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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1177007
審判番号 不服2005-11335  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-16 
確定日 2008-05-01 
事件の表示 特願2001-380894「光情報記録媒体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月4日出願公開、特開2003-187504〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月14日の出願であって、拒絶理由通知に対し平成17年4月18日付けで手続補正がされたが、同年5月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年7月19日付けで手続補正がされたものである。

2.平成17年7月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年7月19日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
(1)補正後の本願発明
平成17年7月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「トラックピッチが200?400nmで、溝深さが20?150nmで、波長が450nm以下の光で記録再生する光情報記録媒体の製造方法であって、
基板上に金属反射層を形成する金属反射層形成工程;
該金属反射層上に有機色素系の記録層を塗布法で形成する記録層形成工程;及び
該記録層上に0.01?0.5mmのカバー層を形成するカバー層形成工程;
をこの順に有し、
前記金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの時間が6時間以下であること、及び
前記金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの保存温度を20?25℃とし、保存湿度を30?50%とすること、
を特徴とする光情報記録媒体の製造方法。」
と補正された。
上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「記録層」の形成方法を「塗布法」に限定し、「金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの時間」について補正前の「12時間以下」を「6時間以下」に、同じく「保存温度及び湿度」について、それぞれ「20?40℃、30?80%」を「20?25℃、30?50%」とその範囲をさらに限定するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物には、それぞれ、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加した。)

ア.特開2001-287465号公報(平成13年10月16日公開。以下、引用例1という。)には、「光記録媒体」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光記録媒体、特に波長430nm以下の短波長レーザーで記録を施す高密度記録可能な記録層を有する光情報記録媒体に関する。」(2頁左欄)
(ア-2)「【0015】又、別の実施形態として、特開平10-302310号公報に開示の構成、例えば、図2に示すように、案内溝の形成された支持基板1’上に、反射層3’、有機色素を主成分とする記録層2’がこの順で成膜され、この記録層2’上に任意に形成される透明保護層4’を介して光透過層5’が形成され、情報の記録及び再生は、光透過層5’側から実施される。尚、逆に光透過層5’側に案内溝を形成し、その上に透明保護層4’、記録層2’、反射層3’を積層し、支持基板1’と貼り合わせる構成としても良い。」(4頁左欄)
(ア-3)「【0017】これらの基板の表層には、サブミクロンオーダーの案内溝及び/又はプレピットが螺旋状又は同心円上に形成されていても良い。これら案内溝及びプレピットは、基板形成時に付与されているのが好ましく、スタンパー原盤を用いての射出成型や、フォトポリマーを用いた熱転写法により付与することができる。尚、図2における光透過層5’に案内溝及び/又はプレピットを形成しても良く、付与する場合も同様の方法を適用できる。案内溝のピッチ及び深さは、DVDよりも高密度記録を行うHD-DVDRの場合、ピッチとして0.25?0.80μm、深さとして20?150nmの範囲から選択するのが好ましい。」(4頁左欄)
(ア-4)「【0021】この様にして選択される有機色素の基本分子の母核には、各種の置換基修飾が成されていても良く、それにより波長フィッティング、色素の溶解性などの加工性改善などが成される。これらの材料は、通常、適切な溶媒に溶解又は分散させてスピンコート法、スプレー法等で塗布し、乾燥させることで成膜することができる。又、より高密度の記録を目的に、支持基板或いは光透過層に形成される案内溝の溝間(ランド部)、溝内(グルーブ部)双方への記録(ランド・グルーブ記録)に対しては、グルーブ、ランド双方への色素膜厚の均一制御を達成する必要上、真空蒸着法、スパッタ法、分子線ビーム(MBE)法などの方法が適用される。案内溝内(グルーブ部)及び案内溝間(ランド部)の双方に記録領域を備えるためには、案内溝深さの半分の深さで測定した案内溝幅と案内溝間隔の比率を0.8?1.2の範囲にする、あるいは案内溝内及び案内溝間の双方に例えばセクター管理用のプレピットを形成する、などの方法がある。」(5頁右欄)
(ア-5)「【0034】 実施例3
ピッチ0.55μm、溝深100nm、溝幅0.27μmのグルーブ形状を有したスタンパー原盤から熱転写法により形成した厚さ1.2mmのアクリル2P基板上に、AgPdCu合金からなる反射層を50nm厚にスパッタ法で形成し、その上に実施例1で用いた式(A)のジアザポルフィリン色素を真空蒸着法により厚み80nmに成膜した。その上に、SiO2透明層を厚み2nmにスパッタ法で形成し、更にその上にUV接着剤を塗布し、厚み100μmのポリカーネート製薄型シートを貼り付けた。
【0035】該媒体を薄型シート側から、波長403nm、NA=0.80の2枚組レンズで集光し、記録ピットをランド及びグルーブ双方に形成した。
線速度=7m/sで、線密度0.25μmの最短ピットが、記録パワー=6mWでランド部=46dB、グルーブ部=48dBのCN比にて観測された。」(6頁右欄?7頁左欄)

上記記載事項(特に下線部参照)によれば、引用例1には、
「案内溝のピッチ及び深さが0.25?0.80μm、20?150nmで、波長が430nm以下の短波長レーザーで記録を施す光情報記録媒体の製造方法であって、
支持基板上に、反射層、有機色素を主成分とする記録層がこの順で成膜され、記録層上に任意に形成される透明保護層を介して光透過層が形成される工程を有する光情報記録媒体の製造方法」の発明(以下「引用例1発明」という。)が開示されている。

イ.特開2000-40255号公報(以下、引用例2という。)には、「光情報記録媒体及びその製造方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(イ-1)「【請求項5】基板上に、レーザ光の照射により情報を記録することができる記録層を有し、該記録層上に光反射層及び保護層を有するヒートモード型の光情報記録媒体の製造方法において、
銀を含む材料で前記光反射層を形成し、
前記光反射層の成膜後に2秒以上、5分以内で前記保護層を形成することを特徴とする光情報記録媒体の製造方法。」(特許請求の範囲)
(イ-2)「【0055】光反射層208の材料である光反射性物質はレーザ光に対する反射率が高い物質であり、その例としては、Mg、…<中略>…、Biなどの金属及び半金属あるいはステンレス鋼を挙げることができる。
【0056】これらのうちで好ましいものは、Cr、Ni、Pt、Cu、Ag、Au、Al及びステンレス鋼である。これらの物質は単独で用いてもよいし、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。または合金として用いてもよい。特に好ましくはAgもしくはその合金である。
【0057】光反射層208は、例えば、前記光反射性物質を蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティングすることにより記録層の上に形成することができる。反射層の層厚は、一般的には10?800nmの範囲、好ましくは20?500nmの範囲、更に好ましくは50?300nmの範囲で設けられる。」(6頁右欄)
(イ-3)「【0069】特に本実施の形態では、前記光反射層208の成膜後に2秒以上、5分以内で保護層を形成するようにしており、具体的には、光反射層208の成膜後に2秒以上、5分以内でUV硬化液を塗布するようにしている。このため、光反射層208の成膜後に、該光反射層208が酸化されるのを有効に防止することができ、光反射率の向上、エラーの発生率の低下を更に促進させることができる。」(7頁右欄)

(3)対比
光記録媒体において、ランド又はグルーブの一方に記録するものと、ランドとグルーブの双方に記録するものがあることは周知であり、ランド又はグルーブに記録する場合のトラックピッチは、案内溝のピッチと同じであり、ランド及びグルーブに記録する場合にはトラックピッチは案内溝ピッチの約半分となる。
引用例1の実施例3の場合、(溝)ピッチ0.55μm、溝幅0.27μmで、ランド及びグルーブに記録しており、トラックピッチは約0.27μm(270nm)になるから、引用例1発明における案内溝のピッチ0.25?0.80μm(250?800nm)は、本願補正発明のトラックピッチ200?400nmと重複する範囲である。
また、引用例1発明で使用する波長430nmは、本願補正発明の波長450nm以下と重複するから、引用例1発明の「案内溝のピッチ及び深さが0.25?0.80μm、20?150nmで、波長が430nm以下の短波長レーザーで記録を施す光情報記録媒体の製造方法」は、本願補正発明の「トラックピッチが200?400nmで、溝深さが20?150nmで、波長が450nm以下の光で記録再生する光情報記録媒体の製造方法」に相当する。
そして、引用例1発明の「支持基板」「反射層」「有機色素を主成分とする記録層」「光透過層」は、それぞれ、本願補正発明の「基板」「金属反射層」「有機色素系の記録層」「カバー層」に相当し、引用例1発明において、有機色素を主成分とする記録層の形成方法としてスピンコート法、スプレー法等で塗布する方法を開示している(上記ア-4)から、引用例1発明の「支持基板上に、反射層、有機色素を主成分とする記録層がこの順で成膜され、記録層上に任意に形成される透明保護層を介して光透過層が形成される工程」は、本願補正発明の「基板上に金属反射層を形成する金属反射層形成工程;
該金属反射層上に有機色素系の記録層を塗布法で形成する記録層形成工程;及び
該記録層上にカバー層を形成するカバー層形成工程;
をこの順に有する」に相当する。

そこで、本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、両者は、
「トラックピッチが200?400nmで、溝深さが20?150nmで、波長が450nm以下の光で記録再生する光情報記録媒体の製造方法であって、
基板上に金属反射層を形成する金属反射層形成工程;
該金属反射層上に有機色素系の記録層を塗布法で形成する記録層形成工程;及び
該記録層上にカバー層を形成するカバー層形成工程;
をこの順に有する光情報記録媒体の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

ア.カバー層の厚さが、本願補正発明では、0.01?0.5mmと特定されているのに対し、引用例1発明では特定されていない点。[相違点1]
イ.本願補正発明では金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの時間が6時間以下であるのに対し、引用例1発明では、金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの時間について特定されていない点。[相違点2]
ウ.本願補正発明では、金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの保存温度を20?25℃とし、保存湿度を30?50%とするのに対し、引用例1発明では、金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの保存温度、保存湿度について特定されていない点。[相違点3]

(4)判断
[相違点1]について
引用例1には、本願補正発明のカバー層に相当する光透過層として厚さ100μm(0.1mm)のポリカーネート製薄型シートを用いた例(実施例3)が記載されている。
カバー層の厚みとして、0.1mmを含む範囲である0.01?0.5mmとすることは当業者が適宜設定しうる範囲にすぎない。

[相違点2]について
引用例2には、光反射層の成膜後に2秒以上、5分以内で前記保護層を形成して構成することにより、銀を含む材料からなる光反射層の成膜後に、該光反射層が酸化されるのを有効に防止することができ、光反射率の向上、エラーの発生率の低下を促進させることができることが記載されている。(上記イ-1?イ-3)。
スパッタ法等により製膜される金属反射層が酸化されやすいことは周知であり、引用例1発明において、金属反射膜を製膜後長時間空気に晒すことなく、速やかに金属反射膜をカバー層で保護すべきであることは当業者にとって自明である。
金属反射層形成工程の終了直後からカバー層形成工程開始までの時間を6時間以下とすることは、当業者が適宜なしうる事項にすぎず、金属反射膜の製膜からカバー層形成までの時間が6時間以下であることに格別な技術的意義があるものと認めることはできない。

[相違点3]について
一般に、金属が空気中の酸素や湿気によって酸化されることや、化学反応は温度が高いほど早くなることは、当業者にとって技術常識であるから、金属反射層形成工程の終了直後からカバー層形成工程開始まで高温多湿を避けて保存することは常套手段である。
そうすると、保存温度を通常の室温の範囲内である20?25℃とし、保存湿度を30?50%とすることは当業者が容易に想到しうる事項にすぎず、かかる保存温度、保存湿度とすることによる効果も当業者が予測しうるものである。

そして、本願補正発明の上記各相違点について総合的に検討しても、上記各相違点による作用効果は、引用例1、引用例2及び技術常識から当業者が予測できる範囲のものである。

なお、請求人は、「本願発明が解決しようとする課題は、基板上に反射層と記録層と光透過層とが順次形成されたブルーレイディスクの層構成で、かつ有機色素を含有する塗布液を塗布して記録層を形成する光情報記録媒体において特有の課題である」旨主張しているが、金属反射層が酸化されることによりエラー発生率が上昇することを防止するため、形成後の金属反射層が水分・酸素に晒される時間を短くすることは、引用例2の光情報記録媒体と共通する事項であるから、本願補正発明と層構成が同じ光情報記録媒体が記載された引用例1に対し、引用例2に記載の発明を結びつける動機付けがある。

したがって、本願補正発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成17年7月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年4月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「トラックピッチが200?400nmで、溝深さが20?150nmで、波長が450nm以下の光で記録再生する光情報記録媒体の製造方法であって、
基板上に金属反射層を形成する金属反射層形成工程;
該金属反射層上に有機色素系の記録層を形成する記録層形成工程;及び
該記録層上に0.01?0.5mmのカバー層を形成するカバー層形成工程;
をこの順に有し、
前記金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの時間が12時間以下であること、及び
前記金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの保存温度を20?40℃とし、保存湿度を30?80%とすること、
を特徴とする光情報記録媒体の製造方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明において限定された事項である、「記録層」の形成方法を「塗布法」とした限定、「金属反射層形成工程の終了直後から前記カバー層形成工程開始までの時間」について補正前の「12時間以下」を「6時間以下」とした限定、同じく「保存温度及び湿度」について、それぞれ「20?40℃、30?80%」を「20?25℃、30?50%」とその範囲をさらに限定を解除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-03 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願2001-380894(P2001-380894)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭橘 均憲  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 漆原 孝治
横尾 俊一
発明の名称 光情報記録媒体の製造方法  
代理人 西元 勝一  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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