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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1176462
審判番号 不服2006-24134  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-25 
確定日 2008-04-17 
事件の表示 特願2005- 41296「異材接合用溶加材及び異材接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月31日出願公開、特開2006-224147〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年2月17日の出願であって、平成18年9月15日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月25日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成18年7月18日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものである。そのうちの請求項5に係る発明(以下、「本願発明5」という。)は、請求項5に記載された次のとおりのものである。

「Si:1.5乃至2.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる溶加材を使用し、アルミニウム又はアルミニウム合金材と、表面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム系被覆層が設けられた鋼材とを溶接することを特徴とする異材接合方法。」

3.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりのものである。
本願請求項1?8に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2004-223548号公報
刊行物2:特開2004-1085号公報
刊行物3:特開平10-296483号公報
刊行物4:中部溶接振興会編”現場溶接技術のノウハウ”日刊工業新聞社発行(昭和53年3月31日)第22-25頁

4.引用刊行物とその記載事項
原査定の理由で引用された刊行物1(特開2004-223548号公報)、及び刊行物2(特開2004-1085号公報)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)刊行物1:特開2004-223548号公報
(1a)「【請求項1】
少なくともシリコンを3?15wt%添加したアルミニウム合金製のソリッドワイヤを溶接ワイヤとし、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材と亜鉛メッキ又はアルミニウムメッキ又は亜鉛アルミニウム合金メッキを表面に施した鉄鋼部材とをパルスMIG溶接によって接合し、前記アルミニウム部材側の接合部は溶融させて接合し、前記鉄鋼部材側の接合部は溶融させないで薄い金属間化合物層を形成して接合することを特徴とするアルミニウムと鉄鋼の接合方法。」

(1b)「【0019】
同図に示すように、Si成分比率が3wt%未満になると、ぬれ性が悪くなるために、接合部が剥離しやすくなる。他方、Si成分比率が15wt%を超えると、接合部の靱性が劣化する。したがって、健全な接合部を形成するためには、Si成分比率は、3?15wt%の範囲内とする必要がある。」

(2)刊行物2:特開2004-1085号公報
(2a)「【請求項1】
Si:1乃至4質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とするアルミニウム合金溶接用溶加材。
(中略)
【請求項7】
Si:1乃至4質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる溶加材を使用して溶接することを特徴とするアルミニウム合金材の溶接方法。」

(2b)「【0023】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、上述の課題を解決するために、ミグ溶接用の溶加材成分とスマットの生成及び継手強度との関係を詳細に調査した結果、従来、Mgを含有したAl-Mg系アルミニウム合金用には推奨されていないAl-Si系合金の溶加材であって、既存のAl-Si系溶加材用合金よりもSi量を低減した溶加材を使用してAl-Mg系合金を溶接すれば、溶接時にスマットがほとんど付着せず、母材(Al-Mg系合金)から希釈されてMgが溶着金属部に混入することにより、溶着金属部の強度が高くなり、また、溶加材(Al-Si系合金)のSi量が既存のAl-Si系溶加材よりも少ないことから溶着金属部の靭性も高くなることを見いだした。
【0024】
以下、本発明に係るアルミニウム合金溶加材において、その成分理由及び組成限定理由について説明する
【0025】
Si:1乃至4質量%
Siは、合金中でMgと結合し、Mg_(2)Si化合物を形成し、強度を向上させる最も重要な元素である。かつ、単Siでも析出によって硬さを向上させ、継手性能向上に寄与する。含有量が、1質量%未満では十分な強度が得られず、4質量%を超えると過剰析出により延性及び靭性が低下する。」

5.当審の判断
(1)引用発明
原査定で引用された刊行物1の上記(1a)には、
「少なくともシリコンを3?15wt%添加したアルミニウム合金製のソリッドワイヤを溶接ワイヤとし、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材と亜鉛メッキ又はアルミニウムメッキ又は亜鉛アルミニウム合金メッキを表面に施した鉄鋼部材とをパルスMIG溶接によって接合し、前記アルミニウム部材側の接合部は溶融させて接合し、前記鉄鋼部材側の接合部は溶融させないで薄い金属間化合物層を形成して接合することを特徴とするアルミニウムと鉄鋼の接合方法。」と記載されており、「亜鉛メッキ又はアルミニウムメッキ又は亜鉛アルミニウム合金メッキ」を表面に施した鉄鋼部材のうち、アルミニウムメッキを表面に施した鉄鋼部材を、選択したものを記載すると、次のとおりといえる。

少なくともシリコンを3?15wt%添加したアルミニウム合金製のソリッドワイヤを溶接ワイヤとし、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材とアルミニウムメッキを表面に施した鉄鋼部材とをパルスMIG溶接によって接合し、前記アルミニウム部材側の接合部は溶融させて接合し、前記鉄鋼部材側の接合部は溶融させないで薄い金属間化合物層を形成して接合することを特徴とするアルミニウムと鉄鋼の接合方法。

ここで、「シリコン」「wt%」「アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材」「アルミニウムメッキを表面に施した鉄鋼部材」は、それぞれ「Si」「質量%」「アルミニウム又はアルミニウム合金材」「表面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム系被覆層が設けられた鋼材」と言い換えることができるし、また、アルミニウム合金製の「ソリッドワイヤを溶接ワイヤ」としたものは、「溶加材」といえるし、さらに、「パルスMIG溶接によって接合し、前記アルミニウム部材側の接合部は溶融させて接合し、前記鉄鋼部材側の接合部は溶融させないで薄い金属間化合物層を形成して接合する」は、「溶接する」といえる。また、「アルミニウムと鉄鋼の接合方法」は、アルミニウムと鉄鋼とは、明らかに異材といえるから、「異材接合方法」といえる。
以上の記載及び認定事項を本願発明5の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「Si:3乃至15質量%を含有したアルミニウム合金製の溶加材を使用し、アルミニウム又はアルミニウム合金材と、表面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム系被覆層が設けられた鋼材とを溶接する異材接合方法。」

(2)本願発明5と引用発明との対比
そこで、本願発明5と引用発明とを対比すると、本願発明5の「Si:1.5乃至2.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなる溶加材」は、アルミニウム合金製の溶加材といえるから、両者は、
「Siを含有したアルミニウム合金製の溶加材を使用し、アルミニウム又はアルミニウム合金材と、表面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム系被覆層が設けられた鋼材とを溶接する異材接合方法。」という点で一致し、次の点で一応相違しているといえる。

相違点(イ)
アルミニウム合金製の溶加材中のSi含有量が、本願発明5は、「1.5乃至2.5質量%」であるのに対して、引用発明は、3乃至15質量%である点

相違点(ロ)
アルミニウム合金製の溶加材のうちのSi以外の成分について、本願発明5は、「残部がAl及び不可避不純物からなる」であるのに対して、引用発明は、一応不明である点

(3)相違点についての判断
次に、これらの相違点について検討する。
(3-1)相違点(イ)について
引用発明は、刊行物1の(1b)の「Si成分比率が3wt%未満になると、ぬれ性が悪くなるために、接合部が剥離しやすくなる。他方、Si成分比率が15wt%を超えると、接合部の靱性が劣化する。」という記載によれば、溶加材中のSi含有量の下限をぬれ性の観点に基づいて定め、その上限を、接合部の靱性の観点に基づいて定めたものといえる。すなわち、溶加材中のSi含有量は、ぬれ性と接合部の靱性との兼ね合いで定めるものといえるから、溶加材中のSi含有量の範囲は、臨界的なものではなく、接合部の靱性がより求められるときには、ぬれ性をある程度犠牲にして、溶加材中のSi含有量を下限値未満にすることも許容されるともいえる。
一方、刊行物2の(2b)に「Siは、・・・単Siでも析出によって硬さを向上させ、継手性能向上に寄与する。含有量が、1質量%未満では十分な強度が得られず、4質量%を超えると過剰析出により延性及び靭性が低下する。」と示されているように、接合部の靱性を考慮して溶加材中のSi含有量を低くすることが本出願前当業者に周知のことといえるから、Si含有量が2.5質量%以下の範囲のものも、ごくありふれたものといえる。
してみると、溶加材中のSi含有量は、所望とする接合部の靱性の程度に応じて、当業者が適宜なし得ることといえるから、接合部の靱性を重視するときには、引用発明の溶加材中のSi含有量を下限値未満とし、その範囲を2.5質量%以下とすることも、当業者が容易に想到する程度のことといえる。

(3-2)相違点(ロ)について
引用発明における、Si:3乃至15質量%を含有したアルミニウム合金について、刊行物1にSi以外の成分を添加するという記載もなく、Si:3乃至15質量%を含有したアルミニウム合金として、当業者は、刊行物2の(2a)に「Si:1乃至4質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる溶加材」と示されるようなSi以外の成分を添加していないもの、いわゆるAl-Si合金を直ちに想到する程度のものであるから、引用発明のものも、残部がAl及び不可避不純物からなるものといえる。
してみると、相違点(ロ)については、実質的に相違するとはいえない。

(4)小括
したがって、上記(3-1)及び(3-2)で述べたように、相違点(イ)は、当業者が容易に想到することであるし、また相違点(ロ)は、実質的に相違するとはいえないから、本願発明5は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.結び
以上のとおり、本願発明5は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その他の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-14 
結審通知日 2008-02-19 
審決日 2008-03-03 
出願番号 特願2005-41296(P2005-41296)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 近野 光知
平塚 義三
発明の名称 異材接合用溶加材及び異材接合方法  
代理人 藤巻 正憲  
代理人 藤巻 正憲  

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