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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1177021
審判番号 不服2005-21831  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-11 
確定日 2008-05-01 
事件の表示 平成 9年特許願第151178号「スクリーン印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月22日出願公開、特開平10-337843〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年6月9日の出願であって、平成17年10月7日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年11月11日付けで本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年11月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容・補正目的
本件補正は特許請求の範囲を補正する内容を含むものであって、本件補正により特許請求の範囲は、
「【請求項1】 スクリーン版の他面側に被印刷物を密着させ、スクリーン版の一面側からスキージにより印刷ペーストを刷り込むことによりスクリーン版に形成された印刷パターンの開口部に印刷ペーストを充填した後、スクリーン版から被印刷物を分離させることにより前記開口部に充填された印刷ペーストを被印刷物側に引き抜いて印刷するスクリーン印刷方法において、
前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、開口部への印刷ペーストの充填状態を検査して、その検査結果が不良である場合に印刷ペーストの充填動作パラメータを調整し、印刷ペーストの充填状態の検査結果が良好である場合に前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、そのときの被印刷物上の印刷ペーストの印刷状態を検査して、その検査結果が不良である場合には分離動作パラメータを調整し、各検査において不良が検出されない状態が得られたときにスクリーン印刷の製造工程を開始することを特徴とするスクリーン印刷方法。」
から、
「【請求項1】 スクリーン版の他面側に被印刷物を密着させ、スクリーン版の一面側からスキージにより印刷ペーストを刷り込むことによりスクリーン版に形成された印刷パターンの開口部に印刷ペーストを充填した後、スクリーン版から被印刷物を分離させることにより前記開口部に充填された印刷ペーストを被印刷物側に引き抜いて印刷するスクリーン印刷方法において、
前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、開口部への印刷ペーストの充填状態を検査して、その検査結果が不良である場合に前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、印刷ペーストの充填動作パラメータを調整した後、スクリーン版の他面側に新たな被印刷物を密着させて、前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、印刷ペーストの充填状態を検査することを繰り返し、印刷ペーストの充填状態の検査結果が良好である場合に前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、そのときの被印刷物上の印刷ペーストの印刷状態を検査して、その検査結果が不良である場合には分離動作パラメータを調整し、各検査において不良が検出されない状態が得られたときにスクリーン印刷の製造工程を開始することを特徴とするスクリーン印刷方法。」
と補正された。
つまり、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である、スクリーン版に形成された印刷パターンの開口部に印刷ペーストを充填させた際の充填状態の検査結果が不良である場合の印刷ペーストの充填動作パラメータの調整に関し、補正後の請求項1で「前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、印刷ペーストの充填動作パラメータを調整した後、スクリーン版の他面側に新たな被印刷物を密着させて、前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、印刷ペーストの充填状態を検査することを繰り返し」と記載し、スクリーン版から被印刷物を分離させて新たな被印刷物に交換し、当該新たな被印刷版に印刷ペーストを充填させ、その印刷ペーストの充填状態を検査する一連の動作を繰り返すことを限定しており、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に記載された特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすか)について、以下で検討する。

2.補正発明の独立特許要件の判断
A.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、平成8年12月24日に頒布された特開平8-336946号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)【特許請求の範囲】
「【請求項1】 スクリーンマスク版とスキージを用いてクリーム半田をプリント回路基板に印刷塗布するクリーム半田印刷方法において、
クリーム半田印刷後でかつ上記スクリーンマスク版と上記プリント回路基板とが完全に分離する直前の版離れ位置に上記プリント回路基板と上記スクリーンマスク版のいずれか一方が到達するまで、上記プリント回路基板と上記スクリーンマスク版とのいずれか一方をいずれか他方から離間する方向に第1移動速度で移動させ、
上記版離れ位置に上記プリント回路基板と上記スクリーンマスク版のいずれか一方が到達したときに、上記第1速度を該第1移動速度より速い第2移動速度に切り換えるようにしたことを特徴とするクリーム半田印刷方法。
【請求項2】 上記切換工程において、上記プリント回路基板と上記スクリーンマスク版との間にまたがっているクリーム半田に脆性破壊が生じるように、上記版離れ位置で上記第1移動速度を上記第2移動速度に切り換えるようにした請求項1に記載のクリーム半田印刷方法。
【請求項3】 上記切換工程において、上記第2移動速度は上記第1移動速度の100倍以上速いようにした請求項1又は2に記載のクリーム半田印刷方法。
・・・
【請求項5】 上記切換工程は、
上記プリント回路基板に印刷された上記クリーム半田塗膜の断面形状を測定する工程と、
上記クリーム半田塗膜の厚さに対して上記測定された断面形状中の上記クリーム半田の角立ち高さを最小にするように上記版離れ位置を設定する工程とを備えるようにした請求項1?4のいずれかに記載のクリーム半田印刷方法。」

(イ)【0027】?【0028】
「【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態のクリーム半田印刷装置について、図1?図4を参照して説明する。
・・・図1において、1はスクリーンマスク版、2はプリント回路基板、3はスキージ、4はクリーム半田、5はプリント回路基板2を上下移動可能に支持するステージ、6は例えばボールネジとナットより構成されるステージ5の上下移動機構、7は例えば上記ナットを正逆回転させてボールネジを上下させるモータより構成される上記上下移動機構の駆動手段である。」

(ウ)【0029】
「以上のように構成されたクリーム半田印刷装置の動作を説明する。プリント回路基板2はステージ5にて持ち上げられてスクリーンマスク版1に接触させられる。次に、スクリーンマスク版1上にクリーム半田4が供給され、このクリーム半田4をスキージ3で掻き取りながらスクリーンマスク版1のマスクに形成された開口部(以下、マスク開口部と称する)11内にクリーム半田4を充填して行く。例えばウレタンゴムのような柔らかい弾性変形体から成るスキージ3を用いた場合、図2に示すように、マスク開口部11内で弾性復元するためクリーム半田4が掻き取られ、クリーム半田印刷厚さすなわち印刷されたクリーム半田の平均厚さtはスクリーンマスク版1の厚さTよりもその分薄くなる。なお、図2において、12はプリント回路基板2の銅箔ランドである。」

(エ)【0030】
「クリーム半田4の充填が完了すると、スクリーンマスク版1と密着したプリント回路基板2をスクリーンマスク版1から引き離す工程に入る。図3にその時のスクリーンマスク版1の挙動とマスク開口部11内に充填されたクリーム半田4の様子を示す。即ち、図3(a)に示すクリーム半田4の充填完了状態からプリント回路基板2を所定の速度で下降させ、図3(b)に示すスクリーンマスク版1のマスクの自由平面状態を経て図3(c)に示す版離れ状態に向けてさらに下降させる。この(b)から(c)の過程でマスク開口部11内に充填されたクリーム半田4がプリント回路基板2に密着した状態でマスク開口部11から徐々にずり取られて行く。そして、完全に版離れすると図3(d)に示すようにスクリーンマスク版1のマスクがその弾性復元力によって振動し、その後図3(e)に示すようにスリーンマスク版1のマスクはその自由平面で静止するとともにプリント回路基板2はさらに搬送位置に向けて下降する。このスクリーンマスク版1の引き離す工程、特に図3の(b)から(c)の工程におけるプリント回路基板2の下降速度制御によってプリント回路基板2へ転写されるクリーム半田4の形状が決定される。」

(オ)【0031】
「詳細に説明すると、マスク開口部11内に充填されたクリーム半田4がプリント回路基板2上に転写されるためには、マスク開口部11の壁面からクリーム半田4をずりとるのに必要な力よりも、クリーム半田4とプリント回路基板2との間に生じる密着力の方が大きくなければならない。例えば、チキソトロピー性を持つ粘性流体から成るタイプのクリーム半田4の場合、速い速度でマスク開口部11の壁面からクリーム半田4をずりとろうとすると大きなずり応力が発生し、そのときクリーム半田4とプリント回路基板2との間の密着力の方が小さいと、クリーム半田4はマスク開口部11内に取り残されることになる。実験によれば、マスクの厚みが150μmのスクリーンマスク版1からプリント回路基板2を引き離す版離れ速度は、0.1mm/sぐらいが適切である。その適切値は、クリーム半田4の粘性特性によって変わってくる。」

(カ)【0032】
「次に、このままの遅い版離れ速度(例えば0.1mm/sec程度)でスクリーンマスク版1とプリント回路基板2を完全に引き離してもプリント回路基板2上に転写されるクリーム半田4の印刷形状は良くない。これはスクリーンマスク版1とプリント回路基板2との版離れ時に両者にまたがるクリーム半田4が延性破壊することによって図5に示す角立ち14が発生するためである。延性破壊したクリーム半田4の一部は印刷断面形状の角立ちとして現れ、他の一部はスクリーンマスク版1の裏面への付着として現れる。この裏面へ付着したクリーム半田が、次の印刷時にクリーム半田の印刷にじみを引き起こす原因となる。これを解決するためには、スクリーンマスク版1とプリント回路基板2との版離れ時に両者にまたがるクリーム半田4を脆性破壊すればよい。このためには、上記遅い版離れ速度のままでスクリーンマスク版1とプリント回路基板2を完全に引き離してしまうのではなく、適切な位置で版離れ速度を速くして一挙にクリーム半田4をマスク開口部11から引き離すことが求められる。実験によれば、この版離れ速度は20mm/s程度であればよい。上記プリント回路基板の移動速度すなわち版離れ速度を低速から高速に切り換えるとき、クリーム半田の脆性破壊をより確実に生じさせるため、100倍以上の速い速度に切り換えるようにすることが好ましい。例えば、約0.1mm/secの低速を約20mm/secの高速に切り換えるのが好ましい。」

(キ)【0033】
「次に、この版離れ速度を速くする適切な位置(本明細書ではこれを「版離れ位置」と称する)の求め方について図4を参照して説明する。」

(ク)【0041】
「また、上記実施形態では、スクリーンマスク版1の振動波形を検出して版離れ位置を求める方法を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、版離れ位置が適切でない場合に、図5に示すようにクリーム半田印刷後のクリーム半田4の印刷断面形状に角立ち14が現れるので、図6に示すように版離れ速度を高速に切り換える位置を種々に変化させてそのときのクリーム半田4の印刷断面形状から角立ち高さhを測定し、角立ち高さhが最も低くなる位置を版離れ位置として設定しても良好なクリーム半田印刷形状が得られる。なお、図6の版離れ位置はマスクの自由平面からの距離で示されている。」

(ケ)【0042】
「図9は、上記実施形態において角立ち14を検出する方法を示す。クリーム半田印刷後、ステージ5からプリント回路基板2を取り出して実線で示す角立ち測定位置に位置させ、レーザ発光兼受光装置81によりレーザをプリント回路基板2に向けて発射し、プリント回路基板2で反射された反射レーザを再びレーザ発光兼受光装置81により受け取って、プリント回路基板2の表面のクリーム半田の断面形状を測定する。レーザ発光兼受光装置81からプリント回路基板2へのレーザの照射は、スキージ3の移動方向沿いに行われるのが好ましく、プリント回路基板2上の各クリーム半田部分に対して最低1つのクリーム半田部分の断面形状が取れるようにレーザを照射する。この測定されたデータは断面形状検出部82に記憶され、形状判定部83により、上記断面形状検出部82で記憶されたクリーム半田部分のうちの角部分の高さが許容高さ以上であるとき、版離れ位置の設定位置を変更し、変更後の版離れ位置でもってステージ5の下降速度を低速から高速に切り換えるように駆動制御手段10で駆動手段7の駆動を制御する。」

(コ)【0043】
「なお、形状判定動作と版離れ位置の設定及び変更動作とを上記実施形態では1つの形状判定部83で行うようにしたが、別々の部分で行うようにしてもよい。上記許容高さは、隣接するクリーム半田部分の間で上記角部分が倒れ込んで誤って互いに接続してしまうブリッジ状態が生じない程度の高さとするのが好ましく、経験的に設定したのち、印刷状態を見て適宜変更するのが好ましい。」

上記(ウ)には、クリーム半田印刷装置の動作として、「プリント回路基板2はステージ5にて持ち上げられてスクリーンマスク版1に接触させられる。次に、スクリーンマスク版1上にクリーム半田4が供給され、このクリーム半田4をスキージ3で掻き取りながらスクリーンマスク版1のマスクに形成された開口部(以下、マスク開口部と称する)11内にクリーム半田4を充填して行く。」と記載されている。
上記において、スクリーンマスク版1のプリント回路基板2が接触させられる面と、クリーム半田4が供給され、スキージ3が掻き取り動作を行う面とは、互いに反対の面であることは明らかであるから、スクリーンマスク版1におけるスキージ3側の面を一方の面側とし、プリント回路基板2が接触させられる面を他方の面側ということができる。
また、上記(エ)に「クリーム半田4の充填が完了すると、スクリーンマスク版1と密着したプリント回路基板2をスクリーンマスク版1から引き離す工程に入る。」と記載されていることから、クリーム半田4の充填工程においては、スクリーンマスク版1とプリント回路基板2とが密着していることは明らかである。
上記(ケ)の「この測定されたデータは断面形状検出部82に記憶され、形状判定部83により、上記断面形状検出部82で記憶されたクリーム半田部分のうちの角部分の高さが許容高さ以上であるとき、版離れ位置の設定位置を変更し、変更後の版離れ位置でもってステージ5の下降速度を低速から高速に切り換えるように駆動制御手段10で駆動手段7の駆動を制御する。」との記載から、上記(ア)に記載された「上記クリーム半田塗膜の厚さに対して上記測定された断面形状中の上記クリーム半田の角立ち高さを最小にするように上記版離れ位置を設定する工程」(【請求項5】の記載)は、常に行う工程ではなく、測定結果が許容以上であるときに行う工程であると解される。

以上、上記(ア)?(コ)の記載等を勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「スクリーンマスク版1の他方の面側にプリント回路基板2を密着させ、上記スクリーンマスク版1の一方の面側から上記スクリーンマスク版1上にクリーム半田4を供給し、このクリーム半田4をスキージ3で掻き取りながら上記スクリーンマスク版1のマスクに形成された開口部11内に上記クリーム半田4を充填し、上記クリーム半田4の充填が完了すると、上記スクリーンマスク版1から上記プリント回路基板2を引き離し、上記開口部11内に充填された上記クリーム半田4を上記プリント回路基板2に印刷塗布するクリーム半田印刷方法において、
上記開口部11内に上記クリーム半田4の充填を完了した後、上記スクリーンマスク版1と上記プリント回路基板2とが完全に分離する直前の版離れ位置に上記プリント回路基板2が到達するまで、上記プリント回路基板2を離間する方向に第1移動速度で移動させ、上記版離れ位置に上記プリント回路基板2が到達したときに、上記第1移動速度を該第1移動速度より速い第2移動速度に切り換えるようにし、上記切換工程は、上記プリント回路基板2に印刷された上記クリーム半田4塗膜の断面形状を測定する工程と、測定結果が許容以上である場合、上記クリーム半田4塗膜の厚さに対して上記測定された断面形状中の上記クリーム半田4の角立ち高さを最小にするように上記版離れ位置を設定する工程とを備えるようにしたクリーム半田印刷方法。」

同じく原査定の拒絶の理由に引用され、平成6年10月11日に頒布された特開平6-286105号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(サ)【特許請求の範囲】
「【請求項1】 スクリーン印刷版を介して基板表面にクリームハンダを塗布する際、前記スクリーン印刷版に形成された認識マークにクリームハンダを供給した後、前記認識マークを画像認識し、前記基板表面に塗布されるクリームハンダが一定高さになるように、認識結果に基づいて印刷圧力を制御することを特徴とするクリームハンダの印刷方法。
【請求項2】 請求項1記載の認識結果に基づいて印刷圧力及び印刷速度を制御することを特徴とするクリームハンダの印刷方法。」

(シ)【0006】
「本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、粘度測定等を必要とすることなく、実際に塗布されたクリームハンダの印刷版上における広がり状態を制御要因とすることにより、より正確な操作条件で一定量のクリームハンダをプリント基板に供給することを目的とする。」

(ス)【0007】?【0009】
「本発明者等は、スクリーン印刷によってプリント基板に塗布されたクリーム半だの広がり状態に粘度がどのような影響を与えるかにつき、詳細に調査・研究した。印刷版を介してプリント基板に塗布されたクリームハンダの広がり状態は、粘度に応じて顕著に異なっている。そこで、この広がり状態を制御用のデータとするとき、粘度の測定を必要とすることなく、現在の粘度に応じた印刷条件を設定できるものと考えた。
・・・口径の大きな孔部が形成された印刷版3を介してクリームハンダ4をプリント基板2に印刷するとき、塗布されたクリームハンダ4は、孔部に充填された状態が粘度に応じて図3のように変わる。高粘度のクリームハンダ4は、印刷版3に形成されている孔部5を十分に埋めることができず、孔部5の内壁との間に空洞6が生じ易い。プリント基板2から印刷版3を分離すると、図3中段左に示すように転写不良の状態でクリームハンダ4が盛られたプリント基板が得られ、ハンダ不足となる。低粘度のクリームハンダ4は、印刷版3の孔部5に円滑に供給され、孔部5の内壁との間に空洞6を形成することはない。しかし、クリームハンダ4は、供給された後で表面張力の影響を受け、またスキージで削り取られるため、中央部が窪んだ状態で孔部5内に充填される。この状態は、プリント基板2から印刷版3を分離した後でも維持され、ややハンダ不足になる。
・・・これに対し、適正粘度のクリームハンダ4が供給される場合、印刷版3の孔部5がクリームハンダ4で過不足なく充填され、印刷版3の孔部パターンを正確に転写した状態で所定量のクリームハンダ4がプリント基板2の表面に盛り上げられる。プリント基板2にスクリーン印刷されたクリームハンダ4は、印刷時の圧力によってもその形状が変わる。図3では、印刷圧力の影響を粘度による影響と対比して示す。大きな印刷圧力では、印刷版3の孔部5に充填されたクリームハンダ4の上層部がスキージで削り取られ、中央部が窪んだ状態になる。印刷圧力が小さい状態では、スキージによる削取りが不十分で、印刷版3の表面にクリームハンダ4が残留する。」

(セ)【0010】
「クリームハンダ4の充填状態に与える印刷圧力の影響(図3下段)を粘度の影響(図3上段)と比較すると、大きな印刷圧力で印刷されたクリームハンダ4の充填状態は、低粘度のクリームハンダ4で印刷したときの充填状態に近似している。他方、小さな印刷圧力で印刷されたクリームハンダ4の充填状態は、高粘度のクリームハンダ4で印刷したときの充填状態に近似している。この粘度と印刷圧力との関係から、低粘度の状態にあるクリームハンダ4でスクリーン印刷する場合、小さな印刷圧力で印刷するとき、中央部の窪みが解消され、正常状態に近い充填形態でクリームハンダ4が供給されることが判る。逆に、高粘度の状態にあるクリームハンダ4でスクリーン印刷する場合、印刷圧力を大きく設定することにより、印刷版3の表面に残留しがちなクリームハンダ4をスキージで十分に削り取り、正常状態に近い充填形態でクリームハンダ4が供給されることが判る。」

(ソ)【0011】?【0013】
「印刷圧力の調整でクリームハンダ4の供給量を一定にすることは、口径の大きな孔部5が形成された印刷版3を使用するスクリーン印刷に有効である。このようにして供給されたクリームハンダ4は、たとえば角チップ等の表面積が大きな部品をプリント基板に実装するときに使用される。他方、集積回路のリード部をハンダ付けするような場合、プリント基板に形成されるランド部の表面積は小さく、これに対応して印刷版に設けられる孔部も小さな口径である。このような小口径の孔部を介したスクリーン印刷においては、印刷圧力の制御だけで適性量のクリームハンダを供給することが困難である。そこで、印刷圧力に加えてスキージの走行速度をも制御する。スキージの走行速度がクリームハンダの充填形態に与える影響を、図4を参照しながら説明する。
・・・口径の小さな孔部5が形成された印刷版3を使用してプリント基板2にクリームハンダ4をスクリーン印刷するとき、高粘度のクリームハンダ4では、上段中に示すように、孔部5の内壁とクリームハンダ4との間に空隙7が生じ易い。空隙7は、クリームハンダ4の粘度上昇に伴って、上段左に示すように孔部5を貫通した状態で発生することもある。空隙7の程度によって、プリント基板2から印刷版3を分離したとき、中段中及び中段左に図示するように供給不足の状態でプリント基板2上にクリームハンダ4が盛り上げられる。クリームハンダ4の充填形態は、スキージの走行速度如何によっても同様な影響を受ける。すなわち、スキージの走行速度を小さく設定してスクリーン印刷すると、下段左に図示するように孔部5がクリームハンダ4で完全に充填される。スキージの移動速度を徐々に上げると、一部に空隙7が発生し(下段中)、遂には孔部5を貫通した空隙7(下段右)となる。
・・・クリームハンダ4の充填状態に与えるクリームハンダ4の粘度及びスキージの走行速度から、クリームハンダ4の粘度が高く空隙7が生じる場合、スキージの走行速度を低下させることにより空隙7の発生が抑制されることが判る。また、低粘度のクリームハンダ4を使用してスクリーン印刷する場合、空隙7の発生がない程度にスキージの走行速度を上昇できることが判る。」

(タ)【0014】
「クリームハンダ4の粘度が適正であるか否かは、粘度を直接測定しなくても、印刷版に形成されているマークの見え方で判定することができる。印刷版3には、図5に示すようにプリント基板2との位置合せように認識マーク8が形成されているので、認識マーク8に塗布されたクリームハンダ4の状態から粘度情報を得ることができる。すなわち、クリームハンダ4の粘度が変わると認識マーク8の見え方が変化するので、見え方の変化に応じて印刷圧力やスキージの走行速度を調整する。位置合せ用の認識マーク8を粘度-印刷圧力調整マークとして兼用すると、一度印刷してからでないと粘度に対する印刷圧力の過不足を判定することができない。そのため、最初の一枚のプリント基板2は、印刷圧力が未調整の状態でスクリーン印刷されるため、印刷不良になる虞れがある。また、印刷圧力が大きくずれているような場合、クリームハンダ4の粘度に応じた適正値に印刷圧力が制御されるまで、複数枚のプリント基板2に印刷不良が生じることも考えられる。」

(チ)【0016】
「兼用認識マーク8又は専用認識マーク9は、たとえば図6に示す形状で印刷版3に形成される。すなわち、印刷版3を貫通しないドーナツ状の窪みを形成し、認識マーク8又は9とする。兼用認識マーク8又は専用認識マーク9の何れによっても、印刷圧力は、初期設定の必要なく自動補正できる。他方、スキージの走行速度は、印刷結果を見て最適な速度を初期設定する。走行速度を一旦設定すると、クリームハンダ4の粘度が変化した場合、前掲(1)式に従って印刷圧力の補正と同時に適正な粘度-走行速度制御を行うことができる。」

(ツ)【0017】?【0018】
「【実施例】本実施例は、設備構成を図7に示したスクリーン印刷装置を使用した。このスクリーン印刷装置は、一対のスキージ5a,5bをボールネジ10に取り付けている。ボールネジ10は、モータ11によって回転し、スキージ5a,5bを軸方向にピッチ送りする。一方のスキージ5aは、右方向の移動時にクリームハンダ4でプリント基板2をスクリーン印刷する。他方のスキージ5bは、左方向の移動時にプリント基板2をスクリーン印刷する。スキージ5a,5bは、昇降シリンダー12a,12bの駆動によりそれぞれ独立して昇降する。更に、昇降シリンダー12a,12bそれぞれに、印刷されたプリント基板2から印刷版3を分離するときに作用するブレーキ13a,13bが設けられている。
・・・スクリーン印刷されるプリント基板2には、位置合わせされた印刷版3が重ね合わせられる。印刷版3の周縁をフレーム14で固定し、プリント基板2と印刷版3との位置関係を確保する。プリント基板2の領域外で印刷版3の上面に、図5及び図6に示した専用認識マーク9を形成した。認識用カメラ15を、専用認識マーク9の上方を通過する軌跡に沿って移動可能に配置した。クリームハンダ4が塗布された後の専用認識マーク9を認識用カメラ15で観察し、画像信号s_(0) として画像処理装置16に入力する。画像処理装置16は、画像信号s_(0) に基づき適正印刷圧力及び適正走行速度を演算し、それぞれ適正印圧指令s_(p) 及び適正速度指令s_(v) として印圧調整用レギュレータ17及びスキージ速度コントローラ18に出力する。」

(テ)【0019】?【0021】
「スキージ速度コントローラ18は、画像処理装置16から入力された適正速度指令s_(v) に基づいて制御信号をモータ11に出力する。これにより、ボールネジ10の軸方向に関するスキージ5a又は5bの走行速度が調節される。専用認識マーク9に塗布されたクリームハンダ4は、認識用カメラ15で観察され、画像処理装置16で処理された。認識画像は、クリームハンダ4の粘度に応じ、図8中段に示すように全面が黒く認識される状態から黒い二重の円が認識される状態まで変化した。
・・・全面が黒く認識されたケースIは、図8上段左に示すように粘度に対して印圧が不足し、スキージ5a又は5bで削り取った後の印刷版3の全面にクリームハンダ4が広がっていることを示す。この場合、クリームハンダ4の表面で乱反射が生じ、カメラ15で観察された表面全域が黒くなっている。粘度に対応した適正な印刷圧力でクリームハンダ4が塗布されたケースIIでは、図8上段中に示すように印刷版3の孔部にクリームハンダ4が空隙や凹みなく充填されている。この場合、カメラ15を介した認識画像は、専用認識マーク9の凹部形状に一致した太くて黒いリングとなる。粘度に対して印刷圧力が高過ぎるケースIIIでは、認識専用マーク9に充填されているクリームハンダ4がスキージ5a又は5bで削り取られ、認識専用マーク9の底部角部にクリームハンダ4が残留した状態になる。したがって、カメラ15を介し、図8中段右に示すように二重の黒いリングが認識される。
・・・図8中段に図示されている認識画像は、観察領域の全面積に対する黒色部分の面積比率に画像処理装置16で処理され、それぞれの状態に適した指令s_(p) ,s_(v) を印圧調整用レギュレータ17及びスキージ速度コントローラ18に出力する。ケースIでは、印刷圧力を上昇させる指令s_(p) を出力し、昇降シリンダー12a又は12bを作動させ、動作中のスキージ5a又は5bの印刷版3に対する圧力を上昇させる。その結果、粘度に対応した適正な印刷圧力が得られ、認識画像が図8中段中に示した認識画像が観察される。ケースIIIでは、印刷圧力を下降させる指令s_(p) を出力し、印刷版3に対するスキージ5a又は5bの圧力を低下させる。そして、適正な印刷圧力が得られるまで圧力調整を繰り返し、図8中段中の認識画像を得る。粘度に応じた適正な印刷圧力でクリームハンダ4が塗布されているケースIIでは、その圧力を維持する指令s_(p) を出力し、同じ条件下でスクリーン印刷を継続する。」

(ト)【0023】
「以上の実施例においては、認識された画像の黒色面積比率に基づいてクリームハンダの塗布状態を判定している。しかし、認識マーク8又は9に供給されたクリームハンダ4の充填状態を制御用の情報とする限り、黒色面積比率以外のデータに基づき印刷圧力を制御することも可能である。たとえば、認識画像の黒色部分は、粘度と印刷圧力との関係に応じて図8中段に示すように形状が変わることから、この形状を制御用のデータとすることも可能である。また、口径の小さい孔部が形成された印刷版3を介したスクリーン印刷にあっては、画像処理装置16で得られた黒色面積比率に対応した指令s_(v) をスキージ速度コントローラ18に入力し、粘度に対応した適正なスキージ走行速度を得る。この場合、クリームハンダ4の充填状態が図4上段のようになることから、黒色面積比率に加えて黒色部の形状も制御用データとして処理することが好ましい。」

上記(ス)、(ツ)の記載から、上記(サ)に記載された「クリームハンダの印刷方法」は、スクリーン印刷方法のことであると解される。
上記(ス)?(ソ)には、印刷版3に形成された孔部へのクリームハンダ4の充填状態が、クリームハンダ4の粘度に応じて変わるとともに、印刷時の圧力及びスキージの走行速度に応じても変わることから、クリームハンダ4の粘度に応じて印刷圧力やスキージ5a,5bの走行速度を調整することにより、印刷版3の孔部に対するクリームハンダ4の充填状態を正常な状態にすることができることが記載されている。
また、上記(サ)、(タ)、(テ)、(ト)には、印刷版3(スクリーン印刷版)に形成されている、印刷版3とプリント基板2との位置合わせ用などの認識マーク8へのクリームハンダ4の充填状態を画像認識して、クリームハンダ4の粘度情報を得て、印刷圧力及びスキージ5a,5bの走行速度を調整することが記載されている。
さらに、上記(タ)には、「クリームハンダ4の粘度に応じた適正値に印刷圧力が制御されるまで、複数枚のプリント基板2に印刷不良が生じることも考えられる。」と記載され、上記(テ)には「そして、適正な印刷圧力が得られるまで圧力調整を繰り返し、図8中段中の認識画像を得る。」と記載されていることからして、圧力等の調整は、良好な充填状態が画像から認識できるまで繰り返されるものと解される。

以上、上記(サ)?(ト)の記載等を勘案すると、引用例2には、次の事項が記載されていると認められる。

「スクリーン印刷版3を介してプリント基板2表面にクリームハンダ4を印刷するスクリーン印刷方法であって、
上記印刷版3に印刷をして、印刷版3に形成された認識マーク8に上記クリームハンダ4を充填した後、上記認識マーク8への上記クリームハンダ4の充填状態を画像認識により観察し、その結果が不良の場合は、印刷圧力やスキージ5a,5bの走行速度を調整し、調整した後、印刷による上記認識マーク8への上記クリームハンダ4の充填、充填状態の観察、調整を適正値が得られるまで繰り返すようにしたスクリーン印刷方法。」

B.対比
引用発明の「スクリーンマスク版1」、「プリント回路基板2」、「クリーム半田4」、「スキージ3」及び「開口部11」は、それぞれ、補正発明の「スクリーン版」、「被印刷物」、「印刷ペースト」、「スキージ」及び「印刷パターンの開口部」に相当する。
よって、引用発明の「スクリーンマスク版1の他方の面側にプリント回路基板2を密着させ、上記スクリーンマスク版1の一方の面側から上記スクリーンマスク版1上にクリーム半田4を供給し、このクリーム半田4をスキージ3で掻き取りながら上記スクリーンマスク版1のマスクに形成された開口部11内に上記クリーム半田4を充填し、上記クリーム半田4の充填が完了すると、上記スクリーンマスク版1から上記プリント回路基板2を引き離し、上記開口部11内に充填された上記クリーム半田4を上記プリント回路基板2に印刷塗布するクリーム半田印刷方法」は、補正発明の「スクリーン版の他面側に被印刷物を密着させ、スクリーン版の一面側からスキージにより印刷ペーストを刷り込むことによりスクリーン版に形成された印刷パターンの開口部に印刷ペーストを充填した後、スクリーン版から被印刷物を分離させることにより前記開口部に充填された印刷ペーストを被印刷物側に引き抜いて印刷するスクリーン印刷方法」と相違しない。
引用発明の「版離れ位置」は、スクリーンマスク版1の開口部11内にクリーム半田4を充填した後、スクリーンマスク版1とプリント配線基板2とを分離する際の、速度を第1移動速度から該第1移動速度より速い第2移動速度に切り換える位置を示すものであって、その値は、プリント回路基板2に印刷されたクリーム半田4塗膜の断面形状の測定結果によって設定される可変値であることからこの「版離れ位置」が、補正発明の「分離動作パラメータ」に相当するといえる。
また、当該「版離れ位置」は、クリーム半田4塗膜の断面形状の測定結果が許容以上である場合に設定されるものであるから、測定結果が不良である場合に調整されるものであると解される。
よって、引用発明の「上記開口部11内に上記クリーム半田4の充填を完了した後、上記スクリーンマスク版1と上記プリント回路基板2とが完全に分離する直前の版離れ位置に上記プリント回路基板2が到達するまで、上記プリント回路基板2を離間する方向に第1移動速度で移動させ、上記版離れ位置に上記プリント回路基板2が到達したときに、上記第1移動速度を該第1移動速度より速い第2移動速度に切り換えるようにし、上記切換工程は、上記プリント回路基板2に印刷された上記クリーム半田4塗膜の断面形状を測定する工程と、測定結果が許容以上である場合、上記クリーム半田4塗膜の厚さに対して上記測定された断面形状中の上記クリーム半田4の角立ち高さを最小にするように上記版離れ位置を設定する工程」は、補正発明の「充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、そのときの被印刷物上の印刷ペーストの印刷状態を検査して、その検査結果が不良である場合には分離動作パラメータを調整」する工程と相違しない。

したがって、補正発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>「スクリーン版の他面側に被印刷物を密着させ、スクリーン版の一面側からスキージにより印刷ペーストを刷り込むことによりスクリーン版に形成された印刷パターンの開口部に印刷ペーストを充填した後、スクリーン版から被印刷物を分離させることにより前記開口部に充填された印刷ペーストを被印刷物側に引き抜いて印刷するスクリーン印刷方法において、
前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、そのときの被印刷物上の印刷ペーストの印刷状態を検査して、その検査結果が不良である場合には分離動作パラメータを調整するスクリーン印刷方法。」

<相違点1>補正発明では、「前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、開口部への印刷ペーストの充填状態を検査して、その検査結果が不良である場合に前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、印刷ペーストの充填動作パラメータを調整した後、スクリーン版の他面側に新たな被印刷物を密着させて、前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、印刷ペーストの充填状態を検査することを繰り返し」と特定されるとともに、印刷ぺーストの印刷状態の検査や、その検査結果が不良である場合の分離動作パラメータの調整を「印刷ペーストの充填状態の検査結果が良好である場合に」行うことを特定しているのに対し、引用発明では、そのように特定されていない点。

<相違点2>補正発明では、「各検査において不良が検出されない状態が得られたときにスクリーン印刷の製造工程を開始する」と特定されているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

C.判断
a.<相違点1>について
引用例2に記載された「スクリーン印刷版3」、「プリント基板2」、「クリームハンダ4」及び「スキージ5a,5b」は、補正発明の「スクリーン版」、「被印刷物」、「印刷ペースト」及び「スキージ」にそれぞれ相当している。
また、引用例2に記載された「認識マーク8」は、印刷ペースト(クリームハンダ4)を充填し、その充填状態を検査する対象である点で、補正発明の「開口部」と共通しており、引用例2に記載された「印刷圧力」や「スキージ5a,5bの走行速度」は、認識マーク8へのクリームハンダ4の充填状態により調整される値であることから、これらが、補正発明の「充填動作パラメータ」に相当することは明らかである。
ここで、補正発明において上記「開口部」は、単なる開口ではなく、「印刷パターンの開口部」であることが特定されていることから、貫通した開口であって、被印刷物に対して印刷パターンを形成することに用いられるものであると解される。
そこで、引用例2に記載された上記「認識マーク8」が、上記した(貫通した)「開口部」に相当するものといえるかについて検討する。
引用例2の上記(チ)には「兼用認識マーク8又は専用認識マーク9は、たとえば図6に示す形状で印刷版3に形成される。すなわち、印刷版3を貫通しないドーナツ状の窪みを形成し、認識マーク8又は9とする。」と記載され、【図6】及び【図8】には、貫通しない認識マーク8、9が図示されており、これらの記載や図面からすると、引用例2には、補正発明の「印刷パターンの開口部」とは相違するものが記載されているといえる。
しかしながら、「たとえば」と記載されているように、これらは例示であり、引用例2に記載された認識マークは、このような貫通しないものに限定されるものではない。
なぜならば、「認識マーク8」は、印刷版3とプリント基板2との位置合わせ用に形成された兼用の認識マークであることが上記(タ)に記載されているが、例えば、特開平3-187747号公報に「従来の自動版位置合せ機能を有するスクリーン印刷機では、第2図に示されるように、電荷結合素子カメラ11(チャージ・カップルド・デバイス・カメラ…CCDカメラと呼ぶ)により、版12の位置合わせ穴13を通してワーク(基板)14の位置合せマーク15を認識し、版12とワーク14との間の位置ずれ16を補正する位置合せ方法を採用している。この従来の位置合せ方法は、印刷動作位置において実施され、版12とワーク14とを前記のように位置合せして印刷した後に、同一の版12と順次供給される次のワーク14とを同様に位置合せして印刷するようにしている。すなわち、1枚の版12と複数のワーク14との間で位置決めと印刷とが繰り返し行われる。」(第1頁右下欄第12行?第2頁左上欄第6行)と記載されているように、印刷版における被印刷物との位置合わせ用のマークは、貫通した穴が従来から採用されており、かつ、引用例2に記載の位置合わせ用の認識マーク8のように印刷ペーストの充填状態を観察するためのマークと兼用する場合には、当該マークは、繰り返し位置合わせに用いることができるように、一度充填された印刷ペースト(クリームハンダ4)を被印刷物側に引き抜いて印刷できるような貫通した穴として形成しているものと解されるからである。
また、補正発明の開口部は「印刷パターンの開口部」と特定されているが、印刷パターンがどのようなパターンであるのか特定されておらず、位置決め用の認識マークであっても貫通した穴であれば、印刷ペーストが充填され、それが被印刷物上に印刷されて、「印刷パターン」となるのだから、補正発明の「印刷パターンの開口部」と、引用例2の位置決め用の「認識マーク8」とが相違しているとはいえない。
さらにいうならば、引用例2の上記(シ)に「本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、粘度測定等を必要とすることなく、実際に塗布されたクリームハンダの印刷版上における広がり状態を制御要因とすることにより、より正確な操作条件で一定量のクリームハンダをプリント基板に供給することを目的とする。」と記載されているように、引用例2は、実際の印刷版上における印刷ペースト(クリームハンダ4)の広がり、すなわち、印刷パターンへの印刷ペーストの充填状態により操作条件(印刷圧力、スキージの走行速度等)を制御することを主要な目的としており、また、上記(ス)?(ソ)及び【図3】、【図4】には、上記した操作条件と印刷版3の孔部パターン(「印刷パターンの開口部」に相当。)への充填状態との関係が記載されており、これらの記載からして、引用例2には「印刷パターンの開口部」への印刷ペーストの充填状態を検査する点についての技術思想が開示されているということができ、仮に、上記「認識マーク8」が、補正発明の「開口部」(貫通した開口部)に直接相当するものといえないとしても、補正発明の「開口部」に相当する事項は、引用例2に記載されているということができる。
いずれにしても、印刷ペーストの充填状態を検査すべき対象を貫通した開口とするか、貫通しない窪みとするかや、印刷パターンとするかといったことは、単なる設計事項にすぎず、格別な相違点とはなり得ない。
したがって、引用例2に記載された事項である「上記印刷版3に印刷をして、印刷版3に形成された認識マーク8に上記クリームハンダ4を充填した後、上記認識マーク8への上記クリームハンダ4の充填状態を画像認識により観察し、その結果が不良の場合は、印刷圧力やスキージの走行速度を調整し、調整した後、印刷による上記認識マーク8への上記クリームハンダ4の充填、充填状態の観察、調整を適正値が得られるまで繰り返すようにした」点は、補正発明の「前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、開口部への印刷ペーストの充填状態を検査して、その検査結果が不良である場合に前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、印刷ペーストの充填動作パラメータを調整した後、スクリーン版の他面側に新たな被印刷物を密着させて、前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、印刷ペーストの充填状態を検査することを繰り返」す点に相当しており、相違点1に係る補正発明の発明特定事項のうち、「印刷ペーストの充填状態の検査結果が良好である場合に」との特定を除いた点については、引用例2に記載された事項であるといえる。
引用例1、2に記載された事項は、ともにスクリーン印刷方法に係る技術事項であって、印刷ペースト(クリーム半田4、クリームハンダ4)を被印刷物(プリント回路基板2、プリント基板2)へ良好に印刷することを技術課題としているとともに、引用発明では、スクリーン版(スクリーンマスク版1)に印刷ペーストを充填した後のスクリーン版と被印刷物との分離動作に関わるパラメータの調整を行っており、一方、引用例2では、スクリーン版(スクリーン印刷版3)と被印刷物とを分離する前の印刷ペーストの充填動作に関わるパラメータの調整を行っており、異なった工程における各パラメータの調整を行っていることからして、引用発明と引用例2に記載された技術事項とを組み合わせることに格別の困難性があるとは認められない。
その際、各パラメータの調整の順番が問題になるが、引用発明においても、分離工程に先立って印刷ペーストの充填工程が行われるのであるから、充填工程における充填動作パラメータの調整を先に行うことが自然であり、また、印刷ペーストの充填状態の良否が、分離後の印刷状態に影響を与えることは明らかである(例えば、印刷パターンの開口部に印刷ペーストが充分に充填されている場合と、充填が不足している場合とでは、引用発明における「角立ち」の発生状態が異なることは明らかであり、先に分離工程における分離動作パラメータを調整して、後から、充填動作パラメータを調整しても、改めて、分離動作パラメータの調整が必要になることは容易に理解できることである。)から、充填工程における充填動作パラメータの調整を先に行うようにすることは、当業者の技術常識に照らして普通に想起されることであるといえる。
したがって、先に引用例2に記載された技術事項である充填状態の調整を行い、「印刷ペーストの充填状態の検査結果が良好である場合に」引用発明の分離動作の調整を行うようにすることは当業者にとって引用例1、2から容易想到な事項であるといえる。
以上のように、相違点1に係る補正発明の発明特定事項は、引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

b.<相違点2>について
引用発明も引用例2に記載された技術事項も、スクリーン印刷方法における、良好な印刷状態を得るために分離動作時の分離条件や印刷ペースト(クリームハンダ4)充填時の充填条件を調整するものであるから、これらの各種条件が調整されて初めて、良好な印刷状態を得ることができるのであり、印刷開始時や印刷途中において調整が必要となった時に、まず、これらの各条件の調整を行い、調整終了後(測定、観察により調整を不要とした確認のみの場合も含む)に印刷を開始または再開すること、つまりは、補正発明の「スクリーン印刷の製造工程を開始すること」は当然のことであって、当業者にとって想到容易な事項である。
したがって、相違点2に係る補正発明の発明特定事項は、引用例1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

そして、相違点1及び2に係る補正発明の発明特定事項を採用することによる効果も、格別なものではなく、当業者が予測し得る程度のことである。

したがって、補正発明は、引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明は、平成17年8月24日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「スクリーン版の他面側に被印刷物を密着させ、スクリーン版の一面側からスキージにより印刷ペーストを刷り込むことによりスクリーン版に形成された印刷パターンの開口部に印刷ペーストを充填した後、スクリーン版から被印刷物を分離させることにより前記開口部に充填された印刷ペーストを被印刷物側に引き抜いて印刷するスクリーン印刷方法において、
前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、開口部への印刷ペーストの充填状態を検査して、その検査結果が不良である場合に印刷ペーストの充填動作パラメータを調整し、印刷ペーストの充填状態の検査結果が良好である場合に前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ、そのときの被印刷物上の印刷ペーストの印刷状態を検査して、その検査結果が不良である場合には分離動作パラメータを調整し、各検査において不良が検出されない状態が得られたときにスクリーン印刷の製造工程を開始することを特徴とするスクリーン印刷方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2の記載事項は、上記「第2[理由]2.A.引用例」に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、上記「第2[理由]1.補正内容・補正目的」で検討したように、補正発明から、充填状態の検査結果が不良である場合に「前記充填動作後のスクリーン版から被印刷物を分離させ」、印刷ペーストの充填動作パラメータを調整した後、「スクリーンの他面側に新たな被印刷物を密着させて、前記開口部に印刷ペーストを充填させる動作手順の後、印刷ペーストの充填状態を検査することを繰り返」すとの限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の限定事項を付加した補正発明が、「第2[理由]2.C.判断」に記載したとおり、引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-26 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願平9-151178
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
P 1 8・ 575- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 尾崎 俊彦
藤井 靖子
発明の名称 スクリーン印刷方法  
代理人 石原 勝  

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