• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1175729
審判番号 不服2004-18296  
総通号数 101 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-03 
確定日 2008-04-16 
事件の表示 平成 8年特許願第534539号「オメガ-3ポリ不飽和酸の経口投与剤」拒絶査定不服審判事件〔平成8年11月21日国際公開、WO96/36329、平成11年8月24日国内公表、特表平11-509523〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成8年(1996年)5月13日(パリ条約による優先権主張:1995年5月15日、英国)を国際出願日とする出願であって、「オメガ-3ポリ不飽和酸の経口投与剤」に関するものと認められる。
これに対し、当審は平成18年4月25日付けで、本願はその明細書の記載が不備で特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知したところ、請求人は、平成18年9月5日付けで手続補正書及び意見書を提出した。
本件出願の請求項に係る発明は、上記手続補正書により補正された明細書特許請求の範囲1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明は以下のとおりである。

「【請求項1】有効成分としてオメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸として又は薬学的に許容可能なその塩として含有する経口製剤において、カプセルのコーティングが、pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがなく、かくして前記酸が、回腸内において放出されることになることを特徴とする経口製剤。」(以下、本願発明という。)

2.当審が通知した拒絶理由の概要

当審が通知した拒絶の理由の概要は下記のとおりである。
「本願発明は、オメガ-3ポリ不飽和酸が回腸で放出される経口製剤及びそのためのコーティング材料に関する発明と認められるところ、発明の詳細な説明には、当該製剤が回腸で有効成分を放出するものであることを示す試験結果等が記載されていない。
したがって、本願特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」

3.当審の判断

(1)上記補正によって補正された本願明細書の発明の詳細な説明には、オメガ-3ポリ不飽和酸が「回腸」で放出される点に関して以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。)

(1-1)「本発明は、オメガ-3ポリ不飽和酸……の腸溶剤を提供するものである。」(段落[0001])
(1-2)「EP-A-0336662においては、……コーティング材として特定されたものは、例えばエチルセルロース、フタール酸酢酸セルロース及びトリメリット酸酢酸セルロースが挙げらている。幽門以降の腸上部で有効成分を放出させることが言及されているが、回腸へのターゲット放出については具体的な言及は一切ない。」(段落[0008])
(1-3)「ベルッツィら(Belluzi et al.,Dig.Dis.Sci.39(1994) 2589-2594)ば、5つのグループのクローン病患者を以下のように治療した研究を報告している:即ち、……このカプセルは僅かな時間である60分の間は胃内で溶解することはないので、小腸内で魚油濃厚液の放出を急速に行ないかつ完璧な吸収を行わしめるものであった。」(段落[0011]?[0018])
(1-4)「驚くべきことに、ポリ不飽和脂肪酸の放出を回腸内で、特に回腸中央部内で生起するように制御した場合に、吸収と副作用解消という最適の組み合わせが得られることがここで見出されたのである。」(段落[0019])
(1-5)「即ち、本発明によって、有効成分としてオメガ3-ポリ不飽和酸を遊離酸として又は薬学的に許容可能なその塩として含有する経口製剤において、カプセルのコーティングが、pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがなく、かくして前記酸が、回腸内において放出されることになることを特徴とする経口製剤が提供されるのである。」(段落[0020])
(1-6)「当該被覆コーティング膜は、該酸を回腸、好ましくは回腸中央部で放出させるものでなくてはならない。……当該被覆コーティングは、pH5.5において30ないし60分間は溶解しないものが適当である。目下のところ好ましい被覆コーティングは、中性のポリアクリル酸エステルであって、例えばポリ(アクリル酸エチル-メタアクリル酸メチル、特に平均分子量がほぼ800,000であるオイトラギット(Eudragit)NE 30-D(Roehm PHarma GmbH)である。」(段落[0024])
(1-7)「充填したゼラチンカプセルに対して、オイトラギット NE30-Dでフィルムコーティングして、pH5.5においいて30ないし60分間不溶性を賦与したが、これは、フィルムコーティング組成物(下記を参照のこと)を25℃において0.8バールの圧力を用いて噴霧し次いで25℃において少なくとも30分間風乾させることによって行った。」(段落[0027])
(1-8)「患者は、盲検法により無作為に39名ずつの二群に分けて、500mgの魚油濃縮液(”Purepa”;表1を参照)を含有する腸溶性被覆処理した、ハードゼラチンカプセルを9錠、又は500mgのプラセボ(ミグリオール(Miglyol(R))812)を含有する腸溶性被覆処理した、外観が同一であるカプセル9錠の何れかを服用せしめた。なお、この魚油濃縮液は40%のEPAと60%のDHAを含有するものであった。二種類のカプセルは何れも、オイトラギットNE 30Dで被覆処理して、少なくとも30分間は胃液及び腸液には溶解せずまたpH5.5において60分以内に崩壊しかくして小腸内において魚油を放出せしめるようにした。この治療中において、患者は他の如何なる医薬品も服用しなかった。これら二群の患者の臨床上の特徴を表2に掲げる。」(段落[0030])
(1-9)「これらの結果から、魚油カプセルはクローン病の臨床滴再発を防止するうえで適用可能な最も効果的且つ安全な治療法であり、また副作用も相対的に低いことが明らかとなった。」(段落[0039])

(2)本願発明は、「カプセルのコーティングが、pH依存性態様ではなく時間依存性態様で溶解する中性のポリアクリル酸エステルから成り而もpH5.5において30乃至60分間溶解することがなく、かくして前記酸(すなわち、オメガ3-ポリ不飽和酸)が、回腸内において放出されることになること」を発明の特定事項とするものであるから、かかるコーティングによって、オメガ3-ポリ不飽和酸が回腸において放出されることを確認できる事項が発明の詳細な説明に記載されるべきものと解される。
しかし、上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、オメガ3-ポリ不飽和酸が回腸で放出されることを実際に確認できる事項は何ら記載されていない。

この点について、請求人は意見書において、「本発明者らは、単に回腸で放出される酸を同定しているだけであり、放出される酸の量を定量してはいません。従って、当該クレームは、回腸内において少なくともいくらかの酸の放出を必要とするというのが正しい解釈であると考えます。」、「正しい解釈の根拠は、実施例2に見出すことができ、当該実施例は、カプセルがオイドラギットNE30Dでコーティングされることによって、特に回腸中だけではなく小腸中での魚油濃縮液の放出が可能になることを示します。従って、本出願人が、回腸外でのいくらかの酸の放出の可能性を包含することを意図していることは明らかです。」、「表2は、実施例2に記載された研究に関与した患者についての臨床的特徴を提供します。この表によれば、患者はそれぞれ、回腸のみまたは回腸および結腸にクローン病を有していました。研究の結果(表3に図示する)は、魚油製剤で処置した患者におけるクローン病の臨床的再発の発生が、プラセボ群と比較して有意に少なかったことを示します。もし、全てのオメガ-3酸が(審判官殿が示唆するように)空腸内において放出されたならば、酸は、回腸のクローン病の寛解を維持する有効性が低かったであろう、そして、2つの群で観察された臨床的再発の発生数における差異は顕著に減少したであろうと思われます。」と主張している。

しかし、発明の詳細な説明の記載事項(上記(1-4)?(1-6))からみて、本願発明は、カプセル内のオメガ3-不飽和酸の一部が回腸で放出されれば足るものではなく、全部ではないとしても相当の量が回腸で放出されることが必要とされるものと解される。
また、実施例2は、「魚油濃縮液(”Purepa”)」と「プラセボ(ミグリオール(Miglyol(R))812)」とを同一のカプセルを用いて比較した試験であって、カプセルの崩壊時間が異なるものを用いて比較した試験ではないから、実施例2の結果から該酸が回腸で放出されたものと推認することはできない。

したがって、上記主張は採用することはできない。

なお、上記主張は、平成16年10月7日付け手続補正書により補正された審判請求の理由において、「本願発明は、このような時間依存性溶解挙動を有するコーティングをカプセルに施して、特異的に回腸内でカプセル内に封入したEPA及びDHAなどの多価不飽和脂肪酸を主要成分とする魚油を特異的に回腸内で放出せしめて、実施例に記載から明らかなように効率的に有効成分の生体内吸収を実現して炎症性腸疾患の治癒を確保すると同時に副作用の抑制・消滅を可能ならしめる、という従来知られていなかった大きな利点をもたらすものである。」と主張していることと矛盾する。
また、請求人は、平成17年6月21日付けで提出されたビデオクリップ(映像)について言及しているが、該物件によって本願明細書の記載不備を補うことはできない。

よって、本願発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載した発明であるということはできはない。

4.むすび

以上のとおりであるから、本願は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-16 
結審通知日 2007-01-23 
審決日 2007-02-06 
出願番号 特願平8-534539
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智井上 明子中木 亜希安藤 倫世  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 横尾 俊一
内田 俊生
発明の名称 オメガ-3ポリ不飽和酸の経口投与剤  
代理人 竹内 卓  
代理人 岡本 昭二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ