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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41B
審判 全部無効 発明同一  A41B
管理番号 1176923
審判番号 無効2006-80207  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-17 
確定日 2008-05-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第1970113号発明「使い捨て紙おむつ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第1970113号の請求項1に係る発明についての出願は、特願昭62-7471号(昭和62年1月16日出願)であり、平成7年9月18日に設定登録(請求項の数1)されたものである。
そして、平成18年10月17日に王子ネピア株式会社より無効審判が請求され、平成18年12月28日付けで被請求人大王製紙株式会社より答弁書が提出され、平成19年3月26日付けで請求人より弁駁書が提出されたものである。

II.本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり、かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間しており、前記トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し、さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつ。」(以下「本件特許発明」という。)

III.請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
主張1:
本件特許発明は、その特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物の甲第1号証ないし甲第7号証及び甲第9ないし26号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
主張2:
本件特許発明は、甲第8号証記載の発明と実質的に同一であるから、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開昭61‐207606号公報
甲第2号証:特開昭61‐100246号公報
甲第3号証:欧州特許出願公開第0187726A2号明細書
甲第4号証:特開昭61‐207607号公報
甲第5号証:特開昭51‐66055号公報
甲第6号証:特開昭58‐115107号公報
甲第7号証:実開昭60‐86510号公報
甲第8号証:実願昭60-197496号(実開昭62‐106904号)
甲第9号証:「プラスチックフォームハンドブック」表紙、9頁、奥付
甲第10号証:特開昭60‐173101号公報
甲第11号証:「フレグランスジャーナルNo.65(1984)」
表紙、96?101頁、奥付
甲第12号証:「接着の技術vol.6No.1」表紙、目次、1?11、 81?87頁、奥付
甲第13号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.18,No.1」
1987年1月号表紙、目次、6?7頁、23?24頁、
裏表紙及び訳文
甲第14号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.17,No.7」
1986年7月号表紙、目次、72頁、裏表紙及び訳文
甲第15号証:「ノンウーブンズインダストリーvo1.16,No.5」
1985年5月号表紙、目次、62?63頁、
裏表紙及び訳文
甲第16号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.16,No.3」
1985年3月号表紙、目次、裏表紙の内側、
裏表紙及び訳文
甲第17号証:「ノンウーブンズインダストリーvo1.17,No.2」
1986年2月号表紙、目次、39頁、裏表紙及び訳文
甲第18号証:「ノンウーブンズインダストリーvo1.17,No.9」
1986年9月号表紙、目次、裏表紙及び訳文
甲第19号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.17,No.10 」
1986年10月号表紙、目次、173頁、裏表紙及び訳文
甲第20号証:「ノンウーブンズインダストリーvo1.17,No.12 」
1986年12月号表紙、目次、裏表紙の内側、
裏表紙及び訳文
甲第21号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.15,No.8」
1984年8月号表紙、目次、9頁、裏表紙及び訳文
甲第22号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.15,No.10 」
1984年10月号表紙、目次、74、139頁、
裏表紙及び訳文
甲第23号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.15,No.11 」
1984年11月号表紙、目次、35頁、裏表紙及び訳文
甲第24号証:「ノンウーブンズインダストリーvol.15,No.12 」
1984年12月号表紙、目次、裏表紙の内側、
裏表紙及び訳文
甲第25号証:「ノンウーブンズワールドvol.1,No.2」
1986年8月号表紙、目次、6頁、裏表紙及び訳文
甲第26号証:「ノンウーブンズワールドvol.1,No.3」
1986年11月号表紙、目次、16頁、裏表紙及び訳文

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
(1)主張1に対し、
請求人は、無効理由1として、甲第1号証(特開昭61‐207606号)に記載された発明に、甲第2号証(特開昭61‐100246号)に記載された発明を適用することで当業者が容易に想到し得たものであると主張し、前後漏れ防止を目的として紙おむつの端部に「ホットメルト」を塗布するという手段は、甲第2号証に記載されているのみならず、他の甲号証において記載されているように周知であると主張する。
しかし、請求人主張は、そもそも、前提たる甲第1号証の認定判断を明らかに誤り、これに基づき進歩性判断をなしているものであり、しかも、周知技術を「つぎはぎ」に持ち込んで、到底採用できない独自の論理展開するもので、その結論は誤りであることは明らかである。
(2)主張2に対し、
請求人は、甲第8号証と実質的な相違はなく同一であると主張するが、甲第8号証との相違は明らかであり、実質的な相違はないなどとする主張は誤りであることは明らかである。

IV.当審の判断
1.請求人の主張1について。
(1)各号証の記載事項
[甲第1号証の記載事項]
a:「(1)外側カバー;
(2)身体側ライナー;
(3)外側カバーと身体側ライナーの間の吸収芯;
(4)外側カバーと身体側ライナーの両部分を結合して、外側カバーの外側周辺部及び身体側ライナーの内側周辺部とによって画成されたウエスト開口・・・;
(5)ウエスト開口に沿った弾性要素と各脚開口に沿った弾性要素で、各弾性要素がそれぞれのウエストまたは脚開口に沿って、外側カバーの外側周辺部に結合される外表面と、身体側ライナーの内側周辺部に結合される内表面とを有すること;
(6)ウエスト開口と各脚開口に沿った弾性要素、外側カバーの外側周辺部及び身体側ライナーの内側周辺部の各外縁が実質上一致していること;
(7)ウエスト開口と各脚開口に沿った外側カバーの外側周辺部が、(a)不織繊維性材の外側層とプラスチック材の内側層を有し、内側層が弾性要素の外表面と接触している複合布、(b)合成または天然繊維の不織布または(c)プラスチック膜から成るクラスから選ばれたものであり・・・;
(8)ウエスト開口と各脚開口に沿った外側カバーの外側周辺部が、そこに結合される弾性要素の全外表面に沿って延びた複数の密に離間している接合点を備え、該接合点が弾性要素の伸張方向及びそれを横切る方向に沿って相互に離間しており・・・;
(9)弾性要素が伸張した状態で接合点に沿って結合され、収縮した状態で接合点にのみ結合されたままとなり、接合点間における外側カバーの外側周辺部材料のミクロうねを特徴とする伸縮化ウエスト開口と伸縮化脚開口を与えること;
の組合せから成る一体状の使い捨てパンツ。」(請求項9)

b:「見ばえのよい外観に加え、本発明による伸縮化開口は、使い捨て衣類を人が身につけたとき伸張可能で、伸張化周辺部が取り囲む身体部分の周囲にぴったり、心地よく適合する。これによって、衣類は所定の位置に所望の状態で保持されると共に、特定種類の使い捨て衣類に応じ必要があるときには、液洩れに対してシールする機能も与えられる。」(18頁左上欄下から4行?右上欄5行)

c:「弾性要素の外表面64が接着剤の薄層65に沿って外側カバーに結合され、弾性要素の内表面66が接着剤の薄層67に沿って身体側ライナーに結合されている。接着剤層65、67は、液体接着剤、熱溶融接着剤、感圧接着剤等、弾性要素の材料を衣類の材料へ接合するのに適した任意の接着剤で形成できる。伸縮化開口を形成するその他の構造的特徴は前述した通りで、上記の取り付け用に選ばれる接着剤は、本発明の目的のため弾性要素が収縮されたとき、2つの層の接合点にのみ結合されねばならない。」(16頁右上欄下から3行?同頁左下欄8行)。

d:「実施例の弾性要素は、一対の対向する面状表面を含んだ矩形断面のフラットな弾性テープであった。」(16頁右下欄9?11行)

e:「吸収性の芯22がライナー20とカバー21の間に位置し、線状又は点状の接着剤、感圧テープ、超音波シール、熱シール等当該分野で周知な任意の適切な手段にライナーかカバーのいずれかまたはその両方に固定されるか、…」(6頁右下欄下から3行?7頁左上欄2行)

f:「第4、5図は本発明の第1の必須な特徴を示しており、この特徴に基づき弾性要素25がウエストバンド11に沿って使い捨てパンツの身体側ライナー20と外側カバー21の両方に結合され;…」(7頁左下欄下から8?5行)

以上の記載から、甲第1号証には、次のような発明が記載されているものと認められる。
吸収芯と、身体側ライナーと、外側カバーとを有し、前記身体側ライナーと外側カバーとの間に前記吸収芯が介在されており、
前記吸収芯の長手方向縁より外方に延びて前記身体側ライナーと外側カバーの内側周辺部とによって画成されたウエスト開口において腰回り方向に弾性要素を有する使い捨て紙おむつにおいて、
弾性要素が前記身体側ライナーと前記外側カバーとの間に介在され、前記吸収芯の長手方向縁と離間している使い捨てパンツ。

[甲第2号証の記載事項]
g:「基本的には、透水性の表面シートと不透水性のバックシートと両シート間に介装される吸収体とから構成され、長手方向両端部において表面シートとバックシートが一体的に接合される吸収性物品において、上記透水性表面シートの吸収体側表面上の、上記吸収性物品の少なくとも幅方向中央領域に、上記表面シートとバックシートとの一体的接合部分から吸収体上に臨む位置に亘って延在するホットメルト不透水性被膜を形成したことを特徴とする吸収性物品。」(請求項1)

h:「(作用)上記したように、本発明によれば、使い捨ておむつ、生理用ナプキン等の体液吸収用の吸収性物品において、吸収性物品の長手方向両端部の表裏面シート接合部から吸収体上に臨む位置に亘って、透水性表面シートの吸収体側表面に溶融合成樹脂が塗布され、この領域に不透水性の被膜が形成される。したがって、従来のように肌ざわりを悪化させる漏れ防止材を使用せずとも、この吸収性物品の着用者が俯いてあるいは仰いて横臥する姿勢をとっても、この部分において、吸収体に吸収されている体液が逆流するのが防止されるとともに、吸収性物品の長手方向端部から体液が洩れるのも防止される。」(2頁左下欄11行?同頁右下欄3行)

i:「本実施例によれば、おむつ1の長手方向両端部すなわち着用時腰まわり部に位置する、透水性表面シート3の吸収体側表面に、長さl_(1)に亘ってホットメルト被膜6が形成されている。長さl_(1)は、おむつ1の長手方向両端部すなわち透水性表面シート3と不透水性裏面シート2との接合部分から吸収体4上に臨む適宜位置までの長さである。吸収体4上に臨む長さ、すなわち吸収体4上に重畳される長さとしては、必ずしも限定されないが、例えば2cm?5cm程度が適当である。おむつ1の幅方向において、ホットメルト被膜6は必ずしも上記腰まわり部分の全域に亘って形成する必要はなく、少なくとも洩れの生じ易いおむつ1の幅方向中央部分のみに形成してもよい。ただし、従来の接合のためのホットメルト塗布のように線状に塗布されるのではなく、面状に塗布される。このホットメルト被膜6は、透水性シート3に不透水性を賦与するためのもので、市販のホットメルトを使用することができる。」(2頁右下欄下から3行?3頁左上欄下から5行)。

[甲第4号証の記載事項]
j:「使い捨て衣服における弾性要素30と組合わさった内側及び外側端部の他の構造は、第4図の断面図に示されている。間隔がおかれた弾性要素30間の領域34内の内側及び外側端部31と32の部分は接着剤40の層にそってお互いに接着している。内側及び外側端部は、音波シーリング、ヒートシーリング、及びその類似のもの等の他の適当な手段によって領域34内でお互いに接着させることもできる。内側及び外側端部の部分は、一番内側の弾性要素30に隣接してある領域35にそった接着層41の手段によってもお互いに接着させられる。領域34と35は、第1図において脚部開口13の回りの領域34に関して示したように、伸縮自在閉口の周囲に伸びている。」(4頁左下欄7?20行)

(2)対比
甲第1号証の「吸収芯」、「身体側ライナー」、「外側カバー」は、本件特許発明の「体液吸収体」、「透水性トップシート」、「非透水性バックシート」に相当し、本件特許発明における「使い捨て紙おむつ」は成人用失禁ブリーフ等も含むものであるから、甲第1号証に記載されている「使い捨てパンツ」は本件特許発明の「使い捨て紙おむつ」に相当するものである。
また、甲第1号証において、吸収芯は身体側ライナーと外側カバーの間に介在しており、弾性要素は身体側ライナーと外側カバーとの間に介在しており、弾性要素の形状は実施例によれば弾性テープであるから帯状であり、フラップにおいて腰回り方向に弾性要素を有しており、弾性要素は接着剤の薄層により身体側ライナーに固着されており、吸収芯は線状又は点状の接着剤、感圧テープ、超音波シール、熱シール等当該分野で周知な任意の適切な手段でライナーかカバーのいずれかまたはその両方に固定されており、弾性要素と吸収芯は離間している。また、身体側ライナーと外側カバーとがどのように結合されているかは必ずしも明確ではない。

これらの点を考慮して、本件特許発明と甲第1号証に記載されたものとを対比すると、
両者は、「体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、
前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、
弾性帯が前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間している使い捨て紙おむつ。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件特許発明では、弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、弾性帯が発泡シートであることが明示されていない点。

相違点2:本件特許発明では、トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成しているのに対し、甲第1号証記載の発明では、トップシートのバックシートがわ面と体液吸収体が接着され、トップシートのバックシートがわ面と弾性帯が接着されているが、それ以上の具体的な構成は明記されていない点。

相違点3:本件特許発明では、弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間の離間位置において、ホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成しているのに対し、甲第1号証記載の発明では、弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間は離間しているが、それ以外の構成については明記されていない点。

(3)判断
まず、上記相違点2及び3について検討する。

[相違点2について]
本件特許発明は、トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成するものである。
甲第1号証に記載されているのは、トップシートのバックシートがわ面と弾性要素(弾性帯)が接着剤の薄層に沿って結合され、用いることができる接着剤としては、「液体接着剤、熱溶融接着剤、感圧接着剤等、弾性要素の材料を衣類の材料へ接合するのに適した任意の接着剤」と記載があり、トップシートのバックシートがわ面と吸収芯(体液吸収体)の結合については「線状又は点状の接着剤、感圧テープ、超音波シール、熱シール等当該分野で周知な任意の適切な手段」と記載があることから、ホットメルト接着剤を用いることを排除するものではないが、それが特に適していることを示唆するものではないし、さらにホットメルト接着剤を薄膜とし、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がって用いることを記載あるいは示唆するものでもない。
ホットメルト薄膜自体が使い捨ておむつ等の端部の接着剤として用いることができることは、甲第2号証、甲第5号証及び甲第10?26号証の文献によって公知であると認められるが、それらは使い捨ておむつ等の端部を接着することを開示するのみであって、体液吸収体端部上と弾性帯上とに跨って両者を接着することまでも開示あるいは示唆するものではない。
したがって、甲第1号証に加えて甲第2号証さらに他の各号証の記載を考慮しても、本件特許発明のようにトップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と弾性帯である発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成することは、当業者が容易になし得たものということはできない。

[相違点3について]
本件特許発明は、弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間の離間位置において、ホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成しているものである。
審判請求人は、甲第1号証の記載を、甲第4号証の記載を考慮して解釈すれば、甲第4号証の第4図に示された、腰部開口において弾性要素と吸収芯との間で外側被覆と身体側ライナーとが接着層で接着している構造が甲第1号証に開示されていると理解できる旨主張している。
しかし、審判請求人の主張のように理解するとしても、その構造は帯状ではないストランド状の弾性要素を衣服の開口部に複数本取り付ける際の構造を開示するものであって、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成することを開示するものではない。
本件特許発明は、弾性帯と体液吸収体の両方を固着するためのホットメルト薄膜が両者の離間位置において、透水性トップシートと非透水性バックシートとを接合することにより、体液の前後漏れ防止用シール領域をも形成するものである。
よって、甲第1号証及び甲第4号証の記載は、単に弾性要素を取り付けるための構造を開示するものにすぎないし、使い捨て紙おむつ等においては体液の漏れ防止の構造が必要であるという一般的課題は公知であるとしても、本件特許発明の相違点3に係る構造までも公知であるとは認められない。
したがって、甲第1号証に加えて甲第4号証の記載を考慮し、さらに他の各号証の記載を考慮しても、本件特許発明のように、弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間の離間位置において、ホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成することは、当業者が容易になし得たものということはできない。
そして、本件特許発明は、ホットメルト薄膜を用いて体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着するとともに、弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間の離間位置において、ホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成することにより、シール領域で体液の長手方向の流出を阻止するので、発泡シートの材質やそのバックシートに対する固定態様に関係なく、常に前後漏れを防止できる、という本件特許明細書に記載の効果を奏するものである。

以上のとおりであるから、弾性帯として発泡シートを用いる点(相違点1)が、当業者が容易になし得るものであるとしても、上記相違点2及び3については無効審判請求人が提出した各甲号証の記載に基づいて当業者が容易になし得たものと認められないから、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとする審判請求人の主張1は採用できない。

2.請求人の主張2について。

(1)甲第8号証の記載事項
k:「液透過性の表面シートと液不透過性の裏面シートの間に吸収材を有する使い捨ておむつにおいて、該おむつの腰回り方向の両側縁部に沿って、且つ前記両シートの間に、該おむつの腰囲り方向の両側縁部の長さに等しいかあるいは若干短い長さを有し、且つ、0.5?5cmの巾および0.5?3.0mmの厚さを有するクッション性シートを介在させたことを特徴とする使いすておむつ」(実用新案登録請求の範囲第1項)

l:「クッション性シートが発泡性プラスチックシートである実用新案登録請求の範囲第1項記載の使いすておむつ」(実用新案登録請求の範囲第2項)

m:「吸収材3は綿状パルプ、吸水紙、高吸水性ポリマーとから成り、ポリエチレンなどから成る裏面シート2と、ポリエチレン、あるいはポリプロピレン等の不織布などから成る表面シート1との間にホットメルト接着によって固定されている」(5頁下から3行?6頁3行)

n:「吸収材3は…裏面シート2と…表面シート1との間にホットメルト接着によって固定されている。また…発泡性プラスチックシート6a、6bもホットメルト接着により固定し一体化している」(5頁18行?6頁5行)

以上の記載から、甲第8号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
液透過性の表面シートと液不透過性の裏面シートの間に吸収材を有する使い捨ておむつにおいて、該おむつの腰回り方向の両側縁部に沿って、且つ前記両シートの間に、該おむつの腰囲り方向に発泡プラスチックシートを介在させ、吸収材は裏面シートと表面シートとの間にホットメルト接着によって固定され、発泡プラスティックシートもホットメルト接着により固定し一体化されている使いすておむつ。

(2)対比・判断
甲第8号証に記載された発明の「吸収材」、「液透過性の表面シート」、「液不透過性の裏面シート」、「発泡プラスティックシート」は、それぞれ、本件特許発明の「体液吸収体」、「透水性トップシート」、「非透水性バックシート」、「発泡シート」に相当するから、
両者は、
体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり、かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間している使い捨て紙おむつ。
で、一致しており、以下の点で相違している。
相違点1:トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成している点。

相違点2:発泡シートと体液吸収体の離間位置においてホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成した点。

上記相違点1に関し、審判請求人は、前後漏れ防止を目的として紙おむつの端部(腹部・背部)に「ホットメルト薄膜」を塗布することは多くの文献に記載されており、実際に販売されていた製品にも採用されていた周知技術であったことから(甲2、甲11?26)、この点は実質的な相違点とはいえない、旨主張している。
しかし、甲第8号証には、吸収材はホットメルト接着によって固定され、また発泡性プラスチックシートもホットメルト接着により固定していると記載があるのみで、吸収体と発泡性プラスチックシートを同一のホットメルト薄膜によって接着することが記載されているわけではない。
よって、紙おむつの端部(腹部・背部)に「ホットメルト薄膜」を塗布することが周知であるとしても、ホットメルト薄膜が体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されることが、甲第8号証に記載されているものとは認められない。

相違点2に関し、審判請求人は、甲第8号証の第2図を見ると、「クッション性シート6a/b」と「吸収体3」との間の離間位置において、「液透過性の表面シート1」と「液不透過性の裏面シート2」とが固着されている構成が示されている、旨主張している。
しかし、甲第8号証の第2図は、表面シート1,裏面シート2,吸収材3及び発泡性プラスチックシート6a、6bの相互の配置関係を示しており、吸収材3及び発泡性プラスチックシート6a、6bの間にくびれた部分が図示されているものと認められるが、このくびれ部分がどのようにして形成され、どのような機能を有しているかについては何ら記載されていないのであるから、本件特許発明の、発泡シートと体液吸収体の離間位置においてホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したという構成が、甲第8号証に記載されているものとは認められない。

よって、本件特許発明は、甲第8号証記載の発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとする審判請求人の主張2は、採用することができない。

V.むすび
以上のとおりであるから、審判請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-16 
結審通知日 2007-04-19 
審決日 2007-05-02 
出願番号 特願昭62-7471
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A41B)
P 1 113・ 161- Y (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野寺 務  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 関 信之
豊永 茂弘
登録日 1995-09-18 
登録番号 特許第1970113号(P1970113)
発明の名称 使い捨て紙おむつ  
代理人 奥村 直樹  
代理人 竹内 麻子  
代理人 辻居 幸一  
代理人 渡辺 光  
代理人 永井 義久  
代理人 平山 孝二  
代理人 高石 秀樹  
代理人 外村 玲子  

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