものとはいえない。」(平成17年4月25日付けの審判請求書の手続補正書、3頁35?37行)とした上で、甲第1号証(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry(第5版、1991年発行)、第A18巻、518-519頁)、及び甲第2号証(同、521頁)を提示して、「本願の優先日及び出願日(1993年及び1994年)当時において、当業者は、自動車及びトラックにおいては優れた仕上がり外観(塗面平滑性、鮮映性など)が重要であるため、自動車及びトラックにプライマー、中塗り及びトップコートを含むコーティング系を用いて塗装していたのであり、そのような高品質の仕上げは、中塗りが使用されたときのみ達成される(「塗装の事典」参照。)のである。そのため、本願の優先日及び出願日(1993年及び1994年)当時において、当業者といえども、中塗り(充填層)を用いない自動車及びトラックのためのコーティング系の使用を容易に思い付くものでない。・・・ そして、上記のような優れた効果を有するからこそ、本発明の自動車またはトラックの仕上げ用コーティング系は、充填層(中塗り)を用いずに、高品質の仕上げを得ることができるのである。」(平成17年4月25日付けの審判請求書の手続補正書、3頁46行?4頁15行) (2) 「既に、平成16年8月24日の意見書の中で示した試験結果において、本願の請求項に記載の、トリス-アリール-s-トリアジン紫外線吸収剤を含むコーティング系が、他の紫外線吸収剤を含む同様のコーティング系に比して遥かに高い光沢保持性を有することを報告した。この優位性は、当時の技術水準において通常使用される紫外線吸収剤であるベンゾトリアゾール類、オキサニリド類及び桂皮酸類を含むコーティング系との比較によっても同様に示された。」(同、4頁7?12行) しかしながら、請求人の上記(1)の主張については、 (a) まず、請求人が提示する甲第1号証には、確かに中間コート、すなわち中塗り(充填層)に関する解説は記載されているが、甲第1号証に記載されている内容は、抗腐食プライマー、中間コート、及びトップコート系についてそれぞれ解説したものにすぎず、自動車及びトラックに、中塗りを含むコーティング系を用いることが必要不可欠であることを示すものではない。 (なお、甲第2号証にも、自動車及びトラックに、中塗りを含むコーティング系を用いることが必要不可欠であることを示すものではない。) (b) そして、公報発行年月日が本願の優先日及び出願日(1993年及び1994年)に近い、刊行物2(公開日:1990年11月8日)、及び刊行物3(同:1992年12月25日)に、「本発明の塗膜形成法は、被塗物に直接、または下塗り塗装もしくはさらに中塗り塗装した被塗物に適用することができる。」(刊行物2の摘示i。下線は審決で付記、以下同様。)、「上記ベースコート用塗料組成物を塗装するための基材としては、好ましくは化成処理した鋼板に電着塗装を塗装し、中塗り塗料(省略する場合もある)を塗装した塗膜、各種プラスチック素材に適したプライマーを塗装し、中塗り塗料(省略する場合もある)を塗装した塗膜などを基材として用いるのが良い。」(刊行物3の摘示m)と記載されているように、本願の優先日及び出願日(1993年及び1994年)当時においても、自動車の仕上げ用コーティング系において、中塗り(充填層)を省略すること、すなわち、電着コート(プライマー)に直接トップコートを塗装することも周知であったのである。 また、請求人の上記(2)の主張については、引用発明1には、トリス-アリール-s-トリアジンのある種の誘導体はたいへん良好な紫外線吸収剤であること(刊行物1の摘示c)、及び、得られた仕上げ層は優れた光安定性を持つこと(刊行物1の摘示e)、が記載されている。そして、紫外線吸収剤を樹脂に添加する場合、光安定性を持つといえば、高い光沢保持性を有することをも意味することが周知である(例えば、本願明細書4頁下から2行、及び5頁5行に従来技術として記載されている、欧州特許出願公開第444323号明細書、及び欧州特許出願公開第483488号明細書参照。)から、引用発明1が高い光沢保持性を有することは、当業者が予想し得る程度のことである。 したがって、平成17年4月15日付けで手続補正された本願明細書の記載はもとより、平成16年8月24日の意見書に示された試験結果をみても、本願補正発明が格別顕著な効果を奏し得たものと認めることができない。 したがって、請求人の上記(1)及び上記(2)の主張は採用できない。 4 まとめ よって、本願補正は、特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本願補正は上記のとおり却下されたから、この出願の請求項1に係る発明は、平成16年3月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。 「(a)金属基材に直接付着している電着コートプライマーと、 (b)電着コートに直接付着しかつ被膜形成結合剤および有機顔料もしくは無機顔料またはそれらの混合物を含むベースコートもしくはカラーコートと、 (c)ベースコートに直接付着しかつ被膜形成結合剤を含むクリアーコートと、 (d)ベースコートもしくはクリアーコートのいずれか中、またはベースコートおよびクリアーコートの両方中に含まれる安定化有効量の、少なくとも1つのトリス-アリール-s-トリアジン紫外線吸収剤 からなるポリマー被覆組成物。」 2 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明、及び周知慣用の技術(刊行物2参照)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 1.特開平4-214785号公報 2.特開平2-273584号公報 3 刊行物の記載事項 (1) 刊行物1の記載事項について 刊行物1の記載事項は、先に「第2(2)(イ)(a)」で指摘したとおりである。 (2) 刊行物2の記載事項について 刊行物2の記載事項は、先に「第2(2)(イ)(b)」で指摘したとおりである。 (3) 刊行物3の記載事項について また、今回、念のために、周知例の一つとして提示する刊行物3(特開平4-372668号公報)の記載事項は、先に「第2(2)(イ)(c)」で指摘したとおりである。 4 当審の判断 (1) 刊行物1に記載された発明 (i) 刊行物1に記載された事項等は、先に「第2(2)(ウ)(a)(i)」で指摘したとおりである。 (ii) したがって、刊行物1には、 「(b)着色された下塗層と、 (c)下塗層に直接付着した上塗り層と、 (d)上塗り層か、下塗層か、それら両方の層に使用される、式Iで表される2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンのある種の誘導体であるUV吸収剤 からなるポリマー被覆組成物。」 の発明(以下「引用発明1’」という。)が記載されていると認められる。 (2) 本願発明と引用発明1’との対比 (i) 本願発明と引用発明1’との対応関係等については、先に「第2(2)(ウ)(b)(i)」で指摘したとおりである。 (ii) 以上の点を踏まえた上で本願発明と引用発明1’とを対比すると、両者は、 「(b)着色されたベースコートと、 (c)ベースコートに直接付着しかつ被膜形成結合剤を含むクリアーコートと、 (d)ベースコートもしくはクリアーコートのいずれか中、またはベースコートおよびクリアーコートの両方中に含まれる安定化有効量の、トリス-アリール-s-トリアジン紫外線吸収剤 からなるポリマー被覆組成物。」 である点で一致するが、以下のア?ウの点で一応相違すると認められる。 ア (a)であるベースコート層の下層に関し、本願発明が、「金属基材に直接付着している電着コートプライマーと、」と規定するのに対し、引用発明1’においてはかかる規定はなされていない点、 イ (b)のベースコートについて、本願発明が「電着コートに直接付着しかつ被膜形成結合剤および有機顔料もしくは無機顔料またはそれらの混合物を含む」と規定するのに対し、引用発明1’においてはかかる規定はなされていない点、 ウ (c)のクリアーコートについて、本願発明が「かつ被膜形成結合剤を含む」と規定するのに対し、引用発明1’においてはかかる規定はなされていない点。 (以下、これらの一応の相違点を、それぞれ、「引用発明1’との相違点ア」、「引用発明1’との相違点イ」、及び「引用発明1’との相違点ウ」という。) (c) 相違点についての判断 ア 引用発明1’との相違点アについて 引用発明1’との相違点アについての判断は、先に「第2(2)(ウ)(c)ア」で指摘したものにおいて、「自動車の仕上げ用コーティング系」を「ポリマー被覆組成物」と読み替えたとおりのものである。 イ 引用発明1’との相違点イについて 引用発明1’との相違点イについての判断は、先に「第2(2)(ウ)(c)イ」で指摘したものにおいて、「自動車の仕上げ用コーティング系」、「相違点ア」、「引用発明1」、「本願補正発明」を、それぞれ、「ポリマー被覆組成物」、「引用発明1’との相違点ア」、「引用発明1’」、「本願発明」と読み替えたとおりのものである。 ウ 引用発明1’との相違点ウについて 引用発明1’との相違点ウについての判断は、先に「第2(2)(ウ)(c)ウ」で指摘したものにおいて、「引用発明1」、「本願補正発明」を、それぞれ、「引用発明1’」、「本願発明」と読み替えたとおりのものである。 しかも、「引用発明1’との相違点ア」、「引用発明1’との相違点イ」、及び/又は「引用発明1’との相違点ウ」に係る構成が存在することにより、本願発明が格別顕著な効果を奏し得たものとも認めることができない。 (d) 小括 以上のとおり、上記各相違点は実質的な相違点ではないか、あるいは当業者が容易に想到することができたものであり、しかも、本願発明がこれらの相違点に係る構成により格別顕著な効果を奏するものとは認められないから、本願発明は、引用発明1’、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 第4 結語 以上のとおりであるから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-09-19 |
結審通知日 | 2007-09-26 |
審決日 | 2007-10-15 |
出願番号 | 特願平6-518217 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C09D)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中島 庸子、星野 紹英、藤原 浩子 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
井上 彌一 唐木 以知良 |
発明の名称 | s-トリアジン紫外線吸収剤により安定化された電着コート/ベースコート/クリアーコート仕上げ材 |
代理人 | 萼 経夫 |
代理人 | 中村 壽夫 |
代理人 | 宮崎 嘉夫 |
代理人 | 加藤 勉 |