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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1176701
審判番号 不服2006-25017  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-02 
確定日 2008-04-24 
事件の表示 特願2002-151258「弁装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 3日出願公開、特開2003-343756〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年5月24日の出願であって、平成18年9月29日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月2日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、同年12月4日付で手続補正書が提出されたものである。

2.平成18年12月4日付手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「流体をノズルから吐出させる流体吐出ヘッドに連通し前記流体が移動する流路内に配置される弁部材と、
前記流路内に配置され前記弁部材との相対距離を変更することにより前記流路を開閉する磁性体からなり且つ弾性変形可能な開閉部材と、
前記流路外に配置されるとともに前記開閉部材を磁力により所定の吸引位置にて吸引する磁石と、
前記磁石を前記吸引位置から離間させる又は該吸引位置に接近させる磁石移動手段と、
前記吸引位置において、前記磁石と前記開閉部材との間に介在し、前記流路を封止するとともに前記流路を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形するフィルム材とを備えたことを特徴とする弁装置。」
と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「流体が移動する流路」を「流体をノズルから吐出させる流体吐出ヘッドに連通し前記流体が移動する流路」に、「磁性体からなる開閉部材」を「磁性体からなり且つ弾性変形可能な開閉部材」に、「流路を封止するフィルム材」を「流路を封止するとともに前記流路を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形するフィルム材」に限定するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-304452号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

・「【0015】図1は、本例の磁気作動弁1を備えた給水装置100を示す側面断面図である。
【0016】当該給水装置100は、流体たる水200を定期的に放出するものであり、例えば、放出した水200を、鉢植え等の植物に与えるものである。
【0017】すなわち、給水装置100は、容器300の上部に蓄えた水200が、容器300の下部に設けた磁気作動弁1を介して、外部に流れ落ちるように構成している。図1中の白矢印は、水200の流れ方向を示す。
【0018】磁気作動弁1は、図2乃至図4に示すように、水200を流通する流路10と、流路10に設けられた弁体20と、弁体20に設けられた第1磁石30と、弁体20外部に設けられた第2磁石40と、第2磁石40を一定の周期で回転する回転手段50とを備え、弁体20を磁気の力で作動することにより、水200の流れを制御するように構成している。尚、後述する他の具体例においては、第2磁石40を回転する回転手段50を、第1回転手段と称する。
【0019】流路10は、水200を導入する管体60、及び水200を排出する管体70を連結した樹脂製の部材にて構成している。
【0020】弁体20は、可撓性を有する板状の部材からなり、流路10の壁面にその基端をねじ止めして設けている。また、弁体20の先端にはゴム体21(本例ではゲル状エラストマー)を設けており、このゴム体21は、弁体20の作動に伴い、流路10の壁面に形成された弁座11に対して離合する。
【0021】ゴム体21が弁座11に当接すると、水の流れは遮断される。つまり、かかる磁気作動弁1は、弁体20を作動して流路10を開閉し、水200の流れを解放及び遮断するものである。
【0022】第1磁石30及び第2磁石40は、それぞれ所定の方向に磁化された永久磁石である。
【0023】第2磁石40は、回転手段50により一定の周期で回転し、第1磁石30に対して接近及び離反する。」

・「【0035】また、第1磁石30と第2磁石40とは、互いに吸引又は反発すればよいことから、それらの一方は、常磁性体や反磁性体に置きかえることも可能である。そのような磁性体としては、例えば鉄やニッケル等の強磁性体を使用する。
【0036】以上説明したように、本例の磁気作動弁によると、弁体及び弁体外部のいずれか一方に設けられた磁石と、弁体及び弁体外部のいずれか他方に設けられた磁石又は磁性体と、弁体外部に設けられた磁石又は磁性体を一定の周期で回転する回転手段とを備え、弁体は、一方の磁石と、他方の磁石又は磁性体とにおける磁気の力で作動するので、弁体を効率よく作動することができる。
【0037】すなわち、当該磁気作動弁における一方の磁石と、他方の磁石又は磁性体とは、回転手段の周期に従って接近及び離反し、弁体は、それらが互いに接近して吸引又は反発することにより、作動する。その結果、流体の流れは、所定の時間間隔で定期的に制御することができる。」

・また、図2及び3には、流路10外に配置されるとともに弁体20を磁力により所定の吸引位置にて吸引する磁石40の配置構成、及び、磁石40と磁石30との間に介在し、流路10を封止する薄板状部材を備えた構成が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「水200を流通する流路10の壁面に形成された弁座11と、
前記流路10内に配置され前記弁座11に対して離合することにより前記流路10を開閉する磁性体が設けられ可撓性を有する弁体20と、
前記流路10外に配置されるとともに前記弁体20を磁力により所定の吸引位置にて吸引する磁石40と、
前記磁石40を前記吸引位置に接近及び離反させる回転手段50と、
前記吸引位置において、前記磁石40と前記弁体20との間に介在し、流路10を封止する薄板状部材とを備えた磁気作動弁1。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能・作用からみて、後者の「水200を流通する流路10の壁面に形成された弁座11」は前者の「流体が移動する流路内に配置される弁部材」に相当し、以下同様に、「弁座11に対して離合する」は「弁部材との相対距離を変更する」に、「弁体20」は「開閉部材」に、「磁石40を吸引位置に接近及び離反させる回転手段50」は「磁石を吸引位置から離間させる又は該吸引位置に接近させる磁石移動手段」に、「磁気作動弁1」は「弁装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「磁性体が設けられ可撓性を有する弁体20」と本願補正発明の「磁性体からなり且つ弾性変形可能な開閉部材」とは「磁性体を有し且つ弾性変形可能な開閉部材」との概念で共通し、さらに、引用発明の「流路10を封止する薄板状部材」と本願補正発明の「流路を封止するとともに前記流路を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形するフィルム材」とは「流路を封止する薄部材」との概念で共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「流体が移動する流路内に配置される弁部材と、
前記流路内に配置され前記弁部材との相対距離を変更することにより前記流路を開閉する磁性体を有し且つ弾性変形可能な開閉部材と、
前記流路外に配置されるとともに前記開閉部材を磁力により所定の吸引位置にて吸引する磁石と、
前記磁石を前記吸引位置から離間させる又は該吸引位置に接近させる磁石移動手段と、
前記吸引位置において、前記磁石と前記開閉部材との間に介在し、前記流路を封止する薄部材とを備えた弁装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
「流路」に関し、本願補正発明が、「流体をノズルから吐出させる流体吐出ヘッドに連通し」た構成としているのに対し、引用発明は、かかる構成が明確にされていない点。
[相違点2]
「磁性体を有し」た弾性変形可能な開閉部材に関し、本願補正発明は、「磁性体からなり」としているところから、開閉部材自身が磁性体で製作されているものと解されるのに対し、引用発明は、「磁性体が設けられ」としているところから、開閉部材の一部に磁性体を有しているにすぎない点。
[相違点3]
流路を封止する「薄部材」に関し、本願補正発明は、「流路を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形するフィルム材」であるのに対し、引用発明は、単なる「薄板状部材」である点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
例えば、特開2001-212975号公報(【0047】の「各サブタンク7からはバルブ35およびこれに接続されたチューブ36を介して記録ヘッド6に対してインクが供給されるように構成されており・・・記録ヘッド6のノズル形成面に形成されたノズル開口6aより、インク滴が吐出されるように作用する。」なる記載及び図2参照。)にもみられるように、流路(「チューブ36」が相当)が、流体(「インク液」が相当)をノズル(「ノズル開口6a」が相当)から吐出させる流体吐出ヘッド(「記録ヘッド6」が相当)に連通した構成は、流体を扱う装置における通常の使用形態にすぎない。
そうすると、引用発明における弁装置の流路に対し、上記通常の使用形態を採用することで、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

・相違点2について
例えば、特開2002-125493号公報(板バネ状の磁性体で形成された開閉弁8を参照)や特開昭54-61321号公報(磁性体よりなる舌状ばね弁体13を参照)にもみられるように、弾性変形可能な開閉部材(「開閉弁8」や「弁体13」が相当)自身を磁性体で製作することは、磁力で操作する弁装置の分野における周知慣用手段である。
そうすると、引用発明において、上記周知慣用手段を適用することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点3について
一般に、流体を扱う装置において、例えば、圧力変動があるとノズル等から吐出する流体が安定しない恐れがあるため、圧力変動の抑制は当然に要求されるべき課題である。
ところで、例えば、特開2002-19109号公報(【0038】の「インク供給部上部材15の共通インク流路12に対向する位置には、開口部17が形成されており、当該開口部17部分でダンパーフィルム14が弾性変形して、共通インク流路12内のインクの圧力変化を吸収する。」なる記載及び図1参照)や特開2001-10048号公報(【0016】の「圧力室12は、圧力室板10上に形成された凹状の溝と弾性変形可能な樹脂フィルム40により略直方体の空間として形成されている。」なる記載、【0017】の「共通インク室16は、各圧力室12にインク供給路14を介してインクを供給する。共通インク室16は、圧力室12の急激な内部圧力変動を吸収するように底面は樹脂フィルム40で画定されており、圧力室板10の側面10bにおいて図示しないインク供給装置に接続されている。」なる記載及び図1?3参照)にもみられるように、流路の開口部を、変形し得るフィルム材(「ダンパーフィルム14」や「樹脂フィルム40」が相当)で封止することにより、該流路内の圧力変動を吸収することは、弁装置の分野における周知技術である。
また、封止したフィルム材で流路内の圧力変動が吸収されるメカニズムを考察すると、圧力が低くなると流路を収縮させ、圧力が高くなると流路を膨張させることによって、圧力変動が吸収されることが明らかである。
そうすると、引用発明において、圧力変動の抑制という課題の下で、上記周知技術を適用することによって、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願補正発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明、上記周知慣用手段及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、上記周知慣用手段及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願の発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年5月26日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「流体が移動する流路内に配置される弁部材と、
前記流路内に配置され前記弁部材との相対距離を変更することにより前記流路を開閉する磁性体からなる開閉部材と、
前記流路外に配置されるとともに前記開閉部材を磁力により所定の吸引位置にて吸引する磁石と、
前記磁石を前記吸引位置から離間させる又は該吸引位置に接近させる磁石移動手段と、
前記吸引位置において、前記磁石と前記開閉部材との間に介在し、前記流路を封止するフィルム材と
を備えたことを特徴とする弁装置。」

(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.(1)」で検討した本願補正発明の「流体が移動する流路」について「流体をノズルから吐出させる流体吐出ヘッドに連通し」との限定を省き、「磁性体からなる開閉部材」について「弾性変形可能な」との限定を省き、さらに、「流路を封止するフィルム材」について「流路を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形する」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明を特定する事項の全てを含み、さらに、該事項を特定したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、上記周知慣用手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、上記周知慣用手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-22 
結審通知日 2008-02-26 
審決日 2008-03-10 
出願番号 特願2002-151258(P2002-151258)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16K)
P 1 8・ 121- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 米山 毅
谷口 耕之助
発明の名称 弁装置  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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