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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1176235
審判番号 不服2003-20405  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-20 
確定日 2008-04-14 
事件の表示 平成10年特許願第526835号「高速濾過システム」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月18日国際公開、WO98/25681、平成12年 9月12日国内公表、特表2000-511823〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、1997年12月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、1996年12月10日、米国、1997年12月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年7月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月18日付けで手続補正がなされ、その後、平成16年11月12日付けで上申書が提出され、さらに、平成19年4月27日付けで当審からの審尋に対して回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?32に係る発明は、平成15年11月18日付けで提出された手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1?32に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。

【請求項1】流体入り口および流体出口を有するフィルタ・ハウジングと、個々に圧縮可能な合成繊維の球形の塊を複数含み、前記流体入り口および前記流体出口の間で前記フィルタ・ハウジング内にあるフィルタ・ベッド中に配置された調節可能な多孔度とコレクタ寸法を持ち、濾過が多孔度の高いフィルタ・ベッドから低いフィルタ・ベッドの方向に進行するように、流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する勾配で圧縮された濾過媒体と、前記濾過媒体の前記多孔度と前記コレクタ寸法を調節する手段であり、前記手段が、濾過が多孔度の高いフィルタから低いフィルタの方向に進行するように、流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する圧縮勾配で前記濾過媒体を圧縮することを含む手段と、を含むことを特徴とする三次濾過装置。」

3.引用文献の記載事項
(1)特開平6-79107号公報(原審の拒絶の理由に引用された引用文献1;以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「繊維塊受止用周側板1に繊維塊受止用上部多孔板2を固定し、昇降用シリンダ3により昇降移動される繊維塊受止用下部可動多孔板4を、繊維塊受止用上部多孔板2の下部において繊維塊受止用周側板1に嵌入し、前記繊維塊受止用上部多孔板2と繊維塊受止用下部可動多孔板4との間に繊維塊5を充填して濾過層6を形成し、繊維塊受止用下部可動多孔板4の下方に被濾過水供給室7を設けた上向流式高速濾過装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「繊維塊5は、束状捲縮繊維8の中央部を結束線材9により結束して構成したほぼ球状体であり、かつ圧縮性および復元性を備えている請求項1の上向流式高速濾過装置。」(【特許請求の範囲】【請求項2】)
(ウ)「【実施例】図7および図8は本発明の実施例において用いられる捲縮繊維塊からなる濾過用繊維塊5を示すものであって、例えば20?200デニールの合成繊維に2?10回/インチの捲縮を付与した多数の捲縮繊維8が束状に集合され、かつその束状捲縮繊維8の中央部が、剛性のある合成繊維糸,硬質プラスチックバンドまたはアルミ線等の耐蝕性金属線からなる結束線材9により絞られるように結束され、その結束された束状捲縮繊維が丸められて、直径10?50mmのほぼ球状に形成されている。前記捲縮繊維8を構成する合成繊維としては、水よりも高比重の繊維例えばポリ塩化ビニリデン系繊維が最適であるが、ポリ塩化ビニル繊維,ポリエチレン系繊維またはその他の合成繊維を使用してもよい。」(段落【0005】)
(エ)「多数の繊維塊5からなる濾過層6は、昇降用シリンダ3によって下部可動多孔板4を上昇させることにより、上部多孔板2と下部可動多孔板4との間に保持され、その下部可動多孔板4をさらに上昇させて、多数の繊維塊5を圧縮することにより、繊維塊5相互間の隙間をなくすると共に、緻密で均一な濾過層6を形成する。また被濾過水供給室7を上昇する原水(被濾過水)の上向流は、濾過層6を通過する際に濾過され、濾水は、下流側堰29から溢流して濾水受溝47を通って放流される。」(第3頁左欄37?46行、段落【0008】)
(オ)「繊維塊5を空隙率が約90%になるまで圧縮すると、前述の無駄な隙間がなくなると同時に緻密でかつ均一な濾過層6が形成されるので、高性能な濾過を行なうことができる。」(第3頁右欄20?23行、段落【0011】)
(カ)「次に本発明の上向流式高速濾過装置の浄化作用を図9ないし図13に示す原理図によって説明する。繊維塊受止用下部可動多孔板4を上昇させると、図9に示すように、上部多孔板2と下部可動多孔板4との間に保持された繊維塊5は濾過層6を形成する。下部可動多孔板4をさらに上昇させると、図10に示すように、繊維塊5が上下方向から押潰し変形されて、繊維塊5相互間および繊維塊5と周側板1との間の隙間がなくなり、緻密でかつ均一な濾過層6を形成する。」(段落【0012】)
(キ)「次に濾過層6の上方において水槽49に接続された濾水排出弁50を開放し、かつ水槽49に供給した原水51を、上向流として濾過層6を通過させると、図11に示すように、濾過が開始される。」(第3頁右欄40?43行、段落【0013】)

(2)特開平6-182115号公報(原審の拒絶の理由に引用された引用文献2;以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「繊維長が30?200mmでありかつ捲縮を有する有機繊維を多数本引揃え、繊維間に点接着点を多数形成せしめた棒状繊維集束体を長さ3?50mmに切断してなる濾材を、濾過槽内に、層状に、この濾過槽内の支持体にこの濾材層が接触するように充填し、濾材洗浄時に前記濾材が自由に浮遊展開し得る濾材展開部を設け、かつ、前記濾過槽に被濾過液を供給する供給管と、この被濾過液供給管の濾材層を挟んだ反対側に浄液取出管と濾材洗浄用液供給管を配設してなる濾過装置。」(【特許請求の範囲】)
(イ)「本発明に使用する水処理材は、捲縮ある繊維の集束体内部の繊維を部分的に接合しているため、内部に均一な空隙を有し、圧縮によりその空隙を縮小し、濾過効果を上げることが容易にでき、無圧縮状態にすれば容易に原形に復し、かつ、逆洗浄での繊維脱落もない。」(第3頁左欄15?20行、段落【0010】)
(ウ)「また、本発明装置を用いて濾過を行うには、濾材層の下方に多孔板を設置し、上方よりの下向流によって濾過する場合と、濾材層の両側に多孔板を設置し、片側より圧縮して濾過する場合があり、それぞれ濾過する液に含まれる汚濁物の粒子の大きさ、濃度、濾過後の清澄液の使用目的によって適宜選択すればよい。」(第3頁左欄34?39行、段落【0012】)
(エ)「濾材層の両側に多孔板を配置して片側より圧縮濾過する場合には、圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高いため、繊維圧縮側より被濾過液を供給すると汚濁物は主として圧縮された繊維表面部分で捕捉されるが、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給した場合には、液が繊維充填度の低い側から高い側に移動するので汚濁物の粒子の大きなものより徐々に捕捉される。このため、目づまりを起こすに至るまでの時間が長い。」(第3頁左欄48行?同頁右欄5行、段落【0013】)
(オ)「また、濾材層上部に設ける浮遊展開部の大きさは必要に応じて適宜選定すればよいが、濾材層下部より洗浄液を注入し、流速により押し上げられた濾材が上下左右に自由に移動し得る場所があればよい。・・・図1?図3は本発明の濾過装置の実施例を示すもので、図1は繊維濾材を圧縮しない場合の装置、図2は濾材の上方より圧縮した場合、図3は濾材の下方より圧縮した場合の装置で、いずれも下向流により濾過するものとする。・・・適宜の径を有する濾過槽1の内部に多孔板3、4を設け、その内部に繊維濾材2を入れる。」(第3頁右欄8?24行、段落【0014】及び【0015】)
(カ)「図2の装置は図1の装置と同様のものであるが、濾過槽1の上部に濾材圧縮のためのネジ12の付いたハンドル11を有し、その下部には多孔板4’を固定し、ネジの上下運動を伝えるが、回転運動を伝えないように工夫した装置を接続する。13はネジ座であり、ハンドルを回転することにより多孔板4’が上下する。濾過時には多孔板4’を下ろし、適量の圧縮を加え、逆洗時には濾材の展開し得る場所まで多孔板を上げる。」(段落【0016】)
(キ)「図3の装置も図1の装置と同様のものであるが、濾過槽1の下部にハンドル11を有し、図2の場合と同様に下方多孔板3′をハンドルにより上下し、濾材に圧縮を加える。この方法による濾過は、被濾過液が、繊維密度の粗なる領域から密なる領域に流れるために、排液中の大きなものから捕捉されるので、濾過効率のよいものとなるが、設備的には水のシーリング等が比較的に難しいという問題がある。」(段落【0017】)
(ク)【図2】(第5頁)には、「本発明の濾過装置の他の実施例」が図示され、そこには上記(カ)の技術事項が窺われる。
(ケ)【図3】(第5頁)には、「本発明の濾過装置のさらに他の実施例」が図示され、そこには上記(キ)の技術事項が窺われる。

4.対比・判断
(1) 引用例2には、記載事項(ア)に「繊維長が30?200mmでありかつ捲縮を有する有機繊維を多数本引揃え、繊維間に点接着点を多数形成せしめた棒状繊維集束体を長さ3?50mmに切断してなる濾材を、濾過槽内に、層状に、この濾過槽内の支持体にこの濾材層が接触するように充填し、濾材洗浄時に前記濾材が自由に浮遊展開し得る濾材展開部を設け、かつ、前記濾過槽に被濾過液を供給する供給管と、この被濾過液供給管の濾材層を挟んだ反対側に浄液取出管と濾材洗浄用液供給管を配設してなる濾過装置」が記載されている。この記載中の「濾材」に関し、記載事項(イ)に「内部に均一な空隙を有し、圧縮によりその空隙を縮小し、濾過効果を上げることが容易にでき、無圧縮状態にすれば容易に原形に復」すことが記載されている。また、「濾過槽内に、層状に、この濾過槽内の支持体にこの濾材層が接触するように充填し、濾材洗浄時に前記濾材が自由に浮遊展開し得る濾材展開部を設け」ることに関し、記載事項(ウ)に「濾材層の両側に多孔板を設置し、片側より圧縮して濾過する場合があ」ること、記載事項(エ)に「濾材層の両側に多孔板を配置して片側より圧縮濾過する場合には、圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高いため、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給した場合には、液が繊維充填度の低い側から高い側に移動するので汚濁物の粒子の大きなものより徐々に捕捉される」こと、記載事項(オ)には「浮遊展開部の大きさは・・・濾材層下部より洗浄液を注入し、流速により押し上げられた濾材が上下左右に自由に移動し得る場所」であり、「濾過槽の内部に多孔板を設け、その内部に繊維濾材を入れる」ことが記載され、さらに、本発明の濾過装置の実施例である図3の装置として、記載事項(オ)に「図3は濾材の下方より圧縮した場合の装置で、いずれも下向流により濾過するものとする」こと、記載事項(キ)に「下方多孔板をハンドルにより上下し、濾材に圧縮を加える。この方法による濾過は、被濾過液が、繊維密度の粗なる領域から密なる領域に流れる」ことが記載されている。
これらの記載を、図3の実施例の装置を下に本願発明1の記載振りを踏まえて整理すると、引用例2には、「捲縮を有する有機繊維を多数本引揃え、繊維間に点接着点を多数形成せしめた棒状繊維集束体を切断してなるものであって、内部に均一な空隙を有し、圧縮によりその空隙を縮小し、無圧縮状態にすれば原形に復す濾材を、濾過槽内に、層状に、この濾過槽内の上下両側の多孔体にこの濾材層が接触するように充填し、下方多孔板を上下して、濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるようにするとともに、濾材洗浄時に濾材層下部より洗浄液を注入して前記濾材が上下左右に自由に移動するように構成し、前記濾過槽に被濾過液を供給する供給管と、この被濾過液供給管の濾材層を挟んだ反対側に浄液取出管と濾材洗浄用液供給管を配設してなる濾過装置」の発明(以下、「引用2発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願発明1と引用2発明を対比すると、引用2発明の「濾材」、「濾過槽」及び「濾材層」が、それぞれ、本願発明1の「濾過媒体」、「フィルタ・ハウジング」及び「フィルタ・ベッド」に相当し、この引用2発明の「濾材」は「捲縮を有する有機繊維を多数本引揃え、繊維間に点接着点を多数形成せしめた棒状繊維集束体を切断してなるものであって、内部に均一な空隙を有し、圧縮によりその空隙を縮小し、無圧縮状態にすれば原形に復す」ものであることから、本願発明1の「個々に圧縮可能な合成繊維の塊」の「濾過媒体」であるとみれる。そして、引用2発明の「被濾過液を供給する供給管」及び「浄液取出管」が濾過槽に配設されていることからみて、濾過槽には「被濾過液を供給する供給管」の入り口や「浄液取出管」の出口を有していることは明らかである。また、引用2発明の「下方多孔板を上下」する構成は、そのことにより「濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるように」されていることからみて、濾材に圧縮による勾配を生じさせているは明らかであるとともに、かかる構成は、本願発明1の「流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する圧縮勾配で前記濾過媒体を圧縮することを含む手段」に相当するといえる。
以上のことから、両者は「流体入り口および流体出口を有するフィルタ・ハウジングと、個々に圧縮可能な合成繊維の塊を複数含み、前記流体入り口および前記流体出口の間で前記フィルタ・ハウジング内にあるフィルタ・ベッド中に配置され、流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する勾配で圧縮された濾過媒体と、流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する圧縮勾配で前記濾過媒体を圧縮することを含む手段と、を含む濾過装置」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点(a):本願発明1は、「濾過媒体」が「球形」であるのに対して、引用2発明では、「濾材」が「繊維間に点接着点を多数形成せしめた棒状繊維集束体を切断してなる」ものである点
相違点(b):本願発明1は、「調節可能な多孔度とコレクタ寸法を持ち、濾過が多孔度の高いフィルタ・ベッドから低いフィルタ・ベッドの方向に進行するように圧縮された濾過媒体」と「前記濾過媒体の前記多孔度と前記コレクタ寸法を調節する手段であり、前記手段が、濾過が多孔度の高いフィルタから低いフィルタの方向に進行するように圧縮する手段」とを含むのに対し、引用2発明では、「濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるようにする」点
相違点(c):本願発明1では、「三次濾過装置」であるのに対して、引用2発明では、「三次濾過」が特定されていない点

そこで、上記の相違点について検討する。
(i)相違点(a)について
引用例1には、記載事項(ア)?(ウ)によれば「繊維塊受止用上部多孔板と昇降移動される繊維塊受止用下部可動多孔板との間に、ほぼ球状体であり、かつ圧縮性および復元性を備えている濾過用繊維塊を充填して濾過層を形成」することが記載されているといえる。この記載に照らせば、「圧縮性および復元性を備えている濾材」として「球状」のものは公知であるとみることができる。
してみると、引用2発明に、圧縮可能な濾材として、「球形」のものを用いることに格別困難はなく、当業者が容易に行うことができることといえる。
(ii)相違点(b)について
まず、相違点(b)に係る本願発明1の構成の「多孔度とコレクタ寸法」についてみておくと、本願明細書には「多孔度」及び「コレクタ寸法」に関して「多孔度は一般的には、フィルタ媒体の空隙スペースすなわち隙間のフィルタ媒体の全体積に対する百分率で表した比率である」(第11頁24?25行)、「コレクタ寸法は一般的には、粒子濾過媒体を含んでいる典型的なフィルタ内のフィルタ・ベッド中の粒子の平均直径である・・通常、フィルタ・ベッド中の孔同士間の平均間隔である」(第12頁1?3行)、「媒体のコレクタ寸法および多孔度すなわち空隙比率は、フィルタ媒体が圧縮可能であるため、流入汚水の特性に従って修正する事が可能である。媒体のベッドの空隙率とコレクタ寸法は、上部可動プレートの位置を調整することによって調整される。」(第12頁10?13行)、「流れが媒体中にあるとき、粒子フィルタ媒体中の粒子の寸法として定義され得るコレクタ寸法は、個々のフィルタの塊の構造物内の平均孔間隔として本発明でも用いられるようにフィルタ媒体で定義することが可能である・・・コレクタ寸法は1つの繊維状の塊の公称直径と定義される」(第17頁11?16行)及び「多孔度、フィルタ・ベッドの深さおよびコレクタ寸法はすべて濾過サイクル中でさえも変更可能であるが、その理由は、フィルタ媒体は圧縮可能であるからである」(第17頁20?22行)と記載されている。これらの記載からみると、「多孔度」とは「空隙率」であり、「コレクタ寸法」とは「フィルタ媒体の平均直径(公称直径)」であり、これらは「フィルタ媒体が圧縮可能であるがゆえに、可動プレートの位置を調整することによって調整される」ものであるといえる。
してみると、引用2発明の「濾材」は上記したとおり、「内部に均一な空隙を有し、圧縮によりその空隙を縮小し、無圧縮状態にすれば原形に復す」ものであり、「下方多孔板を上下して、濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし」、「繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるよう」にするものであることからみて、引用2発明の「濾材」は「空隙率」や「平均直径」が調整可能になっていることは明らかであるとともに、「繊維充填度が低い(繊維密度が粗)」が「空隙率が高い」こと、「繊維充填度が高い(繊維密度が密)」が「空隙率が低い」ことを意味することは明白であることから、引用2発明の「濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるようにする」ことは、本願発明1の「調節可能な多孔度とコレクタ寸法を持ち、濾過が多孔度の高いフィルタ・ベッドから低いフィルタ・ベッドの方向に進行するように圧縮された濾過媒体」と「前記濾過媒体の前記多孔度と前記コレクタ寸法を調節する手段であり、前記手段が、濾過が多孔度の高いフィルタから低いフィルタの方向に進行するように圧縮する手段」を有することと実質的に違いはなく、相違点(b)は単なる表現上の差異でしかない。

(iii)相違点(c)について
相違点(c)に係る本願発明1の構成の「三次濾過」の意味について、本願明細書をみてみると、「図1は、本発明に従う三次処理システムを含む典型的活性スラッジプラントの略図であり」(第6頁12行)とあり、図1には「生下水が、起動されたスラッジ反応器、清澄器、上方流フィルタを経て処理済み汚水、排出水として排出される」概念図が図示され、「二次処理と呼ばれる、処理済み汚水からのスラッジの重力分離のために1つ以上の清澄器60に送られる」(第9頁3?5行)、「本発明による高速上方流濾過システムは三次濾過システムとして有用であり」(第9頁9?10行)と記載される。これらの記載に照らせば、引用例2の「【産業上の利用分野】」本発明は、・・・活性汚泥沈殿処理水、凝集沈殿処理水、・・・などの濾過のための高速濾過装置に関するものである。」(段落【0001】)の記載から、引用2発明の「濾過装置」が「活性汚泥沈殿処理水、凝集沈殿処理水、・・・などの濾過のための高速濾過装置に関する」ものである以上、実質的な差異はなく、引用2発明の「濾過装置」において、活性汚泥沈殿処理水、凝集沈殿処理水などの多段処理における「三次処理」として「三次濾過」と特定することに格別な困難性は見当たらない。

そして、本願発明1の相違点(a)?(c)に係る構成を採ることにより奏される「濾過効率を許容範囲内に維持しながらも濾過時間を延長できる」などの効果も当業者であれば引用例2及び引用例1から予測し得る範囲内のことである。
してみると、本願発明1は、引用例2及び引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)なお、原査定の理由は、引用文献1(引用例1)を主引例としているところ、念のため、引用例1を主引用例として検討しておくと、
引用例1には、記載事項(カ)に「本発明の上向流式高速濾過装置」について「繊維塊受止用下部可動多孔板4を上昇させると、上部多孔板2と下部可動多孔板4との間に保持された繊維塊5は濾過層6を形成する。下部可動多孔板4をさらに上昇させると、繊維塊5が上下方向から押潰し変形されて、繊維塊5相互間および繊維塊5と周側板1との間の隙間がなくなり、緻密でかつ均一な濾過層6を形成する」ことが、また、記載事項(キ)に「濾過層6の上方において水槽49に接続された濾水排出弁50を開放し、かつ水槽49に供給した原水51を、上向流として濾過層6を通過させると、濾過が開始される」ことが記載されている。これらの記載からみれば、引用例1には「繊維塊受止用下部可動多孔板を上昇させ、上部多孔板と下部可動多孔板との間に保持された繊維塊は濾過層を形成し、下部可動多孔板をさらに上昇させ、繊維塊が上下方向から押潰し変形されて、繊維塊相互間および繊維塊と周側板との間の隙間がなくなり、緻密でかつ均一な濾過層を形成し、濾過層の上方において水槽に接続された濾水排出弁を備え、水槽に供給した原水を、上向流として濾過層を通過させる上向流式高速濾過装置」が記載されているといえる。この記載中の「繊維塊」に関し、記載事項(イ)に「ほぼ球状体であり、かつ圧縮性および復元性を備えている」こと、記載事項(ウ)に「捲縮繊維8を構成する合成繊維としては、水よりも高比重の繊維例えばポリ塩化ビニリデン系繊維が最適であるが、ポリ塩化ビニル繊維,ポリエチレン系繊維またはその他の合成繊維を使用してもよい」ことが記載されている。また、「濾過層」に関しては、記載事項(エ)に「多数の繊維塊5からなる」ことが記載されている。
これらの記載を本願発明1の記載振りを踏まえて整理すると、引用例1には、「上部多孔板と下部可動多孔板との間に保持された、ほぼ球状体の、圧縮性および復元性を備えた、合成繊維からなる多数の繊維塊を充填して濾過層を形成するとともに、下部可動多孔板を上昇させて、繊維塊が上下方向から押潰し変形されて、繊維塊相互間および繊維塊と周側板との間の隙間がなくなり、緻密でかつ均一な濾過層を形成し、濾過層の上方において水槽に接続された濾水排出弁を備え、水槽に供給した原水を、上向流として濾過層を通過させる上向流式高速濾過装置」の発明(以下、「引用1発明」)が記載されているといえる。
そこで、本願発明1と引用1発明を対比すると、
引用1発明の「繊維塊」、「水槽」及び「濾過層」は、本願発明1の「濾過媒体」、「フィルタ・ハウジング」及び「フィルタ・ベッド」に相当し、引用1発明の「繊維塊」は「ほぼ球状体の、圧縮性および復元性を備えた、合成繊維の」ものであることから、本願発明1の「個々に圧縮可能な合成繊維の塊」の「濾過媒体」であるとみれる。そして、引用1発明の「水槽」には原水が供給され、「水槽」に「濾水排出弁」が接続されて備えられていることからみて、引用1発明の「水槽」には「原水」の入り口や「濾水」の出口を有していることは明らかである。また、引用1発明の「下部可動多孔板を上昇させ」ることは、そのことにより「繊維塊が上下方向から押潰し変形されて、繊維塊相互間および繊維塊と周側板との間の隙間がなくなり、緻密でかつ均一な濾過層を形成」されるのであるから、かかる技術事項は、本願発明1の「濾過媒体を圧縮することを含む手段」に相当するといえる。
以上のことから、両者は「流体入り口および流体出口を有するフィルタ・ハウジングと、個々に圧縮可能な合成繊維の球形の塊を複数含み、前記流体入り口および前記流体出口の間で前記フィルタ・ハウジング内にあるフィルタ・ベッド中に配置され、圧縮された濾過媒体と、前記濾過媒体を圧縮することを含む手段と、を含む濾過装置」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点(d):本願発明1では、「濾過媒体」が「調節可能な多孔度とコレクタ寸法を持ち、濾過が多孔度の高いフィルタ・ベッドから低いフィルタ・ベッドの方向に進行するように、流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する勾配で圧縮され」ているのに対し、引用1発明では、「繊維塊」が「圧縮」され、緻密でかつ均一な濾過層を形成しいる点
相違点(e):本願発明1は、「前記濾過媒体の前記多孔度と前記コレクタ寸法を調節する手段であり、前記手段が、濾過が多孔度の高いフィルタから低いフィルタの方向に進行するように、流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する圧縮勾配で圧縮する手段」を有しているのに対し、引用1発明は、「下部可動多孔板を上昇させて、繊維塊が上下方向から押潰し変形」される点
相違点(f):本願発明1では、「三次濾過装置」であるのに対して、引用1明では、「三次濾過」が特定されていない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(i)相違点(d)及び相違点(e)の技術事項は、ともに「濾過媒体」の「前記多孔度と前記コレクタ寸法の調節」や「流体の流れと反対側の方向に、圧縮比率の高い方から低い方へと進行する勾配で圧縮」されることに関連するものであるから、併せて検討すると、
まず、本願発明1の構成の「多孔度とコレクタ寸法」については、上記「4.(1)(ii)」で述べたとおり、「多孔度」とは「空隙率」であり、「コレクタ寸法」とは「フィルタ媒体の平均直径(公称直径)」であり、これらは「フィルタ媒体が圧縮可能であるがゆえに、可動プレートの位置を調整することによって調整される」ものであるといえる。そして、引用1発明の「繊維塊」は下部可動多孔板の上昇により押潰し変形されるものであることからみて、引用1発明の「繊維塊」は「空隙率」や「平均直径」が調整可能になるものであることは明らかであるといえる。
ここで、引用例2をみてみると、引用例2には、上記「4.(1)」で述べたとおり「捲縮を有する有機繊維を多数本引揃え、繊維間に点接着点を多数形成せしめた棒状繊維集束体を切断してなるものであって、内部に均一な空隙を有し、圧縮によりその空隙を縮小し、無圧縮状態にすれば原形に復す濾材を、濾過槽内に、層状に、この濾過槽内の上下両側の多孔体にこの濾材層が接触するように充填し、下方多孔板を上下して、濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるようにするとともに、前記濾材が濾材洗浄時に濾材層下部より洗浄液を注入して上下左右に自由に移動するように構成し、前記濾過槽に被濾過液を供給する供給管と、この被濾過液供給管の濾材層を挟んだ反対側に浄液取出管と濾材洗浄用液供給管を配設してなる濾過装置」の発明が記載されているといえる。
引用2発明の「濾材」は、「内部に均一な空隙を有し、圧縮によりその空隙を縮小し、無圧縮状態にすれば原形に復す」ものであり、「下方多孔板を上下して、濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし」、「繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるよう」にするものであることから、引用2発明には、「濾材」が「空隙率」や「平均直径」が調整可能になっているという技術的事項、あるいは「濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるようにする」という技術的事項が開示されているといえ、これらの技術的事項は、「繊維充填度が低い(繊維密度が粗)」が「空隙率が高い」ことや「繊維充填度が高い(繊維密度が密)」が「空隙率が低い」ことを意味することが自明であることを勘案すると、本願発明1の「調節可能な多孔度とコレクタ寸法を持ち、濾過が多孔度の高いフィルタ・ベッドから低いフィルタ・ベッドの方向に進行するように圧縮された濾過媒体」と「前記濾過媒体の前記多孔度と前記コレクタ寸法を調節する手段であり、この手段が、濾過が多孔度の高いフィルタから低いフィルタの方向に進行するように圧縮する手段」を有することと実質的に違いはない。してみると、引用例2には、本願発明1の相違点(d)及び相違点(e)に係る特定事項が開示されているとみることができる。
而して、引用1発明の「圧縮性および復元性を備えた、合成繊維の多数の繊維塊を充填し、下部可動多孔板を上昇させて」形成した「濾過層」として、引用2発明の「濾材の下方より濾材を圧縮して圧縮側の繊維充填度が圧縮しない側に比べ高くし、繊維圧縮側の反対側より被濾過液を供給し被濾過液が繊維充填度の低い側から高い側に(繊維密度の粗なる領域から密なる領域に)流れるように」した「濾過層」を用いることは、以下に述べることから、当業者が格別困難なく行うことができるものである。
すなわち、引用1発明及び引用2発明がともに圧縮可能な繊維状濾材を用いる濾過に関するものであり、また、引用2発明について、引用例2には「繊維密度の粗なる領域から密なる領域に流れるために、排液中の大きなものから捕捉され濾過効率のよいものとなる」(記載事項(エ)及び(キ))ことが有意な効果として記載されており、さらに、引用1発明は、上向流式濾過に関し、一方引用2発明は図3から明らかなとおり下向流に関するものであるが、引用例2には、記載事項(カ)に「濾過時には多孔板を下ろし、適量の圧縮を加え、逆洗時には濾材の展開し得る場所まで多孔板を上げる」ことが記載され、図2にもその技術的事項が図示されており、また、引用2発明が上述の有意な効果に基づくものであることから、引用2発明の構成を引用1発明の上向流に適用することは、引用例2の上記した図2に関する技術的事項を参酌すれば、格別の阻害要因があるとはいえないからである。
なお、この阻害要因に関し、請求人は審判請求書で「引用文献2には、濾過を多孔度の高いフィルタから低いフィルタの方向に進行させると、水のシーリング等が困難になるという技術的な問題が記載されており、濾過装置において、濾過を多孔度の高いフィルタから低いフィルタの方向に進行させることに阻害要因が存在することを明示しています。」(第5/E頁第4?8行)と主張しているが、水のシーリング等の問題は、図2の技術的事項の適用に伴い、自ずから解消する問題であるとともに設計的な範疇の事項であるから、この主張を格別のものとみることはできない。

(ii)相違点(f)について
相違点(f)については、上記「4.(1)(iii)」の相違点(c)と同じであるから、そこで述べた同じ理由により、引用1発明の「濾過装置」において、活性汚泥沈殿処理水、凝集沈殿処理水などの多段処理における「三次処理」として「三次濾過」と特定することに格別な困難性は見当たらない。

そして、本願発明1の相違点(d)?(f)に係る構成を採ることにより奏される効果も当業者であれば引用例1及び引用例2から予測し得る範囲内のことである。
してみると、本願発明1は、引用例1を主引用例としてみても、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

なお、回答書において補正案を提示しているが、この補正案をみても結論を覆すまでの事由を見出すことができないことを付言する。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例2及び引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
しかるに、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-21 
結審通知日 2007-11-22 
審決日 2007-12-04 
出願番号 特願平10-526835
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 中村 敬子
斎藤 克也
発明の名称 高速濾過システム  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  

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