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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09F |
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管理番号 | 1176507 |
審判番号 | 不服2004-5398 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-03-17 |
確定日 | 2008-04-17 |
事件の表示 | 特願2000-111352「熱収縮性ラベル用トップコート組成物及び熱収縮性ラベル」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月26日出願公開、特開2001-296805〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成12年4月12日に出願したものであって、平成16年2月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月17日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされた。 そこで、当審においてこれを審理した結果、平成19年5月18日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、請求人は同年7月19日付けで意見書及び手続補正書を提出した。 第2.本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年7月19日付けの手続補正によって補正された請求項1に記載された事項により特定される次のものと認める。 「【請求項1】熱収縮性フィルムの少なくとも片面に水性インキによる印刷が施され、且つ該水性インキ印刷層の表面に、酸価が10以下の耐水性又は耐アルカリ性樹脂と、アルコール類又はエステル類を主体とし該アルコールとエステル類の総含有量が50重量%以上である有機溶媒とを含むトップコート組成物を塗布することにより該耐水性又は耐アルカリ性樹脂からなる厚み0.3?5μmのトップコート層が形成されている熱収縮性ラベル。」 第3.引用刊行物 (1)当審拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-129412号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 ア.特許請求の範囲「【請求項1】インク受容層、透明基材層及び支持体からなる印刷用シートに、インクジェット印刷を行い、(a) 該インク受容層上に、接着剤層を有するシーラントを積層した後、又はインク受容層上に接着剤層を形成し、シーラントを積層した後、支持体を剥がす、又は(b) 支持体を剥がした後に、印刷されたインク受容層上に、接着剤層を有するシーラントを積層するか、又はインク受容層上に接着剤層を形成した後、シーラントを積層する包装用フィルムの製造法であって、 インク受容層がポリビニルアルコールを含み、かつ透明基材層の厚さが8?40μm であることを特徴とする包装用フィルムの製造法。」 イ.段落【0005】「極性溶媒インク受容層を有するフィルムを用いればインクジェット印刷で、コンピュータデザインの包装用フィルムを得ることができる...ポリビニルアルコールを含むインク受容層、薄い透明基材層及び剥離性支持体からなる印刷用シートにインクジェット印刷を行うことにより前記問題が解決できるという知見を得た。」 ウ.段落【0012】「本発明で用いる透明基材層は、包装用フィルムの用途によって適宜選択することができ、透光性が優れていて特に限定する必要はない。その具体例を挙げると、ポリテレフタル酸エチレン(PET)などのポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエステル;ポリイミド;ポリ塩化ビニルなどのポリビニル化合物;ポリスチレン、ポリカーボネート、セロファン、セルロイド、アセテートなどがある。」 エ.段落【0014】「本発明で用いるシーラントは、ヒートシールにより印刷されたインク受容層・透明基材層と一体になり包装材料を形成するシートである。したがって、その包装材の用途により材質及び厚さが異る。」 オ.段落【0015】「該シーラントの材質の例を挙げると、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、アイオノマー、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸・エチレン共重合物、メタクリル酸・エチレン共重合物、アクリル酸エチル・エチレン共重合物、メタクリ酸メチル・エチレン共重合物、アクリル酸メチル・エチレン共重合物などである...本発明のインクジェット印刷で用いるインク組成物は、極性溶媒、特に水性のインクジェット印刷用インク組成物であり、通常の組成であれば、特に限定する必要はない。本発明で用いるインク組成物は、基本的に着色剤と、水と、有機溶剤とからなるものである。」 カ.段落【0018】「図1及び2に示した印刷用シートと包装用フィルムとの関連で説明する。...図1に示す印刷用シート4のインク受容層1上にインクジェット印刷用プリンターを用いてデザイン原図を印刷する。次いで、図2に示す接着剤層6を有するシーラント5を、インク受容層1と接着剤層6が向い合うように積層し、次いで支持体3を剥離する。図3に示されているように、印刷層7はインク受容層1上に印刷されたデザインであり、インク受容層1と透明基材層2を通して矢印8の方向から見ることができる。そして印刷層7は、透明基材層2により光沢を有すると同時にシーラント5により保護され流通過程で損傷を受けることがなくなる。本発明により、袋、ラベル、シュリンクラベル、パウチ、容器の蓋材など、包装用プラスチックフィルムを用いるものは、ほとんどすべて製造することができ」、 キ.段落【0019】「本発明により、コンピュータでデザインした原画をインクジェット印刷等で簡単に印刷することができる包装用フィルムを製造することができる。この印刷された包装用フィルムは薄く柔軟であるから、印刷面にシーラントを積層して光沢及びに印刷の耐久性を向上させることができる。」 ク.図3から、包装用フィルムが、シーラント5、印刷層7、インク受容層1、透明基材層2の順に積層されていることが看取できる。 刊行物1は、包装用フィルムの製造方法に係る発明を記載した刊行物であるが、そこからは、シュリンクラベルに係る発明を把握することができる。 よって、上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、 「ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニル化合物などの薄い透明基材層2、透明基材層2上に形成されるインク受容層1、インク受容層1上に水性のインクジェット印刷用インク組成物を用いてインクジェット印刷された印刷層7、印刷層7の表面に形成されたポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、アイオノマー、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸・エチレン共重合物、メタクリル酸・エチレン共重合物、アクリル酸エチル・エチレン共重合物、メタクリ酸メチル・エチレン共重合物、アクリル酸メチル・エチレン共重合物などのシーラント5からなるシュリンクラベル」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が開示されている。 (2)当審拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-318955号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 a.段落【0005】「水性インキを用いてフレキソ印刷又はグラビア印刷したポリエチレン被覆層を有する紙の上に水性OPニスを塗布する...又OPニスをかけたことによりインキ層の保護、特に耐摩擦性の向上による後加工工程でのインキ落ちがなく」 b.段落【0019】「OPニスをグラビア印刷にてインラインで塗工し、温度100℃、3秒間乾燥して2.5μのOPニス層を形成し、印刷物を得た。」 c.表1から、実施例の塗膜は耐水性、耐アルカリ性が良好であることが看取できる。 第4.対比 本願発明と刊行物1発明とを比較する。 1)刊行物1発明の「水性のインクジェット印刷用インク組成物を用いてインクジェット印刷された印刷層7」及び「シュリンクラベル」は、本願発明の「水性インキ印刷層」及び「熱収縮性ラベル」に相当する。 2)包装用フィルムとしての熱収縮性ラベルは、通常、被包装物に被せて熱収縮させて用いられ、熱収縮時にスチームが用いられることが技術常識であるから、刊行物1発明の熱収縮性ラベルの水性インキ印刷層を保護するための「シーラント5」は、当然耐水性のものと認められる。よって、刊行物1発明の「シーラント5」と、本願発明の「トップコート層」は「水性インキ印刷層の耐水性保護層」で共通する。 3)刊行物1発明の「ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニル化合物などの薄い透明基材層2」は、熱収縮性ラベルの基材層であるから熱収縮するものであり、本願発明の、熱収縮性ラベルの基材となる「熱収縮性フィルム」に相当し、前記記載ク.にあるようにその片面に印刷が施されている。 したがって、両者は、 「熱収縮性フィルムの少なくとも片面に水性インキによる印刷が施され、且つ該水性インキ印刷層の表面に、水性インキ印刷層の耐水性保護層が形成されている熱収縮性ラベル。」の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点]水性インキ印刷層の耐水性保護層が、本願発明では、酸価が10以下の耐水性又は耐アルカリ性樹脂と、アルコール類又はエステル類を主体とし該アルコールとエステル類の総含有量が50重量%以上である有機溶媒とを含むトップコート組成物を塗布することにより形成された該耐水性又は耐アルカリ性樹脂からなる厚み0.3?5μmのトップコート層であるのに対し、刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点。 第5.判断 上記相違点1について検討する。 上記刊行物2には、水性インキ層の表面に水性OPニス(トップコート組成物)を塗工して水性インキ印刷層を保護する厚み2.5μのOPニス層(トップコート層)を形成した点が記載されているから、水性インキ印刷層の耐水性保護層として、刊行物1発明のシーラントに代えて、刊行物2記載のようにトップコート組成物を塗布することは当業者が容易に想到しうることである。 一方、熱収縮性ラベルは、一般に、飲料容器等に装着されるものであり、飲料容器等は、通常中身を充填する前やリサイクルのためにアルカリ洗浄水で洗浄するから、熱収縮性ラベルの水性インキ印刷層を保護するトップコート層は、耐水性だけでなく、当然、アルカリ洗浄水から水性インキ印刷層を保護するための耐アルカリ性も備えることが要求される。 即ちトップコート層を形成するトップコート組成物の樹脂成分は、耐水性樹脂から選ばれるべきであり、又、樹脂中におけるアニオン性の官能基の存在比率が高くなる(樹脂の酸価が高くなる)とアルカリ耐性が低下することは技術常識であるから、樹脂成分の酸価が低いものを選ぶのも当然のことである。 よって、熱収縮性ラベルの保護層をトップコート組成物を塗布することにより形成するに際し、トップコート層の樹脂成分として酸価が低い耐水性樹脂を使用することは、当業者にとって当然のことであり、該樹脂の酸価を10以下と限定した点は、単に実施例で使用した樹脂成分の酸価を好適なものとして特定したにすぎず、酸価10を境として作用効果に顕著な差があるとは認められないから、この限定に臨界的意義はない。 又、コート組成物の有機溶媒としてアルコール類又はエステル類は、従来から極普通に用いられているもの(化学大辞典編集委員会編化学大辞典6縮刷版第36刷(1997年9月20日共立出版株式会社発行)の「塗膜助要素は溶剤または希釈剤で...塗膜助要素は...アルコール類...エステル類...を一種または混合して使う」(532?534頁)、特開平11-321075号公報[「疎水性有機バインダー溶液として、ポリビニルブチラール樹脂...をイソプロピルアルコールを用いて固形分濃度40重量%に調製した溶液、又はアクリル酸エステル樹脂のイソプロピルアルコール溶液(...固形分濃度40重量%)を用い...よく攪拌し、均一組成のスラリーとした。このスラリーを前述のインク受容層の表面に乾燥膜厚さが0.3μmとなるように塗布して、オーバーコート層を形成した。」(【0037】)]、特開2000-7946号公報[「塗料の製造方法としては、塗膜形成成分となる合成樹脂を適宜な溶剤、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどに溶解しておき」(【0014】)]参照。)であり、有機溶剤は、塗膜形成成分となる樹脂の種類に応じ、あるいは水性インキを用いた印刷層を保護できるように、その比率を増減することは当然であるから、本願発明のようにアルコール類又はエステル類を主体とし該アルコールとエステル類の総含有量が50重量%以上とした点は、単なる設計事項にすぎない。そして、アルコールとエステル類の総含有量が50重量%を境として作用効果に顕著な差があるとは認められない(本願明細書段落【0033】参照)から、この限定には臨界的意義はない。 トップコート層の厚みを0.3?5μmとした点について、従来から0.3?5μmの厚みのトップコート層は普通のものであり、耐水性、加工性を考慮し、好適な範囲を選択することは当業者が容易になし得るものであり、しかも数値限定に臨界的意義が見い出せない。 そして、相違点に係る構成を含む本願発明の作用効果も、刊行物1、2記載の発明及び周知事項から当業者が予測できる範囲のものである。 第6.むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された各刊行物1、2記載の発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができない。 したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-02-12 |
結審通知日 | 2008-02-19 |
審決日 | 2008-03-03 |
出願番号 | 特願2000-111352(P2000-111352) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G09F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松川 直樹 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
藤井 靖子 七字 ひろみ |
発明の名称 | 熱収縮性ラベル用トップコート組成物及び熱収縮性ラベル |
代理人 | 後藤 幸久 |