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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C |
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管理番号 | 1176685 |
審判番号 | 不服2006-3812 |
総通号数 | 102 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-06-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-03-02 |
確定日 | 2008-04-24 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第173582号「過給機」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月20日出願公開、特開平10- 19045〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明 本願は、平成8年7月3日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年12月28日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 高速回転での使用に好適な深溝型玉軸受を、タービン軸のタービン側端部およびコンプレッサ側端部にそれぞれ装着され、予圧が付与されて玉が軌道輪に対して斜接する形態に設定されている過給機であって、 前記深溝型玉軸受は、周面に軌道溝を有する軌道輪のうち外輪の肩部に玉の引っ掛かり代を残す状態でカウンタボアが設けられ、前記外輪においてカウンタボアを設けていない側の領域に玉を斜接させた形態で使用され、かつ、玉が冠形保持器により保持されるとともに、 前記冠形保持器は、環状本体部と、環状本体部の円周数箇所から軸方向一側へ突出する複数突片とで形成されるとともに、周方向で隣り合う各突片間に設けられる玉収容用のポケットを備え、 前記軌道輪の内輪及び外輪の軌道溝をカウンタボア側に偏らせて形成しており、 前記保持器の環状本体部を前記外輪の幅広側の肩部で案内し、 前記外輪がコイルバネによって軸方向に互いに引き離される向きに弾性付勢されることによって、定圧予圧が付与され、 接触角が15°±5°になるように深溝型玉軸受のラジアル隙間が管理される、ことを特徴とする過給機。」 ここで、上記「前記軌道輪の内輪及び外輪の軌道溝をカウンタボア側に偏らせて形成しており、」における「カウンタボア側」は、特許請求の範囲では「反カウンタボア側」とされているが、願書に最初に添付した明細書及び図面並びに平成19年12月28日付け意見書の記載からみて「カウンタボア側」の誤記と認められるので、上記のように認定した。 2.刊行物に記載された発明 (刊行物1) 当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願平4-86817号(実開平6-32740号)のCD-ROM(以下、「刊行物1」という。)には、「ターボチャージャー用玉軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「【請求項1】 内径面に外輪軌道を有し、ハウジングの内側に支持される外輪と、外径面に内輪軌道を有し、インペラとタービンとを接続する回転軸の中間部外径面に外嵌固定される内輪と、上記外輪軌道と上記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、この複数個の玉と同数のポケットを有し、各ポケットの内側に上記玉を1個ずつ転動自在に保持する保持器とを備えたターボチャージャー用玉軸受に於いて、・・・・・」(実用新案登録請求の範囲参照) (イ)「【従来の技術】 エンジンの出力を排気量を変えずに増大させる為、エンジンに送り込む空気を排気のエネルギにより圧縮するターボチャージャーが、広く使用されている。排気のエネルギは、排気通路の途中に設けたタービンにより回収され、このタービンをその一端に固定した回転軸を介して、給気通路の途中に設けたコンプレッサのインペラに伝えられ、このインペラを回転させる。このインペラは、エンジンの運転に伴なって数万乃至は十数万r.p.m.の速度で回転し、上記給気通路を通じてエンジンに送り込まれる空気を圧縮する。 ところで、上述の様なターボチャージャーのレスポンス(アクセル操作に対する追従性)を向上させる為、上記回転軸を転がり軸受により支承する事が、近年広く行なわれる様になっている。図1は、この様な回転軸の支持部の構造の1例を示している。 ・・・・・12は背面組み合わせされた1対のアンギュラ型の玉軸受4、4に予圧を付与する為の圧縮ばねである。」(段落【0002】?【0005】参照) (ウ)「図2に示した3種類の玉軸受の内、(A)は外輪軌道5が深溝型で内輪軌道7が片側のみ開いたもの、(B)は外輪軌道5及び内輪軌道7がそれぞれ反対側に開いたもの、(C)は内輪軌道7が深溝型で外輪軌道5が片側のみ開いたものである。但し、何れの構造の場合も、玉9は外輪軌道5及び内輪軌道7に、接触角を持って接触しており、ターボチャージャーを構成する回転軸3(図1参照)の外周面とハウジング1に支持されたアウタースペーサ2、2の内周面(図1参照)との間への組み付け時には、アンギュラ型として使用される。」(段落【0027】参照) 以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 (引用発明) タービンとコンプレッサとの間に介在する回転軸を1対の玉軸受により支承し、玉軸受に予圧が付与されて、玉が外輪軌道及び内輪軌道に斜接して接触角を持って接触しており、玉軸受は外輪軌道が片側に開いたものであり、外輪軌道の開いていない側に玉を斜接させ、玉が保持器のポケットにより保持され、1対の玉軸受の外輪が圧縮ばねによって軸方向に互いに引き離される向きに弾性付勢されることによって、予圧が付与される、ターボチャージャー用玉軸受。 (刊行物2) 当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願平4-13666号(実開平5-66327号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)には、「並列組合形複列アンギュラ玉軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 (エ)「【請求項1】 一体の内輪の外周面に二列の軌道溝を設け、一体の外輪の内周面に前記軌道溝に対応する軌道溝を設け、かつ前記二列の軌道溝にそれぞれ多数の玉とこれを軌道溝上に等配する保持器とを介装し、さらに、外輪の一側端面側及び前記側面端と反対側の内輪の側端面側のみに、それぞれカウンタボアと肩おとし部を形成し、該カウンタボアと肩おとし部にはともに適切な量のボールとの干渉量をもたせたことを特徴とする並列組合形複列アンギュラ玉軸受。」(実用新案登録請求の範囲参照) (刊行物3) 当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭55-20906号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「保持器付き玉軸受」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 (オ)「玉3を保持案内するポケット5を区分する柱6,6・・・と前記柱6,6・・・をつなぐ環状部分7とを有し,かつ軌道輪案内されるプラスチック製の冠形保持器4を有する保持器付き玉軸受において,・・・」(特許請求の範囲参照) (刊行物4) 当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-121486号公報(以下、「刊行物4」という。)には、「冠形保持器」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。 (カ)「図中、10は深溝型玉軸受、11は内輪、12は外輪、13は玉、14は冠形保持器、15は密封装置としてのシールド板である。ここでの深溝型玉軸受10は、冠形保持器14を内輪11の外周面により案内する形式になっている。」(段落【0018】参照) (キ)「冠形保持器14は、グラファイトで形成されており、保持器本体16において軸方向一端(図の左端)寄りへ偏った位置で円周数箇所に径方向に貫通する玉収容用のポケット17を有し、このポケット17は軸方向一端(図の左側)へ向けて切り欠かれて開放されているとともに、切欠部18の開口幅Aは玉径Bの97?99%に設定されている。ポケット17の端縁から軸方向他端縁までの軸方向幅Cは、切欠部18からの玉3の無理嵌めに対して破損しないだけの強度を有するように長く設定されている。但し、軸方向幅Cは、肉厚との関係も考慮して適宜設定される。」(段落【0020】参照) (ク)「また、冠形保持器14を外輪案内形式とする場合には、冠形保持器14の外周面に前述の円筒形や円錐形の拡径部19を設けるようにすればよい。」(段落【0026】参照) 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能に照らして、引用発明の「圧縮ばね」は本願補正発明の「コイルバネ」に相当し、同様に「ターボチャージャー」は「過給機」に相当する。 また、上記摘記事項(ウ)の記載及び図2の記載からみて、3種類の玉軸受(A)、(B)、(C)はいずれも組み付け時にはアンギュラ型として使用されるものの、元来深溝型である玉軸受の外輪軌道及び内輪軌道を片側あるいは両側に開いて、高速回転されるターボチャージャー用の玉軸受としたものであることが理解できる。そうすると、引用発明の外輪軌道が片側に開いた玉軸受(玉軸受(B)、(C))も、本願発明と同様高速回転での使用に好適な深溝型玉軸受であって、周面に軌道溝を有する軌道輪のうち少なくとも外輪の肩部にカウンタボアが設けられたものに相当する。 そして、引用発明の圧縮ばねも定圧の予圧を付与するものである。 また、引用発明も全体を過給機として表現することができる。 したがって、本願発明の用語を用いて記載すれば、本願発明と引用発明は下記の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 高速回転での使用に好適な深溝型玉軸受を、タービン軸のタービン側およびコンプレッサ側にそれぞれ装着され、予圧が付与されて玉が軌道輪に対して斜接する形態に設定されている過給機であって、 前記深溝型玉軸受は、周面に軌道溝を有する軌道輪のうち外輪の肩部にカウンタボアが設けられ、前記外輪においてカウンタボアを設けていない側の領域に玉を斜接させた形態で使用され、かつ、玉が保持器により保持されるとともに、 前記保持器は、玉収容用のポケットとを備え、 前記外輪がコイルバネによって軸方向に互いに引き離される向きに弾性付勢されることによって、定圧予圧が付与され、 接触角を有している過給機。 (相違点1) 本願発明においては、深溝型玉軸受を、「タービン軸のタービン側端部およびコンプレッサ側端部」にそれぞれ装着しているが、引用発明においては、タービン軸のタービン側およびコンプレッサ側にそれぞれ装着しているものの、「端部」とは限定していない点。 (相違点2) 本願発明においては、深溝型玉軸受に「玉の引っ掛かり代を残す状態で」カウンタボアが設けられているのに対し、引用発明においては、そのような構成を備えていない点。 (相違点3) 本願発明においては、保持器が、「冠形」保持器であって、その玉収容用のポケットが、「環状本体部と、環状本体部の円周数箇所から軸方向一側へ突出する複数突片とで形成されるとともに、周方向で隣り合う各突片間に設けられる」のに対し、引用発明においては、そのような構成を備えていない点。 (相違点4) 本願発明においては、「軌道輪の内輪及び外輪の軌道溝をカウンタボア側に偏らせて形成しており、保持器の環状本体部を前記外輪の幅広側の肩部で案内し」ているのに対し、引用発明においてはそのような構成を備えていない点。 (相違点5) 本願発明においては、「接触角が15°±5°になるように深溝型玉軸受のラジアル隙間が管理される」のに対し、引用発明においては、接触角は有しているものの、その他の構成を備えているかどうか明らかでない点。 以下、上記相違点について検討する。 (相違点1について) 深溝型玉軸受を、タービン軸のタービン側およびコンプレッサ側にそれぞれ装着する際に、その「端部」に設けることは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。したがって、引用発明に基づいて相違点1に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。 (相違点2について) 刊行物2には、カウンタボアと肩おとし部に適切な量のボールとの干渉量をもたせた点が記載されており、この構成は「玉の引っ掛かり代を残す状態で」カウンタボアが設けられたものに相当する。ここで刊行物2に記載された発明はアンギュラ玉軸受に関するものであるが、引用発明も組み付け時にはアンギュラ型として使用されるものであるから、刊行物2に記載された発明を適用する上で格別の困難性はない。 したがって、引用発明に刊行物2に記載された発明を適用して相違点2に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。 (相違点3について) 刊行物3及び刊行物4には、上記摘記事項及び各図面からみて、深溝型玉軸受において、保持器が、「冠形」保持器であって、その玉収容用のポケットが、「環状本体部と、環状本体部の円周数箇所から軸方向一側へ突出する複数突片とで形成されるとともに、周方向で隣り合う各突片間に設けられる」点が記載されている。そして、共に深溝型玉軸受に関するものである、刊行物3又は刊行物4に記載された発明を引用発明に適用する点に格別の困難性はない。 したがって、引用発明に刊行物3又は刊行物4に記載された発明を適用して、相違点3に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。 (相違点4について) 刊行物4には、上記摘記事項及び各図面からみて、「軌道輪の内輪及び外輪の軌道溝を偏らせて形成しており、保持器の環状本体部を前記外輪の幅広側の肩部で案内」する点が記載又は示唆されている。そして、引用発明に刊行物4に記載された発明を適用する点に格別の困難性はないことは上記したとおりであり、また、刊行物4に記載された発明が「保持器の環状本体部を外輪の幅広側の肩部で案内」するものである以上、該適用によって、引用発明の保持器案内部となる外輪の反カウンタボア側が幅広側となり、軌道溝はカウンタボア側に偏らせて形成されることになるのは当然の結果である。 したがって、引用発明に刊行物4に記載された発明を適用して、相違点4に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。 (相違点5について) 引用発明のものも、上記したとおり、外輪がコイルバネによって軸方向に互いに引き離される向きに弾性付勢されることによって、定圧予圧が付与されるもので、接触角を有しているものである。そして、接触角を有するためには深溝型玉軸受のラジアル隙間が必要であり、ラジアル隙間の大きさによって接触角が定まることは当業者とって自明の事項である。そうすると、「所定の接触角となるように深溝型玉軸受のラジアル隙間が管理される」とする点は引用発明に基づいて当業者が容易に想到できたことである。 次に、接触角の具体的数値について本願の明細書には、「このときの玉3の接触角は、ラジアル隙間により管理することができるが、例えば15゜±5゜に設定される。」(段落【0019】参照)、「このときの玉3の接触角は、例えば15゜±5゜となるようにラジアル隙間が管理されている。」(段落【0022】参照)と記載されているのみであり、この数値が単なる例示であることを示している。 そうすると、接触角の具体的数値として15°±5°と限定した点は、実用化に際し当業者が適宜なし得る数値の好適化にすぎないものである。 以上の点からみて、引用発明に基づいて相違点5に係る本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。 また、本願発明の効果を検討しても、引用発明、刊行物2?4に記載された発明から、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものとはいえない。 なお、請求人は平成19年12月28日付け意見書において、「引用文献1?4に記載の発明においては、過給機のタービン軸を支持する玉軸受を玉が軌道輪に予圧を付与して斜接する玉軸受とし、その玉軸受の冠形保持器の環状本体部を適切に外輪にて案内できる幅を十分確保できるよう、外輪においてカウンタボアが設けられていない側の内周面の軸方向幅を幅広くするとともに、逆にカウンタボア側の軸方向幅を幅狭くして遠心力により保持器の突片が外輪内周面に接触しにくいものとするという本願発明の技術思想が全く開示されていない」等主張している。 しかしながら、「過給機のタービン軸を支持する玉軸受を玉が軌道輪に予圧を付与して斜接する玉軸受とし」た点は引用発明も具備していること、引用発明に刊行物4に記載された発明を適用すれば当然の結果として「外輪においてカウンタボアが設けられていない側の内周面の軸方向幅を幅広くする」こととなること(同時にカウンタボア側の軸方向幅は幅狭くなる)、該適用に格別の困難性はないことは上記したとおりであって、引用発明及び刊行物4に記載された発明に基づいて上記主張の構成とすることは当業者が容易に想到できたことであるから、請求人の上記主張は採用できない。 4.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-02-21 |
結審通知日 | 2008-02-26 |
審決日 | 2008-03-10 |
出願番号 | 特願平8-173582 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 矢澤 周一郎、鳥居 稔、冨岡 和人、原 泰造 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
常盤 務 水野 治彦 |
発明の名称 | 過給機 |
代理人 | 岡田 和秀 |