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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680253 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C23C
管理番号 1176150
審判番号 無効2007-800024  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-09 
確定日 2008-03-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3363919号発明「サブストレート上に反応性の膜を付着する装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3363919号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許3363919号の請求項1及び2に係る発明は、平成4年3月3日(パリ条約による優先権主張平成3年3月4日ドイツ)に特許出願され、平成14年10月25日にその特許の設定登録がなされ、当該特許につき、平成15年7月8日付けで特許異議の申立てがなされ、平成17年7月6日付けで本件明細書の訂正請求がなされ、平成17年7月13日付けの異議の決定において、当該訂正が容認された上で、請求項1及び2に係る特許が維持されたものである。
これに対して、株式会社神戸製鋼所(以下、「請求人」という。)から平成19年2月9日付けで請求項1及び2に係る発明の特許について、無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
手続補正指令書: 平成19年 3月 1日
手続補正書: 平成19年 3月23日
答弁書: 平成19年 6月28日
訂正請求書: 平成19年 6月28日
職権審理結果通知書: 平成19年 8月 3日
意見書: 平成19年 8月15日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成19年 8月24日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成19年 9月25日
口頭審理: 平成19年10月 4日

II.訂正請求の適否
1.訂正事項
平成19年6月28日付けの訂正請求は、本件明細書及び特許請求の範囲の記載を、その訂正請求書に添付した全文訂正明細書に記載される次のとおりに訂正することを求めるものである。
(a)特許請求の範囲の請求項1における「2つのカソード(5,5a)は、付着室(15,15a)中のプラズマ空間(15)の中に互いに並べて配置され、」を、「2つのカソード(5,5a)は、付着室(15,15a)中のプラズマ空間(15)の中で、前記サブストレートの一方の側に互いに並置され、」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項2を削除する。

2.訂正要件の判断
(1)訂正目的の適否
上記訂正事項(a)は、特許請求の範囲の請求項1において、互いに並置(ないしは互いに並べて配置)される2つのカソードの設置位置につき、「前記サブストレートの一方の側に」との事項を付加するものであり、その並置するところの位置を限定ないしは明確化するものであり、特許請求の範囲の減縮ないしは明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項(b)は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)新規事項の追加の有無
上記訂正事項(a)によって、2つのカソードの設置位置に関する請求項1の記載は、「2つのカソード(5,5a)は、付着室(15,15a)中のプラズマ空間(15)の中で、前記サブストレートの一方の側に互いに並置され、電気的には互いに分離されて設けられており、該2つのカソード(5,5a)は、それぞれ対向するサブストレート(1,1′,1′,1″)に対してほぼ等しい空間的距離(A1またはA2)を有しており」となり、2つのカソードは、サブストレートと対向しており、サブストレートの一方の側に、ほぼ等しい空間的距離を有するように設置されていることとなる。
この点について、願書に添付された明細書及び図面の記載をみてみると、段落【0009】には、「【実施例】図1には、例えば二酸化珪素あるいは酸化アルミニウムである酸化物から成る薄膜2,2′,2″をそれぞれ有するサブストレート1,1′,1″が支持体27上に設けられている。スパッタされるべきターゲット3,3aはこれらのサブストレート1,1′,1″に対向して設けられている。ターゲット3,3aはそれぞれカソード体11,11aと接合されており、・・・。」と記載され、その設置構造が図1に示されている。これら記載によれば、願書に添付された明細書及び図面には、2つのカソードがサブストレートに対向し、サブストレートの上方の側に設置されるところの特定の設置位置が示されている。そして、カソードがサブストレートに対向した状態で、サブストレートの上方の側以外の側にあったとしても、機能的に同一となることは、当業者にとって自明な事項である。
してみれば、上記の「前記サブストレートの一方の側に」との事項を付加することは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、上記訂正事項(b)は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。

(3)拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)及び(b)は、特許請求の範囲を減縮し、又は明りょうでない記載を是正するだけのものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでない。

3.訂正の結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
本件明細書についての上記訂正請求は、上記「II.」で記載したとおり認められたものであり、訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】1つの交流源(10)を備えており、前記交流源(10)は排気可能な付着室(15,15a)内に設けられた磁石(19,19a,19bまたは19c,19d,19e)を取囲むカソード(5,5a)と接続されており、前記カソードはターゲット(3,3a)と電気的に共働し、ターゲット(3,3a)がスパッタされそのスパッタされた粒子がサブストレート上に沈着し前記付着室(15,15a)内へプロセスガスと反応性ガス例えばアルゴンと酸素を供給可能になっている、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置において、
前記1つの交流源(10)のアースに接続されていない2つの出力側(12,13)を、ターゲット(3,3a)を支持するそれぞれ1つのカソード(5,5a)に接続し、2つのカソード(5,5a)は、付着室(15,15a)中のプラズマ空間(15)の中で、前記サブストレートの一方の側に互いに並置され、電気的には互いに分離されて設けられており、
該2つのカソード(5,5a)は、それぞれ対向するサブストレート(1,1′,1′,1″)に対してほぼ等しい空間的距離(A1またはA2)を有しており、
前記1つの交流源(10)の周波数はスパッタ工程の間、イオンが交番電磁界に追従できるよう、1KHz?100KHzの周波数に設定されることを特徴とする、
サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置。」

IV.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、本件発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として、無効審判請求書、平成19年3月23日付け手続補正書及び口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)において、下記「2.」に示した証拠を提出して、次に示す無効理由1?3を主張している。無効理由1?3について、これまでの主張を整理すると、次のとおりである。

(1)無効理由1
本件発明は、以下に述べるとおり、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
ア)甲第1号証には、「1つのトランス9を備えており、トランス9は排気可能な容器3内に設けられターゲットを有するマグネトロンである電極5,6と接続されており、電極5,6はターゲットと電気的に共動し、ターゲットがスパッタされそのスパッタされた粒子がサブストレート1上に沈着し容器3内へアルゴン、窒素及び/その他の反応性ガスを供給可能になっている、サブストレート1上に反応性の膜を付着する装置において、1つのトランス9のアースに接続されていない2つの出力側8,11を、ターゲットを支持するそれぞれ1つの電極に接続し、2つの電極5,6は、容器3中のプラズマ空間の中に互いに並べて配置され、電気的には互いに分離されて設けられており、2つの電極5,6は、それぞれ対向するサブストレート1に対してほぼ等しい空間距離を有しており、1つのトランス9の周波数はスパッタ工程の間、イオンが交番電磁界に追従できる周波数に設定される」発明が記載されており、本件発明と甲第1号証に記載の発明を対比すると、本件発明は、磁石を取り囲むカソードを備えるものであるのに対して、甲第1号証の発明は、カソードに磁石を備えるものの、カソードと磁石との関係が明確でない点(相違点1)、本件発明は、反応性の膜が電気絶縁材からなるものであるのに対し、甲第1号証の発明は、反応性の膜が電気絶縁材からなるものかどうかが明確でない点(相違点2)、本件発明は、スパッタ工程の間1つの交流源の周波数が1KHz?100KHzに設定されるのに対して、甲第1号証の発明は、スパッタ工程の間1つの交流源の周波数が50Hzに設定される点(相違点3)で相違している。
そして、相違点1については、甲第1号証の「マグネトロン27,28」との記載と図2をみれば、甲第1号証の「マグネトロン27,28」が「磁石を取り囲むカソード」であることは、記載されているも同然の事項であり、実質的な相違点といえないし、また、スパッタリング装置において、付着室内に磁石を取り囲むカソードを備えることは、甲第4号証、甲第10号証、甲第11号証、及び甲第17号証の記載から周知の技術であり、磁石を取り囲むカソードを採用することに何ら困難性はない。
相違点2については、甲第1号証には、アルゴン、窒素及び/その他の反応性ガスを用いることが示されており、酸素ガスを用いて絶縁性のある膜を蒸着してみようとすることは極めて容易なことであり、また、反応性スパッタリング技術を用いて電気絶縁性の膜を蒸着することは、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、甲第8号証、甲第13号証、甲第14号証、及び甲第18号証の記載から周知の技術であり、かかる構成を採用することに何ら困難性はない。
相違点3については、本件発明の1KHz?100KHzという数値範囲に、イオンが交番電磁界に追従できること以外の臨界的意義は何ら存在せず、1KHz?100KHzという数値範囲は、甲第1号証で採用されている50Hzの延長線上にすぎないから、50Hzの周波数を若干高い周波数である1KHz?100KHzにすることに何ら困難性はない。さらに、甲第2号証乃至甲第9号証の記載から、スパッタリングにおいて交流源の周波数を13.56MHz以下で行うこと、及びイオンが追従できるように、より低い周波数でスパッタリングすることは周知であり、交流源の周波数が変更可能な条件であることは広く認識されていたものであるから、甲第1号証の50Hzの周波数を1KHz?100KHzに設定することに何ら困難性はない。
また、本件発明の「前記1つの交流源(10)のアースに接続されていない2つの出力側(12,13)を、ターゲット(3,3a)を支持するそれぞれ1つのカソード(5,5a)に接続し、」との構成については、その文脈から考察すると、「それぞれ1つのカソード」に接続される「2つの出力側(12,13)」が「交流源(10)のアースに接続されていない」が否かであり、トランス二次巻線(25)の中点が接地されているか否かは問題とならない。そして、甲第1号証に記載された装置の「トランス9」の「2つの出力側8,11」が、「ターゲットを支持するそれぞれ1つの電極に接続」されていることから、この点において甲第1号証に記載された発明と本件発明とで何ら差異はない。
以上のことから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到しうる程度のものである。(平成19年3月23日付け手続補正書第21頁31行?第22頁9行、第23頁32行?第24頁6行、第25頁29行?第29頁23行、口頭審理陳述要領書第2頁第8行?第7頁14行参照)
イ)甲第2号証には、「1つの交流源を備えており、前記交流源は排気可能な付着室内に設けられたマグネトロンを有するカソードと接続されており、前記カソードはターゲットと電気的に共働し、ターゲットがスパッタされそのスパッタされた粒子がサブストレート上に沈着し前記付着室内へプロセスガスと反応ガスを供給可能になっている、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜(AlN)を付着する装置において、前記1つの交流源のアースに接続されていない2つの出力側を、ターゲットを支持するそれぞれ1つのカソードに接続し、2つのカソードは、付着室中のプラズマ空間の中に互いに並べて配置され、電気的には互いに分離されて設けられており、該2つのカソードは、それぞれ対向するサブストレートに対してほぼ等しい空間的距離を有しており、前記1つの交流源の周波数はスパッタ工程の間、イオンが交番電磁界に追従できるよう、80KHzの周波数に設定されていることを特徴とする、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置。」に係る発明が記載されており、本件発明と甲第2号証に記載の発明を対比すると、本件発明は、磁石を取り囲むカソードを備えるものであるのに対して、甲第2号証の発明は、カソードに磁石(マグネトロン)を備えるものの、カソードと磁石との関係が明確でない点(相違点4)で相違している。
そして、相違点4については、甲第2号証の「マグネトロン」及び「5×8インチ平面マグネトロンターゲット」という図1の説明をみれば、甲第2号証のカソードが「磁石を取り囲むカソード」であることは、記載されているも同然の事項であり、実質的な相違点といえないし、また、スパッタリング装置において、付着室内に磁石を取り囲むカソードを備えることは、甲第4号証、甲第10号証、甲第11号証、及び甲第17号証の記載から周知の技術であり、磁石を取り囲むカソードを採用することに何ら困難性はない。(平成19年3月23日付け手続補正書第24頁32行?第25頁21行、第29頁24行?第30頁3行、口頭審理陳述要領書第7頁15?28行参照)
ウ)本件発明のカソードとターゲットの位置関係が、本件明細書に添付された図1に示された態様に限定されると解釈しても、甲第3号証、甲第4号証、甲第10号証?甲第17号証には、「2つのカソードがプラズマ空間の中に互いに並べて配置され、2つのカソードは、それぞれ対向するサブストレートに対してほぼ等しい空間的距離を有している」態様が、2つのカソードを平行に並べた態様も含めて、明確に開示されているのであるから、この点においても発明の進歩性はない。(平成19年3月23日付け手続補正書第23頁13?21行参照)

(2)無効理由2
本件特許の請求項1に記載の発明特定事項のうち、「該2つのカソード(5,5a)は、それぞれ対向するサブストレート(1,1′,1′,1″)に対してほぼ等しい空間的距離(A1またはA2)を有しており、」については、以下に述べるとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に何ら記載されておらず、かつ不明瞭であるので、本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号及び第2号の規定に違反した特許出願に対してなされたものであり、平成5年改正前特許法第123条第1項第3号の規定に該当し、無効とすべきである。
エ)本件特許の図1にカソードとサブストレートとの距離として「A1」及び「A2」が僅かに図番として記載されているのみであり、本件明細書の発明の詳細な説明には何ら記載されておらず、どのような技術的意義があるかについても記載されていない。また、「ほぼ等しい」という語句は、その用語自体が非常に不明瞭である。(平成19年3月23日付け手続補正書第32頁22行?第33頁第14行参照)
オ)明細書には、カソードとサブストレートの間の距離をどのように測定するかについて一切記載がない。サブストレートの中心とカソードの距離が等しいと解釈すると、サブストレートの形状が明記されていないので不明瞭である。(口頭審理陳述要領書第9頁第1?7行)
カ)被請求人は、答弁書で「付着しようとする絶縁膜の厚さの精度の要求を満足するならば若干の距離の偏差があってもよいと云う意味」であるとの定義付けを行っているが、この点については明細書に記載されていない。また、その判断基準も使用者の主観任せとなり不明瞭である。(口頭審理陳述要領書第9頁第16?23行)

(3)無効理由3
本件特許の訂正前の請求項2に記載の発明特定事項のうちSiO_(x)N_(y)、Ta_(2)O_(5)、AlNは、本件明細書の発明の詳細な説明に何ら記載されておらず、本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号の規定に違反した特許出願に対してなされたものであり、平成5年改正前特許法第123条第1項第3号の規定に該当し、無効とすべきである。

2.証拠の記載事項
ここで、無効審判請求書及び平成19年3月23日付け手続補正書に添付された「甲第1号証の1」、「甲第2号証の1」、「甲第3号証の1」、「甲第10号証の1」、「甲第12号証の1」、「甲第17号証の1」を、それぞれ「甲第1号証」、「甲第2号証」、「甲第3号証」、「甲第10号証」、「甲第12号証」、「甲第17号証」と示す。また、甲第1号証、甲第12号証及び甲第17号証における原文での「aウムラウト」、「oウムラウト」、「uウムラウト」との文字は、その代用として「a」、「o」、「u」と記載する。

(1)甲第1号証(独国特許出願公開第3802852号明細書)
甲第1号証には、「Einrichtung fur die Beschichtung eines Substrats mit einem Material, das aus einem Plasma gewonnen wird, wobei sich das Substrat zwischen einer ersten und einer zweiten Elektrode befindet, dadurch gekennzeichnet, dass die erste Elektrode(5) an einem ersten Anschluss(8) einer Wechselstromquelle(9) und die zweite Elektrode(6) an einem zweiten Anschluss(11) der Wechselstromquelle(9) liegt.」(特許請求の範囲第1項、当審訳「プラズマから得られる材料で、第1及び第2電極間に存在するサブストレートを被覆する装置において、第1電極(5)は交流電源(9)の第1ターミナル(8)に接続され、第2電極(6)は交流電源(9)の第2のターミナル(11)に接続されることを特徴とする装置」)に関しての記載がなされている。

(2)甲第2号証(G.ESTE and W.D.WESTWOOD, A quasi-direct-current sputtering technique for the deposition of dielectrics at enhanced rates, the Journal of Vacuum Science and Technology A, 1988, Vol.6, No.3, p.1845-1848)
甲第2号証には、「A quasi-direct-current sputtering technique for the deposition of dielectrics at enhanced rates」(当審訳「促進された速度での誘電体膜の蒸着のための準直流スパッタリング技術」)に関して、次の事項が記載されている。
(a)「A new sputtering process with particular advantages for the deposition of dielectric films has been developed. Low-frequency power is applied between two conducting targets which are sputtered in a reactive gas. The operation has been demonstrated using Al planar magnetron targets in reactive gases as well as Ar and other noble gases, using a 60-Hz and a 80-500-kHz supply. ... For N_(2) ambient, the AlN deposition rate at 100 kHz was 80% higher than the value for 13.56 MHz. ... The technique can be applied to different target/substrate geometries to deposit dielectric films at higher rates than in conventional rf sputtering.」(アブストラクト、当審訳「誘電体膜の蒸着に特に有利な新しいスパッタリングプロセスを開発した。反応性気体中でスパッタする2つの導電性ターゲット間に低周波電力を加える。Arおよび他の希ガスと同様に反応ガス中でAl平面マグネトロンターゲットを用い、60Hz電源と80?500kHz電源とを用いて、動作を実証した。・・・N_(2)雰囲気、100kHzのAlN蒸着速度は、13.56MHzの蒸着速度より80%高かった。・・・この技術は、異なるターゲット/サブストレート幾何学構造に適用でき、通常のrfスパッタリングより高い速度で誘電体膜を蒸着することができる。」)
(b)「Here we report the deposition rates obtained by applying power between two identical planar magnetron targets and varying the supply frequency from dc to 13.56 MHz.」(第1845頁左欄第25?27行、当審訳「本研究では、2つの同一の平面マグネトロンターゲットの間に電力を加え、電源周波数を直流から13.56MHzまで変化させることによって得られた蒸着速度を報告する。」)
(c)「II.EXPERIMENTAL
The deposition system has been described previously.^(9,10) The cryopumped chamber contains both a multihearth electron beam evaporation gun and three 5×8 in. planar magnetron targets mounted on two sides and the top of the chamber. In this work, the two opposing targets were powered, as shown in Fig.1. The secondary winding of an isolation transformer was connected between the two targets; different transformers were used for 60 Hz, 80-500 kHz, and 13.56 MHz. ...
The targets were 99.999% purity Al sheets which were clamped to the water-cooled copper housing of the magnetron assemblies. ...
Sputtering caused deposition on both the carousel and a quartz crystal microbalance. During the presputter phase, the substrates were rotated 90°away from the target. Upon completion of the presputter phase, the power was reduced, the substrates rotated in front of the target, and the power increased to the deposition level. When the deposition was complete, the power supply was simply turned off.」(第1845頁右欄第1?20行、当審訳「II.実験 蒸着システムについては前報で説明した^(9,10)。クライオポンプを装着したチャンバは、マルチハース電子ビーム蒸着ガンと、チャンバの2側面と天井面に取り付けられた3つの5×8インチの平面マグネトロンターゲットとを備える。本研究では、図1に示すように、2つの対向するターゲットに電力を投入した。絶縁トランスの二次巻線を2つのターゲット間に接続し、60Hz、80?500kHz、及び13.56MHzの場合に、異なったトランスを用いた。・・・ターゲットは、マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジングに固定された、99.999%純度のAlシートである。・・・スパッタすると、回転台と水晶発振子マイクロバランスとの両方に蒸着が起こった。プレスパッタ段階の間、サブストレートを90°回転させてターゲットから離した。プレスパッタ段階が終了したら電力を低下させ、サブストレートをターゲットの正面に回転させ、電力を蒸着レベルに増加させた。蒸着が完了したら、そのまま電源を遮断した。」)
(d)「Similar results were obtained with Ne and Kr; the normalized deposition rates decreased as the frequency increased (Fig.4) and the values at 13.56 MHz were ?50% of the dc values. The values for all the noble gases are quite similar; the decrease in relative rate with frequency appears to be independent of the mass of the gas. For frequencies above about 30 kHz, a decreasing proportion of the power supplied to the system appears in the ion flux to the target, and thus in the sputtering rate.」(第1847頁左欄第5?13行、当審訳「Ne及びKrでも同様の結果が得られ、周波数が増加すると規格化蒸着速度は低下し(図4)、13.56MHzでの値は直流の値の?50%になった。すべての希ガスの値は非常によく似ていて、周波数による相対速度の低下は気体の質量に依存しないようである。30kHz以上の周波数では、システムに供給された電力の減少する割合は、ターゲットへのイオン流速、要するにスパッタ速度に現われる。」)
(e)「To determine whether this can be used to obtain increased rates for the sputtering of dielectrics, N_(2) was substituted for the noble gas as the sputtering ambient. This causes the formation of an AlN layer on the Al target surfaces and the deposition of dielectric AlN films.^(18) Due to the high resistivity of AlN, dc sputtering was not possible but films were deposited in the 80-500 kHz range and at 13.56 MHz. ... Thus, at 80 kHz, the deposition rate is 80% higher than the 13.56-MHz rate. Initial measurements on these films indicate that the properties such as etch rate, and index of refraction are independent of the frequency. No arcing was observed during sputtering at 80 kHz and there was no evidence of particulates in the films.」(第1847頁右欄第30?47行、当審訳「誘電体のスパッタリングでの速度の増加に利用できるかどうか判断するために、スパッタリング雰囲気として希ガスをN_(2)に置き換えた。こうすると、Alターゲット表面上にAlN層が生成し、AlN誘電体膜が蒸着する^(18)。AlNの比抵抗が高いため、直流スパッタリングは可能でなかったが、80?500kHz域と13.56MHzとで膜を蒸着させた。・・・従って、80kHzでの蒸着速度は、13.56MHzでの速度より80%大きい。これら膜の初期測定によると、エッチング速度や屈折率などの性質は周波数に依存しないことを示した。80kHzでのスパッタリングの間、アーク放電は観察されず、膜中の微粒子の形跡はなかった。」)
(f)「FIG.1.」(第1846頁)には、「Schematic of sputter deposition system showing electrical connection of the two Al targets.」(当審訳「2つのAlターゲットの電気的接続を示すスパッタ蒸着システムの概念図」)が示され、対向する2つのターゲット間には、ターゲットと対向するようにサブストレート及び回転台が存在すること、及び、トランスの2次巻線の両端が対向する2つのターゲットのそれぞれに接続し、1次巻線が電源に接続していることが窺える。

(3)甲第3号証(LEON I.MAISSEL and REINHARD GLANG, Handbook of Thin Film Technology, McGROW-HILL BOOK COMPANY, 1970, p.4-1,p.4-2,p.4-32,p.4-37)
甲第3号証には、「Application of Sputtering to the Deposition of Films」(第4-1頁、当審訳「膜の蒸着に対するスパッタリングの応用」)に関して、次の事項が記載されている。
(a)「In contract to the asymmetric systems which we have described above, several symmetrical systems have been developed in which the two sputtering electrodes have equal area. ...
Two embodiments of these ideas are shown in Fig.31. In Fig.31a a disk electrode is placed concentrically inside an annular electrode of equal area and a single dielectric disk is shared by both.^(134) In Fig.31b, the electrodes may be sputtered directly or they may be used as backing plates for insulator targets.^(135) Note that it is common practice to ground the electrical center of the rf power supply in such a system for safety reasons.」(第4-37頁第7?20行、当審訳「上述した非対称のシステムとは異なり、2つのスパッタリング電極が等しいエリアを有するいくつかの対称なシステムが開発されてきた。・・・これらのアイデアの2つの実施例が図31に示される。図31aにおいて、円環状の電極の内側に等しく空間を空けて円盤状の電極が同心的に配置されており、単一の誘電体ディスクが両方によって共有されている^(134)。図31bは、電極が直接スパッタされてもよく、また、絶縁体ターゲットのバッキングプレートとして使用されてもよい^(135)。このようなシステムのrf電源の電気的中心は、安全のために、接地されることが一般的であることに留意すべきである。」)
(b)「Fig.31」(第4-37頁)には、「Symmetrical rf sputtering system.」(当審訳「対称rfスパッタリングシステム」)が示されている。

(4)甲第4号証(特開昭61-179864号公報)
甲第4号証には、「磁性薄膜作成に好適な、基板上に一様な磁場を印加しながら薄膜を作成するスパッタ装置」(第1頁右下欄第3?5行)に関しての記載がなされている。

(5)甲第5号証(特開平1-195272号公報)
甲第5号証には、「スパッタリング装置」に関して、次の事項が記載されている。
(a)「本発明では、プラズマ中のアルゴンイオンが基板に印加した電圧波形に追従して空間を移動可能なことを特徴としている。一般におよそ5MHz以上の周波数を電極に印加すると、空間に存在する電子はこの5MHzの周波数に対して追従するが、アルゴンイオンはその重量が大きいために追従できないので、その電極で放電が発生する。従って本発明ではアルゴンイオンを電圧波形に追従させるために、基板に印加する電圧波形の繰り返し周波数を1MHz以下、即ち波形の繰り返し周期は1μ秒以上とする。」(第5頁左下欄第18行?右下欄第8行)

(6)甲第6号証(特開昭62-36730号公報)
甲第6号証には、「柱状構造を有する強磁性金属薄膜を通電状態に保持して、プラズマ重合膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。」(特許請求の範囲)に関しての記載がなされている。

(7)甲第7号証(特開昭63-140077号公報)
甲第7号証には、「直流電源と、その直流電源の出力端子とターゲット接続端子の間に直列接続されたフィルタ回路と、高周波電源と、その高周波電源の出力端子とターゲット接続端子の間に直列接続されたインピーダンスマッチング回路を備えた、誘電体薄膜の製造に使用する装置。」(特許請求の範囲第2項)に関しての記載がなされている。

(8)甲第8号証(特開平1-279753号公報)
甲第8号証には、「真空容器内に被加工物を保持し、真空容器内に位置するスパッタガンから生じたスパッタ粒子にて被加工物に薄膜を形成するスパッタリング装置において、スパッタガンへ周波数が異なる2つの電力を印加することを特徴とするスパッタリング装置。」(特許請求の範囲第1項)に関しての記載がなされている。

(9)甲第9号証(特開昭63-197327号公報)
甲第9号証には、「マイクロ波、電子サイクロトロン共鳴吸収を利用したプラズマ分解によるプラズマ処理装置において、処理を行う基板またはその近傍に、プラズマ分解によって生じたイオン粒子に運動エネルギーを与えることが可能な周波数の交流電界を印加することを特徴とするプラズマ処理装置。」(特許請求の範囲第1項)に関しての記載がなされている。

(10)甲第10号証(米国特許第4981566号明細書)
甲第10号証には、次の事項が記載されている。
(a)「FIG.1 shows substrates 1, 2 which are disposed on substrate holders 41, 42 which can be moved on rollers and are to be provided with thin layers. The targets 3, 4 to be sputtered are disposed opposite these substrates 1, 2. These targets 3, 4 are connected to electrodes 7, 8 via elements 5, 6 which have a U-shaped cross section; the electrodes each rest on a yoke 9, 10. These yokes and the elements 5, 6 enclose three permanent magnets 11, 12, 13 and 14, 15, 16, respectively. The polarities of the poles of the three permanent magnets which are directed toward each target 3, 4 alternate such that together with the north pole of the center permanent magnet 12 and 15, the south poles of the two outer permanent magnets 11, 13 and 14, 16 form approximately circular arc-like magnetic fields across each target 3, 4. These magnetic fields condense the plasma before the targets 3, 4 such that the greatest density occurs where the maximum of the circular arc of the magnetic field is. ... The negative poles of direct voltage sources 17, 18 are connected via two inductors 19, 20 and 21, 22 respectively, to the electrodes 7 and 8, respectively.」(第2欄第29?52行、当審訳「図1は、ローラーにより移動可能なサブストレートホルダー41、42上に配置され、薄膜が形成されるサブストレート1、2を示す。スパッタされるターゲット3、4は、これらサブストレート1、2に向かい合って配置される。これらのターゲット3、4は、横断面がU字形状の構成部材5、6を経由して電極7、8に接続され、電極7、8はそれぞれヨークに支持されている。これらヨーク及び構成部材5、6は、3つの永久磁石11、12、13及び14、15、16をそれぞれ取り囲む。3つの永久磁石の極性は、中央の永久磁石12、15のN極と、2つの外側の永久磁石11、13、14、16のS極とが、共にターゲット3、4それぞれを横断する略円弧状の磁場を形成するように、それぞれターゲット3、4に向けて互い違いになっている。これら磁場は、ターゲット3、4の前方であって、磁場の円弧の最大の部分で最も密度が高くなるように、プラズマを濃縮する。・・・直流電圧源17、18の負極は、それぞれ2つのインダクタンスコイル19、20、21、22を経由して、それぞれ電極7、8に接続される。」)
(b)「FIG.1」には、記載事項(a)に関した「コーティング装置」が示されている。

(11)甲第11号証(特開昭62-33764号公報)
甲第11号証には、「真空処理室内に陰極電位のターゲットと被着基板とを設置し、スパッタリングによる成膜を行なう装置において、ターゲットを有するカソードを2個以上設置し、該カソードを長円形または長方形とし、かつ被着基板に対し一定の角度に傾斜させて配置し、複数の被着基板に均一に膜付けできるようにしたことを特徴とするスパッタリング装置。」(特許請求の範囲第1項)に関しての記載がなされている。

(12)甲第12号証(独国特許出願公開第3541621号のフロントページ)
甲第12号証には、「Die Abscheidung erfolgt durch Hf-Kathodenzerstaubung jeweils abwechselnd von zwei Targets (Cosputtern). Erfindungsgemass enthalten die beiden Targets(16,18) die Metallkomponenten der abzuscheidenden Metallverbindung, beispielsweise eine Nickel-Eisen-Legierung, jedoch mit unterschiedlichen Anteilen. In dieser Ausfuhrungsform der Anordnung konnen durch die Wahl der Legierungszusammensetzung der abgeschiedenen Dunnschichten gewunschte Eigenschaften, beispielsweise die Grosse und das Vorzeichen der Magnetostriktion, vorbestimmt werden.」(当審訳「蒸着は、2つのターゲットを交互にHfカソードスパッタすること(コスパッタリング)によって達成される。本発明によれば、2つのターゲット(16、18)は、蒸着される金属化合物の金属コンポーネント、例えば、ニッケル鉄合金で異なる大きさのもの、を含んでいる。本発明の実施例では、蒸着される薄膜の合金組成の選択によって、例えば、磁気歪みの大きさや兆しなどの性状を、予め決定することが可能となる。」)と記載され、図にはスパッタリング装置が示されている。

(13)甲第13号証(実願昭56-23447号(実開昭57-138976号)のマイクロフィルム)
甲第13号証には、「真空容器、ターゲット電極、基板電極、および、高周波電源を有したスパッタリング装置において、上記ターゲット電極はマグネットアセンブリを有しており、該アセンブリに内蔵されている少なく共2個の永久磁石は近接する他の永久磁石と互いに極性を逆にする如く配置せしめてなることを特徴とするスパッタリング装置。」(実用新案登録請求の範囲)に関しての記載がなされている。

(14)甲第14号証(特開平3-39470号公報)
甲第14号証には、「高周波電源を供給した複数ターゲットからスパッタリングにより薄膜の製造する方法であって、前記複数ターゲット間に、磁性材料の遮蔽板を介在させたことを特徴とする薄膜製造方法。」(特許請求の範囲第1項)に関しての記載がなされている。

(15)甲第15号証(特開平2-156082号公報)
甲第15号証には、「高周波電源からの高周波電圧を、マッチングボックスを含む伝送路を介して、真空容器内に配されたターゲットに印加して、前記真空容器内の被処理物にスパッタ蒸着処理を施すものにおいて、複数のターゲットが前記真空容器内に配され、各ターゲットと他のターゲットとの相互間に一方のターゲットから出て他方のターゲットに入る磁力線を有する磁場を形成するための手段が設けられ、前記各ターゲットへの各印加電圧が互いに位相差をもつように前記高周波電源または前記伝送路が構成されていることを特徴とするスパッタ装置。」(特許請求の範囲第1項)に関しての記載がなされている。

(16)甲第16号証(特開平2-156083号公報)
甲第16号証には、「高周波電源からの高周波電圧を、マッチングボックスを含む伝送路を介して、真空容器内に配されたターゲットに印加して、前記真空容器内に配されたホルダに支持された被処理物にスパッタ蒸着処理を施すものにおいて、前記真空容器と前記被処理物を支持したホルダとの間に、この両者間のストレーキャパシタと組合わされて前記高周波電圧の周波数においてほぼ共振周波数を有する並列共振回路を形成するインダクタが接続されていることを特徴とするスパッタ装置。」(特許請求の範囲第1項)に関しての記載がなされている。

(17)甲第17号証(東独国特許公開第252205号明細書)
甲第17号証には、「Zerstaubungseinrichtung」(当審訳「スパッタリング装置」)に関して、次の事項が記載されている。
(a)「1. Zerstaubungseinrichtung, bestehend aus einem Magnetsystem und mindestens zwei daruber angeordneten Elektroden, dadurch gekennzeichnet, dass die Elektroden(2;3) aus dem zu zerstaubenden Material bestehen und dass diese Elektroden(2;3) elektrisch so geschaltet sind, dass sie wechselweise Katode und Anode einer Gasentladung sind.」(特許請求の範囲請求項1、当審訳「1.磁気システムとその上に配置された2つの電極からなるスパッタリング装置において、該電極(2,3)がスパッタリングされる材料からなり、及び、これら電極(2、3)が、交互に放電のカソードとアノードになるように電気的に接続されていることを特徴とするスパッタリング装置。」)
(b)「5. Zerstaubungseinrichtung nach Anspruch 1 bis 4, dadurch gekennzeichnet, dass die Elektroden(2;3) in einer Ebene angeordnet sind.」(特許請求の範囲請求項5、当審訳「5.該電極(2、3)が1つの平面に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4の何れかの項に記載のスパッタリング装置。」)
(c)「6. Zerstaubungseinrichtung nach Anspruch 1 bis 4, dadurch gekennzeichnet, dass sich Elektroden(2;3) paarweise gegenuberstehen.」(特許請求の範囲請求項6、当審訳「6.該電極(2、3)が対になって対向していることを特徴とする請求項1ないし4の何れかの項に記載のスパッタリング装置。」)
(d)「Diese bestehen im Prinzip aus dem Magnetsystem mit dem daruber angeordneten Target, aus dem zu zerstaubenden Material und der Anode. Uber dem Target, welches die Katode bildet, befindet sich das zu beschichtende Substrat (DE-OS 2417288; DE-OS 2431832).」(第2頁第35?37行、当審訳「原理的には、これらの装置は、上方に配置されたスパッタリングされる材料からなるターゲットと、アノードとからなる。カソードを形成するターゲットの上方に、コーティングされるサブストレートが存在する(DE-OS2417288、DE-OS2431832)。」)
(e)「Auf eine Lichtbogenunterdruckung kann im allgemeinen verzichtet werden, da die Zerstaubungsoberflache erfindungsgemass periodisch wechselt.」(第2頁第25?26行、当審訳「本発明によれば、スパッタ面が周期的に変わるため、アーク抑制することなしに行うことができる。」)
(f)「Die Zerstaubungseinrichtung in Fig.2 ist fur die beidseitige Beschichtung aufgebaut. Sie besitzt zwei voneinander unabhangige Magnetsysteme 1 mit je einem inneren Polschuh und je einem ausseren Polschuh.」(第2頁第52?53行、当審訳「図2のスパッタリング手段は、両側にコーティングするための構成となっている。この構成は、互いに独立した2つの磁気システム1からなり、それぞれ内側磁極片と外側磁極片とを有している。」)
(g)「Fig.1」には、記載事項(b)に関しての「スパッタリング装置」が示され、2つの電極(2、3)が1つの平面に並べて配置されていることが窺える。

(18)甲第18号証(逢坂哲彌、二瓶公志編、最新機能成膜プロセス技術、株式会社広信社、1987年、第653?657頁)
甲第18号証には、「反応性スパッタリング」に関して、「金属のターゲットを用いた反応性スパッタリングは、化合物薄膜形成法として非常に有効な方法である。・・・普通、反応性スパッタリングに使われる反応性のガスは、Arガス中に1?50%程度まぜられることが多い。」(第656頁右欄23?33行)と記載されている。

(19)甲第19号証(特開昭55-161067号公報)
甲第19号証には、「リアクティブ・スパッタ装置」(第1頁右下欄第11?12行)に関して、「実施例1、2においてはスパッタ法のちがいについて述べたものであり、ターゲットとしてはTa金属板を用い、Ar+N_(2)ガスでTa-N膜を得る場合であったが、本発明はTa-N膜に限らず金属ターゲットとしては、Ta以外にTa-Al、Ta-Al-Si、Ta-Si、Ta-Al-Ti、Ti、Si、Cu、Zr、Zn、Al等、一元素系の金属ないし混合多元素ないし合金で少なくてもターゲットの抵抗が、10kΩ以下のものであればすべて前述の実施例1、2に用いた装置で形成された。又、反応ガスとしては、N_(2)、O_(2)、H_(2)、等、常温で気体のガスについても同様に実現され、良好な被膜が形成された。」(第4頁左下欄第7?19行)と記載されている。

(20)甲第20号証(異議2003-71725事件の審理において本件被請求人の提出した平成17年7月6日付け訂正請求書)

(21)甲第21号証(異議2003-71725事件の審理において本件被請求人の提出した平成16年5月7日付け特許異議意見書)

(22)甲第22号証(異議2003-71725事件の異議の決定)

V.被請求人の反論と証拠方法
1.被請求人の反論
被請求人は、請求人の主張に対して、答弁書、及び口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)を整理すると、甲第1号証?甲第19号証から本件発明を当業者が容易に想到できるものでなく、特許法第29条2項の規定に違反しておらず、また、特許法第36条第5項1号及び第2号に違反していないと反論し、主に次の点を主張している。

(1)無効理由1に対する反論
あ)甲第1号証には、磁石を取囲むカソードの構成、電気絶縁材からなる反応性膜をスパッタすること、カソードがサブストレートの一方側に並置されること、及び動作周波数が1KHz?100KHzであることが記載されておらず、また、交流電源の出力側をアースに接続して作動させることが教示している。甲第2号証には、磁石を取囲むカソードの構成、及びカソードがサブストレートの一方側に並置されることが記載されていない。そして、甲第2号証?甲第19号証の記載をみても、甲第1号証?甲第17号証から本件発明を当業者が容易に想到できたものでない。(答弁書第3頁第4行?第10頁6行参照)
い)甲第1号証及び甲第2号証では、2つのカソードの中間にサブストレートが介在しており、プラズマ点火の障害となる。これに対して、本件発明では、2つのカソードを対向するサブストレートの一方側に並置することによって解決される。したがって、甲第1号証及び甲第2号証から本件発明を容易に想到できない。(口頭審理陳述要領書第6頁第1?4行、第8頁第2?7行参照)
う)甲第2号証には、絶縁トランスの2次巻線は、2つの対向するターゲットに接続したと記載されているが、その一方の端子がアースされているかいないかについて全く詳しく記載されておらず、不明である。(口頭審理陳述要領書第7頁第22?29行参照)
え)甲第10号証の図1において、磁石は、ヨークとU字型の横断面部材とで取囲んでおり、本件発明の構成要件とするカソード電極自体が磁石を取囲んでいない。(口頭審理陳述要領書第6頁第5?10行参照)
お)甲第17号証には、磁石を取囲むカソードの構成も記載されておらず、本件発明のその他の構成要件も示されていない。甲第17号証では、問題を解決するために電極に50Hzの低い正弦波交流電圧を印加することを提案しているに過ぎず、1KHz?100KHzより極めて低い周波数を開示しているだけである。(答弁書第7頁第24?29行参照)

(2)無効理由2に対する反論
か)距離A1、A2をほぼ等しくしてあるのは図の実施例から明確である。また、「ほぼ等しい」との表現は、スパッタリング業界で当業者が適正に認識できる距離が等しければスパッタされた膜厚も等しくなり、ほぼ等しい距離は膜厚の許容変化により生じる距離であり、用語自体不明瞭ではない。(答弁書第10頁第7?22行、口頭審理陳述要領書第8頁第8?23行参照)

(3)無効理由3に対する反論
き)請求項2を削除したので無効理由3は存在しない。

VI.当審の判断
1.無効理由1について
(一)甲第2号証に記載された発明についてみてみると、甲第2号証には、記載事項(c)によれば、「クライオポンプを装着したチャンバの2側面と2つの平面マグネトロンターゲットとを備え、絶縁トランスの二次巻線を2つの対向するターゲット間に接続し、2つの対向するターゲットに60Hz、80?500kHz、及び13.56MHzの電力を投入する蒸着システム」が記載されている。そして、「平面マグネトロンターゲット」は、記載事項(c)によれば、「マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジングに固定されたAlターゲット」であるといえ、「2つの対向するターゲット」は、記載事項(b)によれば、「同一の平面マグネトロンターゲット」であるといえる。また、記載事項(f)によれば、「絶縁トランス」の「2次巻線の両端が対向する2つのターゲットにそれぞれ接続し、1次巻線が電源に接続している」といえ、「2つの対向するターゲット」は、「サブストレート及び回転台」を挟んで対向して配置されているといえる。また、記載事項(c)によれば、「サブストレート」はターゲットの正面に位置させて、サブストレート上に蒸着しているといえる。さらに、上記「蒸着システム」は、記載事項(a)によれば、「誘電体膜の蒸着に特に有利な新しいスパッタリングプロセス」のためのシステムであるといえる。また、記載事項(e)には、上記「蒸着システム」によって、「スパッタ雰囲気として希ガスをN_(2)ガスに置き換えることでAlN誘電体膜を蒸着でき、80kHzでの蒸着速度は、13.56MHzでの速度より80%大きく、80kHzでのスパッタリングの間、アーク放電は観察されず、膜中の微粒子の形跡がない」ことが記載されている。
これら記載事項を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、甲第2号証には、「クライオポンプを装着したチャンバの2側面と2つの同一の平面マグネトロンターゲットとを備え、平面マグネトロンターゲットは、マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジングに固定されたAlターゲットからなり、スパッタ雰囲気として希ガスをN_(2)ガスに置き換えることでサブストレート上にAlN誘電体膜をスパッタリングにより蒸着する誘電体膜の蒸着システムであって、1次巻線に電源が接続された絶縁トランスの2次巻線の両端を2つのターゲットにそれぞれ接続し、2つのターゲットはサブストレート及び回転台を挟んで対向して配置されており、サブストレートは2つのターゲットの正面に位置し、2つの対向するターゲットに80kHzの電力を投入する誘電体膜の蒸着システム」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

(二)そこで、本件発明と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「クライオポンプを装着したチャンバ」は、クライオポンプによりチャンバ内を排気できることから、本件発明の「排気可能な付着室」に相当し、甲2発明では、Alターゲットを用い、雰囲気ガスをN_(2)ガスとし、AlN誘電体膜を蒸着していることから、甲2発明の「N_(2)ガス」、「サブストレート上にAlN誘電体膜を蒸着する誘電体膜の蒸着システム」は、それぞれ、本件発明の「反応ガス」、「サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置」に相当し、また、甲2発明の「希ガスをN_(2)ガスに置き換える」ようにすることは、本件発明の「プロセスガスと反応性ガスを供給可能になっている」ことに相当する。
また、甲2発明の「平面マグネトロンターゲット」の「マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジング」は、ターゲットに電力を供給する機能を有する「カソード」に相当するものであるから、甲2発明の「マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジング」と本件発明の「磁石を取囲むカソード」とは、「磁石を有するカソード」である点で共通している。そして、甲2発明では、「マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジング」を介してターゲットに電力を投入しているといえるから、甲2発明の「平面マグネトロンターゲットは、マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジングに固定されたAlターゲットからなり」、「ターゲットに電力を供給」して、「AlN誘電体膜をスパッタリングにより蒸着する」ことは、本件発明の「前記カソードはターゲットと電気的に共働し、ターゲットがスパッタされそのスパッタされた粒子がサブストレート上に沈着」することに相当する。
さらに、甲2発明の「電源」は、ターゲットに80kHzの電力が投入されていることから、本件発明の「交流源」に相当し、甲2発明の「1次巻線に電源が接続された絶縁トランスの2次巻線」は、本件発明の「1つの交流源の出力側」に相当する。そして、甲2発明の「2次巻線の両端を、2つのターゲットにそれぞれ接続」することは、甲第2号証において、2次巻線をターゲット以外に接続されることが示されておらず、2次巻線をアースに接続しなくともターゲット間のプラズマを生じうる電位差を印加できることが明らかであるから、本件発明の「アースに接続されていない2つの出力側を、ターゲットを支持するそれぞれ1つのカソードに接続」することに相当する。
また、甲2発明の「マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジングに固定されたAlターゲット」からなる「平面マグネトロンターゲット」も、本件発明の「カソード」も、「付着室」内に設けられている点で共通している。
そして、複数のターゲットやサブストレートを用いて蒸着膜を形成する場合に、形成される蒸着膜が均一となるとように条件を揃えることは、技術常識であるから、甲2発明の「サブストレートは各ターゲットの正面に位置」することは、「サブストレート」と各「ターゲット」及び「マグネトロンアセンブリの水冷式銅ハウジング」との距離がほぼ等しくなっていることを含むことは明らかである。

(三)そうしてみると、本件発明と甲2発明とは、「1つの交流源を備えており、前記交流源は排気可能な付着室内に設けられた磁石を有するカソードと接続されており、前記カソードはターゲットと電気的に共働し、ターゲットがスパッタされそのスパッタされた粒子がサブストレート上に沈着し前記付着室内へプロセスガスと反応性ガスを供給可能になっている、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置において、前記1つの交流源のアースに接続されていない2つの出力側を、ターゲットを支持するそれぞれ1つのカソードに接続し、2つのカソードは、付着室中に配置されており、該2つのカソードは、それぞれ対向するサブストレートに対してほぼ等しい空間的距離を有しており、前記1つの交流源の周波数はスパッタ工程の間、80KHzの周波数に設定されることを特徴とする、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置。」で一致し、次の点で相違している。
(相違点A)
本件発明の「磁石を有するカソード」は、「磁石を囲むカソード」であるのに対して、甲2発明では、磁石を囲んでいることは明示されていない点。
(相違点B)
本件発明では、付着室に配置された2つのカソードは、「付着室中のプラズマ空間の中で、前記サブストレートの一方の側に互いに並置され、電気的には互いに分離されて設けられ」ているのに対して、甲2発明では、「サブストレート及び回転台を挟んで対向して配置されて」いる点。
(相違点C)
本件発明では、周波数の設定が「イオンが交番電磁界に追従できるよう」になされているのに対して、甲2発明では、その点ついて明示されていない点。

(四)相違点Aについて検討する。
甲第10号証には、記載事項(a)及び(b)によれば、「薄膜が形成されるサブストレートと、スパッタされるターゲットとが、向かい合って配置されたコーティング装置」が記載されているといえ、さらに、「ターゲットは、横断面がU字形状の構成部材を経由して電極に接続」すること、「構成部材が、永久磁石をそれぞれ取り囲む」こと、及び「直流電圧源の負極は電極に接続される」ことが記載されているといえる。そして、前記「U字形状の構成部材」は、ターゲットを電極に接続するものであり、この電極は、直流電圧源の負極に接続されていることから、「U字形状の構成部材」は、直流電圧源の負極に接続された電極の一部として機能するものといえる。また、直流電圧源の負極に接続された電極は、当該技術分野において、「カソード」と呼ばれることは自明な事項である。
してみると、甲第10号証には、「薄膜が形成されるサブストレートと、スパッタされるターゲットとが、向かい合って配置されたコーティング装置のカソードの一部として機能するU字形状の構成部材が、永久磁石を取り囲んでいる」ことが記載されているといえる。
そうしてみると、マグネトロンスパッタリング装置のカソードとして、磁石を取り囲むカソードを用いることは、当該技術分野において、周知の技術といえるから、甲2発明の「カソード」を「磁石を囲むカソード」とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(五)相違点Bのうち、「2つのカソードが、付着室中のプラズマ空間の中で、電気的には互いに分離されて設けられている」点について検討する。
甲第10号証の記載事項(a)に「These magnetic fields condense the plasma before the targets 3, 4 such that the greatest density occurs where the maximum of the circular arc of the magnetic field is.(当審訳「これら磁場は、ターゲット3、4の前方であって、磁場の円弧の最大の部分で最も密度が高くなるように、プラズマを濃縮する。」)」と記載されているように、マグネトロンスパッタ装置において、マグネトロンターゲットの表面にプラズマ領域が形成されることは、周知の技術である。
そして、甲2発明では、2つの平面マグネトロンターゲットは、同一のものを用いており、マグネトロンターゲットの磁石の磁極も同様に配置されていることは明らかである。しかも、甲第2号証には、2つの平面マグネトロンターゲットの間を連結するプラズマが発生するような磁界を形成するための特別な磁石配置とすることは、記載も示唆もなされていない。
してみると、上記周知技術として示したように、甲2発明では、2つの平面マグネトロンターゲットの表面のそれぞれに、プラズマが発生するように磁石が配置されているといえ、2つの平面マグネトロンターゲットは、プラズマを介して電気的に接続していない状態といえる。
したがって、甲2発明においても、2つのカソードが、付着室中のプラズマ空間の中で、電気的には互いに分離されて設けられているといえるから、この点については実質的な相違点といえない。

(六)次に、相違点Bのうち、「2つのカソードが、前記サブストレートの一方の側に互いに並置されている」点について検討する。
甲第17号証には、記載事項(a)によれば、「磁気システムとその上に配置された2つの電極からなるスパッタリング装置において、該電極がスパッタリングされる材料からなり、及び、これら電極が、交互に放電のカソードとアノードになるように電気的に接続されていることを特徴とするスパッタリング装置」が記載されているといえ、記載事項(e)によれば、該「スパッタリング装置」によって、アーク放電を抑制できるといえる。
そして、この「2つの電極」の配置に関して、記載事項(b)及び(g)によれば、「2つの電極」は「1つの平面に並べて配置されている」といえる。また、記載事項(d)に「Uber dem Target, welches die Katode bildet, befindet sich das zu beschichtende Substrat.」(当審訳「カソードを形成するターゲットの上方に、コーティングされるサブストレートが存在する」)と記載されているように、サブストレートがカソードを形成するターゲットに対向して一方の側に配置されていることは、当該技術分野において周知の技術であるから、上記「2つの電極」は、サブストレートに対向して一方の側に配置されているといえる。
また、記載事項(c)によれば、「2つの電極」は、「対になって対向している」といえ、記載事項(f)によれば、サブストレートの両側にコーティングするための構成といえるから、「2つの電極」は、サブストレートを挟んで両側に対向して配置されているといえる。
以上のことから、甲第17号証には、「磁気システムとその上に配置された2つの電極からなるスパッタリング装置において、該電極がスパッタリングされる材料からなり、及び、これら電極が、交互に放電のカソードとアノードになるように電気的に接続されていることを特徴とするスパッタリング装置」において、「2つの電極」は、「サブストレートに対向して一方の側に、1つの平面に並べて配置される」場合と、「サブストレートを挟んで両側に対向して配置される」場合とが記載され、両方の場合でアーク放電を抑制できることが記載されているといえる。
そうしてみると、当該「スパッタリング装置」においては、「交互に放電のカソードとアノードになるように電気的に接続された2つの電極」を「サブストレートに対向して一方の側に、1つの平面に並べて配置」することと、「サブストレートを挟んで両側に対向して配置」することは、置換可能な技術であり、当業者にとって周知の技術といえる。
一方、甲2発明の「蒸着システム」も、「1次巻線に電源が接続された絶縁トランスの2次巻線の両端を、2つの平面マグネトロンターゲットにそれぞれ接続」して「2つの対向する平面マグネトロンターゲットに80kHzの電力を投入」するものであり、甲第17号証に記載された「スパッタリング装置」と同じように、2つの平面マグネトロンターゲットが交互に放電のカソードとアノードになるように電気的に接続されている。
そして、甲第2号証の記載事項(a)によれば、甲2発明は、「異なるターゲット/サブストレート幾何学構造に適用」できるといえるから、甲2発明において、平面マグネトロンターゲットが、「サブストレート及び回転台を挟んで対向して配置」されることに代えて、「サブストレートの一方の側に互いに並置」することは、当業者が適宜なし得る単なる設計的事項にすぎない。

(七)相違点Cについて検討する。
甲第5号証の記載事項(a)に「一般におよそ5MHz以上の周波数を電極に印加すると、空間に存在する電子はこの5MHzの周波数に対して追従するが、アルゴンイオンはその重量が大きいために追従できない・・・アルゴンイオンを電圧波形に追従させるために、基板に印加する電圧波形の繰り返し周波数を1MHz以下・・・とする。」と記載されているように、アルゴンイオンが1MHz以下の繰り返し周波数に対して追従することは、周知の技術である。
また、甲第2号証の記載事項(d)によれば、「Ne及びKrでも同様の結果が得られ、周波数が増加すると規格化蒸着速度は低下し、13.56MHzでの値は直流の値の?50%になった。すべての希ガスの値は非常によく似ていて、周波数による相対速度の低下は気体の質量に依存しないようである。30kHz以上の周波数では、システムに供給された電力の減少する割合は、ターゲットへのイオン流速、要するにスパッタ速度に現われる。」と記載され、甲第2号証には、小さな周波数では、イオンが周波数に追従していることが示唆されているといえる。
してみると、甲2発明では、交流源の周波数は80KHzに設定されていることから、アルゴンイオンや、アルゴンイオンより軽い窒素イオン等のイオンが上記周波数に追従していることは明らかであり、甲2発明では、交流源の周波数は、イオンが交番電磁界に追従できるように設定されているといえる。
したがって、上記相違点3は、実質的な相違点といえない。

(八)また、本件発明の明細書に記載された「反応性ガスに対して比較的親和性の高い物質のスパッタのための、均一で安定したプロセスが可能でかつ作動時間が長い場合であっても障害が生じたりとりわけフラッシュオーバが生じたりすることなく作動し、・・・絶縁膜を形成する場合、この膜をサブストレート上に確実に付着する装置を提供することにある。」(段落【0006】)との課題についてみてみると、甲第2号証の記載事項(e)に「80kHzでのスパッタリングの間、アーク放電は観察されず、膜中の微粒子の形跡はなかった。」と記載されているように、甲2発明においても、スパッタリング中にアーク放電が発生することなく成膜できることが示され、均一で安定したプロセスが可能であるといえる。
したがって、本件発明の作用効果は、甲第2号証に記載された事項及び周知技術から当業者であれば容易に予測可能なものといえる。

(九)そして、被請求人の主張についてみてみると、被請求人は「甲第2号証では、2つのカソードの中間にサブストレートが介在しており、プラズマ点火の障害となる。これに対して、本件発明では、2つのカソードを対向するサブストレートの一方側に並置することによって解決される。したがって、甲第1号証及び甲第2号証から本件発明を容易に想到できない。」(被請求人の主張い)参照)と主張しているが、甲第17号証に記載されているように、2つのカソードの中間にサブストレートを介在させて対向配置することも、2つのカソードを対向するサブストレートの一方側に並置することも、同等の配置方法として取り扱えることは明らかであり、また、当該主張は、本件明細書の記載に基づくものでもない。
また、被請求人は「甲第2号証には、絶縁トランスの2次巻線は、その一方の端子がアースされているかいないかについて全く詳しく記載されておらず、不明である。」(請求人の主張う)参照)と主張しているが、上記(一)で示したように、甲第2号証には、2次巻線がアースに接続されていることは示されておらず、また、2端子の一方がアースに接続されていなくでもスパッタリング装置として機能することは明らかであるから、甲第2号証が不明瞭であるとはいえない。
さらに、被請求人は「甲第10号証の図1において、磁石は、ヨークとU字型の横断面部材とで取囲んでおり、本件発明の構成要件とするカソード電極自体が磁石を取囲んでいない。」(請求人の主張え)参照)と主張しているが、上記(四)で示したように、U字形状の構成部材は、電極の一部として機能するものであり、U字形状の構成部材は、カソードの一部であるといえる。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

(十)以上のとおり、本件発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.無効理由2について
(一)請求人は、「本件特許の請求項1に記載の発明特定事項のうち、「該2つのカソード(5,5a)は、それぞれ対向するサブストレート(1,1′,1′,1″)に対してほぼ等しい空間的距離(A1またはA2)を有しており、」について、本件特許の図1にカソードとサブストレートとの距離として「A1」及び「A2」が僅かに図番として記載されているのみであり、本件明細書の発明の詳細な説明には何ら記載されておらず、どのような技術的意義があるかについても記載されていない。また、「ほぼ等しい」という語句は、その用語自体が非常に不明瞭である。」(請求人の主張エ)参照)と主張している。

(二)これについて検討すると、複数のターゲットやサブストレートを用いて蒸着膜を形成する場合に、形成される蒸着膜が均一となるとように、ターゲットとサブストレート間の空間的距離を含めた蒸着条件を揃えることは、技術常識である。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】に「この課題は、1つの交流源のアースに接続されていない2つの出力側を、ターゲットを支持するそれぞれ1つのカソードに接続し、2つのカソードは、付着室中のプラズマ空間の中に互いに並べて配置され、電気的には互いに分離されて設けられており、該2つのカソードは、それぞれ対向するサブストレートに対してほぼ等しい空間的距離を有しており、前記1つの交流源の周波数はスパッタ工程の間、イオンが交番電磁界に追従できるよう、1KHz?100KHzの周波数に設定されることを特徴とする、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置により解決される。」と記載され、また、図1にカソードとサブストレートとの距離として「A1」及び「A2」が図番として記載され、図1中で、これら「A1」及び「A2」がほぼ等距離に記載されていることから、上記技術常識を加味すれば、請求項1の「該2つのカソード(5,5a)は、それぞれ対向するサブストレート(1,1′,1′,1″)に対してほぼ等しい空間的距離(A1またはA2)を有しており、」との発明特定事項は、本件明細書の発明の詳細な説明に実質的に記載されているとみることができる。
また、この点に関して、請求人は、「明細書には、カソードとサブストレートの間の距離をどのように測定するかについて一切記載がない。サブストレートの中心とカソードの距離が等しいと解釈すると、サブストレートの形状が明記されていないので不明瞭である。」(請求人の主張オ)参照)と主張しているが、カソードの表面とサブストレートの表面との空間的距離を示していることは、技術常識から明らかであるから、この主張は認められない。

(三)そして、「ほぼ等しい」という語句は、空間的距離(A1またはA2)が等しいことの誤差を示したものと認められる。そして、この誤差は技術分野において定まるものであるから、当該記載が不明瞭であるとはいえない。
この点に関して、請求人は、「判断基準が使用者の主観任せとなり不明瞭である」(請求人の主張カ)参照)と主張しているが、上述したように、この誤差の範囲は技術分野において自ずと決まるものであるから、この主張は認められない。

(四)したがって、本件訂正後の請求項1は、特許法第36条の規定を満足しているから、無効理由があるとはいえない。

3.無効理由3について
無効理由3の対象となる請求項2は、上記「II.」で記載したとおり、訂正により削除された。したがって、対象となる請求項2が存在しないから、無効理由があるとはいえない。

VII.結び
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術により当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サブストレート上に反応性の膜を付着する装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】1つの交流源(10)を備えており、前記交流源(10)は排気可能な付着室(15,15a)内に設けられた磁石(19,19a,19bまたは19c,19d,19e)を取囲むカソード(5,5a)と接続されており、前記カソードはターゲット(3,3a)と電気的に共働し、ターゲット(3,3a)がスパッタされそのスパッタされた粒子がサブストレート上に沈着し前記付着室(15,15a)内へプロセスガスと反応性ガス例えばアルゴンと酸素を供給可能になっている、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置において、
前記1つの交流源(10)のアースに接続されていない2つの出力側(12,13)を、ターゲット(3,3a)を支持するそれぞれ1つのカソード(5,5a)に接続し、2つのカソード(5,5a)は、付着室(15,15a)中のプラズマ空間(15)の中で、前記サブストレートの一方の側に互いに並置され、電気的には互いに分離されて設けられており、
該2つのカソード(5,5a)は、それぞれ対向するサブストレート(1,1′,1′,1″)に対してほぼ等しい空間的距離(A1またはA2)を有しており、
前記1つの交流源(10)の周波数はスパッタ工程の間、イオンが交番電磁界に追従できるよう、1KHz?100KHzの周波数に設定されることを特徴とする、
サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電気絶縁材例えば二酸化珪素(SiO_(2)),交流源を備えており、前記交流源は排気可能な付着室内に配置された電極と接続され、前記電極はターゲットと電気的に接続され、ターゲットがスパッタされてそのスパッタされた粒子がサブストレート上に沈着し、付着室内へプロセスガスと反応性ガスとを供給することが可能である、サブストレート上に電気絶縁材、例えば二酸化珪素から成る反応性の膜を付着する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
カソードスパッタリング及び反応性ガスに対して親和性の高い物質を用いた従来のサブストレート上に膜を付着する方法では、サブストレートの他にプロセス室の内壁あるいはシャッタの部分あるいはターゲットの表面といった装置の部品自体にも非導電性あるいは導電性の低い物質の膜が付着し、屡々プロセスパラメータが変化されかつ特にフラッシュオーバをも発生するため、しばしばプロセスの中断やまたクリーニングあるいは装置の部品の交換が必要となるという問題があった。
【0003】
高周波、例えば13,56MHzで作動するスパッタ装置は公知であり(米国特許第3,860,507号明細書)、このスパッタ装置ではプロセス室内に互いに直径方向に対向している2つのターゲットを設け、これらターゲットはそれぞれ電極を介して交流トランスの2次巻線の2つの出力側と接続され、2次巻線は中央のタップを有し、この中央タップは2つのターゲットの間でグロー放電が生じるように、プロセス室の内壁に電気的に接続されている。
【0004】
さらにプラズマから形成された物質でサブストレート上に膜を付着する装置は公知であり(ドイツ特許公開第3802852号公報)、この装置では、第1の電極と第2の電極との間にサブストレートを設け、第1の電極は交流源の第1の端子にそして第2の電極は交流源の第2の端子に接続されている。この場合交流源は磁気漏れトランスとして形成されており、この磁気漏れトランスはイナートガス溶接機あるいは同じような制御された交流源に使用されている。さらに2つの電極は場合によって直流の給電源と接続することも可能である。
【0005】
最後に、磁石系とその上に配置された少なくとも2つの電極から成るスパッタリング装置が公知であり(東独特許公開第252205号公報)、この電極は、スパッタされるべき物質から成っており、これらの電極が交互にガス放電のカソードとアノードとなるように接続されており、その際電極は有利には50Hzの正弦波交流電圧に接続されている。この場合、各電極には独自の磁石系が対応して設けられており、一方の磁石系の1つの磁極が同時に隣接する磁石系の磁極であって、かつこれらの電極はひとつの平面内に配置されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、反応性ガスに対して比較的親和性の高い物質のスパッタのための、均一で安定したプロセスが可能でかつ作動時間が長い場合であっても障害が生じたりとりわけフラッシュオーバが生じたりすることなく作動し、例えばSiO_(2),Al_(2)O_(3),NiSi_(2)酸化物、ZrO_(2),TiO_(2),ZnO,SnO_(2),Si_(3)N_(4)というような絶縁膜を形成する場合、この膜をサブストレート上に確実に付着する装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この課題は、1つの交流源のアースに接続されていない2つの出力側を、ターゲットを支持するそれぞれ1つのカソードに接続し、2つのカソードは、付着室中のプラズマ空間の中に互いに並べて配置され、電気的には互いに分離されて設けられており、該2つのカソードは、それぞれ対向するサブストレートに対してほぼ等しい空間的距離を有しており、前記1つの交流源の周波数はスパッタ工程の間、イオンが交番電磁界に追従できるよう、1KHz?100KHzの周波数に設定されることを特徴とする、サブストレート上に電気絶縁材から成る反応性の膜を付着する装置により解決される。
【0008】
本発明により種々の実施例が可能であり、その1つを図を用いてより詳細に説明する。
【0009】
【実施例】
図1には、例えば二酸化珪素あるいは酸化アルミニウムである酸化物から成る薄膜2,2′,2″をそれぞれ有するサブストレート1,1′,1″が支持体27上に設けられている。スパッタされるべきターゲット3,3aはこれらのサブストレート1,1′,1″に対向して設けられている。ターゲット3,3aはそれぞれカソード体11,11aと接合されており、カソード体11,11aは、それぞれ3つの磁石19,19a,19bあるいは19c,19d,19eを有する磁石ヨーク11b,11cを収容している。
【0010】
6個の磁石の磁極のターゲット3,3aへ向いた極性は交番するので、それぞれ2つの外側の磁石19,19bまたは19c,19eのS極はそれぞれ内側にある磁石19aまたは19dのN極と共に、ターゲット3,3a上にほぼ円弧状の磁場を発生する。これらの磁場はターゲットの前でプラズマを密にし、その結果プラズマは磁場が円弧の最大値をとるところで、最大の密度を有する。プラズマの中のイオンは電源10から供給される交流電圧によって生ずる電界によって加速される。
【0011】
この交流源10は、トランス2次巻線25の端部から形成されかつ2つのカソード5,5aに接続される2つ端子12,13を有している。トランス2次巻線の2つの導体8,9は、2つのターゲット3,3aに接続されている。
【0012】
さらにターゲット3は導線14を介してアースに接続された電圧実効値検出器20に接続されており、電圧実効値検出器20はさらに別の導線21を介して調整器16に接続されており、調整器16は導線17を介して制御弁18に接続され、制御弁18は貯蔵容器22内の反応性ガスの真空室15,15aの分配管24への流入を制御する。
【0013】
付着室15,15aはリング状またはフレーム状の遮断板ないしシャッタ(アノード)4を備え、シャッタ4はスリット6を有し、このスリット6を通って分配管24からのプロセスガスが矢印方向に付着室15内へ流入可能である。さらにシャッタ4の下側の縁部は冷却管7により囲繞されており、冷却管7を通って冷却剤が流れシャッタの加熱を防止する。
【0014】
交流源10の周波数はスパッタ工程の間、イオンが交番電磁界に追従できるように選ばれており、それは約1KHz?100KHzの周波数である。
【0015】
導線14を介して取り出される放電電圧は電圧実効値検出器20を用いて導線21を介して直流電圧として調整器16に供給され、調整器16は、測定された電圧により必要な反応性ガスの量を決定できるように、導線17を介して反応性ガスの供給のための電磁弁18を制御する。
【0016】
なおプロセスガスは貯蔵容器23の中に貯蔵されており、制御弁28を介して分配管に供給される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明による2つのマグネトロンスパッタカソードを有するスパッタ装置の断面図である。
【符号の説明】
1,1′,1″ サブストレート
3,3a ターゲット
4 シャッタ
5,5a カソード
10 交流源
11,11a カソード体
11b,11c 磁石ヨーク
16 調整器
19,19a,19b,19c,19d,19e 磁石
20 電圧実効値検出器
22 反応性ガスの貯蔵容器
23 プロセスガスの貯蔵容器
24 分配管
25 トランス2次巻線
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-10-22 
結審通知日 2007-10-24 
審決日 2007-11-06 
出願番号 特願平4-45175
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀬良 聡機  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 松本 貢
宮澤 尚之
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3363919号(P3363919)
発明の名称 サブストレート上に反応性の膜を付着する装置  
復代理人 国立 久  
代理人 山崎 利臣  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 安田 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  

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