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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1176975
審判番号 不服2006-11420  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-06 
確定日 2008-05-02 
事件の表示 特願2002-361640「育苗ポット連結体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月18日出願公開、特開2003-325056〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成14年12月13日(優先権主張平成14年3月5日)の出願であって、平成18年4月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成18年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成17年12月22日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。(以下、「本願発明」という。)

(本願発明)
「上端に開口部を有するコップ形状の育苗ポットを、縦横方向に複数個並列配置し、相互に隣接する該育苗ポットの上端開口部の各隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を接着剤により連結し形成した育苗ポット連結体において、該接着剤として、酸素もしくは紫外線に曝されると、経時変化による劣化により、各育苗ポットが分離可能となる接着剤を用いることを特徴とする育苗ポット連結体。」

2.刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2001-112348号公報(以下、「引用文献」という。)には、「育苗ポット連結体」に関し、図1?図3とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 上端がほぼ正方形に開口したコップ形状を有する複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部のそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を連結する接着材層を形成し、撒水により前記接着材層を溶解させて各育苗ポットを分離可能としたことを特徴とする育苗ポット連結体。」

(イ)「【0012】この連結体12の各育苗ポット11は、上端がほぼ正方形に開口したコップ形状を有し、例えば、底部が円形、上端開口部がほぼ正方形で、その間の側部は円形の底部周縁から立ち上がった直後からほぼ正方形となっている。尚、育苗ポット11の形状はこれに限らず、円形の底部周縁から若干立ち上がった部位まで円形でそこから上端開口部周縁までほぼ正方形をなすものであってもよい。図中、16は育苗ポット11の底面に形成された排水孔である。
【0013】この連結体12における各育苗ポット11の連設状態は以下のとおりである。相互に隣接する育苗ポット11の上端開口部のそれぞれの隣接対向辺13に接着材層14を形成する。この接着材層14は、後述するように育苗ポット11内に所定量の土壌が収容されて苗が植えられた状態でその苗を生育させるために供給される撒水などによる水分で溶解することにより、各育苗ポット11を個々に分離することが可能となる。」

(ウ)「【0014】この接着材層14としては、例えば、合成のり又は植物性のり等のように所定量の水分によりある程度時間が経過した時点で溶解するものを使用することが望ましい。接着材層14の溶解により各育苗ポット11が分離可能となるまでの期間は、前記接着材層14の材質や量などにより設定変更することが可能である。また、接着材層14は、育苗ポット連結体12の製作時、多数個の育苗ポット11を型に嵌め込んで整列配置した状態で、接着材を各育苗ポットの隣接対向辺と対応する部位に流し込むことにより形成することが可能である。この接着材層14の形成は、前記型による流し込み以外に、専用の治具などにより塗布することも可能である。なお、接着材層14は、隣接する育苗ポット11の隣接対向辺13の全体に亘って形成する以外に、隣接対向辺13の一部(例えば複数箇所)に形成するようにしてもよい。
【0015】このようにして多数個の育苗ポット11が接着材層14により連結一体化された育苗ポット連結体12については、図3に示すように苗aの生育に必要な量の土壌mを各育苗ポット11に供給して苗aを植え付けた上で、各育苗ポット11内の苗aに撒水により定期的に水を供給する。この定期的な撒水により各育苗ポット11の隣接対向辺13に形成された接着材層14に水分が付着すると、その水分により前記接着材層14が溶解して各育苗ポット11を、無理な力を加えることなく容易に個々に分離することができる。」

(エ)「【0016】
【発明の効果】本発明に係る育苗ポット連結体によれば、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部のそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を連結する接着材層を形成し、撒水により前記接着材層を溶解させて各育苗ポットを分離可能としたことにより、従来のようなミシン目による引き千切りと異なり、苗の生育後などに、各育苗ポットを、無理な力を加えることなく容易に個々に分離することが可能となり、作業性が大幅に向上すると共に不所望な箇所での破断による商品的価値の低下を招来することもない。」

そして、上記記載事項(ア)?(エ)並びに図面に記載された内容を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「上端がほぼ正方形に開口したコップ形状を有する複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部のそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を連結する接着材層を形成し、
前記接着材層として、所定量の水分によりある程度時間が経過した時点で溶解するものを使用して、定期的な撒水により前記接着材層を溶解させて各育苗ポットを分離可能とし、
接着材層の溶解により各育苗ポットが分離可能となるまでの期間は、前記接着材層の材質や量などにより設定し、
接着材層は、接着材を各育苗ポットの隣接対向辺と対応する部位に流し込むことにより形成した、育苗ポット連結体。」

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「接着材」は、「合成のり」等を含んでいるのだから、本願発明の「接着剤」に相当するものといえる。してみれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「上端に開口部を有するコップ形状の育苗ポットを、縦横方向に複数個並列配置し、相互に隣接する該育苗ポットの上端開口部の各隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を接着剤により連結し形成した育苗ポット連結体において、該接着剤として、各育苗ポットが分離可能となる接着剤を用いることとする育苗ポット連結体。」

(相違点)
本願発明は、各育苗ポットが分離可能となる接着剤として、「酸素もしくは紫外線に曝されると、経時変化による劣化により、各育苗ポットが分離可能となる接着剤」を用いているのに対し、引用発明では、「所定量の水分によりある程度時間が経過した時点で溶解するもの」を用いている点。

4.当審の判断
上記の相違点について検討する。

引用発明の接着剤は、所定量の水分によりある程度時間が経過した時点で溶解するものであって、接着剤の溶解により各育苗ポットが分離可能となるまでの期間を、接着剤の材質や量などにより設定するものであり、さらに、引用文献の段落【0015】に、
「育苗ポット連結体12については、・・・苗aを植え付けた上で、各育苗ポット11内の苗aに撒水により定期的に水を供給する。この定期的な撒水により各育苗ポット11の隣接対向辺13に形成された接着材層14に水分が付着すると、その水分により前記接着材層14が溶解して各育苗ポット11を、無理な力を加えることなく容易に個々に分離することができる。」
と記載され(上記2.(ウ)参照)、同段落【0016】に【発明の効果】として、
「撒水により前記接着材層を溶解させて各育苗ポットを分離可能としたことにより、従来のようなミシン目による引き千切りと異なり、苗の生育後などに、各育苗ポットを、無理な力を加えることなく容易に個々に分離することが可能となり、」
と記載されている(上記2.(エ)参照)ことからすれば、引用発明の「撒水により前記接着材層を溶解させ」との構成は、ある程度時間が経過した時点で接着剤が溶失して接着力が全く無くなってしまうことを必要としたものでなく、むしろ、ある程度時間が経過した時点で育苗ポットが「無理な力」を加えることなく容易に個々に分離することが可能となる程度に、接着剤が溶解していればよいとみるのが妥当である。そして、接着力の観点からみれば、引用発明の接着剤は、ある程度時間が経過した時点で、無理な力を加えることなく容易に育苗ポットを分離することが可能となる程度に接着力が小さくなるようにしたものであることが、当業者にとって明らかであるといえる。

一方、接着剤においては、酸素もしくは紫外線に曝されると経時変化による劣化により接着力が小さくなる接着剤が、例えば登録実用新案第3005228号公報にもみられるように従来より周知であり、このような周知の接着剤と引用発明の接着剤は、「酸素もしくは紫外線」に曝することで接着力を小さくするか、「定期的な撒水による水」に曝することで接着力を小さくするかの違いはともかく、ある程度の期間が経過すると接着力が小さくなるという点で共通の機能を有しているものといえる。さらに、引用発明の育苗ポット連結体で通常の育苗をすれば、該育苗ポット連結体が酸素や自然光中の紫外線に曝されることもまた自明のことである。これらのことをふまえれば、引用発明の接着剤に代えて、酸素もしくは紫外線に曝されると経時変化による劣化により接着力が小さくなる周知の接着剤を用いようとすることは、当業者が容易に想到しうることである。

そして、本願発明が奏する作用・効果を検討してみても、引用発明及び周知の技術から、当業者が予測しうる範囲のものであって、格別なものとみることはできない。

なお、審判請求人は、平成18年6月6日付け審判請求書を補正する平成18年8月10日付け手続補正書(方式)において、引用発明の接着材は「散水により、水分で溶解して各育苗ポットが分離可能となる接着材」であって、単に溶解という純粋に物理的な変化によって分離可能となるものであり、その溶解によっては、固体から水溶液への状態の変化が起こるにすぎず、接着材自体の劣化(分子量や品質の低減、低下)のような化学変化は何ら起こっていない旨を主張する。

しかし、引用発明の接着剤が、各育苗ポットが分離可能となるまでの期間を接着剤層の材質や量などにより設定するものであり、そのような構成により、ある期間で各育苗ポットを分離可能とすることで、苗の生育後などに、各育苗ポットを無理な力を加えることなく容易に個々に分離することを可能としていることは前記説示のとおりである。
そして、接着剤においては、酸素もしくは紫外線に曝されると経時変化による劣化により接着力が小さくなる接着剤が従来より周知であるのだから、引用発明の接着剤の、定期的な撒水を前提としてある程度の期間が経過すると接着力が小さくなるという作用が、「溶解」という物理的な変化によるものであり、上記周知の接着剤の、ある程度時間が経過すると接着力が小さくなるという作用が、「接着剤自体の劣化」によるものであるという違いがあったとしても、両者は、接着剤である点で共通する上に、ある程度時間が経過すると接着力が小さくなるという点ではその機能に違いはないのだから、引用発明の接着剤に代えて上記周知の接着剤を用いようとすることは、当業者が容易に想到しうることといわざるをえない。

また、請求人は、「紫外線の照射により経時的に接着力が劣化」する接着剤が単に周知であるからといって、引用発明の目的や性能とは無関係に単に周知であるというだけでは、引用発明の接着剤を当業者にとって周知のものに置換することの動機付けはない旨も主張する。
しかし、接着剤においては、酸素もしくは紫外線に曝されると経時変化による劣化により接着力が小さくなる接着剤が従来より周知であり、引用発明の接着剤と上記周知の接着剤は、接着剤である点で共通する上に、ある程度時間が経過すると接着力が小さくなるという点ではその機能に違いはないのだから、引用発明の接着剤に代えて上記周知の接着剤を用いようとすることに動機付けがないとする請求人の上記主張は、採用することができない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2008-02-21 
結審通知日 2008-02-26 
審決日 2008-03-11 
出願番号 特願2002-361640(P2002-361640)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 五十幡 直子
石井 哲
発明の名称 育苗ポット連結体  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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