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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1176299
審判番号 不服2006-1055  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-16 
確定日 2008-04-07 
事件の表示 平成10年特許願第108009号「複列円すいころ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 2日出願公開、特開平11-303861〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成10年4月17日の出願であって、平成17年12月12日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月16日に拒絶査定不服審判が請求されたところ、当審において平成19年8月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成19年10月23日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし請求項3に係る発明は、平成19年10月23日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
内輪と、外輪と、内外輪間に組み込まれた複数の円すいころと、円すいころを保持する保持器とで構成された、車両の車輪を支持するための複列円すいころ軸受において、前記外輪が、内周面に複列の軌道を備えたスリーブ部と、スリーブ部の一端に形成した、ホイール板をボルト締結するためのフランジと、スリーブ部の外周面の円周方向複数位置に配設されフランジから軸方向に途中まで延在する互いに独立したリブとを一体的に有し、隣り合ったリブ間にねじ孔を配置し、リブ数はねじ孔と同数またはそれ以下で、各リブの横断面形状を略台形とし、縦断面形状をフランジから離れるにつれて高さが漸次減少する略直角三角形とし、平面形状をフランジから離れるにつれて幅が漸次減少するテーパ状とし、各リブの断面積がフランジ側で最も大きく、フランジから離れるにつれて漸次減少することを特徴とする複列円すいころ軸受。」

3.引用刊行物とその記載事項
(1)刊行物1
当審において平成19年8月23日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-300035号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「自動車用ホイールベアリング」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔ア〕「【産業上の利用分野】本発明はベアリングに係り、特にアンチロックブレーキシステムが設けられた車両のホイールベアリングに関する。」(段落【0001】参照。)
〔イ〕「【実施例】図1にアンチロックブレーキシステムが取付けられた車両のロードホイール用のホイールベアリングAを示す。ベアリングAは、互いに離れるように傾斜したレース軌道11を有する外側レースリング10と、クリップ13により互いに衝接して支持され且つ互いに対向するように傾斜したレース軌道14を有する二つの内側レースリング12と、レース軌道11と14との間に位置する二列のテーパ付きローラとよりなる二列テーパ付ローラベアリングである。シール16が少なくともベアリングの一端に設けられる。外側レースリング10は、ベアリングAの軸である回転軸を中心として内側レースリング12の回りを回転し、それに伴ってレース軌道11と14に沿ってローラ15が回転する。
外側レースリング10は、図の上側半分に示されるホイールキャリア20とブレーキディスク21或いは図の下側半分に示されるホイールキャリア20とブレーキドラム24を取付けるため、スタッド又はボルト19を受容するためのねじ孔18が加工されたフランジ17を形成するために、軸方向の一端が軸方向に厚くなっている。」(段落【0006】及び【0007】参照。)

また、図1の記載からみて、次の事項が見てとれる。
〔ウ〕「外側レースリング10」は、「内周面に二列のレース軌道11を備えたスリーブ部」を有している。

以上の記載事項及び図面からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認められる。
《刊行物1の発明》
「内側レースリング12と、外側レースリング10と、内外レースリング間に組み込まれた複数のテーパ付ローラ15とで構成された、車両のロードホイールを支持するための二列テーパ付ローラベアリングにおいて、前記外側レースリング10が、内周面に二列のレース軌道11を備えたスリーブ部と、スリーブ部の一端に形成した、ホイールキャリア20をボルト締結するためのフランジ17とを一体的に有する二列テーパ付ローラベアリング。」

(2)刊行物2
当審において平成19年8月23日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭62-42555号(実開昭63-150861号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、「ディスクブレーキ用ハブ」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔エ〕「(1)車軸にベアリングを介して軸承されるハブの外周円にハブの内側でハブを一体に形成され、かつ車軸軸線と同方向に延在した円筒状部材と、前記円筒状部材の端面にボルトもしくはナットによって締付固定ディスクとにより構成されたことを特徴とするディスクブレーキ用ハブ。
(2)前記円筒状部材がリブで補強されていることを特徴とする実用新案登録第1項記載のディスクブレーキ用ハブ。」(第1ページ第5行?第14行;実用新案登録請求の範囲)
〔オ〕「以下本考案の実施例を第1図及び第2図に基づいて説明する。3はハブであり、第3図に示す従来と同様に車軸1にベアリング2を介して軸承されている。
本考案は、このハブ3の外周円にハブ3の内側でハブ3と一体に形成され、かつ車軸軸線と同方向に延在した円筒状部材11aをハブ3と離間するリング状の空間部12を形成して設け、この円筒状部材11aの端面にディスク13をボルト14で固着した構造である。尚、円筒状部材11aの外面には複数本のリブ11が形成され補強している。」(第4ページ第12行?第5ページ第3行)

また、第1図及び第2図の記載から、リブ11の数及び形状に関し、次の事項〔カ〕及び〔キ〕も記載事項として認められる。

〔カ〕リブ11の数はボルト孔(隣り合うリブ11間に設けられたボルト孔;第1図では、部材番号11の引出線の左側に図示されているボルト孔)と同数であり、さらに、各リブ11の断面積は、フランジ側で最も大きく、フランジから離れるにつれて漸次減少している。
〔キ〕各リブ11の縦断面(第1図に示されるような、車軸1及びハブ3の中心軸を含む断面)の形状はフランジから離れるにつれて高さが漸次減少する略直角三角形であり、平面形状はフランジから離れるにつれて幅が漸次減少するテーパ状である。

以上の記載事項及び図面によれば、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「車両の車輪を支持するためのハブ(3)において、当該ハブ(3)が、円筒状部材(11a)と、円筒状部材(11a)の一端に形成した、ボルト締結のためのフランジと、円筒状部材(11a)の外周面の円周方向複数位置に配設された、フランジから軸方向に延在する互いに独立したリブ(11)とを一体的に有し、リブ(11)の数はボルト孔と同数で、各リブ(11)の断面積がフランジ側で最も大きく、フランジから離れるにつれて漸次減少するハブ(3)。」

4.対比
本願発明と刊行物1の発明とを比較すると、刊行物1の発明の「内側レースリング12」は本願発明の「内輪」に、以下同様に、「外側レースリング10」は「外輪」に、「テーパ付ローラ15」は「円すいころ」に、「車両」は「車両」に、「ロードホイール」は「車輪」に、「二列テーパ付ローラベアリング」は「複列円すいころ軸受」に、「レース軌道11」は「軌道」に、「スリーブ部」は「スリーブ部」に、「ホイールキャリア20」は「ホイール板」に、「フランジ17」は「フランジ」に、それぞれ相当する。
したがって、本願発明の用語に倣ってまとめると、両者は、
「内輪と、外輪と、内外輪間に組み込まれた複数の円すいころとで構成された、車両の車輪を支持するための複列円すいころ軸受において、前記外輪が、内周面に複列の軌道を備えたスリーブ部と、スリーブ部の一端に形成した、ホイール板をボルト締結するためのフランジとを一体的に有する複列円すいころ軸受。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、「円すいころを保持する保持器」を構成要素として有しているのに対し、刊行物1の発明は、当該保持器に関して何ら言及しておらず、これを有しているのか否か不明確な点。
[相違点2]
フランジとスリーブ部との間に設けられている補強構造に関して、本願発明は、「外輪」が、「スリーブ部の外周面の円周方向複数位置に配設されフランジから軸方向に途中まで延在する互いに独立したリブ」をスリーブ部及びフランジと一体的に有し、さらに、当該リブの配置及び形状に関して、「隣り合ったリブ間にねじ孔を配置し、リブ数はねじ孔と同数またはそれ以下で、各リブの横断面形状を略台形とし、縦断面形状をフランジから離れるにつれて高さが漸次減少する略直角三角形とし、平面形状をフランジから離れるにつれて幅が漸次減少するテーパ状とし、各リブの断面積がフランジ側で最も大きく、フランジから離れるにつれて漸次減少する」ようにしたものであるのに対し、刊行物1の発明は、フランジからスリーブ部の軸方向途中までの範囲内に何らかの補強構造(図面上、肉厚部なのか、リブなのか特定できない。)は見てとれるが、そもそもそれが「リブ」といえる形状を有しているか否か不明確な点。

5.当審の判断
[相違点1]について
複列円すいころ軸受の技術分野において、「円すいころを保持する保持器」を設けることは、従来周知の技術にすぎないものである(例えば、特公平7-81582号公報の「保持器2」を参照。)。
そして、刊行物1の発明に当該周知技術を適用することを妨げる格別の事情があるとも認められない。してみれば、刊行物1の発明に当該周知技術を適用して、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば、容易に想到し得たことであると認められる。

[相違点2]について
刊行物1の発明と刊行物2の発明とは、車両の車輪を車軸に対して支持する構造に関する技術である点で、技術分野を共にするとともに、回転側の部材が、スリーブ部と、スリーブ部の一端に形成したボルト締結のためのフランジとを有する点、及び、補強構造を採用している点で、共通の構成を有する。そして、必要な範囲で(過不足なく)部材の補強を行うことが、当業者が通常認識している課題である以上、刊行物1の発明における、スリーブ部とフランジ(17)とを備えた外側レースリング(10)に刊行物2の発明を適用して、外側レースリング(10)に刊行物2の発明のごときリブを設けるようにし、その際、適宜リブの長さ、横断面形状を設計変更して上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば、容易に想到し得たことであると認められる。

さらに、本願発明の奏する作用効果について検討しても、刊行物1の発明、刊行物2の発明、刊行物1及び2の記載事項、並びに上記周知技術から、当業者が本願出願前に予測し得た範囲のものであると認められ、格別なものということはできない。

よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成19年10月23日付け意見書の「3.引用文献に記載された発明と本願発明との対比」の 3-1)において、刊行物2に関して、「刊行物2(実願昭62-42555号(実開昭63-150761号)のマイクロフィルム)に記載された発明は、第3図に示してある形状の従来のハブ3に、第1図および第2図のように、リング状の空間部12を形成することによって熱不伝導形状とすることを提案するものです。ご指摘のリブ11は円筒状部材11aの外面に形成してあり、リング状の空間部12の外周に形成された円筒状部材11aを補強するためのものにほかなりません。第1頁第12行の記載「前記円筒状部材がリブで補強されている」に徴しても、リブ11は「ハブ」ではなく「円筒状部材」を補強するものです。つまり、第3図の従来のハブ3にはリブのようなものは全く設けてないのに対し、第1図および第2図のハブ3では円筒状部材11aにリブ11が設けてあることからも、刊行物2のものは、内側にリング状の空間部12のある円筒状部材11aを補強するためにリブ11を設けている、言い換えるならば、刊行物3のものは、空間部12のないハブ3(第3図)の場合にはリブは必要ないということを示していると言うべきです。

また、リブそのものに関しても、刊行物2のものではリブ11は円筒状部材11aの軸方向全長にわたって形成してあるのに対し、本願発明は、リブの断面を略台形にしてフランジの根元に近い部分をより強固にし、一方、スリーブ部の先端の比較的剛性の必要ない部分ではリブを設けないことにより軽量化を図っており、両者は構成上も作用効果上も相違しています。

してみれば、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明を併せ考えてみても、本願発明の上記特徴的構成「スリーブ部の外周面の円周方向複数位置に配設されフランジから軸方向に途中まで延在する互いに独立したリブとを一体的に有し、隣り合ったリブ間にねじ孔を配置し、リブ数はねじ孔と同数またはそれ以下で、各リブの横断面形状を略台形とし、縦断面形状をフランジから離れるにつれて高さが漸次減少する略直角三角形とし、平面形状をフランジから離れるにつれて幅が漸次減少するテーパ状とし、各リブの断面積がフランジ側で最も大きく、フランジから離れるにつれて漸次減少する」は充足されません。」
と主張している。

しかしながら、刊行物2の発明も、補強のためにリブを設けていることは、上述したとおりであって、その第1図及び第2図をみればそのリブの構造から、フランジの補強の作用効果も兼ね備えたものであることは技術的に明らかであり、少なくともこの限りにおいて本願発明と共通するものである。そして、刊行物2に教唆された当該フランジの補強の作用効果を有するリブの形状を刊行物1の発明に適用するに際して、それを妨げる特段の事情は認められないものである。
また、一般に、リブを何処から何処まで設けるかや、その断面形状をどのような形にするか等は、必要に応じて当業者が適宜設計変更し得ることであるから、刊行物2に教唆された当該フランジの補強の作用効果を有するリブの形状を刊行物1の発明に適用するに際して、その長さを「フランジから軸方向に途中まで延在する」長さとしたり、その横断面形状を「略台形」としたりすることは単なる設計変更にあたるものであって、このようにしたことによって当業者に予測不能な新たな作用効果が生じているものとも認めることはできないものである。しかも、刊行物1の発明も、図1の記載から、何らかの補強構造は、フランジから軸方向に途中までの範囲に設けられていることが明らかなものである。
したがって、刊行物1の発明及び刊行物2の発明に接した当業者であれば、若干の設計変更は必要ではあるものの、本願発明の上記特徴的構成「スリーブ部の外周面の円周方向複数位置に配設されフランジから軸方向に途中まで延在する互いに独立したリブとを一体的に有し、隣り合ったリブ間にねじ孔を配置し、リブ数はねじ孔と同数またはそれ以下で、各リブの横断面形状を略台形とし、縦断面形状をフランジから離れるにつれて高さが漸次減少する略直角三角形とし、平面形状をフランジから離れるにつれて幅が漸次減少するテーパ状とし、各リブの断面積がフランジ側で最も大きく、フランジから離れるにつれて漸次減少する」構成に容易に想到し得るものと認められるので、審判請求人の上記主張も拒絶の理由を覆すに足りる根拠とはなり得ない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、刊行物1及び2に記載された発明並びに従来周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-12 
結審通知日 2008-02-13 
審決日 2008-02-26 
出願番号 特願平10-108009
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤村 泰智岡野 卓也  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 溝渕 良一
戸田 耕太郎
発明の名称 複列円すいころ軸受  
代理人 熊野 剛  
代理人 江原 省吾  
代理人 山根 広昭  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  
代理人 白石 吉之  

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