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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1176888
審判番号 無効2007-800129  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-09 
確定日 2008-04-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第2563809号発明「半導体用窒化アルミニウム基板」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2563809号の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1) 本件特許第2563809号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、昭和62年9月28日に出願され、平成8年9月19日にその発明についての設定登録がされたものである。

(2) これに対して、請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明は、その明細書の記載が、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないものであるから、その特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。

(3) 一方、被請求人は、平成19年9月25日付で訂正請求書を提出して下記のような訂正を求めた。
訂正事項1、特許請求の範囲の請求項1に記載の「CaO、Y_(2)O_(3)換算で」を「CaO、Y_(2)O_(3)として」に訂正する。
訂正事項2、明細書に記載の「CaO、Y_(2)O_(3)換算で」を「CaO、Y_(2)O_(3)として」に訂正する。
訂正事項9、明細書に記載の「CaO(換算量):0.01重量%、Y_(2)O_(3)(換算量):5.0重量%」を「CaO:0.01重量%、Y_(2)O_(3):5.0重量%」に訂正する。
訂正事項12、明細書、第1表に記載の「換算量Wt%」、および、「Wt%」をそれぞれ「重量%」に訂正する。

(4)当審では、平成19年10月12日付で、「上記訂正事項1によると、訂正前は、「CaO、Y_(2)O_(3)換算で」ということからCaとYという元素の量をCaO、Y_(2)O_(3)という化合物を単位として表していたものであるが、訂正後は、CaOとY_(2)O_(3)という化合物自体の量を表すことになる。よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮とは認められない。また、この訂正は、誤記の訂正とも、不明瞭な記載の釈明とも認められない。
したがって、この訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書き各号のいずれにも該当しないから本件訂正は認められない。」との拒絶理由を通知した。

(5)被請求人は、平成19年11月15日付で、「上記訂正は、特許請求の範囲の減縮」であるから上記訂正は認められるべき旨の意見書を提出した。

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正事項1について検討すると、窒化アルミニウム質焼結体の含有成分に関し、訂正前は、「CaO、Y_(2)O_(3)換算で」ということからCaとYという元素の量をCaO、Y_(2)O_(3)という化合物を単位として表しており、成分としてCaとYが含まれていたものであるが、訂正後の「CaO、Y_(2)O_(3)として」は、換算量でなくCaOとY_(2)O_(3)という化合物自体を表すことになる。したがって、この訂正は、成分量の数値「CaO:4重量%以下」、「Y_(2)O_(3):12重量%以下」で規定されている含有成分の内容を変更するものである。よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮とは認められない。また、この訂正は、誤記の訂正とも、不明瞭な記載の釈明とも認められない。
訂正事項2、9、12についても、訂正事項1と同様である。


(2)以上のとおり、訂正事項1、2、9、12は、特許請求の範囲の減縮に該当せず、誤記の訂正とも、不明瞭な記載の釈明とも認められないので、そのような訂正事項を含む本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きの規定に違反するものである。よって、当該訂正は認められない。


3.本件特許発明に対する判断
(1)訂正が認められないので、本件特許発明は、明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲記載の次のとおりのものと認める。

「【請求項1】AlNを主体とし、カルシウム及びイットリウム化合物をCaO、Y_(2)O_(3)換算で、CaO:4重量%以下、Y_(2)O_(3):12重量%以下の範囲で含み、かつ焼結体中の全酸素量が0.01?10重量%の範囲にある窒化アルミニウム質焼結体の表面に、Ti,Cr,Ni-Cr,TaN(窒化タンタル),Al,Mo,Wのうちの1種以上からなる金属薄膜層が形成されたもので、かつ窒化アルミニウム質焼結体と金属薄膜層間の密着強度が2.5kg/mm^(2)以上であることを特徴とする半導体用窒化アルミニウム基板。
【請求項2】半導体用窒化アルミニウム基板が、その金属薄膜層の上に導体層を有するものであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の半導体用窒化アルミニウム基板。
【請求項3】金属薄膜層の厚みが、20μm以下であることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項に記載の半導体用窒化アルミニウム基板。
【請求項4】導体層が、Ni,Co,Cu,Au,Ag,Pd,Ptのうちの1種以上であることを特徴とする特許請求の範囲第1項ないし第3項のいずれかに記載の半導体用窒化アルミニウム基板。」(以下、「本件特許発明1?4」という。)


(2)請求人の提出した甲第1号証ないし甲第6号証
甲第1号証(Waltraud Werdecker et al. ,High Performance Aluminum Nitride Substrate by Tape Casting Technology.1985 Electric Conponents Conference 、1985 . pp26-31)
には、以下の事項が記載されている。

摘記a.「 The spectrographic analysis(Tab1e 4)exhibits a high purity material.The minus values mean that an analysis was conducted for the element but it was either not present or present in an amount below detection.The indicated value is the minimum detectable quantity.

Surface roughness: R_(t) :5.1 μm
R_(a) :0.72μm
R_(Z) :4.08μm

Camber: 13μm over length of 34mm

Density by water displacement: 3.28g/cm^(3)

Table 3: Data on tape as fired


In Table 5 typical gas analysis values are summarized of the newly developed tape.」(第27頁、右欄、第18行?第26行)

(部分訳「スペクトル分析(表4)は、高純度材料であることを示す。マイナスの値は、分析はその元素に対して行われたが存在しなかったか存在していたか要するに検出限界以下であることを意味する。示された値は、検出可能な最低量である。
<表3(省略)>
表5には、新規に開発したテープの代表的なガス分析値がまとめられている。」)

摘記b.「
ELEMENT % BY WT B .005
Cr .010
Fe .240
Mg -.005
Ti .005
Zr -.005
Ca -.005
Co .010
Cu -.001
V .005
Si .030
Table 4: Plasma spectrographic analysis of AlN


N(%) O% C(ppm) 32.8 1.7 171
30.6 1.7 125
31.9 1.8 177

Table 5:Typical gas analysis of fired tape」(第28頁、左欄、表5)

摘記c.
「THIN FILM METALLIZATION
A number of thin film metallizations have been proven to work satisfactorily on AlN(11).These thin film metallizations have been applied on either standard surfaces normally used for thick film applications as well as polished surfaces.If adhesion(soldering pad)is the main requirement,a lapped sueface is sufficient; if electrical requirements are predominant a polished surface is recommended. Table 11, a surface roughness comparison chart, summarizes the range of suface quality normally used for different applications and moreover offers a tool for roughly converting units.
・・・
Fig.12 shows typical AlN heat sinks for laser diode applications metallized by sputtering technique. The parts are 3 × 3mm,diced on a carrier foil. For this application a Au top layer is preferred. The adhesion measured by nailhead test is in excess of 43 N/mm^(2) on a standard surface; in the order of 20 N/mm^(2) on highly polished substrates. The bonding behavior is excellent with thin Au wire on both surface conditions(Table 12).」(第30頁、右欄、第1行ないし下から6行)

(訳「薄膜メタライゼーション
多数の薄膜メタライゼーションが、AlN上に満足に行なえることが証明された(11)。これらの薄膜メタライゼーションは、研磨した表面と同様に、厚膜用途に通常用いられる標準表面にも適用された。もし密着性(半田用パッド)が主な要求であれば、ラップ仕上げの表面で十分であり、一方、もし電気的な要求が支配的であれば、研磨仕上げの表面が推奨される。表11は、表面粗さ比較表であり、異なる用途に通常用いられる表面の質の範囲をまとめたものであり、さらにおおよその換算単位の目安を提供するものである。
図12は、スパッタリング技術でメタライズされたレーザーダイオード用途のための典型的なAlNヒートシンクを示している。この部品は3×3mmであり、キャリア箔上で切断された。この用途には、金の最表面層が好ましい。
ネイルヘッドテストにより測定された密着性は、標準の表面で43N/mm^(2)を超えており、一方、高度に研磨した基板では20N/mm^(2)程度である。どちらの表面でも細いAuワイヤを用いたボンディングの挙動は非常に優れている(表12)ワイヤ引張テストにおける密着力の値は、仕様の値を大きく上回っている。」)

摘記d.「
Substrate : AlN
Thin film : Ti 0.2μm
Pt 0.1μm
Au 1-1.5μm
・・・ ・・・
Table12:Au thin wire bonding results on thin film Au metallized AlN」
(第31頁、左欄、表12)

摘記e.「INTRODUCTION
Since AlN can be produced in dense sintered shapes with high purity,AlN is accepted in the electronic market as a thermally high performance ceramic substrate.」
(訳「序文
AlNが、高純度で、稠密な焼結体として製造できるようになって以来、AlNは、熱的に高性能なセラミック基板として電機業界に受け入れられている。」)(第26頁、左欄、第33行?第37行)

甲第2号証(特開昭62-167277号公報)
甲第2号証には、酸素含有率が1.8重量%以下の窒化アルミニウム原料粉末に、イットリウムのアルコキシド溶液をY換算で0.1?10重量%を添加し、混合・分解した後成形し、常圧焼結した窒化アルミニウム焼結体及びこの焼結体の上に金属アルミニウムの博捜を形成し、さらにその上にニッケルまたは金の金属化層を形成した半導体基板或いはヒートシンクとして用いられる、金属化面を有する窒化アルミニウム焼結体が記載されている。

甲第3号証(平成19年5月25日付実験成績証明書)
甲第3号証は、窒化アルミニウム質焼結体中のカルシウム化合物及びイットリウム化合物の含有量による、窒化アルミニウム質焼結体と金属薄膜層間の密着強度への影響について検討したものである。

甲第4号証(特開昭62-41766号公報)
甲第4号証には、電子機器、電子回路基板、放熱材料、絶縁材料として工業的に有用な窒化アルミニウム焼結体に関し、イットリウム化合物をY_(2)O_(3)換算で、0.15?1.60重量%、カルシウム化合物をCaO換算で0.02?0.09重量%および酸素を0.12?0.59重量%で含有する窒化アルミニウム焼結体が記載されている。

甲第5号証(NEC Res.&Devlop、No.85 April 1987、p15-21)
甲第5号証には、薄膜メタライゼーション技術によって、Ti-Pd-Au等の金属薄膜層がメタライズされた窒化アルミニウム焼結体であるAlN基板が記載されており、このうちTi-Pd-AuおよびNiCr-Pd-Auの金属薄層の接着強度が2.5kg/mm^(2)であったことが記載されている。

甲第6号証(Waltraud Werdecker, METALLIZING OF ALUMINUM NITRIDE SUBSTRATES,5th EUROPEAN HYBRIDE MICROELECTRONICS CONFERENCE , STRESA-
ITALY,May 22,23,24,1985 Proceedings 472-489)、
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

「 A number of magnetron sputtered thin film metaillzations have been tested on AlN. The experimental work shows that the classi1cal sequence of layers is for AlN applicable as well. For adhesion a thin layer of approximately 0.1 μm of a refractory metal like Ti,Cr,CrNi etc. is applied.
As a diffusion barrier an intermediate layer of a nob1e metal, preferably Pt or Pd with a coating thickness of 0.1 - 0.2 μm, is used. The choice of the top layer depends on the application the coated substrate is used for, whether it has to be resistant to oxidation, non magnetic, highly conductive or wire bondable.
Adhesion tests on different thin film metallizations are summarized in tab1e 11.」(第483頁、第1行?第13行)

(訳 「5.薄膜メタライズ層
数多くのマグネトロンスパッタされた薄膜メタライズ層がAlN上で試験された。実験の結果、従来の処理工程を経た層がAlNにも形成できることが示されている。接着に対してはTi、Cr、CrNiの如き耐火金属の約0.1μmの薄い層が用いられる。
拡散防止バリアとして、皮膜厚さ0.1?0.2μmの好ましくはPtまたはPdである貴金属中間層が用いられる。上層の選択は、コーティング基板が適用される用途、すなわち、それが耐酸化性であるか、非磁性であるか、高導電性であるか、またはワイヤを接着し得るか、に依存する。異なる薄膜メタライズ層についての接着力試験の結果は表-11に要約されている。」(483頁1?13行)


「TABLE 11: NAILHEAD ADHESION TEST ON DIFFERENT THIN FILM METALLIZATION
Substrate : AlN
Solder : SnPb37
Flux : Castolin 157
Cleaning : H_(2)O + US
Test : Nailhead,Cu-pin 0.3 mm
Metallization : Thin Film
METAL COATING THICKNESS ADHESION MODE OF
(μm) N/mm^(2) FAILURECr-Ni 0.5-2 >43 Cu failed
Cr-N-Au 0.5-2-0.5 >43 " "
Mo-Pd 2-2 >43 " "
NiCr20-Ni 2-2 >43 " "
Ti-AgCu28 0.2-6 >43 " "
Ti-AgCu28 0.5-6 >43 " "
Ti-AgCu28 2-2 >43 " "
Ti-Pt-Au 0.2-0.1-1 * >43 " "
Ti-Pt-Au 0.2-0.1-1 ** 20 metallization
failed

* standard surface
** polished」


(訳「表11:異なる薄膜メタライゼーションについてのネイルヘッド接着試験
基質 : AlN
ハンダ : SnPd37
融剤 : Castolln 157
洗滌 : H_(2)O + US
試験 : ネイルヘッド Cu-ピンφ3mm
メタライゼーション : 薄膜

金属 被覆厚み(μm) 接着力N/mm^(2) 破損の形Cr-Ni 0.5-2 >43 Cu破損
Cr-Ni-Au 0.5-2-0.5 >43 Cu破損
Mo-Pd 2-2 >43 Cu破損
NiCr20-Ni 2-2 >43 Cu破損
Ti-AgCu28 0.2-6 >43 Cu破損
Ti-AgCu28 0.5-6 >43 Cu破損
Ti-AgCu28 2-2 >43 Cu破損
Ti-Pt-Au 0.2-0.1-1* >43 Cu破損
Ti-Pt-Au 0.2-0.1-1** 20 メタライゼー ション破損
* 標準面
** 研磨面 )


(3)対比・判断
(3-1)本件特許発明1について
甲第1号証記載の密着性の43N/mm^(2) の値は、換算により、4.4kg/mm^(2) の密着強度に相当する。
甲第1号証の表5には、AlNの酸素濃度が1.7%であることが記載されており、この値は、本件特許発明1の酸素濃度の範囲内である。
甲第1号証には、スパッタリング技術でメタライズされたレーザーダイオード用途のための典型的なAlNヒートシンクを形成することが記載されており、レーザーダイオードは半導体素子であるから、半導体素子用のAlNヒートシンク即ち半導体用窒化アルミニウム基板が記載されている。また、AlNは、窒化アルミニウム質焼結体基板の形で製造されている。
スパッタリング技術でメタライズされた薄膜メタライゼーション層は、金属薄膜層に相当する。
甲第1号証の表12において、「Thin film」即ち、金属薄膜層として、Ti 0.2μm、Pt 0.1μm、Au 1-1.5μmの厚さの各層を形成することが記載されている。

よって、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「AlNの酸素濃度が1.7%であり、AlN上の標準表面に、Ti 0.2μm、Pt 0.1μm、Au 1-1.5μm厚の金属薄膜層が、形成され、密着強度が、標準表面で4.4kg/mm^(2)を超えている、半導体用窒化アルミニウム焼結体基板。」

本件特許発明1と、甲1発明とを対比する。

ここで、被請求人は、答弁書において密着強度測定時の表面状態の違いについて主張している。しかし、本件特許明細書において、窒化アルミニウム基板の表面状態について記載はなく、その実施例の記載においても、
「 その後、前記脱脂済み圧粉体をカーボン型中に収納し、窒素ガス雰囲気中、1800℃で0.5時間常圧焼結した。
得られた窒化アルミニウム質焼結体からなる基板は、その組成が第1表、試料番号1に示すとおり、CaO(換算量):0.01重量%、Y_(2)O_(3)(換算量)5.0重量%、全酸素量:2.8重量%のものであった。
次いでこの基板の表面に、スパッタリング法により薄膜Ti金属層を0.1μmの厚さで形成した。
試験の結果、この金属の密着強度は5.3kg/mm^(2)であって、非常に高い密着強度のものであることが判った。」(本件特許明細書、第3頁左欄、第4行?第14行)と記載されているのみで、ポリシングや研磨については何も記載がない。明細書の記載から判断する限り、焼結した表面に、次の工程でスパッタリング法等により金属層を設けており、甲第1号証記載の標準表面に金属層を設けたものと製造工程的に変わりはなく、少なくとも、特許請求の範囲の請求項の記載において、標準表面のデータを排除する理由はない。
この主張は、明細書の記載に基づかない主張である。
甲1発明の「標準表面」も基板の「表面」であるから、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

一致点
「AlNを主体とし、かつ焼結体中の全酸素量が1.7重量%の範囲にある窒化アルミニウム質焼結体の表面に、Tiからなる金属薄膜層が形成されたもので、かつ窒化アルミニウム質焼結体と金属薄膜層間の密着強度が4.4kg/mm^(2)以上であることを特徴とする半導体用窒化アルミニウム基板。」

相違点
本件特許発明1では、窒化アルミニウム質焼結体が、カルシウム及びイットリウム化合物をCaO、Y_(2)O_(3)換算で、CaO:4重量%以下、Y_(2)O_(3):12重量%以下の範囲で含んでいるのに対し、甲1発明では、カルシウム及びイットリウム化合物をCaO:4重量%以下、Y_(2)O_(3):12重量%以下の範囲で含んでいない点。

上記相違点について検討する。
甲第1号証において、カルシウムは、摘記b(Table 4の記載)より測定限界以下であり、イットリウムは含まれていないと認められるが、甲1発明において、密着強度が43N/mm^(2)(換算で、4.4kg/mm^(2)の密着強度)という密着力を得ている。
本件特許発明1において、窒化アルミニウム焼結体に、カルシウムとイットリウムを含有させる意義は、金属層との密着強度を高めるためのものである。しかし、カルシウムとイットリウムを含有していなくとも、甲第1発明においては、本件特許発明1の2.5kg/mm^(2)以上の密着力を得ている。
また、本願特許公報に記載された特開昭61-119051号公報において、カルシウムもイットリウムも含有していない窒化アルミニウム焼結体において、表面接着力が、2.5kg/mm^(2)という値を実現している(同公報、第4頁左上欄、第9ないし10行)。同様に、甲第6号証に記載の発明においてもカルシウムやイットリウムの含有量が、本件特許発明1の条件を満たしていなくとも、43N/mm^(2) (4.4kg/mm^(2)) という密着強度を実現できることが記載されている。
よって、本件特許発明1において、カルシウムやイットリウムを含有させること、及びその量を限定することによる効果は認められず、この点は単なる限定にすぎない。
そして、窒化アルミニウムに、カルシウムとイットリウムの両方を含ませることも、文献1:特開昭62-197375号公報には、「・・・焼結助剤を用いる・・・これらは一種以上で用いることができる。」(第2頁、左下欄、第6行?第14行)、と記載されている。
さらに、文献2:特開昭61-117160号公報には、「・・・焼結助剤として・・・同時に使用すると・・・」(第2頁、右上欄第17行?左下欄第2行)、及び、「実施例1 不純物としての酸素を3.6重量%含有し、・・・AlN粉末に、・・・CaCO_(3)及びY_(2)O_(3)の混合粉末(重量比3:2)を3重量%添加し・・・」(第3頁、右下欄、第14行?第18行)と記載されている。
よって、焼結助剤として、カルシウムとイットリウムの両方を添加することは周知であり、さらに、その量を、CaO、Y_(2)O_(3)換算で、CaO:4重量%以下、Y_(2)O_(3):12重量%以下の範囲で含ませることは文献2に記載されているようにすでに行われていることであるから、カルシウム及びイットリウム化合物の量を適宜調整し、CaO、Y_(2)O_(3)換算で、CaO:4重量%以下、Y_(2)O_(3):12重量%以下の範囲で含ませることは、当業者が容易になし得ることである。

よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明、および、公知の文献に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3-2)本件特許発明2?4について
甲第1号証の表12において、Ti、Pt、Auを積層することおよび各層の厚みが以下のように記載されている。
Substrate : AlN
Thin film : Ti 0.2μm
Pt 0.1μm
Au 1-1.5μm
金属層は、金属薄膜層であると認められ、導体層であると認められる。また、導体層を、回路パターン等にすることは、当業者が、適宜成しうることである。

よって、本件特許発明2?4は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明、および、公知の文献に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。


(4)むすび
以上のとおり、本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明、および、公知の文献に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第36条の無効理由を検討するまでもなく同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-03 
結審通知日 2008-03-06 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願昭62-240949
審決分類 P 1 113・ 121- ZB (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川真田 秀男  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 綿谷 晶廣
正山 旭
登録日 1996-09-19 
登録番号 特許第2563809号(P2563809)
発明の名称 半導体用窒化アルミニウム基板  
代理人 白石 泰三  
代理人 大島 正孝  

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