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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G07B
管理番号 1176914
審判番号 無効2005-80362  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-12-26 
確定日 2008-04-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第1917617号「タクシ?メ?タにおける料金、タリフ並びにタリフ設定画面表示装置」の特許無効審判事件についてされた平成18年 6月20日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10355号平成19年 4月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1917617号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第1917617号に係る出願(以下、「本件出願」という。)は、平成2年3月5日に特許出願(特願平2-54504号)され、平成6年6月1日に出願公告(特公平6-42269号)された後、平成7年3月23日に、請求項1ないし請求項4に係る発明について、特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成17年12月26日付けで、株式会社ニシベ計器製造所(以下、「請求人」という。)から、請求項1ないし4に係る特許について、特許無効審判が請求され、平成18年3月24日付けで、特許権者二葉計器株式会社(以下、「被請求人」という。)から答弁書が提出された上で、平成18年6月9日に口頭審理が行われ、平成18年6月20日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされた。
請求人は、知的財産高等裁判所に、審決取消の訴えを提起し、知的財産高等裁判所第4部において、「審決を取り消す」との判決(平成18年(行ケ)第10355号、平成19年4月26日判決言渡)があり、本件審判事件は、特許庁に差し戻された。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】少なくとも空車-営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入力手段と、
該タリフ設定用入力手段またはその近傍に位置するタリフ選択表示部、その時の料金を逐次表示する料金表示部、その時のタリフ位置を表示するタリフ表示部が一体的に構成されてなるドット方式の表示手段と、
走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い、前記表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と、各種走行データが一時的に格納されるRAMと、
動作プログラム、各種パラメータ、表示手段に表示する文字等が格納されるROMと、
前記表示手段のタリフ表示部及びタリフ選択表示部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と、
を有し、その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手段が、前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示するとともに、タリフ選択表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して、タリフ設定用画面を構成するタクシーメータにおける料金、タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項2】表示手段として、液晶表示板を利用してなる特許請求の範囲第1項記載のタクシーメータにおける料金、タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項3】表示手段として、螢光表示管を利用してなる特許請求の範囲第1項記載載のタクシーメータにおける料金、タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。
【請求項4】液晶表示板の表面に透明の感圧素子で構成されるタッチスイッチが積層され、タリフ設定用入力手段と表示手段のタリフ選択表示部が体的に構成されてなる特許請求の範囲第1項記載のタクシーメータにおける料金、タリフ並びにタリフ設定画面表示装置。

なお、本審決においては、書証等を引用する場合を含め、公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分があり、「タクシーメーター」或いは「タクシーメータ」は「タクシーメータ」で、「マトリクス」或いは「マトリックス」は「マトリックス」で統一して記載する。

第3 請求人及び被請求人の主張
1.請求人の主張
請求人は、私文書である、甲第1号証、甲第1号証-1、甲第1号証-2、甲第2号証、甲第2号証-1、及び、特許公報である甲第3号証ないし甲第7号証、並びに、私文書である甲第8号証、更に、新聞記事である甲第9号証を提示し、本件特許発明1及び本件特許発明4は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明2は、上記各甲号証に加えて甲第6号証に記載された発明に基づいて、又、本件特許発明3は、上記各甲号証に加えて甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、無効にされるべきものである、と主張する。

2.被請求人の主張
被請求人は、特許公報である乙第1号証、及び私文書である乙第2号証を提示し、本件発明1ないし本件発明4は、審判請求人が提示した上記甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効にされるべきものではない、と主張する。

第4 甲各号証の成立性及び公知性について
1.私文書である、甲第1号証、甲第1号証-1、甲第1号証-2、甲第2号証、甲第2号証-1、甲第8号証、及び新聞記事である甲第9号証、並びに私文書である乙第2号証の成立について、当事者間に争いはない(口頭審理調書参照)。

2.甲第1号証及び甲第8号証が本件出願の出願前に公知であったか否かについて、両当事者は、次のとおりに主張した。
(1)請求人の主張
甲第9号証から明らかなように、新型タクシーメータ検討委員会及び同ワーキング委員会(以下、両者を合わせて「検討委員会」という。)については、その設置、検討すべき内容、及びメンバーが新聞等で公表されている。また、検討委員会は、技術的な意見を聞き、検討を行う場であり、その検討内容を纏めた甲第1号証及び甲第8号証は、全国乗用自動車連合会及びタクシーメータ製造業者の共有財産であつて、これら甲第1号証及び甲第8号証について、検討委員会のメンバーに守秘義務を課す必要はなかったし、メンバーに守秘義務があるとの認識もなかった(口頭審理調書:請求人の4)。
(2)被請求人の主張
甲第1号証及び甲第8号証が本件特許の出願前に公知であったことについては、不知である。甲第1号証及び甲第8号証等は、「検討委員会」の内部資料であり、また、甲第2号証-1中の資料12の「第2回 新型タクシーメータ検討ワーキング委員会 議事要旨」にあるように、「検討委員会」では、タクシー運転手の不正など一般の利用客に知られたくない事柄も話し合われていることから、乙第2号証の案がとれた「調査報告書」が作成され公表されるまでは、検討委員会のメンバーが甲第1号証及び甲第8号証等について守秘義務があると考えるのは、常識として当然である(口頭審理調書:被請求人の5)。
(3)公知性に関する当審の判断
甲第9号証(東京交通新聞 1989年9月18日の記事)によれば、「新型タクメータの開発」のために検討委員会が設置され、同委員会の構成メンバー及び検討内容の項目等が公表されていたこと、また、甲第1号証及び甲第8号証中の資料第10が純粋に技術的観点から作成されたものであること、更に、検討委員会のメンバーには、競合関係にある日本タクシーメータ工業会の全ての企業(5社)が加わっていること、技術的内容について秘密にする必要があったとは認められないこと、等からみて、甲第1号証及び甲第8号証等は、請求人が主張するように、全国乗用自動車連合会及びタクシーメータ製造業者の共有財産であって、これらについて、検討委員会のメンバーに守秘義務が課せられたとは考えることができない。
したがって、甲第1号証及び甲第8号証は、本件出願の出願前に公知であったと認められる。
なお、被請求人は、平成19年8月28日付け上申書において、検討委員会等では、純粋に技術的なものとはいえない内容や、参加していない一般利用客には知られたくない事項が多々話し合われていることを理由に、甲第1号証及び甲第8号証について守秘義務があり、甲第1号証及び甲第号8証は公知でなかった、旨主張する。
そこで、守秘義務について検討する。
被請求人が、一般利用客に知られたくない内容として列記する事項(運転手の不正使用等に関する意見:上申書4頁16行?5頁6行参照)は、それらの意見の提案者が普通に思いつく、運転手等がタクシーメータを使用するに際しての問題点或いは注意点の指摘であって、特定の運転手等の不正使用を言うものではないから、このことを根拠に、守秘義務が課せられていたとは言い難い。
また、被請求人が、一般利用客側からの意見が考慮されていない点として例示する(同5頁7?11行参照)「(運輸省)このままであると、メーカーとユーザの意見になっているので、利用者側からの意見も考慮した報告書の形にしてもらいたい。」との運輸省職員の意見は、むしろ、新型タクシーメータ開発に関して、(メーカーとユーザの意見だけでなく)一般利用客の意見も入れるよう要請するものと解され、この点からみても、委員会のメンバーに守秘義務が課せられていたとは言い難い。即ち、意見を入れるためには、一般利用客に検討内容について知らしめる必要があると解されるからである。
さらに付記すれば、新型タクシーメータの開発は、タクシーメータという性格上、非常に公共性の高い問題であり、そのため、検討委員会のメンバーとして、運輸省、通商産業省、及び、工業技術院の職員が参加していること、上記のとおり、競合関係にある日本タクシーメータ工業会の企業も全てメンバーとして参加していること、新聞記事により検討内容の項目等が公表されていること、甲第1号証及び甲第8号証には「部外秘」或いは「秘」等の印も無いこと、等々からみても、検討委員会のメンバーに守秘義務が課せられていたとは認められない。
したがって、被請求人の上申書における主張は採用できない。

第5 本件特許発明1について
1.甲各号証の記載事項
(1)-1 甲第1号証の記載事項
ア.「3.現在のタクシーメータ
…(略)…
1.運賃の計算方法
…(略)…
3.運賃料金の表示
メータ本体に表示部があって、「運賃」と「迎車料金」の二つの表示窓があるものと、「運賃料金」として一本化されたものがある。前者では各々独立して金額が表示され、合算金額は表示されない。」(2?3頁11行)

イ.「5.具体的課題とその対応方法
このセクションでは、新型メータが狙いとするところを具体的な課題として示し、それを実現する方法または問題点を検討した。
…(略)…
●各ブロックの作用
…(略)…
(5)表示部(審決注:()数字は甲第1号証において丸数字である。)
・演算処理部からの信号を受けて、乗客あるいは乗務員に必要な表示を 行う部分である。
例えば
・割増された運賃。
・必要ならば割増の事由や割増率。
などを表示する。
・数字以外の文字や図形を自由に表示するならば、従来と異なる構造が 必要となる。」(9?11頁)

ウ.「5.1.10 まとめ
以上、「演算機能の多様化」の課題について要約すれば、凡そ次のようになる。
…(略)…
●乗客とのトラブルの発生を避けるためには、運賃料金が計算される条件、例えば割増・割引の理由、割増・割引率、乗車人数、荷物の数などが、どのような状態にセットされてメータが作動しているかを明確に表示する必要があると思われる。
したがって、実際に多種類の運賃料金項目を盛り込む場合には、それ相応の表示装置または領収書発行器を備えなければならないと思われる。」(36頁)

エ.「5.3 機能の多様化と操作部
5.3.1 機能の選択方式
タクシーメータが多くの演算機能を持っていても、どの演算を行うかを命令してやらなければ動くことができないから、後に述べる自動化ができないものは乗務員の選択操作に頼ることになる。
機能を選択する方式の得失を簡単に挙げると、次のようになる。
●プッシュボタン
従来多用されている最も直接的で単純な方法であるが、多数の機能をワンタッチで選択しようとすると数が増え、ボタンが小さいと操作がやり難くなるからスペースを必要とする。
…(略)…
●ディスプレイタッチ
表示とボタンを兼用する方法で、例えば該当する料金表示部等をタッチして選択する。料金表示が省略された項目を選択しようとすると、プッシュボタンと同じことになり、現在ではコストと技術的な問題がある。
5.3.2 プッシュボタン方式の操作部の例
ここでは最もポピュラーな機能毎のプッシュボタンを用い、割増と割引を各々2種類として、5.1項で例にとった機能全部を折り込んだ場合のメータ前面を想定すると、次ページのようになる。なお、人数と荷物数の設定は、そのボタンを押す回数によって行うこととしている。
これによると、従来7個程度であったボタンが6個増えて13個となっているが、簡単な電卓でも20個以上ボタンがあることを考えれば、一般的に見て、特に操作性が悪い機器ではないと思われる。
なお、図中の説明のように、シフトボタンを用いてボタンの機能を切換えればボタンの数が減るが、操作が面倒になる。」(38頁、40頁。なお、38頁末行は40頁1行に続いている。)

オ.「メータパネルの例
新機構を折り込んだタクシーメータは上図(1例)のごとく多くの操作部、表示部が必要になる。
操作部、表示部の増設は、メータ本体の形状寸法の拡大となり車輌取付にも大きな影響を与えるばかりでなく、操作性や視認性を損なうことにもなる。
これらの対策としては、次の方法が考えられる。
・表示部のマルチ化・・ドットマトリックス方式(小型液晶テレビ等で採用されている点描画方式)を採用し、プログラムにより表示内容を変更し、表示部の省スペース化を図る。
・操作部のマルチ化・・関数電卓等に使用されている「SHIFT」機能のように、一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて、シフトボタンで機能を選択する。」(39頁。なお、図自体は省略)

カ.「5.4 機能の多様化と運賃料金の表示
5.4.1 表示の内容
運賃料金が多くの項目から構成されるようになると、
・どのような設定条件でメータが作動しているか。
・各運賃料金の明細はどうなっているか。
等をできる限り乗客に明示することが理想的であって、これは不正使用の防止にも常が留事になる。
…(略)…
5.4.2 表示装置
現在の表示装置の特徴は、
・メータの本体と一体化している。
・表示窓は二つしかない。
・自発光性の機構によって数字か、一定の文字だけを表す。
・乗客と乗務員が同じ表示を見る。
となっている。これと同じ思想で新型メータに対応する表示窓を増やした表示部を想定したものが前掲39ページの図である。
この図は、ほぼ現在のメータ前面寸法の原寸(150×50mm)になっているが、このままでは表示される字が小さくて実用にならないと思われる。
これの対策としては、
・表示機構に一つの大きな液晶画面を使用して、内容を何回かに分けて大きな文字で順次表示する。
…(略)…
などの方法を更に検討する必要がある。
5.4.3 表示装置の取付位置
…(略)…
この場合、液晶画面を使用する表示機構ならば漢字、図形なども自由に表示できるが、現状では斜め方向から見にくいなどの欠点を改良する必要があろう。」(42?43頁10行)

上記ア?カの記載によれば、甲第1号証には、
a.甲第1号証作成当時のタクシーメータの表示装置は、表示窓は二つしかなく、自発光性の機構によって数字か、一定の文字だけを表すものであったこと(上記ア、カ参照)、
b.タクシーメータの料金項目の多様化に伴い、乗客とのトラブルの発生を避けるために、運賃料金が計算される条件(例えば、割増・割引の理由、割増・割引率、乗車人数、荷物の数など)を明確に表示する必要が生じたこと(上記ウ、カ参照)、
c.多種類の運賃料金項目を盛り込む場合には、それ相応の表示装置を備えなければならないが、操作部、表示部の増設は、メータ本体の形状寸法の拡大となり車輌取付にも大きな影響を与える上、操作性や視認性を損なうこと(上記ウ、オ参照)、
d.従来と同じ技術思想で新型メータに対応する表示窓を増やした表示部を想定したものが、39頁の図(「メータパネルの例」)であるが、操作ボタンの数も7個から13個に増やしているため、表示される字が小さくなり実用的には使用できないこと(上記エ?カ参照)、
e.その対策として、表示部については、ドットマトリックス方式(小型液晶テレビ等で採用されている点描画方式)を採用し、プログラムにより表示内容を変更し、表示部の省スペース化を図ることを検討し、操作部については、一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて、シフトボタンで機能を選択することを検討する必要があったこと(上記オ参照)、
f.機能の選択方式としては、従来多用されているプッシュボタン式のほかに、表示とボタンを兼用する方法としてディスプレイタッチが考えられ、液晶画面を使用する表示機構であれば漢字、図形なども自由に表示することが可能となること(上記エ、カ参照)、
が開示されているということができる。
また、甲第1号証の39頁の「表示部のマルチ化」の部分には、新機構を盛り込んだタクシーメータの問題点に対する対策が記載されているところ、これらの新機構を盛り込んだ新型メータの詳細については、甲第1号証の「5.具体的課題とその対応方法」において検討され、「割増の事由や割増率」(11頁)、「人数・荷物料金」(21頁)、「「待」の状態であること」(27頁)などの機能を表示部に表示することが記載されているから、甲第1号証の39頁の「表示部」には、料金にとどまらず、運賃料金を計算する条件を文字で表示することが予定されているというべきである。本件明細書においては、「空車、賃走、割増、迎車、支払等」をタリフとして例示しているが、甲第1号証の表示部にも「割増の事由や割増率」などを表示することが記載されているのであるから、甲第1号証の39頁にいう「表示部」は、タリフ表示も含むということができる。
さらに、甲第1号証には、上記のとおり、機能選択方式としてディスプレイタッチを採用することが開示されている。ディスプレイタッチは、表示とボタンを兼用する方法であり、プッシュボタンの代わりに、ディスプレイタッチを39頁の図に適用した場合には、少なくとも、「人数」、「荷物」、「迎車」等の料金を表示する部分、及び「運賃」を表示する部分が、デイスプレイタッチに対応するものと解される。このように、甲第1号証は、少なくとも人数、荷物、迎車等のタリフ表示を、ディスプレイタッチで表示することが示唆され、そのためには、これらのタリフ表示をドットマトリックス方式で行うことが前提となる。
以上のとおり、甲第1号証には、タリフ表示も含む表示部にドットマトリックス方式を採用することが記載されている。

他方、本件特許発明1の特定事項に関して、甲第1号証に、次の事項が記載されていることについては当事者間に争いはない(口頭審理調書参照)。
A.少なくとも空車-営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入力手段と、
C.走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い、前記表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と、
D.各種走行データが一時的に格納されるRAMと、
E.動作プログラム、各種パラメータ、表示手段に表示する文字等が格納されるROMと、
を有する料金、タリフ表示装置。
なお、上記事項の文頭に記載したアルファベットは、審判請求人が本件特許発明を分説するために用いた符号である(審判請求書3?8頁参照)。

(1)-2 甲第1号証に記載された発明
上記(1)-1の認定に基づけば、甲第1号証には、次のような発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。
「少なくとも空車-営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入力手段と、
該タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部、その時の料金を逐次表示するドット方式の料金表示部、その時のタリフ位置を表示するドット方式のタリフ表示部から構成されてなる表示手段と、
走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い、前記表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と、
各種走行データが一時的に格納されるRAMと、
動作プログラム、各種パラメータ、表示手段に表示する文字等が格納されるROMと、
前記表示手段のドット方式のタリフ表示部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と、
を有する、タクシーメータにおける料金、タリフ表示装置。」

(2)甲第3号証(特開昭57-79489号公報)の記載事項
甲第3号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。
キ.「ドットマトリックス表示部と、このドットマトリックス表示部の近傍に設けられる複数のスイッチと、上記複数のスイッチの機能を上記表示部の各スイッチに対応した位置に表示する第1の表示手段と、上記スイッチにより入力されたデータを上記ドットマトリックス表示部に表示する第2の表示手段とを具備し、第1の表示手段による表示と第2の表示手段による表示とが同時に行われることを特徴とするドットマトリックス表示装置の入力方式。」(特許請求の範囲)
ク.「この発明は上記の点に鑑みてなされたもので、その目的はドットマトリックス表示装置で表示を行う電子時計のような小型電子機器において、カタカナ、アルファベット、数字等の多くの情報を入力する場合に、入力内容を容易に確認し迅速に入力しうるドットマトリックス表示装置の入力方法を提供することにある。」(1頁右下欄10?16行))
ケ.「ドットマトリックス表示で表示が行われる小型電子機器において、複数の入力スイッチに対応して入力されるデータを上記表示部に表示するようにしたので、あるデータを入力する場合にどの入力スイッチを操作したら良いか容易に確認でき、入力処理を迅速に行うことができる。さらに、複数の入力スイッチに対応して入力されるデータを上記表示部に表示するようにしたので、入力されるデータ数が多くなった場合でも、選択的に入力されるデータを上記入力スイッチに対応して表示することにより限られた数のスイッチから非常に多くのデータを迅速に入力することができる。」(5頁左下欄12行?右下欄5行)

(3)甲第4号証(特開昭62-5268号公報)の記載事項
甲第4号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。
コ.「従来、複写機の操作パネルには、複数の操作キーに対応して、その操作キーの機能を説明する操作表示が、そのキーと1対1に対応して印刷されている。」(1頁右下欄8?11行)
サ.「30fは例えば特殊複写機能等を表示する表示部であり、例えば液晶ドットマトリックス表示器から構成されている。この表示部30fの周縁部には、操作キー30g、30h、30i、30j、30k、30l、30m、説明キー30nが配置されている。」(3頁左上欄9?14行)
シ.「前記表示部30fには第1図(a)に示す如く、操作キー30a?30mのうち所要の操作キーに対応して、その操作キーの機能を説明する表示情報が表示されている。この表示情報は前述したメモリ141に記憶されており、このメモリ141より所要の表示情報が前記メインプロセッサ群71によって読出され、表示されるようになっている。」(7頁左下欄8?15行)
ス.「第1図(a)に示す表示状態において、操作キー30gが操作されると、メインプロセッサ群71によって、前記メモリ141より所要の表示情報が読出され、表示部30fの表示状態が第2図(a)の如く変更される。」(7頁右下欄16?20行)

(4)甲第8号証の記載事項
甲8の資料第10(「新型タクシーメータ開発課題検討報告」)の「1.各種機能を組み込んだ基本設計」においては、「運賃料金の割増、割引」「人数・荷物割増」「運賃料金の合算 1.固定迎車料金 2.固定無線料金 3.無線等待料金」「スリップ迎車機構」を含むイ?チの項目が挙げられ、「2.運賃料金改定又は新しい運賃料金設定に効率的に対応できるメータ構造」の「ロ」においては、「項目」として「多様な運賃料金制度に対応できる効率的なボタン・ノブ等のスイッチ機構及び運賃料金表示機構」、「項目の狙い」として「タクシーメータシステムの多機能化」、「検討結果」として「1項の各項目を網羅すると、少なくとも15種類くらいの切替えスイッチ及びタリフ指示部25桁くらいの表示部が必要となるため、車両への取付スペースの点から別紙1のような基本設計を検討した上で、都市・地域別に操作性等も考慮し、数種類の型式に分割する必要がある。」と記載されている。
そして、この別紙1を見ると、「部位」欄に「スイッチ」、「方法(案)」欄に「1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ、各項目の細分項目には、マトリックスにより同一スイッチを兼用する。」と記載され、その下方には、「(例)」として図が示されている。この図においては、3つの長方形からなる列が上下に2列記載され、これらの長方形は矢印で繋がれており、また、長方形の列の上方には、「割ボタン」、「迎車」、「料金関係」の文字の列がそれぞれの長方形に対応して記載され、長方形の列の下方には、「1割引 3割増 2割増 ←割ボタン」「無線固定 スリップ ←迎車」「人員 荷物 ←料金関係」との文字の列が上下に3列記載されている。
また、別紙1の「スイッチ」欄には、「方法(案)」として「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」との記載があり、「表示機構」欄には「方法(案)」として「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する)」との記載がある。
甲8のこれらの記載及び図によれば、上記別紙1の図には、1項でまとめた新機構毎にスイッチをつけ、各項目の細分項目には、マトリックスにより同一スイッチを兼用することが記載されているということができ、同図を見れば、「例えば、上側の列の「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると、下側の列の各スイッチに、「1割引」、「3割増」、「2割増」の機能が割り当てられる、又は、上下に対応するスイッチは、同じスイッチであり、「割ボタン」に対応するスイッチを操作すると、次に、そのスイッチに「1割引」の機能が割り当てられ、その右側の「迎車」に対応するスイッチに「3割増」、「料金関係」に対応するスイッチに「2割増」が割り当てられる」(審決書9頁5?10行)ことが明らかに読み取れるものと理解することができるというべきである。
また、上記別紙1には、「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」との記載があり、「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する)」との記載もあるのであるから、別紙1に例示されたスイッチをディスプレイタッチ式とし、表示をドットマトリックス方式とすることも開示されているということができる。
したがって、甲8の資料第10として添付された「新型タクシーメータ開発課題検討報告」の別紙1には、「割ボタン」、「迎車」、「料金関係」等の各機能毎に割り当てられたスイッチが複数の機能を兼用することはもとより、これらのスイッチが複数の機能を兼用する態様やその表示についても記載されている。

2.本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「少なくとも空車-営業走行選択ボタンを含む複数のスイッチで構成されるタリフ設定用入力手段と、
該タリフ設定用入力手段の近傍に位置するタリフ選択表示部、その時の料金を逐次表示するドット方式の料金表示部、その時のタリフ位置を表示するドット方式のタリフ表示部から構成されてなる表示手段と、
走行距離及び走行時間に基づいてその時のタリフ位置に応じた料金演算を行い、前記表示手段の料金表示部にその時の料金を表示する料金演算手段と、
各種走行データが一時的に格納されるRAMと、
動作プログラム、各種パラメータ、表示手段に表示する文字等が格納されるROMと、
前記表示手段のドット方式のタリフ表示部に文字を選択して表示する表示文字選択手段と、
を有する、タクシーメータにおける料金、タリフ表示装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
甲1発明において、タリフ選択表示部、料金表示部、タリフ表示部が、一体的に構成されているかどうか、
[相違点2]
甲1発明において、タリフ選択表示部が、ドット方式の表示手段かどうか、
[相違点3]
甲1発明において、そのときのタリフ位置に応じて表示文字選択手段が、タリフ表示部にタリフを表示するとともに、タリフ選択表示部にタリフ設定入力手段の各スイッチに対応するタリフ選択用文字を表示して、タリフ設定用画面を構成するかどうか、
[相違点4]
甲1発明が、タクシーメータにおける料金、タリフ、タリフ設定画面表示装置であるかどうか。

3.上記相違点についての判断
(1)相違点1、2について
上記相違点1、2に関し、甲第1号証には、タリフ表示部及び料金表示部を含む表示部にドットマトリックス方式を採用することが記載されているということができることは前示のとおりである。また、表示部に選択すべきタリフを表示するかどうかは設計事項にすぎず、選択すべきタリフを表示する場合には、選択されたタリフの表示、料金表示とともに、一体的に表示することが望ましいのは当然のことであるから、タリフ選択表示部をタリフ設定用入力手段の近傍に位置させてマトリックス方式で表示し、表示部をタリフ選択表示部、料金表示部、タリフ表示部を一体的に構成することは、当業者であれば容易に想到し得る事項である。

(2)相違点3について
上記相違点3に関し、甲第1号証には、タリフ表示をドットマトリックス方式で行うことが記載されているということができるのであるから、タリフ表示部に選択されたタリフを表示すること、つまり「その時のタリフ位置に応じて前記表示文字選択手段が、前記表示手段のタリフ表示部にタリフを表示する」ことが記載されていることは明らかである。
また、甲第1号証には、「SHIFT」機能のように、一つの操作ボタンに二つ以上の機能を与えて、シフトボタンで機能を選択するようにすることが開示され、また、甲第8号証の資料第10の別紙1の図にも、1つのスイッチが複数の機能又はその細分項目の選択肢を兼ねることが開示されている。さらに、同別紙には、「表示とスイッチの一体化(ディスプレイタッチ式等)」「ドットマトリックス方式(プログラムにより表示内容を変更する)」などの記載もあり、スイッチをディスプレイタッチ方式又はドットマトリックス方式で表示することが開示されている。
こうした甲第1号証及び甲第8号証の記載によれば、当業者であれば、タリフ選択表示部の表示をドットマトリックス方式とした上で、各選択表示が複数の選択肢を兼ねるように構成し、選択されたタリフ(例えば、割増)に応じて、表示文字選択手段が、タリフ選択表示部に当該タリフの細分項目(2割、3割、4割)を表示するようにすることは容易に想到し得るというべきである。
したがって、上記相違点3の構成は、甲1発明及び甲第8号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

(3)相違点4について
上記相違点4に関し、タクシーメータにおいて画面表示装置にタリフ設定画面表示を設けることは、設計事項にすぎないというべきである。

以上、上記各相違点は、甲第1号証に記載されているか、あるいは甲1発明及び甲第8号証記載の技術事項から容易に想到し得たものである。

仮に、甲第1号証のタリフ表示部について、ドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができず、甲第8号証の資料第10の別紙1のスイッチの機能の態様や表示が明らかでないとしても、前示のとおり、表示部に選択すべきタリフを表示するかどうかは設計事項にすぎず、選択すべきタリフを表示する場合には、タクシー運転手や乗客の便宜を考えれば、表示画面においてタリフ選択表示部、料金表示部、タリフ表示部を一体的に構成することは、至極当然のことである。
また、甲第1号証には、タリフ表示をドットマトリックス方式で表示することが記載されていないとしても、料金表示をドットマトリックス方式で表示することは開示されており、また、甲第3号証に「ドットマトリックス表示装置で表示を行う・・・小型電子機器において、カタカナ、アルファベット、数字等の多くの情報を入力する場合に」(1頁右欄11?14行)と記載されているとおり、文字をドットマトリックス方式で行うこと自体は周知の技術であったのであるから、料金表示、タリフ表示、タリフ選択表示をいずれもドットマトリックス方式で行うことも、容易に想到し得ることである。
さらに、甲第1号証には、1つの操作ボタンに2つ以上の機能を与えることが開示され、甲第8号証にも1つのスイッチが複数の機能又はその細分項目の選択肢を兼ねることが開示されている上、甲第1号証と甲第8号証はいずれもタッチパネルについて言及していることは前示のとおりである。一般に、表示画面の操作部において、複数の選択肢が示され、その中から一つの機能を選択すると、同一のスイッチ等が細分項目の選択肢を兼ねるように構成することは、ごくありふれた構成にすぎない。タクシーメータにおいても、スイッチの近傍にタリフ選択表示部を設けて選択肢を表示し、スイッチまたはタッチパネル化されたタリフ選択表示部にタリフを割り当て、その中から一つのタリフを選択すると、同一の位置に、当該タリフに対応する細目的な選択肢を表示する構成とすることは、当業者が通常工夫する事項の範囲内というべきであり、タクシーメータについてこのような構成を想起することが困難であることをうかがわせる事情も存在しない。
以上のとおり、仮に、甲第1号証のタリフ表示部について、ドットマトリックス方式を採用することが記載されているとは読み取ることができず、甲第8号証の資料第10の別紙1のスイッチの機能の態様や表示が明らかでないことを前提としても、本件特許発明1は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証に基づき、当業者が容易に想到し得たものということができる。

(4)作用効果について
本件特許発明1の奏する効果も、甲第1号証及び甲第8号証に基づき、本件特許発明1の構成とすることにより当然に奏するものと予測されるものにすぎず、予期しない顕著な作用効果であるということはできない。

第6.本件特許発明2ないし4について
本件特許発明1が、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであることは、前示のとおりである。
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用するものであって、請求項1の表示手段が、さらに「液晶表示板を利用してなる」ものであるが、液晶表示板を利用してなる表示手段は、甲第1号証に記載されているのであるから、当業者であれば容易に想到し得たものである。
本件特許発明3も、請求項1の記載を引用するものであって、請求項1の表示手段が、さらに「蛍光表示管を利用してなる」ものであるが、蛍光表示管を利用してなる表示手段は、被請求人も甲1発明当時の機種である「アロフレンド18」のタリフ表示部に蛍光部が設けられていたことを認めているとおり、タクシーメータにおいて周知である。
そして、本件特許発明4も、請求項1の記載を引用するものであって、請求項1のタリフ設定用入力手段と表示手段のタリフ選択表示部が、さらに「液晶表示板の表面に透明の感圧素子で構成されるタッチスイッチが積層され、一体的に構成されてなる」ものであるが、この構成は、ディスプレイタッチが普通に備えているものであり、また、ディスプレイタッチが、甲第1号証及び甲第8号証に記載されていることは、前示のとおりである。
したがって、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし4は、いずれも、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし本件特許発明4は、審判請求人が提示した甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1ないし請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-03 
結審通知日 2008-03-05 
審決日 2006-06-20 
出願番号 特願平2-54504
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G07B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 新海 岳  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 岡本 昌直
佐野 遵
登録日 1995-03-23 
登録番号 特許第1917617号(P1917617)
発明の名称 タクシ?メ?タにおける料金、タリフ並びにタリフ設定画面表示装置  
代理人 柳野 隆生  
代理人 小川 英宣  
代理人 高木 康志  
代理人 森岡 則夫  
代理人 水野 勝文  

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