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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1176824
審判番号 不服2002-9101  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-21 
確定日 2008-02-19 
事件の表示 平成 5年特許願第172150号「フラッシュ・メモリ付き印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年10月31日出願公開、特開平 7-285247〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成5年6月18日(パリ条約による優先権主張1992年6月26日、米国)の出願であって、平成14年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月20日付けで明細書についての手続補正がされ、さらに、当審において、平成18年2月27日付けで拒絶理由通知が通知され、これに対して、同年9月7日付けで明細書についての手続補正がなされ、当該平成18年9月7日付け手続補正に対して、平成19年1月15日付けで補正の却下の決定がなされたものである。

第2 本願発明
上記第1で記載したように、平成18年9月7日付けの明細書についての手続補正は、平成19年1月15日付けで補正の却下の決定がなされ、同年6月5日にこの決定は確定している。
したがって、本願の請求項1乃至9に係る発明は、平成14年6月20日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1乃至9に記載された次のとおりのものと認める。

【請求項1】
「印刷装置において、
前記印刷装置での正規印刷用に使用される一時記憶ランダム・アクセス・メモリ(RAM)と、
ダウンロードされたフォントあるいはマクロソフトウェアを受信する手段と、
前記印刷装置で正規使用するために、前記ダウンロードされたソフトウェアを準備する手段と、
前記RAMに、ダウンロードされて準備された前記ソフトウェアを格納する手段と、
ランダム・アクセス電子回路を構成する電気的消去可能PROM(EEPROM)と、
データプロセッサ制御装置と、
前記制御装置と協働して動作し、第1状態及び第2状態を有する選択手段であり、前記第1状態で前記制御装置が前記ダウンロードされて準備されたソフトウェアを前記RAMから前記EEPROMに転送し、前記第2状態では前記制御装置が前記ダウンロードされて準備されたソフトウェアを前記RAMから前記EEPROMに転送しない、選択手段と、
前記選択手段を前記第1状態あるいは第2状態に至らせるために、前記印刷装置の外部からの制御信号を受信する手段と、
を含むことを特徴とする印刷装置。」
【請求項2】
「請求項1に記載の印刷装置において、前記選択手段の制御下にある前記制御装置は、前記印刷装置の言語作動モードが終了したとき、前記フォントあるいはマクロソフトウェアを転送するよう作動することを特徴とする印刷装置。」
【請求項3】
「請求項1又は2に記載の印刷装置において、パーマネント化すべきフォントあるいはマクロソフトウェアを、印刷装置に該ソフトウェアをダウンロードする手段により前記RAMに受信し、続いて前記選択手段を前記第1状態から前記第2状態に切り替えることにより、前記パーマネント化すべきソフトウェアを前記RAMから前記EEPROMへ転送することを特徴とする印刷装置。」
【請求項4】
「請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷装置において、ページ記述言語で動作するモードを有し、かつ、前記ページ記述言語動作モードで動作中の前記選択手段の制御下にある制御装置が、前記印刷装置によって受信されたフォント定義オペレータに応じて直ちに前記フォントを転送するように作動することを特徴とする印刷装置。」
【請求項5】
「請求項1乃至4のいずれかに記載の印刷装置において、少なくとも2つのプリンタ言語で受信されたデータに応答する印刷装置であり、前記印刷装置は、該言語に対して定義済みの動作モードにセットされた時、前記印刷装置が前記複数言語の各々に応答すると共に、前記プリンタが前記動作モードの内の1つで動作していること及び前記選択手段が前記第1状態にあることの終了により、ダウンロードされたソフトウェアの前記EEPROMへの前記転送を実行する前記選択手段を含むことを特徴とする印刷装置。」
【請求項6】
「請求項1乃至5のいずれかに記載の印刷装置において、前記EEPROMへ転送する前に、前記RAMに格納されたダウンロードされたソフトウェアが完全であることをチェックすることを特徴とする印刷装置。」
【請求項7】
「請求項1乃至6のいずれかに記載の印刷装置において、前記EEPROMの容量が、前記RAMに格納されたダウンロードされたソフトウェアを受け入れるには不十分と判断される場合には、前記ソフトウェアの転送と行わないことを特徴とする印刷装置。」
【請求項8】
「請求項1乃至7のいずれかに記載の印刷装置において、前記RAMはダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)であることを特徴とする印刷装置。」
【請求項9】
「請求項1乃至8のいずれかに記載の印刷装置において、前記選択手段が第3状態を有し、前記第3状態が前記第1状態を含み、前記第3状態で前記選択手段の制御下にある前記制御装置が、前記選択手段が前記第3状態に至った後、前記印刷装置によって受信された前記フォントあるいはマクロソフトウェアを転送するように作動すること、及び前記選択手段を前記第3状態に至らせるために、前記印刷装置の外部からの制御信号を受信する手段をも含むこと、とを特徴とする印刷装置。」

第3 当審の拒絶理由
当審において平成18年2月27日付けで通知した拒絶の理由は、3つの拒絶の理由を指摘するものであり、そのうち、理由3は、特許法第36条に係る本願の請求項の記載の不備を指摘するものであって、以下のとおりである。
「 理 由

3.本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。


【記載不備について】
(1)請求項1に「正規印刷」、「正規使用」という用語があるが、「正規」という表現を用いる以上「正規」でない印刷及び使用というものが存在することが前提となるが、「正規印刷」、正規でない印刷、「正規使用」及び正規でない使用とは何を意味しているのか不明である。(そもそも「正規」なる表現は当初明細書にない表現であり、要旨変更の可能性がある。)
(2)請求項1に「ダウンロードされたフォントあるいはマクロソフトウェアを受信する手段」とあるが、過去形(「ダウンロードされた」)で記載されていることからみて、「受信する手段」とは、ホストと印刷装置との通信に使用されるものではなくて、ホストからのダウンロードが終了していて、印刷装置内に存在しているフォントやマクロソフトウェアを印刷装置内で転送する際に、受信するものと解さざるを得ない。他方、請求項1には「前記RAMに、ダウンロードされて準備された前記ソフトウェアを格納する手段」もある。そうすると、受信手段と格納する手段との区別が明確でないと共に、少なくともホストからダウンロードされたソフトウェアは印刷装置内でどの様に受信及び格納されるのか不明である。
(3)請求項1に「ダウンロードされたフォントあるいはマクロソフトウェアを受信する手段」とあるが、同請求項1には「ダウンロードされて準備された前記ソフトウェア」及び「ダウンロードされて準備されたソフトウェア」という記載があり、受信する手段がフォントのみダウンロードした場合に、同請求項1の「ソフトウェア」との関係が不明である。
(4)請求項1に記載の「ダウンロードされたソフトウェアを準備する」とは、どのような作業を意味するのか?出願当初明細書(当初の請求項では「変更」と記載。内容については説明なし。)に記載されているのか?
(5)請求項1に「ランダム・アクセス電子回路を構成する電気的消去可能PROM(EEPROM)」とあるが、一般にEEPROMはRAMのようなランダムな書き込みは困難なフラッシュメモリを指すはずであるから、当該記載は理解し難い。
(6)請求項1の「外部」とは、具体的に何を指すのか不明である。
(7)請求項1及び3に記載の「第2状態」に関して、平成14年6月20日付け手続補正書(以下、単に「手続補正書」という。)の段落【0029】によると、「第1状態」とは、資源コレクションをオンにし、中央電子データ処理装置から必要なソフトウェアを選択し、DRAMに格納を行う状態を意味しており、「第2状態」とは、資源コレクションをオフにし、ソフトウェアの選別、格納を中止する状態を意味していると記載されている。そうすると、「第2状態」では、フォントやマクロソフトウェアがダウンロードがされておらず、転送すべきソフトウェアが存在しないことになる。そうであるならば、請求項1記載の「ダウンロードされた変更ソフトウェアを前記EEPROMに転送しない第2状態」との記載と矛盾する。
(8)請求項1?5及び9に記載の「選択手段」とは具体的には何を意味しているのか不明である。
(9)請求項2に記載の「言語作動モードが終了するとき」との表現からは、言語作動モード以外のモードになったときと解さざるを得ない。一方、発明の詳細な説明に言語作動モード以外のモードについて記載されていない(段落【0036】には、「任意の動作モードスイッチの操作」と記載されているだけ)。そうすると、「言語作動モードが終了する時」とはどのような状態であるのか不明である。
(10)請求項4に記載の「ページ記述言語」は請求項1に記載の「マクロソフトウェア」と同一視し得るがよいか。
(11)請求項4に記載の「フォント定義オペレータ」について、手続補正書の段落【0029】記載では、当該用語を理解できない。(当初明細書の段落【0047】を参照してもなお不明。)
(12)請求項9に記載の「第3状態」について、第1状態を含むなどという表現は、日本語として意味が不明である。」

第4 当審の判断
上記の平成18年2月27日付けで通知した当審の拒絶理由通知に対して審判請求人は、平成18年9月7日付けで、手続補正書を提出したが、この手続補正書は、平成19年1月15日付けの補正の却下の決定により却下され、そして、この決定は確定している。
また、当審が平成18年2月27日付けで通知した拒絶の理由は、3つの拒絶の理由を指摘するものであって、そのうち、「理由3」は、上記「第3 当審の拒絶理由」に記載したように、本願の請求項の記載及び明細書の記載が不備であることを指摘するものであった。
そこで、当審の拒絶の理由のうち「理由3」について以下に検討する。

1.当審の拒絶の理由における「理由3(1)」について
「正規」とは「正式にきめられていること。正式の規定。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」を意味し、請求項1で「前記印刷装置での正規印刷用に使用される一時記憶ランダム・アクセス・メモリ(RAM)」とあえて記載していることから、該「一時記憶ランダム・アクセス・メモリ(RAM)」は何らかの規定がなされた特定の印刷用に使用されるものと解すべきところ、その「正規印刷」が当初明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には記載されておらず、本願出願時において「正規印刷」との用語が当該技術分野において特定の印刷形式を表す用語として一般的に用いられていたともいえないことから、当該「正規印刷」が何を意味するのか不明瞭である。
また、「正規印刷」という以上、「正規でない印刷」が想定されるものの、上記指摘したように、「正規印刷」が何を意味するのか不明瞭であることから、「正規でない印刷」もどのようなものか分からない。
請求項1には、「前記印刷装置で正規使用するために、前記ダウンロードされたソフトウェアを準備する手段」と記載されているが、上記した「正規印刷」と同様に、この「正規使用」が当初明細書等には記載されておらず、本願出願時において特定の使用形態を表す技術用語として一般的に用いられていたともいえないことから、当該「正規使用」が何を意味するのか不明瞭であり、上記と同様に想定される「正規でない使用」もどのようなものか不明瞭である。
なお、審理における応対(平成17年3月24日付けFAXによる回答書)において、「正規印刷」とは単に通常の印刷の意であり、特別な意味合いはないこと、「正規印刷」は「通常の印刷」或いは「標準的な印刷」と言い換えてもよく、「正規使用」も同様に「通常の使用」或いは「標準的な使用」と言い換えてもよいことを釈明し、また、却下決定された平成19年9月7日付け手続補正においては「正規」との記載を削除することにより当該不備を解消しようとした経緯がある。
しかしながら、「正規」は上記した意味をもつ用語であって「通常」や「標準的な」を意味するものではないので、請求項1に記載されている「正規印刷」及び「正規使用」を「通常の印刷」及び「通常の使用」と解することは困難であって、その記載を削除あるいは補正する以外に、主張するような意味のものとすることはできず、当該記載を削除した手続補正が却下された以上、上記指摘のとおり、不明瞭というほかない。

2.当審の拒絶の理由における「理由3(2)」について
請求項1には「ダウンロードされたフォントあるいはマイクロソフトウェアを受信する手段」との記載があるが、その記載から、当該「受信する手段」はどこからかダウンロードされ既に印刷装置内に存在する「フォントあるいはマイクロソフトウェア」を受信するための手段であると解される。
また、請求項1には、「前記RAMに、ダウンロードされて準備された前記ソフトウェアを格納する手段」との記載があり、当該「格納する手段」は、ダウンロードされて準備された「フォントあるいはマクロソフトウェア」を「一時記憶ランダム・アクセス・メモリ(RAM)」に格納するための手段であると解される。
上記の「・・・受信する手段」と「・・・格納する手段」とは、ともに、ダウンロードされ既に印刷装置内に存在する「フォントあるいはマイクロソフトウェア」を印刷装置内において取り扱う手段であって、「受信する」ことと「格納する」こととは、「フォントあるいはマイクロソフトウェア」を取り扱う上で密接に関連していると思われるが、請求項1には、両者の機能的な繋がりは記載されておらず、相互の関係が不明である。
上記「・・・受信する手段」は、単に受信する機能として捉えた場合、不明瞭とはいえないものの、請求項1には他の手段との関連が記載されておらず、受信した「フォントあるいはマイクロソフトウェア」をどうするのかが理解できないことから、印刷装置全体における機能として、当該「・・・受信する手段」は不明瞭であるといえる。
また、上記「・・・格納する手段」についても、単独では格別に不明瞭とはいえないものの、準備された「フォントあるいはマイクロソフトウェア」をRAM内に格納するためには、それらを受信する必要があると解され、当該「・・・格納する手段」が受信する手段をも備えていると考えた場合、当該「・・・格納する手段」と上記「・・・受信する手段」とは機能として区別ができず、当該「・・・格納する手段」とは別に、上記「・・・受信する手段」を備えることの技術上の意味が明瞭に理解できない。
よって、上記「・・・受信する手段」及び「・・・格納する手段」は、それぞれが印刷装置内でどのような機能を果たし、どのように関連しているのか不明瞭である。

3.当審の拒絶の理由における「理由3(4)」について
請求項1には「前記ダウンロードされたソフトウェアを準備する手段」、「前記RAMに、ダウンロードされて準備された前記ソフトウェアを格納する手段」、「前記第1状態で前記制御装置が前記ダウンロードされて準備されたソフトウェアを前記RAMから前記EEPROMに転送し、前記第2状態では前記制御装置が前記ダウンロードされて準備されたソフトウェアを前記RAMから前記EEPROMに転送しない、選択手段」と記載されており、上記「準備する手段」によって準備されたソフトウェアが格納されたり、転送されるものと解されるが、そもそも、「前記ダウンロードされたソフトウェアを準備する」とは印刷装置を構成するどの部分によって、ソフトウェアをどのようにすることなのか不明であり、上記記載の技術上の意味は不明瞭である。

4.当審の拒絶の理由における「理由3(7)」について
「理由3(7)」において指摘している記載不備は、請求項1及び3に記載された「第2状態」の記載上の矛盾についてのものであって、その矛盾点について、平成14年6月20日付けで手続補正された明細書の段落【0029】の記載も踏まえて指摘したものである。
すなわち、請求項1には「前記第2状態では前記制御装置が前記ダウンロードされて準備されたソフトウェアを前記RAMから前記EEPROMに転送しない」と記載され、「第2状態」がRAM(DRAM)にダウンロードされている(すなわち格納されている)ソフトウェアをEEPROMに転送しない状態を意味していると解される。
一方、請求項1を引用する請求項3には「前記選択手段を前記第1状態から前記第2状態に切り替えることにより、前記パーマネント化すべきソフトウェアを前記RAMから前記EEPROMへ転送する」と記載され、「第2状態」が、RAM(DRAM)のソフトウェアをEEPROMに転送する状態を意味していると解される。
このように、請求項1と請求項3では、同じ「第2状態」が、全く逆の意味として記載されているが、請求項3では「前記第2状態」と記載されている以上、この「第2状態」は、引用する請求項1に記載の「第2状態」と同じものを示している解され、当該矛盾した記載により、両請求項に記載された発明は不明瞭となっている。
なお、上記の「第2状態」について、出願当初の明細書には、明確に説明する記載はなく、平成14年6月20日付け手続補正書による明細書の補正により、初めて段落【0029】に以下のようにその説明が記載されている。
「本発明の構成として定義される「第1状態」とは、ダウンロードされて準備されたソフトウェア(フォントやマクロソフトウェアなどの資源)を、格納先のDRAM10からフラッシュ・メモリ12に転送するため、後述する資源コレクションをオンにし、中央電子データ処理装置8から必要な前記ソフトウエアを選別し、DRAM10に格納を行う状態を意味している。また、「第2状態」とは、資源コレクションをオフにし、前記ソフトウェアの選別・格納を中止する状態を意味している。そして、本発明では、「第1状態」から「第2状態」に切り替えることにより、前記ソフトウェアはDRAM10からフラッシュ・メモリ12に転送される。」
上記において、「本発明の構成として・・・中止する状態を意味している。」の記載によれば、「第2状態」とは、DRAMへのソフトウェアの「格納」を中止する状態を意味していると解され、請求項1及び請求項3に記載されたようなRAM(DRAM)からEEPROMへのソフトウェアの「転送」に関する状態を意味するものとは異なる説明がなされている。
一方、続く「そして、本発明では・・・転送される。」の記載からは、「第2状態」が、ソフトウェアをDRAMからフラッシュ・メモリ(EEPROM)に転送することを意味するものと解されるので、請求項3の記載と同じ意味に把握され、つまり、請求項1に記載の意味とは矛盾している。
段落【0029】の記載は、上記のように、個別には、記載された意味を理解できるとはいえ、全体としては、「第2状態」が、DRAMへのソフトウェアの「格納」に関する事項を示すのか、DRAMからフラッシュ・メモリ(EEPROM)へのソフトウェアの「転送」に関する事項を示すのかを理解できない記載となっている。
しかも、前者の説明のように「第2状態」で、DRAMへのソフトウェアの格納を中止した場合、DRAMにはソフトウェアが格納されていないこととなり、後者の説明のように、DRAMからフラッシュ・メモリ(EEPROM)へ転送するソフトウェアが存在せず、後者のごとく転送動作を行うこと自体の意味が不明である。
仮に、DRAMからフラッシュ・メモリ(EEPROM)へ転送されるソフトウェアは、既にDRAMに格納されていたものである(段落【0029】の「「第1状態」から「第2状態」に切り替えることにより・・・」との記載がDRAMに既にソフトウェアが格納されていることを意味するとも一応解されるので)とするならば、このDRAMへの「格納」と、DRAMからの「転送」は両立するものと解し得るが、たとえ両立できたとしても、上記した請求項1及び3の矛盾は「転送」に関することであって、上記段落【0029】の記載ではこの矛盾点を説明することはできない。
さらに、平成18年12月11日付けで請求人が意見書に代えて提出した上申書において、請求人は、「「第2状態」は、「前記制御装置が前記ダウンロードされたソフトウエアを前記RAMから前記EEPROMに転送しない状態」をいい、例えば、段落【0032】に記載されている「資源に対してフラッシュ上のメモリ空間が不十分な場合、・・・資源はRAMメモリの中にのこされる。」状態を意味しています。」と主張しているが、段落【0032】には、上記摘記箇所が「第2状態」を示しているとの記載はなく、段落【0032】が「第2状態」の意味を特定する根拠にはならないし、「第2状態」について、請求人の主張のとおりであると解すると、請求項1の記載事項とは矛盾しないものの、請求項3の記載事項及び段落【0029】での説明とは矛盾することとなる。
したがって、請求項1及び当該請求項1を引用する請求項3に記載された「第2状態」については、本願明細書の記載及び請求人の主張を参酌したとしても不明瞭である点は解消できない。

5.当審の拒絶の理由における「理由3(9)」について
請求項2には「前記選択手段の制御下にある前記制御装置は、前記印刷装置の言語作動モードが終了したとき、前記フォントあるいはマクロソフトウェアを転送するよう作動する」と記載されているが、上記「言語動作モード」がどのような動作モードを表しており、その「終了」がどのような時に起こるのかが、請求項2の記載や、引用する請求項1の記載並びに当初明細書等の記載を参酌しても理解できない。
また、上記「選択手段の制御下にある」場合、引用する請求項1の記載からして印刷装置は、「第1状態」及び「第2状態」のいずれかの状態を選択している。そして、ソフトウェアをRAMからEEPROMに転送し得るのは、「第1状態」のみである。
したがって、請求項2の上記のような記載では、「第1状態」と「言語動作モードが終了したとき」との関係が不明である。
よって、請求項2の記載は不明瞭である。

6.当審の拒絶の理由における「理由3(11)」について
請求項4に記載の「フォント定義オペレータ」は、一般的な技術用語とは認められず、その意味内容が理解できない。例えば、本願明細書段落【0046】には「フォントはフォント定義オペレータを用いて一般的に定義されるので・・・」と記載されているが、このような記載を参酌したとしても、その意味内容を理解できず、請求項4の記載は不明瞭である。

7.当審の拒絶の理由における「理由3(12)」について
請求項9には「前記選択手段が第3状態を有し、前記第3状態が前記第1状態を含み、前記第3状態で前記選択手段の制御下にある前記制御装置が、前記選択手段が前記第3状態に至った後、前記印刷装置によって受信された前記フォントあるいはマクロソフトウェアを転送するように作動すること、及び前記選択手段を前記第3状態に至らせるために、前記印刷装置の外部からの制御信号を受信する手段をも含む」と記載されている。
請求項9には、上記「第3状態」がどのような状態を示すのかについてを、直接に説明する記載はなく、引用する請求項1?8にも「第3状態」についての説明は記載されていない。
請求項9の上記記載において、「前記第3状態が前記第1状態を含み」と記載されており、「第1状態」については、引用する請求項1においてどのような状態か説明されていることから、間接的には、「第3状態」(の一部)が一応理解できるといえる。
しかしながら、上記の「第3状態が第1状態を含」むとは、「第1状態」以外も「第3状態」が取り得ることを意味すると解され、「第1状態」以外がどのような状態かが分からない以上、「第3状態」全体を理解することはできない。
また、引用する請求項1において、「第1状態」と「第2状態」とは、「転送する」「転送しない」という裏腹の関係であって、「第1状態」以外があるとすれば「第2状態」のみであって、「第3状態」が、それら2つの状態をともに含むと考えた場合、当該「第3状態」が何を示しているのか不明であり、どのような状態にも特定できない。
よって、請求項9の記載は不明瞭である。

第5 むすび
以上のように、本願特許請求の範囲請求項1に記載された発明及びそれを引用する請求項2乃至9に記載された発明は、当審で通知した拒絶の理由3(記載不備について)が解消されておらず、平成5年改正前特許法第36条第5項第2号及び同第6項の規定に違反していることから、他の拒絶の理由を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-11 
結審通知日 2007-09-18 
審決日 2007-10-02 
出願番号 特願平5-172150
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 湯本 照基上田 正樹  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 尾崎 俊彦
名取 乾治
発明の名称 フラッシュ・メモリ付き印刷装置  
代理人 大橋 邦彦  

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