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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1176510
審判番号 不服2004-10814  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-24 
確定日 2008-04-16 
事件の表示 平成6年特許願第99563号「成形用歯科組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成7年11月21日出願公開、特開平7-304623〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年5月13日の出願であって、平成15年10月20日付け拒絶理由通知に対し、平成16年1月28日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成16年2月19日付けで拒絶査定がされ、平成16年5月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?19に係る発明は、平成16年1月28日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「高熔融温度金属粒子および低熔融温度金属粒子の混合物、ここに、高熔融温度金属粒子は成形用歯科組成物が加熱処理されるために選択された温度を超える溶融温度を有し、かつ該低熔融温度金属粒子はその加熱処理温度以下の溶融温度を有し;ならびに少なくとも約20容量%でかつ85容量%までの揮発性のバインダーを含む成形用歯科組成物であって、該歯科組成物中の高熔融温度金属粒子は、加熱処理に際して、複数の高熔融温度金属粒子が重なった粒子の層ネットワークを形成するのを可能とするように、不規則な非球形幾何形状を有し、少なくともその約50%が、1.5ミクロン未満の断面平均厚みを有することを特徴とする該成形用歯科組成物。」

3.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である「欧州特許出願公開第545372号明細書」(以下、「引用例」という。)には、以下の<A>?<D>の事項が記載されている(なお、英文であるため和訳で摘示する。)。
<A> 「約4ないし80ミクロン間の平均粒子サイズを有し、かつ予め選択した加熱処理温度を超える融点を有する高熔融温度金属粒子;該予め選択した加熱処理温度以下の融点を有する低熔融温度金属粒子;および約30容量%と80容量%との間の濃度の、実質的にまたは全てがワックスよりなる揮発性バインダーの均一な混合物からなり、該加熱処理温度における加熱処理に際し、ボイドの毛細管ネットワークを有し、かつ30%と80%の間のボイド容量を有する多孔性金属構造が形成されることを特徴とする成形用歯科組成物。」(請求項1)
<B> 「高熔融粒子は、不規則なフレーク様形状が好ましいが、どのような形状を有してもよい。」(第4頁第51?52行)
<C> 「高熔融および低熔融温度金属の粒子は、高熔融温度成分が約1ミクロンを超える、好ましくは4ミクロンと80ミクロンの間の平均サイズを有するように選択すべきである。」(第4頁第42?45行)
<D> 「以下は、3種の異なる高熔融金属組成物について、ベース金属組成物における低熔融温度金属と高熔融温度金属との間の容量-重量関係を示す実施例である。 ………… これらの実施例は、パラジウムがスポンジの焼結中における材料の安定性を増大させ、それにより、焼結前と一致した収縮のない同じ寸法を材料が保持することを示している。」(第5頁第52?53行、第7頁第37?39行)

4.引用例に記載された発明
上記引用例には、
「約4ないし80ミクロン間の平均粒子サイズを有し、かつ予め選択した加熱処理温度を超える融点を有する高熔融温度金属粒子;該予め選択した加熱処理温度以下の融点を有する低熔融温度金属粒子;および約30容量%と80容量%との間の濃度の、実質的にまたは全てがワックスよりなる揮発性バインダーの均一な混合物からなり、該加熱処理温度における加熱処理に際し、ボイドの毛細管ネットワークを有し、かつ30%と80%の間のボイド容量を有する多孔性金属構造が形成されることを特徴とする成形用歯科組成物。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(上記摘記事項<A>を参照)。

5.対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明における「質的にまたは全てがワックスよりなる揮発性バインダー」は、本願発明における「揮発性のバインダー」に相当するものであり、その含有量「約30容量%と80容量%の間の濃度」は、本願発明における揮発性のバインダーの含有量の「少なくとも約20容量%でかつ85容量%まで」の範囲内である。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「高熔融温度金属粒子および低熔融温度金属粒子の混合物、ここに、高熔融温度金属粒子は成形用歯科組成物が加熱処理されるために選択された温度を超える溶融温度を有し、かつ該低熔融温度金属粒子はその加熱処理温度以下の溶融温度を有し;ならびに少なくとも約30容量%でかつ80容量%までの揮発性のバインダーを含む成形用歯科組成物。」
である点で一致し、以下の3点で相違している。
<相違点1> 高熔融温度金属粒子の形状について、本願発明は「不規則な非球形幾何形状」を有すると特定しているのに対し、引用発明はそのような特定をしていない点。
<相違点2> 高熔融温度金属粒子の厚みについて、本願発明は「少なくともその約50%が、1.5ミクロン未満の断面平均厚みを有する」と特定しているのに対し、引用発明はそのように特定していない点。
<相違点3> 高熔融温度金属粒子について、本願発明は「加熱処理に際して、複数の高熔融温度金属粒子が重なった粒子の層ネットワークを形成するのを可能とするように」と特定しているのに対し、引用発明はそのような特定がされていない点。

6.当審の判断
(1)相違点1について
引用発明における高熔融温度金属粒子の形状について、引用例には「不規則なフレーク様形状が好ましい」と記載されていることから(上記摘記事項<B>を参照)、引用発明において、高熔融温度金属粒子として「不規則なフレーク様形状」のものを採用することは、当業者が容易になし得ることである。
一方、本願明細書【0014】には、「高熔融金属粒子の形状は、加熱処理の間に高熔融粒子の間で形成されるボイドに対する寸法制御を維持するのに重要であることが判明した。フレークの形態の、すなわち、小プレートの形態の不規則形状粒子が最良に機能する。不規則なフレーク様粒子のサイズおよび寸法は重要な機能を果す。」と記載されていることから、本願発明で規定する「不規則な非球形幾何形状」とは、「不規則なフレーク様形状」を含むものであると認められる。
したがって、引用発明における高熔融温度金属粒子として、本願発明でいう「不規則な非球形幾何形状」に含まれる形状のものを用いることは、当業者ならば容易になし得ることである。

(2)相違点2について
引用発明における高熔融温度金属粒子の大きさについては、引用例には、「約1ミクロンを超える、好ましくは4ミクロンと80ミクロンの間の平均サイズを有するように選択すべきである」と記載されており(上記摘記事項<C>を参照)、引用発明において、高熔融温度金属粒子として「不規則なフレーク様形状」のものを採用する場合、「フレーク」が「薄片」の意味であることから、該高熔融温度金属粒子は、「1.5ミクロン未満の断面平均厚みを有する」ものを含むと推定される。
そして、引用発明における高熔融温度金属粒子の大きさについては、上記「約1ミクロンを超える、好ましくは4ミクロンと80ミクロンの間の平均サイズ」の数値範囲内で当業者が適宜選択し得ることであるから、引用発明において「少なくともその約50%が、1.5ミクロン未満の断面平均厚みを有する」という条件を満たすような高熔融温度金属粒子を用いることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(3)相違点3について
本願明細書【0018】には、「高熔融金属粒子がフレーク様幾何形状を保有し、かつ非常に薄い場合、それは、図6および7に示すように、重なって粒子の格子ネットワークを形成する。」と記載されている。
この記載からみて、本願発明における「加熱処理に際して、複数の高熔融温度金属粒子が重なった粒子の層ネットワークを形成するのを可能とするように」という特定は、高熔融温度金属粒子が、「不規則な非球形幾何形状」を有し、かつ「少なくともその約50%が、1.5ミクロン未満の断面平均厚みを有する」という条件を満たすことにより必然的に生じる結果を、単に付記したに過ぎないものであると認められる。
してみると、先に指摘したように、引用発明における高熔融温度金属粒子について、その形状及び厚みが、「不規則な非球形幾何形状」を有し、かつ「少なくともその約50%が1.5ミクロン未満の断面平均厚みを有する」という条件を満たすものを用いることは 当業者が容易になし得たのであるから、「加熱処理に際して、複数の高熔融温度金属粒子が重なった粒子の層ネットワークを形成するのを可能とするように」することも、当業者が容易になし得たことであるといえる。

(4)本願発明の効果について
請求人は審判請求の理由において、比較試験の結果を提示し、高熔融温度金属粒子が「不規則な非球形幾何形状」を有し、かつ「少なくともその約50%が、1.5ミクロン未満の断面平均厚みを有する」という条件を満たす本願発明は、高熔融温度金属粒子がそのような条件を満たさない引用発明と比較して、加熱処理後のコーピングの変形と収縮を防止し、歯の周辺での精密度に優れるという、格別な効果を奏するものである旨主張している。
しかしながら、引用例には、引用発明の実施例とされる成形用歯科組成物が、「焼結前と一致した収縮のない同じ大きさを材料が保持する」と記載されており(上記摘記事項<D>を参照)、請求人が主張する本願発明の効果は、引用発明においても既に奏されていたものと認められる。
しかも、請求人が提出した比較試験結果については、試験に用いられた、本願発明に対応するとされる歯科金属コーピングも、引用発明に対応するとされる歯科金属コーピングも、高熔融温度金属粒子が具体的に如何なる金属組成を有しているのかが不明であり、該粒子の形状及び厚みの違いを、如何なる方法により生じさせたのたかも不明であるため、客観性に欠けており、本願発明組成物と引用例に記載の実施例の組成物を比較したものであるとも認められないので、そのような信頼性が欠如した比較試験の結果をもって、本願発明が格別な効果を奏したものと認めることもできない。

7.むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-14 
結審通知日 2007-11-20 
審決日 2007-12-04 
出願番号 特願平6-99563
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興油科 壮一  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 井上 典之
川上 美秀
発明の名称 成形用歯科組成物  
代理人 田中 光雄  
代理人 田中 光雄  
代理人 青山 葆  
代理人 青山 葆  

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