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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1176420
審判番号 不服2005-7252  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-22 
確定日 2008-04-18 
事件の表示 平成 8年特許願第251249号「電磁干渉抑制体及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月14日出願公開、特開平10- 97913〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 本願は、平成8年9月24日を出願日とする出願であって、拒絶査定後以下の手続きがなされた。
平成17年3月15日 拒絶査定
平成17年4月22日 審判請求
平成17年5月23日 手続補正
平成18年8月 3日 審尋
平成18年10月6日 回答

第2 平成17年5月23日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年5月23日付の手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正による主な補正事項(以下、明瞭化のため適宜下線を引いた。)
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおり補正された。
「【請求項1】 第1、第2の軟磁性体粉末と、有機結合剤から成る複合磁性体を用いた電磁干渉抑制体であって、
前記第1の軟磁性体粉末は扁平形状を有し、
前記第2の軟磁性体粉末は任意の形状を有し、その大きさが前記第1の軟磁性体粉末より十分に小さく、かつ、前記第1の軟磁性体粉末の前記複合磁性体単位体積当たりの総体積が、前記第2の軟磁性体粉末の単位体積当たりの総体積に比べて十分に大きく、
前記第1の軟磁性体粉末は、少なくともその表面に酸化物層を有し、
しかも前記第1の軟磁性体粉末の平均厚さは、該電磁干渉抑制体の使用周波数における表皮深さδよりも小さいことを特徴とする電磁干渉抑制体。」

2 独立特許要件について
本件請求項1についての補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

(1)拒絶理由で引用文献1?5として引用された本願出願前に頒布された刊行物1?5に記載された事項
(ア)刊行物1 特開平5-299232号公報(発明の名称「樹脂成形磁性材」)
「【請求項1】樹脂に混入する磁性粉体として最大粒径が150μm以下でその粒度分布を平均粒径の大きい磁性粉体と、この大きな磁性粒体の約1/10の平均粒径をもつ磁性粉体の2つの山をもつ混合比とした樹脂成形磁性材。」(以下、「引用発明」という。)

「【請求項2】大きい粒径の磁性粉体に対して小さい粒径の磁性粉体を30?70%の割合で混入した請求項1記載の樹脂成形磁性材。」

「【0013】図2は本発明の樹脂成形磁性材の磁性粉体の粒径分布を体積基準で表したグラフの一例であり、図3は本発明に係る樹脂成形磁性材の磁性粉体の混入率と実効透磁率の関係をグラフで表したものの一例である。
【0014】図2に示すように、平均粒径の大きい第1グループの粉体(図例では20μmを中心値にして粒径分布をもつ粉体)と平均粒径の小さい第2グループの粉体(図例では2μmを中心値にして粒径分布をもつ粉体)を混合して、2個の山をもった粉体として構成している。」

(イ)刊行物2 特開平7-202481号公報(発明の名称「磁気シールド材の製造方法」)
「【0004】・・・優れた磁気シールド効果を得るには、磁気シールド粉片相互の接触面積が大きいことが必要であり、このため偏平状の粉片を用い該粉片を層状に積層した構造にすることが好ましい」

(ウ)刊行物3 特開平8-18271号公報(発明の名称「電子装置およびそのノイズ抑制方法」)
「【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明の第1の態様によれば、誘導性ノイズを放射する能動素子が実装された配線基板を含む電子装置において、配線基板と能動素子との間に挟み込んで設けられる電磁波干渉抑制体を有し、この電磁波干渉抑制体は導電性支持体とこの導電性支持体の少なくとも一方面に設けられた絶縁性軟磁性体層とを有することを特徴とする電子装置が得られる。
【0008】上記第1の態様による電子装置において、絶縁性軟磁性体層が、有機結合剤とこの有機結合剤中に分散される偏平状及び/または針状の軟磁性体粉末とから成ることが好ましい。」
「【0020】・・・偏平状磁性体微粉末・・・」

(エ)刊行物4 特開昭57-39125号公報(発明の名称「磁性材料の製造方法」)には、磁気シールド用磁性シートに適用して好適な磁性合金粉末において、この合金粉末に絶縁皮膜を施し、渦電流損を小さくすること、前記絶縁皮膜として酸化皮膜を形成することが記載されている(1頁右下欄1?10行、2頁左上欄下から6行)。

(オ)刊行物5 特開平2-94406号公報(発明の名称「圧粉コア」)
「コアを形成する磁性粉末表面には、渦電流損を減少させるために、通常、電気絶縁層が設けられるが、圧粉時の圧力が大きくなると粉末間の電気絶縁層が破壊され易くなる。絶縁破壊が生じると高周波での渦電流損失が大きくなるため、透磁率を低下させ、コアの磁気特性を著しく劣化させることになる。
特開昭59-179729号公報には、結晶性酸化物を含有する酸化被膜を表面に有する非晶質合金粉末の圧粉成型体を得る方法が開示されている。」(2頁左上欄9?19行)

(2)本願補正発明と引用発明との対比(一致点と相違点)
引用発明は、「最大粒径が150μm以下でその粒度分布を平均粒径の大きい磁性粉体」及び「この大きな磁性粒体の約1/10の平均粒径をもつ磁性粉体(以下、「小さい磁性粉体」という。)」と、これを混入する「樹脂」から成る複合された樹脂成形磁性材であるから、
本願補正発明の「第1、2の磁性粉末と、有機結合材から成る複合磁性体」に相当する。
引用発明の「大きな磁性粒体の約1/10の平均粒径をもつ(小さい)磁性粉体」は、形状の限定がなく、その大きさが「大きい磁性粉体」より、十分に小さくしたと言える。
これは、本願補正発明の「前記第2の磁性体粉末は任意の形状を有し、その大きさが前記第1の磁性体粉末より十分に小さく」したことに相当する。
したがって、本願補正発明と、上記引用発明とは、以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「第1、第2の磁性体粉末と、有機結合剤から成る複合磁性体であって、前記第2の磁性体粉末は任意の形状を有し、その大きさが前記第1の磁性体粉末より十分に小さい複合磁性体。」

(相違点)
相違点1
本願補正発明の粉末は、「軟磁性体粉末」であるのに対して、
引用発明の粉体は、「磁性粉体」である点。

相違点2
本願補正発明では、「複合磁性体を用いた電磁干渉抑制体」であるのに対して、
引用発明では、複合した「樹脂成形磁性材」である点。

相違点3
本願補正発明の、「第1の軟磁性体粉末は扁平形状を有し」ているのに対して、
引用発明の、「大きい磁性粉体」は、形状の限定がない点。

相違点4
本願補正発明では、「前記第1の軟磁性体粉末の前記複合磁性体単位体積当たりの総体積が、前記第2の軟磁性体粉末の単位体積当たりの総体積に比べて十分に大きく」したのに対して、
引用発明では、上記のような限定がない点。

相違点5
本願補正発明では、「第1の軟磁性体粉末は、少なくともその表面に酸化物層を有し」ているのに対して、
引用発明では、「大きい磁性粉体」は、その表面についての限定がない点。

相違点6
本願補正発明では、「第1の軟磁性体粉末の平均厚さは、該電磁干渉抑制体の使用周波数における表皮深さδよりも小さい」のに対して、
引用発明では、「大きい磁性粉体」の厚さについての限定がない点。

(3)当審の判断
相違点1について
刊行物1(段落0002)の磁性材料は、本願補正発明(本願明細書段落0026)と同じくパーマロイ、センダストを用いる場合もあり、引用発明において、特に軟磁性粉体を除外する理由がないから、「磁性粉体」を「軟磁性粉体」とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

相違点2について
引用発明の樹脂成形磁性材は、電磁シールド材(段落0005)、ノイズ対策部品(段落0018)として用いられ、「電磁干渉抑制」作用があるから、引用発明の「樹脂成形磁性材」を用いて「電磁干渉抑制体」とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

相違点3について
軟磁性体粉末を扁平形状にすることは、上記刊行物2、3、後記周知例1に記載のとおり周知である。
引用発明の、「小さい磁性粉体」と「大きい磁性粉体」を扁平形状にしたり、「小さい磁性粉体」を扁平形状にするのは、手間がかかるから、少なくとも、「大きい磁性粉体」を扁平形状にすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

相違点4について
引用発明では、少なくとも、「大きい粒径の磁性粉体に対して小さい粒径の磁性粉体を30%の割合で混入した」場合がある(請求項2)。
上記刊行物1の段落0013、14記載のように、引用発明の図2の場合は、「大きい磁性粉体」の総体積が、「小さい磁性粉体」の総体積に比べて十分に大きくなっている。
このようにすれば、「大きい磁性粉体」の「樹脂成形磁性材」単位体積当たりの総体積が、「小さい磁性粉体」の(「樹脂成形磁性材」)単位体積当たりの総体積に比べて十分に大きくなり、当業者であれば適宜なし得たことである。

相違点5について
一般的に、磁性粉体の表面に酸化物層を形成することは、刊行物4、5、刊行物5に従来技術として示された特開昭59-179729号公報(請求項1)に記載されているように、周知であり、「大きい磁性粉体」は、「少なくともその表面に酸化物層を有し」たとすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

相違点6について
上記刊行物5、以下の周知例1、さらに本願明細書の「【従来の技術】・・・【0003】軟磁性体材料の高周波化を阻む主な要因の一つは、渦電流損失であり、その低減手段として、表皮深さを考慮した薄膜化及び高電気抵抗化が挙げられ」という記載のように、磁性粉体の高周波化のために、渦電流損失を低減することは当然のことであり、渦電流損失を低減させるために、周知の表皮効果における、表皮深さδの式(本願明細書段落0028)により、使用される高周波電流が導体の表面から表皮深さδの範囲を主に流れるから、これを流れにくくすべく、磁性体粉末の平均厚さを 、使用周波数における表皮深さδよりも小さくすればよいことは論理的にも明白であり、また、以下の周知例2、3に記載されているように当業者であれば適宜なし得たことである。

周知例1 前置報告書で示した引用文献8 特開昭63-233508号公報
「本発明では、・・偏平状の粉末を用いるのであり、磁心構成粉末の微細化は既述のように磁心のうづ電流損失を低下させ、周波数特性を改善する。」(2頁右上欄11?14行)

周知例2 特開平5-27060号公報
3頁表1の、厚さ1?20μmは、表皮深さ1.5?2.3cmより小さい。
5頁表3の下に記載の厚さ10μmは、表皮深さ0.36?2.7cmより小さい。

周知例3 特開平5-27059号公報
段落0015の最小軸寸法1?100μm(要するに最大でも厚さ100μm)は、3頁表1の表皮深さ1.4?2.0cmより小さい。

そして、本願実施例には、表皮深さδの具体値の記載もなく、以上から、引用発明において、偏平にした「大きい磁性粉体」の渦電流を減らすため、単に、粉体の平均厚さは、樹脂成形磁性材の使用周波数における表皮深さδよりも小さくすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

本願補正発明の効果についても、刊行物1から予測された範囲内のものであり、格別のものは認められない。

よって、本願補正発明は、上記刊行物1?5、周知例1?3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)独立特許要件についてのむすび
本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成17年5月23日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本件請求項1に係る発明は、平成16年11月22日付け手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 第1、第2の軟磁性体粉末と、有機結合剤から成る複合磁性体を用いた電磁干渉抑制体であって、前記第1の軟磁性体粉末は扁平形状を有し、前記第2の軟磁性体粉末は任意の形状を有し、その大きさが前記第1の軟磁性体粉末より十分に小さく、かつ、前記第1の軟磁性体粉末の前記複合磁性体単位体積当たりの総体積が、前記第2の軟磁性体粉末の単位体積当たりの総体積に比べて十分に大きく、前記第1の軟磁性体粉末は、少なくともその表面に酸化物層を有することを特徴とする電磁干渉抑制体。」(以下「本願発明」という。)

2 拒絶理由で引用文献1?5として引用された本願出願前に頒布された刊行物1?5に記載された事項
上記第2の2の(1)のとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比(一致点と相違点)
(一致点)上記第2の2の(2)の(一致点)とおりである。
(相違点)上記第2の2の(2)の相違点1?5のとおりである。

4 当審の判断
上記第2の2の(3)の「相違点1について」?「相違点5について」のとおりである。

また、本願発明の効果についても、刊行物1から予測された範囲内のものであり、格別のものは認められない。

したがって、本願発明は、上記刊行物1?5、周知例1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、上記刊行物1?5、周知例1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-01-10 
結審通知日 2008-01-16 
審決日 2008-03-05 
出願番号 特願平8-251249
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 572- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹井 文雄鈴木 匡明  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 齋藤 恭一
山本 一正
発明の名称 電磁干渉抑制体及びその製造方法  
代理人 池田 憲保  
代理人 山本 格介  
代理人 福田 修一  

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