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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1176579
審判番号 不服2006-5198  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-20 
確定日 2008-04-14 
事件の表示 平成 8年特許願第217760号「コンピュータデータ記録用磁気テープ及び磁気記録再生方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月20日出願公開、特開平10- 49859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年7月31日の出願であって、平成18年2月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年3月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年4月19日付けで手続補正(平成18年5月25日付けで特許請求の範囲の全請求項を記載した方式上の手続補正が提出されている)がなされたものである。

第2 平成18年4月19日付け手続補正(以下「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月19日付け手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の、
(a) 「【請求項1】 長尺状の非磁性支持体の一方の側に、非磁性粉末及び結合剤を含む実質的に非磁性である厚さ0.5?3.0μmの非磁性層、及び強磁性粉末および結合剤を含む厚さ0.1?0.4μmの磁性層をこの順に有し、そして他方の側にバックコート層を有する、テープの幅に対するテープの厚みの割合が3.5×10^(-4)?7.5×10^(-4)である1/2インチ幅のコンピュータデータ記録用磁気テープであって、
該非磁性支持体の厚みが、3.0?6.5μmの範囲にあり;非磁性層及び磁性層が共に研磨剤を含有しており;磁性層の表面に突出している研磨剤の量が、1?8個/100μm^(2 )の範囲にあり、かつ3D-MIRAU法による磁性層の表面粗さRaが、2?6nmの範囲にあることを特徴とするコンピュータデータ記録用磁気テープ。」を、
(b) 「【請求項1】 長尺状の非磁性支持体の一方の側に、非磁性粉末及び結合剤を含む実質的に非磁性である厚さ0.5?3.0μmの非磁性層、及び強磁性粉末および結合剤を含む厚さ0.1?0.4μmの磁性層をこの順に有し、そして他方の側にバックコート層を有する、テープの幅に対するテープの厚みの割合が3.5×10^(-4)?7.5×10^(-4)である1/2インチ幅のコンピュータデータ記録用磁気テープであって、
該非磁性支持体の厚みが、3.0?6.5μmの範囲にあり;非磁性層及び磁性層が共に研磨剤を含有しており;磁性層の表面に突出している研磨剤の量が、1?8個/100μm^(2 )の範囲にあり、かつ3D-MIRAU法による磁性層の表面粗さRaが、2?6nmの範囲にあることを特徴とするリニアトラックシステムで用いるコンピュータデータ記録用磁気テープ。」
と補正するものである。
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明の「コンピュータデータ記録用磁気テープ」について「リニアトラックシステムで用いる」との限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-267059号公報(以下「引用例1」という。)には、「磁気記録媒体」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【請求項1】非磁性可撓性支持体上に主として非磁性粉末と結合剤とを含む下層非磁性層を設け、その上に少なくとも強磁性粉末と結合剤とを含む上層の磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記上層磁性層の厚みが1μm以下であり、かつ上層磁性層に含まれるモース硬度6以上の非磁性粉末Aの平均一次粒子径が磁性層厚みより小さく、その値が0.02?0.22μmであり、且つ前記下層非磁性層の厚みが1μm以上であり、その中に少なくとも非磁性粉末B:平均粒子径0.01?0.08μmの無機質粉末、非磁性粉末C:平均粒子径0.15?1.0μm、モース硬度6以上の2種類の非磁性粉末を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】前記下層非磁性層の厚みが前記上層磁性層の厚みより厚く、前記下層非磁性層中に含まれる非磁性粉末Cの平均粒子径が磁性層中に含まれるモース硬度6以上の非磁性粉末Aの平均粒子径よりも0.04μm以上大きいことを特徴とする請求項第1項記載の磁気記録媒体。
【請求項5】前記上層磁性層中に含まれる非磁性粉末Aがα-Al_(2)O_(3)、γ-Al_(2)O_(3)、Cr_(2)O_(3)、ダイアモンドの中から選ばれる1種を主成分とすることを特徴とする請求項第1項記載の磁気記録媒体。
【請求項8】前記上層磁性層に含まれる非磁性粉末Aが強磁性粉末100重量部に対して1?20重量部含まれ、前記下層磁性層に含まれる非磁性粉末Cが非磁性粉末B100重量部に対して、3?30重量部含まれることを特徴とする請求項第1項記載の磁気記録媒体。」(特許請求の範囲の請求項1、2、5、8)
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁気記録媒体、特に磁性層厚みが1.0μm以下である非常に薄い磁気記録媒体に関し、さらに詳しくは走行性に優れ、かつ電磁変換特性が良好な塗布型磁気記録媒体に関するものである。」
(ウ)「【0002】
【従来の技術】磁気記録媒体は、録音用テープ、ビデオテープ、コンピューターテープ、ディスク等として広く用いられている。磁気記録媒体は年々高密度化され記録波長が短くなっており、記録方式もアナログ方式からデジタル方式まで検討されている。(略)
【0003】塗布型磁気記録媒体の電磁変換特性の向上には、強磁性粉末の磁気特性の改良、表面の平滑化などがあり、種々の方法が提案されているが、高密度化に対しては十分なものではない。また、近年高密度化と共に記録波長が短くなる傾向にあり、磁性層の厚さが厚いと出力が低下する記録時の自己減磁損失、再生時の厚み損失の問題が大きくなっている。
【0004】このため、磁性層を薄くすることが行われているが、磁性層を約2μm以下に薄くすると磁性層の表面に非磁性支持体の影響が表れやすくなり、電磁変換特性やDOの悪化傾向が見られる。このため、特開昭57-198536号公報のごとく、支持体表面に非磁性の厚い下塗層を設けてから磁性層を上層として設けるようにすれば前記の支持体の表面粗さの影響は解消することができるが、ヘッド摩耗や耐久性が改善されないという問題があった。(略)」
(エ)「【0007】しかしながら、これらの従来の方法では、近年の長時間化、高密度化に伴う磁気記録媒体の薄層化、即ち磁性層を1μm以下の要請に答えることが困難で、再び塗布欠陥等が見られるようになり、しかも電磁変換特性と走行耐久性を両立する事が不十分となるという問題が生じた。特に薄手テ-プで走行耐久性を向上させるにはテ-プエッジダメージを少なくする事が必要であるが、従来の方法では不十分であった。」
(オ)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は電磁変換特性が良好な磁気記録媒体を提供することであり、かつ繰り返し走行によるエッジダメージの少ない走行耐久性に優れる磁気記録媒体を提供することである。
(カ)「【0010】本発明の構成要素の作用機構は以下のように考えることができる。
(1)(審決注:公報の「まる1」を表す。以下同様。)磁性層厚みが1μm以下であること。:短波長記録では磁性層厚みが薄い方が、自己減磁損失、記録減磁損失が少なくなり、出力を向上させることができる。また、消去率も向上し、オーバーライト適性が向上する。
【0011】(2)下層非磁性層を設けること。:磁性層厚みを薄くすることにより、上記のような損失が減らせられるが、同時に表面粗さが大きくなる。これはカレンダー成型性が低下してくるためであるが、これを解消するためには非磁性層を設けることにより解決された。これは塗布層自体を厚くする事により、圧縮の余地を大きくする事が寄与していると考えられる。また、下層非磁性層は磁性層が薄くなる事による膜自体の強度低下を補う裏打ち層の役割も果たしている。これらのような効果を現すためには非磁性層の厚みは少なくとも1μm必要である。
【0012】(3)磁性層に含まれるモース硬度6以上の非磁性粉末の平均粒子径が0.02?0.2μmであること。:磁性層を薄層化することにより、特に磁性層厚みが1μm以下の薄層型磁気記録媒体では研磨材の粒子径が0.2μm以上であると強磁性粉末自体の数が少ないために強磁性粉末の配向性が乱されたり、特に磁性層厚みが0.5μm以下になると粒子径の大きい研磨材を用いると場所によっては強磁性粉末の無い部分もあり、これがノイズ上昇の原因となっている。モース硬度6以上の研磨材を磁性層中から除去すると磁性層によるヘッドクリーニング力が低下し、ヘッド汚れやクロッギングが発生する。磁性層厚みが1μm以下の磁気記録媒体でこれを解消するためには平均粒子径が0.02?0.2μmの研磨材を用いると効果的である。
【0013】(4)下層非磁性層に非磁性粉末Bの平均粒子径0.01?0.08μmの無機質粉末と非磁性粉末Cの平均粒子径0.15?1.0μm、モース硬度6以上の2種類の非磁性粉末を含むのは平均粒子径の小さい非磁性粉末Bは下層非磁性層の平滑性を確保するのに役立ち、平均粒子径の大きい非磁性粉末Cはエッジダメ-ジを改良するのに役立つ。つまり下層非磁性層は上層磁性層よりも層の厚みが厚いので端面に対する寄与が大きく、エッジでの摺動に効果がある。しかし非磁性粉末Cのみでは表面粗さが大となり、電磁変換特性が低下するが、これに平均粒子径の小さい非磁性粉末Bを組み合わせることにより、凸凹を埋め適度な平滑性が得られるものと思われる。従って本発明によって電磁変換特性とエッジダメ-ジが同時に改良されたものである。」
(キ)「【0044】本発明に用いられる研磨剤、非磁性粉末A,Cとしてはα化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、(略)など主としてモ-ス6以上の公知の材料が単独または組合せで使用される。(略)
【0045】(略)本発明に用いられる研磨剤は下層非磁性層、上層磁性層で種類、量および組合せを変え、目的に応じて使い分けることはもちろん可能である。これらの研磨剤はあらかじめ結合剤で分散処理したのち磁性塗料中に添加してもかまわない。本発明の磁気記録媒体の磁性層表面および磁性層端面に存在する研磨剤は5個/100μm^(2)以上が好ましい。」
(ク)「【0051】本発明の磁気記録媒体の厚み構成は非磁性可撓性支持体が1?100μm、好ましくは4?80μmである。磁性層と中間層を合わせた厚みは非磁性可撓性支持体の厚みの1/100?2倍の範囲で用いられる。また、非磁性可撓性支持体性と非磁性下層の間に密着性向上のためのの下塗り層、を設けてもかまわない。本下塗層厚みは0.01?2μm、このましくは0.02?0.5μmである。また、非磁性支持体性の磁性層側と反対側にバックコ-ト層を設けてもかまわない。この厚みは0.1?2μm、好ましくは0.3?1.0μmである。これらの下塗層、バックコ-ト層は公知のものが使用できる。」
(ケ)「【0062】(略)磁性層が有する空隙率は非磁性下層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるデータ記録用磁気記録媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。」
(コ)「【0064】磁性層の中心線表面粗さRaは1nm?10nmが好ましいが、その値は目的により適宜設定されるべきである。電磁変換特性を良好にする為にはRaは小さいほど好ましいが、走行耐久性を良好にするためには逆に大きいほど好ましい。(略)」
(サ)「【0066】
【実施例】
(1)非磁性中間層
非磁性粉末 TiO_(2) 結晶系ルチル 80部
平均一次粒子径:0.035μm
(略)
α-Al_(2)O_(3) 10部
(略)
【0067】
(2)磁性層(上層)
強磁性金属微粉末 組成:Fe/Zn/Ni=92/4/4 100部
(略)
α-Al_(2)O_(3)(粒子径0.15μm) 10部
(略)
【0068】(略)得られた下層非磁性層塗布液を、乾燥後の厚さが2μmになるようにさらにその直後にその上に磁性層の厚さが0.5μmになるように、厚さ7μmで中心線表面粗さが0.01μmのポリエチレンテレフタレ-ト支持体上に同時重層塗布をおこない、両層がまだ湿潤状態にあるうちに3000Gの磁力をもつコバルト磁石と1500Gの磁力をもつソレノイドにより配向させ乾燥後、金属ロ-ルのみから構成される7段のカレンダで温度90℃にて分速200m/min.で処理を行い、8mmの幅にスリットし、8mmビデオテ-プを製造した。」
(シ)「【0072】<中心線平均表面粗さ>WYKO社製TOPO3Dを用いて、媒体表面をMIRAU法で約250nm×250nmの面積のRaを測定した。測定波長は約650nmで球面補正、円筒補正を加えている。本方式は光干渉にて測定する非接触の表面粗さ計である。」
(ス)表1及び2には、磁気記録媒体において、磁性層厚みが、0.2μm、0.4μm又は0.8μmで、非磁性厚みが2.0μmである例が記載されている。

3.対比判断
(1)対比
補正後の発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
上記2で摘示した記載事項、特に(ア)(キ)(ク)(コ)(シ)(下線部参照)によれば、引用例1には、
「非磁性可撓性支持体上に主として非磁性粉末と結合剤とを含む下層の非磁性層を設け、その上に少なくとも強磁性粉末と結合剤とを含む上層の磁性層を設けた磁気記録媒体であって、
磁性層は、厚みが1μm以下で、モース硬度6以上の非磁性粉末Aを含み、
非磁性層は、厚みが1μm以上で、モース硬度6以上の非磁性粉末Cを含み、
非磁性粉末AとCは、研磨剤であり、
磁性層表面に存在する研磨剤は5個/100μm^(2)以上が好ましく、
磁気記録媒体の厚み構成は非磁性可撓性支持体が1?100μm、好ましくは4?80μmであり、磁性層と中間層を合わせた厚みは非磁性可撓性支持体の厚みの1/100?2倍の範囲で用いられ、
非磁性可撓性支持体の磁性層側と反対側にバックコ-ト層を備え、
磁性層の中心線表面粗さRaは1nm?10nmで、
中心線平均表面粗さは、WYKO社製TOPO3Dを用いて、媒体表面をMIRAU法で約250nm×250nmの面積のRaを測定したものである、磁気記録媒体。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「非磁性可撓性支持体」は、補正後の発明の「非磁性支持体」に相当している。
引用例1に記載された発明の「磁気記録媒体」は、「録音用テープ、ビデオテープ、コンピューターテープ、ディスク等」(上記(ウ)参照)、「薄手テープ」(上記(エ)参照)、「ビデオテープ」(上記(サ)参照)が例示されていることから、補正後の発明の「磁気テープ」に相当している。
そうすると、引用例1に記載された発明は、「非磁性可撓性支持体上に主として非磁性粉末と結合剤とを含む下層の非磁性層を設け、その上に少なくとも強磁性粉末と結合剤とを含む上層の磁性層を設けた磁気記録媒体」であって、「非磁性可撓性支持体の磁性層側と反対側にバックコ-ト層を備え」ているから、「長尺状の非磁性支持体の一方の側に、非磁性粉末及び結合剤を含む実質的に非磁性である非磁性層、及び強磁性粉末および結合剤を含む磁性層をこの順に有し、そして他方の側にバックコート層を有する、磁気テープ」の構成を備えている。
引用例1に記載された発明は、「磁性層は、厚みが1μm以下で、モース硬度6以上の非磁性粉末Aを含み、非磁性層は、厚みが1μm以上で、モース硬度6以上の非磁性粉末Cを含み、非磁性粉末AとCは、研磨剤で」あるから、補正後の発明の「非磁性層及び磁性層が共に研磨剤を含有しており」に相当する構成を備えている。
引用例1に記載された発明の「磁性層表面に存在する研磨剤」は、補正後の発明の「磁性層の表面に突出している研磨剤」に相当している。
引用例1に記載された発明は、「非磁性可撓性支持体が1?100μm、好ましくは4?80μmで」あるから、引用例1に記載された発明の「非磁性可撓性支持体」の厚みは、補正後の発明の「可撓性支持体」の厚みと、「3.0?6.5μmの範囲」でその範囲が重複している。
引用例1に記載された発明は、「磁性層の中心線表面粗さRaは1nm?10nmで、中心線平均表面粗さは、WYKO社製TOPO3Dを用いて、媒体表面をMIRAU法で約250nm×250nmの面積のRaを測定したものである」から、引用例1に記載された発明の「磁性層の中心線表面粗さRa」は、補正後の発明の「3D-MIRAU法による磁性層の表面粗さRa」に相当し、「2?6nmの範囲」でその範囲が重複している。
そうすると、補正後の発明と引用例1に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点) 「長尺状の非磁性支持体の一方の側に、非磁性粉末及び結合剤を含む実質的に非磁性である所定の厚さの非磁性層、及び強磁性粉末および結合剤を含む所定の厚さの磁性層をこの順に有し、そして他方の側にバックコート層を有する磁気テープであって、
非磁性支持体の厚みが、所定の範囲にあり、非磁性層及び磁性層が共に研磨剤を含有しており、磁性層の表面に突出している研磨剤の量が、所定の範囲にあり、かつ3D-MIRAU法による磁性層の表面粗さRaが、所定の範囲にある、磁気テープ。」
(相違点1) 「磁気テープ」について、補正後の発明は、「リニアトラックシステムで用いる」「テープの幅に対するテープの厚みの割合が3.5×10^(-4)?7.5×10^(-4)である1/2インチ幅のコンピュータデータ記録用」と特定し、「非磁性層」「磁性層」「非磁性支持体」の厚さが、それぞれ「0.5?3.0μm」「0.1?0.4μm」「3.0?6.5μmの範囲」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定していない点。
(相違点2) 「磁性層の表面に突出している研磨剤の量」及び「磁性層の表面粗さRa」について、補正後の発明は、「研磨剤の量」が、「1?8個/100μm^(2 )の範囲」にあり、「表面粗さRa」が「2?6nmの範囲」にあると、それぞれ数値範囲を特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定しておらず、それぞれ「5個/100μm^(2)以上が好ましい」「1nm?10nm」としている点。

(2)相違点についての判断
(2-1)相違点1について
引用例1に磁気記録媒体として例示されているコンピュータテープは、「リニアトラックシステム」等に用いられることが周知の事項であり、コンピュータテープの幅及び厚みについては、DLT型対応の磁気テープでは、テープの幅が1/2インチでテープの厚みが9μm程度の薄さのものが用いられていることも、周知の事項であり、例えば本願の明細書の従来の技術の項(段落5)にも、記載されているとおりである。なお、テープの幅が1/2インチでテープの厚みが9μm程度の薄さの磁気テープは、テープの幅に対するテープの厚みの割合が、7.1×10^(-4) に相当し、補正後の発明の「3.5×10^(-4)?7.5×10^(-4)」の範囲に含まれるものである。
引用例1に記載された発明の磁気テープとして、リニアトラックシステムに用いる周知の幅及び厚みを備えるコンピュータテープ、即ち、テープの幅に対するテープの厚みの割合が3.5×10^(-4)?7.5×10^(-4)の範囲に含まれる7.1×10^(-4) 程度の1/2インチ幅のコンピュータデータ記録用磁気テープを対象として、その磁性層・非磁性層・非磁性支持体の厚さを所定の範囲に選定することは、当業者が引用例1に記載された発明を具体化するにあたり、適宜なし得ることである。以下詳細に検討する。
(磁性層の厚さ「0.1?0.4μm」について) 引用例1に記載された発明において、「磁性層は、厚みが1μm以下」であり、かつビデオテープの例ではあるものの厚みが「0.2μm、0.4μm」の例が引用例1に示され、出力向上のためには薄層化することが望まれている(上記(エ)(カ)参照)から、磁性層の厚みを0.2μmや0.4μmの前後の厚みに選定することは当業者が適宜なし得ることであり、磁性層の厚さにおいては、実質的に相違していない。
(非磁性層の厚さ「0.5?3.0μm」について) 引用例1に記載された発明において、「非磁性層は、厚みが1μm以上」であり、かつビデオテープの例ではあるものの厚みが2.0μmの例が引用例1に示され、磁性層の厚みを薄くすることにより生じる表面粗さ増大や強度低下を改善する程度の厚さが望ましい(上記(ア)(カ)参照)のであるから、非磁性層の厚みを2μm前後に選定することは当業者が適宜なし得ることであり、非磁性層の厚さにおいては、実質的に相違していない。
(非磁性支持体の厚さ「3.0?6.5μm」について) 引用例1に記載された発明において、非磁性支持体の厚さは、「1?100μm、好ましくは4?80μmで」であり、ビデオテープの例ではあるものの厚みが7μmの例(上記(サ)参照)が引用例1に示され、磁気テープ全体の厚みを薄くすることが従来から望まれている(上記(エ)参照)のであるから、磁気テープの厚さに主に寄与する非磁性支持体の厚さを、4?80μmのうち7μmより若干小さい厚みに選定することは、当業者が適宜なし得ることである。

(2-2)相違点2について
(磁性層の表面粗さRaについて)
引用例1には、磁気テープにおいて、磁性層を薄くすると、薄い方が出力を向上させることができるものの、表面粗さが大きくなるので、下層に非磁性層を設けることにより表面粗さを小さくすること(上記(カ)参照)ができることが記載され、表面粗さの指標であるRaについて、「磁性層の中心線表面粗さRaは1nm?10nmが好ましいが、その値は目的により適宜設定されるべきである。電磁変換特性を良好にする為にはRaは小さいほど好ましいが、走行耐久性を良好にするためには逆に大きいほど好ましい。」(上記(コ)参照)と記載されている。
そうであるから、引用例1に記載された発明の磁気テープにおいて、その電磁変換特性である出力や走行耐久性を考慮して、中心線表面粗さRaの範囲を、上記「1nm?10nm」の範囲内である「2?6nmの範囲」を選択することは当業者が適宜なし得ることである。
(磁性層の表面に突出している研磨剤の量について)
引用例1に記載された発明では、5個/100μm^(2)以上が好ましいとされている。
また、引用例1には、磁気テープにおいて、ヘッド摩耗や耐久性の技術課題があること(上記(ウ)参照)、研磨剤が磁性層中にないと、磁性層によるヘッドクリーニング力が低下してヘッド汚れやクロッギングが発生すること(上記(カ)参照)、また、研磨剤は、下層非磁性層、上層磁性層で種類、量および組合せを変え、目的に応じて使い分けること(上記(キ)参照)、磁性層に含まれる研磨剤が強磁性粉末100重量部に対して1?20重量部含まれること(上記(ア)請求項8参照)が、記載されている。
そうすると、引用例1に記載された発明において、研磨剤の量として、ヘッドクリーニング力を十分にしてヘッド汚れやクロッギングが発生しない程度の下限値を設定しているものであり、また研磨剤が多すぎるとヘッド摩耗が生じやすいことは周知の事項であって、ヘッド摩耗の程度を勘案して、研磨剤の量の上限値を設定することは、当業者が適宜なし得ることである。その際、具体的な値として、引用例1には5個/100μm^(2)以上という例示があるのであるから、5個/100μm^(2)近傍の値で研磨剤の量の範囲を選定することは当業者が容易に想到しうることである。

(2-3)
そして、上記相違点1及び2を総合的に検討しても、引用例1に記載された発明の磁気テープとして、リニアトラックシステムに用いる周知の幅及び厚みを備えるコンピュータデータ記録用磁気テープを、具体的な対象の磁気テープとし、その磁性層・非磁性層・非磁性支持体の厚さに加え、磁性層の表面に突出している研磨剤の量及び磁性層の表面粗さRaについて、補正後の発明のような所定の範囲に選定することは、当業者が引用例1に記載された発明を具体化するにあたり、適宜なし得ることであり、また補正後の発明の効果は、引用例1に記載された発明から当業者であれば予測される範囲内であるので、上記相違点に格別の困難性を要したものではない

(2-4)
なお、請求人は、請求の理由で、引用例1には、「研磨剤密度の上限についての記載はなく、この研磨剤密度の下限の技術的意味も示されていません」と主張し、「コンピュータデータ記録用磁気テープにおいて、その磁性層の表面粗さと磁性層の表面の研磨剤密度の双方を適当な範囲に調整することにより、リニアトラックシステムを利用するコンピュータデータ記録再生システムにおいて、標準テープに比べて出力を低下させることなく、磁気ヘッドの摩耗の低減が可能である」ことを示唆する記載がない旨、主張している。
しかしながら、研磨剤の量については、上記(2-2)で述べたとおり、引用例1の記載及び周知の事項に基づきその技術的意味を理解できるものである。また、引用例1に記載された発明は、回転磁気ヘッドを用いる実施例のビデオテープのみに限定されるものでなく、固定磁気ヘッドを用いるものや繰り返し用途が重視されるデータ記録用(上記(ウ)(ケ)参照)のものをも対象とすることが明らかであり、リニアトラックシステム用のコンピュータデータ記録用磁気テープにおいて、その磁性層の表面粗さと磁性層の表面の研磨剤密度の双方を適当な範囲に調整することは、引用例1に示唆されているといえ、請求人の主張は採用できい。

4.むすび
以上のとおり、補正後の発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成18年4月19日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至6に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】上記「第2の1の(a)」のとおり。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項は、上記「第2の2」に記載されたとおりである。

2.対比判断
本願発明は、上記「第2の3」で検討した補正後の発明から、「コンピュータデータ記録用磁気テープ」についての限定事項である「リニアトラックシステムで用いる」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後の発明が、上記「第2の3」に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-20 
結審通知日 2008-02-22 
審決日 2008-03-04 
出願番号 特願平8-217760
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 横尾 俊一
漆原 孝治
発明の名称 コンピュータデータ記録用磁気テープ及び磁気記録再生方法  
代理人 柳川 泰男  

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