• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01H
管理番号 1176655
審判番号 不服2003-424  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-08 
確定日 2008-04-24 
事件の表示 平成 5年特許願第138392号「融合酵素産生植物」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 4月12日出願公開、特開平 6- 98655〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成5年6月10日(優先日:平成4年8月5日、特願平4-209226号)の出願であって、その請求項1?9に係る発明は、平成12年6月8日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、そのうちの請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項3】チトクロムP450に由来する一原子酸素添加活性及びNADPH-P450還元酵素に由来するNADPHからの還元力供給活性を同一分子内に合わせ持つ融合酸化酵素をコードする遺伝子を含み、該融合酵素を植物細胞内で発現させることを特徴とするプラスミド」

2.引用文献の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開昭63-44888号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「(4)チトクロムP-450の有する1原子酸素添加活性とNADPH-チトクロムP-450還元酵素の有する還元力供給能を併せ持つ酸化酵素をコードするキメラ酵素遺伝子を含み該酸化酵素を発現する酵母発現プラスミド」(特許請求の範囲第4項)
(イ)「したがって、P-450MC発現酵母菌株、あるいは酵母菌体より取得したP-450MCは、有用物質の酸化反応プロセスへ応用可能である他に、産業廃水中の有害物質の酸化的除去などへも応用が可能である。」(第2頁右下欄第8行?第12行)
(ウ)「今回、本発明者らは、さらに研究を発展させ、P-450とFptの両遺伝子を接続することにより単一の遺伝子とし、チトクロムP-450の有する1原子酸素添加活性およびNADPH-チトクロムP-450還元酵素の有するNADPHからの還元力供給能を同一分子内に有する酸化酵素コードするキメラ融合酵素遺伝子を構築し、これを酵母内発現ベクターに導入し、発現プラスミドを構築した。
該発現プラスミドを導入した酵母菌株は、P-450とFptのキメラ融合酵素を産生し、1原子酸素添加活性を示した。その酸化活性は、P-450単独発現酵母菌株より高く、酸化反応プロセスなどへの有用性が高いことが判明した。また、取得したキメラ融合酵素は、単一分子で電子伝達と基質の酸化の両機能を有しており、すぐれた性質を有する従来にない新たな酵素である。」(第3頁左上欄第2行?第17行)
(エ)「この精製標品100μl(0.015nmol P-450-Fptキメラ融合酸化酵素相当分) に、100mMリン酸カリウム、pH7.4、10ml, 20mM NADPH 25μlを添加し、37度で3分間プレインキュベーションしたのち、500nmolの7-エトキシクマリンを添加し、5分間インキュベートした。15%トリクロロ酢酸62.5μlを添加することにより反応を停止し、反応生成物である7-ヒドロキシクマリンを定量した。その結果、7-エトキシクマリンO-脱エチル化活性は、1.2nmol/分/nmol P-450となり、ラットP-450MCとラットFpt0.015nmolずつからなる再構成系での活性と同様の値を示した。したがって、P-450-Fptキメラ融合酸化酵素標品では、分子内あるいは分子間で電子伝達が進行しており、単一酵素でP-450とFptの両酵素の機能を発揮することが明らかとなった。」(第8頁右下欄第17行?第9頁左上欄第13行)

また、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第91/3561号パンフレット(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(オ)「こうして、本発明の他の目的は、形質転換された生物(細菌および植物)においてP450酵素(必要に応じて、鉄硫黄タンパク質)の構成的または光誘導発現を可能とするプラスミド中に含まれる、除草剤を代謝するチトクロムP450の遺伝子(必要に応じて、その鉄硫黄タンパク質電子供与体の遺伝子)で、前記生物を形質転換することにより、前記生物において除草剤を代謝するチトクロムP450およびその鉄硫黄タンパク質電子供与体を誘導する必要性を不要にすることである。前記形質転換された生物は、除草剤に直面する際に、すぐれた除草剤および劣った除草剤の両者の除草剤を代謝することができる。」(第3頁第29行?第4頁第7行)
(カ)「P450SU1とFeS-BをコードするDNA配列を含むpCAO400、pCAO401、pCAO200SU1-FeS-B#9およびpPAT108から選択されるプラスミドで形質転換された細菌(好ましくはストレプトミセス属、最も好ましくはストレプトミセス・リビダンス)は、鉄硫黄タンパク質の還元酵素がこれらの細胞中に導入されていなくても、P450SU1を構成的に産生し、除草剤のスルホニル尿素化合物を代謝する。P450SU2と鉄硫黄タンパク賀FeS-AをコードするDNA配列を含むプラスミドpCAO200SU2-FeS-A#11またはpCS325で形質転換された細菌は、鉄硫黄タンパク質の還元酵素が加えられなくても、P450SU2を構成的に産生し、また、除草剤のスルホニル尿素化合物を代謝することができる。」(第5頁第28行?第6頁第8行)
(キ)「表16
A.チトクロムP450SU1を発現する植物
・・・・・・・・・・
B.チトクロムP450SU1およびFeS-Bを発現する植物
・・・・・・・・・・(表は省略)」(第107頁?第109頁)

3.対比
記載事項(ア)?(エ)から、引用文献1には、チトクロムP-450の有する1原子酸素添加活性とNADPH-チトクロムP-450還元酵素の有する還元力供給能を併せ持つ酸化酵素をコードするキメラ酵素遺伝子を含むプラスミドが記載されていると認められる。また、引用文献1には、該プラスミドを導入した酵母菌株が、P-450とFptのキメラ融合酵素を産生し、その酸化活性はP-450単独発現酵母菌株より高く、酸化反応プロセスなどへの有用性が高いこと(記載事項(ウ))、また、該プラスミドを導入した酵母菌株あるいは酵母菌体より取得したキメラ融合酵素が有害物質(7-エトキシクマリン)の酸化的除去に使用できること(記載事項(イ)、(エ))が記載されている。
引用文献1の「チトクロムP-450の有する1原子酸素添加活性とNADPH-チトクロムP-450還元酵素の有する還元力供給能を併せ持つ酸化酵素をコードするキメラ酵素遺伝子」は、本願発明の「チトクロムP450に由来する一原子酸素添加活性及びNADPH-P450還元酵素に由来するNADPHからの還元力供給活性を同一分子内に合わせ持つ融合酸化酵素をコードする遺伝子」に相当する。
そこで、本願発明と引用文献1に記載された発明を対比すると、両者は、チトクロムP450に由来する一原子酸素添加活性及びNADPH-P450還元酵素に由来するNADPHからの還元力供給活性を同一分子内に合わせ持つ融合酸化酵素をコードする遺伝子を含むプラスミドである点で一致し、本願発明のプラスミドは、融合酵素を植物細胞内で発現させるものであるのに対し、引用文献1には、融合酵素を酵母細胞内で発現させるものである点で相違する。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、チトクロムP450をコードする遺伝子、又はチトクロムP450をコードする遺伝子とその電子供与体である鉄硫黄タンパク質をコードする遺伝子を植物に導入して、該遺伝子を植物内で発現させたことが記載されており、また、前記遺伝子が植物内で発現したことにより、除草剤に対する代謝能力を植物に付与することができたことが記載されている(記載事項(オ)?(キ)、実施例19?24)。
よって、チトクロムP450又はチトクロムP450と鉄硫黄タンパク質に、植物において除草剤に対する代謝能力を付与できるという用途があることが引用文献2に記載されているので、引用文献1に記載されている融合酸化酵素を引用文献2に記載されている用途に用いることは当業者が容易に想到し得ることであり、そのために引用文献1に記載されている融合酸化酵素をコードする遺伝子を酵母発現用のプラスミドに代えて植物発現用のプラスミドに導入し、該融合酵素を植物細胞内で発現させるプラスミドを製造することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明の効果は、引用文献1及び2の記載から十分に予測できることであり、格別顕著なものとは認められない。

5.審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書(平成15年4月14日付け手続補正書(方式)提出)において、「引用例2では、植物に3蛋白質成分要求型の化合物解毒代謝能力を付与することのみが記載されているが、この能力は、引用例1及び本願の請求項1乃至9に係る発明における1蛋白質成分要求型の化合物解毒代謝能力とは全く異なるものであるからして、出願当時においてはいくら当業者といえども、引用例2に記載された発明と引用例1に記載された発明とを結び付けることには技術的な困難性が存在しており、本願の請求項1乃至9に係る発明を容易になし得ることでは決してありません。」と主張している。
しかし、記載事項(カ)、(キ)から明らかなように、引用文献2には、鉄硫黄タンパク質の還元酵素をコードする遺伝子を導入しなくてもいいことが記載されているから、審判請求人の上記主張は採用できない。

なお、チトクロムP450をコードする遺伝子を植物に導入して、該遺伝子を植物で発現させることは、引用文献2以外にも本願優先日前に公表されている文献が複数ある(必要があれば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,Vol.88,No.16(1991.Aug.15)p.7041-7045、Plant Physiol.,Vol.96,1Suppl.(1991.May)p.122、Plant Physiol.,Vol.96,1Suppl.(1991.May)p.161参照。)ので、チトクロムP450をコードする遺伝子を植物で発現させるという課題は、本願優先日前に周知の事柄であったものとも認められる。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-25 
結審通知日 2008-02-26 
審決日 2008-03-11 
出願番号 特願平5-138392
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
高堀 栄二
発明の名称 融合酵素産生植物  
代理人 榎本 雅之  
代理人 中山 亨  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ