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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B44C
管理番号 1176811
審判番号 不服2005-1418  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-24 
確定日 2008-04-09 
事件の表示 平成 7年特許願第518560号「図形転写物品」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 7月13日国際公開、WO95/18720、平成 9年 9月22日国内公表、特表平 9-509373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1995年1月6日(パリ条約による優先権主張 1994年1月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年2月23日付け、平成18年10月25日付け及び平成19年10月24日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲には、次のように記載されている。
「【請求項1】(i)最内側表面及び最外側表面を有する多層保護層、及び
(ii)前記保護層の最外側表面上に積層されたプレマスク層から実質的になり、
(A)前記保護層が、熱可塑性であって、大気条件下において、硬質、非結着性固体フィルムを形成し、かつ前記プレマスク層に積層されている硬質被覆表面層と、この硬質被覆表面層に接触している軟質被覆表面層とを含み、前記軟質被覆表面層は、前記図形転写物品が図形受容体と組み合わされて用いられたとき、前記図形受容体に積層されるものであり、
(B)前記プレマスク層は、ASTM D822に従って測定された68.95?13789.51MPa(10,000?2,000,000psi)の弾性率を有し、
(C)前記プレマスク層と前記硬質被覆表面層との間の接着強度は、ASTM M1000に従って測定された19.7?275.6g/cm幅(50?700g/インチ幅)であり、そして
(D)(i)前記図形転写物品の前記硬質被覆表面層と、前記プレマスク層との間の接着強度と、
(ii)前記軟質被覆表面層と前記図形受容体との間の接着強度との関係が、大気条件下において前記図形転写物品から前記プレマスク層を離層するとき、前記保護層が無傷のまま、前記図形受容体に結着されたまま保持されるような関係である、
図形転写物品。」
上記(A)には、「前記図形転写物品」と記載されているところ、この文言以前に「図形転写物品」の記載はないが、明細書及び図面の記載からみて、「図形転写物品」とは「(i)最内側表面及び最外側表面を有する多層保護層、及び(ii)前記保護層の最外側表面上に積層されたプレマスク層」から実質的になるものを意味しているものと認められる。

したがって、本願の請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。
「(i)最内側表面及び最外側表面を有する多層保護層、及び
(ii)前記保護層の最外側表面上に積層されたプレマスク層から実質的になる図形転写物品であって、
(A)前記保護層が、熱可塑性であって、大気条件下において、硬質、非結着性固体フィルムを形成し、かつ前記プレマスク層に積層されている硬質被覆表面層と、この硬質被覆表面層に接触している軟質被覆表面層とを含み、前記軟質被覆表面層は、前記図形転写物品が図形受容体と組み合わされて用いられたとき、前記図形受容体に積層されるものであり、
(B)前記プレマスク層は、ASTM D822に従って測定された68.95?13789.51MPa(10,000?2,000,000psi)の弾性率を有し、
(C)前記プレマスク層と前記硬質被覆表面層との間の接着強度は、ASTM M1000に従って測定された19.7?275.6g/cm幅(50?700g/インチ幅)であり、そして
(D)(i)前記図形転写物品の前記硬質被覆表面層と、前記プレマスク層との間の接着強度と、
(ii)前記軟質被覆表面層と前記図形受容体との間の接着強度との関係が、大気条件下において前記図形転写物品から前記プレマスク層を離層するとき、前記保護層が無傷のまま、前記図形受容体に結着されたまま保持されるような関係である、
図形転写物品。」(以下、「本願発明」という。)

2.刊行物に記載された事項
(1)当審における平成19年4月17日付けの拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開昭57-41989号公報(以下、「刊行物1」という)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1a)「剥離シートの一表面に、保護膜が形成され、該保護膜の上に転写用接着剤層が形成され、さらに該転写用接着剤層の上に文字が印字されたことを特徴とする後印字を施した熱転写シート。」(特許請求の範囲第1項)、
(1b)「剥離シート(1)としては、耐熱性を有する柔軟で強靱な紙、または加工紙類、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の如き合成樹脂のシートまたはフィルム等を使用することができる。なお、それ自身では離型性が少ないシート(またはフィルム)を剥離シート(1)とするには、前記のシート(またはフィルム)の表面に適宜剥離処理を施して、シート(またはフィルム)と保護膜(2)間に剥離層を設け得るようにしてもよく、またシート(またはフィルム)の表面に離型性フィルムをラミネートしたものを用いてもよい。」(2頁左上欄20行?右上欄11行)
(1c)「保護膜(2)は、天然または合成樹脂、あるいはそれらの変性物を主成分とする組成物を、公知の塗布または印刷方法にて薄く塗布または印刷し、乾燥させて形成する。なお、前記の樹脂またはその組成物としては、転写後転写マークの表面を形成し、印字された文字(5)および印刷膜(3)を被覆するものとなるので、耐候性、耐摩耗性、可撓性を有し、・・・有するものを使用することが望ましい。」(2頁右上欄12行?20行)、
(1d)「転写用接着剤層(4)は、熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト型の合成樹脂系接着剤を、塗布または印刷することによって形成される。」(2頁左上欄10行?13行)
(1e)「文字(6)は、本転写マークの裏面側となる転写用接着剤層(4)に・・・印字されたものであり、後述するように本転写マークを加熱して被転写材(B)に転写すれば、第4図に示すように本転写マークの表面側となる保護層(2)を通して見ると正常な文字となるように印字されている。」(2頁左下欄20行?右下欄7行)、
(1f)「以上の構成からなる熱転写シート(A)を用いて転写する方法の一例について説明すると、第5図に示すように、被転写材(B)の表面に、本熱転写シート(A)の転写用接着剤層(4)が当接するように重合させ、次に加熱プレスシート(7)、加熱ロール等を使用して本熱転写シート(A)または(および)被転写材(B)を加熱加圧し、剥離シート(1)を保護膜から引き剥がすことによって、被転写材(B)に転写用接着剤層(4)により硬化一体化されて転写される。」(2頁右下欄10行?19行)。

(2)同じく特開昭63-93371号公報(以下、「刊行物2」という)には、次の事項が記載されている。
(2a)「(1)図形複合体であって、
イ)担体フィルム;
ロ)前記担体フィルムの上面に接着する図形構図;
ハ)前記図形構図を被覆する保護被覆;
ニ)前記保護被覆上の熱的に非粘着化するプレマスク接着剤層;及び
ホ)前記プレマスク接着剤層に接着するプレマスク担体ウェブ;
を含み、ここに前記図形複合体を高温にさらすと前記プレマスク接着剤層は大幅に粘着性が減じて、前記プレマスク担体ウェブ及び前記プレマスク接着剤層が前記保護被覆から容易に剥げるものである、図形複合体。」(特許請求の範囲)、
(2b)「保護被覆20は図形18及び担体フィルム16の上に載る。保護被覆20は典型的には透明であるが、所望により染料、金属薄片又は他の添加物を含ませてもよい。保護被覆20は図形が意図した使用となるように保護するのに適した適当な材料からなる。典型的材料には、アクリル、ビニル、ウレタン、エポキサイド、スチレンポリマー、ポリ弗化ビニリデン、ポリエステル、イオノマー及びアクリレート及びこれらの混合物がある。」(3頁右下欄9行?17行)
(2c)例1-20には、プレマスク接着剤層の接着力を表すカイル値は、焼付前は300?600g/インチ、150度で10分間の焼付サイクル後は75?300g/インチであったこと(5頁)。

3.対比、判断
記載事項(1a)ないし(1f)によれば、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「剥離シートの一表面に、保護膜が積層され、該保護膜の上に転写用接着剤層が形成され、さらに該転写用接着剤層の上に文字が印字された熱転写シートであって、
該保護層は、天然または合成樹脂、あるいはそれらの変性物を主成分とする組成物であって、耐候性、耐摩耗性、可撓性を有するものであり、
被転写材の表面に、本熱転写シートの転写用接着剤層が当接するように重合させ、次に本熱転写シートまたは(および)被転写材(B)を加熱加圧し、剥離シートを保護膜から引き剥がすことによって、被転写材(B)に転写用接着剤層により硬化一体化されて転写される熱転写シート。」

本願発明と刊行物1に記載された発明を対比する。
ア.刊行物1に記載された発明において、「剥離シート」、「転写用接着剤層」、「被転写材(B)」、「熱転写シート」は、本願発明の「プレマスク層」、「軟質被覆表面層」、「図形受容体」、「図形転写物品」に相当する。
イ.刊行物1に記載された発明において「転写用接着剤層」と「保護膜」を積層したものは、本願発明の「最内側表面及び最外側表面を有する多層保護層」に相当する。
ウ.刊行物1に記載された発明の「保護膜」は耐摩耗性のものであるから、本願発明の「硬質被覆表面層」に相当し、大気条件下で硬質の固体フィルムを形成していることは明らかである。
エ.刊行物1に記載された発明において、「熱転写シート」と「被転写材(B)」を重ね合わせ加熱した後、「剥離シート」を剥離する際、保護層が「被転写材(B)」に保持されたままであることは明らかである。
オ.本願発明の「図形転写物品」は、転写される図形を担持して図形受容体と組み合わされるものであるから、多層保護層及びプレマスク層から「実質的になる」とは、図形以外の層構成を意味していることは明らかであるところ、刊行物1記載の発明は、軟質被覆表面層(転写用接着剤層)と硬質被覆表面層(保護膜)からなる多層保護層及びプレマスク層(剥離シート)を積層し、軟質被覆表面層に文字が印字されたものであるから、多層保護層及びプレマスク層から「実質的になる」といえる。

したがって、両者は、
「最内側表面及び最外側表面を有する多層保護層、及び
前記保護層の最外側表面上に積層されたプレマスク層から実質的になる図形転写物品であって、
前記保護層は、大気条件下で硬質の固体フィルムを形成し、かつ前記プレマスク層に積層されている硬質被覆表面層と、この硬質被覆表面に接触している軟質被覆表面層とを含み、前記軟質被覆表面層は、前記図形転写物品が図形受容体と組み合わされて用いられたとき、前記固形受容体に積層されるものであり、
プレマスク層と前記硬質被覆表面層との間の接着強度と、前記軟質被覆表面層と受容体との間の接着強度との関係が、大気条件下において前記図形転写物品から、前記プレマスク層を離層するときに、前記保護層が無傷のまま前記受容体に結着されたまま保持されるような関係である、図形転写物品。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:硬質被覆表面層が、本願発明では、熱可塑性であり、大気条件下において非結着性であるのに対し、刊行物1記載の発明では、硬質被覆表面層がこのようなものに限定されていない点。
相違点2:本願発明は、プレマスク層がASTM D822により測定された68.95?13789.51MPa(10,000?2,000,000psi)の弾性率を有し、前記プレマスク層と前記硬質被覆表面層との間の、ASTM M1000により測定された接着強度が19.7?275.6g/cm幅(50?700g/インチ)であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、プレマスク層の弾性率、プレマスク層と硬質被覆表面層との間の接着強度が不明な点。

まず、相違点1について検討する。
刊行物2には、刊行物1に記載された発明と同様に、プレマスク層と図形保護層(刊行物2においては「保護被覆」)とを積層し、図形保護層により図形構図を被覆する図形転写物品において、図形構図を被覆する保護被覆としてアクリル、ビニル、アクリレート等の熱可塑性合成樹脂が例示されており、刊行物1記載の発明において、図形を被覆保護する硬質被覆表面層を、熱可塑性合成樹脂で構成することは当業者が適宜選択しうる程度のことである。
また、本願発明の「非結着性」がどのようなものか明細書に記載はないが、明細書全体の記載からみて「非粘着性」であることを意味すると解されるところ、刊行物1記載の発明の硬質被覆表面層は、軟質被覆表面層(軟質接着剤層)を介して図形受容体に接着されるものであるから、それ自体は粘着性であることを要しないものであり、硬質被覆表面層を「非結着性」の材料で形成することも当業者が適宜なしうることである。

次に相違点2について検討する。
まず、プレマスク層の弾性率について検討すると、本願発明において、弾性率を68.95?13789.51MPaとしたのは、適度な伸長性を有し、図形画像を適切に補張し受容体の形状に適合するとともに、過度にもろくない範囲としたものと認められるが(本願明細書段落【0021】)、プレマスク層を受容体の形状に追従できるような弾性を有するものとすることは当然のことであり、相違点に係る数値範囲としたことは、被転写体に適合し、かつ必要な強度を維持するように適宜設計しうる程度のことである。
次にプレマスク層と硬質被覆表面層との間の接着強度について検討すると刊行物1に記載された発明において、プレマスク層を剥離する際に、硬質被覆表面層や軟質被覆表面層が図形受容体から剥離しないように、プレマスク層と硬質被覆表面層との間の接着強度を、硬質被覆表面層と軟質被覆表面層、軟質被覆表面層と受容体間の接着強度より弱く、かつ、保護層を保持出来る程度に設定すべきことは明らかである。
そして、本願明細書には、プレマスク層は、多層とすることができること、剥離面を有する熱可塑性フィルムを含むことができること、剥離面は剥離剤の被覆により形成されたものでもよいことが記載されている(段落【0019】)ところ、刊行物2には、刊行物1に記載された発明と同様に、プレマスク層と図形保護層とを積層した図形転写物品において、プレマスク層と図形保護層間に接着剤層を設け、その接着強度を調整して、プレマスク層剥離の際に、容易に剥離できる程度とすることが記載されている。
また、従来から、転写シートにおいて、転写後剥離される層と保護層の間に剥離剤層を設け、剥離剤層の接着強度を、剥離される層が転写前に剥がれることが無く、かつ転写後は容易に剥離できるように調整することは、当審における拒絶理由で例示した特開平1-282000号公報に記載されているように本願出願前周知であり、刊行物1に記載された発明において、硬質被覆表面層の材質や、硬質被覆表面層と軟質被覆表面層との接着強度、及び軟質被覆表面層と図形受容体との接着強度に対応して、プレマスク層と硬質被覆表面層との間の接着強度を調整するために、プレマスク層の材質や層構造を設計することは当業者が容易になしうることである。
そして、刊行物2には、プレマスク接着剤層の接着力を表すカイル値を、焼き付け前も後も75?700g/インチの範囲とすることが記載されているところ、カイル値は、本願明細書に記載の接着強度測定法であるASTM M1000と類似の測定法により求められるものであり、測定条件により差異があるとしても、本願発明の接着強度は、刊行物2に示される従来の接着強度からみて格別異なるものとはいえない。
さらに、本願明細書の実施例、参考例には、プレマスク層の弾性率、及び、プレマスク層と硬質被覆表面層との間の接着強度が具体的にどの程度であったのか記載されておらず、本願発明の数値範囲に臨界的意義があるとすることもできない。
そうすると、相違点2に係る本願発明の構成は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明及び本件出願前の周知技術に基いて当業者が容易になしうることといわざるをえない。

そして、本願発明の効果は全体として、刊行物1、2に記載された発明及び本件出願前の周知技術から当業者が容易に予測できる程度のものである。
したがって、請求項1に係る発明は刊行物1、2に記載された発明及び本件出願前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、平成19年10月24日付け意見書において、平成年19月10日24日付け手続補正により、補正前の請求項1、3は削除され、補正前の2、4に係る発明において、新規事項とされた構成が削除され請求項1、2とされた結果、拒絶の理由は解消した旨主張しているが、平成19年10月24日付け手続補正後の請求項1、2に係る発明は、補正前の請求項1、3に係る発明において、保護層を「熱可塑性であって、大気条件下において、硬質、非結着性固体フィルムを形成」するものに限定し、多層保護層及びプレマスク層を有するから「図形転写物品」を、実質的に多層保護層及びプレマスク層からなるものに限定した発明といえる。
そして、補正前の請求項1、3に係る発明については、平成19年4月17日付けで、刊行物1、2に記載された発明及び本件出願前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶の理由を通知しているところ、平成19年10月24日付けの手続補正後の請求項1、2は、上記3.で判断したとおり、拒絶の理由と同様の理由で特許を受けることができないものであるから、新たな拒絶の理由は通知しない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-11-08 
結審通知日 2007-11-13 
審決日 2007-11-27 
出願番号 特願平7-518560
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 秋月 美紀子
阿久津 弘
発明の名称 図形転写物品  
代理人 西山 雅也  
代理人 樋口 外治  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  
代理人 西舘 和之  

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