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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D |
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管理番号 | 1176644 |
審判番号 | 不服2006-15828 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-07-24 |
確定日 | 2008-04-21 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第108673号「永久磁石型無励磁作動形ブレーキの励磁方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月21日出願公開、特開平 9-273577〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年4月5日の出願であって、平成18年6月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成18年7月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年8月23日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成18年8月23日付けの手続補正の内容及び補正の適否 (1)平成18年8月23日付けの手続補正の内容 平成18年8月23日付けの手続補正は、平成18年5月26日付けの手続補正にて補正された特許請求の範囲の請求項1における 「【請求項1】 コイルの無励磁時には、永久磁石の磁束により制動力を付与し、コイルの励磁時には、コイルの励磁により発生する磁束により永久磁石による磁束の一部又は全部を相殺して上記制動力の調整又は制動力の解除を行うようにした永久磁石型無励磁作動形ブレーキにおいて、 制動力の解除の場合は、 コイルの励磁を当初のコイル電流が立ち上がる所定時間をタイムリレーにより規定し、当該タイムリレーによる保持時間だけ過励磁電源により過励磁とした後、通常の励磁電源に切り替えるようにしたことを特徴とする永久磁石型無励磁作動形ブレーキの励磁方法。」 の記載を、 「【請求項1】 コイルの無励磁時には、永久磁石の磁束により制動力を付与し、コイルの励磁時には、コイルの励磁により発生する磁束により永久磁石による磁束の全部を相殺して上記制動力の解除を行うようにした永久磁石型無励磁作動形ブレーキにおいて、 制動力の解除の場合は、 コイルの励磁を当初のコイル電流が立ち上がる所定時間をタイムリレーにより規定し、当該タイムリレーによる保持時間だけ過励磁電源により過励磁とした後、通常の励磁電源に切り替えるようにしたことを特徴とする永久磁石型無励磁作動形ブレーキの励磁方法。」 と補正しようとする内容を含むものである。下線部は、対比の便のため当審において付したものである。 (2)補正の適否 平成18年8月23日付けの手続補正による補正後の請求項1は、補正前の請求項1に記載されていた「コイルの励磁により発生する磁束により永久磁石による磁束の一部又は全部を相殺して上記制動力の調整又は制動力の解除を行うようにした」を「コイルの励磁により発生する磁束により永久磁石による磁束の全部を相殺して上記制動力の解除を行うようにした」とするものであり、平成18年8月23日付け手続補正で補正した審判請求書の3.(2)における請求人の主張からみて、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 したがって、平成18年8月23日付けの手続補正は適法になされたものである。 3.本願発明について 平成18年8月23日付けの手続補正は、上記の通り適法になされたものであるので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成18年8月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下の通りものと認める。 「コイルの無励磁時には、永久磁石の磁束により制動力を付与し、コイルの励磁時には、コイルの励磁により発生する磁束により永久磁石による磁束の全部を相殺して上記制動力の解除を行うようにした永久磁石型無励磁作動形ブレーキにおいて、 制動力の解除の場合は、 コイルの励磁を当初のコイル電流が立ち上がる所定時間をタイムリレーにより規定し、当該タイムリレーによる保持時間だけ過励磁電源により過励磁とした後、通常の励磁電源に切り替えるようにしたことを特徴とする永久磁石型無励磁作動形ブレーキの励磁方法。」 4.刊行物 これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である実願昭61-740号(実開昭62-114228号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、「電磁ブレーキの励磁回路」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「第4図は、本考案の励磁回路が用いられる従来の永久磁石作動型電磁ブレーキの構造を示し、静止部分は、コイル1-3と永久磁石1-4を内蔵し、ボールアウタ1-1、ボールインナ1-2を含むマグネット部1から構成され、フランジ1-5により機械のフレーム等の静止部に固定される。回転部分は、オートギャップ装置をもつアーマチュア部2とスプラインハブ3から構成され、スプラインハブ3は制動軸に固定される。 このような電磁ブレーキの制動、保持動作においては、第3図のような励磁回路により直流電源3から一対の接点A1、A2を通ってコイル1-3へ供給されていた励磁電流を断つと、アーマチュア部2とマグネット部1の両者の摩擦面間に永久磁石1-4による磁束が形成されアーマチュア部2がマグネット部1に吸引され回転部分は制動され保持される。また、ブレーキの解放動作においては、コイル1-3に通電して励磁すると、コイル1-3による磁束が摩擦面に働く永久磁石の磁束を打消すように逆方向の磁束を生じ、この逆方向の磁束数が永久磁石の磁束数とほぼ同程度になると両磁束が相殺され、アーマチュア部2とマグネット部1との間の吸引力が殆ど消滅し、オートギャップ装置の釈放作用によりアーチュア部2が釈放されブレーキが解放される。」(第2頁第15行-第3頁第20行参照。) してみると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「コイル1-3へ供給されていた励磁電流を断つと、アーマチュア部2とマグネット部1の両者の摩擦面間に永久磁石1-4による磁束が形成されて制動され、コイル1-3に通電して励磁すると、コイル1-3による磁束が摩擦面に働く永久磁石の磁束を打消すように逆方向の磁束を生じ、この逆方向の磁束数が永久磁石の磁束数とほぼ同程度になると両磁束が相殺され、解放される永久磁石作動型電磁ブレーキ。」 また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である実願昭54-95261号(実開昭56-12146号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、「電磁ブレーキの制御装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。 ロ.「本案の実施例は以上で構成され、電磁コイル3に電源が供給されていないときには摩擦板7は制動用ばね10の接極子4に対する押圧力によつてその接極子と受板6間に挟圧され、この摩擦板にハブ8のスプラインを介して動力的に結合された被制動軸9に対して制動がかけられ、またこの状態では電磁石部は励磁されていないので、その継鉄1の周辺部には漏洩磁束がなく接触器12は閉合されている。次に電源開閉器14を投入し、電磁コイル3に電流を供給し、電磁石部を励磁させると接極子4が電磁吸引力を受け、復帰用ばね10に抗して継鉄1に連らなる磁極部に向つて吸引され、これによつて摩擦板7は釈放され、被制動軸9に対する制動は解除されるのであるが電磁石部の励磁初期においてはその電磁石部の継鉄1の周辺部における漏洩磁束は磁気感応素子11を動作させるに至らず、従つて接触器12は閉じたままで電磁コイル3には電源電圧が直接印加され、次いで磁束の増加に伴なう継鉄1の周辺部の漏洩磁束の増大につれて磁気感応素子11が動作し、接触器12が開かれるので電磁コイル3に抵抗13が挿入され、その電磁コイルに印加される電圧は降下させられる。 よつて本案によれば磁気感応素子11の取付箇所等を選定して、その素子の動作特性に対する漏洩磁束のレベルを適宜設定することによりブレーキ解放動作の初期には高い電圧を電磁コイルに印加してそのブレーキの解放動作を速かに行わせ、接極子吸引後は磁気感応素子の動作に基いて電磁コイルに対する印加電圧を接極子に対する保持可能な最小の値まで引き下げ電磁コイルの温度上昇を抑えることができ、従つて小型の電磁ブレーキに拘らずブレーキ釈放速度の早いブレーキ装置を提供することができ、また励磁初期の電磁吸引力を増大させることができる」(第3頁第2行?第4頁第15行) そして、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である実願昭53-3875号(実開昭54-108852号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物3」という。)には、「電磁連結装置の励磁コイル回路」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。 ハ.「前記のように単一コイル1からなる励磁コイルを内蔵した電磁クラッチの場合、そのアンペアターン(電流値とコイル巻数をいい、以下ATと略記する)立上り特性は、例えば第2図中に実線5で示すように、比較的緩慢な立上りとなり、又、破線6で示すトルク立上り特性をもつ。この特性は一般機械のトルク伝達には適するが、瞬時連結を必要とする機器には適さない。 そこで、上記破線6で示すトルクの立上り完了に至る時間を短縮しようとすれば、励磁の初期において定格より高い電圧を印加することにより、ATを大きくするか、定格より高い電圧と励磁コイルに直列に設けられる抵抗の組合わせの選択によつてATの立上り時における時定数を小さくするかのいずれかによらざるを得ない。 しかし、このような手段によると、定格電圧の電源のほかに、急速過励磁用の電圧を発生する電源が必要となる」(第2頁第17行-第3頁第14行) 5.対比 本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「コイル1-3へ供給されていた励磁電流を断つと、アーマチュア部2とマグネット部1の両者の摩擦面間に永久磁石1-4による磁束が形成されて制動され」は、本願発明1の「コイルの無励磁時には、永久磁石の磁束により制動力を付与し」に、また「コイル1-3に通電して励磁すると、コイル1-3による磁束が摩擦面に働く永久磁石の磁束を打消すように逆方向の磁束を生じ、この逆方向の磁束数が永久磁石の磁束数とほぼ同程度になると両磁束が相殺され、解放される」は「コイルの励磁時には、コイルの励磁により発生する磁束により永久磁石による磁束の全部を相殺して上記制動力の解除を行うようにした」にそれぞれ相当する。また、刊行物1記載の発明の「永久磁石作動型電磁ブレーキ」は、本願発明1の「永久磁石型無励磁作動形ブレーキ」に相当する。 そうすると、本願発明1と刊行物1記載の発明とは、本願発明1の用語に倣えば、 「コイルの無励磁時には、永久磁石の磁束により制動力を付与し、コイルの励磁時には、コイルの励磁により発生する磁束により永久磁石による磁束の全部を相殺して上記制動力の解除を行うようにした永久磁石型無励磁作動形ブレーキ」 である点で一致し、次の点で相違する。 本願発明1は、制動力の解除の場合、コイルの励磁を当初のコイル電流が立ち上がる所定時間をタイムリレーにより規定し、当該タイムリレーによる保持時間だけ過励磁電源により過励磁とした後、通常の励磁電源に切り替えるようにした永久磁石型無励磁作動形ブレーキの励磁方法」であるのに対し、刊行物1記載の発明には、このような永久磁石型無励磁作動形ブレーキの励磁方法に係る事項を有していない点。 6.判断 上記相違について検討するに、電磁ブレーキ或いは電磁クラッチの如き電磁連結装置において、励磁の初期に高い電圧を加えるすなわち過励磁とし、その後に電圧を下げることによりブレーキの解放動作あるいは連結器の連結に係る速度を高速にすること、そして、このような手段を採用する際には過励磁用の電源が必要となることは、刊行物2或いは刊行物3に記載されているように従来周知の技術にすぎない。そして、この従来周知の技術は、電磁連結装置の技術である点で、本願発明1及び刊行物1記載の発明と同様の技術分野に属するものであって、刊行物1記載の発明に上記従来周知の技術を適用することに格段の想到困難性及び技術的な困難性を見出すことができないことに鑑みれば、刊行物1記載の発明に対し上記従来周知の技術を適用して上記相違に係る本願発明1の構成とすることは、当業者であれば容易になし得るものである。 その際、タイムリレーによりコイル電流が立ち上がる所定時間を規定し、その保持時間だけ過励磁することは、一般に電気回路の技術分野において、所定時間回路を作動させるべくタイムリレーを当該回路に設け、タイムリレーが規定する時間回路を作動させることは、例えば特開昭61-192679号公報(第3頁左上欄第9行-右上欄第2行)、特開昭62-230400号公報(第5頁左上欄第17行-左下欄第8行)、特開昭61-191240号公報(「3.発明の詳細な説明」欄に記載された事項を参照)に記載されているように慣用手段であり、必要に応じて当業者が適宜選択しうるものであることを踏まえれば、刊行物1記載の発明に上記従来周知の技術を適用する際、過励磁時間の設定等のために当業者が適宜採用しうる単なる設計的事項と解するのが相当であり、この点に格別な創作性を見出すことはできない。 そして、本願発明1が奏する作用効果も、刊行物1記載の発明及び上記従来周知の技術から、当業者が予測できる範囲内のものである。 なお、請求人は平成18年8月23日付けの手続補正により補正した審判請求書において、「本願請求項1の永久磁石型のブレーキでは、制動解除の際にコイルに印加される電圧は、電磁石の磁力が永久磁石の磁力を相殺するものである必要があり、それより小さくても大きくてもブレーキは正常に解除されない。また、電圧の極性は、電磁石に永久磁石の磁束とは逆方向の磁束を発生させる方向に限定される。このように、永久磁石型の場合、解除時にコイルに印加される電圧には決められた電圧範囲、極性があり、スプリングクローズ式に比較してより正確な制御が必要とされる。そして、永久磁石型で過励磁の状態が続けば、電磁石で発生する磁束が永久磁石の磁束を打ち消しても更に残存することになり、アーマチュアが吸着されて制動力がかかってしまう。このため、永久磁石型では上記の電圧範囲を超えた過励磁をすることは通常は考えられず、永久磁石型を開示する引例1にも過励磁については示唆がない。 本願請求項1の発明は、このような永久磁石型では通常では考えられない過励磁をコイル電流が立ち上がる所定時間内に限って行い、かつ、この所定時間が適正な値となるようにタイムリレーを用いて正確に規定することにより、制動解除時の応答性を改善したものであり、引例1乃至3の記載からは当業者であっても容易に発明できたものではないと確信する。 なお、原審審査官殿は、リレーを用いたブレーキコイルの励磁は引例4に開示されると指摘しているが、引例4のリレーは、上記のように単なるスイッチであり、本願請求項1に規定した過励磁の時間を規定するためのタイムリレーではない。また、原審審査官殿は、リレーを用いて制御時間を設定することは慣用手段と指摘しているが、少なくとも各引例にはタイムリレーを用いた時間設定は開示されていない。タイムリレー自体が公知であることに異論はないが、これを永久磁石型無励磁作動形ブレーキの過励磁時間の設定に適用することは慣用手段とは言えないものであるから、その適用を思いついて本願発明の構成を実現したことに発明が存在するものと確信する。」と主張している。 しかしながら、本願発明1は、所定時間がどの程度の時間をいうかについての特定はなく、また本願明細書の発明の詳細な説明、特に段落【0008】、【0009】、【0012】をみても、所定時間の具体的な値或いは設定方法等について記載された箇所はなく、そして段落【0012】の「上記の所定時間が適正となるようにタイムリレーを用いて正確に規定する」という記載からみて、永久磁石型無励磁作動形ブレーキへの従来周知の技術の適用に関し、請求人が審判請求書で主張している上記課題は、単に所定時間を適正なものとすることで解決する程度のものと解せられる。そして、機械を構成する各機構の作動時間を適正なものとし、機械を円滑かつ課題が生じないように作動させることは、当業者が日常の設計活動の範囲内で適宜行う事項であることを踏まえれば、上述したとおり、刊行物2及び刊行物3に記載された従来周知の技術を刊行物1記載の発明に適用することに格別な想到困難性あるいは技術的な困難性を見出すことはできず、審判請求書にて請求人が主張している上記課題は、刊行物1記載の発明に従来周知の技術を適用する際、その所定時間を当業者が日常の設計活動の範囲内で適正なものとし得る程度の事項と解するのが相当である。 また、所定時間回路を作動時間させるためにタイムリレーを用いることは慣用手段にすぎず、審判請求人の主張を参酌しても、刊行物1記載の発明に対し従来周知の技術を適用するに際し、このような慣用手段を採用することに格別な想到困難性はなく、また、採用により当業者が予期できない格別な効果が生じるものでもない以上、刊行物1記載の発明に対し従来周知の技術を適用する際、タイムリレーを採用することは単なる設計的事項の範疇に属するものであり、この点に格別な創作性を見出すことはできない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 7.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、請求項2ないし5に係る発明は検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論の通り審決する。 |
審理終結日 | 2008-02-05 |
結審通知日 | 2008-02-12 |
審決日 | 2008-02-25 |
出願番号 | 特願平8-108673 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤井 昇 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
水野 治彦 溝渕 良一 |
発明の名称 | 永久磁石型無励磁作動形ブレーキの励磁方法 |
代理人 | 高橋 陽介 |
代理人 | 斎藤 春弥 |